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ありふれた職業で世界最強 作者:厨二好き/白米良

第二章

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ミレディ・ライセンェ 後編



 ゴーレム騎士達の動きは、その巨体に似合わず俊敏だった。ガシャンガシャンと騒音を立てながら急速に迫るその姿は、装備している武器や眼光と合間って凄まじい迫力である。まるで四方八方から壁が迫って来たと錯覚すらしそうだ。

 そんな、ゴーレム騎士達に向けて先手を取ったのはハジメだ。左右の手に握り締めた二丁のレールガンが、普段の半分以下の威力しか出せないとは言え、対物ライフルの数倍の威力を以てゴーレム騎士達に撃ち放たれた。

ドパン! ドパン!

 二条の閃光が狙い違わず二体のゴーレム騎士の頭部、正確には目の部分を撃ち抜く。衝撃で頭部が仰け反り後方へ倒れる騎士達。それを軽やかに飛び越えて後続の騎士達がハジメ達へと迫る。ハジメは、再度連続して発砲し、致命的な包囲をされまいと隊列を乱していく。

 そんなハジメの嵐のような銃撃を盾と大剣と仲間の体で凌ぎながら、遂にハジメ達の目前へと迫った数体の騎士。

 だがそこは、青みがかった白髪をなびかせ、超重量の大槌を大上段に構えたまま飛び上がっていたシア・ハウリアのキルゾーンだ。限界まで強化したその身体能力を以て遠慮容赦の一切を排した問答無用の一撃を繰り出す。

「でぇやぁああ!!」

ドォガアアア!!

 気合一発。打ち下ろされた大槌ドリュッケンは、凄まじい衝撃音を響かせながら一体のゴーレム騎士をペシャンコに押しつぶした。一応、騎士も頭上に盾を構えていたのだが、その防御ごと押しつぶされたのだ。

 地面にまで亀裂を生じさせめり込んでいるドリュッケン。渾身の一撃を放ち、死に体となっていると判断したのか、盾を構えて衝撃に耐えていた傍らの騎士が大きく大剣を振りかぶりシアを両断せんと踏み込む。

 シアはそれをしっかり横目で確認していた。柄を捻り、ドリュッケンの頭の角度を調整すると、柄に付いているトリガーを引く。

ドガンッ!!

 そんな破裂音を響かせながら地面にめり込んでいたドリュッケンが跳ね上がった。シアの脇を排莢されたショットシェルが舞う。跳ね上がったドリュッケンの勢いを殺さず、シアはその場で一回転すると遠心力をたっぷり乗せた一撃を、今まさに大剣を振り下ろそうとしている騎士の脇腹部分に叩きつけた。

「りゃぁあ!!」

 そのまま気迫を込めて一気に振り抜く。直撃を受けた騎士は、体をくの字に折り曲げて、まるで高速で突っ込んできたトラックに轢かれたかのようにぶっ飛んでいき、後ろから迫って来ていた騎士達を盛大に巻き込んで地面に叩きつけられた。騎士の胴体は、原型を止めないほどひしゃげており身動きが取れなくなっているようだ。

ヒュンヒュン

 そんな風切り音がシアのウサミミに入る。チラリと上空を見ると、先程のゴーレム騎士が振り上げていた大剣が、シアに吹き飛ばされた際に手放なされたようで上空から回転しながら落下してくるところだった。シアは、落ちてきた大剣を跳躍しながら掴み取ると、そのまま全力で、迫り来るゴーレム騎士に投げつけた。

 大剣は豪速で飛翔し、ゴーレム騎士が構えた盾に衝突して大きく弾く。シアは、その隙を逃さず踏み込み、下段からカチ上げるようにドリュッケンを振るった。腹部に衝撃を受けた騎士の巨体が宙に浮く。苦し紛れに大剣を振るうが、シアはカチ上げたドリュッケンの勢いを利用してくるりと回転し、大剣をかわしながら再度、今度は浅い角度で未だ宙に浮く騎士にドリュッケンを叩きつけた。

 先のゴーレム騎士と同様、砲弾と化してぶっ飛んだゴーレム騎士は後続の騎士達を巻き込みひしゃげた巨体を地面に横たわらせた。

 シアの口元に笑みが浮かぶ。戦いに快楽を覚えたからではない。自分がきちんと戦えていることに喜びを覚えているのだ。自分はちゃんとハジメ達の旅に付いて行けるのだと実感しているのだ。その瞬間、ほんの少しだけ気が抜ける。

