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冒険家になろう! ~スキルボードでダンジョン攻略~ 作者:萩鵜アキ

2章 冒険家レベルが上がっても、影の薄さは治らない

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38/72

希望を捨てずに生き延びよう!

少し遅れましたが、拙作がついに2万ポイントを突破いたしました!
これも皆様のご支援のおかげでございます。
本当に有難うございます!!
「火蓮。攻撃ストップ!下がれ!!」
「――ぅ、はいっ」

 火蓮が晴輝の指示に素直に従った。
 どうやらヘイトが自分に向いたことで慌てたらしい。
 声が若干うわずっていた。

 火蓮では飼い主に接近されればひとたまりもない。

 晴輝は一気に攻め込んでヘイトを稼ぐ。
 ここから先には、絶対に通さない!

 短剣だけでは足りず、晴輝はさらに足も使ってダメージを稼いでいく。

「……ん?」

 攻撃を重ねていくと、当然飼い主の腕に浅い傷が増えていく。
 だがその中に一際大きな傷を発見した。

 これは……。

 脳に転写した攻撃時の映像を、巻き戻しながら飼い主の傷に重ね合わせる。
 すると、

 ――見つけた!

 五回前の攻撃で、他より僅かに深い傷が付いたようだ。

 しかしそれは 3連続攻撃の最後。
 相手の反撃に合わせての、下がりながらの一撃だった。
 通常のものと比べると出来損ないの攻撃だ。

 だが、一番深く飼い主を傷つけた。

 その攻撃は、他とどう違うか?
 意識の比重が思考に大きく傾いた。

 それが、良くなかった。

「グギャ!」
「くっ! カハッ――!」
「空星さん!」

 火蓮の悲鳴が聞こえたと思った瞬間、
 晴輝の視界がぐるりと回転した。

 息が抜ける。
 吸い込もうとしても、上手くいかない。

 揺れる視界。
 晴輝は奥歯を噛みしめながら、ゆっくりと立ち上がる。

「はぁ……はぁ……」

 戦闘から僅かに意識が逸れたため、飼い主の攻撃をモロに食らってしまった。

 きっと、相手がシルバーウルフならば追撃していただろう。
 だが飼い主は追撃しなかった。

 それは晴輝が、苦し紛れにカウンターを合わせたから。

 きっと飼い主は驚いただろう。
 いままで晴輝の攻撃は、生存に影響のないレベルだった。
 にもかかわらず、いまのカウンターでは己の腕が3分の1も切り裂かれてしまったのだから。

