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冒険家になろう! ~スキルボードでダンジョン攻略~ 作者:萩鵜アキ

2章 冒険家レベルが上がっても、影の薄さは治らない

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シルバーウルフを討伐しよう!

 空星晴輝はやはり、どこかが歪んでいる。
 そう思うのは、自分の認識が歪んでいるからだろうか?

 狼の群れに特攻する晴輝を眺める火蓮は、うっすらそんなことを思った。

 彼が提案する作戦は突飛もない。

 特にスタンピードのときがそうだった。
 一人でダンジョンに特攻するなんて、勇敢を通り超して無謀だ。

 ジャガイモの魔物の時もそうだ。
 目で捕らえるのもやっとなジャガイモを、彼は近距離で躱せと言ってきた。

 きっと自分が出来るから、他の人も出来るだろうと考えているのだろう。

 それは周りに厳しいからではない。
 彼はきっと、自己評価がものすごく低いのだ。

 いきなりとんでもないことを平気で言い出すガチ勢冒険家なのかと思えば、効率に無関係なこだわりを持っていたりもする。

 不気味な仮面を無頓着に装着したり、自らの存在感の無さに異常に敏感だったり。
 はたまたジャガイモが収穫出来ないだけで酷く落胆したり、その後すぐに歓喜して立ち直ったり……。

 ――不思議だ。

 彼は、楽しそうに狼と戯れている。
 攻撃が体を掠っても、一切臆さない。

 相手は人を食らう狼の魔物なのに、彼の様子だけを見ればまるでじゃれる犬と、そんな犬に躾をする飼い主みたいに思えてしまう。

 ――不思議な存在だ。

 容易く命を奪う人類の敵を前にして、何故そこまで楽しめるのだろう?
 火蓮には無理だ。

 なのに彼の姿を見てると、戦闘中だというのに楽しくなってしまう。

 実際、晴輝に釣られて笑ってしまうことも度々あった。
 火蓮は常に後ろにいるので、きっと彼は気づいていないだろうけれど。

 スタンピードが起きて魔物に家族が殺されてから、火蓮は魔物が憎悪の対象となった。
 その火蓮が、討伐中に笑ってしまうのだ。

 決して気が触れたわけではない。
 あふれ出した憎悪で狂ったわけでも。

 ただ晴輝があまりにも面白そうに狩りをするものだから、火蓮は彼の感情に共振してしまうのだ。

 魔物はいまでも恐ろしいし、憎らしい。

 なのに強くなりたい。
 強くなって、もっと強い魔物と戦えたら、どんなに楽しいだろう?
 そう、想像してしまう。

 これも間違いなく、晴輝のせいだ。

 晴輝が火蓮を変えた。
 憎悪に囚われただけの火蓮を、変えてしまったのだ。

 とはいえ。

「はぁ……」

 とはいえだ!

 狩りに夢中になりすぎて、スタミナ切れで倒れてしまう癖は、どうにかならないだろうか?

 仮面を付けたまま、ぜぇぜぇと少し危ない呼吸を繰り返す晴輝を眺めながら、火蓮は陰鬱な表情で独りごちる。

「なんでこんなのを……になっちゃったんだろう?」

 仮面を付けて粗い呼吸を繰り返し、笑いながら魔物を倒す人。
 事実だけを集めれば、正に“”。
 ただの危ない変態だ。

 なのに……。
 はあ、と彼女はまた、深いため息を吐き出すのだった。

          *

 狩りを終えて地上に戻った晴輝は、早速朱音のいるプレハブを訪れた。

 相変わらずなにもないプレハブの奥。朱音はカウンターに頬杖を突きながら死んだ目で宙を眺めている。

「……なによ」

 最小限のエネルギィで最大の効率を得ようとしているのか、彼女の言葉にはトゲしか含まれていない。

 晴輝は怒るどころか喉を鳴らす。
 さて、そんな顔がいつまで出来るかな?

 晴輝の笑いに、朱音が肩をふるわせた。
 一体こいつは、なにを企んでいるのだ?

「ぐぎぎ……」

 こちとら暇で暇で死にそうだというのに、楽しそうに喉を鳴らすなんて。
 面白くない!

