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冒険家になろう! ~スキルボードでダンジョン攻略~ 作者:萩鵜アキ

3章 最凶の魔物を倒しても、影の薄さは治らない

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剣の技を見て盗もう!

 チャチャが接近すると同時に、晴輝が短剣を抜いて間合いを詰めた。
 そして、一閃。

 短剣と爪が交わった。

「――ッ!」

 強い!
 チャチャの腕力は『ちかほ』の亜人ベロベロよりも強かった。

 だが、筋力が4に上がったためだろう。
 晴輝はチャチャに押し負けなかった。

 晴輝はさらに力を加え、チャチャの腕を押し返す。

 野生のヒグマと同等かそれ以上の攻撃を、こうもあっさり押し返せるとは……。

 晴輝は現在の身体能力を思い知り、顔を引きつらせた。
 そろそろ自らを人間と称してはいけない気がする。

 それはさておき。
 晴輝は気を引き締めて、叫ぶ。

「火蓮!」
「はい!」

 火蓮が呼応。
 同時に晴輝が身を引く。

 瞬間、
 明滅。

 ――ッタァァァン!!

 空気が割れ、雷が走り抜けた。

「ゴォォォ!!」

 雷撃を食らったチャチャが、足をもつれさせて転倒。
 地面で小刻みに痙攣する。

 だが、あまりダメージを与えられたようには見えない。

 雷撃には音ほどの威力がない。
 おそらく通常の魔法の方がダメージを与えられるはずだ。

 雷撃に威力がないのは、火蓮のスキルがまだ1だからだ。
 しかしそれでも、雷撃は11階の魔物を確実に痺れさせている。
 威力はないが、致命的。

「火蓮、任せた」
「……あ、はい」

 晴輝の意図に気づいた火蓮が、おずおずと前に出て杖を掲げた。

 ――ッタァァァン!!
「ゴォォォ!」

 ――ッタァァァン!!
「ガァァァ!」

 ――ッタァァァン!!
「ギャゴォォ!!」

 何度も何度も、火蓮がチャチャに雷撃を食らわせる。
 攻撃を食らう度に、チャチャが野太い悲鳴を上げる。

 少々痛ましい光景だが、同じことを晴輝も火蓮も、ゲジゲジを相手に行っている。

 すまない。
 全ては経験のためだ。
 諦めてくれ……。

 晴輝は心の中で謝罪しつつ、チャチャの反撃に備えて絶命の時を待った。

 チャチャが絶命すると、火蓮の頭が僅かに傾いだ。
 弱いが、レベルアップ酔い。
 火蓮には少し強い魔物だったようだ。

 その後、何度もチャチャとの戦闘を繰り返し、晴輝は火蓮のレベルを引き上げていく。

 とはいえ晴輝が手伝うのは最低限。
 1対1で戦えるなら、時間はかかるがソロでも火蓮はチャチャを狩れる。
 晴輝はなるべく1対1の状況を作ることだけに専念した。

 はじめ火蓮は約二十発もの雷撃をチャチャに放たなければ倒せなかった。
 しかし狩りの終盤にさしかかる頃には7・8発程度で仕留められるまでに成長した。

 晴輝はボードを取り出して確認するが、火蓮の雷撃スキルは1のまま。
 レベルアップだけでここまで威力が伸びたようだ。

「やっぱりスキルイコール攻撃力ってわけじゃないんだな」

 レベルが基礎攻撃力で、スキルがプラス補正か。
 スキルだけ沢山上げても、おそらくマサツグと同じ強さにはなれないだろう。

 階段とボスを探して歩き回るが、晴輝らはなかなか中心部に近づけなかった。
 というのも、フロアの中心部に向かうと途端にチャチャの出現率が上がるからだ。

 火蓮のレベリングもかねて、1匹ずつ討伐したかった晴輝は、まず先にフロアをぐるっと一週。
 それでも階段とボスが見つからず、現在に至る。

「中心部に行かないとダメか」
「ですね……」
「うーん」

 他に手はないものか?
 晴輝は頭を悩ませる。

 多少魔物の出現率が上がる程度なら、晴輝なら飛び込める。
 しかし、中心部に向かうと、尋常でないレベルでチャチャが出現するのだ。

 はじめは2匹同時で現われる。
 そこからさらに中心部に進むと、3体、4体と間を置かずに現われる。

 更に中心部に向かったら……。
 モンパレのようになるかもしれない。

 何度かモンパレを突破している晴輝だが、積極的にモンパレに突っ込みたいと思うほどのスリル中毒者ではない。

 冒険家とは、死ぬことと見つけたり。

 その言葉は『冒険家は死ね』という意味ではない。
『死ぬべき場所で、迷いなく命を捨てる覚悟を持て』という意味だ。