 飼い主は頭が回るから、警戒した。
 警戒し、躊躇した。

 晴輝は、にやりと口元に笑みを浮かべた。

 晴輝が飼い主に大きな傷を与えられたのは、ワーウルフを倒したときと同じ。
 相手の攻撃の威力に合わせたからと、もう一つ。

 晴輝の攻撃に、円運動が加わったからだ。

 日本刀や包丁に代表される刃の先端は、細かいギザギザの集合体となっている。
 包丁も同じ。

 ギザギザしているということは押すだけでは切れない。
 ノコギリのように、引いて始めて切り裂ける。

 押しながら引く。
 その両方を同時に行えるのが円運動だ。

 西洋の剣は重みで肉を断つ。
 だが短剣に重みはない。
 円運動を加えて、始めて切れ味が最大になる武器なのだ。

 己の仮定を迷わず実践し、円を描くように武器を振るったことで、晴輝は飼い主の体をより深く切り裂けた。

 とはいえ飼い主の防御力はずば抜けている。
 シルバーウルフならば押すだけで簡単に断ち切れた骨に、円運動を加えて切れ味が増した攻撃が阻まれてしまった。

 しかしそれでも十分、勝機が生まれた。

「さて、もっと見せて貰うぞ」

 晴輝は唇を湿らせ、再び飼い主に迫る。

 これまでの対処パターンはもう全て見た。
 あとは、当たったら危険な攻撃に、飼い主がどう対応するかだけだ。

 切り、突き、躱し、蹴り、回り込む。
 火蓮の呼吸に合わせ、一気に攻め立てる。

 反撃の痛手に困惑した飼い主を、晴輝が手玉に取るのは簡単だった。
 おまけに火蓮が放つ、強力な魔法の援護もある。

 そこからは一方的な展開になった。
 時間は掛かったが、晴輝はなんとか飼い主の討伐に成功した。

 飼い主の息の根が止まるのと同時に、体がぼぅっと熱くなる。
 久しぶりの、強いレベルアップ酔いだ。

 晴輝は頭を抑えながら壁に背中を預ける。

 戦っていたのは5分ほど。
 スタミナは2に上がっているというのに、たった5分の戦闘で息が完全に上がってしまった。

 おそらくそれは、極度の緊張と集中力のせい。
 ワーウルフと対峙したときと同じ現象だ。 

 呼吸が熱い。
 体が重い。
 けど、最高だ。
 気持ちが良い。

 しばらくシルバーウルフとしか戦っていなかったから、違う魔物との戦闘が新鮮だ。
 おまけに飼い主は、晴輝の好みに合致した強さ――苦戦するがなんとか倒せるレベルだった。

 いいな。
 実に良い。
 俺は冒険をしてる。

 安パイには冒険がない。
 やはり冒険は、こうでなくては……。

 とはいえいまは大井素の捜索中だ。冒険にかまけている暇などない。

「レベリングにはもってこいだが、いまは時間が惜しい。なるべく戦闘を避けながら捜索した方が良いな」
「そうですね」

 火蓮も額に玉汗を浮かべていた。
 いま追撃が来たら簡単に追い込まれてしまう。

 晴輝は一度鞄を下ろし、準備を始めた。

「火蓮。悪いがこれを持ちながら移動してくれ」
「はい…………え、いや……」

 晴輝が取り出したのは黒くて長くてヌメヌメしたモノ。
 そのブツを見て、火蓮の顔が引きつった。

「なんですかそれは」
「ヌメヌメウナギ」
「…………へ?」
「だから、ヌメヌメウナギ」

 火蓮が晴輝に不審な目を向ける。

「へえ、空星さんってそういうモノを女の子に持たせるのが趣味なんですね」

 蔑む冷たい視線が痛い。
 いやいや。趣味じゃないからな?

「魔物が近寄らなくなるらしい。効果は1日」
「……魔物避けなんですね。でもどうして最初からこれを使わなかったんですか?」
「素早く倒しながら進めるならその方が良いと思ったんだが、飼い主討伐はかなり時間がかかったからな」

 討伐時間は5分。休憩を入れて7分だ。
 現在大井素の捜索中なので、それだけの時間を1度の戦闘につぎ込む訳にはいかない。

「効果は完璧じゃないだろうから気は緩めないように」
「……はい」

 火蓮の声が落ち込んでいる。
 どうやらヌメヌメウナギを手にしているだけで、相当精神力が削られているらしい。

 ただヌメヌメしてるだけだというのに、なにがそんなに気にくわないのだろう?
 首を傾げる晴輝は1本よりも2本の方が効果が強いだろうと念を入れて、両手にウナギを装着した。

「……ところで」

 晴輝の背後で、火蓮が恐る恐るという風に声を上げた。

「その、何故レアを背負っているんですか?」
「ん?」

 先ほどの休憩中、晴輝はマジックバックからレアを取り出していた。

 そのレアのプランターを、晴輝は自らの鞄の中に入れた。
 鞄の底には壺があるので、レアは丁度体の半分から上を鞄から露出させている。

「ショルダーキャノンになるかなと思って」
「……はあ」

 晴輝の回答に、火蓮が呆れたように息を吐いた。

 もし飼い主にヌメヌメウナギが効かなければ、戦闘に突入してしまう。

 当然、1度目の戦闘で勝利出来たので不意を打たれさえしなければ大丈夫だ。
 それでも戦いは厳しいものになるだろう。

 そこでレアだ。
 ボスに突き刺さるほどのレアの投擲があれば、先ほどよりも簡単に飼い主をはね除けることができる。

 壺は鞄の一番底に入っているので、レアは弾を補給し続けられる。
 弾切れを心配せずに投擲攻撃が出来る。

 そのレアはというと、これから格上の魔物と戦うかもしれないというのに、晴輝の肩をツタで掴み、フリフリと頭を揺らしていた。
 まんざらでもない様子である。

「それに、俺は両手にウナギを持ってるから、咄嗟に攻撃出来ないしな」
「片手を開けるという選択肢はなかったのでしょうか?」
「ない!」

 無論。
 安全策は、常にやり過ぎるレベルでなければいけないのだ!

