挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ありふれた職業で世界最強 作者:厨二好き/白米良

第三章

75/257

懐かしきホルアド



「ヒャッハー! ですぅ!」

 左手側にライセン大峡谷と右手側の雄大な草原に挟まれながら、魔力駆動二輪と四輪が太陽を背に西へと疾走する。街道の砂埃を巻き上げながら、それでも道に沿って進む四輪と異なり、二輪の方は、峡谷側の荒地や草原を行ったり来たりしながらご機嫌な様子で爆走していた。

「……シアのやつご機嫌だな。世紀末な野郎みたいな雄叫び上げやがって」
「……むぅ。ちょっとやってみたいかも」

 四輪の運転席で、窓枠に肘をかけながら片手でハンドルを握るハジメが、呆れたような表情で呟いた。ハジメの言葉通り、今、シアは四輪の方には乗っていない。一人で二輪を運転しているのである。

 もともとシアは、二輪の風を切って走る感じがとても気に入っていたのだが、最近、人数が多くなり、すっかり四輪での移動が主流になっていたため少々不満に思っていたのだ。窓から顔を出して風を感じることは出来るが、やはり何とも物足りないし、四輪の車内ではハジメの隣りはユエの指定席なので、二輪の時のようにハジメにくっつくことも出来ない。それならば、運転の仕方を教わり自分で二輪を走らせてみたいとハジメに懇願したのである。

 魔力駆動二輪は、魔力の直接操作さえ出来れば割と簡単に動かすことができる。場合によっては、ハンドル操作を自らの手で行わずとも、それすら魔力操作で行えるのだ。なので、シアにとっては大して難しいものでもなく、あっという間に乗りこなしてしまった。そして、その魅力に取り憑かれたのである。

 今も、奇声を発しながら右に左にと走り回り、ドリフトしてみたりウイリーをしてみたり、その他にもジャックナイフやバックライドなどプロのエクストリームバイクスタント顔負けの技を披露している。アクセルやブレーキの類も魔力操作で行えるので、地球のそれより難易度は遥かに簡単ではあるのだが……それでも、既にハジメなど足元にも及ばないほど乗りこなしていた。シアのウサミミが「へいへい、どうだい、私のテクは?」とでも言うように、ちょっと生意気な感じで時折ハジメの方を向くのが地味にイラっとくる。

 たまに、乗り物に乗ると性格が豹変する人がいるが、シアもその類なのかもしれない。ハジメの傍らで同じようにシアの様子を見ていたユエが、ちょっと自分もやりたそうにしている。ユエが、「ヒャッハー!」とか言いだしたら、ひどく悲しい気分になりそうなので絶対阻止しようと心に決めるハジメ。そんな、ハジメに、ユエの更に隣で窓から顔を出して気持ちよさそうにしていた三、四歳くらいの幼女ミュウが、いそいそとユエの膝の上によじ登ると、そのまま大きな瞳をキラキラさせる。そして、ハンドル握りながら逆立ちし始めたシアを指差し、ハジメにおねだりを始めた。

「パパ! パパ! ミュウもあれやりたいの!」
「ダメに決まってるだろ」

 ミュウがユエの膝の上に座りながら、即行で自分のお願いを否定したハジメに「やーなの! ミュウもやるの!」と全力で駄々をこねる。暴れるミュウが座席から転げ落ちないよう、ユエが後ろから抱きしめて「……暴れちゃメッ!」と叱りつけた。「うぅ~」と可愛らしい唸り声を上げながら、しょぼくれるミュウにハジメが仕方ないなぁ~という表情をする。

「ミュウ。後で俺が乗せてやるから、それで我慢しろ」
「ふぇ? いいの?」
「ああ。シアと乗るのは断じて許さんが……俺となら構わねぇよ」
「シアお姉ちゃんはダメなの?」
「ああ、絶対ダメだ。見ろよ、あいつ。今度は、ハンドルの上で妙なポーズとりだしたぞ。何故か心に来るものがあるが……あんな危険運転するやつの乗り物に乗るなんて絶対ダメだ」

 二輪のハンドルの上に立ち、右手の五指を広げた状態で顔を隠しながら左手を下げ僅かに肩を上げるという奇妙なポーズでアメリカンな笑い声を上げるシア。そんなジョ○的な香ばしいポーズをとる彼女にジト目を向けながら、ハジメはミュウに釘を差す。見てないところでシアに乗せてもらったりするなよ? と。

