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小話二十四話 もう一つの試練

「それは本当なんだな?」


 クラースから緊急の来客と言うので応接室で待っていれば、やって来たのは主神教の司祭。また金の無心かと思ったが、クラースが緊急と言うのだ。余り期待せずに聞いていたが、内容は少々衝撃的なものだった。


「はい、神からお告げが届きました。首領悪鬼(ドン・オーガ)が滅びました」


 長年悩まされて来た西の山脈を根城とする魔王、首領悪鬼(ドン・オーガ)。それが滅んだ、誰かに討伐された?

 本来ならこんな司祭の言葉など信用しないが、主神教には魔王の誕生と消滅を知る力があるらしい。念のためにクラースに調べさせたが、事実であることが確認された。

 勿論この司祭が嘘を吐くこともあるだろうが、貴族に嘘を吐けばこの者だけでなく、主神教全体の信用を失墜させることになる。それはさすがに馬鹿でもしないだろう。

 それに、クラースからある報告も受けていた。


「そうか、分かった」


「それと、他にも重要なことが……」


 他に? と思い話すのを待つがいつまで経っても話す気配はない。ああ、本当にめんどくさい人種だ。

 小袋に金貨を何枚か詰めて司祭に放る。


「おお、これで神の威光も」


「そんなことはどうでも良い。重要なこととは何だ?」


「おっと、失礼。実は――」




 話は終わった。司祭は帰り、クラースにはその見送りをさせている。

 私は未だに応接室から出ることが出来ない。それほどまでに先程の話が衝撃的だった。

 どう、対処すべきか。悩みに悩んで何とか答えを捻りだそうとする。


「おや? まだこちらに居られましたか。早々に執務にお戻りください」


 司祭の見送りが終わったのか、クラースがノックもせずに扉を開け、意外とばかりに驚いた表情を見せるが、絶対に嘘だ。こちらが居ると知っていてわざわざ来ているのだ、出なければ応接室に来る理由がない。

 大体、こちらはその執務よりも重要なことで悩んでいるのだ。

 悩んで、答えがでないのだが。非常に認めたくないが、クラースは優秀だ。話していれば良い意見が出るやも知れないし、新たな考えに至るかもしれない。

 何より、こいつの前で長々と悩んでいる姿を見せていると嫌味が飛んでくる。なら巻き込んだ方が少しはましだろう。


首領悪鬼(ドン・オーガ)が討伐された」


「おや、それは素晴らしいことですね。今までの悩みの種が一つ消えたと言えます。ああ、しかし誰が首領悪鬼(ドン・オーガ)を倒したのでしょうか?」

 

 白々しい、クラースは分かって言っているのだろう。何せ、あの情報を持って来たのはクラース自身なのだから。


「ああ、そういえば。前回の交易では魔王、と言ってもノブナガ様の方ですが、そちらが不在でした。それに魔族も小悪鬼(ゴブリン)などを残して姿を消していました」


 ダンジョン不在の魔王、そして大半が消えた配下の魔族。この報告を受けた時は何らかの行動を起こした、と警戒していたが。今なら分かる。

 魔王ノブナガが首領悪鬼(ドン・オーガ)を討伐したんだ。ノブナガがダンジョンを空けた、つまり首領悪鬼(ドン・オーガ)を討伐に向かったということだ。

 あまり攻撃的な性格には見えなかったが。しかし国家群の一件がある。敵と認識したら容赦をしないのだろう。それに国家群は策略で、策略を理解すらしてくれない首領悪鬼(ドン・オーガ)は武力で潰したのだろう。

 この短期間でどちらも行うとは。やはり侮れない。


 それに首領悪鬼(ドン・オーガ)を魔王ノブナガが倒したとすれば問題が発生する。


「ああ、もしや魔王ノブナガ様が首領悪鬼(ドン・オーガ)を? 敵対するまでの経緯が分かりませんが、もしそうなら厄介ですねえ。西の山脈は元帝国領、しかし首領悪鬼(ドン・オーガ)が誕生してしまいこちらの手を離れてしまいました。その首領悪鬼(ドン・オーガ)を魔王ノブナガが討伐した。ああ、西の山脈は誰の手にあると言えるのでしょう」


 分かっている。だから悩んでいる。もう西の山脈は魔王ノブナガのものだと。今更そこは帝国領なので、と言って勝手に占領すればそれこそ宣戦布告に等しい。

 話せる魔王であり、魔王を倒せる魔王。それに皇帝陛下のご友人という立場だ。敵対するような真似だけは絶対に出来ない。


「くっ、向かうことを事前に知っていれば――」


「騎士団を貸し出して共に首領悪鬼(ドン・オーガ)を討伐、という形に出来れば良かったのですが。そうすれば西の山脈の所有権、管理は難しくても使用権は得られたでしょう。おっと、言葉を遮ってしまい申し訳ありません。私のような浅学な者の意見など不要ですね。どうぞ、辺境伯としての意見をお聞かせください」


 こいつは、こいつは本当に! 憤る気持ちを必死に抑え表面に出ないようにする。感情を表に出せばこいつに付け入る隙を与えるだけだ。

 沈黙を返答とし、必死に心を落ち着かせる。

 大丈夫だ、何せこんなのは最後に聞いたあの話に比べれば些事でしかない。


「先程、あの豚蛙(司祭)が最後に面白い話をしていった」


「……それは?」


 さすがのクラースもこれは予想できないだろう。探せばもしかしたら前例が見つかるかもしれないが、非常に珍しいことだ。

 そして最悪なまでに面倒なことだ。


「オワの大森林に魔王誕生の兆しあり」


 近日中に誕生するだろう。そして首領悪鬼(ドン・オーガ)と戦い、損耗している魔王ノブナガの軍勢と当たるだろう。

 生まれたての無傷の魔王と、魔王と戦い満身創痍の魔王の軍勢。

 どちらが勝つかなど、想像もつかない。魔王誕生など数年に一度が普通なのに。


「どのように動きますか?」


「……静観する。簡単に動ける状況ではない」


 クラースと話し続けて頭が少しは回ったようだ。色々と考えてこれが最善と落ち着いた。

 騎士団を派遣するにしても誕生した魔王が非常に強力であった場合、貴重な人材を消費する結果に終わる。逆に弱かった場合騎士団が到着する前に討伐され動かした意味がない。

 それに広大なオワの大森林の中で生まれた魔王を探し、魔王ノブナガと戦闘している所を見つけて参戦など不可能に近い。出来たとしても混乱を生むだけだろう。

 ただそちらの危険を知り騎士団を派遣した、と恩を売ることも出来る。しかしやはり騎士団を動かした方が損だと考える。


 はっきり言えば共倒れを願いたい。ただ。


「もし、魔王ノブナガがこの窮地を乗り越えたら。どれほど強大になるのだろうな」


 魔王と二連戦して勝つ魔王。

 ふっ、想像もしたくない。


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― 新着の感想 ―
[一言] 魔王がもういったい増えるとかすげえやばそう。闇の精霊と何か関係が?でも勝てたらすげえ強くなれそう。それとも、仲間にするのかな?
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