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ありふれた職業で世界最強 作者:厨二好き/白米良

第二章

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ライセン大迷宮と最後の試練

「やほ~、はじめまして~、皆大好きミレディ・ライセンだよぉ~」

 凶悪な装備と全身甲冑に身を固めた眼光鋭い巨体ゴーレムから、やたらと軽い挨拶をされた。何を言っているか分からないだろうが、ハジメにもわからない。頭がどうにかなる前に現実逃避しそうだった。ユエとシアも、包囲されているということも忘れてポカンと口を開けている。

 そんな硬直する三人に、巨体ゴーレムは不機嫌そうな声を出した。声質は女性のものだ。

「あのねぇ~、挨拶したんだから何か返そうよ。最低限の礼儀だよ? 全く、これだから最近の若者は……もっと常識的になりたまえよ」

 実にイラっとする話し方である。しかも、巨体ゴーレムは、燃え盛る右手と刺付き鉄球を付けた左手を肩まで待ち上げると、やたらと人間臭い動きで「やれやれだぜ」と言う様に肩を竦める仕草までした。普通にイラっとするハジメ達。道中散々見てきたウザイ文を彷彿とさせる。“ミレディ・ライセン”と名乗っていることから本人である可能性もあるが、彼女は既に死んでいるはずであるし、人間だったはずだ。

 ハジメは取り敢えず、その辺りのことを探ってみる事にした。

「そいつは、悪かったな。だが、ミレディ・ライセンは人間で故人のはずだろ? まして、自我を持つゴーレム何て聞いたことないんでな……目論見通り驚いてやったんだから許せ。そして、お前が何者か説明しろ。簡潔にな」
「あれぇ~、こんな状況なのに物凄く偉そうなんですけど、こいつぅ」

 全く探りになってなかった。むしろド直球だった。流石に、この反応は予想外だったのかミレディを名乗る巨体ゴーレムは若干戸惑ったような様子を見せる。が、直ぐに持ち直して、人間なら絶対にニヤニヤしているであろうと容易に想像付くような声音でハジメ達に話しかけた。

「ん~? ミレディさんは初めからゴーレムさんですよぉ~何を持って人間だなんて……」
「オスカーの手記にお前のことも少し書いてあった。きちんと人間の女として出てきてたぞ? というか阿呆な問答をする気はない。簡潔にと言っただろう。どうせ立ち塞がる気なんだろうから、やることは変わらん。お前をスクラップにして先に進む。だから、その前にガタガタ騒いでないで、吐くもん吐け」
「お、おおう。久しぶりの会話に内心、狂喜乱舞している私に何たる言い様。っていうかオスカーって言った? もしかして、オーちゃんの迷宮の攻略者?」
「ああ、オスカー・オルクスの迷宮なら攻略した。というか質問しているのはこちらだ。答える気がないなら、戦闘に入るぞ? 別にどうしても知りたい事ってわけじゃない。俺達の目的は神代魔法だけだからな」

 ハジメがドンナーを巨体ゴーレムに向ける。ユエはすまし顔だが、シアの方は「うわ~、ブレないなぁ~」と感心半分呆れ半分でハジメを見ていた。

「……神代魔法ねぇ、それってやっぱり、神殺しのためかな? あのクソ野郎共を滅殺してくれるのかな? オーちゃんの迷宮攻略者なら事情は理解してるよね?」
「質問しているのはこちらだと言ったはずだ。答えて欲しけりゃ、先にこちらの質問に答えろ」
「こいつぅ~ホントに偉そうだなぁ~、まぁ、いいけどぉ~、えっと何だっけ……ああ、私の正体だったね。うぅ~ん」
「簡潔にな。オスカーみたいにダラダラした説明はいらないぞ」
「あはは、確かに、オーちゃんは話しが長かったねぇ~、理屈屋だったしねぇ~」

 巨体ゴーレムは懐かしんでいるのか遠い目をするかのように天を仰いだ。本当に人間臭い動きをするゴーレムである。ユエは相変わらず無表情で巨体ゴーレムを眺め、シアは周囲のゴーレム騎士達に気が気でないのかそわそわしている。

「うん、要望通りに簡潔に言うとね。
 私は、確かにミレディ・ライセンだよ
 ゴーレムの不思議は全て神代魔法で解決!
 もっと詳しく知りたければ見事、私を倒してみよ! って感じかな」
「結局、説明になってなねぇ……」
「ははは、そりゃ、攻略する前に情報なんて貰えるわけないじゃん? 迷宮の意味ないでしょ?」

 今度は巨大なゴーレムの指でメッ! をするミレディ・ゴーレム。中身がミレディ・ライセンというのは頂けないが、それを除けば愛嬌があるように思えてきた。ユエが、「……中身だけが問題」とボソリと呟いていることからハジメと同じ感想のようだ。

 そして、その中身について、結局ほとんど何もわからなかったに等しいが、ミレディ本人だというなら、残留思念などを定着させたものなのかもしれないと推測するハジメ。ハジメは、確かクラスメイトの中村恵里が降霊術という残留思念を扱う天職を持っていたっけと朧げな記憶を掘り起こす。しかし、彼女の降霊術は、こんなにはっきりと意思を持った残留思念を残せるようなものではなかったはずだ。つまり、その辺と、その故人の意思? なんかをゴーレムに定着させたのが神代魔法ということだろう。

 いずれにしろ、自分が探す世界を超える魔法ではなさそうだと、ハジメは少し落胆した様子で巨体ゴーレム改めミレディ・ゴーレムに問い掛けた。

「お前の神代魔法は、残留思念に関わるものなのか? だとしたら、ここには用がないんだがなぁ」
「ん~? その様子じゃ、何か目当ての神代魔法があるのかな? ちなみに、私の神代魔法は別物だよぉ~、魂の定着の方はラーくんに手伝ってもらっただけだしぃ~」

