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冒険家になろう! ~スキルボードでダンジョン攻略~ 作者:萩鵜アキ

2章 冒険家レベルが上がっても、影の薄さは治らない

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中層の門番に勝利しよう!

 9階の捜索はあらかた完了した。
 残る部屋は1つ。

 その部屋が見える最も遠い位置に、晴輝と火蓮が佇む。

 アリクイが出没する階層なので、晴輝は大アリクイのボスを想像していた。
 しかし、少し想像が外れた。

 ボス部屋に居たのはアリクイ頭の人型モンスター。
 ベロベロという名の亜人だった。

 身長は2メートル。
 アリクイよりもスマートな体に、常時二足歩行。
 手には槍を持っている。

 晴輝が戦ってきた魔物の中に、武器を装備したものは居ない。
 かつてのどの魔物とも違う。

 さすがは中層への門番といったところか。

「……強そうだな」

 晴輝の背筋が震える。

 おそらく、相手に気づかれない位置に居るはずだ。
 しかしボスには、一切の隙が見当たらない。

 既にこちらの存在に気づいているのか。
 はたまた隙を生まないほど強敵なのか。

「どうか、後者であってほしいな」

 にやりと晴輝の唇が歪んだ。
 強敵への高揚感に、背筋を震わせながら……。

 その横でボスを眺めながら、火蓮が怯える。

 9階のボスは、中層手前ということもあってかかなり強そうだ。
 これだけ離れているというのに、ボスの強さを肌で感じる。

「……怖い」

 火蓮はボスが怖いと思った。

 この感情は、モンパレに放置されたときと同じかもしれない。
 きっとそれくらい、火蓮とボスの実力には差があるのだ。

 それでも前に進まなくてはいけない。
 冒険しなくては、いけない。

 相手の力に怯えたままでは、火蓮はいつまでも弱い火蓮を抜け出せない。

          *

「……いくか」
「はいっ」

 武具をチェックし終えた晴輝が、集中力を高めていく。

 今回は、部屋の外からの一斉射撃はしない。

 きっとそれじゃ、倒せない。
 放った弾がことごとく弾かれる様しか、晴輝は思い浮かばなかった。

 隙を作らなければ、遠距離攻撃は当たらない。
 なのでまずは、深く切り込む。

 集中力の、深い泉へ。
 落ちる、潜る。

「――ッ!」

 晴輝は全力で飛び出した。
 即座にボスが晴輝に気づく。

「……」

 槍を構えたボスが、
 にやりと笑った。

 ゾクッ、と晴輝の背筋が震える。

 20、10、5。
 間合いが消え、両者の武器が交わる。

 ――ィィィィイイイン!!

 腕力は互角。
 だが 身長と体重に差がありすぎる。
 それに得物の違いもある。

 故に、晴輝は押された。
 しかし慌てない。
 体を僅かに浮かせ、晴輝は相手の攻撃の威力をそぎ落とした。

 晴輝が次の攻撃姿勢に入るより早く、ボスが槍を動かした。
 振りかぶった槍が、鋭く晴輝に振り下ろされる。

 それを短剣で流し、魔剣で喉元を狙う。
 即座にボスが手を返す。

 手元を回転させ石突き。

 早い!

 踏み出した足でブレーキ。
 靴底が甲高く鳴く。
 体が軋む。

 晴輝の眼前を、石突きが通過する。
 その風音に、冷たい汗が噴き出す。

 いまの石突きを食らっていれば、晴輝は確実に昏倒していただろう。
 それほどの威力を、音から感じ取る。

 反撃が来る前にステップ。
 晴輝は相手の間合いから抜け出した。

 一瞬の交わりで感じる相手の力量。
 考えなしに戦っては、負ける。
 ゴリ押しが通用する相手ではない。

 だから集中しろ!
 集中し、集約し、観察し、想像し、想定し、試行する。

 相手のすべてを見極め、すべての攻撃を防ぐ。
 そうして相手の暴力を――上回れ!!

 晴輝は果敢にボスを攻める。

 ボスは晴輝のどんな攻撃も、槍を柔らかく使い防いでいく。
 無理に深く踏み込めば、鋭い反撃に退避を迫られる。
 かといって手をこまねいても同じだ。
 僅かな隙につけ込まれてしまう。

 いいね。
 実にいい!

