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冒険家になろう! ~スキルボードでダンジョン攻略~ 作者:萩鵜アキ

3章 最凶の魔物を倒しても、影の薄さは治らない

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プロローグ その背中を追って

1月2日・3日と、2日連続日間総合1位と相成りました。
現在週間総合ランキング4位! また300万PVも達成。
これも皆様のおかげでございます。本当に有難うございます。
 晴輝が札幌に発った日。
 火蓮は寒々しい思いで車庫のダンジョンに向かった。

 晴輝はあのランカーのカゲミツに誘われてモンスターパレード討伐に向かった。
 カゲミツに誘われたのは晴輝のみ。
 火蓮は誘われていない。

 彼に付いていけないのは、仕方が無い。
 晴輝はモンパレを突破して、実績を積んでいる。
 対して火蓮は一切、なんの結果も出していない。

 晴輝の後ろでただただ甘い汁を吸っているだけ。
 恩恵を受けて、なのに失敗ばかり。

 ここでついて行きたいと言ってもただの我が儘だ。
 ついて行ったところで、彼を助けるほどの実力も無い。
 まったくもって、使えない奴だ。

 それが判っているからこそ、火蓮は素直に晴輝を見送った。

 冒険家の頂点に向かい駆け上っていく、彼の勢いは凄まじい。
 火蓮が同じだけ努力を重ねても、無力感を覚えてしまうほどに。

 だからといって、火蓮は腐るつもりは一切なかった。
 晴輝に助けてもらった恩をいつか返さなければいけないのだから、腐ってなどいられない。

 腐る暇があるなら、ダンジョンに潜って少しでも強くなる。
 強くなって、晴輝の役に立つべきなのだ。

 そうして現在、火蓮の瞳に一筋の光明が映り込んでいた。
 それは中層に出たことで発現した、加護による変化だ。

 以前よりも魔法が、数段扱いやすくなっていた。
 新しい力の姿が、朧気ながら見えてきた。

 晴輝が帰ってくるまでに、これをどうにかしてモノにしてやる!
 そう意気込んで、火蓮は車庫のダンジョンに一人潜っていく。


 ダンジョンでひとしきりレベリングをしたあと、火蓮はプレハブに向かった。
 中では室内温度に負けた朱音が、カウンターでとろけていた。

「買取お願いします」
「あ、え、っと……ああ空気の」

 火蓮はまだ一度も朱音に名前で呼んでもらったことがない。

 きっと彼女にとって、自分はどうでも良い存在なのだ。
 火蓮は軽く唇を噛み、今日の成果を取り出した。

「……ふぅん。一人でも狩れるのね」
「当たり前です」
「空気の後ろに付いて美味い汁吸ってるだけかと思ってたわ」

 朱音の物言いが火蓮の気に障った。
 頭に血が上る。

 安い挑発だ。
 それは、判ってる。

 火蓮は意識的に呼吸を繰り返し、気分を落ち着ける。

「私だってもう、中級冒険家ですから」
「あ、そ。ねえアンタ、そろそろ身を引くつもりはない?」
「……は?」

 身を引く?
 朱音の言葉の意図が読めず、火蓮は硬直した。

「アンタは空気の彼女なの?」
「――ち、違います!」
「なら何なわけ? ただのチームメンバー? 空気はなにも言わない甘ちゃんだけど、アンタ、ただ空気の甘さに寄りかかって寄生してるだけにしか見えないわ。そんなんで、まともな冒険家を名乗れると思ってんの?」
「――ッ!!」
「これから空気がどうなっていくかはわからない。けどね、将来アンタがお荷物になる可能性があるって、そう思わない?」
「…………」
「思うんだったら、そろそろ身の振り方を考えなさい」

 朱音の言葉には、一理ある。

 スキルボードのある晴輝がこれからどれほど成長するかは未知数だ。
 もしかすると、並居る冒険家を押しのけて、トップランカー入りするかもしれない。
 そのくらいの人材であると、火蓮も薄々感づいている。

 きっと様々な冒険家を見てきた朱音ならば、もっと如実に理解しているだろう。
 空星晴輝の可能性というものを……。

 だが、火蓮は彼女の言葉には決して従えなかった。

「そんなこと……貴方に言われる筋合いはありません!」

 これは晴輝と火蓮の問題だ。
 誰かが踏み入って良いものではない。

 そこに朱音が遠慮無くズケズケと踏み入ったことで、火蓮は激高した。

 手にした杖に力が籠もる。
 怒りで暴走した魔力が、体から噴出した。
 その魔力が、

 ――バフッ!
「あ……」

 プレハブにある、蜜柑箱を押しつぶした。

「ぎゃぁぁぁ!! ミツルぅぅぅ!」

 朱音が潰れたカエルのような悲鳴を上げ、蜜柑箱を胸に抱えた。
 ……ミツル?