 戦場で、その緩みは致命的だった。気がつけば視界いっぱいに騎士の盾が迫っていた。何と、ゴーレム騎士の一体が自分の盾をシアに向かって投げつけたのである。流石ゴーレムというべきか。途轍もない勢いで飛ばされたそれは、身体強化中のシアにとって致命傷になるようなものではないが、脳震盪くらいは確実に起こす威力だ。そうなれば、一気に畳み込まれるだろうことは容易に想像できる。

 しまった! と思う余裕もない。せめて襲い来るであろう衝撃に耐えるべく覚悟を決める。と、盾がシアに衝突する寸前でレーザーの如き水流が飛来し盾に衝突。その軌道を捻じ曲げた。盾はシアの頭部のすぐ脇を通過し、背後のゴーレム騎士に激突して転倒させる。

「……油断大敵。お仕置き三倍」
「ふぇ!? 今のユエさんが? す、すみません、ありがとうございます! ってお仕置き三倍!?」
「ん……気を抜いちゃダメ」
「うっ、はい! 頑張りますぅ!」

 ユエに「メッ!」という感じで叱られてしまい、自分が少し浮かれて油断してしまったことを自覚するシア。反省しながら気を引き締めなおす。改めて、迫って来たゴーレム騎士を倒そうとして、後方から飛んできた細いレーザーのような水流が、密かにシアの背後を取ろうとしていたゴーレム騎士をスッパリと両断したのを確認した。

 ユエが、自分の背中を守ってくれていると理解し心の内が温かくなるシア。師匠の前で無様は見せられないと、より一層気合を入れた。

 その後も、暴れるシアの死角に回ろうとする騎士がいれば同じように水流が飛び、その辺の刃物よりよほど鋭利に切断していく。ユエが行使しているのは水系の中級魔法“破断”である。空気中の水分を超圧縮して撃ち放つウォーターカッターだ。

 ユエは両手に金属で出来た大型の水筒を持っていた。肩紐で更に二つ同じ水筒を下げている。これらは、ハジメの“宝物庫”から取り出してもらった物だ。ユエが、その水筒をかざして魔法名を呟く度にウォーターカッターが水筒より飛び出し敵を切り裂いていく。

 ユエは、魔法で空気中の水分を集めるよりも、最初からある水分を圧縮してやる方が魔力消費が少なくて済むと考えたのだ、また、照準は水筒の出口を向けることで付けており、飛び出たウォーターカッター自体は魔力を含まないものなので分解作用により消されることもない。

 シアの爆発的な近接攻撃力と、その死角を補うように放たれるユエの水刃。騎士達は、二人のコンビネーションを破ることができず、いいように翻弄されながら次々と駆逐されていった。

 そんな素晴らしい連携を披露するユエとシアを横目にハジメが苦笑いを浮かべる。

「おいおい、やけるじゃねぇの。いいとこ見せとかないと愛想尽かされちまうかな?」

 そんな冗談を独りごちながら、ドンナー・シュラークを縦横無尽に振い近接戦闘(・・・・)を繰り広げるハジメ。

 騎士の振り下ろした大剣をシュラークの銃身で受け流し、右手のドンナーを兜に突き付けてゼロ距離射撃する。弾け飛ぶ騎士には目もくれず、受け流した後のシュラークで、そのまま振り向かずに背後の騎士を撃ち抜き、横凪に振るわれた大剣を一回転しながらしゃがみつつ躱し、腕を交差させて両サイドの騎士達を撃ち抜く。

 “纏雷”を使わず放たれた弾丸が、騎士の盾に跳弾して隣の騎士の膝関節を撃ち抜きバランスを崩させ、その上を側宙しながら飛び越えつつ反転した視界の中で頭上の騎士と隣の騎士を同時に破壊する。着地を狙って振るわれた大剣を銃撃で逸らしつつバク転でかわし、再度空中で四方に発砲して同時に四体の騎士の頭部を撃ち砕く。着地と同時に、“宝物庫”から虚空に取り出した弾丸を、ガンスピンさせながら一瞬でリロードし、再び回転しながら発砲。周囲の騎士達が放射状に吹き飛ぶ。

