挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ありふれた職業で世界最強 作者:厨二好き/白米良

第三章

54/266

冒険者ギルド フューレン支部にて



 中立商業都市フューレン

 高さ二十メートル、長さ二百キロメートルの外壁で囲まれた大陸一の商業都市だ。あらゆる業種が、この都市で日々しのぎを削り合っており、夢を叶え成功を収める者もいれば、あっさり無一文となって悄然と出て行く者も多くいる。観光で訪れる者や取引に訪れる者など出入りの激しさでも大陸一と言えるだろう。

 その巨大さからフューレンは四つのエリアに分かれている。この都市における様々な手続関係の施設が集まっている中央区、娯楽施設が集まった観光区、武器防具はもちろん家具類などを生産、直販している職人区、あらゆる業種の店が並ぶ商業区がそれだ。東西南北にそれぞれ中央区に続くメインストリートがあり、中心部に近いほど信用のある店が多いというのが常識らしい。メインストリートからも中央区からも遠い場所は、かなりアコギでブラックな商売、言い換えれば闇市的な店が多い。その分、時々とんでもない掘り出し物が出たりするので、冒険者や傭兵のような荒事に慣れている者達が、よく出入りしているようだ。

 そんな話を、中央区の一角にある冒険者ギルド:フューレン支部内にあるカフェで軽食を食べながら聞くハジメ達。話しているのは案内人と呼ばれる職業の女性だ。都市が巨大であるため需要が多く、案内人というのはそれになりに社会的地位のある職業らしい。多くの案内屋が日々客の獲得のためサービスの向上に努めているので信用度も高い。

 ハジメ達はモットー率いる商隊と別れると証印を受けた依頼書を持って冒険者ギルドにやって来た。そして、宿を取ろうにも何処にどんな店があるのかさっぱりなので、冒険者ギルドでガイドブックを貰おうとしたところ、案内人の存在を教えられたのだ。

 そして、現在、案内人の女性、リシーと名乗った女性に料金を支払い、軽食を共にしながら都市の基本事項を聞いていたのである。

「そういうわけなので、一先ず宿をお取りになりたいのでしたら観光区へ行くことをオススメしますわ。中央区にも宿はありますが、やはり中央区で働く方々の仮眠場所という傾向が強いので、サービスは観光区のそれとは比べ物になりませんから」
「なるほどな、なら素直に観光区の宿にしとくか。どこがオススメなんだ?」
「お客様のご要望次第ですわ。様々な種類の宿が数多くございますから」
「そりゃそうか。そうだな、飯が上手くて、あと風呂があれば文句はない。立地とかは考慮しなくていい。あと責任の所在が明確な場所がいいな」

 リシーは、にこやかにハジメの要望を聞く。最初の二つはよく出される要望なのだろう「うんうん」と頷き、早速、脳内でオススメの宿をリストアップしたようだ。しかし、続くハジメの言葉で「ん?」と首を傾げた。

「あの~、責任の所在ですか?」
「ああ、例えば、何らかの争いごとに巻き込まれたとして、こちらが完全に被害者だった時に、宿内での損害について誰が責任を持つのかということだな。どうせならいい宿に泊りたいが、そうすると備品なんか高さそうだし、あとで賠償額をふっかけられても面倒だろ」
「え~と、そうそう巻き込まれることはないと思いますが……」

 困惑するリシーにハジメは苦笑いする。

「まぁ、普通はそうなんだろうが、連れが目立つんでな。観光区なんてハメ外すヤツも多そうだし、商人根性逞しいヤツなんか強行に出ないとも限らないしな。まぁ、あくまで“出来れば”だ。難しければ考慮しなくていい」

 ハジメの言葉に、リシーは、ハジメの両脇に座りうまうまと軽食を食べるユエとシアに視線をやる。そして、納得したように頷いた。確かに、この美少女二人は目立つ。現に今も、周囲の視線をかなり集めている。特に、シアの方は兎人族だ。他人の奴隷に手を出すのは犯罪だが、しつこい交渉を持ちかける商人やハメを外して暴走する輩がいないとは言えない。

