挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ありふれた職業で世界最強 作者:厨二好き/白米良

第三章

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

81/282

宣戦布告


「パパぁー!! おかえりなのー!!」

 【オルクス大迷宮】の入場ゲートがある広場に、そんな幼女の元気な声が響き渡る。

 各種の屋台が所狭しと並び立ち、迷宮に潜る冒険者や傭兵相手に商魂を唸らせて呼び込みをする商人達の喧騒。そんな彼等にも負けない声を張り上げるミュウに、周囲にいる戦闘のプロ達も微笑ましいものを見るように目元を和らげていた。

 ステテテテー! と可愛らしい足音を立てながら、ハジメへと一直線に駆け寄ってきたミュウは、そのままの勢いでハジメへと飛びつく。ハジメが受け損なうなど夢にも思っていないようだ。

 テンプレだと、ロケットのように突っ込んで来た幼女の頭突きを腹部に受けて身悶えするところだが、生憎、ハジメの肉体はそこまで弱くない。むしろ、ミュウが怪我をしないように衝撃を完全に受け流しつつ、しっかり受け止めた

「ミュウ、迎えに来たのか? ティオはどうした?」
「うん。ティオお姉ちゃんが、そろそろパパが帰ってくるかもって。だから迎えに来たの。ティオお姉ちゃんは……」
「妾は、ここじゃよ」

 人混みをかき分けて、妙齢の黒髪金眼の美女が現れる。言うまでもなくティオだ。ハジメは、いつはぐれてもおかしくない人混みの中で、ミュウから離れたことを批難する。

「おいおい、ティオ。こんな場所でミュウから離れるなよ」
「目の届く所にはおったよ。ただ、ちょっと不埒な輩がいての。凄惨な光景はミュウには見せられんじゃろ」
「なるほど。それならしゃあないか……で? その自殺志願者は何処だ?」
「いや、ご主人様よ。妾がきっちり締めておいたから落ち着くのじゃ」
「……チッ、まぁいいだろう」
「……ホントに子離れ出来るのかの?」

 どうやら、ミュウを誘拐でもしようとした阿呆がいるらしい。ミュウは、海人族の子なので、目立たないようにこういう公の場所では念のためフードをかぶっている。そのため、王国に保護されている海人族の子とわからないので、不埒な事を考える者もいるのだ。フードから覗く顔は幼くとも整っており、非常に可愛らしい顔立ちであることも原因の一つだろう。目的が身代金かミュウ自体かはわからないが。

 ハジメが、暗い笑みを浮かべながら犯人の所在を聞くが、明らかに殺る気だとわかるので、ティオが半ば呆れながら諌める。最初は、パパと呼ばれることを心底嫌がっていたくせに、今では普通にパパをしているハジメ。エリセンで、きちんとお別れできるのか……ミュウよりハジメの方が不安である。

 そんな、ハジメとティオの会話を呆然と聞いていた光輝達。ハジメが、この四ヶ月の間に色々な経験を経て自分達では及びもつかないほど強くなったことは理解したが、「まさか父親になっているなんて!」と誰もが唖然とする。特に男子などは、「一体、どんな経験積んできたんだ!」と、視線が自然とユエやシア、そして突然現れた黒髪巨乳美女に向き、明らかに邪推をしていた。ハジメが、迷宮で無双した時より驚きの度合いは強いかもしれない。

 冷静に考えれば、行方不明中の四ヶ月で四歳くらいの子供が出来るなんて有り得ないのだが、いろいろと衝撃の事実が重なり、度重なる戦闘と死地から生還したばかりの光輝達には、その冷静さが失われていたので見事に勘違いが発生した。

 そして、唖然とする光輝達の中からゆらりと一人進みでる。顔には笑みが浮かんでいるのに目が全く笑っていない……香織だ。香織は、ゆらりゆらりと歩みを進めると、突如、クワッと目を見開き、ハジメに掴みかかった。

「ハジメくん! どういうことなの!? 本当にハジメくんの子なの!? 誰に産ませたの!? ユエさん!? シアさん!? それとも、そっちの黒髪の人!? まさか、他にもいるの!? 一体、何人孕ませたの!? 答えて! ハジメくん!」

 ハジメの襟首を掴みガクガクと揺さぶりながら錯乱する香織。ハジメは誤解だと言いながら引き離そうとするが、香織は、何処からそんな力が出ているのかとツッコミたくなるくらいガッチリ掴んで離さない。香織の背後から、「香織、落ち着きなさい! 彼の子なわけないでしょ!」と雫が諌めながら羽交い絞めにするも、聞こえていないようだ。

 そうこうしているうちに、周囲からヒソヒソと噂するような声が聞こえて来た。

「何だあれ? 修羅場?」
「何でも、女がいるのに別の女との間に子供作ってたらしいぜ?」
「一人や二人じゃないってよ」
「五人同時に孕ませたらしいぞ?」
「いや、俺は、ハーレム作って何十人も孕ませたって聞いたけど?」
「でも、妻には隠し通していたんだってよ」
「なるほど……それが今日バレたってことか」
「ハーレムとか……羨ましい」
「漢だな……死ねばいいのに」

