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冒険家になろう! ~スキルボードでダンジョン攻略~ 作者:萩鵜アキ

2章 冒険家レベルが上がっても、影の薄さは治らない

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最悪の状況を切り抜けよう!

※残酷な描写があります。
 仮面を外し隠密を用いて接近した晴輝は、ラルスの大剣を受け止めた。
 一撃でも掠れば致命傷になりかねないそれを受けて、晴輝の右手が痺れた。

 ギリギリと奥歯が音を鳴らす。
 攻撃の重みに膝が僅かに折れた。

 晴輝が大剣の攻撃を受け止められたのは、身体能力がラルスより優れていたからではない。
 ラルスが攻撃する直前に、僅かに地面が揺れたからだ。

 突然の揺れに動揺した彼が僅かに力を緩めていなければ、晴輝は大剣の攻撃を受け止めきれなかった。

 これでまだ、全力じゃない。
 大剣攻撃の重みに、晴輝の背筋が凍り付く。

 続いて晴輝は、足を動かした四釜の首筋に短剣を押し当てた。
 ほんの少し息んだだけで、彼の足があっさり止まった。

「ハリア殺せ!!」

 矢は正確な軌道を描いて火蓮と大井素の背に迫る。
 だが、

「レア」

 晴輝の肩から放たれたジャガイモ石が、矢の横っ腹に命中。
 レアの投擲の威力に、矢はあっさり砕け散った。

「……よし」

 火蓮と大井素の姿がゲートから消えるのを確認し、晴輝はほっと息を吐き出した。
 当然ながら四釜らが動かぬよう、いまもレアに圧力をかけてもらっている。

 無理に移動しようとすると異様な音と共にジャガイモ石が足下に飛来する。
 実際、大剣のラルスが奇妙なダンスを踊っている。

「……一体どこ居やがる?」
「くそっ! 動こうとすると足下になんかやべえの飛んでくるぞ!」
「姿を見せろクソ野郎!!」

 ……いや、目の前にいるんですけど?

 晴輝はげんなりしながら彼らの前で手を振ってみる。
 しかし、さっぱり効果がない。

 声を出してもダメ。
 聞こえちゃいない。
 大井素でさえ晴輝の声が届いたというのに……。

 もしかすると彼らは、探知スキルが0なのではないだろうか?

 罠といっても落とし穴に填まる程度。おまけにびっしり床に設置されているわけではない。
 ボスと戦うときは盾役がボスを固定すれば、戦闘中に罠に填まり危険に陥ることもない。

 チームバランスが良いから、多少ごり押ししても命に危険がない。
 これまで探知スキルを育てる必要性が、彼らには無かったのだ。

 晴輝は再び仮面を装着し隠密を解除する。

「い、いつからそこに!?」

 さっきから居たもん。
 ずっと居たもん!

 ……危ない。
 言葉の不意打ちで、危うく膝が折れるところだった。

「またテメェかっ! 何度俺たちの邪魔をすれば気が済むんだ!!」
「前回については、俺は一切邪魔してないが?」
「余裕ぶってんじゃねぇよ! 今回は近くにマサツグさんだっていねぇんぜ?」
「そうだな。だからなんだ?」

 挑発されているにも拘わらず、晴輝の体はしんと静まりかえっていた。

『よくも仲間を傷つけたな』
『それでも冒険家か?』
『最低な奴らめ!』

 頭の中で様々な返答を模索する。

 浮かんだ感情的な言葉とは裏腹に、晴輝の胸中は穏やかだ。
 自らの人間性を疑うほどに。

 しかし、

「覚悟は出来てるんだろうな?」

 口から出た言葉は、晴輝の予想を超えた殺意が渦巻いていた。
 その言葉に四釜ら3人が僅かに怯んだ。

「お、おいなにマジになってんだよ? 俺らは、じょ、冗談でやったんだよ。なにも本気で殺すつもりなんてなかったんだ、なそうだろ?」
「ああ。マジになるなよ空気」
「そうか。マジじゃなかったのか」

 彼らの言い分を聞いても、晴輝の感情はピクリとも動かない。

「では、本気でやったわけではないのに、火蓮に傷を付けたんだな?」
「それは……アクシデントだ。本当は、そこまで傷つけるわけじゃなかったんだ!」
「目が覚めそうになった火蓮の顎に足蹴りを食らわせていたようだが?」
「あああ、あれも事故だよ。い、行きすぎた冗談だったが、そこは、反省してる。マジで悪かったって。な? ユルシテくれるだろ?」
「…………」

