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第九十九話 ノブナガ対オルギア

 ノブナガが首領悪鬼(ドン・オーガ)になった場合、オルギアに命令できるの? 

 出来ます。ですが、首領悪鬼(ドン・オーガ)と命令の上書き合戦になるだけで、魔力と言う制限時間持ちのノブナガが必ず負けるので悪手です。

 

 立ち上がりは腕だけを使った軽い打ち合い。肉を叩く音は凄まじく、人族なら当たれば骨が砕けるか、死ぬような威力だが、優れた身体能力を持つ大悪鬼(オーガ)からすれば体勢も崩せない弱い攻撃だ。

 一見攻撃に見えるが、相手に傷を負わせる目的ではない。身体の状況を確認するための行動だ。

 片腕がない。俺はどこぞの斬りたがりの爺の所為で一度体験しているが、オルギアは初めてらしい。当然か。そして片腕がない、というのは拳闘士にとって致命的だった。


 まず手数が減る。手が減っているのだから当たり前に思えるが、想像以上に出来ることが減る。まず強力な殴打が難しい。連打の間や相手が体勢を崩した時に行うもので、強力な殴打を単発で使っても、避けてくださいと言っているようなもの。逆に先に使ったら避けられて逆に殴打を浴びるだけだ。

 では足技を中心にするか、と考えるもそれも難しい。片腕がないため蹴りを放てば簡単に身体の軸がぶれる。軸がぶれないようにすることも出来るが、それでは蹴りではなく足を当てているだけの威力に下がる。


 片腕、という状況に慣れていればこの程度の問題は解決できるだろうが、オルギアが片腕を失うのは初めてのこと。当然、対処法も知らない。

 しかし俺は過去に腕を斬られたことがある。まあ、だからといって対処法を知っているわけじゃない。

思いついただけだ。


 わざと横に大きく薙ぎ払って相手に距離を取らせる。互いに様子見の今だからこそ出来る正面からの不意打ち。

 手を地面につけ、身体も全体的に沈め重心を前に。足に力を籠め、解き放つ。

 全身が矢の如く、頭から当たりに行く。単純で、強烈な一撃。


 ぶちかまし。


 オルギアは身体に当たる寸前、咄嗟に腕で受けるが衝撃を殺しきれるわけがない。オルギアの巨体が浮き、身体も僅かに折れ曲がる。

 その勢いのまま攻め立てる。オルギアの体勢が整う前に張り手を食らわす。

 殴るよりも身体に響くそれを受け、オルギアは僅かに苦悶の表情を浮かべるが、耐えて見せた。

 あえて、受けたか。


 そして仕返しとばかりに凶悪な拳が顔面に飛んでくる。

 なんとも好都合。

 首だけ動かして何とか避けると同時に身体を反転させ、殴って来た腕を掴んでオルギアの下に入り込みその勢いのまま投げる。


 背負い投げ。


 もう、オルギアは気づいているだろう。

 相手にしているのは自分ではないということに。自分の身体をした(魔王)であることに。

 同じようで、似ているようで、まるで違う。

 自分の身体を模した相手なら、経験や技も同じなら戦い方も同じと思ったか? そこに俺の意志があることに気付かなかったか? 

 オルギアの全てに俺と言う要素が加わっているんだ。もっと警戒すべきだった、もっと慎重になるべきだったな。

 

 ただ、この程度の優位など軽く覆す者がいる。そしてオルギアはそちら側に近い。

 所詮この優位が働くのは初手のみだ。こちらの技を見て、学習して、身に付けられたらもう追いつけない。

 その辺りは歴戦の戦士と、仮初の身体をした素人の差だろう。こっちは経験を活かせないからな。

 だから、相手に学習をされる前に倒すしかない。優位を保ったまま、終わらせるしかない。


 倒れたオルギアの顔目がけて四股を踏む。


 踏み貫くつもりで足を振り下ろすも、寸前の所で回避され、その勢いを利用して立ち上がられてしまった。

 とはいえ、まだ流れはこちらにある。四股を踏み、体勢が整っているのでそのまま腕を地面につけ、ぶちかましの体勢に入る。

 相手が迎撃に入る前に、ぶちかまし! と見せかけて途中で猫騙しを挟む。同じ技が通じるとは思っていない。……って、片腕しかなかった。

 無様にも片腕がオルギアの眼前を通過する。意味がない。

 と思ったが、ぶちかましの迎撃にオルギアは蹴りを選んでいた。下から上に、ぶちかましをしていたらそのまま首を上に持っていかれそうな強い蹴り。

 そんな蹴りが、猫騙しの失敗により体勢を崩していた俺のすぐ横を通過した。


 好機。ここで、決めるしかない。

 オルギアの無防備な軸足を思いっきり蹴る。そのまま倒れかけたが、何とか振り上げていたもう片方の足を戻して何とか倒れる寸前、顔も身体も地面に向いた体勢で耐えた。

 しかし、それこそ俺が望んだ瞬間。

 オルギアはこちらの攻撃を察して側頭部を守るが、俺の拳はその下を潜り抜け、顎へと到達する。そしてそのまま、全身の力を使って振り上げる。

 

「昇」


 足のバネを活かして全ての力を上に持っていく。


「鬼」


 下から注がれた力を無駄なく腕に伝え、身体も上へと飛び上がる。


「拳!」


 そして腕は全ての力をオルギアの顎から頭へと伝え、その威力はオルギアの巨体を天高く浮かせる。

 完璧に決まった。オルギアの身体が弧を描いて頭から落ちた。

 うお、あの落ち方はまずくないか。殺すつもりはないぞ。いや、必殺技を使ったが。


 急いで確認向かうと、大の字に倒れて白目を向き気絶していたが、胸が上下に動き呼吸はしていた。

 殺さずに倒せた。あのオルギアを。


 ほっと胸を撫でおろし変身を解く。自分自身の力でなく、また万全の状態ではなかったとはいえ、これは中々の快挙と言えるのではないか。

 アリスの方を見ればまだ戦っている。しかしアリスの動きが次第に小さくなっている。

 

……まだ、大丈夫かな。


 オルギアと言う強敵との戦闘は想像以上に俺の精神を削ってくれた。悪いがすぐにあちらの戦闘に加われるほどの元気はない。

 その場に腰を下ろし、ワリの実を食べながら観戦することにした。


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