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ありふれた職業で世界最強 作者:厨二好き/白米良

第二章

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よく頑張りました

 辺りにもうもうと粉塵が舞い、地面には放射状のヒビが幾筋も刻まれている。激突した浮遊ブロックが大きなクレータを作っており、その上に胸部から漆黒の杭を生やした巨大なゴーレムが横たわっていた。

 そのミレディ・ゴーレムの上で、ドリュッケンを支えにしてゼハァゼハァと息を荒げるシアのもとに、ハジメとユエがやって来た。ハジメは感心したように目を細め、ユエは優しげな眼差しを向けている。

「やったじゃねぇかシア。最後のは凄い気迫だった。見直したぞ?」
「……ん、頑張った」
「えへへ、有難うございます。でもハジメさん、そこは、“惚れ直した”でもいいんですよ?」
「直すも何も元から惚れてねぇよ」

 疲れた表情を見せながらも、ハジメとユエの称賛にはにかむシア。実際、つい最近まで、争いとは無縁だったとは思えない活躍だった。それはひとえに、ハジメやユエと同じステージに立ちたい、ずっと一緒にいたいというシアの願いあってのことだろう。深く強いその願いが、シアの潜在能力と相まって七大迷宮最大の試練と正面から渡り合わせ、止めを刺すというこれ以上ない成果を生み出した。

 ハジメとしては、最後の場面で、どうしてもシアの止めが必要という訳ではなかった。パイルバンカーが威力不足だろうことは予想がついていたし、それを押し込む手段もあった。だが、温厚で争いごとが苦手な兎人族であり、つい最近まで戦う術を持たなかったシアが一度も「帰りたい」などと弱音を吐かず、恐怖も不安も動揺も押しのけて大迷宮の深部までやって来たのだ。最後を任せるというのもありだろうとハジメは考えた。

 結果は上々。凄まじい気迫と共に繰り出された最後の一撃は正直、ハジメをして見惚れるほど見事なものだった。シアの想いの強さが衝撃波となって届いたのかと思うほどに。だからと言って、シアが求める感情をハジメが持つに至ったわけではない。しかし、その頑張りに、根性に、つい絆されてしまうのは仕方ないことだろう。ハジメのシアを見つめる眼差しが柔らかいものになる。

「ふぇ? な、なんだか……ハジメさんが凄く優しい目をしている気が……ゆ、夢?」
「お前な……いや、まぁ、日頃の扱いを考えると仕方ないと言えば仕方ない反応なんだが……」

 そんなハジメの眼差しに、信じられないものを見たと言う様に、シアは自分の頬を抓る。その反応に思わず文句を言いたくなったハジメだが、今までの雑な扱いから考えると、ある意味当然の反応なので言葉を濁した。

 未だ頬を抓っているシアのもとへユエがトコトコと歩み寄っていく。そして、服を引っ張り屈ませると、おもむろにシアの頭を撫でた。乱れた髪を直すように、ゆっくり丁寧に。

「え、えっと、ユエさん?」
「……ハジメは撫でないだろうから、残念だろうけど代わりに。よく頑張りました」
「ユ、ユエさぁ~ん。うぅ、あれ、何だろ? 何だか泣けてぎまじだぁ、ふぇええ」
「……よしよし」

 最初はユエの突然の行動に戸惑っていたシアも、褒められていると理解すると、緊張の糸が切れたのかポロポロと涙を流しながらユエにヒシッと抱きつき泣き出してしまった。やはり、初めての旅でいきなり七大迷宮というのは相当堪えていたのだろう。それを、ハジメ達に着いて行くという決意のみで踏ん張ってきたのだ。褒められて、認められて、安堵のあまり涙腺がゆるゆるになってしまったようだ。

 ちなみに、ユエの言う通りハジメがナデナデすることはなかっただろう。シアは、すぐ調子に乗るタイプなので、下手に撫でてハジメが恋愛感情を持っていると勘違いでもしたら酷く面倒だと思ったのだ。今回のことで、シアはハジメにとって完全に身内扱いにはなるだろうが、ユエに対するのと同じ感情をそうそう複数人に持てるわけがない。“特別な感情”とはそういうものだ。まして、ユエを悲しませるような事など、ハジメには考えられない。

 もっとも、ユエの胸の中で「ふぇええ~ん」と嬉し泣きだか、安堵泣きだかをして甘えているシアと、それを優しげに見つめながら頭を撫でているユエを見れば……まぁ、何となく未来は予測できるというものだろう。

 ユエに甘えるシア、抱きかかえるユエ、それを何とも言えない表情で見つめるハジメ。そんな三人に、突如、声が掛けられた。

「あのぉ~、いい雰囲気で悪いんだけどぉ~、そろそろヤバイんで、ちょっといいかなぁ~?」

 物凄く聞き覚えのある声。ハジメ達がハッとしてミレディ・ゴーレムを見ると、消えたはずの眼の光がいつの間にか戻っていることに気がついた。咄嗟に、飛び退り距離を置くハジメ達。確かに核は砕いたはずなのにと警戒心もあらわに身構える。