 そも、マサツグに言われていた『しばらくちかほには来ない方がいい』という言葉を、晴輝は一度だって忘れたことはなかった。

 当然のように彼らが居ることは想定済みだし、彼らのチーム情報は『なろう』でも収集していた。

 ただ、晴輝はマサツグが彼らをきちんと指導してくれたと思いたかった。
 冒険家としての善性を、信じたかった。

 資格を持つ冒険家に、ほんの僅かでも志が残っていることを。
 ダンジョンで得た力は、人を守るために使うものだということを……。

 だからこそ、彼らが未だに晴輝らをターゲットにしていたことが、残念でならなかった。

「そうか。ならば俺のブログを荒らしたのも、冗談だったんだな?」
「……な、なんのことだよ?」
「罵倒コメントが10件に対して、閲覧者(ユニークアクセス)が合計6人。毎日見てくれる閲覧者を除けば3人増えていることになる。ちょうどお前らのチームの人数と一緒だな?」
「…………」
「まさか、気づかないと思っていたのか? それとも、ユニークアクセスの存在を知らなかったのか?」

「……お前のブログ、そんなにアクセス数少なかったのか」
「返信が煽りだと思って頭に来たが、あれは本気の感謝だったんだな……」
「コメントが来なさすぎて、煽りすらも嬉しく感じて……ック!」

 晴輝の言葉に、三人が表情に憐憫を浮かべて目を潤ませた。

 やめろ。
 目に涙を貯めるな!
 そんな顔で俺を見るな!!

 相手を追い詰めたつもりが、何故か晴輝が追い詰められてしまった。

 ブログの話は完全にやぶ蛇だった。

 くそっ!
 もう二度とブログの話はするもんか!

「…………?」

 また揺れてる?
 そのとき、晴輝は僅かな微震を感じ顔を上げた。

 一体なんなんだ?

 意識を研ぎ澄ませると、すぐにその異変に気がついた。

「……冗談だろ」

 壁が天井が、僅かに歪み始めていた。
 その歪みはみるみる速度を上げる。

「なんだよこれ!?」
「お、お前一体なにをした!?」

 四釜らもダンジョンの異変に気がつき、晴輝に刺すような視線を向けた。
 しかし晴輝は、まったく身に覚えがない。

 身に覚えはないが、この状況に心当たりはある。

「モンパレか……」

 晴輝は呆然としながら呟いた。
 まさかこのような場面で、モンスターパレードのスタート地点に出会うとは予想さえしていなかった。

「に、逃げるぞ!」

 四釜の声に3人が一斉に動いた。
 当然、晴輝も動く。

 彼らに復讐するため――では勿論ない。
 彼らと逃げるためだ。

 死ねばすべてが終わりだ。
 彼らを矯正することも、犯した罪を償わせることも出来ない。

 しかし晴輝らがゲート部屋に入るよりも、パレード開始の方が僅かに早かった。

「――クソッ!」

 ダンジョンの天井から産み落とされたシルバーウルフ10体がゲートに通じる道を塞いだ。

「しゃらくせぇ!!」

 ラルスが大剣を一閃。
 たった1撃で、2体のシルバーウルフの胴を切り離した。

 だが2体を殺す間に、新たなシルバーウルフが3体壁から産み落とされていた。
 おまけにパレードには、飼い主の姿もある。

「……くそ、まずいな」

 晴輝は戦況が不利と見るや否や、スキルボードを取り出した。


 空星晴輝(27) 性別:男
 スキルポイント:5
 評価:倣剣人→倣剣師

-生命力
 スタミナ2
 自然回復0

-筋力
 筋力2

-敏捷力
 瞬発力1
 器用さ2

-技術
 武具習熟
  片手剣2→3
  投擲1
  軽装1
 隠密1
 模倣1

-直感
 探知1

-特殊
 成長加速3
 テイム0


「……片手剣が上がってるな」

 飼い主との戦闘中、より効率的な攻撃方法に気づいてから、晴輝の攻撃の威力が桁違いに上昇した。
 薄々感づいていたが、やはりあの1戦で片手剣スキルが1つ上がったようだ。

