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冒険家になろう! ~スキルボードでダンジョン攻略~ 作者:萩鵜アキ

3章 最凶の魔物を倒しても、影の薄さは治らない

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紅色の君に愛を伝えよう!

 どうしてこうなった?
 晴輝は呆然としながらも、事の発端を思い返す。

 車庫のダンジョン1階で、晴輝はゲジゲジを相手に特訓を行っていた。
 おおよそ2・3時間ほど練習を続けた頃、晴輝は小さなゲジゲジを見つけた。

 そのゲジゲジは体長30センチほどと、他のものと比べると半分以下のサイズだった。
 おまけに茶黒っぽい普通のゲジゲジとは違い、全身が燃えさかる炎のような紅色をしている。

 ゲジゲジの子供か?
 晴輝は少々訝しんだ。

 だが大きかろうと小さかろうと愛すべきゲジゲジ。
 愛でる――ではなく討伐せねばならない。

 晴輝は慎重に近づいて、短剣を一閃。
 しかし、

「な――硬ッ! 早ッ!!」

 2発の攻撃のうち、1発が甲殻を滑り、1発が躱された。
 刃が滑った甲殻には、僅かな傷も付いていない。

 これまでゲジゲジを確殺してきたはずの攻撃が通じなかった。
 その事実に、晴輝は激しく動揺した。

 ――まずい!
 晴輝は反撃を恐れバックステップ。

 しかし、ゲジゲジは晴輝に襲いかかるどころか、一目散に逃げ出した。

「あれぇ?」

 晴輝は呆然と立ち尽くす。
 全力ではなかったとはいえ、いまの晴輝ならばゲジゲジ程度、指先一つで粉砕出来る相手だ。
 その装甲が切り裂けないとは夢にも思わなかった。

 おまけに、ゲジゲジは反撃することなく一目散に逃げてしまった。
 完全に予想外の展開である。

「……もしかして希少種か?」

 その可能性に、晴輝はようやく気がついた。

 装甲は硬く、晴輝の目でも捕らえるのがやっとの速度で逃げ出したのだ。
 ただのゲジゲジであるはずがない。

 もしかすると超高経験値モンスターなのかも知れない!
 硬くて速くて逃げる敵は、大量の経験値を持っていると相場が決まっているのだ。

 故に、晴輝は追った。
 探知を全開にし、決して見逃さぬように紅いゲジゲジを追った。

「うへへぇ」

 笑いながら、
 涎を垂らしながら、
 晴輝は全力で駆け抜けた。

 晴輝が見えているのはただ紅のゲジゲジのみ。
 他のゲジゲジは見向きもせず、邪魔なものは即座にバラバラに斬って捨てる。

 無我夢中で追い続けた晴輝は、ついにゲジゲジを行き止まりまで追い詰めた。

 追い詰められたゲジゲジは、未だに反撃の動きを見せない。
 プルプルと震えながら、手を上げたり下げたりしている。

「ふっふっふ。ここが年貢の納め時よ」

 手の中で短剣をくるくる回しながら、晴輝は一歩踏み出した。
 その時、

「ぐえっ!!」

 晴輝の後頭部が、スパーンと大きな音を立てた。

「ぬ? レア?」

 音を立てたのはレアの葉。
 彼女は晴輝の後頭部を力任せに叩いた。

 晴輝の後頭部を叩いたレアは、『うんしょ、よいしょ』と器用に葉を使って地面に降り、晴輝とゲジゲジのあいだに割って入った。

 レアがゲジゲジを倒すのかと思ったが、違う。
 彼女の正面は、晴輝を向いていた。

「レア危ないぞ!」
「(ふるふる)」

 大丈夫よ。っていうか危ないのは貴方じゃない。

 レアが葉を駆使して意思を伝える。

 彼女の意思は確かに晴輝に通じている。
 だがその意図するところがよくわからなかった。

 誤訳か?
 晴輝は首を傾げる。

 テイムによる意思のパイプラインが壊れた、というようには感じない。
 彼女の意思は、間違いなく晴輝に伝わっている。

 では何故レアは晴輝の前に立ちはだかっているのだろう?

