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ありふれた職業で世界最強 作者:厨二好き/白米良

第三章

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支部長からの依頼


 ドット秘書長と呼ばれた男は、片手の中指でクイッとメガネを押し上げると落ち着いた声音でハジメに話しかけた。

「話は大体聞かせてもらいました。証人も大勢いる事ですし嘘はないのでしょうね。やり過ぎな気もしますが……まぁ、死んでいませんし許容範囲としましょう。取り敢えず、彼らが目を覚まし一応の話を聞くまでは、フューレンに滞在はしてもらうとして、身元証明と連絡先を伺っておきたいのですが……それまで拒否されたりはしないでしょうね?」

 言外に、これ以上譲歩はしませんよ? と伝えるドット秘書長にハジメは肩を竦めて答えた。

「ああ、構わない。そっちのブタがまだ文句を言うようなら、むしろ連絡して欲しいくらいだしな。今度はもっと丁寧な説得を心掛けるよ」

 ハジメはそんな事をいい、ドットに呆れ顔をさせながらステータスプレートを差し出す。

「連絡先は、まだ滞在先が決まってないから……そっちの案内人にでも聞いてくれ。彼女の勧める宿に泊まるだろうからな」

 ハジメに視線を向けられたリシーは、ビクッとした後、やっぱり私が案内するんですねと諦めの表情で肩を落とした。

「ふむ、いいでしょう……“青”ですか。向こうで伸びている彼は“黒”なんですがね……そちらの方達のステータスプレートはどうしました?」

 ハジメのステータスプレートに表示されている冒険者ランクが最低の“青”であることに僅かな驚きの表情を見せるドット。しかし、二人の女性の方がレガニドを倒したと聞いていたので、彼女達の方が強いのかとユエとシアのステータスプレートの提出を求める。

「いや、ユエもシアも……こっちの彼女達もステータスプレートは紛失してな、再発行はまだしていない。ほら、高いだろ?」

 さらりと嘘をつくハジメ。二人の異常とも言える強さを見せた後では意味がないかもしれないが、それでもはっきりと詳細を把握されるのは出来れば避けたい。

「しかし、身元は明確にしてもらわないと。記録をとっておき、君達が頻繁にギルド内で問題を起こすようなら、加害者・被害者のどちらかに関係なくブラックリストに載せることになりますからね。よければギルドで立て替えますが?」

 ドットの口ぶりから、どうしても身元証明は必要らしい。しかし、ステータスプレートを作成されれば、隠蔽前の技能欄に確実に二人の固有魔法が表示されるだろう。それどころか今や、神代魔法も表示されるはずだ。大騒ぎになることは間違いない。騒ぎになったところでハジメ達を害そうとするのなら全部なぎ倒せばいいとも思えるが、それでは、もうまともに滞在はできないだろう。何だか色々面倒になってきたハジメ。その思考を読んだようにユエがハジメに話しかけた。

「……ハジメ、手紙」
「? ああ。あの手紙か……」

 ユエの言葉で、ハジメはブルックの町を出るときに、ブルック支部のキャサリンから手紙を貰ったことを思い出す。ギルド関連で揉めたときにお偉いさんに見せれば役立つかもしれないと言って渡された得体の知れない手紙だ。

 ダメで元々、場合によってはさっさと都市から出ていこうと考え、ハジメは懐から手紙を取り出しドットに手渡した。キャサリンの言葉は話半分で聞いていたので、内容は知らない。ハジメは、こんなことなら内容を見ておけばよかったと若干後悔する

「身分証明の代わりになるかわからないが、知り合いのギルド職員に困ったらギルドお偉いさんに渡せと言われてたものがある」
「? 知り合いのギルド職員ですか? ……拝見します」

 ハジメ達の服装の質から、それほど金に困っているように思えなかったので、ステータスプレート再発行を拒むような態度に疑問を覚えるドットだったが、代わりにと渡された手紙を開いて内容を流し読みする内にギョッとした表情を浮かべた。

