挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
冒険家になろう! ~スキルボードでダンジョン攻略~ 作者:萩鵜アキ

2章 冒険家レベルが上がっても、影の薄さは治らない

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

31/72

ジャガイモと仲良くなろう!

 狩りを初めて1時間ほど経過した頃、すぐに次に移動しようとする晴輝の背中になにかがぶつかった。

「おう!?」
「空星さん。休憩にしましょう」
「えっと……いや、まだ行ける――」
「休憩に、しましょう?」
「…………はい」

 般若のような笑みを浮かべた火蓮の視線に晴輝は萎縮する。
 昨日狩り中にしてぶっ倒れたからか、どうやら狩り時間のコントロールに関して晴輝は火蓮からの信用の一切を失ったようだ。

 もしかして先ほどの衝撃は魔法だったのでは?
 まさかのフレンドリィ・ファイア。
 いきなり実力行使とは、恐るべし。

 威力は最小限。衝撃のみで、怪我も痛みもなかった。

 とはいえ魔法は怖い。
 火蓮はもっとだ。
 晴輝は壁に背を預けて座り込む。

 彼女から見えない位置にスキルボードを出現させて画面をタッチした。
 火蓮からは地面に文字を書いているようにしか見えないはずだ。

 多少いじけているように見えるかもしれないが、スキルボードにさえ気づかれなければ問題ない。


 空星晴輝(27) 性別:男
 スキルポイント:3
 評価:剣人

-生命力
 スタミナ0→1
 自然回復0

-筋力
 筋力1

-敏捷力
 瞬発力1
 器用さ1

-技術
 武具習熟
  片手剣1
  投擲1
  軽装0
 隠密1
 模倣1


 ここまで、晴輝は相当ハイペースで狩りを続けた。
 そのおかげか、スタミナが1つ上昇している。

 ただ、これだけ必死に狩りを続けていたというのに、以前振ったスキルは1つも上昇していない。
 それだけでなく、攻撃もそこそこ当たっているというのに軽装も0のまま。

 スキルボードを遣い始めて1・2週間。
 すぐにポンポン上がるとは、晴輝は思っていない。
 とはいえ、やや上がりにくい気がする。

 当初晴輝が想像したスキルレベルの強さは、例えば片手剣なら――

 0=初心者
 1=少し慣れたくらい
 2=剣道初段くらい
 …………
 5=プロ・熟練者
 …………
 10=神

 こんな具合だった。
 しかしこの考えでいくと、シルバーウルフに勝てる晴輝は剣道初段より劣っていることになる。

 もちろんそれ意外の要素もあるだろうが、いまいちしっくり来ない。
 想像よりもスキルの評価は厳しいのだろう。

 技術系熟練度はMAXが10なので判るが、肉体系スキルはMAX30なのでもう少しサクサク上がって欲しい。

 そんなことを考えながら、晴輝は直感、特殊とツリーを開いていく。
 そこで、

「――ッ!?」

 晴輝は思わず声を上げそうになった。

-特殊
 成長加速3
 テイム0 NEW

 ……あれか?
 アイツを連れ込んだからか!?

 それ以外あり得ない。
 取得条件があまりに明白で疑う余地もない。

 名前を読むだけで内容を想像出来るが、念のために説明を確認する。

 テイム0(魔物をテイムする。互いに依存することが条件)MAX5

 晴輝はレアから取れるだろうジャガイモに依存していたし、レアは晴輝がいないと枯れてしまっていた。

 ……なるほど。
 確かに晴輝が行ったことはテイムだ。

 知らず知らずのうちに魔物をテイムしていたなんて。
 しかも動物系ではなく、植物系のテイムとは……。

 俺はまた、なんて影の薄いことを……ッ!!
 晴輝は頭を抱える。

「ドルイドとかエルフっぽいか?」

 考え方を変えると少しだけ格好良くなる気がする。
 ……にしても植物テイムは、どう解釈しようと影が薄い。

 もう少し濃い魔物が良かったなあ。

 そう思うが名前を付けた以上、晴輝はレアの面倒を見ると決めたのだ。
 捨てるつもりはないし、プランターに馴染んでくれた以上は愛子のように接するつもりである。
 子芋こどもは出来ないけれど……。


