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ありふれた職業で世界最強 作者:厨二好き/白米良

第三章

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帰りの車内で

今回と次回は後日談みたいなものです


 北の山脈地帯を背に魔力駆動四輪が砂埃を上げながら南へと街道を疾走する。何年もの間、何千何万という人々が踏み固めただけの道であるが、ウルの町から北の山脈地帯へと続く道に比べれば遥かにマシだ。サスペンション付きの四輪は、振動を最小限に抑えながら快調にフューレンへと向かって進んでいく。

 もっとも、前の座席で窓を全開にしてウサミミを風に遊ばせてパタパタさせているシアは、四輪より二輪の方が好きらしく若干不満そうだ。何でも、ウサミミが風を切る感触やハジメにギュッと抱きつきながら肩に顔を乗せる体勢が好きらしい。

 運転は当然ハジメ。その隣は定番の席でユエだ。後部座席に、ウィルが乗っている。そのウィルが、ハジメに対し、少々身を乗り出しながら気遣わし気に話しかけた。

「あのぉ~、本当にあのままでよかったのですか? 話すべきことがあったのでは……特に愛子殿には……」

 ハジメは振り向かないまま、気のない返事をする。

「ん~? 別に、あれでいいんだよ。あれ以上、あそこにいても面倒なことにしかならないだろうし……先生も今は俺がいない方がいい決断が出来るだろうしな」
「……それは、そうかもしれませんが……」
「お前……ホント人がいいというか何というか……他人の事で心配し過ぎだろ?」

 ハジメの言葉を聞いても、なお、心配そうな表情をするウィルにハジメは苦笑いだ。あったばかりの冒険者達の死に本気で嘆き悲しみ、普通に考えれば自殺行為に等しい魔物の大群に襲われる自分とは関係ない町のために残り、恨みの対象であるティオを許し、今は半ば脅して連れ出したハジメと愛子達との関係を心配している。王国の貴族でありながら、冒険者を目指すなど随分変わり者だとは思っていたが、それを通り越して思わず心配になるぐらいお人好しだ。

「……いい人」
「いい人ですねぇ~」
「うむ、いい奴じゃな」

 ウィルは、一斉に送られた言葉に複雑な表情だ。褒められている気はするのだが、女性からの“いい人”というのは男としては何とも微妙な評価だ。

「わ、私の事はいいのです……私は、きちんと理由を説明すべきだったのではと、そう言いたいだけで……」
「……理由だと?」

 微妙な表情で頬をカリカリと掻きながら、話を続けるウィル。だが、ハジメは、ウィルの言葉に眉をピクリと動かし反応する。

「ええ。なぜ、愛子殿とわだかまりを残すかもしれないのに、清水という少年を殺したのか……その理由です」
「……言っただろ。敵だからって……」
「それは、彼を“助けない”理由にはなっても“殺す”理由にはなりませんよね? だって、彼はあの時、既に致命傷を負っていて、放って置いても数分の命だったのですから……わざわざ殺したのには理由があるのですよね?」
「……意外によく見ているんだな」

 ウィルの指摘したことはもっともであり、図星でもあった。クラスメイトであり、愛子の助けを求める声が響く中で、問答無用に清水を撃ち殺したハジメの所業はそれだけインパクトが強く、ハジメが殺す必要はなかったという事実は上手く隠れてしまっている。そのことを素で気がついたウィルは、何だかんだ言って貴族としての“目”を持っているということだろう。誤魔化されなかったウィルに、ハジメは感心したよう声音を出した。

 窓から外に顔を出して風を楽しんでいたシアも、「そう言えば、私も気になってました」と知りたそうな顔で運転中のハジメに顔を向ける。ハジメは、どう答えようかと少し逡巡するが、何かを言う前にユエが代わりに答えた。

「……ハジメ、ツンデレ」
「……」
「「「ツンデレ?」」」

 ユエの指摘に思い当たる点があるのかポーカーフェイスで無言を貫くハジメ。他のメンバーはオウム返しだ。

「……愛子へのお返し? あるいは、唯の気遣い?」
「……もののついでだよ」

 そっぽを向きつつ素っ気なく答えるハジメから、ユエが正解にたどり着いていると察し、シア達が説明を求める。

 ハジメが答えそうにないので、ユエが代わりに答えたところ、要は、愛子が清水の死に責任を感じないように意識を逸らしたのだという。

 清水は言っていた。自分が出会った魔人族の目的は、“豊穣の女神”である愛子の殺害であると。それは取りも直さず、愛子を殺すために清水を利用したということだ。最後のあの攻撃も、愛子を殺すために(・・・・・・・・)清水の体ごと貫いたのだ。

