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冒険家になろう! ~スキルボードでダンジョン攻略~ 作者:萩鵜アキ

3章 最凶の魔物を倒しても、影の薄さは治らない

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新たな階層を探索しよう!

 やはりおかしい……。
 一晩ぐっすり眠って冷静さを取り戻した晴輝は、自らが置かれた状況に戸惑っていた。

 冒険家は危険なダンジョンを探索し、魔物の脅威から人を分け隔てなく守る職業である。
 そんな人を救う職業に憧れて、晴輝は冒険家資格を得た。

 冒険家になった当初の青写真の通り、晴輝は強くなった。
 ある程度なら、人を守れるだけの力が得られた。

 だが、方向性がいささか奇妙にブレてしまっている。

 生活を共にするジャガイモ。
 家を守るゲジゲジ。

 いずれも、テイムで従えた魔物だ。

 レアは……まあ問題ないだろう。
 背負うことで手数が増え、安全マージンが確保出来るようになった。

 数度のモンパレ突破も、レアの力なくてはあり得ない。

 だがエスタは、なんだか違う。
 そうじゃない。

 家を守る魔物について、晴輝が願っていたのはシルバーウルフだ。
 決してゲジゲジではない。

 昨晩、晴輝がさして疑問を抱かなかったのは、徹夜気味で頭が疲れていたからだ。
 正直、昨日はどうかしてた。

「まあ、可愛いから良いけど……」

 晴輝は家を出てエスタに挨拶をする。
 するとエスタは元気よく、にょん! と足を持ち上げた。

 可愛いなあ。
 エスタの仕草に、晴輝の疑問が打ち砕かれた。

 家の番はシルバーウルフ?
 馬鹿を言え。
 家を守る存在はゲジゲジと決まっているではないか!

「……あの、一つ聞いていいですか」

 合流した火蓮が、家の外壁を見て表情を引きつらせた。

「なんだ?」
「昨晩、一体なにがあったんですか?」

 彼女の疑問はもっともだ。
 昨日家を訪れたときはなにもなかったのに、今日訪れると壁に赤いゲジゲジが生息していたのだから。

「テイムした」
「は?」
「ゲジゲジをテイムした。名前はエスタだ。家を守ってくれている」
「……はあ」

 火蓮は難しい顔をしてこめかみを押さえた。

「空星さんって、少し目を離すととんでもないことをされますよね」

『されます』という言葉に、『しでかす』という意味が含まれているのを感じる。

 失礼な。
 晴輝はただ真剣に冒険をしているだけである。

 まっすぐ、真剣に冒険を続けてきた。
 その結果が、なにか違うだけである。


 先日は米を収穫したあと13階をアクティベートしていた。
 なので13階まで降りて探索を開始する。

 奇数階なので、現われる魔物は通常のものとなる。
 偶数階よりも慎重に晴輝は歩みを進める。

 姿を現したのは、11階と同じチャチャだった。
 だが11階のものとは違い、毛並みが深い茶色に変化している。

「……茶黒のチャチャか」

 見栄えはよりヒグマらしくなった。

 能力は――攻撃をして判る。
 より強くなっている。

 かつてシルバーウルフの毛色が変ると、徐々に力が増していったことがある。
 その変化率と比べると、チャチャは段違いだった。

 力が強い。
 攻撃が素早い。
 そして、硬い。

 いいね。
 実に良い!

 晴輝は唇を湿らせる。

 流麗な動作で短剣を扱い、次々と攻撃を繰り出す。
 チャチャは、やや腕力に任せた大ぶりな攻撃で晴輝を威圧する。

 攻撃が当たれば、晴輝など簡単に吹き飛ばされる。
 その力の強大さが、空気の音で理解出来る。

 晴輝はより慎重に攻撃を回避し、あるいは受け流し、チャチャの動きを見極めていく。

「――空星さん!」

 火蓮の合図で、晴輝は横に飛んだ。
 瞬間。
 明滅。

 ――ッタァァァン!

 雷撃が走り、空気が割れる。
 その直後、白い魔力のうねりが雷撃と同じ軌道を通過した。

 ――ッドゥ!!

 雷撃でスタンしたチャチャに炸裂。
 その衝撃で、チャチャの目が裏返った。

「――ッ!!」

 そのチャンスを、晴輝は見逃さない。
 即座に攻撃の態勢を取り、チャチャに斬りかかった。

 火蓮がいま放ったのは魔法による連続攻撃。
 初手の雷撃でスタンさせ、2手目の魔法を確実にヒットさせる。
 理にかなった攻撃だ。

 いいね。
 実にいい!

