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冒険家になろう! ~スキルボードでダンジョン攻略~ 作者:萩鵜アキ

1章 スキルツリーを駆使しても、影の薄さは治らない

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魔物を倒して進んでいこう!

 何も考えずに成長加速にポイントを3つ振ってしまったのは失敗だった。
 PVが3つも回転したことに歓喜したあと、晴輝は冷静になって考える。

 スキルポイントもPVも3だ。
 何か因縁が……あるわけないか。

 ゲジゲジは非常においしい魔物だった。
 だが、成長加速がどれほど有効なのかがさっぱり判らない。

 せめて成長加速0、1、2と体感して判断すべきだったと後悔している。
 あるいは『ちかほ』で、狩ったことのある魔物を倒すべきだった。

 ポイントの増加条件も不明なまま。

 ゲジゲジを100匹ほど倒したあと、何度もレベルアップ酔いを感じたのだから増えているだろうと思ったが、結局ポイントは増えなかった。

 つまりレベルアップ以外の条件あるのだ。
 あるいは一生増えないかもしれない。

「増えないってことはないと思うんだけどなぁ……。増えないのかなぁ?」

 たまたま拾った謎の魔導具で、スキルにポイントを振り分けた。
 それだけなので晴輝にデメリットはない。
 メリットがないからといって落ち込むほどのことではない。

「とりあえず今日は1階を探索して、2階をちらっと覗くかな……」

 一日の討伐スケジュールを立てながら朝食を作る。

 一人暮らしに料理スキルは必須だ。
 当然、晴輝も料理が得意である。

 素材の切り方が不揃いな男料理ではあるが、中レベルの調理までならなんでも作れる。
 もちろん、食材があればだが。

 近くの農家から貰った小麦粉で作ったパンズと、同じくご近所さん(徒歩10分)の木寅さんから貰った、鶏の卵を用意する。

 晴輝は鼻歌交じりにそれらを使ってエッグベネディクトを制作し、日課になっているなろうのブログを徘徊しながら食を進める。

「ふぅん。今日もベーコンさんは初心者講習かあ。いいなあ、ベーコンさんに教わりたいなぁ。マサツグさんは……更新なし。遠征中かな?」

 ベーコンとマサツグはそれぞれ、なろうランキングで不動のランカーとして活躍している。

 実力も相当で、両名ともに企業からスポンサードを受けている。

 マサツグはいわゆるガチ勢に分類される。
 攻略組、不動のランカー、勇者など二つ名を有している。
 東京にある最難関のダンジョン――新宿駅の到達階層記録を伸ばすのは、大体この人だ。

 ベーコンは暇を見て初心者講習を行っている人気ランカーだ。
 どちらかといえばエンジョイ勢か。
 それでもランカーなのだから、さすがである。

 二つ名は筋肉、おっさん、裸。
 変態の二つ名がついたら役満だ。

 次々とブックマーク登録をしたブログの新記事に目を通す。
 そんな中、あるブログで晴輝のマウスが僅かに止まる。

 そこは【今日も五月雨】という名のブログ。
 管理者の名は時雨。
 唯一、トップ10入りしている女性ランカーだ。

 得物は刀で、軽鎧を装備している。
 長い黒髪を後ろで結わえ、遠くを見つめるプロフィール写真に目を引かれる。

 凜としていて、立っているだけで格好良い。

 彼女は幼い頃から居合いの道場に通っていたらしく、対人戦では誰にも負けたことがない。
 その鮮やかな技量からついた二つ名がセンキ。戦姫をもじって鮮姫だ。

 他にもお姉様とかお嬢とか呼ばれている。
 男性でけではなく女性からの人気も高い。

 晴輝はよく、彼女の佇まいに自分を重ねる。
 憧れている……というよりも、目標に近いか。

 冒険家としてなりたい姿が、彼女だった。
(その次がベーコンだが、存在が空気の晴輝には無理だろう)

 更新された記事には、今度遠征すると書かれている。
 きっとしばらく更新が途絶えるだろう。残念だ。

「やっぱりメイン武器は刀にしようかなぁ」

 手持ちの活動資金――資本金は10万円しかない。
 対魔物用の刀を買うには、最低でも100万円は用意しなければいけないだろう。

 そのような大金、現在の晴輝じゃ手に出来ない。

 はあ、と深いため息が漏れた。
 けれど今日はそんな自分の頬を叩いて立ち上がる。

 折角すぐそこにダンジョンが出来たんだ。
 おまけに謎の魔導具も手に入れた。
 ため息付いてる暇なんてないぞ!

