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冒険家になろう! ~スキルボードでダンジョン攻略~ 作者:萩鵜アキ

3章 最凶の魔物を倒しても、影の薄さは治らない

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とあるランカーの胸を借りよう!

第6回ネット小説大賞にて、期間中受賞致しました。
これもひとえに、応援してくださった皆様のおかげでございます。
本当にありがとうございます!
 次第に、その人影が露わになる。

 体には蒼穹の鎧。
 腰には長い太刀が提げられている。
 黒々とした艶のある髪の毛は後ろに一本に束ねられている。

 歩く姿に、一切の油断がない。
 なのにその人物はどこかぼぅっとした表情をしていた。

「――ッ!?」

 気がつくと、晴輝の全身が震えた。

 その姿を、晴輝は何度もとあるブログのトップページで目にしていた。

『なろう』のトップに属するランカーの一人。
 鮮姫時雨その人だった。

 遠征に出ると書いたきり、時雨はしばらくブログの更新を休んでいた。
 日本中でスタンピードが発生したときも、連絡が取れなかったと彼女のチームメンバーがブログで嘆いていた。

 しかしまさかその彼女が車庫のダンジョンに姿を現すとは、晴輝は予想さえしなかった。

「あ、あの……しぐれさ――ッン!?」

 口を開いた晴輝は、驚き声がひっくり返った。

 50メートルほど前に居た彼女が、いつの間にか晴輝と1メートルまで距離を詰めていたのだ。
 まるで瞬間移動だった。

 遅れて巻き上げられた風が、晴輝の仮面を撫でていく。
 時雨のぼぅっとした顔にある、2つの瞳が怪しげに変化した。

「見つけた」
「え?」

 時雨の声を、晴輝は始めて耳にした。
 凜とした出で立ちとは違って、その声はかなりか細い。

 その時雨の手が、晴輝の体に触れた。

「え、え!?」

 晴輝の脳がオーバーヒート。

 何故何どうして!?
 その言葉ばかりが、ぐるんぐるん頭の中を駆け巡る。

「か、空星さんダメですイケマセン!」
「(…………)」

 火蓮のひねり出したような声と、レアの殺気。
 その両方に気づいてはいたが、晴輝は一切動けなかった。

 それは晴輝の脳が、憧れの時雨に触れられて蕩けてしまったからではない。
 晴輝が彼女を避けようと動く度に――いや、動く前にすべて先回りされてしまうのだ。

 時雨の、相手の動きを読み取る能力が恐ろしく高い。
 晴輝は時雨に、あらゆる逃げ道を塞がれ一方的に動きを封じられてしまった。

「君が、噂の仮面くん?」
「え……と、たぶん?」

 どんな噂なのかを晴輝は知らない。
 だが冒険家で仮面をかぶっているのは、晴輝が知る限り自分だけだ。

 しかし…………噂かぁ!!

 晴輝の仮面に隠れた頬が朱を帯びる。
 まさか知らず知らずのうちにランカーに噂されるほど存在感がアップしていたとは!!

 どうしよう?
 今日は宴会かな!?
 うへへ……。

 別の意味で、晴輝の脳が蕩けだした。
 しかし、

「……うん。思っていたのより、ずっと普通」

 時雨のその言葉で、晴輝の体の芯が冷えていく。

『ずっと普通』

 普通は悪いことではない。
 むしろ晴輝は、かれこれ27年間普通の存在感に憧れていた。
 だから普通といわれることに、なんら抵抗感はない。
 むしろ本望である。

 しかし、晴輝の胸がその言葉で、ほんの少しズキンと痛んだ。

 それは晴輝が少しずつ積み重ねてきた冒険家としてのプライド。

 中級冒険家は全体の1割しかいない。
 だから中級になった晴輝が、自分をほんの少しでも特別かもしれないと思うのは仕方が無い。

 それを真っ向から否定する言葉。
 ――普通。

 確かに、ランカーの時雨から見れば晴輝は普通だ。
 普通以下に見えなかっただけ有り難い。

 しかし、それでも晴輝は胸に突き刺さった言葉のトゲを抜けずにいた。

「あの……噂ってなんですか?」
「『ちかほ』の上層モンパレ単独討伐と、カゲミツと一緒に中層のモンパレを討伐。その2つに参加したのは君、だよね?」

 口元に人差し指を添えて、時雨が小首を傾げた。

 その仕草に、晴輝の後ろに居る女子草子がヒートアップ。
 ヤレ殺レと殺気を飛ばす。

 しかし晴輝は、先ほどとは打って変わって冷静だった。

「カゲミツさんと一緒に戦ったのは事実です。それが、噂になっているんですか?」
「ん。宙に浮いた仮面が、首に羽を生やして植物を背負い触手で攻撃。魔物からの攻撃は体の鱗がすべてはじき返したって」
「あ、それ俺じゃないです」

 自分がそんな化け物のはずがないじゃないか。
 晴輝は首を振って否定する。

 しかし『「え?」』という言葉と葉音が背中から突き刺さった。

 いや、違うから。
 絶対に違うから!