 どうやらハジメは、妻帯者なのにハーレムの主で何十人もの女を孕ませた挙句、それを妻に隠していた鬼畜野郎という事になったらしい。未だにガクガクと揺さぶってくる香織を尻目に天を仰ぐハジメは、不思議そうな表情をして首を傾げる傍らのミュウの頭を撫でながら深い溜息をついた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 香織が、顔を真っ赤にして雫の胸に顔を埋めている姿は、まさに穴があったら入りたいというものだった。冷静さを取り戻して、自分がありえない事を本気で叫んでいた事に気がつき、羞恥心がマッハだった。「大丈夫だからね~、よしよし」と慰める雫の姿は、完全にお母さん……いや、止めておこう。

 ハジメ達は、現在、入場ゲートを離れて、町の出入り口付近の広場に来ていた。ハジメの漢としての株が上がり、社会的評価が暴落した後、ハジメは、ロア支部長の下へ依頼達成報告をし、二、三話してから、いろいろ騒がしてしまったので早々に町を出ることにしたのだ。元々、ロアにイルワからの手紙を届ける為だけに寄った様なものなので、旅用品で補充すべきものもなく、直ぐに出ても問題はなかった。

 光輝達がぞろぞろと、出ていこうとするハジメ達の後について来たのは、香織がついて行ったからだ。香織は、未だ羞恥に悶えつつも、頭の中は必死にどうすべきか考えていた。このままハジメとお別れするのか、それともついて行くのか。心情としては付いて行きたいと思っている。やっと再会出来た想い人と離れたいわけがない。

 しかし、明確に踏ん切りがつかないのは、光輝達のもとを抜けることの罪悪感と、変わってしまったハジメに対する心の動揺のせいだ。しかも、その動揺を見透かされ嘲笑されてしまったことも効いている。

 香織も、ユエがそうであったように、ユエがハジメを強く思っていることを察していた。そして、何より刺となって心に突き刺さったのは、ハジメもまたユエを特別に思っている事だ。想い合う二人。その片割れに、「お前の想いは所詮その程度だ」と嗤れ、香織自身、動揺する心に自分の想いの強さを疑ってしまった。

 自分の想いはユエに負けているのではないか、今更、自分が想いを寄せても迷惑なだけではないか、何より、自分は果たして今のハジメを見れているのか、過去のハジメを想っているだけではないのか、加えてユエの尋常ならざる実力の高さとハジメのパートナーとしての威風堂々とした立ち振る舞いに、香織は……圧倒されていた。要は、女としても、術者としても、ハジメへの想いについても、自信を喪失しているのである。

 いよいよ、ハジメ達が出て行ってしまうというその時、何やら不穏な空気が流れた。それに気がついて顔を上げた香織の目に、十人ほどの男が進路を塞ぐように立ちはだかっているのが見えた。

「おいおい、どこ行こうってんだ? 俺らの仲間、ボロ雑巾みたいにしておいて、詫びの一つもないってのか? ア゛ァ゛!?」

 薄汚い格好の武装した男が、いやらしく頬を歪めながらティオを見て、そんな事をいう。どうやら、先程、ミュウを誘拐しようとした連中のお仲間らしい。ティオに返り討ちにあったことの報復に来たようだ。もっとも、その下卑た視線からは、ただの報復ではなく別のものを求めているのが丸分かりだ。

 この町で、冒険者ならばギルドの騒動は知っているはずなので、ハジメに喧嘩を売るような真似をするはずがない。なので、おそらく彼等は、賊紛いの傭兵と言ったところなのだろう。

 ハジメ達が、噛ませ犬的なゲス野郎どもに因縁を付けられるというテンプレな状況に呆れていると、それを恐怖で言葉も出ないと勘違いしたようで、傭兵崩れ達は、更に調子に乗り始めた。

 その視線がユエやシアにも向く。舐めるような視線に晒され、心底気持ち悪そうにハジメの影に体を隠すユエとシアに、やはり怯えていると勘違いして、ユエ達に囲まれているハジメを恫喝し始めた。

「ガキィ! わかってんだろ? 死にたくなかったら、女置いてさっさと消えろ! なぁ~に、きっちりわび入れてもらったら返してやるよ!」
「まぁ、そん時には、既に壊れてるだろうけどな~」

 何が面白いのか、ギャハハーと笑い出す男達。そのうちの一人がミュウまで性欲の対象と見て怯えさせ、また他の一人が兎人族を人間の性欲処理道具扱いした時点で、彼等の運命は決まった。

 いつもの通り、空間すら軋んでいると錯覚しそうな大瀑布の如きプレッシャーが傭兵紛いの男達に襲いかかる。彼等の聞くに耐えない発言に憤り、進み出た光輝がプレッシャーに巻き込まれフラついているのが視界の片隅に映っていたが、ハジメは気にすることもなく男達に向かって歩み寄った。

