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冒険家になろう! ~スキルボードでダンジョン攻略~ 作者:萩鵜アキ

2章 冒険家レベルが上がっても、影の薄さは治らない

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ランカーから戦闘を学ぼう!

 モンパレを倒すまでの目標日数は7日。
 それまでに、まず晴輝は10階の魔物に慣れなければいけない。

『ちかほ』の10階に出没する魔物は、飼い主と同じアリクイタイプの亜人で、名前がベロベロ。
 車庫のダンジョンの9階に出てきたボスと同じ種類だが通常種で、サイズが一回り小さい。

 カゲミツ曰く、実力は飼い主と同等ということだ。

 ベロベロはそれぞれ短剣・長剣・槍を装備している。
 技量は4・5階クラスの冒険家と同等だが、身体能力が高い。
 技で力量を判断すると痛い目を見るだろう。

 晴輝は飼い主入りのモンパレを1度壊滅させている。
 なのでベロベロのモンパレ討伐は、絶対に不可能というレベルではない。

 ただベロベロは武器を持っている。
 これまでとは違う魔物の動きを見て、素早く学ばなければいけない。
 それが出来なければ、活路は見いだせない。

 なにはともあれ、晴輝が10階の地を踏めるようにならなければ、作戦はスタート出来ない。
 エアリアルのチームハウスを訪れたその日に、さっそく晴輝はカゲミツらに連れられて『ちかほ』の8階まで移動した。

 晴輝に同行してくれたのはカゲミツ、ヨシ、ヴァンの3名だ。
 ベッキーはハウスで別作業。
 どら猫は以前、モンパレに立ち向かい敗北したときに怪我を負った。完治はしているが念のために体を休ませている。