「ちょっと、ちょっと、大丈夫だってぇ~。試練はクリア! あんたたちの勝ち! 核の欠片に残った力で少しだけ話す時間をとっただけだよぉ~、もう数分も持たないから」

 その言葉を証明するように、ミレディ・ゴーレムはピクリとも動かず、眼に宿った光は儚げに明滅を繰り返している。今にも消えてしまいそうだ。どうやら、数分しかもたないというのは本当らしい。

 ハジメが、少し警戒心を解きミレディ・ゴーレムに話しかける。

「で? 何の話だ? 死にぞこない。死してなお空気も読めんとは……残念さでは随一の解放者ってことで後世に伝えてやろうか」
「ちょっ、やめてよぉ~、何その地味な嫌がらせ。ジワジワきそうなところが凄く嫌らしい」
「で? “クソ野郎共”を殺してくれっていう話なら聞く気ないぞ?」

 ハジメの機先を制するような言葉に、何となく苦笑いめいた雰囲気を出すミレディ・ゴーレム。

「言わないよ。言う必要もないからね。話したい……というより忠告だね。訪れた迷宮で目当ての神代魔法がなくても、必ず私達全員の神代魔法を手に入れること……君の望みのために必要だから……」

 ミレディの力が尽きかけているのか、次第に言葉が不鮮明に、途切れ途切れになってゆく。だが、そんなことは気にした様子もなくハジメが疑問を口にする。

「全部ね……なら他の迷宮の場所を教えろ。失伝していて、ほとんどわかってねぇんだよ」
「あぁ、そうなんだ……そっか、迷宮の場所がわからなくなるほど……長い時が経ったんだね……うん、場所……場所はね……」

 いよいよ、ミレディ・ゴーレムの声が力を失い始める。どこか感傷的な響きすら含まれた声に、ユエやシアが神妙な表情をする。長い時を、使命、あるいは願いのために意志が宿る器を入れ替えてまで生きた者への敬意を瞳に宿した。

 ミレディは、ポツリポツリと残りの七大迷宮の所在を語っていく。中には驚くような場所にあるようだ。

「以上だよ……頑張ってね」
「……随分としおらしいじゃねぇの。あのウザったい口調やらセリフはどうした?」

 ハジメの言う通り、今のミレディは、迷宮内のウザイ文を用意したり、あの人の神経を逆なでする口調とは無縁の誠実さや真面目さを感じさせた。戦闘前にハジメの目的を聞いたときに垣間見せた、おそらく彼女の素顔が出ているのだろう。消滅を前にして取り繕う必要がなくなったということなのかもしれない。

「あはは、ごめんね~。でもさ……あのクソ野郎共って……ホントに嫌なヤツらでさ……嫌らしいことばっかりしてくるんだよね……だから、少しでも……慣れておいて欲しくてね……」
「おい、こら。狂った神のことなんざ興味ないって言っただろうが。なに、勝手に戦うこと前提で話してんだよ」

 ハジメの不機嫌そうな声に、ミレディは意外なほど真剣さと確信を宿した言葉で返した。

「……戦うよ。君が君である限り……必ず……君は、神殺しを為す」
「……意味がわかんねぇよ。そりゃあ、俺の道を阻むなら殺るかもしれないが……」

 若干、困惑するハジメ。ミレディは、その様子に楽しげな笑い声を漏らす。

「ふふ……それでいい……君は君の思った通りに生きればいい…………君の選択が……きっと…………この世界にとっての……最良だから……」

 いつしか、ミレディ・ゴーレムの体は燐光のような青白い光に包まれていた。その光が蛍火の如く、淡い小さな光となって天へと登っていく。死した魂が天へと召されていくようだ。とても、とても神秘的な光景である。

 その時、おもむろにユエがミレディ・ゴーレムの傍へと寄って行った。既に、ほとんど光失っている眼をジッと見つめる。

「何かな?」

 囁くようなミレディの声。それに同じく、囁くようにユエが一言、消えゆく偉大な“解放者”に言葉を贈った。

「……お疲れ様。よく頑張りました」
「……」

 それは労いの言葉。たった一人、深い闇の底で希望を待ち続けた偉大な存在への、今を生きる者からのささやかな贈り物。本来なら、遥かに年下の者からの言葉としては不適切かもしれない。だが、やはり、これ以外の言葉を、ユエは思いつかなかった。

 ミレディにとっても意外な言葉だったのだろう。言葉もなく呆然とした雰囲気を漂わせている。やがて、穏やかな声でミレディがポツリと呟く。

「……ありがとね」
「……ん」

 ちなみに、ユエとミレディが最後の言葉をかわすその後ろで、知った風な口を聞かれてイラっとしたハジメが「もういいから、さっさと逝けよ」と口にしそうになり、それを敏感に察したシアに「空気読めてないのはどっちですか! ちょっと黙ってて下さい!」と後ろから羽交い絞めにされて口を塞がれモゴモゴさせていたのだが、幸いなことに二人は気がついておらず、厳かな雰囲気は保たれていた。