 今更になって、自分達が絶対に手を出してはいけない相手に喧嘩を売ってしまったことに気がつき慌てて謝罪しようとするが、プレッシャーのせいで四つん這い状態にされ、口を開くこともできないので、それも叶わない。

 ハジメは、もう彼等に口を開かせるつもりがなかったのだ。シアを性欲処理道具扱いしたことも、ハジメをキレさせるには十分な理由だったが、ミュウに悪意を向けて怯えさせたことが、彼等に死よりも辛い人生を歩ませる決断へと繋がった。

 ハジメは、少しプレッシャーを緩めて全員を膝立ちさせ一列に整列させると、端から順番に男の象徴を撃ち抜いていくという悪魔的な所業を躊躇いなく実行した。さらに、悲鳴を上げながら、股間を押さえてのたうち回る男達を一人ずつ蹴り飛ばし、絶妙な加減で骨盤も粉砕して広場の隅っこに積み重ねていった。これで、彼等は子供を作れなくなり、おそらく歩くことも出来なくなっただろう。今後も頑張って生きていくかは本人次第である。

 余りに容赦ない反撃に、光輝達がドン引きしたように後退る。特に、男子生徒達は全員が股間を押さえて顔を青ざめさせていた。

 そんな光輝達を尻目に、戻ってきたハジメにユエ達が駆け寄る。

「また、容赦なくやったのぉ~。流石、ご主人様じゃ。女の敵とはいえ、少々同情の念が湧いたぞ?」
「いつになく怒ってましたね~。やっぱり、ミュウちゃんが原因ですか? 過保護に磨きがかかっているような」
「……ん、それもあるけど……シアのことでも怒ってた」
「えっ!? 私のために怒ってくれたんですか? えへへ、ハジメさんったら……有難うございますぅ~」
「……ユエには直ぐに見透かされるな」
「んっ……当然。ハジメのこといつも見てるから」
「ユエ……」
「ハジメ……」

 結局、二人の世界を作り始めたハジメとユエに、シアがツッコミを入れ、ミュウが構ってくれとハジメに飛びつき、ティオが変態発言をしてハジメに冷たくされてハァハァする。ハジメを中心に繋がり合う光景がそこにはあった。

 香織は、ミュウを抱っこしてあやしながらユエ達に囲まれるハジメをジッと見つめた。先程の光景。ハジメは、やはり暴力を振るうことに躊躇いがなくなっていた。それは、以前のハジメとは大きく異なるところで、一見すると、ハジメの優しかったところを否定するものに見える。

 しかし、今、ハジメが怒りを抱き力を振るったのは何のためだったか。それは、ハジメに寄り添い楽しそうに嬉しそうに笑う彼女達のためだ。果たして、優しさを失った人が、あのような笑顔に囲まれることがあるのか。あんな幼子が父と慕うだろうか。

 そして、ハジメの変わりように動揺して意識から外れていたが、そもそもハジメは、自分の生存を知らせて香織を安心させるために再び迷宮へと潜ってきてくれたのだ。その言葉通りに。また、香織のために迷宮に潜っておきながら、他の人も切り捨てなかった。致命傷を負ったメルドを救い、光輝達を仲間に守らせた。

 香織は気がつく。ハジメが暴力に躊躇いを見せないのは、そして、敵に容赦しないのは、そうすることで大切な誰かを確実に守るため。もちろん、其処には自分の命も含まれているのだろうが、誰かを想う気持ちがあるのは確かだ。それは、ハジメを囲む彼女達の笑顔が証明している。

 香織は想像した。ハジメは、髪の色を失っている。右目と左腕もない。きっと、想像を絶するような過酷な環境を生き抜いたに違いないと。何度も、心身共に壊れそうになったに違いないと。いや、もしかしたら……一度は壊れてしまったからこそ、変心したのかもしれない。それでも、ハジメは、ああやって笑顔に囲まれる道を歩んでいる。

 その事実が、香織の心にかかっていた霧を吹き飛ばした。欠けたパズルのピースがはまりカチリと音がなった気がした。自分は何を迷っていたのか。目の前に“ハジメ”がいる。心寄せる男の子がいる。“無能”と呼ばれながら、奈落の底から這い上がり、多くの力を得て救いに来てくれた人がいる。

 変わった部分もあれば変わらない部分もある。だがそれは当然のことだ。人は、時間や経験、出会いにより変化していくものなのだから。ならば、何を恐れる必要があるのか。自信を失う必要があるのか。引く必要があるというのか。

 知らない部分があるなら、傍にいて知っていけばいいのだ。今まで、あの教室でそうしてきたように。想いの強さで負けるわけがない! ハジメを囲むあの輪に加わって何が悪い! もう、自分の想いを哂わせてなるものか!

 香織の瞳に決意と覚悟が宿る。傍らの雫が、親友の変化に頬を緩める。そして、そっと背を押した。香織は、今まで以上に瞳に“強さ”を宿し、雫に感謝を込めて頷くと、もう一つの戦場へと足を踏み出した。そう、女の戦いだ!