「洗練された動きが出来るようになれば上がるのか。それとも一定の経験を集めないと、動きが良くなっても上がらないのか。それに評価も――いや」

 晴輝は頭を振って疑問を脇に追いやった。

 すごく気になる。
 気になるが、いまはそんなことを考えている場合ではない。
 素早く指を滑らせ、スキルをポイント分だけ上昇させる。


 空星晴輝(27) 性別:男
 スキルポイント:5→0
 評価:倣剣師

-生命力
 スタミナ2
 自然回復0

-筋力
 筋力2→3

-敏捷力
 瞬発力1→2
 器用さ2

-技術
 武具習熟
  片手剣3
  投擲1
  軽装1
 隠密1
 模倣1

-直感
 探知1→2

-特殊
 成長加速3→MAX
 テイム0


 攻撃力を上げる筋力に、攻撃速度を上げる瞬発力。
 あらゆる方向からの攻撃に反応するための探知。
 そして、まだまだ足りない身体能力を戦闘中に補強する成長加速。

 ここで出し惜しみをしても、死んだら意味がない。
 晴輝は惜しみなくポイントを割り振った。

「お前、そのアイテムはなんなんだ?」
「そんなことはどうだっていい。この状況を、切り抜けることだけ考えろ」

 晴輝はスキルボードを胸にしまい、2本の短剣を鞘から抜いた。

 ゲートにはまだ、魔物が立ち入っていない。

 晴輝は手元にあったヌメヌメウナギを放り投げ、ゲートの入り口を塞いだ。

 この階層の魔物に効果的なヌメヌメウナギだが、モンパレの中では効力が薄い。
 というのも、魔物がウナギを避けて逃げようとしても、魔物の密度が高すぎて逃げ場がないからだ。