 ハジメの目当てはあくまで世界を超えて故郷に帰ること。魂だか思念だか知らないが、それを操れる神代魔法を手に入れても意味はない。そう思って質問したのだが、返ってきたミレディの答えはハジメの推測とは異なるものだった。ラーくんというのが誰かは分からないが、おそらく“解放者”の一人なのだろう。その人物が、ミレディ・ゴーレムに死んだはずの本人の意思を持たせ、ゴーレムに定着させたようだ。

「じゃあ、お前の神代魔法は何なんだ? 返答次第では、このまま帰ることになるが……」
「ん~ん~、知りたい? そんなに知りたいのかなぁ?」

 再びニヤついた声音で話しかけるミレディに、イラっとしつつ返答を待つハジメ。

「知りたいならぁ~、その前に今度はこっちの質問に答えなよ」

 最後の言葉だけ、いきなり声音が変わった。今までの軽薄な雰囲気がなりを潜め真剣さを帯びる。その雰囲気の変化に少し驚くハジメ達。表情には出さずにハジメが問い返す。

「なんだ?」
「目的は何? 何のために神代魔法を求める?」

 嘘偽りは許さないという意思が込められた声音で、ふざけた雰囲気など微塵もなく問いかけるミレディ。もしかすると、本来の彼女はこちらの方なのかもしれない。思えば、彼女も大衆のために神に挑んだ者。自らが託した魔法で何を為す気なのか知らないわけにはいかないのだろう。オスカーが記録映像を遺言として残したのと違い、何百年もの間、意思を持った状態で迷宮の奥深くで挑戦者を待ち続けるというのは、ある意味拷問ではないだろうか。軽薄な態度はブラフで、本当の彼女は凄まじい程の忍耐と意志、そして責任感を持っている人なのかもしれない。

 ユエも同じことを思ったのか、先程までとは違う眼差しでミレディ・ゴーレムを見ている。深い闇の底でたった一人という苦しみはユエもよく知っている。だからこそ、ミレディが意思を残したまま闇の底に留まったという決断に、共感以上の何かを感じたようだ。

 ハジメは、ミレディ・ゴーレムの眼光を真っ直ぐに見返しながら嘘偽りない言葉を返した。

「俺の目的は故郷に帰ることだ。お前等のいう狂った神とやらに無理やりこの世界に連れてこられたんでな。世界を超えて転移できる神代魔法を探している……お前等の代わりに神の討伐を目的としているわけじゃない。この世界のために命を賭けるつもりは毛頭ない」
「……」

 ミレディ・ゴーレムは暫く、ジッとハジメを見つめた後、何かに納得したのか小さく頷いた。そして、ただ一言「そっか」とだけ呟いた。と、次の瞬間には、真剣な雰囲気が幻のように霧散し、軽薄な雰囲気が戻る。

「ん~、そっかそっか。なるほどねぇ~、別の世界からねぇ~。うんうん。それは大変だよねぇ~よし、ならば戦争だ! 見事、この私を打ち破って、神代魔法を手にするがいい!」
「脈絡なさすぎて意味不明なんだが……何が『ならば』何だよ。っていうか話し聞いてたか? お前の神代魔法が転移系でないなら意味ないんだけど? それとも転移系なのか?」

 ミレディは、「んふふ~」と嫌らしい笑い声を上げると、「それはね……」と物凄く勿体付けた雰囲気で返答を先延ばす。その姿は、ファイナルアンサーした相手に答えを告げるみの○んたを彷彿とさせた。

 いい加減、イラつきが頂点に達し、こっちから戦争を始めてやるとオルカンを取り出したハジメの機先を制するようにミレディが答えを叫ぶ。

「教えてあ~げない!」
「死ね」

 ハジメが問答無用にオルカンからロケット弾をぶっぱなした。火花の尾を引く破壊の嵐が真っ直ぐにミレディ・ゴーレムへと突き進み直撃する。

ズガァアアアン!!

 凄絶な爆音が空間全体を振動させながら響き渡る。もうもうとたつ爆煙。

「やりましたか!?」
「……シア、それはフラグ」

 シアが先手必勝ですぅ! と喜色を浮かべ、ユエがツッコミを入れる。結果、正しいのはユエだった。煙の中から赤熱化した右手がボバッと音を立てながら現れると横凪に振るわれ煙が吹き散らされる。

 煙の晴れた奥からは、両腕の前腕部の一部を砕かれながらも大して堪えた様子のないミレディ・ゴーレムが現れた。ミレディ・ゴーレムは、近くを通ったブロックを引き寄せると、それを砕きそのまま欠けた両腕の材料にして再構成する。

「ふふ、先制攻撃とはやってくれるねぇ~、さぁ、もしかしたら私の神代魔法が君のお目当てのものかもしれないよぉ~、私は強いけどぉ~、死なないように頑張ってねぇ~」

 そう楽しそうに笑って、ミレディ・ゴーレムは左腕のフレイル型モーニングスターをハジメ達に向かって射出した。投げつけたのではない。予備動作なくいきなりモーニングスターが猛烈な勢いで飛び出したのだ。おそらく、ゴーレム達と同じく重力方向を調整して“落下”させたのだろう。

 ハジメ達は、近くの浮遊ブロックに跳躍してモーニングスターを躱す。モーニングスターは、ハジメ達がいたブロックを木っ端微塵に破壊しそのまま宙を泳ぐように旋回しつつ、ミレディ・ゴーレムの手元に戻った。