 もちろん、清水の死に対して愛子が負うべき責任などない。清水は自分の意志と欲望のために魔人族に魂を売り渡し、その結果が自身の死だったというだけの話だ。自らの選択の結果である以上、その責任は清水自身が負うべきものであるし、そうでなくても、直接清水に致命傷を与えた例の魔人族に責任はあるというべきである。

 だが、愛子はそれで納得するだろうか? 最後の攻撃が、愛子を狙ったものであることは自明の理だ。ならば、責任感が強く、何時でも生徒の事を一番に考えている愛子のことだ。自分に巻き込まれて清水は死んだ。すなわち、自分のせいで清水は死んだと考えるのではないだろうか? その可能性は大きいだろう。そして、その考えに至ったとき、愛子の心は耐えられるのだろうか? ハジメは、そこを少し危惧したのだ。

 愛子とて、異世界召喚という異常事態には人間として不安も恐怖も大いに感じていることだろう。それでも、嘆いて立ち止まったり恐怖に震えて蹲ることもなく、自分に出来ることをと頑張れるのは、彼女が“先生”としての矜持を持っているからだ。そして、愛子を“先生”足らしめているのは“生徒”の存在である。

 その生徒を自分のせいで死なせてしまった。その衝撃は、かつてハジメが死んだと聞かされた時よりも、そのハジメから原因がクラスメイトの裏切りだと聞かされた時よりも、遥かに強力な刃となって愛子の心を傷つけるだろう。あるいは、折れてしまうほどに。

 ハジメとしては、こんなことで愛子に折れられてしまっては困るという打算もあったが、愛子を心配する気持ちも確かにあったのだ。愛子の言葉は、些か以上に理想に走りすぎているとハジメは感じていた。そのせいで、多くの矛盾を孕んでしまっているとも。

 しかし、それでも、愛子が贈ってくれた言葉は、きっとこれから先の未来で、ユエやシアをより幸せにするために必要なものだと思ったし、だからこそ例え世界が変わっても、ハジメ自身が変わっても、なおハジメの“先生”として“説教”してくれたことに、ハジメはそれなりに恩義を感じていたのだ。

 それ故に、ハジメは、放っておいても死ぬと分かっていた清水を敢えて殺した。なるべく印象が強くなるように清水が“敵”であることを強調して。そうして、清水を殺したのはハジメなのだと印象づけたのだ。愛子の心が折れてしまわぬように、変わらず望み通り“先生”でいられるように義理を果たそうと思ったのだ。

「そういうことでしたか……ふふ、ツンデレですねぇ、ハジメさん」
「そういうことでしたか……」
「なるほどのぉ~、ご主人様は意外に可愛らしいところがあるのじゃな」

 ユエが、ハジメの思惑を他のメンバーに説明し終わり、彼等のハジメを見る目に生暖かさが宿る。ハジメは、そっぽを向いたままだ。

「……でも、愛子は気がつくと思う」
「……」

 無言でユエに視線を転じるハジメ。ユエは、その瞳に優しさを乗せてハジメを見つめ返した。

「……愛子は、ハジメの先生。ハジメの心に残る言葉を贈れる人。なら、気がつかないはずがない……」
「……ユエ」
「……大丈夫。愛子は強い人。ハジメが望まない結果には、きっとならない」
「……」

 どうやらユエは、自分が気に止めていなかった事柄で少しでもハジメに自分を省みさせた愛子にある程度の信頼を寄せているようだ。力強さと優しさを含んだ瞳で上目遣いに自分を見つめてくるユエに、ハジメもまた目を細め優しげに見つめ返した。ユエの言葉で、愛子の事や今後の展開について、少し心にかかっていたモヤが晴れたような気がする。

「はぁ~、また二人の世界作ってます……何時になったら私もあんな雰囲気を作れるようになるのでしょう……」
「こ、これは、何とも……口の中が何だか甘く感じますね……」
「むぅ~妾は、罵ってもらう方が好みなのだが……ああいうのも悪くないのぉ……」

 ハジメとユエの甘い雰囲気に当てられて居心地悪そうなウィル達。特に、シアは、頬を膨らませ唇を尖らせいじけている。

 それに気がついたユエが、シアに視線を転じると再びハジメに視線を合わせて無言の訴えをする。内容は、言わずもがな“シアにご褒美を”だ。シアの固有魔法“未来視”と、命懸けの行動がなければ、愛子は今頃、頭に穴を空けて帰らぬ人となっていただろう。シアは、まさしくハジメの恩師を救ったのである。