 エッグベネディクトを食べ終えて、皿を洗い、晴輝はすぐに装備を身につけてダンジョンに向かった。

 もっと強くなって、存在感を手に入れるのだ!

          *

 昨日の初戦では多少苦戦したゲジゲジだったが、今日は難なくはね除けられる。

 はじめは一撃で貫けなかった甲殻も、ほぼ一発で貫ける。
 ゲジゲジは足音が聞こえるので、背後から不意を突かれることもない。

 逆に晴輝がゲジゲジの不意を突くことが出来るようになった。
 レベルが上がったのに存在が希薄になった……などとは、決して考えない。

 物事は、良い側面から覗けば常にハッピーで居られるのだ。

 まる1日ダンジョンに籠もり100匹を越えるゲジゲジを討伐。
 本来ならその日に2階に行く予定だったのだが、念には念を入れてレベリングに没頭することにした。

 そして翌日、先日よりもさらに調子が良くなった体に驚きながら、晴輝は手慣らしにゲジゲジを5体討伐した。

 ゲジゲジ相手ならば、もう完璧に遅れは取らないだろう。

 討伐が楽になったのは良いが、晴輝はうっすら罪悪感を覚えていた。
 まるで弱い者いじめをしているみたいだ、と。

 魔物を倒すことは、悪ではない。
 だが、相手が魔物とはいえ一方的に蹂躙するのも趣味ではない。

「力は問題ないな。2階に行くか」

 晴輝は2階への階段を探して歩き出す。
 1時間ほどマッピングをしながら進むと、晴輝は広間に到着した。

「あれはゲジゲジ、か?」

 晴輝の口からいぶかしむ声が漏れた。

 広間の中央に、ゲジゲジが数匹固まっていた。
 小さければ糸くずの塊に見えただろう。
 だが一匹50から100センチのゲジゲジが固まっていると、実に悍ましい物体にしか見えない。

 昆虫嫌いな人が見れば、きっと気絶するだろう。
 その姿を眺めながら、晴輝は眉根を寄せた。

「どうやって倒すか……」

 見た目の奇怪さなどなんのその。
 彼はいま、魔物をどうやって倒すか――冒険についてしか頭にない。

 晴輝はここまで1階すべてをマッピングした。
 残る未開拓通路はこの道のみ。

 どうやら、2階に行くためにはこの広間を通過しなければいけないらしい。

 ここが1階のボス部屋という扱いなのだろうか?

 殺傷力のない魔物がボスってどうなんだろう……。
 げんなりする心をなんとか持ち直し、晴輝はナイフをシュルリと抜いた。

 1匹か、ないしは2匹同時に戦った経験はある。
 だが今回は6匹。

 さてどうする?
 考えるとすぐに『なろう』ブログに書かれていた、1対多での基礎攻略(ベーシック)が頭に浮かんだ。

 広間にいる魔物の群れを殲滅する最も簡単な方法は、なにかを投げつけて魔物を通路におびき寄せることだ。
 そうすれば、一度に襲われる魔物の数を減らすことが出来る。

 晴輝はベーシックの通り地面から小石を拾い上げる。 
 群れているゲジゲジめがけて全力で投げつけた。

 小石が一体のゲジゲジの胴体にめり込む。
 パキっと甲殻が割れる音が響いた。

 瞬間。
 5匹のゲジゲジが一斉に動き出す。

 身構えた晴輝の予想通り……いや、予想を超えて、ゲジゲジ五体が一斉に晴輝に襲いかかった。

「うそぉ!?」

 想定外。
 ……いや、これは想定しなかった晴輝が悪い。

 そも、通路に魔物をおびき寄せる方法は、おびき寄せる通路が狭くなくては意味が無い。
 晴輝がいる通路は横が軽く5メートルはあるだろう。
 そんな場所におびき寄せても全く意味が無い。

 おまけにゲジゲジは壁や天井を這う生物なのだ。
 通常の魔物の倍以上は一度に攻められてしまう。

 地面だけでなく、文字通り壁や天井を這ってすべてのゲジゲジが晴輝に狙いを定めた。

 やばい。
 このままだと防具がやばい!