「やるぞ! ユエ、シア。ミレディを破壊する!」
「んっ!」
「了解ですぅ!」

 ハジメの掛け声と共に、七大迷宮が一つ、ライセン大迷宮最後の戦いが始った。

 大剣を掲げまま待機状態だったゴーレム騎士達が、ハジメの掛け声を合図にしたかのように一斉に動き出した。通路でそうしたのと同じように、頭をハジメ達に向けて一気に突っ込んでくる。

 ユエが、くるり身を翻しながらじゃらじゃらぶら下げた水筒の一つを前に突き出し横薙ぎにする。極限まで圧縮された水がウォーターカッターとなってレーザーの如く飛び出しゴーレム騎士達を横断した。

「あはは、やるねぇ~、でも総数五十体の無限に再生する騎士達と私、果たして同時に捌けるかなぁ~」

 嫌味ったらしい口調で、ミレディ・ゴーレムが再度、モーニングスターを射出した。シアが大きく跳躍し、上方を移動していた三角錐のブロックに飛び乗る。ハジメは、その場を動かずにドンナーをモーニングスターに向けて連射した。

ドパァァンッ!

 銃声は一発。されど放たれた弾丸は六発。早打ちにより解き放たれた閃光は狙い違わず豪速で迫るモーニングスターに直撃する。流石に大質量の金属球とは言え、レールガンの衝撃を同時に六回も受けて無影響とはいかなかった。その軌道がハジメから大きく逸れる。

 同時に、上方のブロックに跳躍していたシアがミレディの頭上を取り、飛び降りながらドリュッケンを打ち下ろした。

「見え透いてるよぉ~」

 そんな言葉と共に、ミレディ・ゴーレムは急激な勢いで横へ移動する。横へ“落ちた”のだろう。

「くぅ、このっ!」

 目測を狂わされたシアは、歯噛みしながら手元の引き金を引きドリュッケンの打撃面を爆発させる。薬莢が排出されるのを横目に、その反動で軌道を修正。三回転しながら、遠心力もたっぷり乗せた一撃をミレディ・ゴーレムに叩き込んだ。

ズゥガガン!!

 咄嗟に左腕でガードするミレディ・ゴーレム。凄まじい衝突音と共に左腕が大きくひしゃげる。しかし、ミレディ・ゴーレムはそれがどうしたと言わんばかりに、そのまま左腕を横薙ぎにした。

「きゃぁああ!!」
「シア!」

 悲鳴を上げながらぶっ飛ぶシア。何とか空中でドリュッケンの引き金を引き爆発力で体勢を整えると、更に反動を利用して近くのブロックに不時着する。

「はっ、やるじゃねぇの。おい、ユエ。お前、あいつに一体どんな特訓したんだよ?」
「……ひたすら追い込んだだけ」
「……なるほど、しぶとく生き残る術が一番磨かれたってところか」

 遠目にシアがピョンピョンと浮遊ブロックを飛び移りながら戻ってくるのを確認しつつ内心感心するハジメ。そんな、ハジメとユエのブロックに、遂にユエ一人では捌ききれない程のゴーレム騎士達が殺到する。

 ハジメは、“宝物庫”からガトリング砲メツェライを取り出す。そして、ユエと背中合わせになり、毎分一万二千発の死を撒き散らす化物を解き放った。

ドゥルルルルル!!

 六砲身のバレルが回転しながら掃射を開始する。独特な射撃音を響かせながら、真っ直ぐに伸びる数多の閃光は、縦横無尽に空間を舐め尽くし、宙にある敵の尽くをスクラップに変えて底面へと叩き落としていった。回避または死角からの攻撃のため反対側に回り込んだものは、水のレーザーにより、やはり尽く横断されていく。

 瞬く間に四十体以上のゴーレム騎士達が無残な姿を晒しながら空間の底面へと墜落した。時間が経てば、また再構築を終えて戦線に復帰するだろうが、暫く邪魔が入らなければそれでいい。そう、親玉であるミレディ・ゴーレムを破壊するまで。

「ちょっ、なにそれぇ! そんなの見たことも聞いたこともないんですけどぉ!」

 ミレディ・ゴーレムの驚愕の叫びを聞き流し、ハジメは、メツェライを“宝物庫”にしまうと、再びドンナーを抜きながら、少し離れたところにいるシアにも聞こえるように声を張り上げた。

「ミレディの核は、心臓と同じ位置だ! あれを破壊するぞ!」
「んなっ! 何で、わかったのぉ!」

 再度、驚愕の声をあげるミレディ。まさか、ハジメが魔力そのものを見通す魔眼をもっているとは思いもしないのだろう。ゴーレムを倒すセオリーである核の位置が判明し、ユエとシアの眼光も鋭くなる。

 周囲を飛び交うゴーレム騎士も今は十体程度。三人で波状攻撃をかけて、ミレディの心臓に一撃を入れるのだ。

 ハジメが、一気に跳躍し周囲の浮遊ブロックを足場にしながらミレディ・ゴーレムに接近を試みる。今のレールガンの出力では、ミレディ・ゴーレムの巨体を粉砕して核に攻撃を届かせるのは難しい。なので、ゼロ距離射撃で装甲を破壊し、手榴弾でも突っ込んでやろうと考えたのだ。

 だが、そう甘くはない。

 ミレディ・ゴーレムの目が一瞬光ったかと思うと、彼女の頭上の浮遊ブロックが猛烈な勢いで宙を移動するハジメへと迫った。

「!?」
「操れるのが騎士だけとは一言も言ってないよぉ~」

 ミレディのニヤつく声音を無視して、ハジメは、ガシュンという音と共に義手のギミックを作動させた。

ドゴンッ!!