 そうやって、不用意に部屋そのものに傷を与えないようにしながら次々とゴーレム騎士達を屠っていった。

 だが……

「……?」

 ゴーレム騎士達の襲撃をかわし反撃しながら、ハジメは訝しそうに眉を寄せた。というのも、先程から相当な数のゴーレム騎士を破壊しているはずなのだが、迫り来る彼等の密度が全く変わらないのだ。

 その疑問は、ユエとシアも感じたらしい。そして、よくよく戦場を観察してみれば、最初に倒したゴーレム騎士の姿が何処にもない事に気がついた。

「……再生した?」
「みたいだな」
「そんな!? キリがないですよぉ!」

 そう、ゴーレム騎士達は破壊された後も眼光と同じ光を一瞬全身に宿すと瞬く間に再生して再び戦列に加わっていたのである。

 シアが、迫り来るゴーレム騎士達を薙ぎ払いながら狼狽えた声を出した。どれだけ倒しても意味がないと来れば、そんな声も出したくなるだろう。だが、それに反してハジメとユエは冷静なまま、特に焦った様子もなく思考を巡らしながらゴーレム騎士達を蹴散らしている。この辺りは経験の差というやつだろう。この程度の逆境、奈落の底では何度も味わったものだ。むしろ、あの頃より遥かに強くなった今は余裕すらある。

「……ハジメ、ゴーレムなら核があるはず」

 ユエの言う通り、ゴーレムは体内に核を持っているのが通常であり、その核が動力源となる。核は魔物の魔石を加工して作られている。オスカーのお掃除ゴーレムの設計書にもそう記されてあった。ユエは、その核を壊そうと言っているのだ。

 だが、そのユエの提案にハジメは渋い表情をした。

「それがな、こいつら核を持っていやがらねぇんだよ」
「……確か?」
「ああ、魔眼石でも確認しているが、そんな反応はない。ゴーレム自体から微量の魔力は感知できるんだがな……」
「け、結局どうするんですかぁ! このままじゃジリ貧ですよぉ!」

 シアがいよいよ焦った声を上げる。ハジメは、シアの叫びをスルーして、“鉱物系鑑定”を使う。核という動力なくして作動するゴーレムは、もしかしたら特殊な鉱石で作られているのでは? と考えたからだ。

 その考えは正解だった。

==================================
感応石
魔力を定着させる性質を持つ鉱石。同質の魔力が定着した二つ以上の感応石は、一方の鉱石に触れていることで、もう一方の鉱石及び定着魔力を遠隔操作することができる。
================================== 

 この感応石で作られたゴーレム騎士達は、何者かによって遠隔操作をされているということだろう。ハジメ達が再生だと思っていたのも、鉱石を直接操って形を整えたり、足りない部分を継ぎ足したりしているだけのようだ。再生というより再構築といった感じだろう。
よく見れば、床にも感応石が所々に使われており、まるで削り出したようにかけている部分が見られる。ゴーレムのかけた部分の補充に使われたに違いない。操っている者を直接叩かないと本当にキリがないようだ。

「ユエ、シア。こいつらを操っている奴がいる。マジでキリがないから、強行突破するぞ!」
「んっ」
「と、突破ですか? 了解ですっ!」

 ハジメの合図と共に、ユエとシアが一気に踵を返し祭壇へ向かって突進する。ハジメがドンナー・シュラークを連射して進行方向の騎士達を蹴散らし隊列に隙間をあけつつ、後方から迫ってきているゴーレム騎士達に向かって手榴弾を二個投げ込んだ。背後で大爆発が起こり、衝撃波と爆風でゴーレム騎士達が次々と転倒していく。

 シアが、ハジメの空けた前方の隙間に飛び込みドリュッケンを体ごと大回転させて周囲のゴーレム騎士達を薙ぎ払った。技後硬直するシアに盾や大剣を投げつけようとするゴーレム騎士達にユエの“破断”が飛来し切り裂いていく。

 ハジメは殿を勤めながら後方から迫るゴーレム騎士達にレールガンを連射した。その隙に一気に包囲網を突破したシアが祭壇の前に陣取る。続いてユエが、祭壇を飛び越えて扉の前に到着した。