「しかし、それなら警備が厳重な宿でいいのでは? そういうことに気を使う方も多いですし、いい宿をご紹介できますが……」
「ああ、それでもいい。ただ、欲望に目が眩んだヤツってのは、時々とんでもないことをするからな。警備も絶対でない以上は最初から物理的説得を考慮した方が早い」
「ぶ、物理的説得ですか……なるほど、それで責任の所在なわけですか」

 完全にハジメの意図を理解したリシーは、あくまで“出来れば”でいいと言うハジメに、案内人根性が疼いたようだ、やる気に満ちた表情で「お任せ下さい」と了承する。そして、ユエとシアの方に視線を転じ、二人にも要望がないかを聞いた。出来るだけ客のニーズに応えようとする点、リシーも彼女の所属する案内屋も、きっと当たりなのだろう。

「……お風呂があればいい、但し混浴、貸切が必須」
「えっと、大きなベッドがいいです」

 少し考えて、それぞれの要望を伝えるユエとシア。何てことない要望だが、ユエが付け足した条件と、シアの要望を組み合わせると、自然ととある意図が透けて見える。リシーも察したようで、「承知しましたわ、お任せ下さい」とすまし顔で了承するが、頬が僅かに赤くなっている。そして、チラッチラッとハジメとユエ達を交互に見ると更に頬を染めた。

 ちなみに、すぐ近くのテーブルでたむろしていた男連中が「視線で人が殺せたら!」と云わんばかりにハジメを睨んでいたが、すっかり慣れた視線なので、ハジメは普通にスルーした。

 それから、他の区について話を聞いていると、ハジメ達は不意に強い視線を感じた。特に、シアとユエに対しては、今までで一番不躾で、ねっとりとした粘着質な視線が向けられている。視線など既に気にしないユエとシアだが、あまりに気持ち悪い視線に僅かに眉を潜める。

 ハジメがチラリとその視線の先を辿ると……ブタがいた。体重が軽く百キロは超えていそうな肥えた体に、脂ぎった顔、豚鼻と頭部にちょこんと乗っているベットリした金髪。身なりだけは言いようで、遠目にもわかるいい服を着ている。そのブタ男がユエとシアを欲望に濁った瞳で凝視していた。

 ハジメが、「面倒な」と思うと同時に、そのブタ男は重そうな体をゆっさゆっさと揺すりながら真っ直ぐハジメ達の方へ近寄ってくる。どうやら逃げる暇もないようだ。ハジメが逃げる事などないだろうが。

 リシーも不穏な気配に気が付いたのか、それともブタ男が目立つのか、傲慢な態度でやって来るブタ男に営業スマイルも忘れて「げっ!」と何ともはしたない声を上げた。

 ブタ男は、ハジメ達のテーブルのすぐ傍までやって来ると、ニヤついた目でユエとシアをジロジロと見やり、シアの首輪を見て不快そうに目を細めた。そして、今まで一度も目を向けなかったハジメに、さも今気がついたような素振りを見せると、これまた随分と傲慢な態度で一方的な要求をした。

「お、おい、ガキ。ひゃ、百万ルタやる。この兎を、わ、渡せ。それとそっちの金髪はわ、私の妾にしてやる。い、一緒に来い」

 ドモリ気味のきぃきぃ声でそう告げて、ブタ男はユエに触れようとする。彼の中では既にユエは自分のものになっているようだ。その瞬間、その場に凄絶な殺意(威圧)が降り注いだ。周囲のテーブルにいた者達ですら顔を青ざめさせて椅子からひっくり返り、後退りしながら必死にハジメから距離をとり始めた。

