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冒険家になろう! ~スキルボードでダンジョン攻略~ 作者:萩鵜アキ

2章 冒険家レベルが上がっても、影の薄さは治らない

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その存在感を見せつけよう!

 一体いつまで魔物が出現するのか。
 既に1時間は戦い続けている。

「はぁ……はぁ……」

 いや、晴輝の体感では1時間だが、実際は10分やそこらかもしれない。

 筋力と敏捷力にスキルを振ったおかげで、晴輝は魔物にギリギリ押しつぶされずに済んでいる。
 探知を上げたことで、死角からの攻撃も手に取るように判るようになった。

 また成長加速を上げたことで、徐々にレベルが底上げされている。
 はじめは厳しかった面での魔物の対処も、いまはほんの少しだけ余裕を持てる。

 背後のレアも、連射でシルバーウルフを殲滅している。
 時々レベルアップ酔いで動けなくなるが、かなり良い仕事をしていた。

「はぁ……はぁ……」

 だが、まだ足りなかった。
 どれだけ倒しても、魔物が続々と生み出される。

 かなり魔物を倒したというのに、総数が一向に減っていない。

 このままではいずれ体力が尽きて魔物に押しつぶされる。
 その前に、絶望に押しつぶされるかもしれない。

 予兆は既に現れていた。

 喉が痛い。
 呼吸が苦しい。
 体が熱い。
 汗が、止まらない。

 対処は出来ている。
 だが完璧にじり貧だ。

(ただのモンパレじゃないのか?)

 以前晴輝が遭遇したモンパレよりも、明らかに魔物の数が多い。
 既に300匹以上は倒している。だが終わりがまったく見えて来ない。

 死体が進行を妨げるバリケードになれば、少しは戦いやすくなる。
 だが晴輝が魔物を倒すと即座にダンジョンが魔物を回収してしまう。

 まるでゾンビアタック。
 ダンジョンが死んだ魔物を一旦回収し、蘇生して排出しているようだ。

「……どうする」

 どうすればいい?

