時計の示す時間は早朝の四時半。
何故か眠れずに、本を読んでいたらもうこんな時間になっている。だが眠れない夜が眠れる夜に変わるまでずっとこのまま本を読み続けるのもいいかもしれない。いや明日は、ではなく今日の午前九時には大事な予定がある為寝ないで起きていたほうがいい。今は眠れないがもしも布団に入って眠くなり眠りについてしまったらすぐには目覚めないだろうから。そう思い読書を続けることにした。
眠るか読むかの決断を終えたちょうどその時に、車のクラクションが響いた。私を驚かせるように突然と。それを押して離さずにずっと響かせて鳴らしていた。終わりの無い音の様にも感じさせるその音が数分鳴り続ける。そしてまた静寂が訪れる。だがこの静寂の中で本を読むよりも多少の音があったほうが読みやすく、少し残念な気がしながらもまた読み続ける。
数分後、また車のクラクションが聞こえた。突然のことで慌ててしまう。そしてこれも先程と同じように離さずにずっと響かせて鳴らしていた。終わりの無い音の様にも感じさせるその音がやはり数分鳴り続ける。そして来たのは静寂では無く怒鳴り声だった。窓は閉まっているのにも関わらず、六階建てマンションの最上階なのにも関わらずその声は聞こえてきた。多分音に起こされてしまい、それで文句を言っているのだろう。怒鳴り声の次に来た静寂の中、もう聞こえないであろう音を思いながら私は本を読み続ける。
数分後、三度目の車のクラクションが響いた。注意されていた声が聞こえたのだが無意味だった様だ。今回も突然のことで慌ててしまう。そしてその音はやはり今回も前回、前々回と同じように離さずにずっと響かせて鳴らしていた。終わりの無い音の様にも感じさせるその音がまた数分鳴った。そしてその次に来たのはやっぱり怒鳴り声だった。その声は先ほどと同じように聞こえてきた。だが先ほどの声とは少し違う。怒鳴り散らすような怒り方だが前よりも少し声が高い。女の声か?音も小さくその程度の判断しか出来ない。また、前の声もよく覚えていない。しかしどこか違う声のように聞こえてきた。だが声の主は誰かなのはとにかく、きっとその人も止まない音に起こされてしまい、それで文句を言っているのだろう。怒鳴り声の次に来た静寂の中、二度目の注意で流石にもう聞こえないであろう音を思いながら私は本を読み続ける。
数分後、四度目の車のクラクションが響いた。注意されているのにまたか。いったい何が起こっているのだろうか。だが私には腹がたつ思いは無く、好奇心の方が強くその好奇心から私は向かうことを決意した。コートを着て用意する。家を出る前にふと思いつく。この時間にクラクションを鳴らし、注意されても止めないということは暴走族か何かだろうか?一応護身の為に折りたたみのナイフを簡単に取り出せるポケットに入れて駐車場に向かった。
そしてそこには小さな車があった。どこにでも走っていそうな、丸っこい車が。だがこの距離では暗くて車内がよく見えない。暴走族らしく無い車に安心しながら近づくづいてみると人影が見えた。一人は助手席で頭を抱え、一人は運転席で前屈みになっている。なんだ、ただの酔っ払いか。もう恐れは感じていなかった。そして先程には無かった腹が立つ感情が沸いて出てきた。この夜中にクラクションを鳴していたのはただの酔っ払いでそれに恐れていた私に、そして何か面白いものを期待したのにそれがなんでもないただのよっぱらいに対して。
腹が立ち、乱暴にドアを叩く。頭を抱えていた男はそれに気づき、そして次の瞬間には私の胸倉を片手掴んで大声で叫んだ。
「見たな」
車内から出て胸倉を掴んで叫んでいるが全く酒の臭いはしない。よっぱらいでは無く、普通の男だ。だが胸倉をいきなり掴んで叫ぶのだから普通以外の何かがこの男にはある。どうやら何かを私に見られてしまったらしく、この男は叫んでいる。だが車内を見渡すと何も不思議なものは…そうか、この事か。
「運転席の男をか?」
暗くて気づかなかったが隣の運転席の男の腹は赤く染められていた。男の腹には銀色に光る物が見える。この男は人を殺したのだ。
「ならお前も殺してやろう」
胸倉を掴む手が私を車内に押し込む。運転席に倒され、男が片手で刃物をズボンのポケットから出す。ポケットに入れられた手を見て自分のナイフを持っていた事に気づきそれよりも早く私はナイフを出し男に刺す。だが致命傷にはならなかった。なので息を止めるために胸に刺さったナイフをより深く、差し込むために男に自分の体重を乗せる。そして男の背中にあるクラクションも押されて男の悲鳴とともに響く。だが確実に殺すために私はクラクションを気にせずに体重を乗せ続ける。そして男は死んだ。
殺し終え、殺された男の座っていた助手席で座って考える。まずは一番近い私が殺した男の死体を隠そうと思い、後ろの座席を見た。だがそこには既に無数の死体があった。殺して殺された死体が。ただ考えないようにしながら死体を投げた。そして運転席の死体を先ほど見た様に、胸のナイフが隠れるように運転席に前屈みに座らせた。これらの全てが終わり再び助手席に座り、これからの事を考え始める。もう私は終わることの無い輪に入ってしまったのだろうか?蟻が歩いても歩いても終わらないメビウスの輪のような輪に。頭を抱え考え始めたら
車のドアを叩く音が聞こえた。 |