 そのことは十分に理解しているので、ハジメは「うっ」と詰まりながらもユエから視線を外しシアに声をかけた。

「……シア。その、何だ、今回は助かった。遅くなったが……ありがとな」
「……………………誰?」

 多少照れくさくとも我慢して礼を言った結果、返ってきたのは驚愕の表情とそんな言葉だった。ハジメの額に青筋が浮かぶが、自業自得と言えばそれまでなので我慢する。

「……まぁ、そういう態度を取られても仕方ないかとは思うがな……これでも、今回は割りかしマジで感謝してるんだぞ?」

 ハジメを凝視するシアに、今度はしっかりと視線を合わせて「ありがとな」と礼を言うハジメ。そんなハジメのストレートな言葉に、シアは全身に電撃でも流されたかのようにフルフルと身を震わせると、途端に落ち着きをなくしてそわそわし始めた。視線を激しく彷徨わせ、頬を真っ赤に染めている。ウサミミは、あっちへピコピコ、こっちへピコピコ。

「え、えっと、いえ、そんな、別に大した事ないと言いますか、そんなお礼を言われる程の事ではないといいますか、も、もう! 何ですか、いきなり。何だか、物凄く照れくさいじゃないですか………………えへへ」

 てれてれと恥ずかしげに身をくねらせるシアに、ハジメは苦笑いしながら少し疑問に思ったことを尋ねてみる。

「シア。少し気になったんだが……どうしてあの時、迷わず飛び込んだんだ? 先生とは、大して話してないだろ? 身を挺するほど仲良くなっていたとは思えないんだが……」
「それは……だって、ハジメさんが気にかける人ですから」
「……それだけか」
「? ……はい、それだけですけど?」
「……そうか」

 シアのキョトンとした表情に、ハジメは何とも言えない表情をする。確かに、ハジメにとって愛子は恩師といえる存在ではある。他のクラスメイト達と異なり、いなくなってしまえばそれなりに衝撃を受けるであろう相手だ。死ななくて良かったと素直に思える相手だ。だが、それを言動で明確に示した覚えはなかった。しかし、ユエといい、シアといい、ハジメの心情などお見通しだったようだ。それだけ、何時も心を砕いてくれているという事だろう。今更ながら自分には過ぎた仲間だと、そんな思いが心に過ぎる。

 これは、ユエに言われるまでもなく何かしらの形で報いるべきだろうと、ハジメは未だテレテレしているシアに話しかけた。

「シア。何かして欲しい事はあるか?」
「へ? して欲しい事……ですか?」
「ああ。礼というか、ご褒美と言うか……まぁ、そんな感じだ。もちろん出来る範囲でな?」

 いきなりの言葉に、少し困惑するシア。仲間として当然の事をしたと考えていたので、少々大げさではないかと思う。「う、う~ん」と唸りながら、何気なく隣のユエを見ると、ユエは優しげな表情でシアを見つめ、コクリと頷いた。シアは、ハジメの感謝の気持ちなのだと視線で教え、素直に受け取ればいいと促す。それを正確に読み取ったシアは、少し考えた後、にへら~と笑い、ユエに笑みを浮かべて頷くとハジメに視線を転じた。

「では、私の初めてをもらっ『却下だ』……なぜです? どう考えても、遂にデレ期キター!! の瞬間ですよね? そうですよね? 空気読んで下さいよ!」
「“出来る範囲で”と、そう言っただろうが」
「十分出来る範囲でしょう! さり気なく私を遠ざけてユエさんとはしてるくせに! 知っているのですからね! お二人の情事を知るたびに胸に去来する虚しさときたら! うぅ、フューレンに着いたら、また私だけお使いにでも行かせて、その隙に愛し合うんでしょ? ぐすっ、また、私だけ……一人ぼっちで時間を潰すんですね……ツヤツヤしているユエさんを見て見ぬふりしなきゃなんですね……ちくしょうですぅ……」
「いや、おまっ、何も泣かなくても……俺が惚れているのはユエなんだから、お前の事は、まぁ、大事な仲間だとは思うが恋情はなぁ……そんな相手を抱くっつうのは……」
「……ぐすっ……ハジメさんのヘタレ!」
「……おい」
「根性なし! 内面乙女のカマ野郎! 甲斐性なし! ムッツリスケベ!」