 晴輝は熱の籠もった頭を必死にフル稼働させる。
 その隙に攻撃されぬよう、探知範囲を拡大する。

 晴輝の意識が、通路全体を覆い尽くす魔物の個体ひとつひとつを捕らえる。
 探知1の時よりもはっきりとしていて、目で見なくてもサイズの判別が出来た。

 襲いかかる魔物のひとつひとつを意識して、

「…………え?」

 危機的状況だというのにも拘わらず、晴輝はつい呆然としてしまった。

「――ッ!?」
「キャンッ!!」

 そこをシルバーウルフに噛みつかれそうになり、危ういところでレアの投擲に救われた。

 一体なにをしてるのよ。サボり?
 そう言うように、レアがトゲトゲした葉っぱで晴輝の首をツンツンとつついた。

「ごめん。ありがとう」

 戦闘中に気を抜いたのはミスだ。
 晴輝は素直に謝罪する。

 だが晴輝がそこまで驚いてしまったのも仕方がない。
 なぜなら、

「なんで通路の中に魔物の存在を感じるんだ?」

 探知2で感じ取った魔物のなかに、明らかに通路の壁面に存在しているものがいた。

 はじめは探知ミスかとも思った。
 だが違う。
 それは間違いなく壁の中に存在している。

 その存在を感じる壁面には、若干の膨らみがあった。
 まるでそこから魔物が生まれ出でるような膨らみだ。

 だが時間をおいても、そこから魔物が排出されることはない。

「……もしかすると」

 呟いて、晴輝はじりじりと移動する。

 しかしその反応している壁の手前で、晴輝は10体の飼い主に阻まれた。

「っく!」

 シルバーウルフだけならば力尽くで切り抜けられる。
 だが飼い主は別だ。

 戦闘力が圧倒的に高い。
 こちらの狙いを読もうとする知能もある。

 10体もいると、晴輝の能力じゃ押し切れない。

 レアの援護は……期待できそうにない。
 彼女はいま晴輝の背後を必死に守っている。

「もう少しなのに!」

 飼い主の攻撃をギリギリで防ぎながら、晴輝は奥歯を鳴らす。

 一歩、二歩と飼い主に押されて下がっていく。

 これ以上下がらないで危ない!
 ペシペシと、レアが晴輝の肩を叩く。

「くそっ、一体どうすれば――」

 そのとき、晴輝の脳裏に僅かな光明が燦めいた。
 しかしそれは……。

「――迷ってる場合か!」

 嫌悪感を振り切って、晴輝は素早く仮面を外した。
 同時に隠密を実行する。

 シルバーウルフは依然として晴輝に狙いを定めている。
 汗の臭いを纏った晴輝では、彼らの探知能力を誤魔化せない。

 だが飼い主は違った。
 彼らは目を細め、じっと晴輝の居る場所を睨んでいる。
 だが瞳は晴輝のいる空間に定まっていない。

 やはりそうか。

 以前、スタンピードで固定砲台を行ったとき。
 晴輝の隠密に気づけた魔物はシルバーウルフだけだった。

 もしかしたら飼い主は、晴輝の姿を見失ってくれるのではないかと想像した。
 結果は正解。

「いけるっ!」

 晴輝は全力で、しかし一切油断せずに壁面に近づいた。
 そして短剣を2本。
 一気にその気配のある場所に突きつけた。

「・・・――・・――――・・!!」

 そのとき、ダンジョンに重々しい音が響いた。
 同時に晴輝の頭の中央部に、強烈な痛みが押し寄せる。

「――ぐぅ!!」

 レベルアップ酔いか!?
 それは初めて体感する種類の、激烈な酔いだった。

 バチバチと、瞼の裏で光が爆ぜる。

 少しでも気を緩めれば、意識をあっさり手放してしまいそうだった。
 晴輝は意識を保つため唇を噛んだ。

 噛みしめた唇に犬歯が刺さる。
 その痛みが、晴輝の意識喪失をギリギリで妨げる。

 10秒、20秒と時間が経過するうちに、その激烈な酔いがゆっくりと引いていく。

「……よし」

 その間、ダンジョンの通路からは魔物が一切生み出されていない。
 これまでひっきりなしに生み出されていたというのにだ。

 見えた。
 間違いない。
 これが正解に繋がる唯一の道筋だ!

 目の前にはいまだ、シルバーウルフと飼い主が通路を埋め尽くしている。
 だが新たに魔物は発生していない。

 レアがシルバーウルフの頭を消し飛ばし、
 晴輝が隠密で近づいた飼い主の胸に短剣を突き立てる。

 1体、また1体と魔物が倒れていく。
 それでも魔物は、補填されない。

 ゾクゾクと、晴輝の背筋が総毛立つ。

 やっとだ。
 やっと、生き残る道が拓かれた。
 あとは全力で戦うだけ。

 晴輝は気合いを入れ直し、ゆっくりと仮面をかぶる。

 ――絶対に、生き残ってやる。

「うおおおおおお!!」

 晴輝は気合いの雄叫びを上げ、全力で魔物の群れに斬りかかっていった。

          *

 冒険家に襲われた。
 その情報を耳にした特殊警察の動きは速かった。

 魔物相手では手を出さないが、冒険家が相手となると動かざるを得ない。

 おまけに被害者――素材買取店店長である大井素の話では、加害者は四釜という名の冒険家だと言う。

 特殊警察の一同は、その名に覚えがあった。

 彼らは暴行、傷害、恐喝などで度々警察に捕らえられている。
 過去、逮捕された彼らに与えられた罰は軽い。
 捕らえられても罰が軽くなるように、彼らは根回しや証拠隠滅を図っているのだ。