 そして、ハジメ達の顔と手紙の間で視線を何度も彷徨わせながら手紙の内容をくり返し読み込む。目を皿のようにして手紙を読む姿から、どうも手紙の真贋を見極めているようだ。やがて、ドットは手紙を折りたたむと丁寧に便箋に入れ直し、ハジメ達に視線を戻した。

「この手紙が本当なら確かな身分証明になりますが……この手紙が差出人本人のものか私一人では少々判断が付きかねます。支部長に確認を取りますから少し別室で待っていてもらえますか? そうお時間は取らせません。十分、十五分くらいで済みます」

 ドットの予想以上の反応に、「マジでキャサリンって何者なんだ」と引き気味のハジメ達。

「まぁ、それくらいなら構わないな。わかった。待たせてもらうよ」
「職員に案内させます。では、後ほど」

 ドットは傍の職員を呼ぶと別室への案内を言付けて、手紙を持ったまま颯爽とギルドの奥へと消えていった。指名された職員が、ハジメ達を促す。ハジメ達がそれに従い移動しようと歩き出したところで、困惑したような、しかし、どこか期待したような声がかかった。

「あの~、私はどうすれば?」

 リシーだった。ギルドでお話があるならお役目御免ですよね? とその瞳が語っている。明らかに厄介の種であるハジメ達とは早めにお別れしたいらしい。

 ハジメは、当然だという表情で頷くと端的に答えた。

「待っててくれ……逃げるなよ? プロだろ?」
「……はぃ」

 ガックリと肩を落としてカフェの奥にある座席に向かうリシー。その背中には嫌な仕事でも受けねばならない社会人の哀感が漂っていた。

 ハジメ達が応接室に案内されてから、きっかり十分後、遂に、扉がノックされた。ハジメの返事から一拍置いて扉が開かれる。そこから現れたのは、金髪をオールバックにした鋭い目付きの三十代後半くらいの男性と先ほどのドットだった。

「初めまして、冒険者ギルド、フューレン支部支部長イルワ・チャングだ。ハジメ君、ユエ君、シア君……でいいかな?」

 簡潔な自己紹介の後、ハジメ達の名を確認がてらに呼び握手を求める支部長イルワ。ハジメも握手を返しながら返事をする。

「ああ、構わない。名前は、手紙に?」
「その通りだ。先生からの手紙に書いてあったよ。随分と目をかけられている……というより注目されているようだね。将来有望、ただしトラブル体質なので、出来れば目をかけてやって欲しいという旨の内容だったよ」
「トラブル体質……ね。確かにブルックじゃあトラブル続きだったな。まぁ、それはいい。肝心の身分証明の方はどうなんだ? それで問題ないのか?」
「ああ、先生が問題のある人物ではないと書いているからね。あの人の人を見る目は確かだ。わざわざ手紙を持たせるほどだし、この手紙を以て君達の身分証明とさせてもらうよ」

 どうやらキャサリンの手紙は本当にギルドのお偉いさん相手に役立に立ったようだ。随分と信用がある。キャサリンを“先生”と呼んでいることからかなり濃い付き合いがあるように思える。ハジメの隣に座っているシアは、キャサリンに特に懐いていたことから、その辺りの話が気になるようでおずおずとイルワに訪ねた。

「あの~、キャサリンさんって何者なのでしょう?」
「ん? 本人から聞いてないのかい? 彼女は、王都のギルド本部でギルドマスターの秘書長をしていたんだよ。その後、ギルド運営に関する教育係になってね。今、各町に派遣されている支部長の五、六割りは先生の教え子なんだ。私もその一人で、彼女には頭が上がらなくてね。その美しさと人柄の良さから、当時は、僕らのマドンナ的存在、あるいは憧れのお姉さんのような存在だった。その後、結婚してブルックの町のギルド支部に転勤したんだよ。子供を育てるにも田舎の方がいいって言ってね。彼女の結婚発表は青天の霹靂でね。荒れたよ。ギルドどころか、王都が」
「はぁ~そんなにすごい人だったんですね~」
「……キャサリンすごい」
「只者じゃないとは思っていたが……思いっきり中枢の人間だったとはな。ていうか、そんなにモテたのに……今は……いや、止めておこう」