 自分達のところへ歩み寄ってくる香織に気がつくハジメ達。ハジメは、見送りかと思ったが、隣のユエは、「むっ?」と警戒心をあらわにして眉をピクリと動かした。シアも「あらら?」と興味深げに香織を見やり、ティオも「ほほぅ、修羅場じゃのぉ~」とほざいている。どうやら、ただの見送りではないらしいと、ハジメは、嫌な予感に眉をしかめながら香織を迎えた。

「ハジメくん、私もハジメくんに付いて行かせてくれないかな? ……ううん、絶対、付いて行くから、よろしくね?」
「………………は?」

 第一声から、前振りなく挨拶でも願望でもなく、ただ決定事項を伝えるという展開にハジメの目が点になる。思わず、間抜けな声で問い返してしまった。直ぐに理解が及ばずポカンとするハジメに代わって、ユエが進み出た。

「……お前にそんな資格はない」
「資格って何かな? ハジメくんをどれだけ想っているかってこと? だったら、誰にも負けないよ?」

 ユエの言葉に、そう平然と返した香織。ユエが、さらに「むむっ」と口をへの字に曲げる。

 香織は、ユエにしっかり目を合わせたあと、スッと視線を逸らして、その揺るぎない眼差しをハジメに向けた。そして、両手を胸の前で組み頬を真っ赤に染めて、深呼吸を一回すると、震えそうになる声を必死に抑えながらはっきりと……告げた。

「貴方が好きです」
「……白崎」

 香織の表情には、羞恥とハジメの答えを予想しているからこその不安と想いを告げることが出来た喜びの全てが詰まっていた。そして、その全てをひっくるめた上で、一歩も引かないという不退転の決意が宿っていた。

 覚悟と誠意の込められた眼差しに、ハジメもまた真剣さを瞳に宿して答える。

「俺には惚れている女がいる。白崎の想いには応えられない。だから、連れては行かない」

 はっきり返答したハジメに、香織は、一瞬泣きそうになりながら唇を噛んで俯くものの、しかし、一拍後には、零れ落ちそうだった涙を引っ込め目に力を宿して顔を上げた。そして、わかっているとでも言うようにコクリと頷いた。香織の背後で、光輝達が唖然、呆然、阿鼻叫喚といった有様になっているが、そんな事はお構いないしに、香織は想いを言葉にして紡いでいく。

「……うん、わかってる。ユエさんのことだよね?」
「ああ、だから……」
「でも、それは傍にいられない理由にはならないと思うんだ」
「なに?」
「だって、シアさんも、少し微妙だけどティオさんもハジメくんのこと好きだよね? 特に、シアさんはかなり真剣だと思う。違う?」
「……それは……」
「ハジメくんに特別な人がいるのに、それでも諦めずにハジメくんの傍にいて、ハジメくんもそれを許してる。なら、そこに私がいても問題ないよね? だって、ハジメくんを想う気持ちは……誰にも負けてないから」

 そう言って、香織は炎すら宿っているのでは思う程強い眼差しをユエに向けた。そこには、私の想いは貴女にだって負けていない! もう、哂わせない! と、香織の強い意志が見える。それは、紛れもない宣戦布告。たった一つの、“特別の座”を奪って見せるという決意表明だ。

 香織の射抜くような視線を真っ向から受け止めたユエは、珍しいことに口元を誰が見てもわかるくらい歪めて不敵な笑みを浮かべた。

「……なら付いて来るといい。そこで教えてあげる。私とお前の差を」
「お前じゃなくて、香織だよ」
「……なら、私はユエでいい。香織の挑戦、受けて立つ」
「ふふ、ユエ。負けても泣かないでね?」
「……ふ、ふふふふふ」
「あは、あははははは」

 ハジメとは違う意味で、二人の世界を作り出すユエと香織。告白を受けたのは自分なのに、いつの間にか蚊帳の外に置かれている挙句、香織のパーティー加入が決定しているという事に、ハジメは遠い目をする。笑い合うユエと香織を見て、シアとミュウが傍らで抱き合いながらガクブルしていた。

「ハ、ハジメさん! 私の目、おかしくなったのでしょうか? ユエさんの背後に暗雲と雷を背負った龍が見えるのですがっ!」
「……正常だろ? 俺も、白崎の背後には刀構えた般若が見えるしな」
「パパぁ~! お姉ちゃん達こわいのぉ」
「ハァハァ、二人共、中々……あの目を向けられたら……んっ、たまらん」

 互いに、スタ○ド? を背後に出現させながら、仁王立ちで笑い合うユエと香織。ハジメは、お前等そんなキャラだっけ? とツッコミを入れたかったが、やぶへびになりそうだったので、縋り付くミュウを宥めながら自然と収まるまで待つことにした。ヘタレと言う事なかれ。

 だが、そんな香織の意志に異議を唱える者が……もちろん、“勇者”天之河光輝だ。

「ま、待て! 待ってくれ! 意味がわからない。香織が南雲を好き? 付いていく? えっ? どういう事なんだ? なんで、いきなりそんな話しになる? 南雲! お前、いったい香織に何をしたんだ!」
「……何でやねん」