 ならば、直接その殺気を受けたブタ男はというと……「ひぃ!?」と情けない悲鳴を上げると尻餅をつき、後退ることも出来ずにその場で股間を濡らし始めた。

 ハジメが本気の殺気をぶつければ、おそらく瞬時に意識を刈り取っただろうが、それでは意味がないので十分に手加減している。

「ユエ、シア、行くぞ。場所を変えよう」

 汚い液体が漏れ出しているので、ハジメはユエとシアに声をかけて席を立つ。本当は、即射殺したかったのだが、流石に声を掛けただけで殺されたとあっては、ハジメの方が加害者だ。殺人犯を放置するほど都市の警備は甘くないだろう。基本的に、正当防衛という言い訳が通りそうにない限り、都市内においては半殺し程度を限度にしようとハジメは考えていた。

 席を立つハジメ達に、リシーが「えっ? えっ?」と混乱気味に目を瞬かせた。リシーがハジメの殺気の効果範囲にいても平気そうなのは、単純にリシーだけ“威圧”の対象外にしたからだ。周囲に気づかせずにモットーにだけピンポイントで“威圧”した時の逆バージョンである。鍛錬のたまものだ。リシーからすれば、ブタ男が勝手なことを言い出したと思ったら、いきなり尻餅をついて股間を漏らし始めたのだから混乱するのは当然だろう。

 ちなみに、周囲にまで“威圧”の効果が出ているのはわざとである。周囲の連中もそれなりに鬱陶しい視線を向けていたので、序でに理解させておいたのだ。“手を出すなよ?”と。周囲の男連中の青ざめた表情から判断するに、これ以上ないほど伝わったようだ。

 だが、“威圧”を解きギルドを出ようとした直後、大男がハジメ達の進路を塞ぐような位置取りに移動し仁王立ちした。ブタ男とは違う意味で百キロはありそうな巨体である。全身筋肉の塊で腰に長剣を差しており、歴戦の戦士といった風貌だ。

 その巨体が目に入ったのか、ブタ男が再びキィキィ声で喚きだした。

「そ、そうだ、レガニド! そのクソガキを殺せ! わ、私を殺そうとしたのだ! 嬲り殺せぇ!」
「坊ちゃん、流石に殺すのはヤバイですぜ。半殺し位にしときましょうや」
「やれぇ! い、いいからやれぇ! お、女は、傷つけるな! 私のだぁ!」
「了解ですぜ。報酬は弾んで下さいよ」
「い、いくらでもやる! さっさとやれぇ!」

 どうやら、レガニドと呼ばれた巨漢は、ブタ男の雇われ護衛らしい。ハジメから目を逸らさずにブタ男と話、報酬の約束をするとニンマリと笑った。珍しい事にユエやシアは眼中にないらしい。見向きもせずに貰える報酬にニヤついているようだ。

「おう、坊主。わりぃな。俺の金のためにちょっと半殺しになってくれや。なに、殺しはしねぇよ。まぁ、嬢ちゃん達の方は……諦めてくれ」

 レガニドはそう言うと、拳を構えた。長剣の方は、流石に場所が場所だけに使わないようだ。周囲がレガニドの名を聞いてざわめく。

「お、おい、レガニドって“黒”のレガニドか?」
「“暴風”のレガニド!? 何で、あんなヤツの護衛なんて……」
「金払じゃないか?“金好き”のレガニドだろ?」

 周囲のヒソヒソ声で大体目の前の男の素性を察したハジメ。天職持ちなのかどうかは分からないが冒険者ランクが“黒”ということは、上から三番目のランクということであり、相当な実力者ということだ。