 火蓮が見せた新たな技に、晴輝の胸が熱くなる。

 火蓮が頑張っているのだ。
 こちらも負けてはいられない。
 晴輝は次々と攻撃を繰り出す。

 斬り、裂き、突き、堕とす。

 かなり防御力の上がったチャチャだったが、晴輝の連撃からその身を守り抜くことは出来なかった。

 連撃が終わり短剣を鞘に収めて残心を解く。
 その頃には、チャチャは既に息を引き取っていた。

 一息ついて振り返ると、火蓮が僅かに頬を膨らませていた。

 彼女も彼女で、晴輝に対抗心を抱いているのか。
 あるいは新技がスルーされたことが不満なのか。

「……いまの連続魔法は凄かったな」
「本当にそう思ってますかあ?」

 火蓮がジトリとした目つきになった。
 晴輝の言葉を疑うような表情となり、けれどほんの僅かに口元が緩んだ。

 後者が正解だったようだ。

 タイミングは間違っていたかもしれないが、褒めておいてよかった。
 晴輝は内心ほっと胸をなで下ろす。

「13階のチャチャは11階よりもかなり硬いな」
「そうですね。あ、もしかしてここも足音で近寄ってくるんでしょうか?」
「……可能性はあるな」

 晴輝はまだ残っている消音消臭の薬を取り出し、自らと火蓮に振りかけた。

 足音を立てぬよう慎重に中心部へと向かっていく。
 しかし、

「……気づかれたな」

 晴輝の探知が、こちらに近づいてくる魔物の気配を捕らえた。

 再び戦闘に入り、チャチャを撃破。
 念のためにいつでも逃げられるように構えていたが、戦闘中に増援が来ることはなかった。

 13階のチャチャは11階とは違う。
 匂いや音ではなく、目視で索敵を行っているのか。

 また11階のように、魔物が次々とリンクする現象が起らない。
 念のために消音消臭の薬を振りかけたが、無駄だったか。

 チャチャを撃破しながら、晴輝らは前に進む。

 13階ともなると、晴輝がモンパレとリザードマンで積み重ねた基礎レベルに、魔物の能力が追いついてきている。
 とはいえ短剣の練度が上がったので、無難なタイムで討伐出来ている。

 現在1匹あたり20秒。
 常に1匹を相手にするなら問題はない。

 しかし、2匹来たらどうなるか……。

 少しレベリングをした方が良いだろうか?
 晴輝の不安とは余所に、何度か軽いレベルアップ酔いを感じると、チャチャとの差がみるみる開いていった。

 差があっという間に開いたのは、成長加速のおかげもある。
 だが、晴輝が当初予想していたよりも、晴輝とチャチャの実力はそう近いものではなかったようだ。

 晴輝はまだ弱点看破を使っていない。
 純粋な身体能力と、短剣技術のみで切り開けている。

 また戦闘で呼吸も乱れない。
 まだまだ余力はある。
 レベリングはせずに、先に進んでも問題はなさそうだ。

 3時間ほど探索すると、一際大きなチャチャの姿を発見した。
 おそらくそれがこの階層のボス。

 晴輝は油断なく構え、火蓮に合図を送る。

 ――ッタァァァン!!

 火蓮の全力の雷撃がクリティカルにヒット。
 直撃したボスは筋肉が痙攣し、地面に倒れ込む。

 1秒、2秒と痙攣したボスが、ゆっくりと体を持ち上げる。
 その様子を見た晴輝は警戒しながら口を開いた。

「火蓮。一人でやっていいぞ」
「え、あ、はい!」

 ボスがスタンする姿を見て、晴輝は火蓮一人に任せても大丈夫だと判断を下した。
 雷撃を適度に与え続ければ完封勝利出来るだろう、と。

 もしスタンを乗り越えても、晴輝が止めれば良い。

 晴輝のレベルは十分なので、ここでは火蓮を成長させることに重きを置くことにした。

 雷撃がより強力になれば、レベルの高い魔物でも安全に狩りが出来る。
 いざというときに、必ず火蓮のスタンが役に立つ。

 火蓮のレベルを上げておいて、まったく損はない。

 30発を超える雷撃がボスに放たれた。
 しかしボスが絶命するより、火蓮の魔力切れが早かった。

 ガス欠を起こした火蓮が膝を折る。
 しかし、ボスはまだ絶命していない。

 30発もの雷撃を放ってボスを倒せないのは、完全に威力不足だ。
 この低威力は、中層において致命的である。
 あるいはそういう魔法という可能性もあるが……。

 晴輝は虫の息になっているボスに止めをさして、スキルボードを取り出した。


 空星晴輝(27) 性別:男
 スキルポイント:6→9
 評価:隠倣剣王
 加護:打倒神<メジェド>

-生命力
 スタミナ3
 自然回復2

-筋力
 筋力4

-敏捷力
 瞬発力4
 器用さ4

-技術
 武具習熟
  片手剣4
  投擲2
  軽装3
 蹴術1→2
 隠密3
 模倣2→3

-直感
 探知2→3
  弱点看破1

-特殊
 成長加速 MAX
 テイム1→2
 加護 MAX


 スキルポイントがかなり増えた。
 9ポイントという数値を見ているだけで、晴輝はわくわくしてしまう。

 一体なにに振ろうか?
 シミュレーションだけで時間を潰せる。

 だがいざスキルを上げようとすると、どうにも踏ん切りが付かない。

 スキルポイントの分配は、危険な戦闘での生存率に大きく関わる。
 同一レベル帯の魔物と戦いながら、生存率を上げるためのスキルを見極めるのは、戦闘経験の少ない晴輝にとって至難の業だ。