 聞かされたキャサリンの正体に感心するハジメ達。想像していたよりずっと大物だったらしい。もっとも、ハジメは若干、時間の残酷さに遠い目をしていたが。

「まぁ、それはそれとして、問題ないならもう行っていいよな?」

 元々、身分証明のためだけに来たわけなので、用が終わった以上長居は無用だとハジメがイルワに確認する。しかし、イルワは、瞳の奥を光らせると「少し待ってくれるかい?」とハジメ達を留まらせる。何となく嫌な予感がするハジメ。

 イルワは、隣に立っていたドットを促して一枚の依頼書をハジメ達の前に差し出した。

「実は、君達の腕を見込んで、一つ依頼を受けて欲しいと思っている」
「断る」

 イルワが依頼を提案した瞬間、ハジメは被せ気味に断りを入れ席を立とうとする。ユエとシアも続こうとするが、続くイルワの言葉に思わず足を止めた。

「ふむ、取り敢えず話を聞いて貰えないかな? 聞いてくれるなら、今回の件は不問とするのだが……」
「……」

 それは言外に、話を聞かなければ今回の件について色々面倒な手続きをするぞ? ということだ。周囲の人間による証言で、ハジメ達がプーム達にしたことに関し罪に問われることはないだろうが、いささか過剰防衛の傾向はあるので、正規の手続き通り、当事者双方の言い分を聞いてギルドが公正な判断をするという手順を踏むなら相応の時間が取られるだろう。結果は、ハジメ達に非がないということになるだろうが、逆に言えば、結果のわかりきった手続きをバカみたいに時間をかけて行わなければならないということだ。そして、この手続きから逃げると、めでたくブラックリストに乗るということだろう。今後、町でギルドを利用するのに面倒なことこの上ないことになるのだ。

 ハジメは、暫くイルワを睨んでいたが、“依頼を引き受ければ”ではなく“話を聞けば”と言っていることから話くらいで面倒事を回避できるならいいかと思い直し、座席に座り直した。

「聞いてくれるようだね。ありがとう」
「……流石、大都市のギルド支部長。いい性格してるよ」
「君も大概だと思うけどね。さて、今回の依頼内容だが、そこに書いてある通り、行方不明者の捜索だ。北の山脈地帯の調査依頼を受けた冒険者一行が予定を過ぎても戻ってこなかったため、冒険者の一人の実家が捜索願を出した、というものだ」

 イルワの話を要約すると、つまりこういうことだ。

 最近、北の山脈地帯で魔物の群れを見たという目撃例が何件か寄せられ、ギルドに調査依頼がなされた。北の山脈地帯は、一つ山を超えるとほとんど未開の地域となっており、大迷宮の魔物程ではないがそれなりに強力な魔物が出没するので高ランクの冒険者がこれを引き受けた。ただ、この冒険者パーティーに本来のメンバー以外の人物がいささか強引に同行を申し込み、紆余曲折あって最終的に臨時パーティーを組むことになった。

 この飛び入りが、クデタ伯爵家の三男ウィル・クデタという人物らしい。クデタ伯爵は、家出同然に冒険者になると飛び出していった息子の動向を密かに追っていたそうなのだが、今回の調査依頼に出た後、息子に付けていた連絡員も消息が不明となり、これはただ事ではないと慌てて捜索願を出したそうだ。

「伯爵は、家の力で独自の捜索隊も出しているようだけど手数は多い方がいいと、ギルドにも捜索願を出した。つい、昨日のことだ。最初に調査依頼を引き受けたパーティーはかなりの手練でね、彼等に対処できない何かがあったとすれば、並みの冒険者じゃあ二次災害だ。相応以上の実力者に引き受けてもらわないといけない。だが、生憎とこの依頼を任せられる冒険者は出払っていてね。そこへ、君達がタイミングよく来たものだから、こうして依頼しているというわけだ」
「前提として、俺達にその相応以上の実力ってやつがないとダメだろう? 生憎俺は“青”ランクだぞ?」