 レガニドから闘気が噴き上がる。ハジメが、これなら正当防衛を理由に半殺しにしても問題ないだろうと、拳を振るおうとした瞬間、意外な場所から制止の声がかかった。

「……ハジメ、待って」
「? どうしたユエ?」

 ユエは、隣のシアを引っ張ると、ハジメの疑問に答える前に、ハジメとレガニドの間に割って入った。訝しそうなハジメとレガニドに、ユエは背を向けたまま答える。

「……私達が相手をする」
「えっ? ユエさん、私もですか?」

 シアの質問はさらり無視するユエ。ユエの言葉に、ハジメが返答するよりも、レガニドが爆笑する方が早かった。

「ガッハハハハ、嬢ちゃん達が相手をするだって? 中々笑わせてくれるじゃねぇの。何だ? 夜の相手でもして許してもらおうって『……黙れ、ゴミクズ』ッ!?」

 下品な言葉を口走ろうとしたレガニドに、辛辣な言葉と共に、神速の風刃が襲い掛かりその頬を切り裂いた。プシュと小さな音を立てて、血がだらだらと滴り落ちる。かなり深く切れたようだ。レガニドは、ユエの言葉通り黙り込む。ユエの魔法が早すぎて、全く反応できなかったのだ。心中では「いつ詠唱した? 陣はどこだ?」と冷や汗を掻きながら必死に分析している。

 ユエは何事もなかったように、ハジメと、未だ、ユエの意図が分かっていないシアに向けて話を続ける。

「……私達が守られるだけのお姫様じゃないことを周知させる」
「ああ、なるほど。私達自身が手痛いしっぺ返し出来ることを示すんですね」
「……そう。せっかくだから、これを利用する」

 そう言ってユエは、先程とは異なり厳しい目を向けているレガニドを指差した。

「まぁ、言いたいことはわかった。確かに、お姫様を手に入れたと思ったら実は猛獣でした何て洒落にならんしな。幸い、目撃者も多いし……うん、いいんじゃないか?」
「……猛獣はひどい」

 ハジメはユエの言葉に納得して、苦笑いしながら一歩後ろに下がった。ユエは、ハジメが下がったのを確認すると、隣のシアに先にいけと目で合図を送る。それを読み取ったシアは、背中に取り付けていたドリュッケンに手を伸ばすと、まるで重さを感じさせずに一回転さて、その手に収めた。

「おいおい、兎人族の嬢ちゃんに何が出来るってんだ? 雇い主の意向もあるんでね。大人しくしていて欲しいんだか?」

 ユエから目を離さずにレガニドは、そうシアに告げる。しかし、シアはレガニドの言葉を無視するように、逆に忠告をした。

「腰の長剣。抜かなくていいんですか? 手加減はしますけど、素手だと危ないですよ?」
「ハッ、兎ちゃんが大きく出たな。坊ちゃん! わりぃけど、傷の一つや二つは勘弁ですぜ!」

 レガニドは、シアは大して気にせずユエに気を配りながら、未だ近くでへたり込んでいるブタ男に一言断りを入れる。流石に、ユエ相手に無傷で無力化は難しいと判断したようだ。だが、レガニドは気が付くべきだった。常識的に考えて、愛玩奴隷という認識が強い兎人族が戦鎚を持っていることの違和感に、相応の実力が垣間見えるハジメとユエの二人が初手を任せたという意味に。

 既に言葉はないと、シアはドリュッケンを腰だめに構え……一気に踏み込んだ。そして、次の瞬間にはレガニドの眼前に出現する。

「ッ!?」
「やぁ!!」

 可愛らしい声音に反して豪風と共に振るわれた超重量の大槌が、表情を驚愕に染めるレガニドの胸部に迫る。直撃の寸前、レガニドは、辛うじて両腕を十字にクロスさせて防御を試みるが……

(重すぎるだろっ!?)

 踏ん張ることなど微塵もかなわず、咄嗟に後ろに飛んで衝撃を逃がそうとするも、スイング速度が早すぎてほとんど意味はなさない。結果、

グシャ!

 そんな生々しい音を響かせながら、レガニドは勢いよく吹き飛びギルドの壁に背中から激突した。轟音を響かせながら、肺の中の空気を余さず吐き出したレガニドは、揺れる視界の中に、拍子抜けしたようなシアの姿を見る。どうやら、もう少し抵抗があると思っていたらしい。

 冒険者ランク“黒”にまで上り詰めた自分が、まさか兎人族の少女に手加減までされて、なお、拍子抜けされたという事実に、レガニドはもはや笑うしかない。痛みのせいでしかめたようにしか見えない笑みを浮かべ、立ち上がろうと手をつき、激痛と共にそのまま倒れこむ。激痛の原因に視線を向ければ、ひしゃげたように潰れた自分の腕が見えた。