 両手に短剣を持って構える仮面の男。
 その前で葉を大きく横に広げて立ちはだかるレア。
 レアの後ろで、プルプルと震えるゲジゲジ。

 この構図じゃ、悪は晴輝だ。

 何故こうなった……。

「で、なんでレアはあいだに入ったの? ん、いじめないで? 悪い魔物じゃないから」

 悪い魔物じゃない。
 いやいや、と思うがレアの例がある。
 そういう奴がいても不思議ではない、と思えるだけの前例を晴輝は知っている。

 レアは晴輝と繋がっているとはいえ魔物だ。
 魔物同士、なにか通じる部分があったのだろうか。

 考える晴輝の前で、レアが葉を揺らしてさらに説明する。

「(にゅんしゅん、ぱぱっと、ペロンペロン)」
「仲間にしてあげる? いやいいけど、それはゲジゲジ君も了承してるの? ん、してる? ならいいけど……」

 レアの言葉を肯定するように、ゲジゲジが何度も足を縦に動かした。

 ゲジゲジは首がないから、足で頷くのか……。
 すごい無駄知識を得てしまった。

「レアはちゃんとゲジゲジの面倒を見るんだぞ?」
「(こくこく)」

 任せてよ、とレアが葉で茎を叩いた。

 ゲジゲジの前に立っていると、レアがお姉さんのようだ。
 レアもそのつもりなのかもしれない。

 晴輝は短剣を仕舞い、腰を屈めた。

「さっきは悪かったな。赦してくれるか?」

 晴輝が頭を下げるとゲジゲジは、もじもじしながら足を動かした。
 やだ、この子かわいい!

「赦してくれてありがとう」

 これからよろしく。
 晴輝が手を伸ばすと、ゲジゲジは恐る恐るその手に足を乗せた。

 足の感触。
 ツルっとしていて、硬くて、少し生暖かい。

 はふぅ!

 その感触に、晴輝の心が鷲づかみされた。
 包み込むようにゲジゲジを持ち上げ、抱きしめる。

 下ではレアが「それ私のなのに!」と葉をツンツンさせた。

 悪いなレア。
 一番抱擁は俺が貰った!