 ハジメは、言外に、そこまでの実力はないと伝えるもイルワはまるで取り合わない。

「さっき“黒”のレガニドを瞬殺したばかりだろう? それに……ライセン大峡谷を余裕で探索出来る者を相応以上と言わずして何と言うのかな?」
「! 何故知って……手紙か? だが、彼女にそんな話は……」

 ハジメ達がライセン大峡谷を探索していた話は誰にもしていない。イルワがそれを知っているのは手紙に書かれていたという事以外には有り得ない。しかし、ならば何故キャサリンは、それを知っていたのかという疑問が出る。ハジメが頭を捻っていると、おずおずとシアが手を上げた。

 ハジメが、シアに胡乱な眼差しを向ける。

「何だ、シア?」
「え~と、つい話が弾みまして……てへ?」
「……後でお仕置きな」
「!? ユ、ユエさんもいました!」
「……シア、裏切り者」
「二人共お仕置きな」

 どうやら、原因はユエとシアのようだ。ハジメのお仕置き宣言に、二人共、平静を装いつつ冷や汗を掻いている。そんな様子を見て苦笑いしながら、イルワは話を続けた。

「生存は絶望的だが、可能性はゼロではない。伯爵は個人的にも友人でね、できる限り早く捜索したいと考えている。どうかな。今は君達しかいないんだ。引き受けてはもらえないだろうか?」

 懇願するようなイルワの態度には、単にギルドが引き受けた依頼という以上の感情が込められているようだ。伯爵と友人ということは、もしかするとその行方不明となったウィルとやらについても面識があるのかもしれない。個人的にも、安否を憂いているのだろう。

「そう言われてもな、俺達も旅の目的地がある。ここは通り道だったから寄ってみただけなんだ。北の山脈地帯になんて行ってられない。断らせてもらう」

 ハジメとしては、そんな貴族の三男の生死など心底どうでもいいので躊躇いなく断りを入れた。しかし、それを見越していたのか、ハジメが席を立つより早くイルワが報酬の提案をする。

「報酬は弾ませてもらうよ? 依頼書の金額はもちろんだが、私からも色をつけよう。ギルドランクの昇格もする。君達の実力なら一気に“黒”にしてもいい」
「いや、金は最低限でいいし、ランクもどうでもいいから……」
「なら、今後、ギルド関連で揉め事が起きたときは私が直接、君達の後ろ盾になるというのはどうかな? フューレンのギルド支部長の後ろ盾だ、ギルド内でも相当の影響力はあると自負しているよ? 君達は揉め事とは仲が良さそうだからね。悪くない報酬ではないかな?」
「大盤振る舞いだな。友人の息子相手にしては入れ込み過ぎじゃないか?」

 ハジメの言葉に、イルワが初めて表情を崩す。後悔を多分に含んだ表情だ。

「彼に……ウィルにあの依頼を勧めたのは私なんだ。調査依頼を引き受けたパーティーにも私が話を通した。異変の調査といっても、確かな実力のあるパーティーが一緒なら問題ないと思った。実害もまだ出ていなかったしね。ウィルは、貴族は肌に合わないと、昔から冒険者に憧れていてね……だが、その資質はなかった。だから、強力な冒険者の傍で、そこそこ危険な場所へ行って、悟って欲しかった。冒険者は無理だと。昔から私には懐いてくれていて……だからこそ、今回の依頼で諦めさせたかったのに……」

 ハジメはイルワの独白を聞きながら、僅かに思案する。ハジメが思っていた以上に、イルワとウィルの繋がりは濃いらしい。すまし顔で話していたが、イルワの内心はまさに藁にもすがる思いなのだろう。生存の可能性は、時間が経てば経つほどゼロに近づいていく。無茶な報酬を提案したのも、イルワが相当焦っている証拠なのだろう。