「仮面浮いてる」
「い、いや」
「羽生えてる。
「生えては――」
「これが、植物?」
「うっ」
「鱗もある」
「っく」
「触手もある」
「ないない! ないですよ!?」
「これは?」

 時雨が指をさした。
 そこは晴輝の鞄。

「……あ」

 先日、ヌメヌメウナギのボスを倒した際にドロップした、ヌメヌメウナギフィギュアが鞄にくくりつけられていた。

 ヌメヌメウナギは見方によっては、たしかに触手に見えなくもない。
 見えなくもないが……クッ!

 言葉に詰まった晴輝を余所に、時雨がまっすぐ指をさした。

「……本人」
「うぐ……」

 証拠は揃っている。
 さあ、白状しろと時雨の目が鋭さを増した。

 カゲミツと共に『ちかほ』のモンパレに立ち向かったのは晴輝だ。
 それは間違いない。

 しかしそれを肯定すると、『背中に植物を宿し首から羽を生やした鱗のある触手仮面』という不名誉な噂を肯定してしまうことになる。

 晴輝は、悩んだ。
 肯定と否定のあいだを彷徨い続けた。
 いくら存在感が欲しいとはいっても、それだけは受け入れてはいけない気がした。

 しかし晴輝が答えを口にする前に、

「それで仮面くん」

 時雨は晴輝が『その噂の本人』である前提で話を進めてしまった。

 背後から『「ぐぷぷ」』と嗤う2人の雰囲気をひしひしと感じる。
 くそ、今に見てろ!

「私と少し、手合わせしない?」
「……はいぃ?」

          *

 冒険家同士の戦闘は御法度だ。
 しかし、それにも抜け穴は存在する。

 たとえば酒の席での乱闘。
 拳と拳で言葉を交わす行為は(程度によるが)警察の目に触れさえしなければ問題にはならない。

 血の気の多い冒険家は、度々拳で語り合うが、わざわざ警察が出動し冒険家免許を剥奪するのは、将来的に日本の損失に繋がる。
 それが一方的な暴力であったり、大けがをしない程度であれば、警察も大目に見てくれる。
 有り余った血を抜くのにも丁度良い。