 遂に来るべき時が来たですぅ! と喜色を表に願いを告げると、言い終わる前に即行で却下され憤慨するシア。今までの不満なども一気に吐き出す勢いで泣きべそかきながらハジメを罵倒する。後ろの席からは、

「ぷふっ……数万規模の魔物を殲滅した男が……ヘタレ……ぷふっ」
「意外とご主人様は純情なのじゃなぁ、まだ関係をもっておらんかったとは……お尻の初めてを奪われた妾の方が一歩リードじゃな……」

 などと言う小声が聞こえてくる。ハジメは、全員車外に放り出してやろうかと、一瞬本気で考えたものの、隣にいるユエから何故か批難がましい視線を向けられたためグッと堪えた。そして、頬を引き攣らせながらシアに再度話しかけた。あと、ウィルは後でシメると心に誓う。もう一つの声は……相手にしたくないので放置だ。

「シア。もうちょいハードルを下げろ。それ以外なら……」
「……ハジメ、ダメ?」

 何故かユエから援護射撃が来る。シアは、「ユエさぁ~ん」と情けない声を上げながらヒシッとユエに抱きついた。明らかに、ユエは、ハジメがシアを抱くことを容認しているようだ。最近、本当にシアに対して甘いユエ。深い友情ゆえのものかと思っていたハジメだが、何だか困った妹のために世話を焼くお姉さんのようになって来ている。しかも、かなり重度のシスコンタイプ。

 愛しい少女から、他の女を抱いて欲しいと頼まれる。全く、意味がわからない状況にハジメは頭を抱えた。だが、ハジメにも譲れない思いがある。

「……俺が、心から欲しいと思うのは、ユエ、お前だけなんだ。シアの事は嫌いじゃないし、仲間としては大事にしたいとは思うが……ユエと同列に扱うつもりはない。俺はな、ユエに対して独占欲を持ってる。どんな理由があろうと、他の男が傍にいるなんて許容出来そうにない。心が狭いと思うかもしれないし、勝手だとも思うかもしれないが……ユエも同じように思ってくれたらと、そう思う。だから、例え相手がシアでも、他の女との関係を勧めるというのは勘弁してくれないか?」
「……ハジメ」

 腕にシアをしがみつかせたまま、ユエが頬を染め潤んだ瞳で真っ直ぐハジメを見上げる。ハジメもまた、そっと片手をユエの頬に当て優しく撫でながら見つめ返した。二人の間に、それはもう甘い雰囲気が漂う。空気の色すら艶やかな桃色になっているようだ。

 見つめ合う二人の顔は次第に近づいていき、そして……

「……完全に忘れてますよね……私のこと……私へのご褒美のお話だったはずなのに……」

 剣呑な声音とジト目でシアが至近で見つめ合うハジメとユエの二人を真横から睨む。そこで、漸く周りに状況に気がついた二人は、そそくさ距離をとった。ユエは、まだ照れくさいのか片手でその綺麗な髪をいじいじしながら心を落ち着かせている。

 不意打ち気味に告白されたハジメの本心に、大分心乱されたようだ。無表情が崩れて、自然と口元がニマニマしてしまう。独占したいという言葉も、独占されたいという言葉も、人によっては重いと思うかもしれないが、ユエにとってはこの上なく嬉しいことだった。心が震えて、思わずハジメ以外の全てを忘れる程に。

「……なるほど、お三人の関係が何となく分かってきました……シア殿は大変ですね」
「むぅ……ユエとの絆が深いのぅ……割り込むのは大変そうじゃが……まぁ、妾は罵って貰えればそれだけでも……」

 ウィルがハジメ達三人の関係を察しつつ砂糖を吐きそうな表情をする。後ろで何を想像したのかハァハァし始めた変態の存在など知らない。

「……ハジメ、ごめんなさい。でも、シアも大切……報いて欲しいと思う。だから、町で一日付き合うくらいは……ダメ?」
「ユエさぁ~ん」

 なお、ハジメにシアの事を頼むユエ。シアは、頭を撫でながら心を砕いてくれるユエに甘えるようにグリグリと顔を押し付ける。ハジメは、その様子を見て苦笑いしながら答えた。

「別に、それくらい頼まれなくても構わないさ。というか、ユエに頼まれたからってんじゃシアも微妙だろ? シアが頼むなら、それくらいは付き合うよ」
「ハジメさん……いえ、なりふり構っていられないので、既成事実が作れれば何だっていいんですけどね!」
「……ホントお前って奴は……」
「まぁ、まだそれは無理そうなので、取り敢えず好感度稼ぎにデートで我慢します。フューレンに着いたら、観光区に連れて行って下さいね?」
「ああ、わかったよ」

