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冒険家になろう! ~スキルボードでダンジョン攻略~ 作者:萩鵜アキ

2章 冒険家レベルが上がっても、影の薄さは治らない

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甘い魔物を収穫しよう!

 7階に向かって、ゲートをアクティベート。

 7階にはシルバーウルフと飼い主がいる。
 晴輝のその予想は、しかし外れた。

「コケッ!」
「…………ニワトリか」
「ニワトリですね」

 魔物は、どう見てもニワトリだった。

「たしか、キックコッコだったか」
「可愛らしい名前ですね」
「名前だけはな」

 キックコッコはその名の通り、蹴り攻撃が主体の魔物だ。
 キルラビットと同系列だが、強さは段違い。

 空を飛べない羽を使い、ぐんぐん加速。
 かと思えば羽を広げて急停止。

 ふわり体が浮かび上がり、蹴りの連撃。

 晴輝はその連撃を2本の短剣で防ぐ。

「重いっ」

 攻撃はかなり重い。
 小さな体のどこに、ここまでのエネルギィがあるのかと疑うほどだ。

 だが、危険な相手ではない。
 コンマ1秒の攻防で、それが判った。

 実力は『ちかほ』8階層にいるシルバーウルフよりも下だ。

 晴輝が地面を踏み、一瞬で間合いを詰める。

「クケッ?!」

 コッコは晴輝の動きに、付いてこられない。

 相手が戸惑っているあいだに短剣を一閃。
 コッコの首の根を、晴輝はあっさり断ち切った。

「よしよし」

 晴輝は早速コッコの解体を始める。

 色々肉は食べているが、鶏肉は久しぶりだ。

 水炊き、唐揚げ、炭火焼き……。
 おっとナスも忘れてないぞ?

「ふふふ……」

 今晩はなににしよう?
 夕食に思いを馳せながら、丁寧に身を捌く。

「うっぷ……」

 後ろで火蓮が口を押さえる。
『ちかほ』で大量に狩りをしたのに、彼女は未だにグロ耐性が付いてない。

「……ん?」

 鶏肉を解体している途中、晴輝は眉根を寄せた。

 カツカツ、カラカラ。
 乾いた音が聞こえる。

 その音が聞こえる方に目を向ける。

 するとダンジョンのおくから、2羽のキックコッコが現われた。

 赤いトサカを立てて、こちらを威嚇している。

「火蓮、レア!」

 晴輝が叫ぶと同時に、火蓮とレアが遠距離攻撃を開始。

 ジャガイモ石と、白い魔法の塊が飛翔。
 2羽のコッコが一瞬でバラバラになった。

 あー。食べ物が、もったいない……。

 粗末にしてごめんなさい。
 晴輝は元コッコの塊に手を合せた。

 コッコから取得出来るものは、まず肉。
 それとトサカだ。

 肉はキロ単価最低100円から。

 最低価格が付けられるのは、血抜き処理が甘かったり衛生状態が悪いなど、肉そのものに不備がある場合だ。
 処理に手を抜かなければ、キロ300~500円で買い取ってもらえる。

 また個体によって、価格に差が生まれる。
 中にはキロ単価1000円を超える個体もいる。
 脂の乗り方が違うとかなんとか。

 トサカは乾燥させると薬になる。
 かなり小さいのに1つ1000円。
 キルラビットの角と同額だ。

 はじめのコッコを解体したあと、晴輝は火蓮とレアが葬ったコッコを、丁重に通路の端に移動し手を合せた。
 ――食べられなくてごめんなさい。

 晴輝らは鶏肉とトサカを収集しながら、ぐんぐん進んで行く。

 7階のボスはビッグコッコ。
 威勢良く翼を広げて威嚇し、晴輝らを待ち構えている。
 自らを勇ましく見せる、雄々しいポーズだ。

 そのボスに、火蓮とレアが無情にも攻撃を開始。
 哀れボスは荒々しいポーズのまま、遠距離攻撃の餌食となってしまった。

 可哀想に……。
 晴輝は内心、ボスに同情した。
 相手があまりに悪すぎた。

 多少の哀愁を滲ませながら、ビッグコッコがダンジョンに吸収される。

 初回討伐でダンジョンが明滅。
 排出された素材を確保する。

「大きなトサカと、羽根の……なんだこりゃ?」

 コッコの羽根が円形に繋がっている。
 持ち上げてしげしげと眺めるが、晴輝にはそれがなんだか判別が付かない。

 ハズレかな?