「……さて、時間の……ようだね……君達のこれからが……自由な意志の下に……あらんことを……」

 オスカーと同じ言葉をハジメ達に贈り、“解放者”の一人、ミレディは淡い光となって天へと消えていった。

 辺りを静寂が包み、余韻に浸るようにユエとシアが光の軌跡を追って天を見上げる。

「……最初は、性根が捻じ曲がった最悪の人だと思っていたんですけどね。ただ、一生懸命なだけだったんですね」
「……ん」

 どこかしんみりとした雰囲気で言葉を交わすユエとシア。だが、ミレディに対して思うところが皆無の男、ハジメはうんざりした様子で二人に話しかけた。

「はぁ、もういいだろ? さっさと先に行くぞ。それと、断言するがアイツの根性の悪さも素だと思うぞ? あの意地の悪さは、演技ってレベルじゃねぇよ」
「ちょっと、ハジメさん。そんな死人にムチ打つようなことを。ヒドイですよ。まったく空気読めないのはハジメさんの方ですよ」
「……ハジメ、KY?」
「ユエ、お前まで……はぁ、まぁ、いいけどよ。念の為言っておくが、俺は空気が読めないんじゃないぞ。読まないだけだ。」

 そんな雑談をしていると、いつの間にか壁の一角が光を放っていることに気がついたハジメ達。気を取り直して、その場所に向かう。上方の壁にあるので浮遊ブロックを足場に跳んでいこうと、ブロックの一つに三人で跳び乗った。と、その途端、足場の浮遊ブロックがスィーと動き出し、光る壁までハジメ達を運んでいく。

「……」
「わわっ、勝手に動いてますよ、これ。便利ですねぇ」
「……サービス?」

 勝手にハジメ達を運んでくれる浮遊ブロックにシアは驚き、ユエは首をかしげる。ハジメは何故か嫌そうな表情だ。十秒もかからず光る壁の前まで進むと、その手前五メートル程の場所でピタリと動きを止めた。すると、光る壁は、まるで見計らったようなタイミングで発光を薄れさせていき、スっと音も立てずに発光部分の壁だけが手前に抜き取られた。奥には光沢のある白い壁で出来た通路が続いている。

 ハジメ達の乗る浮遊ブロックは、そのまま通路を滑るように移動していく。どうやら、ミレディ・ライセンの住処まで乗せて行ってくれるようだ。そうして進んだ先には、オルクス大迷宮にあったオスカーの住処へと続く扉に刻まれていた七つの文様と同じものが描かれた壁があった。ハジメ達が近づくと、やはりタイミングとよく壁が横にスライドし奥へと誘う。浮遊ブロックは止まることなく壁の向こう側へと進んでいった。

 くぐり抜けた壁の向こうには……

「やっほー、さっきぶり! ミレディちゃんだよ!」

 ちっこいミレディ・ゴーレムがいた。

「「……」」
「ほれ、みろ。こんなこったろうと思ったよ」

 言葉もないユエとシア。ハジメの方は予想がついていたようでウンザリした表情をしている。ハジメが、この状況を予想できたのは、単にふざけたミレディも真面目なミレディもどっちも彼女であることに変わりはないということを看破していたからだ。ウザイ文のウザさやトラップの嫌らしさは、本当に真面目な人間には発想できないレベルだった。また、ミレディは、意思を残して自ら挑戦者を選定する方法をとっている。だとしたら、一度の挑戦者が現れ撃破されたらそれっきり等という事は有り得ない。それでは、一度のクリアで最終試練がなくなってしまうからだ。

 なので、ハジメは、ミレディ・ゴーレムを破壊してもミレディ自身は消滅しないと予想していた。それは浮遊ブロックがハジメ達を乗せて案内するように動き出した時点で確信に変わっていた。浮遊ブロックを意図的に動かせるのはミレディだけだからだ。

 黙り込んで顔を俯かせるユエとシアに、ミレディが非常に軽い感じで話しかける。

「あれぇ? あれぇ? テンション低いよぉ~? もっと驚いてもいいんだよぉ~? あっ、それとも驚きすぎても言葉が出ないとか? だったら、ドッキリ大成功ぉ~だね☆」

 ちっこいミレディ・ゴーレムは、巨体版と異なり人間らしいデザインだ。華奢なボディに乳白色の長いローブを身に纏い、白い仮面を付けている。ニコちゃんマークなところが微妙に腹立たしい。そんなミニ・ミレディは、語尾にキラッ! と星が瞬かせながら、ハジメ達の眼前までやってくる。未だ、ユエとシアの表情は俯き、垂れ下がった髪に隠れてわからない。もっとも、先の展開は読めるので、ハジメは一歩距離をとった。

 ユエがシアがぼそりと呟くように質問する。

「……さっきのは?」
「ん~? さっき? あぁ、もしかして消えちゃったと思った? ないな~い! そんなことあるわけないよぉ~!」
「でも、光が登って消えていきましたよね?」
「ふふふ、中々よかったでしょう? あの“演出”! やだ、ミレディちゃん役者の才能まであるなんて! 恐ろしい子!」

 テンション上がりまくりのミニ・ミレディ。比例してウザさまでうなぎ上りだ。そんなミニ・ミレディを前にして、ユエは手を前に突き出し、シアはドリュッケンを構えた。流石に、あれ? やりすぎた? と動きを止めるミニ・ミレディ。

