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ありふれた職業で世界最強 作者:厨二好き/白米良

第二章

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ミレディ・ライセンェ 前編



 ライセンの大迷宮は想像以上に厄介な場所だった。

 まず、魔法がまともに使えない。谷底より遥かに強力な分解作用が働いているためだ。魔法特化のユエにとっては相当負担のかかる場所である。何せ、上級以上の魔法は使用できず、中級以下でも射程が極端に短い。五メートルも効果を出せれば御の字という状況だ。何とか、瞬間的に魔力を高めれば実戦でも使えるレベルではあるが、今までのように強力な魔法で一撃とは行かなくなった。

 また、魔晶石シリーズに蓄えた魔力の減りも馬鹿にできないので、考えて使わなければならない。それだけ消費が激しいのだ。魔法に関しては天才的なユエだからこそ中級魔法が放てるのであって、大抵の者は役立たずになってしまうだろう。

 ハジメにとっても多大な影響が出ている。“空力”や“風爪”といった体の外部に魔力を形成・放出するタイプの固有魔法は全て使用不可となっており、頼みの“纏雷”もその出力が大幅に下がってしまっている。ドンナー・シュラークは、その威力が半分以下に落ちているし、シュラーゲンも通常のドンナー・シュラークの最大威力レベルしかない。

 よって、この大迷宮では身体強化が何より重要になってくる。ハジメ達の中では、まさにシアの独壇場となる領域なのだ。

 で、そのハジメ達の頼もしきウサミミはというと……

「殺ルですよぉ……絶対、住処を見つけてめちゃくちゃに荒らして殺ルですよぉ」

 大槌ドリュッケンを担ぎ、据わった目で獲物を探すように周囲を見渡していた。明らかにキレている。それはもう深く深~くキレている。言葉のイントネーションも所々おかしいことになっている。その理由は、ミレディ・ライセンの意地の悪さを考えれば容易に想像つくだろう。

 シアの気持ちはよく分かるので、何とも言えないハジメとユエ。凄まじく興奮している人が傍にいると、逆に冷静になれるということがある。ハジメとユエの現在の心理状態はまさにそんな感じだ。現在、それなりに歩みを進めてきたハジメ達だが、ここに至るまでに実に様々なトラップや例のウザイ言葉の彫刻に遭遇してきた。シアがマジギレしてなければ、ハジメとユエがキレていただろう。

 遂に、「フヒヒ」と奇怪な笑い声を発するようになったシアを横目に、ハジメはここに至るまでの悪質極まりない道程を思い返した。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 シアが、最初のウザイ石版を破壊し尽くしたあと、ハジメ達は道なりに通路を進み、とある広大な空間に出た。

 そこは、階段や通路、奥へと続く入口が何の規則性もなくごちゃごちゃにつながり合っており、まるでレゴブロックを無造作に組み合わせてできたような場所だった。一階から伸びる階段が三階の通路に繋がっているかと思えば、その三階の通路は緩やかなスロープとなって一階の通路に繋がっていたり、二階から伸びる階段の先が、何もない唯の壁だったり、本当にめちゃくちゃだった。

「こりゃまた、ある意味迷宮らしいと言えばらしい場所だな」
「……ん、迷いそう」
「ふん、流石は腹の奥底まで腐ったヤツの迷宮ですぅ。このめちゃくちゃ具合がヤツの心を表しているんですよぉ!」
「……気持ちは分かるから、そろそろ落ち着けよ」

 未だ怒り心頭のシア。それに呆れ半分同情半分の視線を向けつつ、ハジメは「さて、どう進んだものか」と思案する。

「……ハジメ。考えても仕方ない」
「ん~、まぁ、そうだな。取り敢えずマーキングとマッピングしながら進むしかないか」
「ん……」

 ユエの言葉に頷くハジメ。迷宮探索でのマッピングは基本だ。しかし、この複雑な構造の迷宮でどこまで正確に作成できるか、ハジメは思わず面倒そうだと顔をしかめた。

 なお、ハジメのいう“マーキング”とは、ハジメの“追跡”の固有魔法のことだ。この固有魔法は、自分の触れた場所に魔力で“マーキング”することで、その痕跡を追う事ができるというものだ。生物に“マーキング”した場合、ハジメにはその生物の移動した痕跡が見えるのである。今回の場合は、壁などに“マーキング”することで通った場所の目印にする。“マーキング”は可視化することもできるのでユエやシアにもわかる。魔力を直接添付しているので、分解作用も及ばず効果があるようだ。