「あんま気合いを入れなくても大丈夫だぞ。オレらの実力があれば10階までは余裕だからな」
「だろうな」

 当たり前だが、晴輝は彼らの実力を一切疑ってはいない。
 実際、その発言がフラグになる余地もないほど、彼らの実力は高かった。

 一菱の“壹”シリーズに、川前かわさき“KS”。
 エアリアルの武具はすべてハイエンド。
 いずれの値段も目が飛び出すほどだ。

 それらを軽々振り回し、魔物を次々と葬り去っていく。

 大剣を振るう速度。
 放たれる矢。

 すべてが晴輝の認識の、一歩外側を行く。

 カゲミツの攻撃の軌道が霞む。
 これで、実力の半分ほどか。
 それが筋肉の使い方から、わかってしまう。

「……すごいな」
「ああ。これで判っただろ」

 晴輝の褒め言葉に、カゲミツが自嘲気味に呟いた。

「魔物の奴ら、全員オレを狙ってきやがる! 存在感があるってのも良いもんじゃねーんだぜ?」
「あー、うん、そう、みたいだな……」

 晴輝が評価したのは実力だったのだが……。
 確かに魔物は、カゲミツばかりを狙っている。

 存在感がありすぎるというのも、存外大変らしい。

「そういえば、どうやってモンパレと希少種を分離するんだ?」
「ふふん。それは見てからのお楽しみってことで」

 カゲミツが言葉を濁す。
 なにか、特殊な作戦なのだろうか。

 魔道具を使用するのか。
 あるいは開眼したスキルを使うのか。

 気になりはしたが、晴輝は無理に聞き出さない。
 そんな野暮なことをするより、その時を待ったほうが、何倍も楽しめる。

          *

 共に前を歩く晴輝とカゲミツ。
 その姿を眺めながら、ヴァンとヨシが顔を寄せ合った。

「アレ、すげぇな」
「うん。アレ、本当に中級になったばっかりなのかな」

 彼らが眺めているアレとは、‘空気’のことだ。

 中層に降り立ったとはいっても、『ちかほ』の8階には飼い主が現われる。

 飼い主は亜人で、非常に攻撃力が高い。
 間合いも広く、初級冒険家から中級冒険家まで、手を抜けない魔物だ。
 当然、中層に降りたばかりの空気もそうだ。

 そうであるはずなのだが……。
 空気は事も無げに、悠然とダンジョンを歩いて行く。

 それは隣で大剣をブンブン振り回すカゲミツがいるからではない。
 カゲミツが居て安心しきっているなら、彼はもっと油断している。

 油断していたら、カゲミツより早く魔物に気づき、初手を加えるなんてことは出来ない。

 彼の初手は、短剣の投擲だった。

 用いているのは‘一’のシルバーウルフの短剣。
 それを、飼い主が現われるとほぼ同時に投げつける。
 短剣はいずれも飼い主の眼球に深々と突き刺さる。

 その後、背中に背負った植物の魔物が2体のシルバーウルフを文字通り粉砕する。
 カゲミツは手負いの飼い主を絶命させるだけ。

 絶命した飼い主から短剣を引き抜き、再び歩き出す。
 その間も、空気は言葉を途切れさせることなくカゲミツと話を続けている。

「……恐ろしいな」
「うん。初めて見るタイプだよ、ほんとに」

 彼の実力の深い場所が見えてこない。
 彼がもし全力で戦ったらどうなるのかが、さっぱり判らない。

 ヨシとヴァンは共に、空気の実力を見抜き、モンパレでどこまで助力するかを考える役割を与えられていた。

 当然ながら、エアリアルは空気を使い捨てにするつもりはない。
 エアリアルが発注した依頼を受けて死亡したとあっては、『弱い冒険家を使い捨てにした』という汚名が地獄まで付いてくる。

 決して、カゲミツが育んできたエアリアルの名を汚すわけにはいかない。
 だからこそ念入りに、ヨシとヴァンは彼の力量を見定める。

 もし空気の実力が足りなければ、彼を鍛えることも視野に入っていた。
 だがいまのところ、鍛錬する必要性を感じない。

 それどころか彼の戦い方は、型に填まればヨシとヴァンでは手に負えないようにさえ感じられる。

 カゲミツが必至に目指した隠密。
 その完成形がいま、目の前にあるのではないか。

「……彼、ボクらと友好的で良かったね」
「全くだぜ……」

 ヨシとヴァンは共に、ひっそりと安堵の息を吐き出すのだった。

          *

 ヨシとヴァンが後ろを守るなか、晴輝は緊張感を高めたまま歩みを進めていた。

 始めに魔物が現われたとき。
 ヨシの弓とカゲミツの大剣で、あっさり魔物が瞬殺されてしまった。

 さらに彼らは、攻撃をしても一切呼吸のリズムを崩さなかった。

 晴輝なら、僅かに呼吸が乱れる。
 だが呼吸の乱れは、隙を生む。
 体力の低下にも繋がる。

 ……なるほど。
 こうやって彼らは強くなって行ったのか!

 晴輝は彼らの動きから、強さの秘密を理解する。

 理解し、真似をする。

 少しでもランカーに近づくため。
 ランカーに近づいて、存在感を手に入れるために模倣する。

 晴輝は探知範囲を広げる。
 探知に魔物が引っかかると、即座に短剣を投擲。

 呼吸に意識を集中し、しかし集中しすぎない。
 同じリズムで、カゲミツとの会話を続ける。

 これが、なかなか難しい。
 力むとどうしても呼吸が乱れるのだ。

 だめだ。
 諦めるな!

 分析し、解析し、
 仮定、実行。
 再試行!

 晴輝は徐々に、呼吸のリズムを乱さぬ方法を掴んでいく。

「短剣は投げて使ってるのか?」
「投げてるのは更新前のものだ。無くしても懐が痛まないからな」
「確かにな」

「ところでその仮面は、目んところに穴が開いてないがどうやって前を見てんだ?」
「仮面は魔道具なんだ。装着しても視界が塞がらない」
「それ魔道具だったのか! 効果は……聞いてもいいか?」
「存在感が増える」
「は?」
「だから、装着すると存在感が増えるんだ!」
「なまら使えねえ!」
「仮面さんに失礼な! 神アイテムじゃないか!!」