「火蓮。これをマジックバッグに入れといてくれ」
「はい。ええとトサカと……きゃっ!?」

 羽の輪を渡すと、火蓮が悲鳴を上げて手を引いた。
 羽輪はふわりと宙を漂い落ちていく。

「ん、どうした?」
「空星さん。それすごく重いです!」
「重い?」

 晴輝は眉根を寄せ羽輪を手にする。
 しかし、晴輝にはなんの重みも感じられない。

「装備品?」
「かもしれませんね。まさか魔道具、なんてことは?」
「……あり得るな」

 武具だけでなく、装飾品の魔道具も存在する。
 武具と同じで装飾品の魔道具の性能はピンキリだ。

 強いものだとベーコンが所持しているリングが有名で、筋肉を1回り以上増大させる。
(彼が脱ぎたがりなのは、リングで増幅されより逞しくなった大胸筋やら上腕二頭筋を見せびらかしたいからではないか、と噂されている)

 弱いものだと『ほんの僅かに腕力が上がる?』や、『ちょっと経験値が多く手に入ってる気がする!』など、札幌の道具屋のポップのように、体感するのも怪しい性能となる。

 上層で手に入ったものだと、後者の魔道具である可能性が高い。
 念のため、じっくり羽輪を観察してから、晴輝はゆっくり首にかけた。

「んー…………? 変ってる、のか?」

 体を動かして確認する。

 なにかが変っている気が、しないでもない。
 だがプラシーボという可能性がある。

 これも後ほど朱音に見て貰おう。

「さて先に進もう……ん?」

 視線を上げて、晴輝は気づく。
 ほんの少し、火蓮の視線が生暖かくなったことに……。

「どうした?」
「いえ。……空星さんは、“凄い”ですね」

 火蓮は、引きつりそうになる顔を必死に堪えていた。

 未開の地にいるシャーマンが装着する呪われそうな仮面をかぶり、背中にはジャガイモの魔物のレア。

 そこに現われた謎の羽根飾り。

 魔道具らしきアイテムは、空星晴輝の既存装備――特に仮面との相性が気持ち悪いくらいマッチしている。

 羽根飾りたった一つで、彼の存在感が恐ろしく異質化した。

 彼はよく目立ちたいと口にしているが、そろそろ十分ではなかろうか?
 更に目立ちたいなら、もう電飾を付けるしかない。

「そんなことはない」

 しかし、晴輝は火蓮の言葉を否定した。

 自分は“凄く”なんてない。
 実力は下の中くらいだ、と晴輝は自らを評価する。

 前と比べれば、ずいぶん良くはなった。
 それでも、上には上がいる。

 中級冒険家になると、一気に力の次元が変ると言われている。
 きっといまの晴輝の実力では、多くの中級冒険家から鼻で笑われる。

 上級冒険家とは話しにならない。

 だから、まだまだだと口にする。

 謙遜ではない。
 事実だ。

 だが晴輝は、この立場に甘んじているつもりは一切無かった。

「もっと“強くならないと”な……」
「“それ以上”を目指すんですか!?」
「ん?」
「え?」

 晴輝と火蓮の間に微妙な空気が流れる。
 なにかがかみ合ってない。

 ……気のせいだろうか?

「“強くならないと”マズイだろ」
「え、ええ、そうですね。空星さんは……その、“弱い”ですからね」
「おう……」

 晴輝は火蓮の言葉に引っかかりを覚える。
 だが、なぜだか深く考えてはいけない気がした。

 おそらくは気のせいだ。
 気のせいだということにして、晴輝は先を目指した。

          *

 8階のゲートをアクティベートする。

 6階から7階まで、マッピングしながらの探索は時間がかかる。
 時計を見ると、もう4時だ。

「この階の魔物を確認したら地上に戻ろう」
「わかりました」

 ここは『ちかほ』での、晴輝らの最高到達階層と同じ8階。
 いままでより、慎重に歩みを進める。

 短剣を構えながらしばらく行くと、通路の奥に魔物が現われた。

 うねったツタに、どっしりした体。
 大きく広げた手には、所々編み目の付いた玉が付いている。

「あれは――ッ!」

 気づくと同時に、晴輝は前方に跳躍。

 魔物との間合いを縮める。
 だが魔物も反応。

 ジャガイモと同じように、ツタから弾丸を晴輝に発射する。

 ――タタタタタンッ!!

「っく!」

 ギリギリで躱す。
 ほとんど全力の回避。

 だが回避し、理解する。

 体が軽い?

 羽の装飾品のおかげか。
 これまでの全力値より、若干天井が上がっている。

 もう少し速度を緩めても回避出来そうだ。

 晴輝は冷静に、魔物の攻撃を見極め、避ける。

 相手はジャガイモとは違い、発射モーションがない。
 気づくと弾が飛んでくる。
 それでも対処を間違えなければ、問題なく倒せるだろう。
 そう、晴輝は確信する。

「行きます!」
「――ッ!」

 火蓮のかけ声で、晴輝は一際大きく横に飛ぶ。

 瞬間。
 風が潰れ、砕ける。

 ――ッタァァン!

