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冒険家になろう! ~スキルボードでダンジョン攻略~ 作者:萩鵜アキ

2章 冒険家レベルが上がっても、影の薄さは治らない

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33/72

依頼を引き受けよう!

最難関ダンジョン『新宿駅』が、一部『渋谷駅』となっておりました。
訂正してお詫びいたします。
 週の終わりまで狩りを続けると、いくつか変化が起きた。

 まずひとつ目は、シルバーウルフの一日の討伐数が300頭で安定するようになった。
 タイムアタックをしなくても300台に乗る。頑張れば350まで伸ばせる。
 それくらい晴輝らの基礎レベルが上昇した。

 ただ無理をして数を伸ばしても、解体出来ない魔物が増えるばかり。
 経験値がシルバーウルフ3頭より若干下回っても、少し強い魔物1体を狩った方が効率が上がりそうだ。

 そろそろ下に降りるのも良いかもしれない。


 次に、晴輝と火蓮のスキルがようやっと自然に上昇した。


 空星晴輝(27) 性別:男
 スキルポイント:3
 評価:剣人

-生命力
 スタミナ1→2
 自然回復0

-筋力
 筋力1→2

-敏捷力
 瞬発力1
 器用さ1→2

-技術
 武具習熟
  片手剣1→2
  投擲1
  軽装0→1
 隠密1
 模倣1

-直感
 探知0

-特殊
 成長加速3
 テイム0


 黒咲火蓮(18) 性別:女
 スキルポイント:3
 評価:精人

-生命力
 スタミナ0→1
 自然回復0

-筋力
 筋力0

-魔力
 魔力1
 魔術適正1
 魔力操作1→2

-敏捷力
 瞬発力0
 器用さ0

-技術
 武具習熟
  鈍器0
  軽装0

-直感
 探知0

-特殊
 運1


 晴輝はスタミナ、筋力、器用さ、片手剣に軽装とそれぞれ1ポイント。
 火蓮はスタミナと魔力操作が1つ上昇した。

 晴輝は前衛なので、それぞれ伸びた項目は妥当。むしろ軽装などは少し遅かったくらいだ。

 火蓮のスキルだが、スタミナはさておき魔力ではなく魔力操作が上がっているのは、フレンドリィ・ファイアを避けながら素早い狼に対応し続けたためだろう。

 メインアタックは火蓮に行って貰っているのだが、上昇スキル数は晴輝のほうが上だった。
 手数やダメージによる取得経験は一見火蓮が上なので、スキルで火蓮が上を行かないのは不自然である。

 もしかすると成長加速は、スキルの成長にも補正がかかっているのかもしれない。


 他には、レアが完全に元気を取り戻した。
 上から下の葉まで、いまでは生き生きとしている。
 頭の花も、心なしか色が濃くなっている。

 この前渡した魔物肉の堆肥のおかげか、あるいは魔石の効果か。
 前者はさておき、後者は土中に宝物を埋め込めば埋め込む程、能力が増していくのだろうか?
 ボスのジャガイモ100発を思うと、その可能性は十分考えられる。

 とはいえ攻撃手段は宝物の放出である。
 攻撃すればするほど弱体化していくなんて、哀れである。


 相変わらずなのは朱音だ。
 彼女はずっと元気がない。


 狩りを終えてお店に向かうが、今日も朱音は元気がなかった。
 難しい顔をして、ふぅと小さくため息を吐き出している。

「……素材の買取を頼む」
「わかったわ。素材を出して」
「ああ」

 会話だって事務的だ。
 非常につまらない。

「買取価格は187,500円ね。ああそうだ。この前言ってた解体用のナイフが届いたわよ」
「ずいぶん早かったな」
「ええ。特急で作って貰ったからね。それと砥石も。研いでいく?」
「頼む」