 ほらやっぱり趣味じゃないですか、みたいな火蓮の視線を受け流しながら、晴輝は大井素の捜索に集中する。

 しばらく歩くと、前方に魔物の姿を発見した。

「気をつけて。レア、攻撃はまだしちゃだめだからな」
「はい」
「(コクコク)」

 晴輝らはシルバーウルフと飼い主の集団の動きを、じっと息を潜めて眺める。

 そのとき、シルバーウルフがこちらに気づいた。

 目が合った。
 晴輝がそう思った瞬間、

「ヒャイン?!」

 シルバーウルフが可愛らしい声を上げ、一目散に逃げ出した。
 一体なにがあったのかと飼い主もこちらに視線を向ける。

「ギャ!?」

 シルバーウルフ同様、飼い主も晴輝らの姿を見た途端にシルバーウルフの後を追った。

「ヌメヌメウナギの効果は凄いな!」
「あー、いえ、たぶんそれだけじゃないと思いますけど」
「ん? 他になにがある?」
「…………気づいてないなら、良いです」

 逃げ出す理由が他にあるのか?
 さっぱり判らない。

 首を傾げる晴輝を余所に、火蓮が首を横に振ってため息を吐き出した。


 晴輝らの姿に気づく度に、魔物は面白いように逃げていく。

「なんだか自分が最強のボスになった気分だな」
「ボスというより天敵に近いかもしれませんね……」

 慌てた様子で逃げ出す魔物を眺めながら、晴輝は脳内でマッピングを行い続ける。

 8階フロアの面積は、1階に比べて2倍ほど。
 戦闘なしで踏破するのに3時間はかかる。

 おまけに6階層から生え始めた草が、いまでは所によっては腰ほどまで繁茂している。
 かなり集中しなければ大井素を見逃してしまうだろう。

 もし彼女が生きているのならば、魔物に察知されない類いの道具を使っている可能性がある。
 繁茂した草の中に紛れて道具を使われては、さすがの晴輝も一目で見つけられない。

 晴輝はより集中力を高め、罠にかからないようにダンジョンを進んでいった。

          *

 大井素才加はダンジョンの8階の茂みに身を潜めていた。

 本当ならばここから今すぐにでも脱出したい。
 だが、砕けた左足がそれを赦さない。

 骨折した当初よりも痛みは和らいだが、それでも僅かに動けば悲鳴を上げそうになる。

「値段の高い飲み薬を持ってくれば……ううん、私がこんなところまでシルバーウルフを追ってこなきゃよかったんだよね……」

 大井素はシルバーウルフの素材を求めに8階層にやってきた。

 シルバーウルフの素材であればなにも8階でなく、6階のものでも良い。
 だが大井素は8階に来た。

 理由は品質の差だ。

 シルバーウルフは毛並みが暗くなればなるほど、素材としての品質が上がる。

 しかし買取価格は一律、並品質から僅かに上乗せした金額だ。
 下がることはあれど上がることはない。

 もちろんそれは企業秘密である。
 冒険家には一切公にしていない。

 もし公開などすれば、一気に企業の信頼を失ってしまうだろう。
 いままで品質の違う素材を、低い価格で引き取っていたのかと。

 しかし買取る側にも言い分はある。
 暗い方を高く買い取ると、必ずシルバーウルフの毛皮を暗く染める輩が現われる。

 毛を染められると鑑定が難解になる。
 1度の鑑定に時間がかかり、利益が出なくなる。

 利益が減ると、その分価格に反映される。
 それでは結局、誰も得しない。

 だからこそ一菱は、品質が変っても価格は一律で買い取っていた。

 大井素は製作所から素材を求められ、発注数量に間に合わせるためにシルバーウルフを狩りに来た。

 だがそこで、欲目が出た。

 どうせ自分が集めるのだから、すべてを高品質の素材にしてしまおう。
 もし高品質の素材を納品すれば、製作所からの評価が上がるに違いない!

