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ありふれた職業で世界最強 作者:厨二好き/白米良

第三章

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再会後のあれこれ


 必死に感情を押し殺した光輝の声が響く中、その言葉を向けられている当人はというと、まるでその言葉が聞こえていないかのように、スタスタと倒れ伏すメルドの傍に寄り添うシアのもとへ歩みを進めた。

 ユエの方も、光輝達の護衛はもういいだろうと、ハジメ達の方へ向かう。背後で「あぁ、お姉さまぁ!」と心の中に小さなおっさんを飼う鈴が叫んでいたがスルーだ。

「シア、メルドの容態はどうだ?」
「危なかったです。あと少し遅ければ助かりませんでした。……指示通り“神水”を使って置きましたけど……良かったのですか?」
「ああ、この人には、それなりに世話になったんだ。それに、メルドが抜ける穴は、色んな意味で大きすぎる。特に、勇者パーティーの教育係に変なのがついても困るしな。まぁ、あの様子を見る限り、メルドもきちんと教育しきれていないようだが……人格者であることに違いはない。死なせるにはいろんな意味で惜しい人だ」

 ハジメは、龍太郎に支えられつつクラスメイト達と共に歩み寄ってくる光輝が、未だハジメを睨みつけているのをチラリと見ながら、シアに、メルドへの神水の使用許可を出した理由を話した。ちなみに、“変なの”とは、例えば、聖教教会のイシュタルのような人物のことである。

「……ハジメ」
「ユエ。ありがとな、頼み聞いてくれて」
「んっ」

 シアの話しているうちにユエが到着する。自分の名を呼び見上げてくるユエの頬を優しく撫でながら、ハジメは、感謝の意を伝えた。それに、視線で「気にしないで」と伝えながらも、嬉しそうに目元を綻ばせるユエ。自然、ハジメの眼差しも和らぎ見つめ合う形になる。

「……お二人共、空気読んで下さいよ……ほら、正気に戻って! ぞろぞろ集まって来ましたよ!」

 既に病気と言ってもいいくらい、いつも通り二人の世界を作り始めたハジメとユエに、シアがパンパンと手を鳴らしながらツッコミを入れて正気に戻す。

 何やら、光輝とは違う意味で睨む視線が増えたような気がするハジメ。特に、光輝達とは別方向から来る視線に、何故か背筋が粟立った。

「おい、南雲。なぜ、彼女を……」
「ハジメくん……いろいろ聞きたい事はあるんだけど、取り敢えずメルドさんはどうなったの? 見た感じ、傷が塞がっているみたいだし呼吸も安定してる。致命傷だったはずなのに……」

 ハジメを問い詰めようとした光輝の言葉を遮って、香織が、真剣な表情でメルドの傍に膝を付き、詳しく容態を確かめながらハジメに尋ねた。

 ハジメは、一瞬、自分に向けられた香織の視線に肝が冷えるような感覚を味わったが、気のせいだと思うことにして、香織の疑問に答えることにした。

「ああ、それな……ちょっと特別な薬を使ったんだよ。飲めば瀕死でも一瞬で完全治癒するって代物だ」
「そ、そんな薬、聞いたことないよ?」
「そりゃ、伝説になってるくらいだしな……普通は手に入らない。だから、八重樫は、治癒魔法でもかけてもらえ。魔力回復薬はやるから」
「え、ええ……ありがとう」

 ハジメに声をかけられ、未だに記憶にあるハジメとのギャップに少しどもりながら薬を受け取り礼をいう雫。ハジメは、そんな雫の反応を特に気にするでもなく、香織にも魔力回復薬を投げ渡した。あわあわと言いながらも、きっちり薬瓶をキャッチした香織も、ハジメに一言礼を言って中身を飲み干す。リポビ○ンな味が広がり、少しずつ活力が戻ってくる。香織さえ回復すれば、クラスメイト達も直ぐに治癒されるだろう。

 取り敢えず、メルドは心配ないとわかり安堵の息を吐く香織達。そこで、光輝が再び口を開く。

「おい、南雲、メルドさんの事は礼を言うが、なぜ、かの……」
「ハジメくん。メルドさんを助けてくれてありがとう。私達のことも……助けてくれてありがとう」

 そして、再び、香織によって遮られた。光輝が、物凄く微妙な表情になっている。しかし、香織は、そんな光輝のことは全く気にせず真っ直ぐにハジメだけを見ていた。ハジメの変わりように激しいショックを受けはしたが、それでも、どうしても伝えたい事があったのだ。メルドの事と、自分達を救ってくれたことのお礼を言いつつハジメの目の前まで歩み寄る。