 幸い、潰されたのは片腕だけだったようで、痛みを堪えながらもう片方の腕で何とか立ち上がる。視界がグラグラ揺れるが、何とか床を踏みしめることが出来た。ほとんど意味は無かったと言えど、咄嗟に、後ろに飛ばなければ、立ち上がることは出来なかったかもしれない。

 しかし、立ち上がった事は果たしていい事だったのか。半ば意地で立ち上がったレガニドだったが、ユエが氷の如き冷めた目で右手を突き出している姿を見て、内心で盛大に愚痴る。

(坊ちゃん、こりゃ、割に合わなさすぎだ……)

 直後、レガニドは生涯で初めて、“空中で踊る”という貴重で最悪の体験をすることになった。

「舞い散る花よ 風に抱かれて砕け散れ “風花”」

 ユエ、オリジナル魔法第二弾“風爆”という風の砲弾を飛ばす魔法と重力魔法の複合魔法だ。複数の風の砲弾を自在に操りつつ、その砲弾に込められた重力場が常に目標の周囲を旋回することで全方位に“落とし続け”空中に磔にする。そして、打ち上げられたが最後、そのまま空中でサンドバックになるというえげつない魔法だ。ちなみに、例の如く、詠唱は適当である。

 空中での一方的なリードによるダンスを終えると、レガニドは、そのままグシャと嫌な音を立てて床に落ち、ピクリとも動かなくなった。実は、最初の数撃で既に意識を失っていたのだが、知ってか知らずか、ユエは、その後も容赦なく連撃をかまし、特に股間を集中的に狙い撃って周囲の男連中の股間をも竦み上がらせた。苛烈にして凶悪な攻撃に、後ろで様子を伺っていたハジメをして「おぅ」と悲痛な震え声を上げさせたほどだ。

 あり得べからざる光景の二連発。そして容赦のなさにギルド内が静寂に包まれる。誰も彼もが身動き一つせず、ハジメ達を凝視していた。よく見れば、ギルド職員らしき者達が、争いを止めようとしたのか、カフェに来る途中でハジメ達の方へ手を伸ばしたまま硬直している。様々な冒険者達を見てきた彼等にとっても衝撃の光景だったようだ。

 誰もが硬直していると、おもむろに静寂が破られた。ハジメが、ツカツカと歩き出したのだ。ギルド内にいる全員の視線がハジメに集まる。ハジメの行き先は……ブタ男のもとだった。

「ひぃ! く、来るなぁ! わ、私を誰だと思っている! プーム・ミンだぞ! ミン男爵家に逆らう気かぁ!」
「……地球の全ゆるキャラファンに謝れ、ブタが」

 ハジメは、ブタ男の名前に地球の代表的なゆるキャラを思い浮かべ、盛大に顔をしかめると、尻餅を付いたままのブタ男の顔面を勢いよく踏みつけた。

「プギャ!?」

 文字通り豚のような悲鳴を上げて顔面を靴底と床にサンドイッチされたプームはミシミシとなる自身の頭蓋骨に恐怖し悲鳴を上げた。すると、その声がうるさいとでも言うように、鳴けば鳴くほど圧力が増していく。顔は醜く潰れ、目や鼻が頬の肉で隠れてしまっている。やがて、声を上げるほど痛みが増す事に気が付いたのか、大人しくなり始めた。単に体力が尽きただけかもしれないが。

「おい、ブタ。二度と視界に入るな。直接・間接問わず関わるな……次はない」

 プームはハジメの靴底に押しつぶされながらも、必死に頷こうとしているのか小刻みに震える。既に、虚勢を張る力も残っていないようだ。完全に心が折れている。しかし、その程度で、あっさり許すほどハジメは甘くはない。“喉元過ぎれば熱さを忘れる”というように、一時的な恐怖だけでは全然足りない。殺しの選択が得策でない以上、代わりに、その恐怖を忘れないように刻まねばならない。

