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冒険家になろう! ~スキルボードでダンジョン攻略~ 作者:萩鵜アキ

2章 冒険家レベルが上がっても、影の薄さは治らない

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車庫のダンジョンを降りていこう!

 晴輝が『ちかほ』スタンピード討伐成功と、新宿駅スタンピートの掃討失敗を知ったのはほぼ同時だった。

『なろう』のブログをいくつも見て回ったが、どうやら事実であるらしい。

 日本最難関ダンジョン『新宿駅』から発生したスタンピードの掃討が失敗。

 防衛戦失敗の原因は主に2つ。
 63カ所ある出入り口全てから魔物がスタンピードしたこと。
 そしてそれらが中層の魔物だったことだ。

 さらに悪いことに、魔物掃討作戦に参加したランカーのベーコンが行方不明になってしまった。

『なろう』のランカーでも太刀打ち出来なかったのだ……。これからさき、日本はどうなってしまうんだろう?
 ブログはそんな暗い記事ばかりになってしまっていた。


 そんな悪い状況でも、必ず朝はやってくる。
 晴輝の家の前の田園に朝日が差し込む。新宿の状況とは無関係に平和を感じさせる、いつもと同じ朝だ。

 いくら晴輝が新宿壊滅についてあれこれと心配したところで、冒険家として手伝えることはひとつもない。

 こんな田舎のダンジョンの5階が最高到達階層の晴輝では、新宿駅のダンジョンに行っても逃げ帰るだけだ。

 新宿奪還の手伝いをするならば、もっともっと強くなってからだ。

「おはようございます空星さん。新宿は、大変そうですね……」
「そうだな」

 火蓮と合流し、雑談しながら準備を整える。
 会話の合間に、新宿についての話題を口にする。彼女も新宿については気がかりであるようだ。

「……空星さんは新宿が気にならないんですか?」
「うーん。気になってないわけじゃないけどな」
「それにしては平然としてますね」

 不安はないのか?
 そのような視線を向けられて、晴輝は困ったように苦笑する。

「マサツグさんがブログで、新宿奪還作戦に名乗りを上げたから大丈夫かなって」

 マサツグは不動のランカー1位。
 ブログのポイント数ではベーコンに大差を付けられているが、依頼クリアポイントがずば抜けている。

 2位までは数千ポイント程度の差しかないが、2位から1位までは数万ポイントの差が発生している。

 故にガチ勢の頂点。
 不動のランカーと呼ばれている。

 攻略組として常に最前線で最高の魔物と戦ってきたマサツグが動くのだ。
 晴輝に不安などあるはずがない。

 それまで不満顔だった火蓮さえ、マサツグの名が出た途端に安心してしまうほどに、彼は冒険家にとって最大武力の象徴だった。

「いくら気にしたところで、新宿に行く交通手段がないし、もし行けたとしても戦力にすらならない」
「……そう、ですね」

 自分達は、まだまだ弱い。
 そんな晴輝の言葉に火蓮が俯いた。

「強くならないと、手伝うって選択肢さえ得られないんだ」
「そうですね」
「だから今の俺たちの仕事は新宿について考えることじゃない。もっともっと、強くなることだ」
「……はい!」

 火蓮に気合いを入れ、晴輝はゲートを使って地下3階に降り立った。

 火蓮はまだ4階まで到達していない。
 なので今日は、ここから徒歩で5階を目指す予定だ。

 ブラックラクーンを蹴散らし、ボスもさくっと倒して4階へ。

 階段を降りて内面の色が変ると、火蓮が見とれたように息を吐き出した。

「エメラルドが綺麗ですねー」
「うん。ただ、この階の魔物は壁の色に紛れ込みやすいから気をつけるんだぞ」

 普通に注意していれば気づけるのだが、ジャガイモの魔物は壁面と同系色なので、気を緩めると見落とす可能性がある。

「ほら、あそこにいるのがジャガイモの魔物だ」
「え? どこですか?」
「ここをまっすぐ」
「……ああ、見えました見えました! 空星さんはよく見つけられましたね。私一人だと見つけられなかったかもしれません」
「そんなに見えないのか?」
「はい……」

