第十三話 女剣士襲来
群犬からの情報によると冒険者は一人。女剣士らしい。
南から侵入、すでにいくつかの集落が襲撃に遭い消滅しているらしい。
俺はすぐに群犬をその場に休ませ、扉の外に出る。
森はいつも通り静かで、涼しい風が通り抜ける。なのに、俺にはざわついているように思えた。
しばらく外で様子を見ていると群犬の集団がやってきた。よく見ると老人から子供までいる。
話を聞くと南に集落を持ち、冒険者来襲を知り庇護を求めてきたらしい。
当然俺は彼らを保護する。ただし条件として足の速い彼らには伝令を頼んだ。
冒険者来襲、すでにいくつかの集落が壊滅、そして魔王は保護する準備があること。
俺はこの三つをこの森に住む全ての種族に伝えるように指示を出す。
それを群犬達は受諾。長老と思われる軍犬が若いオスにそれぞれ回るところ指示していく。
すると扉が開き報告に来た群犬が現れた。彼は自分も伝令を加わると言う。
どうやら彼は周辺の偵察隊として行動していた所冒険者を見つけ、仲間に助けられ一人生き残りここまで来たらしい。
泣ける話じゃないか。今の俺にとってはどうでも良いが。
俺は保護のための準備をすると言って、残った群犬をそこに待機させ一度戻る。
俺は本を手に取りダンジョンを作成する。
……………………?
特別何かが起きたとは感じない。何か失敗したのか?
不安がよぎったが、すぐに成功したと分かった。
本のページが点滅してそこを開くと久々に見る文字。
『クエスト達成!』
とっとと報酬の種とダンジョンポイントとり、俺は扉へと近づく。
すると俺の頭の中に選択肢が浮かんできた。
・一層へ
・外へ
一層を選択すると扉が開き、そこは見慣れながらも扉を通してでは初めて見る、オワの大森林だった。
近くには水辺があり、周りの木々が通常よりも少し多めにして目隠しにしてある。
まさに設計通りの造りだった。
もう一度扉に近づく今度は。
・外へ
・玉座の間へ
玉座の間を選び、そこに本を置いてから外を選択。
今度の外は見慣れた丘から見下ろすオワの大森林だった。端に群犬達の姿もあったが。
俺はダンジョン内に彼らを入れる前に説明をしておく。
中はオワの大森林と同じような形をしている、これからも他種族が来ると思うが手を取り合い生きることに努力してほしい、扉の近くには居てはいけない。扉は外へ繋がる扉と玉座の間に繋がる二つがある。どちらも冒険者が通るはずだ。俺は最終的に冒険者を玉座の間で迎え撃つつもりなのだから。
本当なら俺の最高傑作の村に案内するべきだろうが、あそこに固めて冒険者がそこを通っては目も当てられない。ここは彼らの野生の勘に頼ることにする。
群犬がダンジョン内に入ってからすぐに小悪鬼や豚人など色んな種族が集落ごと保護を求めてきた。
彼らには中の群犬に詳しい話を聞け、と丸投げしつつダンジョン内に保護する。
それからも様々な種族を保護していたがある時を境にぱったりと途絶えた。
不思議と乾いた風が吹く。
そろそろか。
そんな思いに答えるかのように、下の森から血まみれの女剣士が姿を現した。
長く一本に束ねられた髪、守りよりも動きを重視した胸当てや籠手。数多の命を奪っただろう剣は拭き取った後のように綺麗で鋭く、一歩一歩に感じる重圧はオルギアに勝るとも劣らない。
それにしても目つきが悪い。
綺麗な顔をしているのに、その視線は突き刺さるようで、目つきは手に持つ剣よりも鋭い。
「お前が魔王か」
「いかにも。気持ちとしては名乗りたいところであるが、諸事情に付き玉座の間にて名乗らせていただこう」
小粋な冗談のつもりだったのだが、女剣士は怖い顔のままだった。ああ、怖い。
「それでは女剣士、私は玉座の間で待たせてもらうよ。ああ、中にいる魔族は君と戦う意思はないから見逃してやってくれ。後、玉座の間に繋がっている扉の近くに水辺があるから血を流してから―――」
全てを言い終える前に俺は扉の中に入る。
俺の喋っている最中に女剣士がバカみたいな速度でこちらに走ってきたからだ。怖くてつい扉に手が伸びた。
俺は玉座に座り一息吐く。そして落ち着いてから女剣士としてしまった約束を果たそうと真剣に考える。
自分の名前を。
しまったぁ! 名乗るとは言わなければよかった。全然考えてねえ。
魔王っぽい名前、としばらく俺は悩み続けた。