第十二話 魔王の救済
一人に戻って数週間が過ぎた。
果実をとって本を読んで、外を散策し時折襲ってくる雑魚を始末して、収集した物を収納して本を使って調べる。ほとんど同じような日々を過ごした。
とはいえ無駄だったということはなくいくつか新たな発見と出来事があった。
一つはあの冒険者たちが持っていた謎の布袋。あれはどうやら魔法道具だったようだ。
その能力はこの本の収納と同じ。袋の口を通して入れれば容量を超えない限り入れられる便利な袋。
さっそく袋に入っていた物を見れば、出るわ出るわのファンタジーな道具。
彩り鮮やかな魔法薬が数種類、携帯食料、様々な硬貨、解体用のナイフ、ギルドカードと思わしき物などなど初めて目にするものばかり。
その中で俺の興味を引いたのがオワの大森林を示す地図。
詳細は文字が読めなかったので分からなかったが、矢印や雰囲気から察するに元持ち主の冒険者はオワの大森林の東側を中心に探っていたらしい。中央や西方面にも矢印が伸びているが詳細に書きこまれていないのを見ると他の冒険者だろう。
中でも重要と思われる情報が、南にある大きな町の存在。全ての矢印がここを中心に北のオワの大森林に向けられている。
地図の感じからすると北にも町などがありそうだが、そちらには何も記載がない。そちらとは情報を共有していないのだろう。
とはいえ少なくとも三方向に向かって冒険者を出していて、一組だけ帰ってこなければ新手が、しかも前より強力な者が来るだろう。
それに対して対策を、と思っていた時にある出来事により解消された。
他種族の来訪。
この森に住む魔族が俺の存在に気づいて挨拶に来た。
数多の種族が使者として頭を下げ様々な道具を献上してくれたが、言外に殺さないでください、と言っているのは使者の震えから想像が付いた。
そこで俺は彼らに友好的に接した。
特別危害を加えるつもりもないし、支配下に入れと命令するつもりもない。今まで通り好きに生活してくれて構わない。ただ、冒険者を見たら私に教えてくれ。私としても降りかかる火の粉は払わないといけない。代わりと言っては何だが、困ったことがあったら私の元まで来てくれれば解決できるように努力しよう。
その言葉にほとんどの種族は理解できないといった表情を浮かべていた。それもそうだ。生命の保証を懇願しに行ったら、救済の準備があると言われたのだ。しかしその疑問を俺にぶつける種族はいなかった。関わってこないならそれで良いと思ったのだろう。それでも気が変わった、などと言われないように報告だけはしてくれるだろう。
そうして俺に謁見にたくさんの魔族が来ていたのだが、その途中で本のある機能を発見した。
ステータスが見れるのだ。
専用のページを開いたまま相手に本を向けるとそのページに対象のステータスが表示される。
とはいえ、あまり大したことは表示されない。名前、種族と階位、職業くらいだった。
ちなみに自分のステータスも表示できた。
《名前》 No name
《種族の階位》 二重の者の王
《職業》 魔王
特に目新しい物はなかった。魔王は職業なのかくらいだった。
そして今、俺はついにダンジョンの増築を始めた。
理由としてはいざ魔族が助けを求めたときに俺の庇護下に置くためと、冒険者が外の門から直接玉座の間に来れないようにするためだ。
しかしこのダンジョンの増築が意外に曲者だった。
まずはダンジョンポイントと言う謎のポイントを消費して、増築する階層の広さを決める。このポイントはクエストをクリアすることで得られるようだ。ほとんどクエストを進めていなかった俺だが、初期のポイントがそれなりにあったので全て使って一階層だけに絞り広く作った。
次に決めるのがメインである地形生成。箱庭でも作るように自作でやる方法もあったが、外の光景をそのまま複写することも出来た。
時間がないので複写を選択。これにはかなり広くなってしまったからや、これから住む場所を急激に変えると大変だろうと言う配慮があっての選択だ。下手だとかそんなわけではない。
そして今、本には外のオワの大森林とほぼ同じ光景が映っている。入口の門と玉座へ繋がる門はすでに設置し終え、俺は無人の集落を作っていた。
ここに逃げ込ませてじゃあ好きに生きろ、というのはあまりに酷だろうから住まいを作っている。
これが問題なのだ。どのくらい家を用意するか、畑を作ったが水はどこから、道が複雑になりすぎた。すでに何度もやり直している。
しかしその苦労もようやく終わりを迎えようとしている。
数々の家、耕しやすいように木々、岩を取り払った土地、少し離れた所にある泉、更に集落の中央にある櫓。これなら安心安全だ。作った分ダンジョンポイントは消費されるようだが。
さて、ダンジョンを作成! をする直前に群犬が玉座の間に血だらけで飛び込んできた。
そして吼えるように。
「ボウケンシャ! キマシタ!」
敵の来訪を告げた。