 無駄話をしながらも、晴輝は隈無くダンジョンを探知する。
 さらに魔物を切りつけるときのカゲミツの動き。
 これも、とても参考になった。

 じっくりと観察したいが、よく見えない。
 探知で感じる、空間の変化だけで、動きを想像する。

 8階のボスはカゲミツが速攻で斬殺。
 晴輝が出る幕はなかった。

 ゲートをアクティベートして、9階を進む。
 9階は飼い主のみの出現だった。

 それでも晴輝らの動きは止まらない。
 晴輝は飼い主を散々倒しているし、カゲミツらはもっと強い敵と戦っている。
 休憩さえせぬまま、晴輝らはボス部屋へとたどり着いた。

「一緒に戦うか? それともこの場で見てるか?」
「……うーん」

 ボスは飼い主が武器を持ったタイプの魔物だった。
 おそらく車庫のボスと同等の実力がある。

 時間をかければ晴輝も倒せるレベル。
 だが晴輝が参加しても、力量が段違いなカゲミツらの足手まといになりそうだ。

「ここで戦い方を学ばせてもらう」
「あいよ。ヨシ、ヴァン。さくっと倒すぞ」
「はい」
「了解」

 カゲミツの一声で、ヨシとヴァンが戦闘態勢に入る。

 その後ろで、晴輝は集中力を高めていく。

 これから行われるのは、北海道トップチームの戦闘だ。
 一瞬たりとも見逃せない。
 僅かなヒントも、逃せない。

 晴輝の集中力が極限まで高まる。
 1秒が永遠に引き延ばされていく。

 緊張感が最高に高まったそのとき、
 カゲミツが飛び出した。

「っらぁぁぁぁ!!」

 ――早い!

 晴輝の目でも捕らえられぬほどの速度。
 彼に置いていかれた空気が、晴輝の体を強く押した。

 攻撃から1秒。
 たった1秒で手長ゴブリンの胴体が離ればなれになった。

 ――ッよし!
 見えた!!

 晴輝は内心、ガッツポーズを取る。

 晴輝が見たのはギリギリ残像にならない実態。

 カゲミツが強い存在感を放ちながらボスに迫る。
 その横からヴァンが飛び出し先行。
 存在感に気を取られたボスが、カゲミツに武器を振るう。
 そこをヴァンが弾いた。

 ボスが体勢を整える前に矢が飛来。
 ボスの両目のど真ん中に突き刺さる。

 そして――カゲミツの大剣が、がら空きになったボスの胴体を切断した。

 この間、1秒。
 恐ろしいほどの制圧力。
 そして、チーム力だ。

「どうよ?」
「褒め言葉が思い浮かばない」

 きっと、どう褒めたところで言葉に嫉妬が混じってしまう。

 羨ましい。
 この強さが、晴輝は羨ましかった。

 同時に体が高揚感で熱を帯びる。
 頑張れば、ここまで行けるんだ……と。

 マサツグのときは、決して敵わないと思った。
 だがエアリアルの戦い方を見ると、もしかしたらたどり着けるのではないか? という予感を覚える。

 それはマサツグとエアリアルの差か。
 あるいは晴輝が強くなったから、遙かな高みへの道筋が見えるようになっただけかもしれない。

 いずれにせよ、カゲミツらの戦い方を見て、晴輝は興奮した。
 血が熱を持ち、体中を駆け巡る。

 これは他人の戦い方を、じっくり眺められる貴重な体験だったのだ。
 興奮しないはずがない。

 動きたい。
 いますぐ真似をしたい。
 だが晴輝はその衝動をぐっと堪える。
 ここで自由に動いては、ただの子供だ。

 晴輝はいま見て捕らえた映像・感覚を即座に脳に刻み込んだ。
 次の、自分だけの戦闘で生かすために。


 10階の見栄えは、車庫のダンジョンとほとんど同じだった。
 ただ平原に存在する大木の量が違う。
 1000本か2000本か。こちらのほうが木が多い。

 しかし空の雰囲気はまったく同じだった。
 ダンジョン壁の向こうに、車庫のダンジョンがある。
 そう感じてしまうほどに……。

 その平原の中央付近に、黒い塊を発見した。

「……あれがモンパレか?」
「ああ。前より増えてるな」

 カゲミツが憎らしげに顔を歪めた。

 総数は100や200なんてものじゃない。

 あれを倒せって?
 馬鹿馬鹿しい……。

 早速晴輝は臆病風に吹かれてしまう。

 誰だって、数百の魔物と戦えと言われたら嫌だと答えるだろう。

 だがやると答えた以上は、立ち向かうしかない。

 ――そう、頑張るのだ。
 ここで頑張れば、強い存在感が手に入るかもしれないんだから!!

