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冒険家になろう! ~スキルボードでダンジョン攻略~ 作者:萩鵜アキ

3章 最凶の魔物を倒しても、影の薄さは治らない

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アイテムを使って攻略しよう!

 構い過ぎてレアが部屋から逃げ出すと、晴輝は武具を着用した。

 家の中での練習には限界がある。
 動画を模倣する練習を続ければ、家が廃墟になりかねない。
 ここからの動作確認は、ダンジョンで行う方が良い。

 武具を装着した晴輝は、足早にダンジョンの1階に向かった。

 今までの動きを捨てて新しいことを行うときは、急激に練度が下がってしまう。
 これは以前に行っていた仕事でもそうだった。

 新しいパソコンやソフトは、非常に使い勝手が悪く感じる。実際、導入当初は作業効率も古いものよりも落ちたし、製版のクオリティが下がりもした。

 だが新しいものに慣れると、途端に効率とクオリティが急激に上がった。

 つまり、切り替えた先がどれほど優れたソフトや技術であっても、それに慣れるまでは著しく能力が落ちてしまうのだ。

 これはどの分野のどの作業・行動にも当てはまる。

 だからこそ晴輝は一度初心に戻って、ダンジョンの1階で動きの確認をすることにした。
 決して久々に、ゲジゲジに逢いたかったわけではない。

「…………フフフ」

 ゲジゲジを探しながら、晴輝は口元を緩める。
 さあて、ゲジゲジちゃんはどこかなあ?