「ユエさん! 扉は!?」
「ん……やっぱり封印されてる」
「あぅ、やっぱりですかっ!」

 見るからに怪しい祭壇と扉なのだ。封印は想定内。だからこそ、最初は面倒な殲滅戦を選択したのだ。扉の封印を落ち着いて解くために。シアは、案の定の結果に文句を垂れつつも、階段を上ってきた騎士を弾き飛ばす。

「封印の解除はユエに任せる。錬成で突破するのは時間がかかりそうだ」

 殿を勤めていたハジメがシアの隣に並び立った。ハジメの言う通り、錬成で強引に扉を突破することは、もしかすると可能かもしれないが、この領域では途轍もない魔力を消費して、多大な時間がかかることだろう。それなら、せっかく如何にもな祭壇と黄色の水晶なんて物が置かれているのだから、正規の手順で封印を破る方がきっと早い。ハジメはそう判断して、戦闘では燃費の悪いユエに封印の解除役を任せる。

「ん……任せて」

 ユエは、二つ返事で了承し祭壇に置かれている黄色の水晶を手に取った。その水晶は、正双四角錐をしており、よくみれば幾つもの小さな立体ブロックが組み合わさって出来ているようだ。

 ユエは、背後の扉を振り返る。其処には三つの窪みがあった。ユエは、少し考える素振りを見せると、正双四角錐を分解し始めた。分解し、各ブロックを組み立て直すことで、扉の窪みにハマる新たな立方体を作ろうと考えたのだ。

 分解しながら、ユエは、扉の窪みを観察する。そして、よく観察しなければ見つからないくらい薄く文字が彫ってあることに気がついた。それは……

“とっけるかなぁ~、とっけるかなぁ~”
“早くしないと死んじゃうよぉ~”
“まぁ、解けなくても仕方ないよぉ! 私と違って君は凡人なんだから!”
“大丈夫! 頭が悪くても生きて……いけないねぇ! ざんねぇ~ん! プギャアー!”

 何時ものウザイ文だった。めちゃくちゃイラっとするユエ。いつも以上に無表情となり、扉を殴りつけたい衝動を堪えながらパズルの解読に集中する。

 何となく、背後から怒気が溢れているのを感じながら、ハジメとシアは、触らぬ神に祟りなしと前方の群れるゴーレム騎士達の排除に集中した。

「ハジメさ~ん。さっきみたいにドパッと殺っちゃってくださいよぉ~」

 台所の黒いアイツの如く、しぶとくわらわら集まってくるゴーレム騎士達に辟易しながら、シアがハジメに、手榴弾の使用を請う。

「あほう。あれはちゃんとトラップが確実にない場所を狙って投げたんだ。階段付近は、何が起こるか分からないだろうが」
「こんなにゴーレムが踏み荒らしているんですし今更では?」
「いや、ミレディ・ライセンのことだ。ゴーレムにだけ反応しない仕掛けとかありそうじゃないか?」
「うっ、否定できません……」

 ある意味、雑談かわしながらゴーレム騎士達を弾き飛ばしていくハジメとシア。最初は、際限の無さに焦りを浮かべていたシアもハジメ達が余裕を失わず冷静である様子を見て、落ち着きを取り戻したようだ。

「でも、ちょっと嬉しいです」
「あぁ?」

 また一体、ゴーレム騎士を叩き潰し蹴り飛ばしながら、シアがポツリとこぼした。

「ほんの少し前まで、逃げる事しか出来なかった私が、こうしてハジメさんと肩を並べて戦えていることが……とても嬉しいです」
「……ホント物好きなやつだな」
「えへへ、私、この迷宮を攻略したらハジメさんといちゃいちゃするんだ! ですぅ」
「おい、こら。何脈絡なく、あからさまな死亡フラグ立ててんだよ。悲劇のヒロイン役は、お前には荷が重いから止めとけ。それと、ネタを知っている事についてはつっこまないからな?」
「それは、『絶対に死なせないぜマイハニー☆』という意味ですね? ハジメさんったら、もうっ!」
「意訳し過ぎだろ! 最近、お前のポジティブ思考が若干怖いんだが……下手な発言できねぇな……」