「え、え~と……」

 ゆらゆら揺れながら迫ってくるユエとシアに、ミニ・ミレディは頭をカクカクと動かし言葉に迷う素振りを見せると意を決したように言った。

「テヘ、ペロ☆」
「……死ね」
「死んで下さい」
「ま、待って! ちょっと待って! このボディは貧弱なのぉ! これ壊れたら本気でマズイからぁ! 落ち着いてぇ! 謝るからぁ!」

 暫くの間、ドタバタ、ドカンバキッ、いやぁーなど悲鳴やら破壊音が聞こえていたが、ハジメは一切を無視して、部屋の観察に努めた。部屋自体は全てが白く、中央の床に刻まれた魔法陣以外には何もなかった。唯一、壁の一部に扉らしきものがあり、おそらくそこがミニ・ミレディの住処になっているのだろうとハジメは推測する。

 ハジメは、おもむろに魔法陣に歩み寄ると勝手に調べ始めた。それを見たミニ・ミレディが慌ててハジメのもとへやって来る。後ろからは、無表情の吸血姫とウサミミがドドドドッと音を立てながら迫って来ている。

「君ぃ~勝手にいじっちゃダメよぉ。ていうか、お仲間でしょ! 無視してないで止めようよぉ!」

 そんな文句を言いながらミニ・ミレディはハジメの背後に回り、二人の悪鬼に対する盾にしようとする。

「……ハジメどいて、そいつ殺せない」
「退いて下さい。ハジメさん。そいつは殺ります。今、ここで」
「まさか、そのネタをこのタイミング聞くとは思わなかった。っていうかいい加減遊んでないでやる事やるぞ」

 ハジメは、若干呆れた表情でユエとシアに軽い注意をする。背後のミニ・ミレディが「そうだ、そうだ、真面目にやれぇ!」とか言ってはやし立てたので顔面を義手でアイアンクローしてやる。ニコちゃんマークが微妙に歪み悲痛な表情になっているが気にしない。そのまま力を入れていきミニ・ミレディの頭部からメキメキという音が響きだした。

「このまま愉快なデザインになりたくなきゃ、さっさとお前の神代魔法をよこせ」
「あのぉ~、言動が完全に悪役だと気づいてッ『メキメキメキ』了解であります! 直ぐに渡すであります! だからストープ! これ以上は、ホントに壊れちゃう!」

 ジタバタともがくミニ・ミレディに取り敢えず溜飲を下げたのかユエとシアも落ち着きを取り戻し、これ以上ふざけると本気で壊されかねないと理解したのかミニ・ミレディも漸く魔法陣を起動させ始めた。

 魔法陣の中に入るハジメ達。今回は、試練をクリアしたことをミレディ本人が知っているので、オルクス大迷宮の時のような記憶を探るプロセスは無く、直接脳に神代魔法の知識や使用方法が刻まれていく。ハジメとユエは経験済みなので無反応だったが、シアは初めての経験にビクンッと体を跳ねさせた。

 ものの数秒で刻み込みは終了し、あっさりとハジメ達はミレディ・ライセンの神代魔法を手に入れる。

「これは……やっぱり重力操作の魔法か」
「そうだよ~ん。ミレディちゃんの魔法は重力魔法。上手く使ってね…って言いたいところだけど、君とウサギちゃんは適性ないねぇ~もうびっくりするレベルでないね!」
「やかましいわ。それくらい想定済みだ」

 ミニ・ミレディの言う通り、ハジメとシアは重力魔法の知識等を刻まれてもまともに使える気がしなかった。ユエが、生成魔法をきちんと使えないのと同じく、適性がないのだろう。

「まぁ、ウサギちゃんは体重の増減くらいなら使えるんじゃないかな。君は……生成魔法使えるんだから、それで何とかしなよ。金髪ちゃんは適性ばっちりだね。修練すれば十全に使いこなせるようになるよ」

 ミニ・ミレディの幾分真面目な解説にハジメは肩を竦め、ユエは頷き、シアは打ちひしがれた。せっかくの神代魔法を適性なしと断じられ、使えたとしても体重を増減出来るだけ。ガッカリ感が凄まじい。また。重くするなど論外だが、軽くできるのも問題だ。油断すると体型がやばい事になりそうである。むしろデメリットを背負ったんじゃ……とシアは意気消沈した。

 落ち込むシアを尻目に、ハジメは更に要求を突きつける。遠慮、容赦は一切ない。

「おい、ミレディ。さっさと攻略の証を渡せ。それから、お前が持っている便利そうなアーティファクト類と感応石みたいな珍しい鉱物類も全部よこせ」
「……君、セリフが完全に強盗と同じだからね? 自覚ある?」

 歪んだニコちゃんマークの仮面が、どことなくジト目をしている気がするが、ハジメは気にしない。ミニ・ミレディは、ごそごそと懐を探ると一つの指輪を取り出し、それをハジメに向かって放り投げた。パシッと音をさせて受け取るハジメ。ライセンの指輪は、上下の楕円を一本の杭が貫いているデザインだ。