 優しく壊さぬように、晴輝はゲジゲジを抱きしめる。

「お、こら、防具はカリカリしちゃだめだからな」
「(シュタ)」

 了解です! と言わんばかりに、ゲジゲジが足を掲げた。
 愛い奴め。

 晴輝は初抱っこを奪われトゲトゲするレアを鞄に収め、ゲジゲジを抱いてダンジョンを進む。

「名前は何にしようか。ゲジゲジだからゲジ――ブッ!」

 後頭部にレアの張り手が炸裂した。
 やめてくれ。後頭部がへこむ。

 レアのレベルが上がっているため、脳を揺さぶる力もマシマシである。
 そろそろ本気で後頭部を保護する防具を装備した方が良いかもしれない。

 背後でレアが、真面目に考えろと威圧する。

「体が赤いからホムホム――」

 トゲトゲした葉が首筋に添えられた。

 ……了解。真面目に考えるよ。
 だからその鋭利な葉を避けてくれ。

 晴輝は息を吐き、ゆっくり思考を巡らせる。

 ゲジゲジは害虫を駆除する益虫だ。
 人間が生活する上で厄介な虫を食べてくれる。
 家の守り神とも言える。

 そして炎のような赤い甲殻。

「……エスタはどう? ローマ神話に出てくる竈の神ウェスタから名前を取ってエスタ」

 ウェスタは竈の神から転じて家庭の守護神となる。後にギリシャ神話のヘスティアと同一視される神様だ。
 元は竈の神らしく、神体は燃え続ける炎。

 害虫を駆除し家を守る虫と、家庭を守る神。
 炎のように紅い甲殻と、炎の神体。
 その類似点から、晴輝はウェスタの名をもじって頂くことにした。

 晴輝の名付けに、レアが頷く。
 本人(?)も、しきりに足を動かして喜びを表現している。

 うん。
 喜んでくれたようでなによりだ。

「…………」

 はたと、晴輝は足を止めた。
 このやりとり、以前どこかで……。

 それに思い至ると、晴輝はエスタを肩に乗せ、スキルボードを取り出す。
 急いで画面をスワイプし、

「……やっぱりか」

 晴輝の顔から表情が消えた。


 エスタ(0) 性別:男
 スキルポイント:3

-生命力
 スタミナ0
 自然回復0

-筋力
 筋力1
 被損軽減2

-敏捷力
 瞬発力3
 器用さ1

-技術
 武具習熟
  甲殻4

-直感
 探知1

-特殊
 武具破壊3


 意図せず、晴輝はゲジゲジをテイムしてしまった。

 しかしテイムは、お互いがお互いを求めたら成功と書いていた。
 今回のテイムの成功と、テイムの説明に若干の齟齬があるが……。

「もしや……俺のゲジゲジ愛が通じたのか!?」

 いや、違うか。
 晴輝は自らを諫めて考える。

 エスタをテイム出来たのは、おそらくレアが仲裁したからだ。

 レアはエスタを求めた。
 そしてエスタは晴輝の脅威から逃れるために、レアを求めた。

 一体レアが何故エスタを求めたかは定かではないが、現状その考えが一番答えに近い気がする。

「しかし、エスタはかなり強いな」

 晴輝はスキルボードを眺めながら独りごちた。

 これで、初期値だ。
 晴輝や火蓮、レアとは比べものにならないほど初期値が高い。

 特に瞬発力3と甲殻4、それに武具破壊3は異様に高い。
 守るだけなら、中層に出られるレベルである。

「始めて見るスキルもあるな」

 被損軽減と甲殻。それに武具破壊。

 甲殻は軽装や重装と同じ、装備扱いだ。
 武具破壊はゲジゲジ特有のカリカリ行為である。

 そのなかで、晴輝は初めて見るスキル――被損軽減に目が行った。

「こういうスキルもあるのか」

 被損軽減2(被ダメージを軽減する)MAX10

 これが上がると文字通り、攻撃を受けたときのダメージが軽減されるのだろう。

 実際、晴輝がエスタを攻撃したとき、その甲殻に攻撃が弾かれた。
 甲殻スキル4は、晴輝の短剣技術が一切通じないほど高い数値ではない。
 それでも弾かれたのは間違いなく、この被損軽減があったためだ。

 問題は被損軽減が技術ではなく筋力ツリーにあることだ。

「ダメージを軽減しているのは体質か?」

 体質。
 ゲジゲジなら甲殻。
 人間なら筋肉だ。

 技術にあれば、軽減を習得する可能性が生まれた。
 だが筋力ツリーにある――体の性質に左右されるのであれば、習得難度は技術の比ではない。

 残念ながら、晴輝は筋トレをしても筋肉が大きくなり難い。
 晴輝では、習得の可能性は限りなく低いだろう。

「ベーコンさんなら持ってそうだな」

 筋肉が自慢の彼であれば、習得していても不思議ではない。
 それを象徴するような逸話は数知れない。

『筋肉があれば殴られても痛くない』だの、『マッスルボディは傷付かない』だの。
 新宿のスタンピードで失踪したが、彼が生還出来たのもこのスキルがあったからかもしれない。