 通路の奥。
 ゲジゲジの甲殻がテラテラと光った。

「うおおお!」

 雄叫びを上げて、晴輝は全力で通路を駆け抜けた。

 ゲジゲジの直前で一度停止。
 姿勢を整え、動画と同じ構えを取る。

「……なにか違うか?」

 触角を伸ばしながら迫るゲジゲジを回避しながら、晴輝は自らの動きと動画のそれを重ね合わせる。

「……こうかな。ん、こっちか」

 足と、手と、体幹に意識を向ける。
 短剣を手で軽く支えて、流れるように動かす。

 振り上げ、下ろす。
 切り返し。

 ゲジゲジの2本の触角が宙を舞う。

「まだ甘い!」

 流れが途中で途切れてしまった。

 再びイメージを高め、重ね、なぞり、断つ。
 短剣が、ぬるっとゲジゲジの甲殻を切断。

「お、良い感じ」

 手応えがまるでない。
 短剣の能力を、存分に生かした攻撃だった。

「けどまだ甘いな。全然だめだ」

 討伐にかかった時間は30秒。
 以前なら1秒で撃破出来た。

 やはり、フォーム変更の影響は深刻だ。
 討伐速度が著しく下がっている。

「コツは掴んでるし、後は体に馴染むまで練習するしかないな」

 そこから晴輝は索敵を継続。
 次々とゲジゲジに襲いかかっていった。

 襲いかかり、動画の動きを模倣する。
 模倣して、モノにする、そのために。


 全身の倦怠感と不快感により、晴輝の集中力が途切れた。

 体がだるい。呼吸が熱い。
 中に着ているTシャツとパンツが汗でぐちょぐちょだ。
 喉がカラカラで、咳こんでしまう。

 これまで晴輝は、動画で見たあらゆる流派の動きを模倣し続けた。
 模倣し、吸収した。

 動画では主に木刀や刀などが使われていたため、動きを短剣用にアレンジせねばならなかった。
 それに、思いのほか時間がかかった。

 あともう少し。
 そう確信出来るところまで来た。

 動きも前より遙かに良くなっている。

 晴輝は通路に腰を下ろし、ボードを取り出した。


 空星晴輝(27) 性別:男
 スキルポイント:6→7
 評価:隠倣剣師→隠倣剣王
 加護:打倒神<メジェド>

-生命力
 スタミナ3
 自然回復2

-筋力
 筋力4
 身体操作1

-敏捷力
 瞬発力4
 器用さ4

-技術
 武具習熟
  片手剣3→4
  投擲2
  軽装3
 隠密3
 模倣2→3

-直感
 探知2
  弱点看破1

-特殊
 成長加速 MAX
 テイム1
 加護 MAX


「おお……!」

 スキルに、これまでの練習の成果がはっきり現われていた。

「しかし、なるほどそうか」

 スキルの自然上昇について、晴輝は朧気ながらも法則が見えてきた。

 スキルが自然上昇するには2つの条件がある。

1,経験値を取得する。
2,練度を高める。

 スキルによって1と2の要求値は違うだろう。
 だがこれまでスキルアップした経験から、おそらくこの2つの条件が関わっていると推測出来る。

 スキルを自然に上昇させたい場合の方法が見えた。
 逆説的に、スキルを上げないための方法も……。

「やっぱり隠密は使わないほうがいいな」

 晴輝は隠密封印の決意を固めるのだった。


 ダンジョンから出ると、空が白んでいた。

「…………」

 おかしい。
 夜にダンジョンに入ったはずなのに……。

 時計を見ると午前4時。

 北海道では夏場、緯度が北にあるため日の出時間がかなり早い。
 東京都と比べて30分。
 石垣島と比べるとなんと2時間も違う。

 それだけに、夏場の徹夜は絶望を感じ始める時間も早い。
 晴輝は仕事中に白む空を見ながら、燃え尽きそうになったことが、何度かあった。
(仕事、終わってないのに朝になっちゃったナー……)

 それはともかく、朝だ。

「いつ朝になった!?」

 まったく記憶にない。
 晴輝の感覚では、ちょっとゲジゲジと戯れていただけだった。

 朝露にしっとり濡れた休耕地の向こう側。
 小さな丘のてっぺんから、綺麗な朝焼けが姿を現した。

「……寝るか」

 寝ても、1・2時間で起きなければいけない。
 だが寝ないよりもマシだろう。

 晴輝はいそいそと家に戻る。
 既に日の光に気づき目を覚ましていたレアに白い目(?)を向けられながら、晴輝は素早く着替えてベッドに潜り込んだのだった。

 当然、徹夜の戦闘で疲れ切った晴輝がすぐに起きられるはずもなかった。
 火蓮が家の前に姿を現す頃、深い眠りについていた晴輝はレアの弾丸の熱い洗礼で目を覚ますのだった。

          *

 寝ぼけ眼をこすりながら、晴輝は朱音の店を訪れた。
 すぐに目的の品が届いているとは思わなかったが、アレがなければ攻略が進まない。

「…………」

 店に入っても朱音に無視をされた。
 この女、益々やる気がない。

「おい」
「あら火蓮いらっしゃい」
「俺もいるんだが?」
「……あらぁ! ごめんなさぁい、存在感があまりに空気すぎて気づかなかったぁ! くすくすぅ」

 先日、晴輝と火蓮が朱音を差し置いてルッツの階を突破したことをまだ根に持っているのか。
 彼女の挑発がグサリと晴輝の胸を抉る。

「……そうかそうか。そういう態度で接するのかあ。残念だなあ!」
「なによ?」
「折角ルッツ階の突破を手伝ってやろうと思ったんだけどなあ。そういう態度を取るなら、一切手伝ってやらん」
「アッハーハハァーン! 待って! ちょっと待ってもう一回やり直すからぁ!」

 泣くくらいなら、はじめから挑発をするな。
 晴輝はため息を吐き出しながら、カウンターに近づいた。

「少し早いが、昨日注文した品は届いたか?」
「ん? ああ、そういえば届いてたわね。これでしょ?」

 朱音がカウンターの下から小瓶を取り出した。
 それは札幌の道具屋にあった、『匂いも音も消える気がする! ※悪用厳禁』というポップの付いた薬品だ。

 当然ながら、晴輝はそのような薬を使いたくはない。
 なにか間違いが起って、残り少ない存在感がかき消えては一大事である。

 だがどうにも、11階はこれがなければ突破出来なさそうだった。

「これ、一体なにに使うのよ? 気配でも断つつもり?」
「そんなことを俺がすると思うか?」

 晴輝は気配を消したいんじゃない。
 増やしたいのだ。
 狂おしいほどに……ッ!