 ミニ・ミレディは、更に虚空に大量の鉱石類を出現させる。おそらく“宝物庫”を持っているのだろう。そこから保管していた鉱石類を取り出したようだ。やけに素直に取り出したところを見ると、元々渡す気だったのかもしれない。何故か、ミレディはハジメが狂った神連中と戦うことを確信しているようであるし、このくらいの協力は惜しまないつもりだったのだろう。

 しかし、この程度でよしとしないのがハジメクオリティー。出された鉱物類を自分の“宝物庫”に仕舞いながら、冷めた目をミニ・ミレディに向ける。

「おい、それ“宝物庫”だろう? だったら、それごと渡せよ。どうせ中にアーティファクト入ってんだろうが」
「あ、あのねぇ~。これ以上渡すものはないよ。“宝物庫”も他のアーティファクトも迷宮の修繕とか維持管理とかに必要なものなんだから」
「知るか。寄越せ」
「あっ、こらダメだったら!」

 本当に根こそぎ奪っていこうとするハジメに焦った様子で後退るミニ・ミレディ。彼女が所有しているアーティファクト類は全て迷宮のために必要なものばかりだ。むしろ、それ以外には役に立たないものばかりなので、ハジメが持っていても仕方がない。その辺りのことを掻い摘んで説明するが、ハジメは「ほぅほぅ、よくわかった。じゃあ寄越せ」と容赦なく引渡しを要求する。どこからどう見ても、唯の強盗だった。

「ええ~い、あげないって言ってるでしょ! もう、帰れ!」

 なお、ジリジリと迫ってくるハジメに、ミニ・ミレディは勢いよく踵を返すと壁際まで走り寄り、浮遊ブロックを浮かせると天井付近まで移動する。

「逃げるなよ。俺はただ、攻略報酬として身ぐるみを置いていけと言ってるだけじゃないか。至って正当な要求だろうに」
「それを正当と言える君の価値観はどうかしてるよ! うぅ、いつもオーちゃんに言われてた事を私が言う様になるなんて……」
「ちなみに、そのオーちゃんとやらの迷宮で培った価値観だ」
「オーちゃぁーーん!!」

 ハジメに呆れた視線を向けつつも、今までの散々弄ばれた事を根に持っていたユエとシアも参戦し、ジリジリとミレディ包囲網を狭めていく。半分は自業自得だが、もう半分はかつての仲間が創った迷宮のせいという辺りに何ともやるせなさを感じるミレディ。

「はぁ~、初めての攻略者がこんなキワモノだなんて……もぅ、いいや。君達を強制的に外に出すからねぇ! 戻ってきちゃダメよぉ!」

 今にも飛びかからんとしていたハジメ達の目の前で、ミニ・ミレディは、いつの間にか天井からぶら下がっていた紐を掴みグイっと下に引っ張った。

「「「?」」」

 一瞬、何してんだ? という表情をするハジメ達。だが、その耳に嫌というほど聞いてきたあの音が再び聞こえた。

ガコン!!

「「「!?」」」

 そう、トラップの作動音だ。その音が響き渡った瞬間、轟音と共に四方の壁から途轍もない勢いで水が流れ込んできた。正面ではなく斜め方向へ鉄砲水の様に吹き出す大量の水は、瞬く間に部屋の中を激流で満たす。同時に、部屋の中央にある魔法陣を中心にアリジゴクのように床が沈み、中央にぽっかりと穴が空いた。激流はその穴に向かって一気に流れ込む。

「てめぇ! これはっ!」

 ハジメは何かに気がついたように一瞬硬直すると、直ぐに屈辱に顔を歪めた。

 白い部屋、窪んだ中央の穴、そこに流れ込む渦巻く大量の水……そう、これではまるで“便所”である!

「嫌なものは、水に流すに限るね☆」

 ウインクするミニ・ミレディ。ユエが咄嗟に魔法で全員を飛び上がらせようとする。この部屋の中は神代魔法の陣があるせいか分解作用がない。そのため、ユエに残された魔力は少ないが全員を激流から脱出させる程度のことは可能だった。

「“来…”」
「させなぁ~い!」

 しかし、ユエが“来翔”の魔法を使おうとした瞬間、ミニ・ミレディが右手を突き出し、同時に途轍もない負荷がハジメ達を襲った。上から巨大な何かに押さえつけられるように激流へと沈められる。重力魔法で上から数倍の重力を掛けられたのだろう。

「それじゃあねぇ~、迷宮攻略頑張りなよぉ~」
「ごぽっ……てめぇ、俺たちゃ汚物か! いつか絶対破壊してやるからなぁ!」
「ケホッ……許さない」
「殺ってやるですぅ! ふがっ」

 ハジメ達はそう捨て台詞を吐きながら、なすすべなく激流に呑まれ穴へと吸い込まれていった。穴に落ちる寸前、ハジメだけは仕返しとばかりに何かを投げたようだが。ハジメ達が穴に流されると、流れ込んだときと同じくらいの速度であっという間に水が引き、床も戻って元の部屋の様相を取り戻した。