 そして、グッと込み上げてくる何かを堪えるように服の裾を両の手で握り締め、しかし、堪えきれずにホロホロと涙をこぼし始めた。嗚咽を漏らしながら、それでも目の前のハジメの存在が夢幻でないことを確かめるように片時も目を離さない。ハジメは、そんな香織を静かに見返した。

「ハジメぐん……生きででくれで、ぐすっ、ありがどうっ。あの時、守れなぐて……ひっく……ゴメンねっ……ぐすっ」

 クラスメイトのうち、女子は香織の気持ちを察していたので生暖かい眼差しを向けており、男子の中でも何となく察していた者は同じような眼差しを、近藤達は苦虫を噛み潰したような目を、光輝と龍太郎は香織が誰を想っていたのか分かっていないのでキョトンとした表情をしている。鈍感主人公を地で行く光輝と脳筋の龍太郎、雫の苦労が目に浮かぶ。

 シアは「むっ、もしや新たなライバル?」と難しい表情をし、ユエはいつもに増して無表情でジッと香織を見つめている。

 ハジメは、目の前で顔をくしゃくしゃにして泣く香織が、遠藤に聞いていた通り、あの日からずっと自分の事を気にしていたのだと悟り、何とも言えない表情をした。

 正直、ユエには一度、自分の境遇を話す上で香織の話をしたことはあったのだが、それは奈落にいるときのことで、それ以降、ウルの町で愛子達に再会するまで香織の事は完全に忘れていたのだ。なので、これほど強く想われていた事に、少しだけ罪悪感が湧き上がった。

 ハジメは、困ったような迷うような表情をした後、苦笑いしながら香織に言葉を返した。

「……何つーか、心配かけたようだな。直ぐに連絡しなくて悪かったよ。まぁ、この通り、しっかり生きてっから……謝る必要はないし……その、何だ、泣かないでくれ」

 そう言って香織を見るハジメの眼差しは、いつか見た「守ってくれ」と言った時と同じ香織を気遣う優しさが宿っていた。その眼差しに、あの約束を交わした夜を思い出し、胸がいっぱいになる香織。思わずワッと泣き出し、そのままハジメの胸に飛び込んでしまった。

 胸元に縋り付いて泣く香織に、どうしたものかと両手をホールドアップしたまま途方に暮れるハジメ。他のクラスメイトだったら、問答無用に鬱陶しいと投げ飛ばすか、ヤクザキックで意識を刈り取るかするのだが、ここまで純粋に変わらない好意を向けられると、奈落に落ちる前のこともあり、邪険にしづらい。

 ただ、ユエの手前、ほかの女を抱きしめるのははばかられたので、銃口を突きつけられた人のように両手をホールドアップさせたまま、香織の泣くに任せるという中途半端な対応になってしまった。実に、ハジメらしくない。

 傍らにいる雫から「私の親友が泣いているのよ! 抱きしめてあげてよぉ!」という視線が叩きつけられているが、無言で見つめてくるユエの視線もあるので身動きが取りづらい。仕方なく間をとって、ポンポンと軽く頭を撫でるに止めてみた。本当に、いつになくヘタレているハジメだった。

「……ふぅ、香織は本当に優しいな。クラスメイトが生きていた事を泣いて喜ぶなんて……でも、南雲は無抵抗の人を殺したんだ。話し合う必要がある。もうそれくらいにして、南雲から離れた方がいい」

 クラスメイトの一部から「お前、空気読めよ!」という批難の眼差しが光輝に飛んだ。この期に及んで、この男は、まだ香織の気持ちに気がつかないらしい。何処かハジメを責めるように睨みながら、ハジメに寄り添う香織を引き離そうとしている。単に、香織と触れ合っている事が気に食わないのか、それとも人殺しの傍にいることに危機感を抱いているのか……あるいはその両方かもしれない。

「ちょっと、光輝! 南雲君は、私達を助けてくれたのよ? そんな言い方はないでしょう?」
「だが、雫。彼女は既に戦意を喪失していたんだ。殺す必要はなかった。南雲がしたことは許されることじゃない」
「あのね、光輝、いい加減にしなさいよ? 大体……」

 光輝の物言いに、雫が目を吊り上げて反論する。クラスメイト達は、どうしたものかとオロオロするばかりであったが、檜山達は、元々ハジメが気に食わなかったこともあり、光輝に加勢し始める。

 次第に、ハジメの行動に対する議論が白熱し始めた。香織は、既にハジメの胸元から離れて涙を拭った後だったが、先程のハジメの様子にショックを受けていたこともあり、何かを考え込むように難しい表情で黙り込んでいた。