 晴輝は笑う。

 久しぶりの強敵。
 久しぶりの全力。

 己の能力を限界まで振り絞る。
 それでもボスまでは、足りない。

 足りない部分を、レアが補う。
 射出されたジャガイモ石が、防ぎきれない攻撃を弾いていく。

 そのとき、
 レアが肩を強く叩く。

 晴輝は慌てて跳躍。
 その場から退避。

 晴輝の横を、白が色濃く渦巻く塊が通過。
 ボスの槍にぶつかった。

 ッパァァァン!!

 おそらくいままで入念にチャージしていたのだろう。
 飼い主でさえ蹴散らす威力の魔法。
 だがそれを、ボスは足を滑らせながら耐えきった。

 ギロリ。
 晴輝に向いていたヘイトが、火蓮に向かった。
 ボスが晴輝を無視して火蓮に接近する。

 まずいっ!

 火蓮ではボスの攻撃を防ぎきれない。
 慌てた晴輝は即座に移動。
 全力で火蓮に駆け寄る。

 だがボスが動くのも、ほぼ同時だった。

「レア!」

 晴輝の意図を汲んだレアが、ボスに射撃。

 脅威でないと踏んだのか。
 ボスはジャガイモ石を避けない。
 当たるに任せている。

 もうすぐ火蓮がボスの間合いに入る。
 その前に、

「ひゃっ!」

 晴輝は火蓮を抱えて部屋を脱出した。

 そのまま部屋から100メートル以上を走る。
 探知でボスが追って来てないのを確認して、スピードを緩める。

 背後を振り返り、ボスから逃げ切ったのを確認して晴輝は、大きく息を吐き出した。
 へたり込むように腰を下ろし、肩で呼吸を繰り返す。

「……危なかったあ」

 今のボスの動きは、かなり危険だった。

 これまでの戦闘で、晴輝は1度も魔物に横を抜かれることがなかった。
 あるいは抜かれても、火蓮の元にたどり着く前にレアと火蓮の攻撃で消し飛ばしてきた。

 だがベロベロは違った。

 晴輝と同等の速度で火蓮に迫った。
 レアの射撃もものともしなかった。

 いくら防御力の高い装備を身に付けていても、後衛の火蓮ではダメージを防ぎきれない。
 あのまま晴輝が救わねば、火蓮は今頃大けがを負っていた。

「今までの必勝パターンが通用しないとなると、厳しいな」

 戦略を変えなければ勝てる相手ではない。

 ヘイト管理はした方が良い。
 火蓮の強力な魔法だと、1撃でタゲを奪ってしまう。

 少々威力を絞り、手数を上げた方が良いか……。

「いや、もう少しレベリングした方が良いかもしれないな」

 今回のボスは、力量差がほとんどなかった。
 晴輝と同等か、それ以上だろう。

 であればレベリングをして、ボスを圧倒出来る力を身につけた方が良い。
 強い相手との戦いは面白いが、それで命を失ってはおしまいだ。

「…………ん? どうした?」

 考える晴輝の横で、火蓮が痛みを堪えるように唇を噛みしめていた。
 瞳にはうっすら涙が溜まっているように見える。

「怪我をしたか?」
「いえ……」

 火蓮がなにかをためらうように、深呼吸を繰り返す。

 だがみるみる顔が赤らみ、そして――、

「空星さんは、どうして私を助けたんですか?」
「私は頼りないでしょうか? いまの攻撃を、私が対処出来ないと思われたんですか?」
「い、いや……最悪を考えて行動するのは当たり前だろ?」
「私たちは、チーム、なんですよね?」
「俺は、仲間だと思ってる」
「じゃあどうして、“最高の状況”で私を助けたんですか!」

 ――決壊した。
 堪えきれず、火蓮は涙をボロボロと零した。

 火蓮は晴輝とチームを組んでいる。
 組んでいると、思っている。

 だがはたしてチームとは、こんなに他人行儀なものだろうか?
 連携さえ取れれば、チームなのだろうか?