 本日の成果はシルバーウルフ276体。
 休憩を入れたのに昨日よりも多く倒すことが出来た。
 おそらく晴輝が昏倒しなかったのが大きな要因だろう。明日辺りには300体に載せたいところだ。

 素材を売りつけに店に行くと、朱音がぎゃんぎゃん泣きながら許しを請うてきた。
 うん、実に良い日である。

「あの、空星さん。今日狩りをした狼の肉を、一緒に、その……食べませんか?」
「あ、ごめん。今日も忙しいんだ」

 軽く謝罪を入れて晴輝はうきうきとした足取りで自宅まで戻っていった。


 その様子を見て、火蓮は頬を膨らませた。

 スタンピードが終わった頃からだろうか?
 晴輝がちっともご飯を作ってくれなくなってしまった。
 以前は火蓮が頼まなくても料理を作ってくれていたというのに……。

「……もしかして!?」

 脳裏に嫌な想像が浮かび、背筋が凍り付く。

(まさか空星さんに、彼女が出来たんじゃ!?)

 けれどそれを直接確かめる術を、火蓮は持ち合わせていない。
 一体どんな顔をして「空星さんには彼女がいるんですか?」など聞けよう?
 そんな恐ろしいことは、決して口にできやしない!

 もし「彼女がいるんですか」と聞いて「はい、お付き合いしている人がいます」など言われようものなら、昏倒してしまう!!