「そもそも、二輪は危ないんだから出来れば乗せたくないんだがなぁ……二輪用のチャイルドシートとか作ってみるか? 材料は……ブツブツ」
「ユエお姉ちゃん。パパがブツブツ言ってるの。変なの」
「……ハジメパパは、ミュウが心配……意外に過保護」
「フフ、ご主人様は意外に子煩悩なのかの? ふむ、このギャップはなかなか……ハァハァ」
「ユエお姉ちゃん。ティオお姉ちゃんがハァハァしてるの」
「……不治の病だから気にしちゃダメ」

 膝の上から自分を見上げてくるミュウの頭をいい子いい子しながら、ユエがミュウの話し相手を務める。

 ミュウと旅し始めて少し経つが、既に「パパ」という呼び名については諦めているハジメ。当初は、何が何でも呼び名を変えようとあの手この手を使ったのだが、そうする度に、ミュウの目端にジワッと涙が浮かび、ウルウルした瞳で「め、なの? ミュウが嫌いなの?」と無言で訴えてくるのだ。奈落の魔物だって蹴散らせるハジメだが、何故かミュウにはユエと同じくらい勝てる気がしなかった。結局、なし崩し的に「パパ」の呼び名が定着してしまった。

 「パパ」の呼び名を許容(という名の諦め)してからというもの、何だかんだでミュウを気にかけるハジメ。今では、むしろ過保護と言っていいくらいだった。シアは残念ウサギだし、ティオは変態だし、母親の元に返すまでミュウは俺が守らねば! とか思っているようだ。世話を焼きすぎる時は、むしろユエがストッパーになってミュウに常識を教えるという構図が現在のハジメ達だった。

 ユエは、ミュウがハジメにべったりなので、中々二人っきりでイチャつく機会が持てず、若干、欲求不満気味だったが、やはり懐いてくれるミュウが可愛いので仕方ないかと割り切っている。

 座席の後ろで、何やら妄想に熱が入り始めたのかハァハァという息遣いが煩くなってきたティオに魔法を撃ち込んで黙らせつつ、ユエは、教育に悪いのでミュウの耳を塞ぐ。そして、未だ、ミュウ専用の座席作りに思いを馳せてブツブツ呟くハジメと、遂に二輪に乗ることすらなく走らせた二輪の後部に捕まって地面を直接滑り始めたシアを見ながら、私がしっかりしなきゃ! とちょっと虚しい決意をするのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ハジメ達は、現在、宿場町ホルアドにいた。

 本来なら素通りしてもよかったのだが、フューレンのギルド支部長イルワから頼まれごとをしたので、それを果たすために寄り道したのだ。といっても、もともと【グリューエン大砂漠】へ行く途中で通ることになるので大した手間ではない。

 ハジメは、懐かしげに目を細めて町のメインストリートをホルアドのギルドを目指して歩いた。ハジメに肩車してもらっているミュウが、そんなハジメの様子に気がついたようで、不思議そうな表情をしながらハジメのおでこを紅葉のような小さな掌でペシペシと叩く。

「パパ? どうしたの?」
「ん? あ~、いや、前に来たことがあってな……まだ四ヶ月程度しか経ってないのに、もう何年も前のような気がして……」
「……ハジメ、大丈夫?」

 複雑な表情をするハジメの腕にそっと自らの手を添えて心配そうな眼差しを向けるユエ。ハジメは、肩を竦めると、次の瞬間にはいつも通りの雰囲気に戻っていた。

「ああ、問題ない。ちょっとな、えらく濃密な時間を過ごしたもんだと思って感慨に耽っちまった。思えば、ここから始まったんだよなって……緊張と恐怖と若干の自棄を抱いて一晩過ごして、次の日に迷宮に潜って……そして落ちた」
「……」

 ある意味運命の日とも言うべきあの日のことを思い出し独白をするハジメの言葉を、神妙な雰囲気で聞くユエ達。ユエは、ジッとハジメを見つめている。ティオが、興味深げにハジメに尋ねた。