「ふぅ~、濃い連中だったねぇ~。それにしてもオーちゃんと同じ錬成師、か。ふふ、何だか運命を感じるね。願いのために足掻き続けなよ……さてさて、迷宮やらゴーレムの修繕やら暫く忙しくなりそうだね……ん? なんだろ、あれ」

 汗などかくはずもないのに、額を拭う仕草をするとミニ・ミレディはそう独りごちる。そして、ふと視界の端に見慣れぬ物を発見した。壁に突き刺さったナイフとそれにぶら下がる黒い物体。何だろう? と近寄り、そのフォルムに見覚えがあることに気がつく。

「へっ!? これって、まさかッ!?」

 黒い物体、それはハジメお手製の手榴弾だった。穴に落ちる寸前でせめてもの仕返しにとナイフに括りつけた手榴弾を投擲したのだ。何度か迷宮内でも使っていたのでミレディも、それが爆発物だと察し、焦りの表情浮かべながら急いで退避しようとする。実は、重力魔法は今のミニ・ミレディにとってすこぶる燃費が悪く、さっきので打ち止めだった。なので、爆発を押さえ込むことが出来ない。

 わたわたと踵を返すミニ・ミレディだったが、時すでに遅し。ミニ・ミレディが踵を返した瞬間、白い部屋がカッと一瞬の閃光に満たされ、ついで激しい衝撃に襲われた。

 迷宮の最奥に、「ひにゃああー!!」という女の悲鳴が響き渡った。その後、修繕が更に大変になり泣きべそを掻く小さなゴーレムがいたとかいないとか……


 一方、汚物の如く流されたハジメ達は、激流で満たされた地下トンネルのような場所を猛スピードで流されていた。息継ぎができるような場所もなく、ひたすら水中を進む。何とか、壁に激突して意識を失うような下手だけは打たないように必死に体をコントロールした。

 と、その時、ハジメ達の視界が自分達を追い越していく幾つもの影を捉えた。それは、魚だった。どうやら流された場所は、他の川や湖とも繋がっている地下水脈らしい。ただ、流されるハジメ達と違って魚達は激流の中を逞しく泳いでいるので、どんどんハジメ達を追い越して行く。

 その内の一匹が、いつの間にか必死に息を止めているシアの顔のすぐ横を並走ならぬ並泳していた。何となし、その魚に視線を向けるシア。

 目があった。

 魚と。いや、魚ではあるが人間の顔、それもおっさん顔の目と。何を言っているかわからないだろうが、そうとしか言い様がない。つまり、シアと目があった魚は人面魚だったのだ。どこかふてぶてしさと無気力さを感じさせるそのおっさん顔の人面魚は、あの懐かしきシーマ○を彷彿とさせた。

 驚愕に大きく目を見開くシア。思わず息を吐きそうになって慌てて両手で口元を抑えた。しかし、驚愕のあまり視線を逸らすことができない。シアとおっさん(魚)は見つめ合ったまま激流の中を進む!

 と、永遠に続くかと思われたシアとおっさん(魚)の時間は、唐突に終わりを迎えた。シアの頭に声が響いたからだ。

―――― 何見てんだよ

 舌打ち付きだった。今度こそシアには耐えられなかった。水中でブフォア! と盛大に息を吐き出してしまった。もしかすると、このおっさん(魚)は魔物の一種なのかもしれない。そして“念話”のような固有魔法を持っているのかもしれない。だが、それを確かめる術はなく、おっさん(魚)はスイスイと激流の中を泳ぎあっという間に先へ行ってしまった。

 後に残されたのは、白目を向いて力なく流されるウサミミ少女だけだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~


 町と町、あるいは村々をつなぐ街道を一台の馬車と数頭の馬がパッカパッカとリズミカルな足音と共にのんびりと進んでいた。もちろん、その馬上には人が乗っている。冒険者風の出で立ちをした男が三人と女が一人だ。馬車の方には、御者台に十五、六歳の女の子と化け物……もとい巨漢の漢女が乗っていた。

「ソーナちゃぁ~ん、もうすぐ泉があるから其処で少し休憩にするわよぉ~」
「了解です、クリスタベルさん。」

 クリスタベルと呼ばれた漢乙は、何を隠そうブルックの町でユエとシアが世話になった服飾店の店長である。そして、そのクリスタベルと隣に座る少女は、“マサカの宿”の看板娘ソーナ・マサカである。何やら常に驚愕してそうな名前だが、ちょっと好奇心と脳内の桃色成分が多いだけの普通の少女だ。

 この二人、現在、冒険者の護衛を付けながら、隣町からブルックへの帰還中なのである。クリスタベルは、その巨漢からも分かる通り鬼強いので、服飾関係の素材を自分で取りに行く事が多い。今回も仕入れ等のために一時、町を出たのだ。それに便乗したのがソーナである。隣町の親戚が大怪我を負ったと聞き、宿を離れられない両親に代わって見舞いの品を届けに行ったのだ。冒険者達は元々ブルックの町の冒険者で任務帰りなので、ついでに護衛しているのである。

 ブルックの町まであと一日といったところ。クリスタベル達は、街道の傍にある泉でお昼休憩を取ることにした。

 泉に到着したクリスタベル達が、馬に水を飲ませながら自分達も泉の畔で昼食の準備をする。ソーナが水を汲みに泉の傍までやって来た。そして、いざ水を汲もうと入れ物を泉に浸けたその瞬間、

ゴポッ! ゴポゴポッゴバッ!!