 どうするかしばし考えた火蓮は、ある作戦を思いつき、即座に実行に移す。
 その作戦ならば、大ダメージを負う可能性を少しでも低く出来るはずだ……。

          *

 家に戻るとレアが萎れていた。

「レアぁぁぁぁぁ!?」

 一体何があったのか?
 あまりに残酷な現実に、晴輝の瞳が湿っていく。

 慌てて駆け寄り、晴輝はレアの葉に触れる。
 レアの葉は水分が抜けきったようにしわしわだった。

「一体、どうして……」

 晴輝の声で気がついたのか、レアがくたっとしながらも葉っぱの先端を土に向けた。

「…………水?」

 こくこく、とレアが頷く。
 確かに朝は湿っていたはずの土が、いまはからからに乾燥してしまっていた。

 現在は初夏。
 気温はまだ高くはないが、日差しは少しずつ強くなってきている。

 プランターは水分含有最大量が少ない。なので部屋に差し込んだ日光が、土中の水分をあっさり蒸発させてしまったのだ。

 しまった。
 そこまで頭が回っていなかった。

 晴輝は慌てて鞄から、冒険用に使っていた水筒を取り出して中の水を土にかけた。

 それでようやく息を吹き返したのだろう。
 レアが深呼吸するように、ゆったりと体を持ち上げた。
 葉の隅々まで水が浸透すると、晴輝の頬をペシペシと何度も叩いた。

「ごめん。今度から気をつける。本当にごめん」
 まったくよ! とレアは腕を組んでそっぽを向いた。

 ……危ないところだった。
 面倒見ると決めたそばからレアを失っていたらと思うとゾッとする。

 晴輝は井戸から水をくみ上げ、桶に注いでプランターの側に置いた。
 その中に軽量カップを入れてレアに見せる。

「今度から喉……じゃなく土が乾いたら、これをこう持ち上げて水を補給して」

 なるほど、とレアはゆっくり頷いた。
 これがあれば乾燥しすぎで倒れることはない。

「あと欲しいものとかある? レアがなにを食べるか、俺にはわからないんだ」

 うーん、と体を捻ってレアは鞄を葉で指した。

「ジャガイモ石?」

 ふるふる、とレアは体を揺する。
 車庫のある方向を葉で指し、大きく体を動かす。

「ふんふん。ダンジョンの中で見つかったジャガイモ石みたいなアイテムがあれば欲しいってことかな?」

 こくこく、とレアは頷いた。

 レアのボディランゲージのレベルは高いが、それを踏まえてもより多くの意思が伝わってくる気がした。

 ここまで理解出来るのは、テイムスキルが出現したからだ。

 しかしレベル0でこれとは。
 カンストしたら声が聞こえるようになるかもしれない。

「そうだ。レア、まだ使ってない肥料があるんだけど、試してみる?」

 えー。
 レアはあまり乗り気じゃない。

 折角お金を払って(結構高かった)購入した肥料が無駄になるのは痛い。
 晴輝は袋を取り出してレアに見せ、プレゼンを開始した。

          *

 晴輝と別れたあと、火蓮は晴輝の家に侵入した。

 もしかしたら、晴輝は彼女と同居しているかもしれない。
 だが、それを口頭で尋ねることはできない。

 ならば、話は簡単だ。
 こっそりその様子を窺えばいい。

 悪いことではある。
 だがそちらの方が、ダメージが少なくて済む。

 火蓮は自らの精神の崩壊だけは、避けたかった。

 思いついてしまった火蓮は止まらない。
 靴を脱いで、抜き足差し足フロアを歩く。

 上階からなにやら声が聞こえてきた。
 晴輝の声だ。

 そっと階段を上り、晴輝の声が聞こえる部屋の前に到着。

 1度、深呼吸。

 なにがあっても、私は取り乱してはいけない。
 取り乱さずに諦めて、このまま黙って去るんだ……。

 火蓮は意を決して扉に耳を付ける。
 だが、

  『ねえ、入れるよ? え、ダメ?』
「――!?」
  『ねえ、ちょっとだけだから。入れていいでしょ?』
「――!?!?」
  『きっと気持ちいいと思うよ?』
「~~~~~!!!!」

 聞こえてきたいかがわしい言葉の数々に、火蓮は動揺を堪えることが出来なかった。

          *

「だだだ、ダメです空星さんエッチです!」

 丁度晴輝が肥料を手にしていたところで、火蓮が顔を真っ赤にして乗り込んできた。

 やばい。
 見つかった!
 どうしよう!
 晴輝はパニックに陥った。

「あれ?」
「ん?」

 このまま怒鳴り込まれる!
 そう身構えたのだが何故か、火蓮がぽかんとした。

 一体どうしたのだろう?
 火蓮の内心が読めない。

 肥料を手にしたまま何も出来ずにいる晴輝の横で、レアが殺気立つ。
 なにこの女? と。

 最も太い茎を火蓮に向けて――。

「待った! レア、彼女は俺のチームメンバーだ。攻撃はするな」

 慌てて晴輝が間に割って入った。
 まだ土中に残っていたのだろう。茎にははっきりとジャガイモの膨らみが見えた。

 あとコンマ数秒遅れていたら、ジャガイモが発射されていたところだ。
 しわしわだから、怪我はしなかっただろうけど……。

「空星さん、レアってなんですか?」
「ん、ああこの子の名前だよ」
「それは魔物ですか?」
「そう、だね……」
「な!? 一体どうして魔物がここにいるんですか!」
「ま、まあ落ち着いて、ね?」

 火蓮が取り乱すとにレアが殺気立つので、落ち着いてもらいたい。

 晴輝がなだめると、火蓮は一度深呼吸をして床に正座した。
『さあ言い訳を聞きましょうか。どのみち死刑ですけどね』という声なき声が聞こえてくる。

「で、なんで魔物がここに?」
「実は俺がダンジョンから持ってきて――」
「持ってきた!?」
「ここに植えたらうまく定着して」
「なんで植えたんですか!」
「いや、火蓮が『ジャガイモを栽培すれば』みたいなことを言ってたから」
「私が言ったのは普通のジャガイモです。魔物じゃありません!」

 あれえ?
 てっきり魔物のジャガイモを収穫出来なくて落ち込んだから、家庭菜園で(魔物の)ジャガイモを作ればいいじゃないですか、と言ったのだと思っていたんだけどな……。

「…………理由はわかりました」

 全くわからないけど、という顔をして火蓮が口を開く。

「けど、これは魔物なんですよ? もし攻撃されたらどうするんですか?」
「攻撃されても大丈夫だよ」
「寝込みを襲われるかもしれないじゃないですか!」
「ううん。それでも大丈夫。ここに植えたことで、レアには殺傷力がほとんどなくなったんだ」
「殺傷力がなくなった?」
「うん。ごめんレア、出して」