 火蓮が肩を落とした。

 どうやら内面の緑色のおかげで、晴輝が想像したよりかなり魔物が見えにくくなっていたらしい。

 擬態するジャガイモの魔物を容易く見つけられたのは、晴輝の目が製版作業で鍛えられていたからだった。

「じゃあ一度戦うから、後ろで離れて見てて」
「はい」

 火蓮を射程外に下がらせて、晴輝はジャガイモの魔物に突撃した。

 とはいえ、晴輝は一切手を出さない。
 やることといえば40発ほどジャガイモが射出されるまで、回避するだけだ。

 ジャガイモが射出されるラインに踏み込み、晴輝は次々とジャガイモを回避していく。
 弾丸が尽きたところでゆっくり歩み寄り、晴輝はジャガイモの茎をぐいっと引っこ抜いた。

「倒し方は大体こんな感じだ。楽勝だろ?」
「どど、どこがですか!?」

 晴輝の手本を見た火蓮が、顔を青くしながら肩を怒らせた。

「出来るわけないじゃないですか!」
「へ、そう?」

 我ながら最高の作戦だと思っていたのだが……違うのか?

 晴輝は疑問に思っているようだが、火蓮が真似出来なくても仕方がない。
 時速150キロで射出されるジャガイモを、晴輝は魔物に5メートルの距離まで近づいて回避しているのだ。

 発射から着弾まで約コンマ1秒。
 後衛で、あまり体を動かさない火蓮が顔を青くするのも仕方が無い。

 しかし晴輝にも言い分はある。

「ジャガイモを発射するノズルを見ると、どの方向に射出されるかが判るから、あとはタイミングを合わせるだけで簡単に避けられるぞ?」

 よくよく観察すれば、射出のタイミングも方向も読み取れる。
「セーノ!」と合図しながら限定方向に撃たれる弾など、どれほど早くても当たるわけがないのだ。

「まさか空星さんが、ここまで人外だとは思いませんでした」
「失礼な」

 まだ人間を辞めたつもりはないぞ?
 晴輝はむっと唇を曲げる。
 だがその抗議の表情も、仮面に隠れているので伝わらない。

「そっか、火蓮には出来ないか……」

 折角、高速で射出されるジャガイモを次々と回避する面白さを教えてあげたかったのに。

「むっ」

 晴輝の発言が挑発だと思ったのだろう。火蓮が素早く反応した。

「私だってやれば出来るんですぅ!」
「お。じゃあお手並み拝見といこうか」
「むー」

 ぷっくりと頬を膨らませた火蓮が慎重に索敵を始めた。

 次のジャガイモまであと50メートル。
 晴輝は既に、魔物の存在に気づいている。

 一体火蓮はどのタイミングで気づくだろう?
 間合いに入りそうなら教えてあげよう。

 一歩、二歩と火蓮が進む。

「あっ!}

 ジャガイモが射出される範囲の少し手前で、ようやく火蓮は魔物の姿に気がついたようだ。

 他人だとこれくらい近づかないと見えないのか。

 ふむ、と晴輝は顎に手を当てる。
 ここは相当厄介な階層だったんだな。

「空星さんに、私だってやれば出来るってところを見せてあげましょう!」

 気合い一発。
 火蓮が杖を振りかざし、

「せぇぃ!!」

 魔法を撃ち放った。

 魔法が直撃したジャガイモが、根元から粉砕される。

「どうですか? 私だってこれくらい――」
「うわぁぁぁ! 火蓮お前、なんてことしたんだ!!」
「え? え?」
「弾を避けずに殺したら、ジャガイモが手に入らないだろ!!」
「…………」

 落胆する晴輝に、火蓮が生暖かい視線を向ける。
 ああ、この人本当に、アレなんだ。そんな火蓮の心の声が読み取れる。

 だが晴輝はジャガイモに夢中だ。
 なにせ、ジャガイモを採取出来ずに魔物が死んでしまったのだから……。

 ああ、ジャガイモ。
 糖質エネルギィ。
 俺のカリウム、カロテン、ナイアシン!