「じゃ早速、雑魚と戦って調整するか」
「ああ」

 晴輝はまだ、ボス以外のベロベロと戦ったことがない。
 ベロベロの癖や戦い方などを学ぶ時間は、どうしても必要だった。

「おっと、前に出るなよ。あれに気づかれるとやべぇからな」
「……あ、ああ」

 前に出ようとした晴輝の胸にカゲミツの手が添えられる。
 晴輝の背筋に冷たい汗が流れ落ちる。

 一体カゲミツは、どれほどの腕力があるのだろう?
 胸を押さえているのは腕1本だけだというのに、まるでコンクリートの建物に遮られたみたいだった。

 しかし晴輝が緊張したのはそのせいではない。

 草原の中央で群を成す、モンパレの中央から強烈な存在感を感じ取ったからだ。

 これ以上先に進むと、そいつの索敵範囲に引っかかってしまう。
 薄い空気の幕のようなその境目が、確かに目と鼻の先に存在していた。

 晴輝が感じ取った存在は希少種のものだ。
 かなり離れているというのに、背筋が泡立つほどの脅威を感じる。

 もしカゲミツが止めなければ、晴輝は敵の索敵範囲に入り込み、まんまと襲撃されていた。

 危なかった。
 晴輝は額で冷たくなった汗を拭った。

「こんなところで、どうやって魔物をおびき寄せる?」

 魔物を索敵するあいだに、うっかり希少種を引っ張りかねないが。

「まあ見てろ」

 カゲミツが顎をしゃくると、ヨシが弓を構えた。
 矢を放つと、それは索敵範囲を綺麗に避けて地面に刺さる。

「お」

 索敵範囲の広げて、晴輝は気づく。
 矢が刺さった場所の近くに、魔物が存在することに。

 距離は200メートルほどか。

 矢が地面に刺さったことで、魔物がこちらの存在に気がついた。

「……あの矢は使い捨て?」
「なわけねーべさ」

 見れば、ヨシが手を回転させている。
 どうやら矢尻にテグスを付けていたようだ。

「矢は消耗品だが、消耗すべき場所ってのがあんだよ」
「なるほど」
「さ、こっからは空気の番だ。最低でもモンパレに突っ込んで生き残れるだけの力は蓄えてもらうぞ」
「なかなか、無茶を言うな」
「あたりめえだろ。これからお前はいいだけ魔物を狩るんだ。簡単にくたばったらオレが困る」

 確かにな。
 晴輝は苦笑しながら短剣を抜いた。

「レア。一度あれの注意を引いて。戦闘に入ったら、危ない攻撃だけ補助をお願い」

 はいはい。
 そう言うようにレアがクネクネと動く。

 晴輝の前には、いままさに剣を手にしたベロベロがこちらに向かってきている。
 しかしターゲットは後ろに控えるカゲミツに向いている。

 そのベロベロに、レアの挑発射撃がヒット。
 カゲミツを見ていたベロベロが、晴輝に狙いを定めた。

「……さあて」

 晴輝は意識を集中させる。
 呼吸を落ち着け、深く潜る。

 初めて見る敵。
 初めて戦う敵。
 その初めてに、晴輝は胸を躍らせる。

 さあ――、
 冒険をしよう!
いいだけ=「いっぱい」「ずいぶんと」などの意味を持つ北海道弁。
「いいだけ食った」→「もう無理食べられない!出る!」といった、比較的ネガティブな意味に用いられることが多い。

ただいまの時刻をもちまして「神様の名前当てクイズ」を締め切らせていただきます。
正解者なんと27名!
大変沢山のご応募、ありがとうございました!
+注意+
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