 解体用ナイフはシルバーウルフの牙を元にして作られていた。
 解体用だというのに、一菱のエントリーモデル用ロゴ“一”が刻まれている。
 価格は10万円だった。

 切れ味は、現在使用しているシルバーウルフの短剣と同じ。
 だが用途が違うので戦闘には使えない。

 シルバーウルフの短剣を砥石で研磨していく朱音は、手元を見ているのになにも見ていないように感じられる。

 集中してないのか。あるいは集中出来ないのか。
 それでも彼女はしっかり仕事は行った。
 刃に指を添えると、あっさり薄皮が切れてしまう。まるで新品だ。

「代金はいくらだ?」
「…………」
「おい!」

 朱音があまりにぼんやりしているので、晴輝はつい声を荒げてしまった。

「一体なんだっていうんだ。最近の朱音はおかしいぞ? この前までの元気はどこにいったんだ?」
「……アタシだっていつも元気なわけじゃないのよ」
「それはわかるが、ずっとそうしていられると調子が狂うんだが」
「知らないわよそんなの。……でも、そうね。困るっていうんだったらひとつ、訊いて貰おうかしら」

 朱音からはダメで元々、という雰囲気を感じる。
 一体彼女はどんな悩みを抱えているというのだ?

 真っ先に思い浮かんだのは店だ。
 晴輝が素材を売りすぎて潰れるかもしれないと。

 さすがにそれは困る。
 潰れたら、わざわざ札幌まで出て素材の販売や武具の調達を行わねばいけない。

 もしそうだったら、晴輝は全力で彼女を手助けするだろう。

「実は札幌の買取店の支店長が、行方不明なのよ。はじめは業績が悪化したから夜逃げでもしたのかと思ってたけど、ICカードの履歴から、どうやら『ちかほ』に入ったんだってことが判ったのよ」

 改札口にカードをかざすことで、冒険家の入出が自動的に記録される。
 入山記録のように、帰って来ない人物がダンジョンの中にいるかどうかを調べることができる。

 とはいえ出来ることはいえそれだけだ。
 中の、どの辺りに居るかまではわからない。

「どのくらい戻ってきてないんだ?」
「5日間くらいかしらね」

 朱音の雰囲気が変ったのもそれくらいからだ。
 なるほど。どうやら彼女は相当支店長のことが気になっていたらしい。

「……助けに行かないのか?」

 朱音はおそらく、冒険家の資格を持っている。
 そして、レベルもかなり高い。
 自分よりも朱音の方が、ダンジョンでの捜索に向いているように晴輝には思えた。

 だが朱音は首を振った。

「アタシにはお店があるもの。これでも支店長。管理職なのよ? 同僚がダンジョンから帰ってこないから数日店を閉めますなんて、赦されるわけないじゃない」

 助けに行きたいが、立場があるから助けにいけないと。

「いや、休みの日に行けばいいだろ」
「今までアタシが休んだところ、見たことある?」
「…………そういえばないな」

 もしかしてお店と同じ年中無休?
 やーだー、超絶ブラックじゃないですかー。

「え、マジか? 冗談じゃなく?」
「ええ。こんなところじゃ、仕事と休みに違いはないわ」
「なるほど」

 確かに朱音が忙しいのは晴輝が現われるときくらいなものだ。
 毎日が仕事でも、実労働1時間もないならどうってことはない。

「で……空気はアタシが依頼を発注したら、受注してくれる?」
「内容にもよる」
「そうね。支店長を捜索してほしい。場所は『ちかほ』。ダンジョンの8階まで」
「8階という根拠は?」
「武具製作所からシルバーウルフの材料確保の依頼が来てて、どうもその納期に合せようとダンジョンに潜ったらしいのよ。『ちかほ』でシルバーウルフが出現するのが6階から8階だから、おそらくそのどこかにいるはずだと思うんだけど」

「なるほどな。期限はどれくらいにする? さすがに見つかるまでは無理だぞ。骨すら残っていないかもしれないからな」
「…………」

 晴輝の物言いに、朱音は唇を歪めた。
 だが最悪を想像して動いたほうが、後々最低の場面で取り乱さない。
 少なくとも5日間戻って来ないということは、既に死んでいる可能性が高い。