 避けてはくれるが、押しのけて進むことはできない。
 であれば、ヌメヌメウナギで逃げ場を確保した方が良い。

 ゲート部屋では魔物が発生しないが、ゲート部屋に入れないわけではない。
 ヌメヌメウナギで入り口を塞げば、ゲートが占有される可能性を低減できる。

 ゲートが魔物で塞がれなければ、地上に逃げ延びることができる。

 ヌメヌメウナギがゲート入り口で魔物をしっかり塞いでいるのを確認し、晴輝は手近なシルバーウルフ2体を切り裂いた。

「ゲートまで逃げろ!」
「指図してんじゃねぇよクソがッ!」

 いきり立った四釜の声に反応し、シルバーウルフ3頭が迫った。

 四釜はシルバーウルフの1体を蹴り、もう1体を長剣で切りつける。
 残る1体をシールドバッシュで吹き飛ばした。

 すごい技量だ。
 練度が高い。
 ボードでスキルを底上げした晴輝でさえ、目で追うのがやっとの滑らかな連続攻撃だった。

 だが――、

「がッ!!」

 死角から迫ったシルバーウルフが、彼の脇腹に頭から突っ込んだ。
 肋骨の折れる音が響く。

 探知の練度が低い彼は、死角からの攻撃に一切の反応すら出来なかった。

「四釜?!」
「リーダー!!」

 膝を落としそうになる四釜に、ラルスとハリアが目を剥いた。

「集中しろ!」

 晴輝が声を上げる。

 驚いている暇などない。
 既にモンパレは、始まっているのだ。
 通路では次から次へと魔物が産み落とされている。

 シルバーウルフだけではない。
 その中には当然のように、飼い主も混ざっている。
 油断などして良いわけがない。

 晴輝は四釜らを赦すつもりはない。
 だからといって、彼らを見捨てようとは微塵も思わない。

 見捨てて良い人間なんていない。

 そんな考えは甘いと言われるかもしれない。
 だが、それが晴輝の背骨。
 決して譲れない一線だ。

「生きて帰るぞ」
「生意気言ってんじゃねぇよ! クソ雑魚は黙ってろ!!」

 その声の大きさに、シルバーウルフの矛先が変化。
 シルバーウルフが一斉にハリアに襲いかかる。

 彼はかなり身のこなしが良い。
 魔物に囲まれても弓を放ちながら2度、3度とシルバーウルフの攻撃を避けていく。

 その動きに晴輝は目を見張った。

 回避しながら弓を放つ。
 狙いが鋭い。
 矢をつがえる速度も速い。

 矢はシルバーウルフの急所に違わず命中。
 次々と数を減らしていく。

 しかし、20匹のシルバーウルフを攻撃したところで、彼の矢が尽きた。
 それでもハリアは回避を続ける。

 しかし、魔物を減らせないハリアが追い込まれるのに、そう時間は掛からなかった。

「ぐあぁぁぁぁぁ!!」

 逃げ場を失ったハリアが、シルバーウルフにあっさり腕を食いちぎられた。

 くそ!
 ぎりっと晴輝は奥歯を鳴らす。

 上層にいる冒険家は、武器に比べて防具が弱い。
 前衛の四釜は別だが、ラルスとハリアは違う。

 それが、致命的な結果を生んでしまった。
 もしエントリーモデルを装備していれば、違った結果になっていただろう。

「い、いてぇぇぇぇ!! し、四釜助けてぇ!!」
「くそっ! いまい――っぐ!?」

 助けに行こうとした四釜だったが、振り払われた飼い主の腕がもろに直撃した。

 四釜の死角からの攻撃だった。
 しかし今度は、飼い主の攻撃に僅かに反応した。

 彼は足を踏ん張り、吹き飛ばされるのを防いだ。
 だが、それがいけなかった。

「……っぐ、あ」

 飼い主の攻撃が当たった右腕の関節が、不自然な方向に曲がってしまった。

 耐えることに特化した盾職ならではの、ケアレスミス。

 衝撃を逃がすことなく体で受け止めてしまったため、彼はより大きなダメージを受けてしまった。
 これではもう剣は握れまい。

「四釜、ハリア! 壁を背にして固まれ!! 道は俺が切り開く!」

 さすがは大火力職(アタッカー)。大剣の遠心力をうまく用いて、ラルスがシルバーウルフの群れを紙くずのように切り裂いていく。
 だがその攻撃も、すぐに精細を失った。

「な……!」

 大量の魔物に囲まれたことで、大剣を最大威力になるよう振るうスペースが削られた。
 ラルスの大剣はあっさり魔物の肉を断てなくなった。

「くそぉぉぉ!!」

 ラルスは大剣を小さく振るい、シルバーウルフを倒していく。
 だが振り下ろすまでの時間が長い。
 突きも、ストロークが長すぎる。

 1匹倒すあいだに追加が2匹。
 魔物の輪が、じりじりラルスを追い込んでいく。

 四釜らは手負いの魔物を大井素にけしかけられるほど、8階の戦闘において優位に立っている。
 そのチームが、モンパレであっさりと追い詰められた。

 巻き込まれると陣形も戦法もない。
 混戦になればチームは機能しない。
 強制的に個人の戦いになってしまう。
 そして質のアドバンテージが、圧倒的物量に押しつぶされる。

 これが、モンパレの怖さ。

 数百の魔物を、たった1人で乗り切ることの出来る者しか、生き残る術がない。
 おまけに、いくら実力があろうと人気武器である弓や大剣は混戦では扱いづらい。

 モンパレはほとんどの冒険家にとって、相性が悪い戦況だった。

 相手が圧倒的格下ならば、もしかすると切り抜けられるかもしれない。
 だが同等以上の相手であれば勝利は絶望的だ。

 だからこそモンパレに出会った冒険家は逃げる。
 逃走にしか、活路はない。

 当然のように晴輝にも、魔物の攻撃の矛先は向いていた。

 襲いかかる魔物は2本の短剣で斬り、防ぎ、殺す。
 さらに晴輝の攻撃を補完するように、レアがジャガイモ石を発射する。

 早く。
 今なら助かる。
 助けられる。

 だから早く!
 もっと早く動け俺の体!!

 魔物の波が厚い。
 攻撃が間に合わない。

 四釜らを助けたいのに、魔物を退けるので精一杯で、目の前の壁を貫けない。
 まるで悪夢だ。
 酷くじれったい。

 もっとだ。
 もっと!!

 晴輝は探知の意識を拡大し、空間を占有する魔物の1つ1つを認識する。

 どの個体が、どれほどの速度で襲いかかってくるか。
 どの順番で倒すか、どのタイミングで回避するか。
 状況に合わせて瞬時に最適解を見つけ出す。

 シルバーウルフに飼い主が混ざる。

 堅さが違う。
 生命力が違う。
 知恵が回る。
 厄介だ。

 単純な攻撃では回避される。
 隙が生まれる。
 反撃を食らう。

 だから、慎重になる。
 それでは手数で押し負ける。

 まだだ。
 もっと出来る!!