「ま、まあ4階に来ればいつでもジャガイモは手に入りますし、気を落とすことでもありませんよ」
「食べ物を粗末にしたら、もったいないお化けが出るんだ……」
「さ、さあ前に進みましょう! 今日は5階で狩りをする予定でしたよね? ね? ……あのぅ、元気を出していただけませんか?」

 いじける晴輝を、火蓮が必死に奮い立たせる。
 気落ちしているのは晴輝なのに、何故か火蓮が泣きそうな顔でオロオロしている。

「ほら、ジャガイモは家庭菜園でも出来るじゃないですか! だから元気を――」
「ソ・レ・ダッ!!」

          *

 今日のところはジャガイモは諦めよう。
 そう決断してからは早かった。

 ジャガイモは擬態能力が高いが、見つけてしまえば訳ない魔物である。
 晴輝は索敵のみを行い、攻撃のすべてを火蓮に任せた。ジャガイモ1つ打たせずに、魔物を次々と葬り去っていく。

 4階のボスも、部屋の外から火蓮の魔法を連続で放って沈黙させた。

 魔物の擬態能力に速い弾丸。
 初見では難易度が高いが、攻略法が見つかれば一気に難易度が下がる。
 実に良いバランスの階層だった。

 火蓮がボス相手に、一方的に魔法攻撃をしている(もはや試し打ちに近い)あいだ、晴輝はこっそりスキルボードを取り出した。

 現状のスキルの確認と今後の方針を立てる予定だったのだが、

「あれ?」

 スキルボードの変化に、晴輝は首を傾げた。


 空星晴輝(27) 性別:男
 スキルポイント:0→3
 評価:剣人

-生命力
 スタミナ0
 自然回復0

-筋力
 筋力1

-敏捷力
 瞬発力1
 器用さ1

-技術
 武具習熟
  片手剣1
  投擲1
  軽装0
 隠密1
 模倣1

-直感
 探知0

-特殊
 成長加速3


 晴輝のスキルポイントが一気に3つも上昇していた。

「スキルポイントが得られる状況はほぼ判明していたと思ったんだけど……」

 どうやらまだ、条件が残っていたらしい。

 何故増えたかを考える前に、火蓮のスキルも確認してみる。


 黒咲火蓮(18) 性別:女
 スキルポイント:3
 評価:精人

-生命力
 スタミナ0
 自然回復0

-筋力
 筋力0

-魔力
 魔力1
 魔術適正1
 魔力操作1

-敏捷力
 瞬発力0
 器用さ0

-技術
 武具習熟
  鈍器0
  軽装0

-直感
 探知0

-特殊
 運1


 火蓮は変化がない。
 希少種を倒して1ポイント増えて、それきりだ。

 晴輝はこれまで、ダンジョンの探索はほとんど火蓮と行ってきた。

 ソロで潜ったのは2度。
 ジャガイモ狩りの時と、スタンピードの時だ。

 前者では狩りを終えるまで、晴輝の想定を外れたスキルポイントの取得はしなかった。
 後者も、ワーウルフと戦う直前までは変化なし。

 このことから、スキルポイントが3つももらえた条件が自ずと浮かび上がってくる。

「スタンピードのボスか……」

 スタンピードのボス討伐は、希少種遭遇よりも条件が稀少で、かつ討伐難易度が高い。
 だからこそ3つものポイントを取得出来たのだろう。

 分配出来るポイントが無かったので実に有り難い。
 ただ、火蓮の知らないところで、こっそりうま味を享受しているみたいで気が引ける。

 とはいえ取得してしまったものは仕方がない。

 ポイントの代わりに今度、火蓮の好きな料理でも作ってあげよう。
 そう晴輝は心に留め置いた。


 5階に降りると、内装がまた1階と同じ茶色に戻った。

「火蓮。ひとまず俺の後に隠れて警戒しててくれ」
「判りました」

 ここに出てくる魔物に、晴輝は心当たりがある。
 出現するのはおそらくスタンピードの時に見かけた、シルバーウルフだ。

 晴輝の予想通り、シルバーウルフが通路の向こうからゆっくりと近づいてきた。

 全部で3体。