 ハジメとしても、町に寄り付く度に、ユエとシアの身分証明について言い訳するのは、いい加減うんざりしてきたところであるし、この先、お偉いさんに対する伝手があるのは、町の施設利用という点で便利だ。なにせ、聖教教会や王国に迎合する気がゼロである以上、いつ、異端のそしりを受けるかわからない。その場合、町では極めて過ごしにくくなるだろう。個人的な繋がりで、その辺をクリア出来るなら嬉しいことだ。

 なので、大都市のギルド支部長が後ろ盾になってくれるというなら、この際、自分達の事情を教えて口止めしつつ、不都合が生じたときに利用させてもらおうとハジメは考えた。ウィル某とは、随分懇意にしていたようだから、仮に生きて連れて帰れば、そうそう不義理な事もできないだろう。

「そこまで言うなら考えなくもないが……二つ条件がある」
「条件?」
「ああ、そんなに難しいことじゃない。ユエとシアにステータスプレートを作って欲しい。そして、そこに表記された内容について他言無用を確約すること、更に、ギルド関連に関わらず、アンタの持つコネクションの全てを使って、俺達の要望に応え便宜を図ること。この二つだな」
「それはあまりに……」
「出来ないなら、この話はなしだ。もう行かせてもらう」

 席を立とうとするハジメに、イルワもドットも焦りと苦悩に表情を歪めた。一つ目の条件は特に問題ないが、二つ目に関しては、実質、フューレンのギルド支部長が一人の冒険者の手足になるようなものだ。責任ある立場として、おいそれと許容することはできない。

「何を要求する気かな?」
「そんなに気負わないでくれ。無茶な要求はしないぞ? ただ俺達は少々特異な存在なんで、教会あたりに目をつけられると……いや、これから先、ほぼ確実に目をつけられると思うが、その時、伝手があった方が便利だなっとそう思っただけだ。面倒事が起きた時に味方になってくれればいい。ほら、指名手配とかされても施設の利用を拒まないとか……」
「指名手配されるのが確実なのかい? ふむ、個人的にも君達の秘密が気になって来たな。キャサリン先生が気に入っているくらいだから悪い人間ではないと思うが……そう言えば、そちらのシア君は怪力、ユエ君は見たこともない魔法を使ったと報告があったな……その辺りが君達の秘密か…そして、それがいずれ教会に目を付けられる代物だと…大して隠していないことからすれば、最初から事を構えるのは覚悟の上ということか……そうなれば確かにどの町でも動きにくい……故に便宜をと……」

 流石、大都市のギルド支部長。頭の回転は早い。イルワは、暫く考え込んだあと、意を決したようにハジメに視線を合わせた。

「犯罪に加担するような倫理にもとる行為・要望には絶対に応えられない。君達が要望を伝える度に詳細を聞かせてもらい、私自身が判断する。だが、できる限り君達の味方になることは約束しよう……これ以上は譲歩できない。どうかな」
「まぁ、そんなところだろうな……それでいい。あと報酬は依頼が達成されてからでいい。お坊ちゃん自身か遺品あたりでも持って帰ればいいだろう?」

 ハジメとしては、ユエとシアのステータスプレートを手に入れるのが一番の目的だ。この世界では何かと提示を求められるステータスプレートは持っていない方が不自然であり、この先、町による度に言い訳するのは面倒なことこの上ない。

 問題は、最初にステータスプレートを作成した者に騒がれないようにするにはどうすればいいかという事だったのだが、イルワの存在がその問題を解決した。ただ、条件として口約束をしても、やはり密告の疑いはある。いずれ、ハジメ達の特異性はばれるだろうが、積極的に手を回されるのは好ましくない。なので、ハジメは、ステータスプレートの作成を依頼完了後にした。どんな形であれ、心を苛む出来事に答えをもたらしたハジメを、イルワも悪いようにはしないだろうという打算だ。

 イルワもハジメの意図は察しているのだろう。苦笑いしながら、それでも捜索依頼の引き受け手が見つかったことに安堵しているようだ。

「本当に、君達の秘密が気になってきたが……それは、依頼達成後の楽しみにしておこう。ハジメ君の言う通り、どんな形であれ、ウィル達の痕跡を見つけてもらいたい……ハジメ君、ユエ君、シア君……宜しく頼む」