 どうやら、光輝は、香織がハジメに惚れているという現実を認めないらしい。いきなりではなく、単に光輝が気がついていなかっただけなのだが、光輝の目には、突然、香織が奇行に走り、その原因はハジメにあるという風に見えたようだ。本当に、どこまでご都合主義な頭をしているのだと思わず関西弁でツッコミを入れてしまうハジメ。

 完全に、ハジメが香織に何かをしたのだと思い込み、半ば聖剣に手をかけながら憤然と歩み寄ってくる光輝に、雫が頭痛を堪えるような仕草をしながら光輝を諌めにかかった。

「光輝。南雲君が何かするわけないでしょ? 冷静に考えなさい。あんたは気がついてなかったみたいだけど、香織は、もうずっと前から彼を想っているのよ。それこそ、日本にいるときからね。どうして香織が、あんなに頻繁に話しかけていたと思うのよ」
「雫……何を言っているんだ……あれは、香織が優しいから、南雲が一人でいるのを可哀想に思ってしてたことだろ? 協調性もやる気もない、オタクな南雲を香織が好きなるわけないじゃないか」

 光輝と雫の会話を聞きながら、事実だが面と向かって言われると意外に腹が立つと頬をピクピクさせるハジメ。

 そこへ、光輝達の騒動に気がついた香織が自らケジメを付けるべく光輝とその後ろのクラスメイト達に語りかけた。

「光輝くん、みんな、ごめんね。自分勝手だってわかってるけど……私、どうしてもハジメくんと行きたいの。だから、パーティーは抜ける。本当にごめんなさい」

 そう言って深々と頭を下げる香織に、鈴や恵里、綾子や真央など女性陣はキャーキャーと騒ぎながらエールを贈った。永山、遠藤、野村の三人も、香織の心情は察していたので、気にするなと苦笑いしながら手を振った。

 しかし、当然、光輝は香織の言葉に納得出来ない。

「嘘だろ? だって、おかしいじゃないか。香織は、ずっと俺の傍にいたし……これからも同じだろ? 香織は、俺の幼馴染で……だから……俺と一緒にいるのが当然だ。そうだろ、香織」
「えっと……光輝くん。確かに私達は幼馴染だけど……だからってずっと一緒にいるわけじゃないよ? それこそ、当然だと思うのだけど……」
「そうよ、光輝。香織は、別にあんたのものじゃないんだから、何をどうしようと決めるのは香織自身よ。いい加減にしなさい」

 幼馴染の二人にそう言われ、呆然とする光輝。その視線が、スッとハジメへと向く。ハジメは、我関せずと言った感じで遠くを見ていた。そのハジメの周りには美女、美少女が侍っている。その光景を見て、光輝の目が次第に吊り上がり始めた。あの中に、自分の(・・・)香織が入ると思うと、今まで感じたことのない黒い感情が湧き上がってきたのだ。そして、衝動のままに、ご都合解釈もフル稼働する。

「香織。行ってはダメだ。これは、香織のために言っているんだ。見てくれ、あの南雲を。女の子を何人も侍らして、あんな小さな子まで……しかも兎人族の女の子は奴隷の首輪まで付けさせられている。黒髪の女性もさっき南雲の事を『ご主人様』って呼んでいた。きっと、そう呼ぶように強制されたんだ。南雲は、女性をコレクションか何かと勘違いしている。最低だ。人だって簡単に殺せるし、強力な武器を持っているのに、仲間である俺達に協力しようともしない。香織、あいつに付いて行っても不幸になるだけだ。だから、ここに残った方がいい。いや、残るんだ。例え恨まれても、君のために俺は君を止めるぞ。絶対に行かせはしない!」

 光輝の余りに突飛な物言いに、香織達が唖然とする。しかし、ヒートアップしている光輝はもう止まらない。説得のために向けられていた香織への視線は、何を思ったのかハジメの傍らのユエ達に転じられる。

「君達もだ。これ以上、その男の元にいるべきじゃない。俺と一緒に行こう! 君達ほどの実力なら歓迎するよ。共に、人々を救うんだ。シア、だったかな? 安心してくれ。俺と共に来てくれるなら直ぐに奴隷から解放する。ティオも、もうご主人様なんて呼ばなくていいんだ」

 そんな事を言って爽やかな笑顔を浮かべながら、ユエ達に手を差し伸べる光輝。雫は顔を手で覆いながら天を仰ぎ、香織は開いた口が塞がらない。

 そして、光輝に笑顔と共に誘いを受けたユエ達はというと……

 「「「……」」」

 もう、言葉もなかった。光輝から視線を逸らし、両手で腕を摩っている。よく見れば、ユエ達の素肌に鳥肌が立っていた。ある意味、結構なダメージだったらしい。ティオでさえ、「これはちょっと違うのじゃ……」と、眉を八の字にして寒そうにしている。

 そんなユエ達の様子に、手を差し出したまま笑顔が引き攣る光輝。視線を合わせてもらえないどころか、気持ち悪そうにハジメの影にそそくさと退避する姿に、若干のショックを受ける。