 今回時雨が提案したのは、その抜け穴のうちの一つ。
 訓練としての手合わせだった。

 魔物がいつ現われるかわからない中で手合わせを行うのは危険だ。
 そのため晴輝らは一旦地上に戻る。

 手合わせは、木寅さんに借りた休耕地で行うこととなった。

「……はぁ」

 何故こんなことに?
 晴輝はため息を吐き出しながら、装備の確認を行う。

 手合わせの相手は時雨。
 彼女はかの勇者マサツグと手合わせし、打ち負かした経験がある強者中の強者である。

 最深部到達記録はマサツグに譲っているが、対人戦や剣術技巧では時雨が一枚上手だと言われている。
 そんな相手との試合など、晴輝が乗り気になれるはずがない。

 一瞬で試合が終わってしまう。
 晴輝にはその未来しか見えない。

 今回の手合わせに、一番積極的だったのがレアだ。
『私も参加させて』と葉っぱをトゲトゲさせていた。

『ポッと出の女が調子乗ってんじゃないわよ!』とレアの思念が晴輝の脳に響いて聞こえたのは、きっと気のせいだろう。

 しかし、晴輝はレアを丁寧に説得し、参戦を諦めさせた。

 今回の戦いに、晴輝は必ず勝たなければいけないわけじゃない。
 であれば、正々堂々1対1で戦うべきだ。

 自分よりも遙か格上の相手に対して、レアとタッグを組んでも卑怯ではない。
 だがそれは、晴輝の中のなにかが許せなかった。

 先ほど『普通だ』と言われたことが、晴輝の中でまだ尾を引いているようだ。

「しかし、すごいチャンスだ」

 考え方を変えると、トップランカーの一人と手合わせを出来る機会である。
 名も無き冒険家では挑戦権さえ得られない。

 もちろん、このチャンスに実力を示したいなどとは、晴輝は微塵も思わない。
 時雨の眼鏡に叶う力などない。

 自らの低い実力など、1合目すぐにバレる。
 虚仮威しにさえならない。
 そんなものを示すために力んでも、試合内容が悪くなるだけだ。

 晴輝が最も重視しているのは、時雨の動きを目にすることだった。

 晴輝は模倣スキルを持っている。
 相手の攻撃を目で捕らえられれば糧になる。

 この対戦は晴輝にとって、二度と得がたい経験となるだろう。

 準備を終えた時雨が、自らの太刀に手を添えた。
 途端に空気が鋭く尖り温度を下げる。
 その空気の変化に、晴輝の背中が凍り付く。

 トップランカーが持つ武器には、外野が勝手に名前を付ける。

 マサツグの武器は『長剣エクスカリバー』。本人はかなり嫌がっている。
 ベーコンは『マイトイズパワー』。武器種は鉄拳だが、武器の本体は筋肉である! と銘々された。

 そうして時雨の太刀が『血桜』。斬れない相手(もの)がないため、そう名付けられた。
 真実かどうかは不明だ。だが彼女の攻撃が受け止められたところを目撃したものは誰もいない。

 晴輝が時雨に憧れているのは、この血桜を使用しているところが大きい。

 刀は多くの青少年を中二病(ダークサイド)に陥れる魔力を秘めつつ、美術品としても実用品としても成立している武器の一つだ。

 切れ味は西洋刀と比べるまでもない。
 しかし扱いは非常に難しく、刃の立て方を少し誤っただけでも簡単に破損してしまう。

 玄人専用武器。
 刀を扱うだけで、技量の高さの証明にもなる。

 ゆくゆくは刀を扱えるレベルの素晴らしい冒険家になりたいと、晴輝は考えている。
 時雨と『血桜』は晴輝の、冒険家としての目標の象徴だった。

 刀から視線を切って、晴輝は深呼吸をする。
 全ての息を吐き出して、意識を深く沈めていく。

 菜種、ベッチ、ひまわりが、気持ちよさそうに揺れる休耕地。
 それらを意識が、俯瞰する。

 晴輝の集中力が、1秒を永遠に引き延ばす。

 レアが、直上に石を飛ばした。
 それが地面に接触したときが、勝負。

 集中しろ。
 集中するんだ!

 相手を観察し、観測しろ。
 筋肉の繊維、1本1本から想像し、想定しろ。

 1合でも、1合前に試合が終わっても、
 相手の力を捕らえ、脳に刻み込め!

 レアが放ったジャガイモ石が、晴輝の視界をコマ送りで落下し、接触。

 瞬間。
 晴輝の目の前に、時雨が居た。

 予備動作がない。
 動いたと気づいたときにはもう、目の前だった。

 動作の極地。
 素晴らしい、美しさ。

 だが晴輝も既に動いていた。

 晴輝が動けたのは、ほぼ直感だった。
 目では捕らえられなかったが、数少ない強敵との対戦経験が晴輝の体を動かした。

 時雨と同じように、予備動作を極小に止めて離脱。
 ほんの少し、時雨が眉を動かした。

 晴輝の首に、血桜が迫る。
 それを魔剣でガード。

 血桜が停止。
 突如方向を変えた。

「――なっ!?」

 移動の流麗さとは真逆の荒々しい挙動に、晴輝は思わず声を上げた。
 血桜は晴輝のガードを避けて首筋へ。

 強引な切り返しとは違い、首筋に迫った血桜は流水のようだった。

「…………負けました」
「ん」

 晴輝の降参の声に、時雨が小さく顎を引いた。

 斬り合うことさえない。
 ゼロコンマ1秒の戦闘。
 瞬殺だった。

「ああ……」

 背後で火蓮が、酷く落胆したような声を漏らした。
 晴輝も、同じように息を吐き出しそうになる。
 たったこれだけで終わりか……と。

 だがその落胆を押して、高揚感が湧き上がってくる。

 実に、良いものが見られた。
 予備動作ゼロでの接近。美しい歩法。
 そして清濁合わせた刀の流れ。

 これらを真似出来れば、きっともっと高い場所に到達出来るだろう。
 その確かな予感を晴輝は感じた。

「……もう一回」
「へ?」
「もう一回やる」
「えっと――」
「構えて」

 終わったと思いきや、時雨から再戦の申し入れだ。
 想定外の時雨の言葉に、晴輝はつい呆けてしまった。

 再戦を口にする時雨の顔が、ほんの僅かに歪んでいる。
 まさか晴輝の能力が不満だったのか。

(これが噂のカワイガリ!? どど、どうしよう!?)

 時雨が顔に浮かべた僅かな怒気の片鱗に、晴輝はガクガクと膝を震わせるのだった。
時雨さんの伏線をここで回収。
仮面くん、次回もランカーにかわいがられます(ヤッタネ!

期間中受賞につきましては、活動報告に詳細を掲載しております。
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