 そこは決して間違えてはいけない。

「でもこれ、アンタに必要ないでしょ」
「なんでだ?」
「聞きたいの?」

『アンタ存在感空気なんだから、こんな薬に頼らなくても大丈夫じゃない』という考えが、朱音の薄ら笑いから透けて見えた。

「やめてくれ」

 死体を蹴られる趣味はない。
 晴輝は唇を歪めて首を振る。

「それで、何に使うのよ?」
「11階に亜人のチャチャが出たからな。これを使って突破出来るか試してみるんだ」
「あー、なるほどね」
「え、朱音さんは判るんですか?」
「判るもなにも、相手はチャチャでしょ?」

 まだ薬を使う意味に気づかないのだろう。
 火蓮に朱音が説明した。

「ヒグマってのは嗅覚が鋭いのよ。音にも敏感。で、チャチャも亜人ながらその能力を持ってるタイプもいる。隠密系の開眼能力を持つ冒険家でも、匂いや音までは消せないからね。消音消臭の薬があれば、そういうタイプのチャチャとの戦闘回避出来るのよ」

 チャチャが中央に進むに従って集まってきたのは、晴輝や火蓮の匂いや音に気づいたから。
 もしかすると晴輝らをボスに近づけないために襲いかかってくるのではないか、と晴輝は仮定した。


「ね、大丈夫よね? アタシ、ちゃんと良い店員やってるでしょ? ね、だから、助けてくれるわよね? ね?」

 そう何度も助力を涙目で懇願する朱音を無言で退け、晴輝は11階に向かった。

 少し可愛そうに思えてきたので、助けてあげるのもやぶさかではない。
 ただ、どうも晴輝には朱音は晴輝に懇願しているというより、そうすることで火蓮を煽っているように見えた。

『アタシが頼るのは火蓮じゃなくて晴輝。アンタはまだ頼りない』
 そうやって当て擦ることで、朱音は火蓮をたきつけようとしているのか。

 朱音の意図はわからない。
 だがいずれにせよ、すべては11階をクリアした後の話だ。


 11階に降りると、まず晴輝は購入した小瓶の中身を自らと火蓮に振りかけた。

「……匂い、消えてますかね?」

 火蓮が隣でスンスンと鼻を鳴らしている。
 晴輝も腕を鼻に近づけるが、自分の匂いは自分じゃわからない。
 消えてると、信じるしかない。

 だが歩いてみると、この薬の効力が一発で理解出来た。

「……おお、音が消えてるな」

 足音が、ほとんどしなくなっていた。
 地面を蹴っても、無響室にいるみたいに音が弱い。
 足音を消すように歩けば、いくら聴力の高いチャチャでも気づかないだろう。

「よし、いくぞ」

 薬の効果の確認と武具のチェックを済ませ、晴輝は短剣を二本構えた。
 レアが『はーい』と緊張感なく葉を揺らす。
 火蓮は無言で頷き、杖をぎゅっと握りしめた。

 ……よし。

 晴輝は覚悟を決め、フロアの中心部に向けて歩き出す。

 抜き足、差し足。
 なるべく足音を立てないように進んで行く。

 ……この行動で、隠密がスキルアップする、なんてことはないよな?

 自らの想像に、晴輝は戦慄した。
 慌ててスキルボードを取り出すが、隠密は3のまま。

「…………」

 危なかった。
 スキルボードを消し、晴輝はほっと胸をなで下ろす。

 もしここで隠密が育っていたら、攻略どころの話ではなくなっていたところだった。

 消音効果を無駄にしないように、晴輝らは無言で前に進む。
 先日撤退したラインまで到達したが、いまだにチャチャは姿を現さない。

 近くにはいる。
 先ほどから、魔物の気配が数匹、晴輝の探知に引っかかっている。

 だが晴輝らに向かってくる気配がない。
 音も匂いもないから、気づかないのだ。

 しばらく進むと、体毛が白いチャチャを発見。
 おそらくそれがボスだろう。

 晴輝は目と手の仕草で、火蓮に合図を送る。

 火蓮が頷くと、晴輝は一度深呼吸をして、止めた。

 次の瞬間、晴輝は前に飛び出した。

 100メートル。50メートル。
 ボスはまだ気づかない。

 30メートルになって、ようやくボスが晴輝を見た。
 戦闘態勢に入るが、僅かに遅い。

 ボスの体勢が整う前に、一閃。

「――っし!」

 流れる動作で、晴輝はボスの右手を切り落とした。

「ぐおぉぉぉ!!」

 滑らかな切り口から、鮮血が吹き上がった。

 攻撃した手応えがない。
 骨すらも、あっさり切断出来た。

 これがスキルレベル4の力。
 いや、これこそが短剣が持つ本来の切れ味だ。

 右手の魔剣も、左手のワーウルフの短剣も、どこか生き生きしているように感じられる。

 いままでごめんな。
 晴輝はこれまでの雑な使い方を謝罪する。

「がぁぁぁ!」

 ボスが反撃。
 残った左手を大きく振りかぶった。
 だが、

 ――ッタァァァン!