 現実から目を背けて依頼を発注しても、結果が良くなければクレームを入れられかねない。

 デザインの制作現場では時々、プロに依頼するとただの石がダイアモンドになると勘違いする客がいる。
 プロは魔法使いじゃない。
 石はどれほど加工しても、綺麗な石にしかならない。

 それと同じように、依頼を受ける場合は相手に最悪の結末を想定させておかなければ、後々禍根を残しかねない。
『探してくれるって言っただろ! なんでなにも見つからないんだよ! 訴えてやる!!』と怒り出す。

 探すとは言ったが、見つけるとは言ってない、などと言うと益々激高する。
 そういう可能性が生じる。

 冒険家として晴輝はまだまだ初心者だが、契約や依頼などは既に前の会社である程度揉まれている。

 朱音が質の悪い客だと晴輝は思っていない。だが探して欲しい人物が大切な人であればあるほど、感情は止められなくなる。

 だからこそ晴輝はあえて、残虐な未来を口にした。

 彼の意図を読み取ったのか、朱音がなにかを飲み込むように胸を動かした。

「……わかったわ。期間は1ヶ月間でどう?」
「長いな。根拠は?」
「彼女はマジックバックを持っているし、遭難しても良いように備えはしていると思うから」
「そうか……」

 晴輝はしばし考えて口を開く。

「悪いな。1ヶ月間もここを離れたくないから依頼は受けない」
「なんでよ!? いまのは、依頼を受ける流れだったじゃない!!」

 朱音が激高した。
 さすがに怒りが悩みを頭から追い出したのか、いつもの勢いが戻ってきている。

「いや、離れたくない理由があるんだ」

 1ヶ月も家を離れると、さすがにレアが枯れてしまいそうだ。

 残念ながら晴輝の頭の中は、すぐに手の届かない地にいる見知らぬ誰かの命よりも、手が届くレアの命でいっぱいだった。

「冒険家ってほんと自分勝手なのね! 他人を助ける日本を救うなんて御託を並べといて、遭難した冒険家は救わないなんて、冒険家って口だけなの!?」
「目の前に遭難者がいるならまだしも、遭難場所は『ちかほ』だ。何故遠く離れた地にいる俺が、『ちかほ』の遭難者を救わないからって責められねばならんのだ。救いたいなら札幌の冒険家に頼め」
「空星さん、空星さん」

 晴輝の肩を、火蓮がちょんちょんと叩いた。

「あまり言うと、可哀想です」
「……ふむ」

 冒険家は、死ぬことと見つけたり。
 ダンジョンに潜る冒険家はいつだって命を賭けている。

 だからといって、何でもかんでも無条件に命を賭けるわけじゃない。

 救って欲しい人がいるからお前の命を差し出せ。
 救助に向かわないならお前は冷酷非人だ。
 そう言わんばかりの朱音の態度が、晴輝は癪に障った。

 だからこそ晴輝は拒絶した。
 晴輝が無条件に命をかけて他人のために動くのは、一般人救出と、手の届く範囲のみとそう決めている。

 人道を思えばもっと範囲を広げるべきかもしれない。
 だが現代は、救えない命があまりに多すぎる。

 ある程度で抑えておかねば、現実の重みであっさり自滅する。

 ただ……少し言い過ぎたのは確かだ。

 少々大人げなかった。
 晴輝は唇を噛んで自らを諫めた。

「どうにか助けてあげられませんか?」
「うーん……」

 レアと1ヶ月離れるのはなあ……。
 その考えが顔に出ていたのか、火蓮がむくれながら晴輝に囁いた。

「放っておけないなら、連れて行けばいいじゃないですか。別に移動させられないわけじゃないですよね?」
「……あっ。それもそうだな」

 プランターに植えたんだから、持ち運び自由ではないか。
 火蓮の言い分は、確かに一理も二理もある。

 火蓮の助言で、晴輝にとって一番の懸案事項があっさり解決されてしまった。

 であれば1ヶ月間で『ちかほ』の8階まで捜索する。
 レベリングも出来て報酬ももらえる。最高の依頼である。
 受けない手はない。

「判った。朱音の依頼を受けてやろう」
「ほんと!?」
「ただし、依頼料金とは別に1ヶ月間の経費はそっちが持ってくれ」
「当然ね。基本報酬は30万円。1日で見つかっても、1ヶ月間見つからなくても30万円は保証するわ。次に、発見報酬は20万円。1日で見つけられれば支給額50万円よ。おいしいでしょ?」
「確かにな」