 なので、少し足を浮かせると、ハジメは錬成により靴底からスパイクを出し、再度勢いよく踏みつけた。

「ぎゃぁああああああ!!」

 スパイクが、プームの顔面に突き刺さり無数の穴を開ける。更に、片目にも突き刺ささったようで大量の血を流し始めた。プーム本人は、痛みで直ぐに気を失う。ハジメが足をどけると見るも無残な……いや、元々無残な顔だったので、あまり変わらないが、取り敢えず血まみれのプームの顔が晒された。

 ハジメは、どこか清々しい表情でユエ達の方へ歩み寄る。ユエとシアも、微笑みでハジメを迎えた。そして、ハジメは、すぐ傍で呆然としている案内人リシーにも笑いかけた。

「じゃあ、案内人さん。場所移して続きを頼むよ」
「はひっ! い、いえ、その、私、何といいますか……」

 ハジメの笑顔に恐怖を覚えたのか、しどろもどろになるリシー。その表情は、明らかに関わりたくないと物語っていた。それくらい、ハジメ達は異常だったのだ。ハジメも何となく察しているが、また新たな案内人をこの騒ぎの後に探すのは面倒なので、リシーを逃がすつもりはなかった。ハジメの意図を悟って、ユエとシアがリシーの両脇を固める。「ひぃぃん!」と情けない悲鳴を上げるリシー。

 と、そこへ彼女にとっての救世主、ギルド職員が今更ながらにやって来た。

「あの、申し訳ありませんが、あちらで事情聴取にご協力願います」

 そうハジメに告げた男性職員の他、三人の職員がハジメ達を囲むように近寄った。もっとも、全員腰が引けていたが。もう数人は、プームとレガニドの容態を見に行っている。

「そうは言ってもな、あのブタが俺の連れを奪おうとして、それを断ったら逆上して襲ってきたから返り討ちにしただけだ。それ以上、説明する事がない。そこの案内人とか、その辺の男連中も証人になるぞ。特に、近くのテーブルにいた奴等は随分と聞き耳を立てていたようだしな?」

 ハジメがそう言いながら、周囲の男連中を睥睨すると、目があった彼等はこぞって首がもげるのでは? と言いたくなるほど激しく何度も頷いた。

「それは分かっていますが、ギルド内で起こされた問題は、当事者双方の言い分を聞いて公正に判断することになっていますので……規則ですから冒険者なら従って頂かないと……」
「当事者双方……ね」

 ハジメはチラリとプームとレガニドの二人を見る。当分目を覚ましそうになかった。ギルド職員が治癒師を手配しているようだが、おそらく二、三日は目を覚まさないのではないだろうか。

「あれが目を覚ますまで、ずっと待機してろって? 被害者の俺達が? ……いっそ都市外に拉致って殺っちまうか?」

 ハジメが批難がましい視線をギルド職員に向ける。典型的なクレーマーのような物言いにギルド職員の男性が、「そんな目で睨むなよぉ、仕事なんだから仕方ないだろぉ」という自棄糞気味な表情になった。そして、ぼそりと呟かれたハジメの最後のセリフが耳に入り、慌てて止めに入る。

 ハジメが、仕方なく、プームとレガニドの二人に対して激痛を以て強制的に意識を取り戻させるかと歩み寄ろうとし、それを職員が止めようと押し問答していると、突如、凛とした声が掛けられた。

「何をしているのです? これは一体、何事ですか?」

 そちらを見てみれば、メガネを掛けた理知的な雰囲気を漂わせる細身の男性が厳しい目でハジメ達を見ていた。

「ドット秘書長! いいところに! これはですね……」

 職員達がこれ幸いとドット秘書長と呼ばれた男のもとへ群がる。ドットは、職員達から話を聞き終わると、ハジメ達に鋭い視線を向けた。

 どうやら、まだまだ解放はされないようだ。
いつも読んで下さり有難うございます
感想・意見・誤字脱字報告も有難うございます

冒険者ギルドでのテンプレ
ずっと書きたかったのです

次回は、月曜日の18時更新予定です
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