 腹の底に響くような爆発音を響かせながら義手の甲から正面に向けて衝撃が発生する。正確には、強力な散弾が発射されたのだ。電磁加速は出来ないが、燃焼粉の圧縮率はドンナーの弾丸よりもずっと高い。それに伴って反動も強烈だ。宙にあるハジメの体は弾かれた様に軌道を変えて、飛来した浮遊ブロックをすんでの所で躱す。そして、何とか目標の浮遊ブロックに足を掛けた。

 当然、ミレディ・ゴーレムは、ハジメの足場を“落とそう”とするが、いつの間にか背後から迫っていたシアが、強烈な一撃をミレディ・ゴーレムの頭部に叩き込もうと跳躍する。まずは、事あるごとに妖しげ光を放つ目を頭部ごと潰そうという腹だ。

 ミレディ・ゴーレムは、シアの接近に気がついていたのか跳躍中のシアを狙ってゴーレム騎士達を突撃させた。宙にあって無防備なシア。あわや大剣に両断されるかと思われた瞬間、

「……させない」

 これまたいつの間にか移動していたユエが、“破断”によりシアを襲おうとしているゴーレム騎士達を細切れにしていく。

「流石、ユエさんです!」

 そんなことを叫びながら、障害がいなくなった宙を進み、シアは極限まで強化した身体能力を以て大上段の一撃を繰り出した。

「パワーでゴーレムが負けるわけないよぉ~」

 ミレディ・ゴーレムは自身の言葉を証明してやるとでも言う様に、振り返りながら燃え盛る右手をシアに目掛けて真っ直ぐに振るった。

ドォガガガン!!

 シアのドリュッケンとミレディ・ゴーレムのヒートナックルが凄まじい轟音を響かせながら衝突する。発生した衝撃波が周囲を浮遊していたブロックのいくつかを放射状に吹き飛ばした。

「こぉののの!」

 突破できないミレディ・ゴーレムの拳に、シアは雄叫びを上げて力を込める。しかし、ゴーレムの膂力にはやはり敵わず、振り切られた拳に吹き飛ばされた。

「きゃああ!!」

 悲鳴を上げるシア。飛ばされた方向に浮遊ブロックはない。あわや、このまま墜落するかと思われたが、予想していたようにユエが横合いから飛び出しシアを抱きとめ、一瞬の“来翔”で軌道を修正しながら、眼下の浮遊ブロックに着地した。

「中々のコンビネーションだねぇ~」

 余裕の声で、自分を見上げるユエとシアを見下ろすミレディ・ゴーレム。そこへ予想外に近い場所から声がかかる。

「だろ?」
「!?」

 驚愕し慌てて声のした方向に視線を転じるミレディ・ゴーレム。いつの間にか懐に潜り込み、アンカーと甲冑の隙間に足を入れることで体を固定しながら、巨大な兵器:シュラーゲンを心臓部に突き付けているハジメが其処にいた。シュラーゲンから紅いスパークが迸る。

「い、いつの間ッ!?」

ドォガン!!!

 ミレディの驚愕の言葉はシュラーゲンの発する轟音に遮られた。ゼロ距離で放たれた殺意の塊は、ミレディ・ゴーレムを吹き飛ばすと共に胸部の装甲を木っ端微塵に破壊した。“纏雷”が十分に使えないため、現在のシュラーゲンは、通常空間でのドンナーの最大威力と同程度だ。だが、それでも金属鎧を破壊するには十分な威力がある。ゴーレム騎士達の装甲が、威力低下中のドンナーでも容易に貫けたので、同じ材質に見えるミレディ・ゴーレムの鎧も少し分厚くなっているだけなら、シュラーゲンで十分に破壊できると踏んだのだ。

 胸部から煙を吹き上げながら弾き飛ばされるミレディ・ゴーレム。ハジメも反動で後方に飛ばされた。アンカーを飛ばし、近くの浮遊ブロックに取り付けると巻き上げる勢いそのままに空中で反転して飛び乗る。そして、ミレディ・ゴーレムの様子を観察した。

 ユエとシアもハジメの近くの浮遊ブロックに飛び乗ってくる。

「……いけた?」
「手応えはあったけどな……」
「これで、終わって欲しいですぅ」

 ユエが手応えを聞き、シアが希望的観測を口にする。ハジメの表情は微妙だ。案の定、胸部の装甲を破壊されたままのミレディ・ゴーレムが、何事もなかったように近くの浮遊ブロックを手元に移動させながら、感心したような声音でハジメ達に話しかけてきた。

「いやぁ~大したもんだねぇ、ちょっとヒヤっとしたよぉ。分解作用がなくて、そのアーティファクトが本来の力を発揮していたら危なかったかもねぇ~、うん、この場所に苦労して迷宮作ったミレディちゃん天才!!」

 自画自賛するミレディ・ゴーレム。だが、そんな彼女の言葉はハジメの耳に入っていなかった。ハジメの表情は険しい。なぜなら、破壊された胸部の装甲の奥に漆黒の装甲があり、それには傷一つ付いていなかったからだ。ハジメには、その装甲の材質に見覚えがあった。

「んぅ~、これが気になるのかなぁ~」

 ミレディ・ゴーレムがハジメの視線に気がつき、ニヤつき声で漆黒の装甲を指差す。勿体ぶるような口調で「これはねぇ~」と、その正体を明かそうとして、ハジメが悪態と共に続きを呟いた。

 「……アザンチウムか、くそったれ」

 アザンチウム鉱石は、ハジメの装備の幾つかにも使われている世界最高硬度を誇る鉱石だ。薄くコーティングする程度でもドンナーの最大威力を耐え凌ぐ。通りで、シュラーゲンの一撃に傷一つつかないわけである。あのアザンチウム装甲を破るのは至難の技だとハジメは眉間にシワを寄せた。