 ハジメは早速、入口に一番近い場所にある右脇の通路に“マーキング”して進んでみることにした。

 通路は幅二メートル程で、レンガ造りの建築物のように無数のブロックが組み合わさって出来ていた。やはり壁そのものが薄ら発光しているので視界には困らない。緑光石とは異なる鉱物のようで薄青い光を放っている。

 ハジメが試しに“鉱物系鑑定”を使ってみると、“リン鉱石”と出た。どうやら空気と触れることで発光する性質をもっているようだ。最初の部屋は、おそらく何かの処置をすることで最初は発光しないようにしてあったのだろう。イメージとしてはラピュ○に出てくる飛○石の洞窟を思い浮かべればいいだろう。石の声が聞けるおじいさんがいた、あの場所である。もっとも、リン鉱石は空気に触れても発光を止めることはないようだが。

 と、ハジメが、つい日本の名作アニメを思い浮かべながら長い通路を進んでいると、突然、

ガコンッ

 という音を響かせてハジメの足が床のブロックの一つを踏み抜いた。そのブロックだけハジメの体重により沈んでいる。ハジメ達が思わず「えっ?」と一斉にその足元を見た。

 その瞬間、

シャァアアア!!

 そんな刃が滑るような音を響かせながら、左右の壁のブロックとブロックの隙間から高速回転・振動する円形でノコギリ状の巨大な刃が飛び出してきた。右の壁からは首の高さで、左の壁からは腰の高さで前方から薙ぐように迫ってくる。

「回避!」

 ハジメ咄嗟にそう叫びつつ、マトリッ○スの某主人公のように後ろに倒れ込みながら二本の凶悪な刃を回避する。ユエは元々背が小さいのでしゃがむだけで回避した。シアも何とか回避したようだ。後ろから「はわわ、はわわわわ」と動揺に揺れる声が聞こえてくる。苦悶の声ではないようなので、怪我はしていないのだろうと推測するハジメ。実際は、かなりギリギリでウサミミの先端の毛がスッパリ持って行かれたのだが……問題ないだろう。

 二枚の殺意と悪意がたっぷりと乗った刃はハジメ達を通り過ぎると何事もなかったように再び壁の中に消えていった。第二陣を警戒して、暫く注意深く辺りを見回すハジメ。しかし、どうやら今ので終わりらしい。ホッと息を吐き後ろを振り返ろうとして、ハジメは猛烈な悪寒を感じた。

 本能の命ずるまま飛び出し、ユエとシアを回収して勢いそのままに前方に身を投げ出す。直後、今の今までハジメ達がいた場所に、頭上からギロチンの如く無数の刃が射出され、まるでバターの如く床にスっと食い込んだ。やはり、先程の刃と同じく高速振動している。

 冷や汗を流して足先数センチ先に落とされた刃を見つめるハジメ。ユエとシアも硬直している。

「……完全な物理トラップか。魔眼石じゃあ、感知できないわけだ」

 ハジメが、まんまとトラップに掛かった理由は、魔法のトラップに集中していたからだ。今までの迷宮のトラップと言えばほとんどが魔法を利用したものだった。そして、魔法のトラップなら、ハジメの魔眼は尽く看破できる。それ故に、魔眼に反応しなければ大丈夫という先入観を持ってしまっていたのだ。要は、己の力を過信したということである。

「はぅ~、し、死ぬかと思いましたぁ~。ていうか、ハジメさん! あれくらい受け止めて下さいよぉ! 何のための義手ですか!」
「いや、あれ相当な切れ味だと思うぞ? 切断まではされないだろうが、傷くらいいれられたかもしれん。今は金剛使えないからな」
「き、傷って……装備と私、どっちが大事なんですかっ!」
「……まぁ、無事だったんだ。いいじゃねぇか」
「ちょっ、なんではぐらかすんですかっ! 嘘ですよね? 私の方が大事ですよね? ね?」

 誤魔化すハジメに、掴みかからんばかりの勢いで問い詰めようとするシア。そんなシアにユエが言葉の暴力を振るう。

「……お漏らしウサギ。死にかけたのは未熟なだけ」
「おもっ、おもらっ、撤回して下さい、ユエさん! いくらなんでも不名誉すぎますぅ!」

 シアの「○○ウサギ」シリーズに新たに加わった称号の不名誉さに、シアが我慢できず猛抗議する。この迷宮に入ってから、この短時間で既に二度も死にかけたというのに意外に元気だ。やはり、シアの最大の強みは打たれ強さなのだろう。本人は断固として認めないだろうが。

 シアが文句を言った通り、完全な不意打ちに思わず回避を選択したが、ハジメならさっきの刃も義手か銃身で受け止められただろう。コート自体も魔物の革を利用したものでかなりの防御力を誇っているし、その下にはプロテクターを各急所部分につけているので、そうそう死にはしない。