 イルワは最後に真剣な眼差しでハジメ達を見つめた後、ゆっくり頭を下げた。大都市のギルド支部長が一冒険者に頭を下げる。そうそう出来ることではない。キャサリンの教え子というだけあって、人の良さがにじみ出ている。

 そんなイルワの様子を見て、ハジメ達は立ち上がると気負いなく実に軽い調子で答えた。

「あいよ」
「……ん」
「はいっ」

 その後、支度金や北の山脈地帯の麓にある湖畔の町への紹介状、件の冒険者達が引き受けた調査依頼の資料を受け取り、ハジメ達は部屋を出て行った。バタンと扉が締まる。その扉を暫く見つめていたイルワは、「ふぅ~」と大きく息を吐いた。部屋にいる間、一言も話さなかったドットが気づかわしげにイルワに声をかける。

「支部長……よかったのですか? あのような報酬を……」
「……ウィルの命がかかっている。彼ら以外に頼めるものはいなかった。仕方ないよ。それに、彼等に力を貸すか否かは私の判断でいいと彼等も承諾しただろう。問題ないさ。それより、彼らの秘密……」
「ステータスプレートに表示される“不都合”ですか……」
「ふむ、ドット君。知っているかい? ハイリヒ王国の勇者一行は皆、とんでもないステータスらしいよ?」

 ドットは、イルワの突然の話に細めの目を見開いた。

「! 支部長は、彼が召喚された者…“神の使徒”の一人であると? しかし、彼はまるで教会と敵対するような口ぶりでしたし、勇者一行は聖教教会が管理しているでしょう?」
「ああ、その通りだよ。でもね……およそ四ヶ月前、その内の一人がオルクスで亡くなったらしいんだよ。奈落の底に魔物と一緒に落ちたってね」
「……まさか、その者が生きていたと? 四ヶ月前と言えば、勇者一行もまだまだ未熟だったはずでしょう? オルクスの底がどうなっているのかは知りませんが、とても生き残るなんて……」

 ドットは信じられないと首を振りながら、イルワの推測を否定する。しかし、イルワはどこか面白そうな表情で再びハジメ達が出て行った扉を見つめた。

「そうだね。でも、もし、そうなら……なぜ、彼は仲間と合流せず、旅なんてしているのだろうね? 彼は一体、闇の底で何を見て、何を得たのだろうね?」
「何を……ですか……」
「ああ、何であれ、きっとそれは、教会と敵対することも辞さないという決意をさせるに足るものだ。それは取りも直さず、世界と敵対する覚悟があるということだよ」
「世界と……」
「私としては、そんな特異な人間とは是非とも繋がりを持っておきたいね。例え、彼が教会や王国から追われる身となっても、ね。もしかすると、先生もその辺りを察して、わざわざ手紙なんて持たせたのかもしれないよ」
「支部長……どうか引き際は見誤らないで下さいよ?」
「もちろんだとも」

 スケールの大きな話に、目眩を起こしそうになりながら、それでもイルワの秘書長として忠告は忘れないドット。しかし、イルワは、何かを深く考え込みドットの忠告にも、半ば上の空で返すのだった。
いつも読んで下さり有難うございます
感想・意見・誤字脱字報告も有難うございます

かなり無理のある会話内容だったと作者自身思います。
これは、ハジメを北の町に行かせる理由が思いつかなかったが故の作者に苦肉の策です。違和感があるあもしれませんが、また思いつき次第手直ししようと思うので、今のところスルーして貰えると嬉しいです

それと、感想でレガニドさんの股間が無事な件について、残念という方がチラホラおり、作者自身、「しまった、スマッシュし忘れた!」と気づかされました。
なので、即席ではありますが手直して、キチンとレガニドさんの股間をスマッシュしておきました。また、今回の話も含めて手直しする可能性がありますが、取り敢えずご安心ください。

次回は、木曜日の18時更新予定です
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