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第百九話 でかいはつよい

「ススメ! ススメ! ススメ! ススメ!」


 しばらくぶりに会ったら知能を得たのか、樹霊(コダマ)がそのでかい口で指示を出している。指示とは言い難い拙いものだが、命令には丁度良いのかもしれない。

 言葉を話せるようになっていたとは。


 進むと言う単純な命令、時間さえあればいくらでも対処できるが今に限って言えばこれが一番辛い。物量で押すと言う作戦が昔から有効な理由が良く分かる。

 オルギアとセルミナは帰ってきている。中央は豚人(オーク)蛇人(ラミア)が協力してゆっくりと後退している。左は粘液生物(スライム)が中央と歩を合わせながら後退中。粘液生物(スライム)はまだ余裕がありそうだな。


「作戦会議を開く。早急にこの状況を打開できる案を持つ者はいるか?」


「んなもん樹霊(コダマ)を倒す以外にあると思ってるのか?」


 ああ、そうだな。全く持ってアリスの言う通りだ。

 ランがどうしますか、と視線で聞いてい来るので簀巻きのまま放置させる。

 どうする、の意味が簀巻きを解いて樹霊(コダマ)に特攻させるという意味だったからだ。


「では樹霊(コダマ)の情報を、いや木人(トレント)の情報をくれ。戦ってみた感想とかで良いぞ」


 あいにく俺は木人(トレント)とは戦っておらず、樹霊(コダマ)ともただ巻きつかれただけ。

 木だからとある程度の対策は練って来たが、相手は魔族だ。思い違いがあるかもしれないし、確認の意味もある。


「木だった!」


 知ってる。自信満々に言うアリスにとりあえず相づちだけ打っておく。分かりきっていることだが、否定して他の意見が出にくくなるのは防ぎたい。

 しかしそれ以降に意見が出て来ない。おい、待て。まさか戦っていて相手は木だとしか分からなかったのか。


「ノブナガ様、よろしいでしょうか?」


 誰も発言しない中、オルギアが手を上げる。おそらく今まで発言しなかったのは他の者に譲っていたのだろう。

 勿論頷く。アリスは駄目で、魔族たちも戦闘に集中してあまり覚えていないか、何を応えれば良いか分からないのだろう。


「まず、移動速度が遅いです。木人(トレント)達は根を移動させて幹を動かしており、ゆっくりとしか動けません。今は歩くよりも遅いくらいの速さで進行していますが、多分全速力です。魔王である樹霊(コダマ)にあれほど言われれば歩いて進む程度ではないでしょう。

 また、これは階位を上げる程顕著になっています。森人(トレントリオ)は枝や根を使って攻撃して来ても動くことは滅多にありませんでした。樹霊(コダマ)に至ってはまだ移動していません」

 

 ほう、有益な情報だ。移動速度が低く、森人(トレントリオ)樹霊(コダマ)に至ってはほとんど動かないと。

 しかし。


「奴らの根や枝の攻撃範囲は広大だ。移動できないのを狙って攻撃を仕掛けようとしても、こちらの攻撃が届かないだろうな」


「そんなもん簡単だ」


 投石機でも、と思った直後にイフリーナが立ち上がり、手に炎の槍を作り出した。


「『ファイアランス』」


 その槍を樹霊(コダマ)に向かって投げた。勢いよく投げられた炎の槍は真っ直ぐ樹霊(コダマ)に飛んでいき。

 

「ヴァ―カ」


 地面から木の根が壁のように出て来て炎の槍を防ぐ。一本一本が並の木々に相当する太さを持つ根に穴を開けたことは素晴らしいが、樹霊(コダマ)までは届いておらず、根なら燃えたとしてもそのまま地面に潜らせれば簡単に鎮火できる。


「バカだと! バカって言いやがった!」


「なるほど、遠距離からの攻撃対策はあるのか。移動できないことを逆手に取る作戦は難しそうだな。セルミナ、イフリーナの暴走を抑えるように」


「やはり接近しないといけませんか。それならそれで、お伝えできることがあります」


 暴れるイフリーナの世話をセルミナに押し付けて俺たちはそのまま話を続ける。


木人(トレント)たち、樹霊(コダマ)を含めて決して堅くはありません。刃物で刺せば容易に突き刺さるでしょう。硬さで言えば私の皮膚の方が上かと。火への耐性も低いようです」


 イフリーナが来る前、ランの魔法でも簡単に燃やすことは出来たという。ただ相手も既に対策を考えており、枝や根が燃えれば土を被せるか地面に潜らせ、木人(トレント)が燃えれば後ろに控えている森人(トレントリオ)が叩き潰して火元を絶って鎮火。