 物的証拠がないために、泣き寝入りしている者が多数存在する。
 四釜らは札幌の冒険家の中で、悪い意味で有名なチームだった。

 おまけに特殊警察らはマサツグから、秘密裏に話を受けていた。

『もし彼らが悪さをしたら、どうか遠慮なく叩きのめしてくれ』

 マサツグの表情には苦悩が滲んでいた。
 四釜らを放置してこの地を去ることに、大きな責任を感じていたのだろう。

 しかし新宿壊滅という予測不能のアクシデントがあったのだ。
 四釜らの面倒を見られなくても仕方がない。

 特殊警察は四釜ら3名を捕縛しようと迅速に8階を訪れた。

 だがまさか、ゲートを降りてすぐの場所にモンスターパレードが押し寄せているとはつゆほども思わなかった。

 特殊警察は慌てた。
 ゲートを起動し、地上に戻ろうとする。
 その中に一人だけ、冷静な者がいた。

 部隊隊長だ。
 彼は足下に落ちているヌメヌメウナギを見て、この場所が仮安置として機能しているのだと気づく。

「総員弓構え!」

 号令を出すが、隊員らはいまだ動転している。
 まともに攻撃出来そうにない。

 俺がまず見本を示すか。
 隊長が弓に矢をつがえて、弦を引いた。

「……あ、間違えて俺に攻撃しないでくださいね?」

 攻撃しようとしたところで、突如魔物の中から人間の声が聞こえた。

 隊長はうっかりソレに矢を放ってしまいそうになるのを、堪えるので精一杯だった。
 なぜならソレは、植物の魔物を背負い宙に浮く不気味な仮面だったのだから。

「悪魔か!?」
「……人間です」

 人間?
 仮面の声に、隊長は首を捻った。

 たしかに目をこらせばうっすら胴体が見える。
 しかしうっすらと、だ。
 幽霊と言われれば信じてしまうだろう。

「人間ならば何故魔物を背負っている!?」
「えっと……仲間です」
「仲間ァ?」
「テイムしたんです」

 たしかに。
 仮面の男の背後にいる植物の魔物は、彼を守るように共に魔物を攻撃している。
 その言葉に、嘘や誇張はなさそうだ。

 隊長が仮面の男の言葉を吟味する横で、

「おお!!」
「ついに来たか!」
「マジかよ!?」
「畜生ぉぉ! 先を越されたあ!!」

 隊員が一斉に興奮の声を上げた。

 魔物をテイムする。
 その有無については方々で散々議論がなされていた。

 普通の動物はテイムが出来る。
 ならば魔物のテイムが出来ない理由はない。
 だから必ず魔物をテイムする方法があるはずだ、と。

 特殊警察に所属する彼らは、冒険家資格を有していた。
 それは冒険家に対処するため、ダンジョンに潜って肉体を強化している。
 同時にダンジョンの制覇も目指している。

 当然、『なろう』もよく利用している。
 マサツグが来たときは緊張のあまり仕事を忘れ、ただの一般人のように振る舞ってしまったほどだった。

 中には仕事が明けると『ちかほ』に籠もり、新たな発見を模索する者もいる。
 テイムは彼らが模索しているもののひとつだった。

 そんな彼らが――未知を求める冒険家の彼らが、テイムを成功させた謎の男に興味を抱かぬはずがなかった。

「貴様は誰だ? まさか四釜の仲間じゃないだろうな!?」
「いえ。俺は空星晴輝。四釜のチームは……」

 魔物を倒しながら、晴輝と名乗った男は3カ所に視線を向けた。
 そこには四釜らが装備していただろう、武具が無造作に地面に散らばっていた。

 特殊警察であり、冒険家である彼らが四釜らの運命を察知出来ぬわけはなかった。

 当然だ。
 特殊警察はモンスターパレードの怖さをよくよく理解している。
 それに巻き込まれれば、死あるのみだ。

「…………?」

 では何故晴輝は生きている?
 モンスターパレードに巻き込まれているのに、平然と狩りを続けていられるのだ!?

 この男は、一体何者なんだ?
 疑問がぐんぐん湧き上がってくる。

 晴輝の武器は2本の短剣。
 とてもマイナーで、殺傷力の低い武器だ。
 趣味装備と言って良い。

 ただし、魔物が密集して振りかぶるスペースが削られるモンパレ戦においては、短剣が最も扱いやすい。

 また長剣や大剣と違い、短剣は攻撃の手数も多くなる。
 それもモンパレ戦で有利に働く。

 そこまで考えて、しかし隊長は『何故殺傷力の低い短剣で、彼が普通に魔物を倒せているのか』が理解出来なかった。

「一体なんなんだ……」
「俺は夢を見てるのか?」
「あの仮面は魔導具か?」
「身体能力を向上させるとか?」

 隊長は、本当ならば援護射撃を行いたい。
 攻撃を放てば空星なる男を救えるし、なにより安置からの攻撃で経験も得られる。
 職務中に狩りを行えるなど最高においしい状況だ。