 そして、そのショックは怒りへと転化され行動で示された。無謀にもハジメを睨みながら聖剣を引き抜いたのだ。光輝は、もう止まらないと言わんばかりに聖剣を地面に突き立てるとハジメに向けてビシッと指を差し宣言した。

「南雲ハジメ! 俺と決闘しろ! 武器を捨てて素手で勝負だ! 俺が勝ったら、二度と香織には近寄らないでもらう! そして、そこの彼女達も全員解放してもらう!」
「……イタタタ、やべぇよ。勇者が予想以上にイタイ。何かもう見てられないんだけど」
「何をごちゃごちゃ言っている! 怖気づいたか!」

 聖剣を地面に突き立てて素手の勝負にしたのは、きっと剣を抜いた後で、同じようにハジメが武器を使ったら敵わないと考え直したからに違いない。意識的にか無意識的にかはわからないが……ユエ達も香織達も、流石に光輝の言動にドン引きしていた。

 しかし、光輝は完全に自分の正義を信じ込んでおり、ハジメに不幸にされている女の子達や幼馴染を救ってみせると息巻き、周囲の空気に気がついていない。元々の思い込みの強さと猪突猛進さ、それに始めて感じた“嫉妬”が合わさり、完全に暴走しているようだ。

 ハジメの承諾も聞かず、猛然と駆け出す光輝。ハジメは、溜息を吐きながら二歩、三歩と後退りした。それを見て、武器を使わない戦いに怖気づいたと考えた光輝は、より一層、力強く踏み込んだ。あと数歩で拳が届くという段階でも、ハジメは両手をだらんと下げたまま特に反応もしない。光輝は、ハジメが反応しきれていないのだと思い、勝利を確信した。

 その瞬間、

ズボッ!

「ッ!?」

 光輝の姿が消えた。

 正確には、拳に力を乗せるため最後の一歩に最大限の力を込めて踏み込んだ瞬間、落ちたのだ。落とし穴に。ハジメは、最初に二、三歩下がった時に、靴に仕込まれた魔法陣を使って錬成を行い地面の下に深さ四メートル程の穴を作って置いたのだ。

 その落とし穴は、光輝を呑み込むと瞬時に元の石畳に戻った。そして、地面の下からくぐもった爆発音が響く。落とし穴を錬成した時、ついでとばかりに閃光手榴弾と衝撃手榴弾、麻痺手榴弾と催涙手榴弾を“宝物庫”から地面の下に転送しておいたのである。

 おそらく地面の下では、脱出しようとした光輝に爆発の衝撃が襲いかかり、閃光が視覚を潰し、催涙成分が目と鼻を虐め抜き、麻痺成分が悶えることも許さずに体を硬直させ始めていることだろう。

 ハジメは無言で、再び錬成を行い、いつか二尾狼にした様に光輝の周囲を石で固めていった。一応、空気がなければ死ぬかもしれないので顔の周りは塞がずに、小さな空気穴だけ開けてやる。

 この間、傍目には、ハジメは何もせず突っ立っているだけに見えるので、一人で憤り、一人で突っ込み、一人で落ちて姿を消した光輝は物凄く……滑稽だった。

「あ~、八重樫。一応、生きてるから後で掘り出してやってくれ」
「……言いたいことは山ほどあるのだけど……了解したわ」

 光輝に関する面倒事は八重樫雫に! という日本にいた時からの暗黙の了解のまま、雫に面倒事を押し付けるハジメに、手で目元を覆いながら溜息をつく雫。ようやく、邪魔者はいなくなった。

 ……と思ったら、今度は檜山達が騒ぎ出す。曰く、香織の抜ける穴が大きすぎる。今回の事もあるし、香織が抜けたら今度こそ死人が出るかもしれない。だから、どうか残ってくれと説得を繰り返す。特に、檜山の異議訴えが激しい。まるで、長年望んでいたものがもう直ぐ手に入るという段階で手の中かこぼれ落ちることに焦っているような……そんな様子だ。

 檜山達四人は、香織の決意が固く説得が困難だと知ると、今度は、ハジメを残留させようと説得をし始めた。過去の事は謝るので、これからは仲良くしようと等とふざけたことを平気でぬかす。

 そんなこと微塵も思っていないだろうに、馴れ馴れしく笑みを浮かべながらハジメの機嫌を覗う彼等に、ハジメだけでなく、雫達も不愉快そうな表情をしている。そんな中、ハジメは、再会してから初めて檜山の眼を至近距離から見た。その眼は、香織が出て行くことも影響してか、狂的な光を放ち始めているようにハジメには思えた。

 雫達が、檜山達を諌めようと再び争論になりそうな段階で、ハジメは、せっかくなので、あの日の真実の確認と現状の解決のために檜山に話しかけてみることにした。口元に皮肉気な笑みを浮かべながら。