「ふむ。ご主人様は、やり直したいとは思わんのか? 元々の仲間がおったのじゃろ? ご主人様の境遇はある程度聞いてはいるが……皆が皆、ご主人様を傷つけたわけではあるまい? 仲の良かったものもいるのではないか?」

 ティオは、まだハジメ達と付き合いが浅いため、時折、今のようにハジメ達の心の内を知ろうと、客観的に見ればかなりストレートな、普通なら気を遣ってしないような質問をする。それは、単なる旅の同行者ではなく、ティオ自身がきちんとハジメ達の仲間になりたいと思っているが故の彼女なりの努力だ。手に余る変態ではあるが、其の辺の在り方はハジメの好みだった。

 なので、特に気を悪くすることもなく、ハジメはティオの質問を受け止める。そして、ふと、月明かりに照らされた真夜中のお茶会を思い出した。まずい紅茶モドキに、白いネグリジェ、月の光を反射して輝く黒髪、自分を守ると誓った女の子、最後の瞬間、悲痛な表情で仲間に羽交い絞めにされながらも自分に向かって手を伸ばしていたあの子……

 不意に、自分の腕に触れる手に力が込められるのを感じてハッと我を取り戻すハジメ。見れば、ユエが揺らがぬ強い眼差しで真っ直ぐにハジメを見つめており、触れている手はギュッとハジメの袖を握りしめていた。

 ハジメは、そんなユエと目を合わせると、ふっと目元を和らげて優しい眼差しで同じくジッと見つめ返した。

「確かに、そういう奴等もいたな……でも、もし仮にあの日に戻ったとしても、俺は何度でも同じ道を辿るさ」
「ほぅ、なぜじゃ?」

 ハジメの様子を見れば答えは自ずとわかるものだが、ティオは、少し面白そうな表情であえて聞いた。ハジメは、ユエから目を離さないまま、自分を掴むユエの手に自らの反対側の手を重ねて優しく握り締める。ユエの表情が僅かに綻ぶ。頬も少し赤く染まっている。

「もちろん……ユエに会いたいからだ」
「……ハジメ」

 ホルアドの町は、直ぐ傍にレベル上げにも魔石回収による金稼ぎにも安全マージンを取りながら行える【オルクス大迷宮】があるため、冒険者や傭兵、国の兵士がこぞって集まり、そして彼等を相手に商売するため多くの商人も集まっていることから、常時、大変な賑わいを見せている。当然、町のメインストリートといったら、その賑わいもひとしおだ。

 そんな多くの人々で賑わうメインストリートのど真ん中で、突如立ち止まり見つめ合い出すハジメとユエ。周囲のことなど知ったことかと二人の世界を作って、互の頬に手を伸ばし、今にもキスしそうな雰囲気だ。好奇心や嫉妬の眼差しが二人にこれでもかと注がれ、若干、人垣まで出来そうになっているが、やはり、ハジメとユエは気がつかない。お互いのことしか見えていないようである。

「ティオさん、聞きました? そこは、“お前達に”っていうところだと思いません? ユエさんオンリーですよ。また、二人の世界作ってますよ。もう、場所も状況もお構いなしですよ。それを傍から見てる私達にどうしろと? いい加減、あの空気を私との間にも作ってくれていいと思うんです。私は、いつでも受け入れ態勢が整っているというのに、いつまで経っても、残念キャラみたいな扱いで……いや、わかっていますよ? ユエさんが特別だということは。私も、元々はお二人の関係に憧れていたからこそ、一緒にいたいと思ったわけですし。だから、ユエさんが特別であることは当然で、それはそうあっていいと思うんですけどね。むしろ、ユエさんを蔑ろにするハジメさんなんてハジメさんじゃないですし。そんな事してユエさんを悲しませたら、むしろ私がハジメさんをぶっ殺す所存ですが。でも、でもですよ? 最近、ちょっとデレてきたなぁ~、そろそろ大人の階段登っちゃうかなぁ~って期待しているのに一行にそんなことにならないわけで、いくらユエさんが特別でも、もうちょっと目を向けてくれてもいいと思いません? 据え膳食わぬは男の恥ですよ。こんなにわかりやすくウェルカムしてるのに、グダグダ言って澄まし顔でスルーして、このヘタレ野郎が! と思ってもバチは当たらないと思うのですよ。私だってイチャイチャしたいのですよ! ベッドの上であんなことやこんなことをして欲しいのですよ! ユエさんがされてたみたいなハードなプレイを私にも! って思うのですよ! そこんとこ変態代表のティオさんはどう思います!?」
「シ、シアよ。お主が鬱憤を溜め込んでおるのはわかったから、少し落ち着くのじゃ。むしろ、公道でとんでもないこと叫んでおるお主の方が注目されとる。というか、最後さりげなく妾を罵りおったな……こんな公の場所で変態扱いされてしもうた、ハァハァ、心なし周囲の妾を見る目が冷たい気がする……ハァハァ、んっんっ」