 本当にこれでいいのか? と悩んで、結局そのまま。いつまでもポイントを割り振れない。
 おまけにこの先スキルが自然上昇するかもしれないと思うと、益々分配意欲が低下する。

(でも、そろそろスキルに振っても良いかもしれないな……)

 自らのツリーをひとしきり確認して、画面をスワイプする。


 レア(0) 性別:女
 スキルポイント:0→3
 評価:二丁葉撃魔
 加護:地下宝守護神<プタハ>

-生命力
 スタミナ1→2
 自然回復0

-筋力
 筋力3

-敏捷力
 瞬発力1
 器用さ2

-技術
 武具習熟
  投擲3
   二丁投擲1→2

-直感
 探知1

-特殊
 宝物庫2→3
 加護MAX


 レアの生育は順調だ。

 射撃時に常に使用しているからか、宝物庫の成長が著しい。
 どれほど大きい宝物庫なのか気になるが、確かめようがない。


 黒咲火蓮(18) 性別:女
 スキルポイント:4→7
 評価:精霊師槌人
 加護:人者<?????>→平和者<?????>

-生命力
 スタミナ1→2
 自然回復1

-筋力
 筋力1

-魔力
 魔力3
 魔術適正2→3
 魔力操作3
  変化<雷>1→2

-敏捷力
 瞬発力0→1
 器用さ2

-技術
 武具習熟
  鈍器1
  軽装1

-直感
 探知1

-特殊
 運1
 加護1→2


 火蓮も順調といえば順調だ。
 ここまで雷撃を撃たせ続けたおかげで、スキルも上昇している。

 そして、

「おお? 加護が育ってるな……」

 火蓮の加護スキルが1つ上昇していた。

 加護が発現してから今日まで、特別火蓮に変った事は起っていない。
 いつもと同じように、車庫のダンジョンで一人でレベリングをしていたと晴輝は聞いている。

 大きな変化といえば朱音が付きまとうようになったくらいか。しかしその程度で加護が上昇するとは晴輝には考えられなかった。

 その程度で上がるなら、カゲミツの加護はとっくの昔にカンストしている。

「火蓮。加護が上がってたぞ」
「え、本当ですか!?」
「ああ」

 晴輝は頷き、火蓮に見えるようスキルボードを傾ける。

「上昇するきっかけに覚えはあるか?」
「えっと……いえ、特にないような……」

 尋ねるが、やはり火蓮も身に覚えがないようだ。
 難しい顔をしたまま、頭を傾けた姿勢で固まった。

 加護が上昇する条件が、判らない。
 自然に加護が上昇するところを実体験すれば、なにかわかるかもしれない。だが晴輝は既にカンストさせてしまっている。

 条件は気になるが、加護は低コストでカンストさせられるスキルだ。
 上昇条件に悩むくらいなら、ひと思いに割り振った方が良い。

 ――しかし、平和か。
 晴輝はボードを眺めながら、神様を連想する。

 確かに火蓮には、今の時代にはない平和な時代の気配が残っている。
 人――人間臭さもそうだ。
 晴輝から急速に失われつつあるそれが、火蓮にはまだ存在している。

 そういう部分が、この神が火蓮に加護を与えた理由なのだろう。
 だが、神の名が判らない。

 ――神の名が知りたい。
 晴輝は彼女のスキルを、益々手動で上げたくなった。

 それに併せて雷撃を4にすれば。
 彼女の魔法はもっと精彩を放つようになるはずだ。

「火蓮。ポイントを割り振ってスキルを上げないか?」
「いえ。すみません、まだ頑張りたいです」
「……そうか」

 本人にはまだまだやる気がある。
 ここでスキルを振っては、やる気を削ぎかねない。

 スキルを振りたかったが、現在出現する魔物に苦戦しているわけではない。
 戦闘が危うくなるまでは、このまま見守っていた方が良いだろう。
 晴輝は本人の努力する意思を尊重することにした。


 14階のフロアは、これまでとやや趣が変化していた。

「湿地帯か?」

 草木はほとんど同じだが、地面に水が浮かんでいた。
 雨に濡れた大地のようだが、所々緩い場所がある。

 目をこらすと、大きな水たまりに微かに罠の気配がある。
 深い水たまりなのか、あるいは沼のようになっているのか。
 さすがの晴輝も罠に飛び込んで効果を確認しようとは思えなかった。

「火蓮、結構罠があるみたいだから気をつけるんだぞ」
「はい」

 火蓮に注意を促し、晴輝は慎重に前へ進んでいく。

 フロアに水があるということは、水棲系の魔物が現われる可能性がある。
 魚か、はたまたカエルか。

 想像しながら進んで行くと、水の中からソイツが姿を現した。

「……なんだお前か」
次回。晴輝くんと深いゆかりのある魔物が登場!
+注意+
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