「なぁ、檜山。火属性魔法の腕は上がったか?」
「……え?」

 突然、投げかけられた質問に檜山がポカンとする。しかし、質問の意図に気がついたのか徐々に顔色を青ざめさせていった。

「な、なに言ってんだ。俺は前衛だし……一番適性あるのは風属性だ」
「へぇ、てっきり火属性だと思っていたよ」
「か、勘違いだろ? いきなり、何言い出して……」
「じゃあ、好きなんだな。特に火球とか。思わず使っちゃうくらいになぁ?」
「……」

 今や、檜山の顔色は青を通り越して白へと変化していた。その反応を見て、ハジメは確信する。そして、出ていこうとする香織への焦った態度から見て、その動機も察する。よく、今まで襲われなかったものだと、ハジメは香織をチラリと見やった。

 ハジメ自身は、今更、復讐に身を焦がそうなどと言う気持ちを一切持ち合わせていない。敵対するなら容赦はしないが、そうでなければ放置の方針だった。ここで報復して、光輝達と揉める面倒を背負い込む価値など檜山にはない。檜山達の存在は、ハジメにとって、本当に路傍の石ほどにも価値がなかったのだ。

 ハジメは、黙り込んだ檜山から離れると近藤達も含めて容赦なく告げた。

 「お前等の謝罪なんざいらないし、過去の事を気にしてもいない。俺にとって、お前らは等しく価値がない。だから、何を言われようと俺の知ったことじゃない。わかったらさっさと散れ! 鬱陶しい!」

 ハジメの物言いに怒りをあらわにする近藤達だったが、「檜山ぁ。お前ならわかってくれるよなぁ?」とハジメが檜山に満面の笑みで言うと、ビクリと体を震わせた檜山は無言で頷き、近藤達にもう止めるよう言い出した。檜山もまた、ハジメが自分のしたことに気がついていると知り、言外に含まれた意図を悟って、ハジメに合わせたのだ。

 豹変ともいえる檜山の態度に訝しそうな表情をする近藤達だったが、檜山が、感情を押し殺した尋常でない様子だったので、渋々、ハジメへの説得を諦めた。

 ようやく、本当にようやく、ハジメ達は出発を妨げる邪魔者がいなくなった。香織が、宿に預けてある自身の荷物を取りに行っている僅かな間(檜山達が付いていこうとしたがハジメの“威圧”で止められた)、龍太郎達が光輝を掘り起こしているのを尻目に、雫がハジメに話しかけた。

「何というか……いろいろごめんなさい。それと、改めて礼をいうわ。ありがとう。助けてくれたことも、生きて香織に会いに来てくれたことも……」

 迷惑をかけた事への謝罪と救出や香織の事でお礼を言う雫に、ハジメは、思わず失笑した。突然、吹き出したハジメに訝しそうな表情をする雫。視線で「一体なに?」と問いかけている。

「いや、すまん。何つーか、相変わらずの苦労人なんだと思ったら、ついな。日本にいた時も、こっそり謝罪と礼を言いに来たもんな。異世界でも相変わらずか……ほどほどにしないと眉間の皺が取れなくなるぞ?」
「……大きなお世話よ。そっちは随分と変わったわね。あんなに女の子侍らせて、おまけに娘まで……日本にいた頃のあなたからは想像出来ないわ……」
「惚れているのは一人だけなんだがなぁ……」
「……私が言える義理じゃないし、勝手な言い分だとは分かっているけど……出来るだけ香織のことも見てあげて。お願いよ」
「……」

 ハジメは答えない。香織の想いに応える気がない以上、正直、連れて行くべきではないとも思っていた。結局、ユエに押し切られたが……なぜ、惚れた女の方が、次々と他の女の同行許可を出すのか……どうしてこうなった? とユエに対する自分の甘さを棚上げにして遠い目をするハジメ。

 そんな、話を聞いていないかのような態度をとるハジメに、雫の親友魂が唸りを上げる。

「……ちゃんと見てくれないと……大変な事になるわよ」
「? 大変なこと? なんだそ……」
「“白髪眼帯の処刑人”なんてどうかしら?」
「……なに?」
「それとも、“破壊巡回”と書いて“アウトブレイク”と読む、なんてどう?」
「ちょっと待て、お前、一体何を……」
「他にも“漆黒の暴虐”とか“紅き雷の錬成師”なんてのもあるわよ?」
「お、おま、お前、まさか……」

 突然、わけのわからない名称を列挙し始めた雫に、最初は訝しそうな表情をしていたハジメだったが、雫がハジメの頭から足先まで面白そうに眺めていることに気がつくと、その意図を悟りサッと顔を青ざめさせた。

「ふふふ、今の私は“神の使徒”で勇者パーティーの一員。私の発言は、それはもうよく広がるのよ。ご近所の主婦ネットワーク並みにね。さぁ、南雲君、あなたはどんな二つ名がお望みかしら……随分と、名を付けやすそうな見た目になったことだし、盛大に広めてあげるわよ?」
「まて、ちょっと、まて! なぜ、お前がそんなダメージの与え方を知っている!?」
「香織の勉強に付き合っていたからよ。あの子、南雲君と話したくて、話題にでた漫画とかアニメ見てオタク文化の勉強をしていたのよ。私も、それに度々付き合ってたから……知識だけなら相応に身につけてしまったわ。確か、今の南雲君みたいな人を“ちゅうに……”」
「やめろぉー! やめてくれぇ!」
「あ、あら、想像以上に効果てきめん……自覚があるのね」
「こ、この悪魔めぇ……」