「おや? 知っていたんだねぇ~、ってそりゃそうか。オーくんの迷宮の攻略者だものねぇ、生成魔法の使い手が知らないわけないよねぇ~、さぁさぁ、程よく絶望したところで、第二ラウンド行ってみようかぁ!」

 ミレディは、砕いた浮遊ブロックから素材を奪い、表面装甲を再構成するとモーニングスターを射出しながら自らも猛然と突撃を開始した。

「ど、どうするんですか!? ハジメさん!」
「まだ手はある。何とかしてヤツの動きを封じるぞ!」
「……ん、了解」

 火力不足というどうしようもない事情に、シアが動揺した様子でハジメに問う。ハジメには、まだ切り札が残っているようで、それを使うためにミレディ・ゴーレムの動きを封じるように指示を出した。手が残っているということに、幾分安堵の表情を見せてユエとシアが迫り来るモーニングスターを回避すべく近くの浮遊ブロックに飛び移ろうとする。しかし、

「させないよぉ~」

 ミレディ・ゴーレムの気の抜けた声と共に足場にしていた浮遊ブロックが高速で回転する。いきなり、足場を回転させられバランスを崩すハジメ達。そこへモーニングスターが絶大な威力を以て激突した。ハジメ達は、木っ端微塵に砕かれた足場から放り出される。ハジメは、ジャラジャラと音を立てながら通り過ぎる鎖にしがみついた。ユエは砕かれた浮遊ブロックの破片を足場に“来翔”を使って、シアはドリュッケンの爆発の反動を利用して何とか眼下の浮遊ブロックに不時着する。

 そこへ狙いすました様にミレディ・ゴーレムがフレイムナックルを突き出して突っ込んだ。

「くぅう!!」
「んっ!!」

 直撃は避けたものの強烈な衝撃に、ユエとシアの口から苦悶の呻き声が漏れる。それでも、すれ違い様にユエは“破断”をミレディ・ゴーレムの腕を狙って発動し、シアはドリュッケンのギミックの一つである杭を打撃面から突出させて、それを鎧に突き立て取り付いた。

 “破断”はミレディ・ゴーレムの右腕の一部を切り裂いたが切断とまでは行かず、ユエは悔しげな表情で別の浮遊ブロックに着地する。

 一方、ミレディ・ゴーレムの肩口に取り付いたシアは、そのまま左の肩から頭部目掛けてドリュッケンをフルスイングした。が、ミレディ・ゴーレムが急激に“落ちた”ことによりバランスを崩され宙に放り出された。

「きゃあ!」

 悲鳴を上げるシア。そこへ、モーニングスターの鎖にしがみついていたハジメが、振るわれる鎖の遠心力を利用してシアのもとへ飛び出し空中でキャッチする。

「ハジメさん!」

 喜色に満ちた声でハジメの名を呼ぶシア。憧れの抱っこで救出をしてもらい、そんな状況でないとわかっていながら、つい気持ちが高揚する。だが、そこはハジメクオリティー。かつて魔物の群れに放り投げた時のようにシアを振りかぶる。

「ハ、ハジメさん!?」
「もっかい逝って来い!」

 義手に装填されたショットシェルがガシュンという音と共にリロードされ激発する。発生した衝撃の反動で回転するハジメは、その遠心力を利用してシアをミレディ・ゴーレムに向かって投げ飛ばした。

「こんちくしょうですぅー!」

 憧れが叶ったと思った次の瞬間には敵に向かって特攻させられるという何ともやりきれない状況に、自棄くそ気味な雄叫びを上げながらドリュッケンを構えるシア。

 ハジメの所業に、若干、ミレディも引いているような気がする。しかし、それでも迎撃はしっかりとするようで、ヒートナックルを放とうと拳をグッと後ろに引き絞る。と、その瞬間、手元に戻したモーニングスターに繋がっている鎖がいきなり大爆発を起こした。

「わわわっ、なにっ!?」

 驚きの声を上げるミレディ。爆発の原因は、ハジメが鎖に捕まっている間に仕掛けた大量の手榴弾である。凄まじい爆発力により鎖が半ばから弾け飛び、巻きつけていた左腕が大きく損傷する。衝撃により、ミレディ・ゴーレムの体勢も崩れた。

 そこへ、ドリュッケンを振りかぶったシアが到達する。

「りゃぁあああ!!」

 気合のこもった雄叫びと共に、手元の引き金が引かれ内蔵されたショットシェルが激発する。衝撃により一気に加速したドリュッケンが空気すら叩き潰す勢いでミレディ・ゴーレムに迫った。

 ミレディ・ゴーレムは反射的に損傷の激しい左腕を掲げる。直後、ドリュッケンの一撃が左腕に直撃した。ドリュッケンは、脆くなった左腕を打ち砕き肩口から先を容赦なく粉砕した。

 ドリュッケンを振り切り勢いそのままに宙を泳ぐシア。ミレディ・ゴーレムは、せめて、奪われた左腕の仕返しに一撃を入れてやると、死に体のシアにヒートナックルを放とうとする。

 しかし、ミレディがシアに意識を集中した瞬間、下方から水のレーザーが迸り、先ほど入れられた切れ込みに寸分違わず命中した。そして、その傷口を更に抉り切り裂いて、遂にミレディ・ゴーレムの右腕を切断した。

