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第八十五話 帰路にて鳥を拾う

 ダンジョンに戻る途中、西部特有の木々の屋根が途切れた所で変なのに襲われた。人型ではあるのだが、腕の代わりに翼が生えていた。


鳥人(ハーピー)だな。西の山脈に生息する魔族のはずだが?」


 間違ってもここに居るような魔族ではないと。

 話を聞ければ一番早いのだが、残念ながら襲われた瞬間に俺が『重力』を使い落として気絶させている。

 殺すつもりで使ったのだが、落ちてくる時に運良く枝葉を巻き込んで落ちてきたため気絶で済んだようだ。


「魔王様、これを殺しますか?」


 シバが倒れている鳥人(ハーピー)に怒りの形相で武器を向ける。どうやら俺を攻撃しようとしたこと、そしてその奇襲に自分が気づけなかったことに怒りを抱いているようだ。


 しかし殺すなんてもったいない。

 この鳥人(ハーピー)が野良ならそれほど価値はないが、丁度西の山脈の勢力、首領悪鬼(ドン・オーガ)の手勢と小競り合いを起こしたばかり。

 オルギアならこの程度のことをしないだろうが、首領悪鬼(ドン・オーガ)なら、後ろに控えていた大悪鬼(オーガ)ならこの程度の嫌がらせをするかもしれない。

 もし俺の予想が当たっていれば、この鳥人(ハーピー)は西の山脈の情勢を、首領悪鬼(ドン・オーガ)戦力、事情、状況を知っているかもしれない。

 この場で鳥人に変身して記憶を探るのも良いが、配下が俺を囲んでいるとはいえ、完全に安全が確保されていないと脆弱な一階位の鳥人(ハーピー)にはなりたくない。

 変身するならダンジョンに戻ってからで十分だろう。その前に目を覚ますかもしれないし。

 なにより、どこに目があるか分からない状況で変身を、『偽りの私』を使いたくない。これはオルギアに教えていない技能(スキル)だ。もし戦いになった際、少しでも有利に進める為隠しておきたい。


「ダンジョンに連れて行く。シバは警戒で忙しいので蛇長人(ナーガ)が連れてこい」


「かしこまりました」


 そして半分近くは成り行きで配下になった蛇長人(ナーガ)。成り行きだったので何か不平不満があるのではないかと思っていたが、今は従順に付いて来ている。

 今回の指示にも文句を言わず、後ろに居た蛇人(ラミア)を三名横に並べて歩く際に後ろに伸びる尾に乗せた。

 ……え? 運搬方法それで良いの? 随分と特殊な方法だが、その方法が楽なんだろうか。下半身が蛇の考えは分からない。


 それと、蛇長人(ナーガ)が配下に加わったのでオワの大森林西部の地理を色々と聞いてみた。

 それで分かったのは俺のダンジョンのある東部や中央とは動植物がまるで違うということ。多分ヒデ辺りが聞いたら新しい木材や素材を探しに足を運びたがるかもしれない。

 石切り場となりそうなところはないらしい。ただ西の山脈ならあるだろうとは言っていた。

 うん、そこには行けないんだ。首領悪鬼(ドン・オーガ)のダンジョンがあるところに行きたくないし、行かせたくもない。


「魔王、これからどうするんだ? 魔王を倒しに行くのか?」


「おい、その言い方だと俺が倒されるみたいだろうが。やめろ」


「……そうか、魔王って複数いるからなあ。じゃあ、ノブナガどうするんだ」


「とにかくダンジョンに戻る。その途中、鳥人(ハーピー)が起きるようなら話を聞きつつ戻る。それから族長やスズリなどと話し合い対策を練る」


 相手の戦力がどれ程か分からないが、国家群の連合軍程ではないだろう。それならファース辺境伯が手を焼く程度では済まされないからな。

 なので現状の予想では三桁を超えて四桁程度と考えている。鳥人(ハーピー)首領悪鬼(ドン・オーガ)の手勢であることを切に願うばかりだ。


「そうか、あのオルギアという大悪鬼(オーガ)とはまた戦いたいな。斬れるか斬れないか、ギリギリの敵だった」


 オルギアは知人なので殺さないでくれ、と言いたいが、見ていた限り実力は互角に見えた。下手すればアリスを失うことにもなりかねないのだ。

 何とも言葉が出て来ない。表情が出る顔なら微妙な顔になっていただろう。


「あの、魔王様。よろしいでしょうか?」


 表情が出ないからこそ、配下がこちらの顔色を窺わずに話しかけてきてくれるのは利点になるのかね。

 シバは何とも言いにくそうに口ごもった後に。


「あの、ですね。我々も魔王様の事をノブナガ様とお呼びしてよろしいでしょうか? やはりこれから首領悪鬼(ドン・オーガ)という魔王と戦いますので」


「構わない、好きに呼ぶと良い」


 今更呼ばれ方など気にしない。すぐ近くにまるで節度を知らずに話しかけて来るやつも居るからな。


「ああ、でも呼び方は統一してもらった方が良いな。蛇長人(ナーガ)よ。お前たちも俺のことはノブナガと呼ぶように」


「かしこまりました。それで、その少し気になったのですが、もしかしてノブナガ様の配下は皆シバ殿のように名持なのでしょうか?」


「いや全員ではない。名持ちは各族長と種族の功績により選ばれた数名のみ。丁度シバら群犬(コボルト)の種族の功績として石切り場の発見を目標としている。元々この石切り場探索の為に来たのだが、面倒になったなあ」


 それならダンジョン内でおとなしくしていれば良かった。まあ、もしの話なんて一切意味がないからな。

 ただ蛇長人(ナーガ)は何か言いたそうにシバを見たりこちらを見たりしている。

 ……もしや今の話を聞いて名が欲しくなったのか?


 確かに蛇長人(ナーガ)蛇人(ラミア)の族長的な立ち位置なのだろう。先代の族長が殺された所為で明確には決まっていないのだろうが、今までまとめ役として来たのだから誰もが認めるところだろう。

 しかし名前を与えるとなれば別だ。だってそんなほいほい思いつかないし。


 気づかなかった振りをしよう。まだ蛇長人(ナーガ)は俺に若干の遠慮があるらしく無理に言ってはこないだろう。

 だからといって何も考えておかない、というのも駄目だ。事前に考えておくことも重要だ。

 ただ、蛇長人(ナーガ)か。困ったな。どうしてもある人物が頭によぎる。


 裏切りを得意とし、有能ではあったのだろうがその分野心もあり、最後にはど派手に自爆する男を。

 松ナーガ。この名は少し不穏過ぎる。考え直さないと。


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