 既に、生まれたての小鹿のようにガクブルしながら膝を付いているハジメ。蘇るのはリアル中学生時代の黒歴史。記憶の奥深くに封印したそれが、「呼んだ?」と顔をひょっこり覗かせる。

「ふふ、じゃあ、香織のことお願いね?」
「……」
「ふぅ、破滅挽歌(ショットガンカオス)復活災厄(リバースカラミティ)……」
「わかった! わかったから、そんなイタすぎる二つ名を付けないでくれ」
「香織のことお願いね?」
「……少なくとも、邪険にはしないと約束する」
「ええ、それでも十分よ。これ以上、追い詰めると発狂しそうだし……約束破ったら、この世界でも日本でも、あなたを題材にした小説とか出すから覚悟してね?」
「おまえ、ホントはラスボスだろ? そうなんだろ?」

 羞恥心に大打撃をくらい発狂寸前となって頭を抱えるハジメ。そんなハジメを少し離れたところから見ていたユエ達や他のクラスメイト達は、圧倒的強者であるハジメを言葉だけで跪かせた雫に戦慄の表情を浮かべた。

 ハジメが、己の中の黒歴史と現在の自分の見た目に対するあれこれと戦っていると、香織がパタパタと足音を鳴らして戻ってきた。そして、雫の前で項垂れるハジメを見て目を丸くする。

 雫の事が気になって詳細を聞きに来たユエと香織が情報を交換する。ユエは、どうにも気心知れたやり取りをした挙句、言葉責めでハジメを下した雫に「むぅ~」と唸り、香織は、そう言えば、二人でこっそり話している事がよくあったような……とハジメと雫の二人を交互に見やる。そして二人は結論を出した。もしかして、女の戦いでもラスボス? と。

 名状しがたい表情のユエと香織を気にしつつ、いよいよ出発するハジメ達。雫や鈴など女性陣と永山のパーティー、それに報告を済ませて駆けつけたメルドが見送りのためホルアドの入口に集まった。そして、ハジメが取り出した魔力駆動四輪に、もはや驚きを通り越して呆れた視線を向ける。

 雫と香織が、お互いに手を取り合いしばしのお別れを惜しんでいると、ハジメが、“宝物庫”から黒塗りの鞘に入った剣を取り出し雫に手渡した。

「これは?」
「八重樫、獲物失ってたろ? やるよ。唯でさえ苦労人なのに、白崎が抜けたら“癒し(精神的な)”もなくなるしな。まぁ、日本にいたとき色々世話になった礼だ」

 雫が、ハジメに手渡された剣を受け取り鞘からゆっくり抜刀すると、まるで光を吸収するような漆黒の刀身が現れた。刃紋はなく、僅かな反りが入っており、先端から少しの間は両刃になっている。いわゆる小烏丸作りと呼ばれる刀に酷似していた。ハジメは日本刀自体には詳しくないが、ハウリアに渡した小太刀と同様に錬成の鍛錬の過程で作り出したものだ。

「世界一硬い鉱石を圧縮して作ったから頑丈さは折り紙付きだし、切れ味は素人が適当に振っても鋼鉄を切り裂けるレベルだ。扱いは……八重樫にいうことじゃないだろうが、気を付けてくれ」
「……こんなすごいもの……流石、錬成師というわけね。ありがとう。遠慮なく受け取っておくわ」

 一振り二振りし、全体のバランスと風すら切り裂きそうな手応えに感嘆して、笑みを浮かべながら素直に礼をいう雫。正直、雫の扱う八重樫流の剣術は当然日本刀を前提とするものなので、前の剣ではどうしても技を放つときに違和感があった。なので、刀が手に入ったのは素直に嬉しく、自然笑みも可憐なものになる。

「……ラスボス?」
「……雫ちゃん」
「えっ? なに? 二人共、どうしてそんな目で見るのよ?」

 ユエの警戒心たっぷりの眼差しと、香織の困ったような眼差しに、意味が分からず狼狽する雫。最後に何とも言えない空気を残して、雫達が見送る中、ハジメ達はホルアドの町を後にした。

 天気は快晴。目指すは【グリューエン大砂漠】にある七大迷宮の一つ【グリューエン大火山】。新たな仲間を加え賑やかさを増しながら、ハジメの旅は続く。
いつも読んで下さり有難うございます
感想・意見・誤字脱字報告も有難うございます

活動報告にも書かせて頂きましたが、一応、これで第三章は終わりとなります。
あとは、後日談一話と、もしかすると四章のプロローグ的なものを投稿するかもしれません。

あと檜山くんにはまだ出番があるので、今のところはこれくらいで勘弁してあげて下さい

次回は、金曜日の18時更新予定です
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