 そんな彼等に、今度は比喩的な意味で冷水を浴びせる声が一つ。

「……くだらない連中。ハジメ、もう行こう?」
「あー、うん、そうだな」

 絶対零度と表現したくなるほどの冷たい声音で、光輝達を“くだらない”と切って捨てたのはユエだ。その声は、小さな呟き程度のものだったが、光輝達の喧騒も関係なくやけに明瞭に響いた。一瞬で、静寂が辺りを包み、光輝達がユエに視線を向ける。

 ハジメは、元々遠藤から話を聞いて、香織への義理を果たすために来ただけなので用は済んでいる。なので、ハジメの手を引くユエに従い、部屋を出ていこうとした。シアも、周囲を気にしながら追従する。

 そんなハジメ達に、やっぱり光輝が待ったをかけた。

「待ってくれ。こっちの話しは終わっていない。南雲の本音を聞かないと仲間として認められない。それに、君は誰なんだ? 助けてくれた事には感謝するけど、初対面の相手にくだらないんて……失礼だろ? 一体、何がくだらないって言うんだい?」
「……」

 光輝が、またズレた発言をする。言っている事自体はいつも通り正しいのだが、状況と照らし合わせると、「自分の胸に手を置いて考えろ」と言いたくなる有様だ。ここまでくれば、何かに呪われていると言われても不思議ではない。

 ユエは、既に光輝に見切りをつけたのか、会話する価値すらないと思っているようで視線すら合わせない。光輝は、そんなユエの態度に少し苛立ったように眉をしかめるが、直ぐに、いつも女の子にしているように優しげな微笑みを携えて再度、ユエに話しかけようとした。

 このままでは埓があかないどころかユエを不快にさてしまうと感じたハジメは、面倒そうな表情で溜息を吐きながらも代わりに少しだけ答えることにした。

「天之河。存在自体が色んな意味で冗談みたいなお前を、いちいち構ってやる義理も義務もないが、それだとお前はしつこく絡んできそうだから、少しだけ指摘させもらう」
「指摘だって? 俺が、間違っているとでも言う気か? 俺は、人として当たり前の事を言っているだけだ」

 ハジメから心底面倒です! という表情を向けられ、不機嫌そうにハジメに反論する光輝に取り合わず、ハジメは言葉を続けた。

「誤魔化すなよ」
「いきなり何を……」
「お前は、俺があの女を殺したから怒っているんじゃない。人死を見るのが嫌だっただけだ。だが、自分達を殺しかけ、騎士団員を殺害したあの女を殺した事自体を責めるのは、流石に、お門違いだと分かっている。だから、無抵抗の(・・・・)相手を殺したと論点をズラしたんだろ? 見たくないものを見させられた、自分が出来なかった事をあっさりやってのけられた……その八つ当たりをしているだけだ。さも、正しいことを言っている風を装ってな。タチが悪いのは、お前自身にその自覚がないこと。相変わらずだな。その息をするように自然なご都合解釈」
「ち、違う! 勝手なこと言うな! お前が、無抵抗の人を殺したのは事実だろうが!」
「敵を殺す、それの何が悪い?」
「なっ!? 何がって、人殺しだぞ! 悪いに決まってるだろ!」
「はぁ、お前と議論するつもりはないから、もうこれで終いな?――――俺は、敵対した者には一切容赦するつもりはない。敵対した時点で、明確な理由でもない限り、必ず殺す。そこに善悪だの抵抗の有無だのは関係ない。甘さを見せた瞬間、死ぬということは嫌ってくらい理解したからな。これは、俺が奈落の底で培った価値観であり、他人に強制するつもりはない。が、それを気に食わないと言って俺の前に立ちはだかるなら……」

 ハジメが一瞬で距離を詰めて光輝の額に銃口を押し付ける。同時に、ハジメの“威圧”が発動し周囲に濃密な殺気が大瀑布のごとく降りかかった。息を呑む光輝達。仲間内でもっとも速い雫の動きだって目で追える光輝だったが、今のハジメの動きはまるで察知出来ず、戦慄の表情をする。

「例え、元クラスメイトでも躊躇いなく殺す」
「お、おまえ……」
「勘違いするなよ? 俺は、戻って来たわけじゃないし、まして、お前等の仲間でもない。白崎に義理を果たしに来ただけ。ここを出たらお別れだ。俺には俺の道がある」

 それだけ言うと、何も答えず生唾を飲む光輝をひと睨みして、ハジメはドンナーをホルスターにしまった。“威圧”も解けて、盛大に息を吐きハジメを複雑そうな眼差しで見るクラスメイト達だったが、光輝は、やはり納得出来ないのか、なお何かを言い募ろうとした。しかし、それは、うんざりした雰囲気のユエのキツイ一言によって阻まれる。