「……してやったり」

 そう言ってほくそ笑んだのは、もちろんユエである。

「っ、このぉ! 調子に乗ってぇ!」

 ミレディが、イラついた様子で声を張り上げた。その間に、上方の浮遊ブロックにアンカーを打ち込んだハジメが振り子の要領で宙を移動し、落下中のシアをキャッチする。ただし、抱っこではなく脇に抱える形で。

「ハジメさぁ~ん、ここはご褒美に抱っこするところじゃないですか? 空気読みましょうよぉ~」
「人をKYみたいに言うな。この状況でさり気なく自分の願望を満たそうとするお前の方が、むしろ空気読めよ」

 近場の浮遊ブロックに着地した瞬間、ぶちぶちと不満の声を上げるシアに、ハジメが呆れた声でツッコミを入れる。と、両腕を失ったミレディが何故か、周囲の浮遊ブロックを呼び寄せて両腕を再構成することもなく、天井を見つめたまま目を強く光らせていた。

 猛烈に嫌な予感がして、表情を強ばらせるハジメ。それを裏付けるようにシアの表情が青ざめる。

「ハジメさん、ユエさん! 避けてぇ! 降ってきます(・・・・・・)!」

 ハジメは、おそらくシアの固有魔法が発動したのだろうと推測する。そして、それはシアにとって死に繋がるほど危険性の高い何かが起こるということを示している。チラリと少し離れたところにいるユエを確認した後、ハジメは、何が起こっても対応できるように身構えた。

 その直後、それは起こった。

 空間全体が鳴動する。低い地鳴りのような音が響き、天井からパラパラと破片が落ちくる。いや、破片だけではない。天井そのものが落下しようとしているのだ。

「っ!? こいつぁ!」
「ふふふ、お返しだよぉ。騎士以外は同時に複数を操作することは出来ないけど、ただ一斉に“落とす”だけなら数百単位でいけるからねぇ~、見事凌いで見せてねぇ~」

 のんきなミレディの言葉に苛立つが、そんな事に気を取られている余裕はない。この空間の壁には幾つものブロックが敷き詰められているのだが、天井に敷き詰められた数多のブロックが全て落下しようとしているのだ。一つ一つのブロックが、軽く十トン以上ありそうな巨石である。そんなものが豪雨の如く降ってくるのだ。ハジメの額に冷たい汗が流れる。

「ハ、ハジメさん!」
「ユエと合流するぞ!」

 動揺に震える声を出すシアを抱えて、アンカーによる振り子を利用しつつ、ユエのいる方向へ飛び降りる。ユエもこちらに合流しようと浮遊ブロックを足場に跳躍して来た。ミレディ・ゴーレムは、その間もずっと天井を見つめたままだ。おそらく、彼女の言葉通り、ゴーレム騎士以外の操作は一つ二つが限度なのだろう。落とすだけとは言え、数百単位の巨石を天井から外すのには集中がいるようだ。

 何とか、ハジメ達が合流するのと天から巨石群が降り注ぐのは同時だった。

ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!! ゴバッ!!

 天井からブロックが外れ、地響きがなり止む代わりに轟音を立てながら自由落下する巨石郡。しかもご丁寧に、ある程度軌道を調整するくらいは出来るのか、ハジメ達のいる場所に特に密集して落ちてくる。ミレディ・ゴーレムも心中するつもりはないだろうから、彼女のもとへ行けば安全かと視線を巡らせるが、ちょうど猛スピードで壁際に退避して行くところだった。今から追ったのでは間に合わない。

「ユエ! シア! 掴まってろ! 絶対に離すなよ!」
「んっ」
「はいですぅ!」

 ハジメは、ユエとシアにそう言うやいなや、“宝物庫”から再びオルカンを取り出す。そして落ちくる巨石に対して十二発のロケット弾を全弾連射した。火花の尾を引きながら頭上の死を吹き飛ばさんと突撃したロケット弾は次々と大爆発を起こすと巨石を粉砕していく。

 視界のすべてを覆い、天井が見えなくなるほど密集していた巨石郡が、オルカンの攻撃により僅かに綻びを見せた。僅かな隙間から天井が見えている。ハジメは、オルカンを仕舞い、代わりにドンナー・シュラークを抜くと天に掲げて連射した。僅かな生存の道を押し広げるように、計算された精密射撃が砕かれた巨石の破片を更に砕きつつ連鎖的に退けていく。

 しかし、ハジメの迎撃もそこまでだった。遂に、豪速を以て落下してきた巨石郡がハジメ達に到達する。ハジメは、左右のユエとシアがきっちり自分に掴まっているのを確認すると固有魔法を発動した。“瞬光”だ。ハジメの世界が一気に色あせ、落ちくる死の欠片の一つ一つを明確に認識できるようになる。

 巨石の欠片という弾幕を針の穴を通すように最小限の動きで躱していく。同時に、手元に転送した弾丸をガンスピンさせて装填し、避けきれないものは一点集中撃ちをして軌道を逸らす。コンマ一秒も無駄にはできない。かつてオルクス大迷宮のガーディアンと戦い、初めて“瞬光”に目覚めた時のようなレベルの知覚能力の拡大では、まだ足りない。極限を超えた集中力が必要だ!