 慌てた晴輝が身を翻し全力で地面を踏んだ。

「にょわ!?」

 あまりの加速度に、晴輝の口から奇妙な声が漏れた。
 まるで逆バンジーの発射時みたいな加速だった。

 慌てて地面を逆に蹴り、軽く減速。
 首を回して後ろを振り返ると、こちらに向かってきているゲジゲジを大きく引き離していた。

「これは、レベルアップしたから?」

 前日の狩りの最後の方では、晴輝はほとんど全力を出さなかった。
 おおよそ五割程度の力でゲジゲジを退けられていたのは、間違いなくレベルアップしたおかげだろう。

 その状態しか知らなかった晴輝はいま、初めて自らの全力を体感した。
 だからこそ驚いた。

 ここまで力が出るようになっていたのか……と。

「……いけるか?」

 六体の魔物と同時に戦うのは始めての経験だ。
 だがいまの身体能力なら、遅れは取らない気がする。

 意を決して、晴輝は体を翻す。
 ナイフを前にかざして、ゲジゲジを見定める。

 背筋が震える。
 心拍数が上がる。
 アドレナリンが、体を熱くする。

 ――さあ、冒険の時間だ!

 僅かに先行した二体に狙いを付け、一気に前に出る。
 ナイフで触覚を切り、脳天を貫く。
 これで一体目。

 その間に反応したもう一体が、晴輝に小さな牙を向ける。

 だが晴輝は冷静に体を回転。
 ナイフを引き抜き加速。
 地面を蹴って間合いに踏み込む。

 裏拳の要領で突き出したナイフは、しかし狙いがはずれて空を切る。
 これは背後に目が付いていないので仕方が無い。

 だが諦めず、左拳で追撃。
 それは狙い違わずゲジゲジの頭部に直撃した。

 瞬間。

「わっ!!」

 ゲジゲジの頭部が割れた。
 甲殻に接触した左拳が甘く痺れる。

 ゲジゲジの甲殻は堅い。
 ナイフの先端でも刺さらないほど堅いはずだった。
 それが拳で砕けるなんて。

「成長加速があるからって、おかしいだろ……」

 逸れそうになる意識を戦闘に戻し、次の相手を選別する。
 今度は三体。

 ゲジゲジの長すぎる足は包囲網の縮小を妨げる。
 そのため、同じ方向から一度に攻められる上限は二体だ。

 地面、壁、天井と空間全体を使って攻められぬよう気をつけながら晴輝はゲジゲジを相手取った。


 ゲジゲジ五体の討伐は予想以上に余裕を持って行えた。
 初めてゲジゲジと戦った日は一匹仕留めるだけでも息が上がっていたのに、五匹を相手にしても息が上がらない。

 おまけに左拳でゲジゲジの甲殻を砕いた。

「自分の体じゃないみたいだな」

 晴輝は己の手を眺めながら眉根を寄せる。

 ゲジゲジが怖いとか言ってる奴は、自分の力についてはどう思ってのだろう?
 いつか、チャンスがあれば聞いてみよう。

 残る一体は広間の中心部から一歩も動いていなかった。
 おそらく小石を当てた時に気絶してしまったのだろう。動かぬうちにサクッと頭にナイフを突き刺しておいた。

「やっぱり、成長加速のおかげ……なんだよね?」

 晴輝はたった2日でこれほど成長を実感したことはない。

 晴輝は冒険家になって2ヶ月ほどの初心者だ。
『ちかほ』には冒険家の中で最も数の多い初心者が、常に魔物を奪い合っている。
 そのため五時間籠もっても15匹程度しか狩れたことがない。

 それが昨日までで200匹以上狩れた。
 200匹狩ればこれくらい成長を実感出来るのだろうか?