 策なく突っ込むのは冒険ではなく、ただの無謀。
 もし突っ込むならば最低でも、安全マージンは確保するべきだ。

 試しに中心部に向かってみるが、やはりチャチャが大量に襲いかかってくる。

 はじめは晴輝が前で食い止め、火蓮がスタンさせる。
 安定した戦いを行えた。

 だが次第に処理が間に合わなくなる。
 チームの戦いから、個人の戦いに傾いていく。

 晴輝は戦況を見極め、火蓮に撤退を促した。

「火蓮。今日の所はここで切り上げよう」
「……そう、ですか。わかりました」

 火蓮は少し納得してないように眉根を寄せた。
 火蓮の気持ちを汲んだのか、レアが肩をペンペンと晴輝の叩く。

 私はもう少し行けそうだけど?
 レアからそんな意思が伝わってきた。

 だが晴輝は首を振る。
 これ以上やっても、ただのごり押しだ。

 もちろんごり押しが必要な場面はある。
 しかしここは、少し違う気がした。

「俺の勘だが、ここの階層はちゃんとした攻略法があるはずだ」
「え、そうなんですか?」
「チャチャは、探知能力は広いのに隠密技術があるわけじゃないだろ? だから、そこになにかあると思うんだ」

 晴輝でさえいとも容易く見つけられる探知能力。
 それを持っているにしては、チャチャの戦い方はあまりに普通だ。
 バックアタックさえしなかった。

 能力を生かし切れていない。
 バランスがいささか悪い。

 だからこそ、なにかあると晴輝は踏んだ。
 既に対策方法の見当は付いている。
 あとはアイテムを手に入るだけだ。



 プレハブ小屋に向かって、朱音に本日手に入れた素材を叩きつける。

「……え、11階に行っちゃったの!?」

 一体どうしたことだろう。
 ボス素材を見た途端に朱音の顔が青くなった。

「なんでアタシも連れてってくれなかったのよ!?」
「何故俺がお前を連れていかねばならんのだ……」
「ああ、アタシは火蓮の師匠よ? 連れて行くのが当然でしょ!」
「だってさ、火蓮。頑張れ」
「え……ええっ!?」

 晴輝に突然話を振られて、火蓮が悲鳴を上げた。
 きっと、これでルッツと二度と戦闘をしなくて良いと思っていたのだろう。
 頭が空っぽになったような顔をして、肩を大きく落とした。

 ルッツとの再戦に放心する火蓮を余所に、晴輝は素材を売り払い、カードに入金を済ませる。

「そうだ。朱音、良い剣術道場を知ってるか?」
「道場? 破りにいくの?」
「なわけないだろ。剣術を学びにいきたいんだ」
「ふぅん。どうしたのよ急に」
「ちょっとな」

 晴輝はお茶を濁す。

 新たに得たスキル弱点看破は大きなアドバンテージだ。
 それこそ、スキルやレベルが低くても大逆転を勝ち取れるほどに。

 だがこのままでは弱点看破に寄りかかってしまう。
 これに寄りかかっていては、いざ強敵が現われたとき、弱点を突く技量が足りないなんてことが起りかねない。

 晴輝には、今ここで脱皮しなければ行き詰まるぞ、という思いが強くあった。

 自分のなにかを変えるには時間がかかる。
 調子が悪くなってから変えたのでは、巻き返すまでにダンジョンで死んでしまうかもしれない。
 次の準備が出来ないまま、あっけなく終わってしまうかもしれない。

 であれば、チャンスは今だ。
 中層に出て『ちかほ』のモンパレを殲滅し、勢いづいた今しかない。

 いまスタートを切れば開けた道も、好調に満足したことで閉ざされる。そうなる前に、晴輝は学べるものを学んでおきたかった。

「あるにはあるけど、アンタ短剣装備でしょ? タメになるかはわからないわよ?」
「それでも良い。教えてくれ」

 朱音はいくつかの道場の所在地を口にする。

 K町からは少し遠い。
 稽古の日はまる1日潰れそうだ。

 稽古で1日潰れれば、それだけ狩りの時間が減ってしまう。
 それを考えると、実に悩ましい。

 このまま独学を貫いた方が効率が良いのではないか。
 いや、急がば回れだ。

 二つの意見が脳内で対立する。

「空星さん、道場に通うんですか?」
「ああ」
「そう、ですか……」

 晴輝が頷くと、火蓮の表情が沈んだ。

 折角モンパレを討伐して戻ってきたばかりで、またソロ活動メインになるかもしれない。
 彼女はそれを憂慮しているのか。

「空星さんが道場に行っても気づ……あ、いえ、何でもないです」
「ん、なんだ火蓮? 正直に言っていいんだぞ?」

 否。
 余計なことを口にするな、というプレッシャが晴輝の体からダダ漏れだった。

 それ以上は言うなよ?
 言ったら泣くぞ?