 メインストリートのど真ん中で、エロいことして欲しいと叫ぶウサミミ少女と変態と罵られて怪しげな雰囲気を醸し出しながらハァハァと息を荒げる妙齢の美女。好奇心に集まっていた周囲の人々がドン引きして後退っていく。

「パパ~、シアお姉ちゃんとティオお姉ちゃんが……」
「ミュウ。見ちゃダメだ。他人の振りをするんだ」
「……シア……今度、ハジメを縛ってシアと一緒に……」

 シアの雄叫びに、流石に気がついて我を取り戻したハジメとユエは、事態が呑み込めずキョトンとしていたミュウに、取り敢えずシアとティオを見せないようにして他人のフリをする。

 ユエが小声で何やら恐ろしいことを呟いていた気がしたが、ハジメは聞こえないことにした。気にしたら、今後、ユエとの時間に罠の可能性を疑わなくてはならなくなる。それは、ちょっと勘弁だった。ユエなら、そんな無理やり何てことは……しない……はず? きっと、多分……前科があったような気がするが大丈夫だ! とハジメは自分に言い聞かせる。

 遠くの方に、何の騒ぎだ! と町の警備兵がチラホラと見え出したので、ハジメは仕方なくシアとティオの首根っこを掴んで引きずりながらその場を離脱した。町に行く度に、美女、美少女に囲まれているハジメには羨望と嫉妬の目が突き刺さるのだが……この時ばかりは何故か同情的な視線が多かったと感じたのは、きっと気のせいではないだろう。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ハジメ達は、周囲の人々の視線を無視しながら、ようやく冒険者ギルドのホルアド支部に到着した。相変わらずミュウを肩車したまま、ハジメはギルドの扉を開ける。他の町のギルドと違って、ホルアド支部の扉は金属製だった。重苦しい音が響き、それが人が入ってきた合図になっているようだ。

 前回、ハジメがホルアドに来たときは、冒険者ギルドに行く必要も暇もなかったので中に入るのは今回が始めてだ。ホルアド支部の内装や雰囲気は、最初、ハジメが抱いていた冒険者ギルドそのままだった。

 壁や床は、ところどころ壊れていたり大雑把に修復した跡があり、泥や何かのシミがあちこちに付いていて不衛生な印象を持つ。内部の作り自体は他の支部と同じで入って正面がカウンター、左手側に食事処がある。しかし、他の支部と異なり、普通に酒も出しているようで、昼間から飲んだくれたおっさん達がたむろしていた。二階部分にも座席があるようで、手すり越しに階下を見下ろしている冒険者らしき者達もいる。二階にいる者は総じて強者の雰囲気を出しており、そういう制度なのか暗黙の了解かはわからないが、高ランク冒険者は基本的に二階に行くのかもしれない。

 冒険者自体の雰囲気も他の町とは違うようだ。誰も彼も目がギラついていて、ブルックのようなほのぼのした雰囲気は皆無である。冒険者や傭兵など、魔物との戦闘を専門とする戦闘者達が自ら望んで迷宮に潜りに来ているのだから気概に満ちているのは当然といえば当然なのだろう。

 しかし、それを差し引いてもギルドの雰囲気はピリピリしており、尋常ではない様子だった。明らかに、歴戦の冒険者をして深刻な表情をさせる何かが起きているようだ。

 ハジメ達がギルドに足を踏み入れた瞬間、冒険者達の視線が一斉にハジメ達を捉えた。その眼光のあまりの鋭さに、ハジメに肩車されるミュウが「ひぅ!」と悲鳴を上げ、ヒシ! とハジメの頭にしがみついた。冒険者達は、美女・美少女に囲まれた挙句、幼女を肩車して現れたハジメに、色んな意味を込めて殺気を叩きつけ始める。ますます、震えるミュウを肩から降ろし、ハジメは、片腕抱っこに切り替えた。ミュウは、ハジメの胸元に顔をうずめ外界のあれこれを完全シャットアウトした。