 すべての魔物を意識し、観察し、分析し、理解する。
 未来を想像し、動きに反映させる。

 堅さが違う、シルバーウルフと飼い主。
 それぞれへの攻撃を、使い分ける。

 シルバーウルフは最小限で、
 飼い主は全力で、

 斬り、裂き、突き、蹴る。
 守り、避けて、カウンター。

「うおぉぉぉ!!」

 獣の咆哮にも似た雄叫びを上げ、レベルアップ酔いを消し飛ばす。

 体が熱い。
 全身が甘く痺れている。

 いつまでも動ける気がする。
 どこまでも戦っていられる気がする。
 アドレナリンの仕業か。

 極度の興奮状態に、毛穴が開いて総毛立つ。

 斬り、裂き、受け流し、回避し、蹴りを入れる。
 隙を見て魔物を突き飛ばし、罠に落とす。

「こんな……乗り切れるわけ、ねえよ……」

 腕や脇腹を食いちぎられたラルスが、シルバーウルフの隙間で瞼を閉じる。
 その彼に、

「諦めるな!」

 諦めれば、なにも考えが浮かばなくなる。
 足掻かなければ、未来はない。

 絶望は、最後の一瞬に抱けばいい。

「…………グァッ!!」

 しかし、晴輝の怒声もむなしく、ラルスが絶望から立ち上がるより前に、シルバーウルフに喉元を食いちぎられた。

 飛び散る血しぶき。
 ダンジョンが一気に鉄臭い。

 先ほどまでは粋がっていた男が、あっさりと絶命する。
 憎悪と恐怖を称えた瞳から、ハイライトが抜け落ちた。

「ら、ラルス!!」

 盾をかざして必死に抵抗する四釜が、ラルスの死を目にして大声を上げた。
 当然のように、音に反応したシルバーウルフが彼にヘイトの矛先を向けた。

 晴輝は内心、慌てていた。

 モンパレにスタンピードに、そしてスタンピードのボス。
 いままでピンチに陥ることは何度もあった。
 その都度うまく切り抜けてきたので、今回も大丈夫だろうとどこかで考えていた。

 だが先ほどまで動いていた冒険家が死ぬ様を見て、いよいよ晴輝の頭にも絶望の陰が忍び寄ってきた。

「くそぉぉぉ! 俺らがなにをしたって言うんだ! くそっ!くそっ!くそっ!くそっ!くそっ!くそっ!くそっ!くそっ!くそっ!く――」

 シルバーウルフを次々とシールドバッシュで吹き飛ばす。
 四釜が盾を押し込んだその隙に、飼い主の腕が飛来。

 側頭部に直撃。
 彼の黒い瞳が一瞬で裏返った。

「た……たす……け……ユルシテ……」

 弓のハリアは既に下半身がない。

 その瞳は既にハイライトを失っている。
 彼はもう、なにも見えていない。

 何匹ものシルバーウルフに噛みつかれ、首を振られる度に肉が引き裂かれる。
 ハリアは十秒も経たずに元の形を失った。

 四釜とラルスも同じ。
 食い残しの肉片が地面に散乱しているだけだった。

 それもすぐに無くなるだろう。
 シルバーウルフが丁寧に床を舐めて回っている。

 戦闘中だというのに、晴輝は呆然とした。
 気を抜けば膝が折れてしまいそうだった。

 ――助けられなかった。

 四釜らは大井素を嵌めて、火蓮を攻撃した。
 決して赦すつもりはない。

 しかしそれでも彼らの命は助けたかった。
 手の届く範囲の命は、救いたかった。

 もう2度と、目の前で人が殺されるところを、見たくはなかったのに……。

 それは、『命は平等だから』なんて生ぬるい綺麗事ではない。
 正義感ですらない。
 ただのエゴだ。

 しかしそれが晴輝なりの責任。
 冒険家としてのあり方。
 これを失えば、ただの獣と同じ。
 晴輝に残った、人間としての最後のプライドだった。

 だからこそ晴輝は四釜らと共に戦った。
 それは決して共闘ではなかったけれど……。

 失われたものはもう、元には戻らない。

 いまの光景。
 感情を、克明に胸に刻み込む。

 同じ喪失を、失敗を、二度と経験しないように。

 瞼を閉じてコンマ1秒。
 晴輝の気持ちが切り替わる。

「……レア。全力で切り抜けるぞ!」

 えー、と不服を表すようにレアが葉を揺らす。
 だが「まったく仕方ないわね!」と言うように晴輝の死角へと、ジャガイモ石を乱射した。

 素直じゃないな。
 晴輝はレアの様子に苦笑しつつも、目の前の魔物に意識を向けた。

 これまで四釜らがいることで抑制されていたレアの投擲が火を噴いた。
 投擲により、シルバーウルフが次々と血煙を上げて倒れていく。

 晴輝は再度瞑目する。
 そうして唇を強く噛みしめ、魔物の群れに斬りかかっていった。

 この最低の暴力を撃滅し、蹂躙するために。
お読み下さいまして、有難うございました。
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