 案に、特別はユエだけだと改めて伝えたつもりなのだが、おそらく分かっていながら全くめげないシアに複雑な表情をしつつも、「まぁ、シアの好きにしたらいいか」とデートの申し込みを了承するハジメ。ハジメ自身、既にシアが大切な存在であることに変わりはないので、ユエに頼まれたから仕方なくではなく、今回の頑張りに報いようと本心から了承した。傍らのユエが、優しげな表情で「わ~い!」と喜びを表にするシアの頭をなでなでする。

「なんでしょう、このアウェイ感。一家団欒中に紛れ込んだ他人の気分です」
「う、う~む。これは放置プレイにしては全然ゾクゾクせんのじゃ……寂しいだけなのじゃ……というかそろそろ誰か妾に反応してくれてもいいんじゃよ? 中に入れてくれてもいいんじゃよ?」

 いちゃいちゃほのぼのする前席の後ろで居心地悪そうな表情をするウィル。それと、誰も呼んでいないのに、いつの間にか荷台に乗り込んで、荷台と車内をつなぐ窓から頭だけ車内に入れて、先程からちょくちょく会話に参加してくるティオ。

 戦いの前に、ハジメに着いて行きたいと頼んだにもかかわらず、結局、放置されたどころか存在そのものを忘れられてしまい、慌てて走り出した魔力駆動四輪の荷台に飛び乗ったのだが、その酷い扱いに興奮してハァハァしながら窓から車内を覗き込んでいた姿に、車内の全員がドン引きし、いないものとして扱うことにしたのである。

 もちろん、当初は振り落としてやろうと某ワイルドな速度の映画のように無茶な機動をしてやったのだが、魔法をフル活用して意地でも張り付き、しかも、だんだん興奮してきたのか恍惚としだしたので、関わらないことにしたのである。変態は、反応すればするほど喜ぶのだ。

 そんな、誰も反応してくれない状況に、放置プレイだと興奮していたティオだが、流石にハジメ達のやり取りに虚しさを感じ始めたらしく、遂に直接構ってくれと訴えだした。それでも全員無反応なので、ティオは、ずるずると荷台へと続く窓から車内へ入ろうと這いずって来る。黒い長髪が垂れ下がり、ゆっくり這いずって侵入してくる姿は、まるで某指輪の貞○さんを彷彿とさせる。

 流石に、不気味だったのかウィルが無視できずに「うわっ!」と言いながら窓際へと後退った。その声に反応して、ハジメ達も後部座席を見る。

「む? むぅ~、つ、つっかえてしもうた。胸が邪魔して……入れん。すまぬがウィル坊、引っ張ってくれんか?」

 むにむにと変形するシア以上の巨大な胸を窓枠に引っ掛けたままジタバタともがくティオがウィルに「引っ張っておくれ?」と手を伸ばす。それを見たハジメは、無言で左のホルスターからシュラークを抜くと肘を曲げて肩越しに躊躇いなく発砲した。

ドパンッ!

「ぬおっ!?」

 発砲音と共に飛び出た弾丸がティオの額に直撃し、衝撃でそのまま荷台に吹き飛ばして逆戻りさせた。荷台からドッタンバッタンとのたうつ音が聞こえる。

「な、なにをするんじゃ。いきなりそんな……興奮するじゃろ?」

 頬を染めて若干嬉しそうに額をさすりながら文句……ではなく変態発言をする竜人族ティオ。彼女は、今度は足から入ろうというのか、窓から足を突っ込み後ろ向きに車内へ入ってくる。が、今度はそのムッチリしたお尻が窓枠に引っかかり、魅惑的なお尻をふりふりしながら何とか中に入ろうともがいている。

 ハジメは、無言でシュラークを連射して、ティオのケツを車外に吹き飛ばそうとするが、かなりしっかりはまり込んでいる上に、お尻のムッチリ肉が衝撃を緩和するようで吹き飛ばせなかった。それどころか、弾丸がお尻に撃ち込まれる度に「あぁあん!」とか「激しいのじゃあ!」とか「ご主人様ぁ~」とかR18指定されそうな嬌声を上げるので、頬を引き攣らせたハジメは仕方なく銃撃を断念する。やはり、変態は相手にすべきではないのだ。