 いまとなっては、確かめる術はない。

 1日でゲジゲジを圧倒出来るレベルにまで成長した。
 だが今後、同じ速度で成長することはないだろう。

 ロールプレイングゲームと同じで、強くなればなるほど、成長は鈍化する。

 さらに現状の晴輝では、肉体性能が上がってもいずれ強さは頭打ちになるだろう。
 どこかのタイミングで、誰かに正しい剣術の稽古を付けて貰わなければいけない。

 やりたいことは沢山ある。
 だが、いずれにしろ先立つものは必要だ。

 手元のナイフを見ると、昨日の乱獲のせいもあってか、ナイフがかなり刃こぼれしてしまっている。
 革の鎧もノーダメージとはいかず、カリカリやられて傷だらけだ。

 まずは武具を新調しよう。

 一体いくら消えるやら……。
 はあ、と晴輝の口から大きなため息が漏れた。

「よしっ!」

 気を持ち直し、晴輝はゲジゲジの処理を行う。

 広間の奥の通路に、下に向かう階段が見える。
 やはりこの場所がボス部屋扱いだったのだろう。
 ボスは居なかったけれど……。

「ボスが居たら確認したいこともあったんだけどなあ」

 それは今後、じっくり確認していくことにする。

 素材はひとまず広間に置いといて、2階の状況を確認する。

「……と、その前に」

 階段を降りる前にスキルボードを出現させて、ポイントを確認する。

 スキルポイント:0

「ボス部屋の魔物を倒してもポイントはもらえなかったか」

 相手が雑魚だからポイントがもらえなかったか。
 あるいは、ボスを倒してももらえないのか。

 いずれにせよ、1階をクリアしてもポイントは手に入らなかった。

「まあいつかは手に入るだろ」

 きっと。
 たぶん。

 そんなふうに、小さな希望もかき集めれば、
 冒険はどこまでも楽しくなる。
 命を賭けてもいいほどに。

 だけどいつ失っても良いように、
 希望は軽く握る程度にして。

 確認を終えて、晴輝は鼻歌交じりに地下2階へと向かった。


 2階も1階と同様の地形が広がっている。

 広さは1階下がるごとに1,1倍ほど拡張する。
 なんてことないように思えるが、50階まで潜れば広さは1階の100倍を越える。
 小さな変化も馬鹿に出来ないのだ。

 地形があからさまに変化するのは10階からで、そこからが一般的に中層と呼ばれている。

 中層で活動するようになれば、晴れて初級冒険家を抜け出せるのだが、中層に降りられる冒険家はいまのところ全体の一割に留まっている。

 冒険家業の黎明期ということもあり、中層から先の階層の情報はほとんど出回っていない。
『なろう』のブログでも、中層以降の攻略法はなかなか出てこない。

 それは中層以降の素材が高額だから。

 冒険家の扱いはフリーランス。
 従業員一人の実業家みたいなものだ。

 稼げる方法を、わざわざライバルに教えたがる奴などいないだろう。

 きっと中層素材で稼げなくなったら、一気に攻略法が広まるはずだ。
 そうなれば、中級冒険家の割合も増えるだろう。

 それまで情報は強者が寡占。
 命を賭けて開拓したのだから、それくらいの見返りくらい赦してあげるべきだ。

 それはともかく2階だ。

 一体どんな魔物が出てくるやら。
 またゲジゲジで無ければ良いのだが。

 通路をゆっくり歩いていると、地面から生えた細長い緑色が晴輝の目にとまった。
 その地面は軽く盛り上がっていて、先端から白いものが窺える。

「何だコレは?」

 声に反応したのか。草のような緑色が横に揺れる。

 瞬間。
 地面からバスケットボールサイズの丸い物体が飛び出した。

 丸い体の底部から伸びた根が、小刻みに動く。
 体にはうっすら縦線が走っている。

 目は、見当たらない。
 ゲジゲジと同じように音や振動に反応するタイプの魔物なのかもしれない。

 この姿は、もちろん晴輝も見たことがある。

「た……タマネギだ!!」
+注意+
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