 軽い破裂音と共に魔法が飛来。
 魔物の胴を貫いた。

 魔法の衝撃で、魔物が僅かに体勢を崩した。
 その隙を見逃さない。

 晴輝は一瞬で距離を詰め、2本の短剣で胴を切り裂いた。

「――ッ!!」

 音なき魔物の悲鳴が轟く。

 しばし痙攣を起こした魔物が、ゆっくりと地面に倒れ、絶命した。

「ハァ……ハァ……」

 晴輝は気を抜くことなく、倒れた魔物に近づく。
 その体から編み目の付いた玉を刈り取り、丁寧に切断して口に運んだ。

「空星さん!?」
「――ん!」

 口に含んだ晴輝は、その赤い肉の壮絶な甘みに打ち震えた。

「……このメロン、なまら甘い!!」

 現われた魔物はなんと、赤肉メロンだった。

「あの、空星さん……」
「なんだ?」
「なんでもかんでも、口にするのは危険では?」
「口にしないと味がわからないだろ?」
「毒があったらどうするんですか」
「吐き出せばセーフだ」
「…………」

 ああ、この人は地球じゃない星で生きてるんだなあ。
 そう言わんばかりの冷めた目が晴輝に突き刺さった。

「火蓮も食べてみろ」
「あ、はい」

 晴輝がカットしたメロンを差し出すと、火蓮が恐る恐る口を付けた。

 瞬間、
 パァッ! と火蓮の目が開かれた。
 その瞳が、感動の涙で湿っていく。

「……甘い」
「だろ?」
「お砂糖を食べてるみたいです!」

 火蓮は鼻息荒く晴輝に近づき、カットしたメロンのピースを、また一つと奪っていく。
 メロン1玉から果肉が無くなるのは一瞬だった。

「……火蓮」
「……はい」

 晴輝と火蓮は、互いに頷きあう。
 その目に農家の炎を宿して……。

 こうして二人の狩り時間延長が決定した。



 8階の魔物は、赤肉と青肉の2種類を体に付けていた。
 赤は芳醇な香りと濃厚な甘みを持ち、青は上品な香りに爽やかな甘みを持っていた。

「……おなかが苦しいです」
「……だな。かなり食わさった」

 二人の収穫への熱情は、満腹中枢に反比例した。
 無限の胃袋を持っていれば、あるいは朝まで狩り続けたかもしれない。

 満腹中枢が農家の炎を消火した後。
 晴輝らがダンジョンから出ると、すっかり辺りは暗くなっていた。

「赤も青もかなり採取出来たな。今日の分配だが……」

 分配、と口にした途端に火蓮の目がキラキラと輝いた。
 彼女は赤肉の方をよく好んで食べていた。

 うん、赤肉メロンが欲しいんだな。判ってる。

「赤肉は折半。青と……あと他の生食材も俺にくれるか?」
「ええ。もちろんです」

 どうやら火蓮は青肉メロンとナス、鶏肉にはさっぱり興味がないようだ。

 どちらもおいしいのに……。
 いや、晴輝に渡せばおいしく調理してくれると期待しているのかもしれない。

 火蓮のマジックバッグから赤肉メロンを取り出し、二等分する。
 残る生食材を、晴輝はもらい受けた。

「これでジャムを作ろうと思うんだが、食べるか?」
「ジャム……はい!!」

 火蓮の声が休耕地に響き渡る。
 彼女が今回収穫したメロンを、如何に気に入ったかが窺える。

 しかしジャガイモ・ナス・鶏肉のときには一切反応しなかったというのに……。

 メロンの時は鬼気迫るオーラを放ちながら狩りをしていた。
 晴輝よりも火蓮の方が素早く索敵し、より多く狩ったかもしれない。

 やはり欲目は人を狂わせるな。

 今後、ああならないように気をつけようと晴輝は心に留め置いた。
 既に手遅れかもしれないが……。

 現在時刻は朱音の店の閉店時間を過ぎている。
 素材は明日、朱音に押しつけることにしてその日は解散した。

 晴輝は家に戻り、ネットを眺めながらメロンをカットする。

 赤肉メロンは半分にしてくりぬく。
 果肉を半殺しにして皮の中に戻し、そのまま冷凍庫へ仕舞う。

 青肉メロンは果肉を取り出し、鍋に入れて七輪でじっくり時間をかけて熱していく。
 メロンからの水分が飛び、実がくたっとなったら完成。
 容器に入れて冷やしておく。

 七輪にまだ残っている炭火で、ナスを焼く。

 先にデザートを食してしまったが、本日のメインディッシュ。
 ナスの炭火焼きが完成!

 口に含むと、中からトロっと中身があふれ出す。
 甘い! とにかく甘い!!

 あまりの美味さに晴輝は悶絶した。

「……生きててよかった」

 久しぶりの、懐かしい味。
 自然と涙がぽろぽろと落ちてくる。

 胃がメロンで膨れているにも拘わらず、晴輝は泣きながら大きなナスをまるまる1本、ペロリと平らげたのだった。
なまら=「めっちゃ」「すごく」「最高に」という意味の方言
北海道は様々な地域の住民が入植してきたので、様々な地域の方言がごった煮になってます。

半殺し=調理用用語の方言(?)。「半分くらい潰す」という意味。綺麗に潰すことを「ぜんごろし」とも言う。
お母さんが包丁を持ちながら「半殺しにする」と口にする風景が、田舎では良く見られます。(嘘

羽輪=仮面さん強化パーツ
存在感マシマシ!
+注意+
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