 と音を立てながら突如、泉の中央が泡立ち一気に水が噴き出始めた。

「きゃあ!」
「ソーナちゃん!」

 悲鳴を上げて尻餅をつくソーナに、クリスタベルが一瞬で駆け寄り庇うように抱き上げ他の冒険者達のもとへ戻る。その間にも、噴き上げる水は激しさを増していき、遂には高さ十メートル以上はありそうな水柱となった。

 この泉は街道沿いの休憩場所としては、よく知られた場所で、こんな現象は一度として報告されていない。それ故に、クリスタベルやソーナ、冒険者達も驚愕に口をポカンと開き、降り注ぐ雨の如き水滴も気にせず巨大な水柱を見上げた。

 すると、

「どぅわぁあああーー!!」
「んっーーーー!!」
「…………」

 噴き上がる水の勢いそのままに、三人……二人の人が悲鳴を上げながら飛び出してきた。思わず「なにぃー!」と目が飛び出るクリスタベル達。飛び出してきた三人の人間は、悲鳴を上げながら十メートル近くまで吹き飛ばされると、そのまま、クリスタベル達の対岸側にドボンッ! と音を立てながら落下した。

「「「「「「……」」」」」」
「な、何なの一体……」

 言葉もない冒険者達とクリスタベル。ソーナの呟きが皆の気持ちを代弁していた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ゲホッ、ガホッ、~~っ、ひでぇ目にあった。あいつ何時か絶対に破壊してやる。ユエ、シア。無事か?」
「ケホッケホッ……ん、大丈夫」

 何とか水面に上がり、悪態を付きながらユエとシアの安否を確認するハジメ。しかし、返ってきたのはユエの返答だけだった。

「シア? おい、シア! どこだ!」
「シア……どこ?」

 呼びかけるが周囲に気配はない。ハジメは、急いで水中に潜り目を凝らす。すると、案の定、シアが底の方に沈んでいくところだった。意識を失っている事と、ドリュッケンの重さのせいで浮くことができないのだ。

 ハジメは、“宝物庫”から圧縮した超重量の鉱物を取り出すと、それを重り替わりにして一気に潜行しシアを引っ張り上げた。

 シアを引きずりながら岸に上がる。仰向けにして寝かせたシアは、顔面蒼白で白目をむき呼吸と心臓が停止していた。よほど嫌なものでも見たのか、意識を失いながらも微妙に表情が引き攣っている。

「ユエ、人工呼吸を!」
「……じん…何?」
「あ~、だから、気道を確保して…」
「???」

 シアの容態を見て心肺蘇生を試みようとユエに指示を出すが、ユエは頭上に? を浮かべている。この世界には、もしかすると心肺蘇生というものがないのかもしれない。怪我をしているわけでもないし、水を飲んでいるところに更に水分を取らせる訳にもいかないので神水は役に立たない。ユエ自身も治癒魔法は不得手で、水を吐かせ心臓マッサージの効果を持つ魔法などというピンポイントなものは知らないだろう。

 いつから意識を失っていたのかわからないが、一刻を争うことは確かだ。ハジメは、意を決してシアに心肺蘇生を行った。

 そうなると当然、まぁ、まうすとぅーまうすになるわけで、それを見たユエが一瞬、不機嫌そうになるが、それがシアを救う方法であることは理解できるので大人しく見ている。そう、ジッとジーと見ている。

 ハジメは、ユエの無機質な視線を極力無視しながら心肺蘇生を繰り返した。

「(まったく、見直したと思ったら、全部終わった後で死にかけるとか……お前はホントに残念なヤツだよ)」

 内心、悪態を吐いていると、何度目かの人工呼吸のあと、遂にシアが水を吐き出した。水が気管を塞がないように顔を横に向けてやるハジメ。体勢的には完全に覆いかぶさっている状態だ。

「ケホッケホッ……ハジメさん?」
「おう、ハジメさんだ。ったくこんなことで死にかけてんじゃッん!?」

 むせながら横たわるシアに至近から呆れた表情を見せつつも、どこかホッとした様子を見せるハジメ。そんなハジメを、ボーと見つめていたシアは、突如、ガバチョ! と抱きつきそのままキスをした。まさかの反応と、距離の近さに避け損なうハジメ。

「んっ!? んー!!」
「あむっ、んちゅ」

 シアは、両手でハジメの頭を抱え込み、両足を腰に回して完全に体を固定すると遠慮容赦なく舌をハジメの口内に侵入させた。シアの剛力と自身の体勢的に咄嗟に振りほどけないハジメ。

 実を言うと、何度目かの人工呼吸の時、何故かシアには、ハジメにキスされていることがわかっていたのだ。体は動かないし、意識もほとんどなかったが、水を飲んだ瞬間、咄嗟に行った身体強化がそのような特異な状況をもたらしたのかもしれない。