 竜人族にあこがれがあったユエは、既に自身の持っていたイメージが幻想となって消えていたにもかかわらず、なお、ショックを受けて片手で目元を覆ってしまっている。

 ティオは、銃撃が止んだ事を察して、何とかお尻と胸をねじ込み「ふぅ~」と息を吐きながら遂に車内への侵入を果たした。

「ハァハァ、全く……所構わずじゃな。しょうがないご主人様じゃ。じゃが、安心せよ。どのような愛でも妾は受けきってみせる。だから……もっとしてもいいんじゃよ? もっと激しくてもいいんじゃよ?」
「黙れ、変態。身を乗り出すな、こっちに寄るな。むしろ、そこのドアを開けて今すぐ飛び降りろ」
「ッ!? ハァハァ……何処までも弁えたご主人様め……じゃが断る。妾は、ご主人様に着いて行くと決めたからの。竜人族としての役目も果たせそうじゃし、責任もとってもらわねばならんし、別れる理由が皆無じゃ。ご主人様がなんと言おうと、着いて行くぞ。絶対離れんからな」

 車内に入るなり変態発言を連発するティオに、ハジメがつい冷たく返すと、ティオは更に表情を蕩けさせながら、しかし、断固とした主張をした。表情的に台無しだが。

「ふざけんな。何が責任だ。あれは唯の殺し合いの延長だろうが。殺されなかっただけありがたいと思え。それに、竜人族の役目というなら勇者君がいるだろうが。あいつが召喚の中心なんだから、あいつのとこに行けよ」
「嫌じゃ。絶対嫌じゃ。勇者とやらがどんな奴かは知らんが、ご主人様より無慈悲で容赦ないお仕置きをしてくれるとは思えん! それに見くびるでない! 既に妾は“ご主人様”と呼ぶ相手を決めておる。気分で主人を変える様な尻軽ではないわ!」

 眼をクワッ! と見開いて拳を握りながら力説するティオ。いい事言っている風だが、結局はハジメの容赦ない扱いが嬉しくて捨てられないというだけの変態宣言である。

「逃げても追いかけるからの? あちこちの町で、妾の初めてを奪った挙句、あんな事やこんな事をしてご主人様なしでは生きていけない体にされたと言いふらしながら、ご主人様の人相を伝え歩くからの?」
「……お前なぁ~」

 青筋を浮かべながら、本気で厄介な奴だと眼を剣呑に細めるハジメ。いっそ殺っちまうかとも思うのだが、敵というわけではないからユエが止めるだろうし、ならば記憶を無くすまで殴り続けるかとも思うのだが、頑丈さは折り紙つきである以上、記憶が飛ばなければ更に取り返しがつかないほど喜ばせそうなので気が進まない。

 結果、心底嫌そうな顔で睨む事しかできない。だが、そんな視線にもゾクゾクした様に体を震わせるティオ。もう既に、取り返しがつかない状態かもしれない。

「そう嫌そうな顔をするでない、ご主人様よ。妾は役に立つぞ。ご主人様たちほど規格外ではないが、あの戦いで証明は出来ているじゃろ? 何を目標としておるのかはわからんが、妾にもお供させておくれ。ご主人様、お願いじゃ」
「生理的に無理」
「ッ!!!? ハァハァ……んっ! んっ!」

 全く話の流れを汲まないハジメの言葉に、両腕で何かを堪えるように自分の体を抱きしめ股をモジモジさせるティオ。そんなティオに、ハジメだけでなく車内の全員が嫌そうな顔をするが、暫くするとハジメは深々と溜息を吐き、どこか疲れた表情をした。

「……と言いたところだが、何を言っても無駄なんだろ? 俺達の邪魔をしないってんならもう好きにしろよ。俺には、もうお前をどうこうする気力自体がわかない……」
 「お? おぉ~、そうかそうか! うむ、では、これから宜しく頼むぞ、ご主人様、ユエ、シア。妾のことはティオで良いからの! ふふふ、楽しい旅になりそうじゃ……」
「……むぅ」
「よ、宜しくお願いしますです……」

 喜色を表にするティオを尻目にハジメはもう一度ため息を吐き、ユエは不満そうに唸り、シアは戸惑ったように挨拶を返した。

 新たな仲間、変態の竜人族ティオが加わり、一行は中立商業都市フューレンへと向かう。
いつも読んで下さり有難うございます
感想・意見・誤字脱字報告も有難うございます

次回は、土曜日の18時更新予定です
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