「アタシのミツルさんがあ! アハーハハァーン!!」
「……」

 蜜柑箱の側面には『蜜る』と印字されている。なるほどミツルとはこの箱の名前のようだ。
 しかし、何故に蜜柑箱をミツルと呼んでいるのやら……。

 過剰反応に引き気味の火蓮を、朱音がキッと睨み付けた。

「アンタ、ミツルさんになんてことしてくれたのよ!!」
「ごご、ごめんなさい!」
「ごめんで済むなら警察はいらないのよ! アタシにとってミツルさんがどれほど大切だったか!!」

 朱音が怒りを堪えるように、プルプルと拳を振るわせる。

 一体何故そこまで打ち震えているのか。
 火蓮には、蜜柑箱の重要性がいまいち判らない。

「今すぐ表へ出なさい! 決闘よ!! 失われたミツルさんの恨み、晴らしてやるんだから!!」
「ええと……あ、はい」

 確かにミツルさん――蜜柑箱を潰してしまったのは火蓮のせいだ。
 しかしそれで決闘とは……。

 冒険家同士の戦闘は御法度。
 だが、あくまで訓練という体であればお咎めはなしだ。

 おまけにここは田舎。
 万が一見つかっても、大きな問題にはなりにくい。

 朱音がプレハブからかなり離れて、体を動かしている。
 既にやる気満々だ。

 対して火蓮は、完全に熱が冷めてしまっていた。

 ああ、どうしよう空星さん……。
 朱音さんが止まらない!

「まさか怖じ気づいたの? それとも、また空気に頼るつもり?」
「……違います」

 否定するが、内心を言い当てられてた気分だった。

 ――また空気に頼るつもり?

 その言葉が、胸に深く突き刺さる。

 また自分は、晴輝を頼ろうとしていた。
 その心の甘さが、未熟さが、憎い。

「アタシが勝ったら、新しい蜜柑箱を用意しなさい! 全力で!!」
「ア、ハイ」

 何故そこまで蜜柑箱にこだわるんだ?

 ……ダメだ。
 彼女と話しをすると気が抜けてしまう。

 まさかこれは彼女の作戦だろうか?
 そう、火蓮は真剣に考えてしまう。

 プレハブの前の道路で、20メートルほど離れて互いに向かい合う。

「さあ、どこからでもかかってきなさい」
「……」

 なんでこんなことになってしまったんだろう?
 火蓮は心底そう思う。

 しかし、これは大きなチャンスだった。
 朱音に、自分の実力を見せられる。

 朱音は戦う店員として、一部では有名な人物である。
 彼女は何名もの冒険家を無名時代に見い出し、ランカーやそれに比肩する冒険家へと育て上げている。

 その彼女に力を見せつけ――認めて貰うのだ。
 晴輝の傍に居ても良いのだと。

 ただそれを認めさせるためだけに、火蓮は魔力を練り上げる。

 魔法に関わりのある神が、加護を与えてくれたのか。
 加護を得てから、火蓮はダンジョンの外でも魔法を扱えるようになった。

 この力で、勝利をつかみ取る!
 自分の居場所を、手に入れるんだ!

 火蓮が杖を持ち上げ、全力で振り下ろした。

 瞬間、

「ぐえっ!」

 魔法が朱音の顔面にクリーンヒット。
 彼女は後頭部から地面に倒れた。

「あ、だ、大丈夫ですか!?」

 まさかここまで綺麗に決まるとは……。

 あまりに綺麗なヒットだった。
 攻撃した火蓮さえ心配になる。

 ……まさか死だんじゃ?

「――ぷぁは!」
「あ、生きてた」
「ととと、飛び道具を使うなんて、騙したわね!」
「へ? い、いえ騙しては――」
「鈍器持ってるのに飛び道具なんて騙しよ騙し! いまのナシ! ノーカンよノーカン!!」
「えぇえ……」

 朱音が子供みたいに地団駄を踏む。

 火蓮は一度だって、打撃で挑むとは口にしていない。
 朱音が勝手に勘違いしただけだ。

 それを狡いと言われても……。

「ほら、ボサっとしてないで行くわよ!」
「え? どこにですか?」
「ダンジョンよダンジョン!」

 朱音が火蓮の腕を引く。

「なっ――?!」

 火蓮は目を見開き喫驚した。
 一体いつの間に。

 火蓮は朱音に、近寄られたことに気づけなかった。
 おまけに、火蓮じゃ抵抗出来ないほど力が強い。

 先ほどの魔法も、顔面にクリーンヒットしたにも拘わらず、朱音は鼻の頭が多少赤くなる程度で、怪我さえしてない。

 この人、強い!
 火蓮の背筋が、一気に冷たくなった。

「ほら、一気に10階まで降りるわよ」
「降りて、どうするんですか……」
「狩りで対決よ! 当然でしょ?」
「はあ……」

 なにが当然なのか。
 勝負の続きを引き受けたつもりもないのだが。

 困惑する火蓮に、朱音が顔を寄せた。

「アンタ、空気を支えたいんでしょ? その魔法で」
「――っ!」
「だったら、アタシに実力の一端を見せておくべきよ。強くなるための助言くらいなら出来るから」

 なにが『だったら』なのかは不明だ。
 だが――認めて貰ったということなんだろうか?

 火蓮は渋々、朱音に付いていく。
 手首をがっちりホールドされているので、逃げたくても逃れられなかった。


 その後、2人は破竹の勢いで10階に到達。
 しかし狩り対決を行う前に、2人は仲良く10階から逃げ出したのだった。
ミツルさんは愛媛県西宇和出身のようです。

本話より3章がスタートです。
どうぞ最後まで、よろしくお願いいたします。
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