 そんな雑談をしながら騎士達を退け続けて数分。ある意味、イチャついていると見えなくもない二人の間に、ぬぅ~と影が現れた。ユエだ。

「……いちゃいちゃ禁止」
「いや、してねぇから」
「ぬふふ、そう見えました? 照れますねぇ~」
「お前もう黙ってろよ……」

 若干、疲れた表情でシアを横目に見るハジメに、ユエは少し不機嫌そうな眼差しを向ける。しかし、そんな状況でもないと思い直し、今度は少し得意気に任務達成を伝えた。

「……開いた」
「早かったな、流石ユエ。シア、下がれ!」
「はいっ!」

 ハジメが、チラリと後ろを振り返ると、ユエの言った通り封印が解かれて扉が開いているのが確認できた。奥は特になにもない部屋になっているようだ。ハジメは、シアに撤退を呼びかけ、自らも奥の部屋に向かって後退する。封印の扉を閉めればゴーレム騎士達の襲撃も阻めるだろう。最初にユエが、続いてシアが扉の向こうへ飛び込み、両開きの扉の両サイドを持っていつでも閉められるようにスタンバイする。

 ハジメは、置き土産にと手榴弾を数個放り投げると、自らも奥の部屋へと飛び込んだ。ゴーレム騎士達が逃がすものかと殺到するが、手榴弾が爆発し強烈な衝撃を撒き散らす。バランスを崩したたらを踏むゴーレム騎士達。その隙に、ユエとシアが扉を閉めた。

 部屋の中は、遠目に確認した通り何もない四角い部屋だった。てっきり、ミレディ・ライセンの部屋とまではいかなくとも、何かしらの手掛かりがあるのでは? と考えていたので少し拍子抜けする。

「これは、あれか? これみよがしに封印しておいて、実は何もありませんでしたっていうオチか?」
「……ありえる」
「うぅ、ミレディめぇ。何処までもバカにしてぇ!」

 三人が、一番あり得る可能性にガックリしていると、突如、もううんざりする程聞いているあの音が響き渡った。

ガコン!

「「「!?」」」

 仕掛けが作動する音と共に部屋全体がガタンッと揺れ動いた。そして、ハジメ達の体に横向きのGがかかる。

「っ!? 何だ!? この部屋自体が移動してるのか!?」
「……そうみたッ!?」
「うきゃ!?」

 ハジメが推測を口にすると同時に、今度は真上からGがかる。急激な変化に、ユエが舌を噛んだのか涙目で口を抑えてぷるぷるしている。シアは、転倒してカエルのようなポーズで這いつくばっている。

 部屋は、その後も何度か方向を変えて移動しているようで、約四十秒程してから慣性の法則を完全に無視するようにピタリと止まった。ハジメは途中からスパイクを地面に立てて体を固定していたので急停止による衝撃にも耐えたが、シアは耐えられずゴロゴロと転がり部屋の壁に後頭部を強打した。方向転換する度に、あっちへゴロゴロ、そっちへゴロゴロと悲鳴を上げながら転がり続けていたので顔色が悪い。相当酔ったようだ。後頭部の激痛と酔で完全にダウンしている。ちなみに、ユエは、最初の方でハジメの体に抱きついていたので問題ない。

「ふぅ~、漸く止まったか……ユエ、大丈夫か?」
「……ん、平気」

 ハジメはスパイクを解除して立ち上がった。周囲を観察するが特に変化はない。先ほどの移動を考えると、入ってきた時の扉を開ければ別の場所ということだろう。

「ハ、ハジメさん。私に掛ける言葉はないので?」

 青い顔で口元を抑えているシアが、ジト目でハジメを見る。ユエだけに声を掛けたのがお気に召さなかったらしい。

「いや、今のお前に声かけたら弾みでリバースしそうだしな……ゲロ吐きウサギという新たな称号はいらないだろ?」
「当たり前です! それでも、声をかけて欲しいというのが乙女ごこっうっぷ」
「ほれみろ、いいから少し休んでろ」
「うぅ。うっぷ」

 今にも吐きそうな様子で四つん這い状態のシアを放置して、ハジメとユエは周囲を確認していく。そして、やっぱり何もないようなので扉へと向かった。

「さて、何が出るかな?」
「……操ってたヤツ?」
「その可能性もあるな。ミレディは死んでいるはずだし……一体誰が、あのゴーレム騎士を動かしていたんだか」
「……何が出ても大丈夫。ハジメは私が守る……次いでにシアも」
「聞こえてますよぉ~うっぷ」