「どど、道場だと、対局してないあいだも見て学ぶことが出来ますからね!」
「…………ソ・レ・ダ!!」

 火蓮の一言で晴輝の脳裏に、唐突に良案が閃いた。

          *

 家に戻ると晴輝はすぐにパソコンを起動した。
 ネット検索で引っかかった動画を次々と再生していく。

 火蓮はさすがだ。
 ジャガイモの時もそうだった。
 いつも晴輝に天啓を与えてくれる。

 胸の内で火蓮に土下座しながら手をこすり合せる晴輝は、次第に動画に集中していく。

 検索した動画はすべて剣術に関するもの。
 日本にある、あらゆる古武術の流派が過去にアップロードした稽古風景。
 それをひたすら頭にたたき込んでいく。

 筋肉の動かし方。剣の動き。足捌き。
 全てが渾然一体となった、“業”の数々。

 戦闘経験を積み重ね、模倣スキルを得た、いまの晴輝だからわかる。
 全てが非常に考え抜かれ、戦闘のためだけに磨かれた努力の結晶であることが。

 当然ながら、冒険家になりたての頃も晴輝はネットで様々な動画を眺めた。
 だが当時は晴輝の基礎レベルが低すぎて、動画の動きをまるで理解出来なかった。

 おまけに模倣スキルもなかった。
 動きを眺めても、真似出来なかった。

 だが今は違う。
 レベルが上がり、模倣スキルを覚えた今では、熟練者の動きの一挙手一投足が、手に取るように理解出来た。

 晴輝は動画の動きを一つずつ検証する。
 観察し、想像し、実践し、修正し、また実践する。

 いくつもの動画の登場人物に、晴輝は自らの体を当てはめていく。
 するとすぐに、晴輝の欠点が理解出来た。

 まず、晴輝はグリップを強く握りすぎていた。
 これでは剣の動きが制限される。

 柄を握り込むのは、インパクトの瞬間だけ。
 それ以外は力を抜いて支える。

 握り方は親指と人差し指で挟み込むのではなく、雑巾絞りと似た形にする。

 推測し、模倣し、実践。

 はじめは手を滑らせて短剣が飛んでいってしまいそうに思えた。
 だが5度10度と素振りをするうちに、力の入れ方のコツを掴む。

(なるほど。可動域を増やすことで、加速距離が伸びるのか)

 僅かな違い。
 たったそれだけの違い。
 けれど、大きな変化だった。

 正しい持ち方を理解すると、剣先の速度が明らかに上昇した。
 剣が空気を切り裂く音も変った。

 続いて判ったのが、剣を力任せに振るっていること。

 これまで晴輝は、力任せな攻撃は少しずつではあるが改善してきたはずだった。
 だがそれでもまだ足りない。

 達人達が練習試合で振るう剣には、すべて流れがあった。
 流れがあり、リズムがあり、呼吸があり、生命があった。

 かつてスタンピードの時に戦った、ワーウルフのように。
 いずれの剣筋も、美しかった。

 攻撃の流れに逆らうと、余計な力が加わって、歪む。
 それが力み。
 流れに従えば、不要な力は使わない。

 ――綺麗だ。

 動画に登場する人物の一連の躍動を眺めているだけで、晴輝の鼓動が高まっていく。
 感動に震え、鳥肌が立つ。

 晴輝はすぐにその動きを模倣する。
 だが――、

「――ぬお!?」

 軽く踏み込んだだけで、床がバキッ!! と嫌な音を立てた。
 少々、力みすぎたようだ。

 慌てた晴輝が多々良を踏む。

(一体なにしてんのよ)
 パサパサと、葉が擦れる音がした。

「…………」

 いや、お前がなにしてるんだ?
 晴輝は自らの部屋の隅にいるレアを無表情で眺める。

 レアは通常、家の中で最も日当たりの良いレア専用の部屋に置いてる。
 今日も晴輝はレアをそこに置いた。

「一体どうやって来たんだ?」

 ここをこうして……。
 うんしょ、うんしょ。
 レアが葉を使った移動法を実演する。

「おお!」

 レアが地面に届く下の葉で床を押し、プランターごと引きずって移動した。

 なるほど。
 たしかにそれならば移動出来る。

 レアの成長に晴輝は僅かばかり感動を覚える。
 だがそれはそれ。
 これはこれだ。

「勝手に俺の部屋に入るな」
「(フリフリ)」

 いいじゃんべつにぃ。
 レアが体を揺らす。

「なんだ、寂しかったのか?」

 近づいてからかうと、かなり強烈にペシペシと叩かれた。
 痛い痛い。

 葉を指先で撫でると、幾分威力が落ちた。
 実際のところ、彼女は部屋の中で一人でじっとしているのが暇だったのかもしれない。

 夜は日が落ちる。
 植物は、寝るくらいしかやることがないのだ。

 晴輝が葉を撫でると、嫌がるようにレアが体を揺らす。
 撫でる手を止めると、なんだかもの悲しそうにレアが晴輝を見る。

 お前は猫か……。

 しかし最近、レアとはあまり絡んでいなかったな。
 ダンジョンに潜るときは常に一緒だったが、こうして葉を撫でたり、家で話しかけることはほとんど無かった。

 さすがにちょっと、冷たかったか。
 晴輝は軽く反省する。

 そこからしばらく晴輝は、本気で嫌がられるまでレアの葉で遊んだ。
火蓮さんの無慈悲な一撃。
こうかは ばつぐんだ!

そして幼女ならぬ葉女ことレアさんが固定砲台ジャガイモから、這い寄るジャガイモへ。
(これで夜も寂しくないね!)
+注意+
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