 血気盛んな、あるいは酔った勢いで席を立ち始める一部の冒険者達。彼等の視線は、「ふざけたガキをぶちのめす」と何より雄弁に物語っており、このギルドを包む異様な雰囲気からくる鬱憤を晴らす八つ当たりと、単純なやっかみ混じりの嫌がらせであることは明らかだ。

 ハジメ達は単なる依頼者であるという可能性もあるのだが……既に彼等の中にそのような考えはないらしい。取り敢えず話はぶちのめしてからだという、荒くれ者そのものの考え方でハジメの方へ踏み出そうとした。

 が、最近めっきり過保護なパパになりつつあるハジメが、仮とは言え娘を怯えさせられて黙っているわけがなかった。既に、ハジメの額には青筋が深く深~く浮き上がっており、ミュウなだめる手つきの優しさとは裏腹にその眼は凶悪に釣り上がっていた。

 そして……

ドンッ!!

 そんな音が聞こえてきそうなほど濃密にして巨大かつ凶悪なプレッシャーが、ハジメ達を睨みつけていた冒険者達に情け容赦一切なく叩きつけられた。先程、冒険者達から送られた殺気が、まるで子供の癇癪に思えるほど絶大な圧力。既に物理的な力すらもっていそうなそれは、未熟な冒険者達の意識を瞬時に刈り取り、立ち上がっていた冒険者達の全てを触れることなく再び座席につかせる。

 ハジメのプレッシャー“威圧”と“魔力放射”を受けながら意識を辛うじて失っていない者も、大半がガクガクと震えながら必死に意識と体を支え、滝のような汗を流して顔を青ざめさせている。

 と、永遠に続くかと思われた威圧がふとその圧力を弱めた。その隙に止まり掛けていた呼吸を必死に行う冒険者達。中には失禁したり吐いたりしている者もいるが……そんな彼等にハジメがニッコリ笑いながら話しかけた

「おい、今、こっちを睨んだやつ」
「「「「「「「!」」」」」」」

 ハジメの声にビクッと体を震わせる冒険者達。おそるおそるといった感じでハジメの方を見るその眼には、化け物を見たような恐怖が張り付いていた。だが、そんな事はお構いなしに、ハジメは彼等に向かって要求……もとい命令をする。

「笑え」
「「「「「「「え?」」」」」」」

 いきなり、状況を無視した命令に戸惑う冒険者達。ハジメが、更に言葉を続ける。

「聞こえなかったか? 笑えと言ったんだ。にっこりとな。怖くないアピールだ。ついでに手も振れ。お前らのせいで家の子が怯えちまったんだ。トラウマになったらどうする気だ? ア゛ァ゛? 責任とれや」

 だったら、そもそもこんな場所に幼子を連れてくるなよ! と全力でツッコミたい冒険者達だったが、化け物じみた相手にそんな事言えるはずもなく、戸惑っている内にハジメの眼光が鋭くなってきたので、頬を盛大に引き攣らせながらも必死に笑顔を作ろうとする。ついでに、ちゃんと手も振り始めた。

 こわもてのガタイのいい男達が揃って引き攣った笑みを浮かべて小さく手を振る姿は、途轍もなくシュールだったが、やはり、そんな事はお構いなく、ハジメは満足そうに頷くと胸元に顔を埋めるミュウの耳元にそっと話しかけた。

 何を言われたのか、ミュウはおずおずと顔を上げると、ハジメを潤んだ瞳で見上げる。そして、ハジメの視線に誘われてゆっくり振り向いた。そこには当然、必死に愛想を振りまくこわもて軍団。

「ひっ!」

 案の定、ミュウは怯えてハジメの胸元に逆戻りした。眉が釣り上がるハジメ。眼光の鋭さが増し、「どういうことだ、ゴラァ!」と冒険者達を睨みつける。「無茶言うな!」と泣きそうな表情になって内心ツッコミを入れる冒険者達は、遂に、ハジメの傍らにいるユエ達に助けを求める懇願の視線を向けた。