 そう言うと、レアが少し乱暴にジャガイモを排出した。
 スパン! とジャガイモが強めに手の平にあたる。
 だが、全く痛くない。

「この通り、ダンジョンから出したらジャガイモがしわしわになっちゃうんだ」

 レアでは晴輝にダメージを与えられない。
 当たり所が悪くても、せいぜい青たんになる程度だ。

「うーん」

 しわしわジャガイモを渡された火蓮が、何度もその感触を確かめて唸る。
 眉間に皺を寄せているが、瞳にはどんどん怪しげな光が灯っていく。

 ……どうやら、そのフヨフヨの感触がお気に召したようだ。

「殺傷力がないのは、わかりました。けど魔物ですよ? 人類の敵じゃないですか」
「そうだけどレアは――」
「今すぐ引っこ抜きましょう!」
「待った待った!」

 立ち上がりそうになる火蓮の肩を晴輝が抑える。
 いけない。目が据わってる……。

 晴輝の背後では、引っこ抜かれると思ったレアが『やれるもんならやってみなさい』というように体を反らせている。
 こらそこ、挑発しない。

「レアは確かに魔物だけど、良い魔物だ」
「私の目にはそうは見えませんけど?」
「ジャガイモの茎が、邪悪な魔物に見える?」
「む……それはないですけど。でも魔物です」
「火蓮」

 晴輝は火蓮の肩を掴みながら、まっすぐ彼女の瞳を見つめる。
 すると火蓮の瞳が僅かに動揺した。白い頬にほんのり朱が帯びる。

 ぺし、と晴輝の背中にしわしわジャガイモが直撃。

 おいレア……。いまは横やりを入れるな。
 睨むと『ふん!』とレアはそっぽを向いた。

「魔物だってあり方次第で、狼と犬みたいに人類の敵にも友にもなる」
「けど……」
「じゃあ『ちかほ』の1階にいる冒険家たちと魔物と、どこがどう違う?」
「…………」

 晴輝が指摘すると火蓮は苦い顔をして口を閉ざした。

『ちかほ』の1・2階では、ポップと同時に冒険者が一斉に魔物に群がってリンチする。

 湧いたばかりの魔物が親族や恋人など大切な誰かを殺したわけじゃない。
 個に罪はあるかもしれないが、種に罪はない。

 だが、親の敵のように殺される。
 死んでも何度も殴られる。刻まれる。潰される。

『一体どちらが魔物なんだ』

 あれを初めて目にした冒険家ならば、誰しもがそう思うだろう。
 晴輝も思った。
 きっと火蓮も思ったに違いない。

「もちろん、だからって魔物を放置しろなんて言うつもりはない。見かけたら倒すべきだとも思ってる。俺が言いたいのは、敵か味方かの判断っていうのは種じゃなくあり方なんじゃないかってことだ。
 レアは間違いなく味方だ。こうして背中を向けていても攻撃してこない。もし敵なら、絶対に攻撃してきてるはずだろ?」
「……空星さんの背中にジャガイモ、当たりましたよね?」

 鋭っ!
 僅かな矛盾を突く火蓮の指摘に晴輝の顔が強ばった。

「気にするな。ただの愛情表現だ!」

 誤魔化すとまた背中にジャガイモが直撃した。
 あれ、今度はちょっと痛いぞ?

 横目で睨むと『そんなんじゃないから!』みたいにレアがツンツンしていた。
 その様子に晴輝はつい吹き出してしまった。

 面白い。
 実に面白い。

「どうだ火蓮。こいつに敵意があると思うか?」
「なさそうですけど、なんでしょう。とても許容してはいけない気がします。ライバル的な意味で」

 ライバル?
 晴輝は首を傾げる。

 ……ああ、レアが遠距離攻撃だからか。

「大丈夫だ。火蓮は魔法使いだし、レアはジャガイモ物理攻撃だ。それにレアはまだジャガイモを飛ばすが、新たにジャガイモが出来る体じゃない。ライバルにはならんと思うぞ」
「そうですけど……いえ、そういう意味じゃなく……まあいいです。最悪の状況は回避出来たようですから」

 最悪……?
 火蓮はわざとらしく大きなため息を吐き出した。

 彼女がなにを危惧していたかは定かじゃない。
 だがとにかく、晴輝は火蓮に己の愚行を見逃してもらえたのだった。
ジャガイモ。
ヒロインの乗っ取りに成功す。

次回更新日は火曜日です。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