 ボスの体を雷撃が直撃した。

 チャチャから散々自由を奪ってきた雷撃だったが、ボスは地面に倒れなかった。
 それでも動きが封じられている。

 ボスの咆哮と火蓮の雷撃で、さすがに周りのチャチャに存在がバレた。
 近いものから順に晴輝らに駆け寄ってくる。
 その気配を、晴輝は敏感に察知した。

 それはレアも感じ取ったようだ。
 晴輝らに近い者から順番にジャガイモをお見舞いしている。

 しかしチャチャは防御も体力もある。
 ジャガイモ弾では制圧し切れない。

 一刻の猶予もない。

「――ッ!!」

 硬直するボスめがけて、晴輝は全力で動いた。

 動画と同じ、美しい動きを模倣。

 短剣の先端が、
 滑らかに流れ、
 美しく舞い、
 するりと胴を抜けた。

 後ろに抜けて、残心。

 晴輝が短剣を仕舞うと、ボスの胴体がズレた。
 ズルズルと上半身が滑り落ち、ドシャと地面に落下した。

 初回ボス討伐の合図で、ダンジョンが明滅。
 戦闘中に近づいてきたチャチャたちは、ボスが倒れると同時に尻尾を巻いたようにして逃げ出した。

 どうやらこの階層のボスは、晴輝が始めて体験する『取り巻き付き』のボスだったようだ。

 しかしまさか、『取り巻き付き』ここまで厄介だとは……。

 少しでもボスの討伐に手間取っていれば、取り巻きのチャチャ達と乱戦になっていた。
 そうなれば、晴輝と火蓮が分断され、最悪の結末を迎えただろう。

 少数チームでは攻略難易度が高すぎる。

 もっとレベルアップするか、あるいはチームメンバーを増やすか。
 今後、似たようなボスが現われれば、いずれかの選択が迫られるだろう。

 ボスの死体が吸収され、ドロップが出現。
 今回のボスドロップはチャチャの毛皮と魔鉄だった。

 10階11階と、ボスドロップが芳しくない。
 だがボスを倒すと必ず良いものがドロップするわけじゃない。

 良い品がドロップする可能性が生まれるだけで、ドロップ率が高いわけではないのだ。

 今のところ晴輝がボスを討伐して得られたアイテムの中で、良品が出たのは魔道具の壺の1度きり。希少種を入れても2回だ。
 それ以外は少し高く売れる素材か玩具のみである。

 そう簡単にレアアイテムが出現するわけじゃない。
 判ってはいるが、ボスドロップだ。どうしても期待してしまう。

 晴輝はドロップを回収し、落胆しつつも12階へと向かった。


 ゲートをアクティベートして、晴輝は辺りを見回した。

 12階は食料階だ。
 一体ここではどんな食べ物が出てくるのだろう?

 フロアは相変わらず。広大な草原だ。
 だがその草原の草の質が少し変っている。

「……黄色い?」

 剣先の葉が11階よりも少しだけ黄色っぽくなっていた。
 晴輝が気づく限りの変化はそれだけだった。

「様子を見てみよう」
「はい」

 火蓮を伴い、晴輝は慎重に歩みを進める。
 すると晴輝の背後で、レアがにわかに固くなった。

 晴輝の肩を掴む葉が、トゲトゲしている。

 レアは一体なにに反応しているんだ?
 今のところ晴輝の目では魔物の姿を捕らえきれない。
 物音も聞こえない。

 念のため、晴輝は探知の範囲を最大まで拡大し、

「――ッ!?」

 息を呑んだ。

 晴輝の探知出来る範囲ギリギリに、おびただしい数の魔物が存在する。
 現在晴輝らは、大量の魔物に囲まれていた。
★補足
熊肉:非常に固くて臭いがきつい肉。
臭いを処理する調味料・ハーブ類がない限り、食べられたものじゃない(らしい

「あれは食べもんじゃない!」(熊肉試食経験者談
※これは個人の感想で感じ方には個人差があります

次回、魂の食材が二人の前に登場!
+注意+
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