「……戦ったのはハジメ。恐怖に負けて逃げ出した負け犬にとやかくいう資格はない」
「なっ、俺は逃げてなんて……」

 実は、ハジメ達が、ピンポイントであの場所に落ちてこられたのは偶然ではない。ちょうど上階を移動している時に莫大な魔力の奔流を感じて光輝達だと察したハジメが、感知系能力をフル活用して階下の気配を探り、錬成とパイルバンカーで撃ち抜いたというのが真相である。

 そして、その時感じた魔力の奔流とは、光輝の“覇潰”だった。感じた力の大きさからすれば、あの状態の光輝なら魔人族の女を討てたはずだと、ハジメ達はわかっていた。なので、その後の現場の状況と合わせて光輝が人殺しを躊躇い、そのためにあの窮地を招いたのだと看破していたのだ。それが、ユエの言う“恐怖に負けて逃げ出した”という言葉である。

 光輝が、ユエに反論しようとすると、そこへ、深みのある声が割って入った。

「よせ、光輝」
「メルドさん!」

 メルドは、少し前に意識を取り戻して、光輝達の会話を聞いていたようだ。まだ少しボーとするのか、意識をはっきりさせようと頭を振りながら起き上がる。そして、自分の腹など怪我していたはずの箇所を見て、不思議そうな顔で首を傾げた。

 香織が、メルドに簡潔に何があったのかを説明する。メルドは、自分が何やら貴重な薬で奇跡的に助けられたことを知り、そして、その相手がハジメであると聞いて、ハジメの生存を心底喜んだ。また、救われたことに礼を述べながら、あの時、助けられなかった事を土下座する勢いで謝罪するメルドに、ハジメは居心地悪そうにして謝罪を受け取った。

 ハジメとしては、全く気にしていなかったというか、メルドが言った「絶対助けてやる」という言葉自体忘却の彼方だったのだが……深々と頭を下げて謝罪するメルドを前に空気を読んだのだ。

 ハジメとのやり取りが終わると、メルドは、光輝に向き直り、ハジメにしたのと同じように謝罪した。

「メ、メルドさん? どうして、メルドさんが謝るんだ?」
「当然だろ。俺はお前等の教育係なんだ……なのに、戦う者として大事な事を教えなかった。人を殺す覚悟のことだ。時期がくれば、偶然を装って、賊をけしかけるなりして人殺しを経験させようと思っていた……魔人族との戦争に参加するなら絶対に必要なことだからな……だが、お前達と多くの時間を過ごし、多くの話しをしていく内に、本当にお前達にそんな経験をさせていいのか……迷うようになった。騎士団団長としての立場を考えれば、早めに教えるべきだったのだろうがな……もう少し、あと少し、これをクリアしたら、そんな風に先延ばしにしている間に、今回の出来事だ……私が半端だった。教育者として誤ったのだ。そのせいで、お前達を死なせるところだった……申し訳ない」

 そう言って、再び深く頭を下げるメルドに、クラスメイト達はあたふたと慰めに入る。どうやら、メルドはメルドで光輝達についてかなり悩んでいたようだ。団長としての使命と私人としての思いの狭間で揺れていたのだろう。

 メルドも、王国の人間である以上、聖教教会の信者だ。それ故に、“神の使徒”として呼ばれた光輝達が魔人族と戦うことは、当然だとか名誉なことだとか思ってもおかしくはない。にもかかわらず、光輝達が戦うことに疑問を感じる時点で、何とも人がいいというか、優しいというか、ハジメの言う通り人格者と評してもいいレベルだ。

 メルドの心の内を聞き、押し黙る光輝。そう遠くないうちに人を殺さなければならなかったと言われ、魔人族の女を殺しかけた時の恐怖を思い出したようだ。それと同時に、たとえ賊であっても人である者を訓練のために殺させようとしていたメルドの言葉にショックも受けていた。賊くらいなら、圧倒出来るだけの力はあるので、わざわざ殺すなんて……と。

 一方、香織の方も押し黙っていた。それは、メルドの話を聞いていたからではない。ずっと、ハジメの言葉について考えていたからだ。

 奈落の底で培った価値観、敵なら躊躇いなく殺す、例えクラスメイトであっても……以前のハジメからは考えられない発言だ。だが、それは先程の殺気が本気だと証明していた。他人のために体を張って行動できる優しいハジメが、自分達にすら躊躇うことなく殺意を向ける。自分の知るハジメと目の前にいるハジメの差に香織の心が戸惑い揺れる。先程、香織を気遣った時に感じた以前のハジメは自分の錯覚だったのかと、不安になる。