 樹霊(コダマ)に魔法が届いたことはない。

 相手を燃やす、という戦術も難しいな。まあ、森の中で火事を起こしたくないから派手に燃やすことは考えていなかったが。


「そして、攻撃能力も決して高いとは言い難いです。攻撃手段は枝や根による薙ぎ払いか打ち下ろし。もしくは葉を飛ばしてくるなどですが、変化が非常に少ないです。慣れればそこまで苦労はしません。また薙ぎ払いや打ち下ろしの速度もそこまで早いとはいえず、直前の動作で十分に回避行動は取れるでしょう」


 葉による攻撃もオルギアの皮膚を切る程の威力はなく、配下も肉は斬られても骨に達することはない。数こそ多いが、防げなくはない。

 なるほど、やはり生まれたて。生まれ持っての能力で戦っているだけで、巨大化したりと特別な技能(スキル)はないと見える。


「ま、待ちなさい! オルギア、先程から何を言っているのですか! 移動能力はない、防御も攻撃もそこまで強くないような言い方をして! それではまるで樹霊(コダマ)が弱いかのようではありませんか!」


「事実だ。樹霊(コダマ)は技術的も能力的にも優れた者はない。いや、配下を増やすことに関しては脅威と言える。しかしそれだけだ」


「それでは! それに苦戦している私たちは!」


「待て、落ち着け」


 ランに触発され殺気立つ配下達、オルギアもそれを止めず、来るなら来いばかりに平然と座っている。

 本当に、どうして身内で争おうとするのか。


「皆よく聞け、オルギアの言っていることは事実だ。ただ、ある大前提を口にしていないだけでな」


「し、失礼しました。して、その大前提とは」


 実に単純で覆しようのない絶対的な現実。


「でかいはつよい」


 アリ一匹で象に勝てるわけもなく、質量の差とはそれだけで戦力の絶対的な差になる。


「オルギアは嘘を言っていないだろう。実際に刃物で刺せば刺さるだろう、攻撃速度も決して早くはないのだろう。ただ、でかいという事実がそれらすべてを覆す。でかいから多少刃物で刺しても意味がない、でかいから攻撃速度が遅くても攻撃範囲が広いから避けられない。そして、でかいから攻撃が重くなり防げない。でかいというのは、それだけで強いんだ。まあ、今回は運が良い方だな。動き回るのであれば、でかいからその歩幅は大きく移動速度は恐ろしいものになっていたはずだ」


 本当に、動かない相手で助かった。でかくて動く相手だと逃げることすら困難になる。


「そうでしたか、失礼しました。それでノブナガ様、樹霊(コダマ)にはどう対処いたしますか?」


「それについては考えがある。イフリーナも想像以上に戦力になっている。ただ、樹霊(コダマ)を守る二体の森人(トレントリオ)が邪魔だな。オルギア、片方は任せる」


「かしこまりました」


「もう一体は」


「私だな!」


 待ってました、とばかりに一度はセルミナに落ち着かされて座っていたイフリーナがまた立ち上がる。簀巻き状態のアリスを挑発するようにからかっているが。


「違う、セルミナだ。お前に任す」


「ふぇ!」


「それとライル、セルミナの補佐に」


「え!」


 何故! とばかりに驚いた様子を見せるセルミナとライルだが、仕方がないだろう。戦力的に余裕はないのだ。


「ヒデたちはオルギアとセルミナが森人(トレントリオ)と戦闘に入ったら中央へ行き敵を押し返せ。樹霊(コダマ)までの道を作れ」


「かしこまりました」


 見ろ、ヒデを。何ら臆することなく命令を受け入れてくれた。驚きながら再考を願う人間とは違うな。


「ちょっと待て。私が燃やせないぞ」


「イフリーナ、アリスは樹霊(コダマ)にぶつける。余計な体力、魔力を消費しないために待機だ。トドンはヒデと共に進んで木人(トレント)を排除。樹霊(コダマ)に一発決めても良いぞ」


 魔王である樹霊(コダマ)相手なら、とイフリーナはあっさりと引いた。妹の方も素直に引いてほしい。森人(トレントリオ)の相手が出来るのがいないんだ。

 俺を戦力として数えるんじゃない、セルミナ。俺は樹霊(コダマ)の対策のために軽々に前に出れないし、全体の指揮をしなければならないんだ。残念だなー。


「それではオルギア、セルミナ。ついでにライル。お前たちの戦闘開始を合図にこちらが動き出す。同じ場所で戦うと互いに被害が出そうだな。セルミナ、ライルが右で、オルギアが左で何とか森人(トレントリオ)を釣りだせ」


 さあ、森林伐採。環境破壊を開始しよう。


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