 モデルが狼だからか。常に群れで移動しているとWIKIに書かれていた。
 強さはWIKIをめくるまでもなく体感している。

 油断しなければ大丈夫だろう。

「火蓮。ブラックラクーンの時みたいにサポートよろしく」
「は、はい!」

 短く指示を出し、晴輝は短剣を2本抜いて狼の群れに突っ込んだ。

 遠くから石を投擲した時はさほど速さを感じなかったが、接近して判る。

「こいつら、かなり早いな!」

 ワーウルフほどではないが、シルバーウルフは相当俊敏だった。

 1匹なら安全に討伐出来る。
 だが3匹いっぺんに、となると少々厳しい。

 しかしそれでも、晴輝は冷静に動きを見極める。

 集中しろ。
 集中するんだ!

 ワーウルフの筋肉の動きを思い出し、シルバーウルフに重ねる。
 すると、類似点がすぐに見つかった。

 ワーウルフから模倣した滑らかな動作で、予備動作を見抜いたシルバーウルフの攻撃をひらりと躱していく。

「……っ、し!」

 いける!
 5度ほど攻撃を回避して、晴輝はそう確信した。

 だがまだギリギリだ。
 カウンターを放つ余裕がない。

 もし少しでも反撃に移ろうものなら、僅かな隙に食いつかれてしまう。
 だから晴輝は、ただ黙って回避を続ける。

 10度、20度。
 ただひたすら狼の攻撃を回避し続ける。

 するとある時、

「キャィッ!!」

 一匹の狼が悲鳴を上げて吹き飛んだ。
 同時に、晴輝が動いた。

 いままさに襲いかかった狼の攻撃を避け、
 腹部に短剣を添える。

 反対側から噛みつこうとした狼には、口の中に短剣を突き刺す。

 腹部をなで切りされた狼が地面を転がる。
 短剣を刺された狼は、「ヒィン」と鳴いた。

 シルバーウルフが痛みに翻弄されたのはコンマ1秒ほど。
 だが晴輝は僅かな隙を、決して逃さない。

 一体を足蹴りして吹き飛ばし、
 もう一体の首筋に素早く短剣を埋め込んだ。

「これで1匹目!」

 魔法で吹き飛ばされた狼が火蓮に飛びかかったところを、身当てで壁まで突き飛ばした。
 そこに魔法が追撃。

 これで二体目だ!

 晴輝は足蹴りした狼が態勢を整える前に接近。
 足を動かしフェイント。
 蹴りに怯えた狼が反応して横へ飛ぶ。
 その瞬間。
 一瞬の隙を見逃さず、晴輝は短剣で胴体を切り裂いた。

 どしゃ、と腸をぶちまけて、それでも狼は立ち上がろうとする。

 生命力が強いな。
 狼の首を切り落とし、晴輝は3体の狼を絶命を確認する。

「……ふぅ」

 火蓮がいなきゃ少し危なかった。
 遠距離では晴輝に分があるが、近距離だとまだまだシルバーウルフだ。

「もっと強くならないと……」

 シルバーウルフを解体して、晴輝は手早く素材を剥ぎ取る。

 マジックバックに入れて貰おうと振り返ると、どうやら火蓮はまだレベルアップ酔いが続いていたらしい。
 地面にしゃがみ込んだまま、こめかみに指を当てている。

「大丈夫か?」
「え、ええ……大丈夫です、けど。少し休憩、いいですか?」
「もちろん」

 やはり火蓮だと、シルバーウルフ3体分の経験はかなり過剰だっか。

 晴輝はスタンピードでいいだけ倒して、さらにそのボスであるワーウルフまで倒した。いまさら3体倒した程度では、強いレベルアップ酔いは起らない。

 火蓮の嘔吐きが治まると、晴輝はすぐに狩りを再開した。

 相手が2・3匹の時は攻め込み、4匹以上になったら晴輝自慢(?)のジャガイモ投擲で3匹になるまで群れを削る。

 そうして安全マージンを保ちながら、晴輝らは今日もガシガシとレベリングに励んだのだった。
2章開幕。
この章では晴輝くんの存在感がますますパワーアップしていきます!

次回アップは木曜日です。
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