 だが、ゲートから通路に続く間口が狭すぎて戦闘状況がよく見えない。
 攻撃を放ってば、誤って彼の体に当たってしまうかもしれない。

 フレンドリィファイアの畏れがある。それが判ると、即座に隊長は一同に武器を下ろすよう命じた。
 すると一同は一斉に、空星晴輝なる人物の評価を分析し始めた。

 目の前で魔物が群れているというのに、隊員らは緊張を緩めていた。
 それは特殊警察である彼らの実力故。

 8階程度の魔物であれば、モンパレに特攻でもしない限り絶対に死ぬことはない。

 また仮面の男がちっとも死にそうになかったため、安心して話に花を咲かせることができた。

「魔物が俺たちに一切気を払わないな」
「あの仮面のせいじゃないか?」
「なるほど。魔物のヘイトを稼ぐ魔道具って可能性はあるな」
「だが、それが判って仮面をかぶるか?」
「どういう意味だよ?」
「アレかぶると目立って魔物に狙われるかもしれないんだぜ?」
「どこぞのランカーみたいだな。盾職にはいいかも」
「あー確かに……って、あれは盾職じゃなさそうだが?」
「暗殺タイプっぽいよな」
「だよな。気配薄すぎて体、見えねえし。あれ? じゃあなんで仮面装備してんだ?」
「俺に聞くな。知らん」

「しかしテイムか」
「本当にあったんだな」
「あの植物。背後を完璧に守ってんな」
「あれがあるだけで、バックアタックの心配せずに戦えるよな」
「しかも射撃は高威力と来た。なまら優秀な魔物だなあ。羨ましい」
「おぉ! あの葉っぱ、戦いながらこっち手ぇ振ってるぞ!」
「やべえ。なまら可愛い!」
「くそ、羨ましいなぁ! 俺、シルバーウルフを手なずけようと毎週努力してきたのに!!」
「お前いいだけ手をガブガブされたのに、まだ懲りてなかったのか」
「まあな。諦めようかと思ってたけど、出来る可能性があるって判ったから、もう少し頑張ってみる!」

 隊員達は口々に呟く。
 まるで昼食時の会話のように、緊張感が感じられない。
 だがそれでも彼らは通路の入り口だけは意識から外さない。

 もしそこから魔物が1歩でも入り込もうとすれば、彼らは一瞬で魔物をミンチにするだろう。
 その程度の態勢さえ整えていれば、緊張感など彼らにはいらないのだ。

 しかしこのような男が札幌に居ただろうか?

 強い冒険家なら居る。
 だがそういう奴らは得てして強いオーラを身に纏っている。

 改札口を警備する彼らは、そういう強い者達をほとんど知っている。
『ちかほ』に通っているあいだに、頻繁に顔を合せるので仲良くもなる。

 だが晴輝は完全にノーマークだった。

『なろう』にあるローカル掲示板でも、空星晴輝という名は挙がったことがない。
 何故これほどの戦闘力を持ちながら、晴輝に気づけなかったのだろう?

 彼の戦闘を目にしながら、隊員達の体に徐々に熱が籠もってきた。

 晴輝は凄まじい身体能力があるわけではない。
 8階で活動出来るレベルではあるが、彼はここに集った警察たちに敵わない。

 だが彼はモンパレに立ち向かっていた。
 力ではなく相性だけで乗り切ろうとしていた。
 数の暴力を、はね除けようとしていた。

 特殊警察らにとっては、まさに綱渡りの戦いだった。

 綱渡りなのに、着々と完全勝利に突き進んでいく。

 そんな姿を見て、
 そんな戦いを見て、
 滾らぬ冒険家がいるだろうか!?

「良いぞ、殺れ!!」
「っしゃぁぁあ!」
「あ、っぶねー!」
「おい次が来るぞ!」

 気づけば隊員達は、攻撃ではなく声で加勢を始めていた。

 本来ならばここから出て、晴輝と共に戦うのが筋だろう。

 だが彼らの得物は弓に長剣、それに大剣だ。
 モンパレにおいては、相性が悪すぎる。
 乱入したところで、役に立てない。

 無論、力任せに魔物をなぎ倒すことは出来る。
 だがその場合、大ぶりになった攻撃に味方や晴輝を巻き込んでしまう。

 仲間を意識しながらモンパレを切り開いていく力は、中層に足を踏み入れられるレベルの彼らでさえ、持ち合わせてはいなかった。

「…………あ!」

 そのとき、隊員の一人が声を上げた。

「思い出した。こいつ、噂されてた変な仮面の奴ですよ!」

 ――いた! と隊長は思った。
 確かに仮面の男について少し前から話題に上っていた。

 マサツグと会話をしていたことから、ランカーに近いチームメンバーではないかと噂されていた奴だ。

「なるほど。こいつがあの噂の、変態仮面か!」

 その言葉に、ようやっと魔物を殺し終えた晴輝ががくっと膝を折ったのだった。
さすが仮面さんは存在感がひと味違うぜ!

ちょっと更新が遅れました。すみません。

拙作をお読み下さいまして有難うございました。
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