 ハジメは更に、固有魔法を発動する。“限界突破”だ。ハジメの体を一瞬、紅い光が包み込む。が、直ぐに霧散する。本来ならハジメの身体能力を三倍に跳ね上げてくれる固有魔法は迷宮の魔力分解作用により無効化された。それは、“限界突破”とは、言ってみれば魔力による強化外骨格を身に纏うのと似ているからだ。通常の強化外骨格と異なるのは身の内も強化される点である。つまり、身体強化はキャンセルされても、知覚能力の拡大はキャンセルされずに有効ということだ。

 もっとも、唯でさえ“限界”を“突破”しているのだ。体に掛かる負担は並ではない。まして、ハジメは既に極限まで“瞬光”により知覚能力を強化している。魔物の血肉を取り込んだ強靭な肉体がなければとっくに体が壊れているところだ。実際、耐えられていても、ハジメの眼球には毛細血管が浮かび上がり、僅かに鼻血が流れ出してきている。

 ユエとシアをしがみつかせながらフラフラと揺れるような動きで、降り注ぐ死を紙一重で回避するハジメ。砕かれ激しく揺れる足場の上で神業的なバランスを取りながら、時には落下してくる破片自体も足場にしていく。思考はどんどん研ぎ澄まされ、今や落ちてくる岩についた傷の一つ一つまで知覚できる。極限すら超えた、人間には不可能と思える領域の集中が死中に活路を見出す!

 そんなハジメ達の様子を壁際で観察していたミレディの目には、ハジメ達が一瞬で巨石郡に飲み込まれたように見えた。悪あがきをしていたようだが、流石にあの大質量は凌ぎきれなかったかと、僅かな落胆と共に巨石郡にかけていた“落下”を解いた。

 巨石群の落下に呑み込まれ地に落ちていた浮遊ブロックが天上の残骸と共に空間全体に散開するように浮かび上がる。

「う~ん、やっぱり、無理だったかなぁ~、でもこれくらいは何とかできないと、あのクソ野郎共には勝てないしねぇ~」

 ミレディは、そう呟きながらハジメ達の死体を探す。と、その時、

「そのクソ野郎共には興味ないって言っただろうが」
「えっ?」

 聞き覚えのある声が響いた。不遜でマイペース、見たこともないアーティファクトを操る白髪眼帯の少年、そう、ハジメの声だ。驚愕と僅かな喜色を滲ませた声を上げて背後を振り返るミレディ。

 そこには、確かに、荒い息を吐き、目や鼻から血を流してはいるものの五体満足のハジメが浮遊ブロックの上に立ってミレディを睥睨していた。

「ど、どうやって……」

 自分の目には確かに巨石郡に呑まれたように見えたハジメが、目の前にいることに思わず疑問の声を上げるミレディ。そんな彼女に、ハジメは、ニィと口の端を釣り上げて笑う。

「答えてやってもいいが……俺ばかり見ていていいのか?」
「えっ?」

 先程と同じ口調で疑問の声を上げるミレディ。だが、その疑問は、直後、魔法の直撃という形で解消された。

「“破断”!」

 ユエの凛とした詠唱が響き渡り、幾筋もの水のレーザーがミレディ・ゴーレムの背後から背中や足、頭部、肩口に殺到する。着弾したウォーターカッターは各部位の表面装甲を切り裂いた。

「こんなの何度やっても一緒だよぉ~、両腕再構成するついでに直しちゃうしぃ~」
「いや、そんな暇は与えない」

 振り向きもせず余裕の雰囲気でユエの魔法を受けきったミレディ・ゴーレムに、ハジメがアンカーを打ち込みながら一気に接近する。片手にはシュラーゲンを持っている。

「あはは、またそれ? それじゃあ、私のアザンチウム製の装甲は砕けないよぉ~」

 ミレディはやはり余裕の態度だ。ハジメに取り付かれ、胸部にシュラーゲンを突きつけられても撃ちたきゃ撃てば? と言わんばかりだ。周囲の浮遊ブロックで妨害しようともしない。それも当然といえば当然だろう。何せ、ハジメの武器がミレディ・ゴーレムの装甲に歯が立たないことは実証済みである。その為、ミレディは、この段階で代わり映えしない攻撃手段を選んだということから、万策尽きて悪足掻きをしていると判断した。

 だが、その余裕が命取りだ。

「知っている!」

 ハジメの言葉と共にシュラーゲンからスパークが走り、電磁加速されたフルメタルジャケットモドキがミレディ・ゴーレムの胸部をゼロ距離から吹き飛ばす。轟音と衝撃にミレディ・ゴーレムが弾かれ吹き飛ぶ。

 だが、ハジメは前回のように離脱したりはしなかった。アンカーを巻き上げると、そのまましがみつき、義手を砕けたミレディ・ゴーレムの胸部に押し当て、内蔵されているショットシェルの残弾が尽きるまで撃ち尽くす。激しい衝撃が更にミレディ・ゴーレムを吹き飛ばし、背後に浮いていた浮遊ブロックの上に叩きつけた。

「こ、こんなことしても結局は……」
「ユエ!」

 ミレディの言葉を無視して、ハジメがユエの名を呼ぶ。すると、跳躍してきたユエが更に魔法を発動した。

「凍って! “凍柩”!」

 願いと共に本来は氷の柩に対象を閉じ込める魔法のトリガーが引かれる。しかし、氷系統の魔法は、水系統の魔法の上級魔法だ。この領域では中級以上は使えないはずである。それでも、ミレディ・ゴーレムを一時的に拘束するためにどうしてもこの魔法が必要だった。

 背中から天井ブロックに叩きつけられていたミレディ・ゴーレムの背面が一瞬で凍りつき、浮遊ブロックに固定される。

「なっ!? 何で上級魔法が!?」

 驚愕の声を上げるミレディ。ユエが上級魔法である氷系統の魔法を使えたのは単純な話だ。“破断”と同じく、元となる水を用意して消費魔力量を減らしただけである。あらかじめ、ミレディ・ゴーレムを叩きつけるブロックを決めておき水を撒いておく。そして、隙をついてミレディ・ゴーレム自身の背面にも水を撒いておく。最初の“破断”はそれが目的だ。