 と、香織がそんな事を考え込んでいると不意に視線を感じた。香織がその先を見やると、そこには金髪紅眼の美貌の少女。香織でも思わず見蕩れてしまうくらい美しいその少女が、感情を感じさせない瞳で香織をジッと観察していた。

 そう言えば、ハジメと随分親密そうだったと思い出し、香織も興味を惹かれてユエを見返した。しばらく、見つめ合う二人。

「……フ」
「っ……」

 しかし、その見つめ合いはユエの方から逸らされた。嘲笑付きで。

 思わず息を呑む香織。嘲笑に込められた意味に気がついたからだ。すなわち「この程度で揺れる思いなら、そのままハジメの事は忘れてしまえ」ということに。

 ユエは当然、香織の態度からハジメの事をどう思っているのか察していた。そして、ハジメが奈落に落ちても生存を信じて頑張っていたと聞いて、これは強力な恋敵が現れたかもしれない、受けて立ってやる! と内心息巻いていたのだ。

 だが、実際、香織を見てみると、以前のハジメと今のハジメを比べて、以前と異なることに戸惑いと不安を覚え一歩引いてしまっている。その反応は人として当然と言えば当然ではあるのだが……ユエからすると取るに足りない相手に見えたようだ。

 お前なんて相手にならない。ハジメはこれからも私の(・・)ハジメだ。ハジメの“特別”は私だ(・・)!。言外にそう宣言され、香織は顔を真っ赤に染めた。それは、怒りか羞恥か。それでも、反論出来なかったのは、香織が、ハジメという人間を見失いかけていたからだ。ユエと香織の初邂逅は、ユエに軍配が上がったようである。

 光輝達が微妙な雰囲気になっているのを尻目に、ハジメがユエとシアを連れて、パイルバンカーの杭などいくつかのものを回収し、開けた竪穴から出ていこうとした。それに気がついた光輝達も、ハジメ達に追随し始める。全員、消耗しているので地上に出るまでの間、ハジメ達に便乗しようと遠藤が提案し、メルドがハジメに頼み込んで了承を取ったのである。

 地上へ向かう道中、邪魔くさそうに魔物の尽くを軽く瞬殺していくハジメに、改めて、その呆れるほどの強さを実感して、これが、かつて“無能”と呼ばれていた奴なのかと様々な表情をするクラスメイト達。

 檜山は、青ざめた表情のままハジメを睨み、近藤達は妬みの視線を送り、永山達は感嘆の視線を向けながらも仲間ではないとはっきり言われた事に複雑な表情をしている。

 近藤達は、ハジメの実力を間近で見て萎縮はしているものの、以前のハジメに対する意識が抜けきっていないのだろう。永山達は、ハジメが檜山達にどういう扱いを受けているか知っていながら見て見ぬふりをしていたことから、後ろめたさがあるようだ。仲間と思われなくても仕方ないかもしれないと……

 背後からぞろぞろと様々な視線を向けてくる光輝達を、サクッと無視して我が道を進むハジメ。

 途中、鈴の中のおっさんが騒ぎ出しユエにあれこれ話しかけたり、ハジメに何があったのか質問攻めにしたり、二人が余り相手にしてくれないと悟るとシアの巨乳とウサミミを狙いだしたりして、雫に物理的に止められたり、近藤達がユエやシアに下心満載で話しかけて完全に無視されたり、それでもしつこく付き纏った挙句、無断でシアのウサミミに触ろうとしてハジメからゴム弾をしこたま撃ち込まれたり、ヤクザキックを受けて嘔吐したり、マジな殺気を受けて少し漏らしながら今度こそ恐怖を叩き込まれたり――――色々ありつつ、遂に、一行は地上へとたどり着いた。

 香織は、未だ、俯いて思い悩んでいる。雫は、そんな香織を心配そうに寄り添いながら見つめていた。だが、そんな香織の悩みなど吹き飛ぶ衝撃の事態が発生する。ハジメに心を寄せていた一人の女としては、絶対に看過できない事態。

それは、【オルクス大迷宮】の入場ゲートを出た瞬間にやって来た。

「あっ! パパぁー!!」
「むっ! ミュウか」

 ハジメをパパと呼ぶ幼女の登場である。
いつも読んで下さり有難うございます
感想・意見・誤字脱字報告も有難うございます

SEKKYOU展開は余り好きじゃないのですが、どうしてもSEKKYOU臭くなってしまいました。その内、書き直すかもしれません

三章終了まで、あと二話です
最後まで楽しんでもらえれば嬉しいです


次回は、火曜日の18時更新予定です
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