 その視線を受けて、ユエが「はぁ~」と深い溜息を吐くと、トコトコとミュウに近寄り、先程のハジメと同じく耳元に何かを囁く。すると、ミュウは、やはり先程と同じくおずおずと顔を上げると、再び冒険者達の方を見た。冒険者達は慌てて愛想を振りまく。

 しばらく、そんな冒険者達をジッと見つめていたミュウだったが、何かに納得したのかニヘラ~と笑うと小さく手を振り返した。その笑顔と仕草が余りに可愛かったので、状況も忘れてこわもて軍団も思わず和む。ハジメも、満足したようで再びミュウを肩車すると、もう冒険者達に興味はないとカウンターへと歩いて行った。

 ハジメ達が、カウンターに向かった瞬間、ドサドサと崩れ落ちる音があちこちから響いたがサクッと無視して、たどり着いたカウンターの受付嬢に要件を伝える。

 ちなみに、受付嬢は可愛かった。ハジメと同じ年くらいの明るそうな娘だ。テンプレはここにあったらしい。もっとも、普段は魅力的であろう受付嬢の表情は緊張でめちゃくちゃ強張っていたが。

「支部長はいるか? フューレンのギルド支部長から手紙を預かっているんだが……本人に直接渡せと言われているんだ」

 ハジメは、そう言いながら自分のステータスプレートを受付嬢に差し出す。受付嬢は、緊張しながらもプロらしく居住まいを正してステータスプレートを受け取った。

「は、はい。お預かりします。え、えっと、フューレン支部のギルド支部長様からの依頼……ですか?」

 普通、一介の冒険者がギルド支部長から依頼を受けるなどということはありえないので、少し訝しそうな表情になる受付嬢。しかし、渡されたステータスプレートに表示されている情報を見て目を見開いた。

「き“金”ランク!?」

 冒険者において“金”のランクを持つ者は全体の一割に満たない。そして、“金”のランク認定を受けた者についてはギルド職員に対して伝えられるので、当然、この受付嬢も全ての“金”ランク冒険者を把握しており、ハジメのこと等知らなかったので思わず驚愕の声を漏らしてしまった。

 その声に、ギルド内の冒険者も職員も含めた全ての人が、受付嬢と同じように驚愕に目を見開いてハジメを凝視する。建物内がにわかに騒がしくなった。

 受付嬢は、自分が個人情報を大声で晒してしまったことに気がついてサッと表情を青ざめさせる。そして、ものすごい勢いで頭を下げ始めた。

「も、申し訳ありません! 本当に、申し訳ありません!」
「あ~、いや。別にいいから。取り敢えず、支部長に取り次ぎしてくれるか?」
「は、はい! 少々お待ちください!」

 放っておけばいつまでも謝り続けそうな受付嬢に、ハジメは苦笑いする。ウルで軽く戦争し、フューレンで裏組織を壊滅させるなど大暴れしてきた以上、身分の秘匿など今更だと思ったのだ。

 子連れで美女・美少女ハーレムを持つ見た目少年の“金”ランク冒険者に、ギルド内の注目がこれでもかと集まるが、注目されるのは何時ものことなので割り切って受付嬢を待つハジメ達。注目されることに慣れていないミュウが、居心地悪そうなので全員であやす。ティオのあやし方が情操教育的に悪そうだったのでビンタをお見舞いしておく。そのことで更に騒がしくなったが、やはり無視だ。

 やがて、と言っても五分も経たないうち、ギルドの奥からズダダダッ! と何者かが猛ダッシュしてくる音が聞こえだした。何事だと、ハジメ達が音の方を注目していると、カウンター横の通路から全身黒装束の少年がズザザザザザーと床を滑りながら猛烈な勢いで飛び出てきて、誰かを探すようにキョロキョロと辺りを見渡し始めた。

 ハジメは、その人物に見覚えがあり、こんなところで再会するとは思わなかったので思わず目を丸くして呟いた。

「……遠藤?」
いつも読んで下さり有難うございます
感想・意見・誤字脱字報告も有難うございます

次回は、月曜日の18時更新予定です
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