 しかし、先ほどのトラップは唯の人間を殺すには明らかにオーバーキルというべき威力が込められていた。並みの防具では、歯牙にもかけずに両断されていただろう。ハジメのように奈落の鉱物を用いた武器防具でも持っていなければ回避以外に生存の道はない。

「でもまぁ、あれくらいなら問題ないか」

 シアとユエの喧嘩? を尻目に、そう独りごちるハジメ。どれだけ威力があっても、唯の物理トラップではハジメは殺しきれないだろう。そして、ユエには“自動再生”がある。トラップにかかっても死にはしない。となると……必然的にヤバイのシアだけである。そのことに気がついているのかいないのか分からないが、シアのストレスが天元突破するであろうことだけは確かだった。

「あれ? ハジメさん、何でそんな哀れんだ目で私を……」
「強く生きろよ、シア……」
「え、ええ? なんですか、いきなり。何か凄く嫌な予感がするんですけど……」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ハジメ達は、トラップに注意しながら更に奥へと進む。

 今のところ魔物は一切出てきていない。魔物のいない迷宮とも考えられるが、それは楽観が過ぎるというものだろう。それこそトラップという形で、いきなり現れてもおかしくない。

 ハジメ達は、通路の先にある空間に出た。その部屋には三つの奥へと続く道がある。取り敢えず“マーキング”だけしておき、ハジメ達は階下へと続く階段がある一番左の通路を選んだ。

「うぅ~、何だか嫌な予感がしますぅ。こう、私のウサミミにビンビンと来るんですよぉ」

 階段の中程まで進んだ頃、突然、シアがそんなことを言い出した。言葉通り、シアのウサミミがピンッと立ち、忙しなく右に左にと動いている。

「お前、変なフラグ立てるなよ。そういうこと言うと、大抵、直後に何か『ガコン』…ほら見ろっ!」
「わ、私のせいじゃないすぅッ!?」
「!? ……フラグウサギッ!」

 ハジメとシアが話している最中に、嫌な音が響いたかと思うと、いきなり階段から段差が消えた。かなり傾斜のキツイ下り階段だったのだが、その階段の段差が引っ込みスロープになったのだ。しかもご丁寧に地面に空いた小さな無数の穴からタールのようなよく滑る液体が一気に溢れ出してきた。

「くっ、このっ!」

 段差が引っ込んで転倒しかけたハジメは咄嗟に、靴の底に仕込んだ鉱石を錬成してスパイクにし、義手の指先からもスパイクを出して滑り落ちないように堪える。ユエは、咄嗟にハジメに飛びついたので滑り落ちることはなかった。ハジメが、踏ん張ることを読んでいたのだろう。この辺りは流石、阿吽の呼吸である。

 しかし、まだ、そんな連携などできないのが一人。言わずもがな、シアである。

「うきゃぁあ!?」

 段差が消えた段階で悲鳴を上げながら転倒し後頭部を地面に強打。「ぬぅああ!」と身悶えている間に、液体まみれになり滑落。そのまま、M字開脚の状態でハジメの顔面に衝突した。

「ぶっ!?」

 その衝撃で義手のスパイクが外れてしまい、ハジメは、右手にユエを掴んだまま後方にひっくり返った。足のスパイクも外れてしまい、スロープの下方に頭を向ける形で滑り落ちていく。シアは、そんなハジメの上に逆方向で仰向けに乗っかっている状態だ。

「てめぇ! ドジウサギ! 早くどけ!」
「しゅみません~、でも身動きがぁ~」

 滑り落ちる速度はドンドン増していく。ハジメが必死に靴や義手のスパイクを地面に突き立てようとするが既に速度が出すぎていて、中々上手くいかない。ならばと、直接階段の錬成を試みるが、迷宮の強力な分解作用により上手く行かない。

 シアが、もがきつつも何とか起き上がる。ハジメの上に馬乗りになっている状態だ。

「ドリュッケンの杭を打ち付けろ!」

 ハジメがシアに指示を出す。シアの持つ大槌ドリュッケンには、幾つかのギミックが仕込まれており、その内の一つが槌の頭部分の平面から飛び出る杭である。一点突破の貫通力を上げる為の仕掛けだ。それを地面に突き立て滑落を止めようというわけだ。