『札幌の一菱買取店に頼めば、高品質素材を納品してくれるぞ』と……。
 そう思われれば、大井素の評価が上がる。

 他の支店長を出し抜ける。

 憎き夕月を、実力で蹴散らせる!!
 そう思った結果が、これだ。

 8階には冒険家の狩り残しが多数徘徊していた。
 手負いのシルバーウルフと飼い主に、大井素は囲まれた。

 大井素は自慢の長剣で切り抜けようとしたものの、多対1。
 傷を負って通常よりも脅威度の増した魔物の群れにじわじわ追い詰められた。

 それでも大井素は善戦した。
 後ろに下がりながら、何匹もの魔物を倒した。
 だが、善戦は長く続かなかった。

 ほんの僅かばかり油断した隙に、長剣が弾き飛ばされた。
 さらに逃げる際に落とし穴に落ちて骨折までしてしまった。

 通常なら倒せるはずの魔物を相手に、大井素は逃げ出すのでさえ精一杯だった。

 まったく情けない。

 もう1週間以上はダンジョンに籠もりきりだ。

 汗と埃で体がギトギトだ。
 だが匂いはない。
 隠密系の道具を体に振りかけて、匂いを消し去っている。

 これがなければ1日とて生き延びられなかっただろう。

「ふふ、だから……?」

 生き延びたから、なんだというのだ?
 大井素は自嘲する。

 冒険家とは、死ぬことと見つけたり。

 ダンジョンに入った冒険家が遭難しても、助けが来るなど希。
 真っ先に民衆の盾にならなければいけない冒険家は、日本で最も命が軽い。

 よほど希有な人材でもなければ、捜索隊など出されない。
 あるいはランカークラスか。

 大井素はそのどちらでもない。
 誰かが助けにくるはずがない。

 そんな状況で、僅かでも生きながらえようとしている自分が、醜くて仕方がない。

 自分の軽率な行動で、こんな状況に陥ったのだ。
 それだけで既に、醜態だ。
 おまけに生き延びようと、いまも泥水をすすっている。
 益々、心が汚れていく気がした。

 これ以上心が汚れるくらいなら潔く、死んでしまったほうが良いのではないか?
 そう希望に似た暗い感情が頭をかすめる。

 対して、もう少しだけ生きてみよう! と明るくも儚い光が必至に叫ぶ。

「もう少し……か」

 当初は1日で帰るつもりだった。
 食料は5日分しか用意していない。

 既に食料は底を突いている。
 あとは存在感を消す道具の効果が、いつまで持つか……。

「…………ッ!」

 自分など死ねばいい。
 そう、自嘲していた大井素は、道具の効果が切れた後を想像し、震えた。

 思わず発狂しそうになった。
 だが発狂するだけの力が、もう残っていなかった。

 怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い!!

 死にたくない。
 まだ死にたくない!

 すぐ側まで近づいて、姿が明確になった死が大井素を恐怖させる。
 ガタガタと震える体を、両腕で抱いて押さえつける。

 ボロボロと涙が溢れ、喉の奥から嗚咽が漏れる。

「……誰か」

 涙がひび割れた唇に触れる。
 チクリと、涙が傷に染みた。

 涙で貴重な水分を失うなんて馬鹿らしい。
 おまけに口の中がパサパサだ。呟くのだって億劫である。

 だが大井素は、涙を止められなかった。
 呟かずにはいられなかった。

「誰か、助けて……!」

 そのとき、大井素が隠れていた茂みが不自然にガサガサと揺れた。

 魔物か!?
 大井素はぎょっとした。
 けれど備える力など残ってはいない。
 ただ音の聞こえた方に目をやり、魔物に食べられる最悪の未来の訪れを、受け入れる。

「……やっと見つけた」

 ――現れたのは、
 手はヌメヌメした2本の触手。
 背には蠢く植物の魔物。

 ――現れたのは、
 宙に浮かぶ、醜悪な仮面の悪魔だった。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 大井素は残る気力を吐き出すように悲鳴を上げ、白目を剥いて気絶したのだった。
ついに大井素さんを発見!!
しかし何故か気絶してしまいました。

一体何故なんでしょう……?(すっとぼけ
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