 いつも通りの真っ直ぐなユエの言葉に頬を緩めるハジメ。優しい手付きで、そっとユエの柔らかな髪を撫でる。ユエも甘えるように寄り添い気持ちよさそうに目を細めた。

「……前から言おうと思っていたのですが、唐突に二人の世界作るのやめてもらえませんか? 何ていうか、疎外感が半端ない上に物凄く寂しい気持ちになるんです、うっぷ」

 吐き気を堪えながら、仲間はずれは嫌! と四つん這いのまま這いずってくるシア。

「……前から言おうと思っていたんだが、時々出る、お前のそのホラーチックな動きやめてもらえないか? 何ていうか、背筋が寒くなる上に夢に出てきそうなんだ」
「な、何たる言い様。少しでも傍に行きたいという乙女心を何だと、うぷ。私もユエさんみたいにナデナデされたいですぅ。抱きしめてナデナデして下さい! うぇ、うっぷ」
「今にも吐きそうな顔で、そんなこと言われてもな……しかもさり気なく要求が追加さてるし」
「……シアにハジメの撫ではまだまだ早い」

 シアが根性でハジメ達の傍までやって来て、期待した目と青白い顔でハジメを見上げる。ハジメはそっと、視線を逸らして扉へと向き直った。背後で「そんなっ! うぇっぷ」という声が聞こえるがスルーする。

 扉の先は、ミレディの住処か、ゴーレム操者か、あるいは別の罠か……ハジメは「何でも来い」と不敵な笑みを浮かべて扉を開いた。

 そこには……

「……何か見覚えないか? この部屋。」
「……物凄くある。特にあの石版」

 扉を開けた先は、別の部屋に繋がっていた。その部屋は中央に石版が立っており左側に通路がある。見覚えがあるはずだ。なぜなら、その部屋は、

「最初の部屋……みたいですね?」

 シアが、思っていても口に出したくなかった事を言ってしまう。だが、確かに、シアの言う通り一番最初に入ったウザイ文が彫り込まれた石版のある部屋だった。よく似た部屋ではない。それは、扉を開いて数秒後に元の部屋の床に浮き出た文字が証明していた。

“ねぇ、今、どんな気持ち?”
“苦労して進んだのに、行き着いた先がスタート地点と知った時って、どんな気持ち?”
“ねぇ、ねぇ、どんな気持ち? どんな気持ちなの? ねぇ、ねぇ”

「「「……」」」

 ハジメ達の顔から表情がストンと抜け落ちる。能面という言葉がピッタリと当てはまる表情だ。三人とも、微動だにせず無言で文字を見つめている。すると、更に文字が浮き出始めた。

“あっ、言い忘れてたけど、この迷宮は一定時間ごとに変化します”
“いつでも、新鮮な気持ちで迷宮を楽しんでもらおうというミレディちゃんの心遣いです”
“嬉しい? 嬉しいよね? お礼なんていいよぉ! 好きでやってるだけだからぁ!”
“ちなみに、常に変化するのでマッピングは無駄です”
“ひょっとして作ちゃった? 苦労しちゃった? 残念! プギャァー”

「は、ははは」
「フフフフ」
「フヒ、フヒヒヒ」

 三者三様の壊れた笑い声が辺りに響く。その後、迷宮全体に届けと言わんばかりの絶叫が響き渡ったのは言うまでもない。最初の通路を抜けて、ミレディの言葉通り、前に見たのとは大幅に変わった階段や回廊の位置、構造に更に怨嗟の声を上げたのも言うまでもないことだ。

 何とか精神を立て直し、再び迷宮攻略に乗り出したハジメ達。しかし、やはり順風満帆とは行かず、特にシアが地味なトラップ(金たらい、トリモチ、変な匂いのする液体ぶっかけetc)の尽くにはまり、精神的にヤバくない? というほどキレッキレッになったりと、厄介な事に変わりはなかった。

 そうして、冒頭の光景に繋がるわけである。
いつも読んで下さり有難うございます
感想・意見・誤字脱字報告も有難うございます

次回は、木曜日の18時更新予定です
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