 上層での救助依頼としては普通か、少し上くらいの価格だ。
 だが、それだけじゃ救助活動時に足が出る。

 その思いを読み取ったのか、朱音が指を5本立てた。

「探索期間中に持ち帰った素材は全て5%アップで買い取るわ。さらに鑑定料と装備の修復料は無料。滞在費、治療費、飲食代もうちが持つ。どう?」
「最高だな」
「でしょ? だから……任せるわよ?」

 いつになく真剣な朱音の様子に、晴輝は真顔で頷いた。

 いつもは自分が最高で天使だ美女だなんだと口にしているような人が、こうして他人のことを思って全力を尽くしている。

 そんな彼女の祈りに、少しでも応えてあげたい。
 晴輝は朱音の思いに感動し、どうにかしてその支店長を見つけ出そうと決意を固めるのだった。

          *

 晴輝らが返ったあと、朱音はレジを締めながらゆっくりと息を吐き出した。
 そのため息はここ数日間のものとは違う、非常に暖かいものだった。

「あの馬鹿を捜索してくれる人が決まってよかった……」

 ほんとに馬鹿なんだから、とブツブツ呟く朱音の表情は、言葉のとげとげしさとは裏腹に柔らかい。

 札幌の買取店支店長――大井素(おおいそ)才加(さいか)は、シルバーウルフの素材を冒険家から入手出来なかったため、自ら素材を調達しにダンジョンに潜った。

 一菱では荒くれの冒険家を相手にするために、店を任される社員は一定の訓練を行っている。
 訓練を行うのはおおよそが安全確保のためであり、決して素材の帳尻を自らで合せるためではない。

 業務外のことを行って、おまけに遭難するなんて。
 なんて馬鹿な、と朱音は思う。

 冒険家に常に種をまいておけば、シルバーウルフ程度の素材など簡単に集まってくるはずなのだ。
 それが出来てなかったのは、大井素の店員としての力不足である。

 おまけに朱音はK町で散々シルバーウルフの素材を買い取っていたため、在庫がダブついていた。
 なのに、何度商品移動すると言っても、大井素は一切聞く耳を持たなかった。

 商品移動さえしていれば、シルバーウルフを狩りに行かずに済んでいたのに。

 きっとプライドが赦さなかったのだろう。

 なんて馬鹿な。
 ほんと馬鹿だ。
 バーカバーカ!

「ふ……ふふ……」

 そんなダメ人間がいるからこそ、自分のような才能に溢れた社員が輝ける!
 つまり彼女は闇。
 輝く朱音をより輝かせるための存在なのだ!

 これを失っては(朱音の)世界の大いなる損失である!!

「絶対に死なせたりしないわよ!! だから生きてなさい。意地でも生き延びなさい。いま空気が、助けにいくんだから! ――ダメなアンタをね!! フヒヒ!!」

 さあ、あの子が戻ってきたどうやって罵倒してやろうかしら?
 そんなことを考えながら、すっかり天気になった頭を働かせる朱音。

 彼女はそうやって馬鹿を演じることで、最悪の結末を必死に忘れようとするのだった。
 …………たぶん。
※商品移動
 商品移動とは、在庫を他店になすりつけること。
 販売ノルマが増えるため、受け店は発店に向けて怨嗟の言葉をまき散らす。
 多くの支店を持つ企業のみに赦された残虐非道な行為である。
(本説明は、事実とはかけ離れている場合がございます)

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