 何度もされるキスに、シアの感情メーターは振り切った。逃がすものかと、ハジメの体をしっかりホールドすると無我夢中でハジメにキスを返した。

 一方、そんな光景を見ているユエはというと……めちゃくちゃ不機嫌そうだった。不機嫌そうではあったが、止めには入らなかった。小声で「今だけ、ご褒美…」とブツブツと呟いてる。どうやら、シアの気持ちを汲んで、迷宮で頑張った分のご褒美も含めて許すことにしたらしい。

「わっわっ、何!? 何ですか、この状況!? す、すごい……濡れ濡れで、あんなに絡みついて……は、激しい……お外なのに! ア、アブノーマルだわっ!」

 そこへやって来たのは妄想過多な宿の看板娘ソーナちゃん。そして「あら? あなたたち確か……」と体をくねらせながらユエとシアを記憶から呼び起こすクリスタベル。そして、嫉妬の炎を瞳に宿し、自然と剣にかかる手を必死に抑えている男の冒険者達とそんな男連中を冷めた目で見ている女冒険者だった。

 未だ、吸い付いてくるシアを、ハジメは体ごと持ち上げる。そして、シアのムッチリしたお尻を鷲掴みにして激しく揉みしだいた。

「あんっ!」

 思わず喘ぐシア。一瞬、緩んだ隙を逃さず、ハジメはペイッ! とシアを引き剥がすとそのまま泉に放り込んだ。

「うきゃぁああ!」

ドボンッ!

 悲鳴を上げながら泉に落ちたシアを尻目に、荒い息を吐きながら髪をかき上げるハジメ。

「ゆ、油断も隙もねぇ。蘇生直後に襲いかかるとか……流石に読めんわ」

 早くも泉から貞○の様に這い上がって来ているシアに、ハジメは戦慄の表情を見せる。

「うぅ~酷いですよぉ~ハジメさんの方からしてくれたんじゃないですかぁ~」
「はぁ? あれは歴とした救命措置で……って、お前、意識あったのか?」
「う~ん、なかったと思うんですけど……何となく分かりました。ハジメさんにキスされているって、うへへ」
「その笑い方やめろ……いいか、あれはあくまで救命措置であって、深い意味はないからな? 変な期待するなよ?」
「そうですか? でも、キスはキスですよ。このままデレ期に突入ですよ!」
「ねぇよ。っていうかユエ。お前も止めてくれよ。」
「……今だけ……でも、シアは頑張っているし……いや、でも……」
「ユエ~? ユエさんや~い」

 虚空を見つめたまま未だブツブツと呟くユエに、こっちもダメだと溜息を吐くハジメ。そして、近くでハジメ達の様子を伺っていたクリスタベル達へ視線を移した。

 ハジメの視線が冒険者達の上を滑り、ソーナで一瞬止まり、クリスタベルを見て直ぐにソーナに戻される。見なかったことにしたいらしい。

 ハジメの視線に晒されたソーナはビクンッと体を震わせると、一瞬で顔を真っ赤にした。

「お、お邪魔しましたぁ! ど、どうぞ、私達のことは気にせずごゆっくり続きを!」

 そんな事を叫びながら踵を返そうとするソーナの首根っこをクリスタベルが摘む。そして、そのままハジメ達の下へやって来た。ハジメは、近寄ってくる化物にドン引きしながらも、隣でシアが「あっ、店長さん」と知り合いらしい振る舞いを見せるので話に応じる事にする。

 結果、自分達のいる場所が、ブルックの町から一日ほどの場所にあると判明し、ハジメ達も町に寄って行くことにした。クリスタベルの馬車に便乗させてくれるというので、その厚意に甘えることにする。濡れた服を着替え、道中、色々話をしながら、暖かな日差しの中を馬の足音をBGMに進んでいく。

 新たな仲間が共に、二つ目の大迷宮の攻略を成し遂げたハジメ。馬車の荷台に寝転び燦々と輝く太陽を眩しげに見つめながら、ハジメは、これからも色々あるだろう旅を思い薄らと口元に笑みを浮かべるのだった。
いつも読んで下さり有難うございます
感想・意見・誤字脱字報告も有難うございます

何だか唯の後日談なのにグダグダと長くなってしまいました
ミレディによる強制排出は苦肉の策です
ミレディと話す時間を設けてしまうと、ハジメの性格上あらゆる情報を吐かせようとするのでしょうが、それだとネタバレになりそうなので、こういう形にしました。まぁ、バレるほどネタなんかないのですが……
水路流しは、ハジメとシアがキスするシーンを出したいが故。ご褒美を上げたかったので

さて、久しぶりに後書きに色々書いたのは、一応、今回で二章終了という感じになると思うので、その報告を。
行き当たりばったり、思いつくままに、という作品なので何処で区切るのがいいのか作者にも微妙ではありますが、次回から三章という意識で書いていこうと思います。
本当に、ここまで読んでいただき、また感想・意見・誤字脱字報告を下さりありがとうございました。
これからも、ぼちぼち書いていきますので、よろしくお願いします

次回は、木曜日の18時更新予定です
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