「くっくっく……」
 晴輝は笑う。いまから朱音の驚く顔を想像して。

「ふっふっふ……」
 朱音も笑う。なんだかよくわからないが、負けたくなくて。

「…………」
 二人を眺めながら火蓮が微笑む。ああ、関わったらダメな人達だ……と。

「素材を買い取ってくれ」
「……嫌よ」
「何でだよ。俺は客だぞ?」
「お客様は神様ってのは店員の言葉なのよ。客だからってなにをやっても赦されるわけじゃないんだから!」
「いや、素材は買い取れよ。仕事だろ」

 言い終えると、晴輝は火蓮からマジックバッグを受け取り中からシルバーウルフの素材を取りだしていく。
 それを見て朱音は声を上げるどころか黙って鑑定を始めた。

「……ちょっと待って。なんでこんなにあるのよ!? おかしくない!?」
「ほら鑑定の手が止まってるぞ。きびきび働け」

 まるでブラック企業の上司のように、晴輝は瞳に獰猛な光を宿して鑑定を催促する。
 文句を口にしながらも、朱音の鑑定の速度が落ちないのはさすがだ。

 だが、鑑定をするに従って彼女の目が涙で潤んでいく。

「アハーッハハアーン。小さな小さなアタシの店に、こんなに素材を持ってくるなんて、酷すぎる! 鬼! 悪魔! バカ! 空気!!」
「空気は悪口じゃない!」

 ……悪口じゃない、よな?

 朱音の横っ面をぶちのめした素材は、シルバーウルフの牙と毛皮、しめて217体分。

 シルバーウルフの特性上、1度の戦闘で3匹以上と戦うことになる。
 おかげで、1日の討伐数がぐんと上昇した。

 とはいえまだ苦戦するシーンが多い。
 これからもっと実力を伸ばせば、効率は上がっていくだろう。

「牙が全部で234本。状態が良いのは1本1000円。破損してるのは50円から。で、毛皮が全部で143キロ。傷なしでキロ単価500円。破損ありは10円から。合計188,000円よ」
「……そうか」

 晴輝の薄い反応に、朱音が眉根を寄せた。

 もちろん晴輝は、大金が稼げて嬉しく思っている。
 晴輝の反応が薄かったのは、以前の金額と比較したから。

 晴輝はスタンピードの時、全部で140万円も稼いでいた。

(あのとき俺は、一体何匹魔物を倒したんだ!?)

 スタンピード発生と、ボス討伐の余韻ですっかり頭が回っていなかったが、どうやら恐ろしい数の魔物を倒していたらしい。

 さすがはスタンピードというべきか……。
 そんな場所にのこのこ突っ込んでいったのだと気づくと、薄ら寒くなる。

 火蓮が背後に般若か死に神を召喚するほど怒っていたのも頷ける。

「アタシの査定になんか文句あるわけ?」
「いや、これだけ素材があるのに、大して時間が掛からなかったから、結構なお手前だなと思ってな」
「――でっしょ!? ようやっと空気もアタシが美女で豪腕で最高の店員だってことに気がついたようね! ちょっと遅かったくらいよ」
「…………」

 誰がそこまで言った?
 それに『も』ってなんだ『も』って……。

 突っ込みたいが、突っ込みどころが多すぎて、突っ込む気にもなれない。
 相手にしないが吉である。

 ICカードにそれぞれ分配した金額をチャージし、晴輝らは頭に大輪の花が咲いた朱音を放置して店を後にする。

「空星さんっ。これから、お、お食事に行きませんか? その……スタンピードとか新宿とか、色々話したいこともありますし」
「うーん、悪い。今日はやることがあるんだ。また今度でいいか?」
「あ…………はい」

 火蓮と一緒に食事を取るのはやぶさかではない。
 ただ今日は、どうしても済ませておきたいことがあった。

 まずはホームセンターで買い物だな……。
※「わや」=北海道の方言で「台無し」「滅茶苦茶」などという意味です。

晴輝くんが、怪しげな行動を始めました。
一体なにをするつもりなのでしょうか……。

次回更新は土曜日です。
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