 それでも、莫大な魔力が消費され、ユエが所持している魔晶石の全てから魔力のストックを取り出す羽目になった。ユエは肩で息をしながら近場の浮遊ブロックに退避する。

「よくやったぞ、ユエ!」

 体を固定されたミレディ・ゴーレムの胸部に立ち、ハジメは“宝物庫”から切り札を取り出す。虚空に現れたそれは全長二メートル半程の縦長の大筒だった。外部には幾つものゴツゴツした機械が取り付けられており、中には直径二十センチはある漆黒の杭が装填されている。下方は四本の頑丈そうなアームがつけられており、中程に空いている機構にハジメが義手をはめ込むと連動して動き出した。

 ハジメはそのまま、直下の身動きが取れないミレディ・ゴーレムをアームで挟み込み、更に筒の外部に取り付けられたアンカーを射出した。合計六本のアームは周囲の地面に深々と突き刺さると大筒をしっかりと固定する。同時に、ハジメが魔力を注ぎ込んだ。すると、大筒が紅いスパークを放ち、中に装填されている漆黒の杭が猛烈と回転を始める。

キィイイイイイ!!!

 高速回転が奏でる旋律が響き渡る。ニヤァと笑ったハジメの表情に、ゴーレムでなければ確実に表情を引き攣らせているであろうミレディ。凶悪なフォルムのそれは、義手の外付け兵器“パイルバンカー”である。“圧縮錬成”により、四トン分の質量を直径二十センチ長さ一・二メートルの杭に圧縮し、表面をアザンチウム鉱石でコーティングした。世界最高重量かつ硬度の杭。それを大筒の上方に設置した大量の圧縮燃焼粉と電磁加速で射出する。

「存分に食らって逝け」

 そんな言葉と共に、吸血鬼に白木の杭を打ち込むがごとく、ミレディ・ゴーレムの核に漆黒の杭が打ち放たれた。

ゴォガガガン!!!

 凄まじい衝撃音と共にパイルバンカーが作動し、漆黒の杭がミレディ・ゴーレムの絶対防壁に突き立つ。胸部のアザンチウム装甲は、一瞬でヒビが入り、杭はその先端を容赦なく埋めていく。あまりの衝撃に、ミレディ・ゴーレムの巨体が浮遊ブロックを放射状にヒビ割りながら沈み込んだ。浮遊ブロック自体も一気に高度を下げる。ミレディ・ゴーレムは、高速回転による摩擦により胸部から白煙を吹き上げていた。

……しかし、ミレディ・ゴーレムの目から光は消えなかった。

「ハ、ハハ。どうやら未だ威力が足りなかったようだねぇ。だけど、まぁ大したものだよぉ?四分の三くらいは貫けたんじゃないかなぁ?」

 若干、かたい声で、それでも余裕を装うミレディ。内心は冷や汗を掻いている。必殺のパイルバンカーではあったが、電磁加速が足りず本来の威力は発揮できなかった。それ故に惜しいところで貫通には至らなかったのだ。

 だが、ハジメの目に諦めの色は皆無だった。まるで、そんなことは想定済みと言わんばかりに。

「やれ! シア!」

 ハジメは、“宝物庫”に杭以外のパイルバンカーをしまうと、ミレディ・ゴーレムの胸部から勢いよく飛び退いた。

 代わりに現れたのは、ウサミミをなびかせ、ドリュッケンを大上段に構えたまま、遥か上空から自由落下に任せて舞い降りるシアだった。

「ッ!?」

 シアが何をしようとしているのか察したのだろう。今度こそ、焦ったようにその場から退避しようとするミレディ・ゴーレム。自分が固定されている浮遊ブロックを移動させようとするが猛スピードで落下してくるシアに間に合わないと悟り……諦めたように動きを止めた。

 シアは、そのままショットシェルを激発させ、その衝撃も利用して渾身の一撃を杭に打ち下ろした。

ドゴォオオ!!!

 轟音と共に杭が更に沈み込む。だが、まだ貫通には至らない。シアは、内蔵されたショットシェルの残弾全てを撃ち尽くすつもりで、引き金を引き続ける。

ドゴンッ! ドゴンッ! ドゴンッ! ドゴンッ! ドゴンッ! ドゴンッ!

「あぁあああああ!!」

 シアの絶叫が響き渡る。これで決めて見せると強烈な意志を全て相棒たる大槌に注ぎ込む。全身全霊、全力全開。衝撃と共に浮遊ブロックが凄まじい勢いで高度を下げていく。

 そして、轟音と共に浮遊ブロックが地面に激突した。その衝撃で遂に漆黒の杭がアザンチウム製の絶対防御を貫き、ミレディ・ゴーレムの核に到達する。先端が僅かにめり込み、ビシッという音を響かせながら核に亀裂が入った。

 地面への激突の瞬間、シアはドリュッケンを起点に倒立すると、くるりと宙返りをする。そして、身体強化の全てを脚力に注ぎ込み、遠心力をたっぷりと乗せた蹴りをダメ押しとばかりに杭に叩き込んだ。

 シアの蹴りを受けて更にめり込んだ杭は、核の亀裂を押し広げ……遂に完全に粉砕した。

 ミレディ・ゴーレムの目から光が消える。シアはそれを確認すると漸く全身から力を抜き安堵の溜息を吐いた。直後、背後から着地音が聞こえ振り向くシア。そこには予想通りハジメとユエがいた。シアは、二人に向けて満面の笑みでサムズアップする。ハジメとユエは、それに応えるように笑みを浮かべながらサムズアップを返した。

 七大迷宮が一つ、ライセン大迷宮の最後の試練が確かに攻略された瞬間だった。


挿絵(By みてみん)
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