 晴輝はいつだって、火蓮に優しい。
『ちかほ』で袖すり合っただけの赤の他人相手なのに、火蓮のレベリングを常に手伝ってくれた。

 当然ながら、火蓮は晴輝と恋仲ではない。
 家族はないし、親友でもきっとない。

 だが、仲間ではあると、思いたかった。

 彼の家にあるダンジョンに押しかけ、勝手にレベリングに付きまとい、彼の貴重な時間を割いている。

 さらに『ちかほ』ではスキルボードで得た力に溺れ、脇が甘くなり失敗した。

 数えてみれば成功なんてない。
 冒険家になってからは失敗続きだ。

 そんな奴が更に願うのは、図々しいと承知している。
 だが、火蓮は願わずにはいられなかった。

 このまま『最高の状況』を無視して晴輝が火蓮を救うなら、
 火蓮は、永遠に晴輝の足手まといにしかなり得ないのだから。

「私はいつも失敗ばかりしてます。また、失敗するかもしれません。信用がないのも自覚してます。ですが、空星さん。私も冒険がしたい。空星さんと一緒の、冒険がしたい。どうか、お願いです」

 火蓮は深々と頭を下げる。

「私を信じてください!」

 胸に溜まった感情の熱を吐き出すと、途端に震えが火蓮を襲う。

 もし彼に拒絶されたら……。
 ここで全てが終わってしまう。

 その終わりが顔を覗かせた。

「…………どうすればいい」

 だが、晴輝は頷いた。
 火蓮の意見に、耳を傾けてくれた。

 見えた終わりが、姿を消した。
 途端に体に、熱が舞い戻る。

 火蓮は袖口で乱暴に涙を拭う。

「自由に戦ってください」
「え……?」
「私のことは一切気にしないで。私がいないものと思って戦って下さい」
「でもそれじゃ火蓮が――」
「なんとかします」

 火蓮は毅然と言い放った。

 これからは晴輝が生み出した安全な道を歩くのではない。
 変化する戦闘に合せ、自らが道を拓くのだ。
 仲間と――空星晴輝と共に。

 だから、信用してくれ。

 その声に、晴輝はしばし瞑目した。

 晴輝の意識にあったのは、『最高の状況』という火蓮の言葉。
 あのタイミングは、晴輝にとって最悪だった。

 それを何故彼女は、最高だと口にしたのか?

 10秒。20秒。

 頭の中を巡るのは、先ほどの戦闘。
 飽和する殺意と暴力の嵐。

 その中に、キラリと道筋が見えた。
 いままで見えていなかった。
 ……いや、見えていたが無視をしていた、
 最善の道筋が。

「わかった。火蓮に任せる」
「――ッはい!」

 火蓮の笑顔が弾ける。
 それでもどこか、ぎこちない。
 少し緊張しているようだ。

 晴輝は一番最初にこのダンジョンに来たときの火蓮を知っている。
 弱かった頃の火蓮を散々目にしている。

 無理をすれば壊れるのではないか。
 失敗して、痛い目を見るのではないか。
 そんな不安が頭をかすめる。

 晴輝は、出来るなら彼女は傷付いて欲しくないと思っている。
 だからこそ『最善の状況』を無視して火蓮を救った。

 だが火蓮は言った。
 自分も冒険がしたいと。

 安全を第一に考えるばかりに、晴輝は過保護になりすぎた。
 火蓮から冒険のチャンスを奪っていた。

 そしてそのせいで、自らの攻撃手段を大きく制約していたことに気がついた。
 その反省と気づきが、晴輝に彼女の意見の採用を促した。

 装備を1度チェックし、体勢を整える。
 火蓮も念入りに装備を確認している。

 確認を終えて、どちらともなく頷いた。

「さあ、再戦だ!」

 口にすると同時に、晴輝は全力で駆け抜ける。

 火蓮のことは、もう考えない。
 考えるのは魔物――ボスを倒すことのみ。

 ボス部屋に入ると同時に、今度はボスからも打って出てきた。
 振り上げた武器が早々に払われる。

 一旦回避。
 回り込んで、バックアタック。

 だが遅い。
 簡単にボスに払われた。

 集中しろ。
 もっと、もっと集中するんだ!

 攻撃を、変化を、兆しを、見逃すな!!

 晴輝はさらに深く潜る。
 集中力の限界に向かう。

 2本の短剣を操り、ボスの槍を防ぐ。
 時々ボスが、口から舌を飛ばして晴輝を牽制する。

 おかげで防戦一方だ。

 腕力は向こうが上。
 だが速度は晴輝が僅かに勝っている。

 対処は出来ている。
 だが、打ってでられない。

 晴輝が防戦一方になるのは、なにかが足りないから。

 なにが足りない?
 なんだ?
 考えろ!