「は、はい、任せッ!? ハジメさん! 道がっ!」

 シアが背中の固定具からドリュッケンを外そうと手を回した。と、直後、前方を見たシアが焦燥に駆られた声をあげる。

 ハジメはそれだけで悟った。この滑落の果てに、どこかに放り出されるのだろうと。

「っ! ユエ!」
「んっ!」

 咄嗟にハジメはユエの名を呼ぶ。それだけでユエはハジメの意図を正確に読み取った。

「シア、しっかり捕まってろ!」
「は、はい!」

 シアは、馬乗りのままヒシッとハジメにしがみつく。

 そして遂にスロープが終わりを迎え、ハジメ達は空中へと投げ出された。一瞬の無重力。その隙にユエは魔法を発動する。

「“来翔”!」

 風系統の初級魔法だ。強烈な上昇気流を発生させ跳躍力を増加させる魔法である。熟練者は擬似的に飛翔の真似事もできる。しかし、この場は魔法の力が及ばない領域。ユエの魔法は、ほんの数秒の間、ハジメ達を浮かせる程度の効果しか発揮できなかった。

「十分だ」

 ハジメの称賛まじりの声が響く。そう、ハジメにとっては、放り出された先でほんの少し周囲を確認する余裕があれば十分だったのだ。ユエは、その期待に見事に応えたというわけである。

 ハジメが、右手にユエを、首にシアをしがみつかせたまま、義手を天井に向けて掲げた。そして魔力を流すと……

パシュ!

 という空気が抜けるような音を響かせて義手の内手首から細いワイヤーが取り付けられたアンカーが飛び出し天井の壁に勢いよく突き刺さった。そして、アンカーから返しが飛び出し完全に固定される。

 ハジメ達は、ワイヤー一本で天井からぶら下がった状態で、アンカーが外れないのを確認するとホッと一息ついた。

 そして、全員が何気なく下を見て盛大に後悔した。

カサカサカサ、ワシャワシャワシャ、キィキィ、カサカサカサ

 そんな音を立てながらおびただしい数のサソリが蠢いていたのだ。体長はどれも十センチくらいだろう。かつてのサソリモドキのような驚異は感じないのだが、生理的嫌悪感はこちらの方が圧倒的に上だ。アンカーで落下を防がなければ、サソリの海に飛び込んでいたかと思うと、全身に鳥肌が立つ思いである。

「「「……」」」

 思わず黙り込む三人。下を見たくなくて、天井に視線を転じる。すると、何やら発光する文字があることに気がついた。既に察しはついているが、つい読んでしまうハジメ達。

“彼等に致死性の毒はありません”
“でも麻痺はします”
“存分に可愛いこの子達との添い寝を堪能して下さい、プギャー!!”

 わざわざリン鉱石の比重を高くしてあるのか、薄暗い空間でやたらと目立つその文字。ここに落ちた者はきっと、サソリに全身を這い回られながら、麻痺する体を必死に動かして、藁にもすがる思いで天に手を伸ばすだろう。そして発見するのだ。このふざけた言葉を。

「「「……」」」

 また違う意味で黙り込むハジメ達。「相手にするな、相手するな」と自分に言い聞かせ、何とか気を取り直すと周囲を観察する。

「……ハジメ、あそこ」
「ん?」

 すると、ユエが何かに気がついたように下方のとある場所を指差した。そこにはぽっかりと横穴が空いている。

「横穴か……どうする? このまま落ちてきたところを登るか、あそこに行ってみるか」
「わ、私は、ハジメさんの決定に従います。ご迷惑をお掛けしたばかりですし……」
「いや、そのお仕置きは迷宮出たらするから気にするな」
「逆に気になりますよぉ! そこは『気にするな』だけでいいじゃないですかぁ」
「……図々しい。お仕置き二倍」
「んなっ、ユエさんも加わると!? うぅ、迷宮を攻略しても未来は暗いです」

 ハジメとユエの容赦のなさに嘆くシア。

「はぁ、お前の“選択未来”が何度も使えればいいんだがなぁ~」
「うっ、それはまだちょっと。練習してはいるのですが……」

 “選択未来”シアの固有魔法だ。仮定の先の未来を垣間見れる。但し、一日一回しか使用できない上、魔力も多大に消費するのであまり使えない固有魔法だ。シアの強みは身体強化なので、魔力が枯渇しては唯の残念なウサギになってしまう。一応、日々鍛錬をしており、消費魔力が少しずつ減ってきていたりするのだが……十全に使いこなすにはまだまだ道のりは遠そうである。

「まぁ、ないものねだりしても仕方ない。戻るより、進む方が気分がいいし、横穴を行こう」
「……ん」
「はいです」

 ハジメは、もう一本アンカーを射出し、位置を調整しながらターザンの要領で移動して横穴へと無事にたどり着いた。

 ハジメ達は、この先も嫌らしいトラップがあるんだろうなぁとウンザリしながらリン鉱石の照らす通路を進むのだった。
いつも読んで下さり有難うございます
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次回は、日曜日の12時更新予定です
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