 そんなことを考えながら、晴輝はダンジョンを出て自宅に向かう。
 家に入る前に、レアがなにやらエスタに指示を出した。

 エスタが右足をヒョイっと上げて、家の壁をよじ登っていく。

「ん、家に入らなくていいのか?」

 コクコク、とエスタが足で頷いた。

 外に出しておいて大丈夫なんだろうか?
 なんだか少し可愛そうな気がする。

 そんな晴輝の心配をくみ取ったのだろう。
 エスタが足をワチャワチャと動かした。

「外で獲物を獲る? なるほど、害虫を駆除してくれるのか」

 ゲジゲジは益虫。
 害虫駆除の専門家だ。

 エスタにとって外で過ごした方が何かと都合が良いようだ。

「わかった。なにかあったらすぐに言ってくれ。あまり家から離れるなよ? あと壁とか屋根をカリカリしないように」

 了解であります! とエスタがビシっと足で敬礼した。

 家を守ってくれるのであれば、その分の対価は必要だ。
 晴輝はエスタに、好きな食べ物を尋ねる。
 すると、

「……イナゴか」

 なるほど。
 晴輝はレアがエスタを求めた理由が、なんとなく理解出来た気がした。

          *

 早朝にプレハブの鍵を開いた朱音は、店の前で大きく深呼吸を繰り返す。

「うん、今日の空気も透き通っていて綺麗ね。アタシほどじゃないけど!」

 ゲヘヘと笑い、顎を上げる。

「……え」

 朱音の笑みが、一気に凍り付く。

 顎を上げた視線の先。
 存在感空気の冒険家の家の壁に、魔物が張り付いていた。

「……なんで外に魔物が」

 しかもあの魔物は、新宿の中層に出現する死蝕虫(ししょくちゅう)じゃ!?
 朱音の体を冷たい汗が流れ落ちる。

 死蝕虫は攻撃が通じ難く、非常にすばしっこい。
 その顎は、あらゆる武具を破壊する。

 たった1匹でも死蝕虫が魔物の群に混ざっているだけで、歴戦のチームもあっという間に壊滅する。実に厄介な存在だ。
 その死蝕虫が何故ここに……。

 朱音が固まっていると、家から仮面の男――空星晴輝が現われた。

 危ない!
 逃げろ!
 朱音がそう口にする前に、

「おはよう」

 晴輝が手を上げ、死蝕虫が手を振り返す。
 その姿を見て、朱音は呆然と立ち尽くした。

 空星晴輝は、現在朱音がもっとも興味を持っている冒険家の一人である。
 モンスターパレードを切り抜ける特異な戦闘能力に、魔物のテイムというレアスキル持ち。

 初級冒険家でありながらトップランカーのマサツグに意識され、中級となってからは札幌の実力者カゲミツから名指しで救援を依頼された。

 空星晴輝という冒険家は、それほどの男である。
 本来ならば彼を会社に推薦し、企業として支援したいと朱音は思っている。

 しかし、存在感空気。
 いくら冒険家としてダイアモンドの原石であろうとも、存在感空気じゃ広告塔にはなりえない。
 おまけに武器は、マイナーな短剣だ。

 さらに特殊な仮面を被り、首から羽根を生やし、背中には植物、体は鱗。
 ダメ押しで家に死蝕虫ときた。

 こんな男を支援しては、企業としてマイナスプロモーションである。

 火蓮が候補として選ばれたことを本人は残念がっていたが、火蓮の方が人間として“マトモ”なんだから仕方が無い。

 もし企業からスポンサードを受けたければ、彼はもう少し“マトモ”な冒険家になるべきだ。

 とはいえ。

「……っふふ」

 朱音は口元を緩める。

 こんなにズレた冒険家は、どこを探したって見つからない。

 おまけに彼の傍には火蓮も居る。
 火蓮は、冒険家が探し求めた力を持っている。

 現在の火蓮は、中級冒険家と呼ぶにはいささか未熟だ。
 長年守られる環境にあったせいか、守ることに慣れてない。

 冒険家は、他人を守る職業だ。
 誰かを守る術を身につけなければ、いずれ大きな壁にぶち当たる。

 故に朱音は身を呈して、彼女に『他人を守らせる術』を学ばせている。
 自らがヘマをして魔物に襲われることで、火蓮が朱音を助ける状況を生み出し続けている。

 やがて火蓮が他人を守る術を身につけた時、冒険家としての実力が、1皮も2皮も剥けるだろうと信じて。

 火蓮が脱皮を完了させたとき。
 晴輝と火蓮の、たった2人のチームが日本を揺るがす存在となる。
 揺るがす存在となる、大いなる可能性が生まれる。

 朱音は誰より近くで、彼らの成長を目に出来る。
 それが幸せでなくて、なんだろう?

 そうして彼らが持ち帰った最高のお宝を優先的に買い取って、一菱社員の度肝を抜いてやるのだ。
 お宝を前にして、高笑いしてやる。

 悔しがる社員の顔が目に浮かぶ。
 ウフフ。

 こうしてアタシは一菱の、高い階段を駆け上がっていくのよ!
 ウヘヘ!

 妄想に耽り笑みを浮かべた朱音は夕方に、

「アハーハハァーン! アタシのお店が潰れちゃうぅ!」

 晴輝が運び込んだ素材の山を見て大粒の涙を流すのだった。
+注意+
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