 刃を交えながら、目の前に現われた難問に、晴輝は唇を歪め笑う。

 そのとき、

 ――ッタァァァン!!

 ボスの頭が僅かに傾いだ。
 火蓮の魔法だ。

 途端にボスが火蓮に憎悪を向ける。

 咄嗟に晴輝はまた、火蓮に意識を向けそうになった。
 だが強い意志をもって、脊椎反射をねじ曲げる。

 ――ここだ。
 ここなんだ!!

 判断した刹那。
 晴輝は隠密をオン。
 空気に溶け込んだ。

 対峙していた相手の存在感が消失した。
 それに気づいたボスの動きに、僅かに躊躇が生まれた。

 だが遅い!
 晴輝は笑う。

 火蓮に向かったボスの背中に、晴輝はシルバーウルフの短剣を投擲した。
 狙い違わず、短剣がボスの肩口に深々と突き刺さった。

「ギャゴォォォォ!!」

 ボスの鼻と口で、空気が強く振動する。

 そのあいだも、晴輝はボスの死角に回り込む。
 死角に入ると隠密をオフ。

「――!?」

 晴輝を察知したボスが後ろを振り返る。
 その隙を、火蓮は逃さなかった。

 ――ッタァァァァン!!

 再びボスの頭部に魔法が直撃。
 ボスの瞳が、みるみる血走っていく。

 体を火蓮に向けると同時に、晴輝が背中を切りつけた。

「おいおい、俺のことも忘れるなよ」

 即座に隠密。
 振り返りながらの石突きを、辛うじて躱す。

 常にアドリブ。
 歩く道は、想定外。

 一歩でも踏み外せば……。
 考えると、震えが止まらない。

 しかし晴輝は笑う。

 いいね。
 実にいい!!

 この先に、確実な勝利が待っている。
 その道筋が、細く険しい道ながら、
 いまはっきりと出現した。

 再び晴輝がタゲを取る。
 危うい攻撃を、レアが防ぐ。

 時々火蓮の強烈な一撃。
 ターゲットが変化。
 晴輝が隠密。

 さすがにボスも、気配が消えた晴輝を無視出来なくなった。
 火蓮と晴輝のあいだで、ターゲットの天秤が大きく揺れ動く。

 この上ない、大きな隙。

「こっちだぞ」

 晴輝が姿を現した。
 途端にボスが反応。

 刹那。
 火蓮の魔法が飛来。

 ――ッタァァァァン!!」

 背中に刺さった短剣に魔法が激突。
 肩口の短剣を押し込み、切断。

 ボスの腕が、地面に落ちた。

「グアァァァァァァ!!」

 前屈みになったボスが、叫びながら肩を押さえた。

 憎悪に塗れた瞳を火蓮に向ける。
 残った手で槍を握り、腕に力を込めた。

 ボスが火蓮めがけて槍を投擲する。
 その前に、

「だから俺の存在を忘れるなよ……」

 晴輝がボスの延髄に魔剣を突き刺した。

 ブプ、と魔剣が深々と埋まる。

 1秒。
 ボスが大きく痙攣し、地面に倒れ込んだ。

 魔剣を引き抜き退避。

 10秒、20秒。
 僅かに痙攣していたボスの体が停止する。

 瞬間、
 ダンジョンが明滅。
 同時に、ぼぅと全身が熱くなる。

 かなり激しいレベルアップ酔いだ。
 だが、

「か、空星さん!」

 ふらふらとした足取りながらも、手を上げながら火蓮が近寄る。

 その手に、晴輝は勢いよく右手を重ねて叫んだ。

「……っしゃぁぁぁ!」

 晴輝と火蓮はこの日、互いの力で共に、中級冒険家へと至った。
仮面さんの能力について質問があったのでこの場でまとめて掲載。
1,装着感ゼロ。
 視界も遮断されず呼吸も苦しくありません。ゴムがなくても顔に張り付き、楽々着脱可。
2,存在感アップ。
 みんな仮面にクギヅケ。(やったね!

2章はまだまだ続きます。
そうして次回、活動報告に掲載した布がやっと登場。
お楽しみに。
+注意+
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