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ありふれた職業で世界最強 作者:厨二好き/白米良

第二章

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ブルックの町にて 後編



現在、シアとユエは町に出ていた。昼ごろまで数時間といったところなので計画的に動かなければならない。目標は、食料品関係とシアの衣服、それと薬関係だ。武器・防具類はハジメがいるので不要である。

 町の中は、既に喧騒に包まれていた。露店の店主が元気に呼び込みをし、主婦や冒険者らしき人々と激しく交渉をしている。飲食関係の露店も始まっているようで、朝から濃すぎないか? と言いたくなるような肉の焼ける香ばしい匂いや、タレの焦げる濃厚な香りが漂っている。

 道具類の店や食料品は時間帯的に混雑しているようなので、二人はまず、シアの衣服から揃えることにした。

 オバチャン改めキャサリンさんの地図には、きちんと普段着用の店、高級な礼服等の専門店、冒険者や旅人用の店と分けてオススメの店が記載されている。やはりオバ……キャサリンさんは出来る人だ。痒いところに手が届いている。

 二人は、早速、とある冒険者向きの店に足を運んだ。ある程度の普段着もまとめて買えるという点が決め手だ。

 その店は、流石はキャサリンさんがオススメするだけあって、品揃え豊富、品質良質、機能的で実用的、されど見た目も忘れずという期待を裏切らない良店だった。

 ただ、そこには……

「あら~ん、いらっしゃい♥可愛い子達ねぇん。来てくれて、おねぇさん嬉しいぃわぁ~、た~ぷりサービスしちゃうわよぉ~ん♥」

 化け物がいた。身長二メートル強、全身に筋肉という天然の鎧を纏い、劇画かと思うほど濃ゆい顔、禿頭の天辺にはチョコンと一房の長い髪が生えており三つ編みに結われて先端をピンクのリボンで纏めている。動く度に全身の筋肉がピクピクと動きギシミシと音を立て、両手を頬の隣で組み、くねくねと動いている。服装は……いや、言うべきではないだろう。少なくとも、ゴン太の腕と足、そして腹筋が丸見えの服装とだけ言っておこう。

 ユエとシアは硬直する。シアは既に意識が飛びかけていて、ユエは奈落の魔物以上に思える化物の出現に覚悟を決めた目をしている。

「あらあらぁ~ん? どうしちゃったの二人共? 可愛い子がそんな顔してちゃだめよぉ~ん。ほら、笑って笑って?」

 どうかしているのはお前の方だ、笑えないのはお前のせいだ! と盛大にツッコミたいところだったが、ユエとシアは何とか堪える。人類最高レベルのポテンシャルを持つ二人だが、この化物には勝てる気がしなかった。

 しかし、何というか物凄い笑顔で体をくねらせながら接近してくる化物に、つい堪えきれずユエは呟いてしまった。

「……人間?」

 その瞬間、化物が怒りの咆哮を上げた。

「だぁ~れが、伝説級の魔物すら裸足で逃げ出す、見ただけで正気度がゼロを通り越してマイナスに突入するような化物だゴラァァアア!!」
「ご、ごめんなさい……」

 ユエがふるふると震え涙目になりながら後退る。シアは、へたり込み……少し下半身が冷たくなってしまった。ユエが、咄嗟に謝罪すると化物は再び笑顔? を取り戻し接客に勤しむ。

「いいのよ~ん。それでぇ? 今日は、どんな商品をお求めかしらぁ~ん?」

 シアは未だへたり込んだままなので、ユエが覚悟を決めてシアの衣服を探しに来た旨を伝える。シアは、もう帰りたいのか、ユエの服の裾を掴みふるふると首を振っているが、化物は「任せてぇ~ん」と言うやいなやシアを担いで店の奥へと入っていってしまった。その時の、ユエを見つめるシアの目は、まるで食肉用に売られていく豚さんのようだった。

 結論から言うと、化物改め店長のクリスタベルさんの見立ては見事の一言だった。店の奥へ連れて行ったのも、シアが粗相をしたことに気がつき、着替える場所を提供するためという何とも有り難い気遣いだった。

 ユエとシアは、クリスタベル店長にお礼を言い店を出た。その頃には、店長の笑顔も愛嬌があると思えるようになっていたのは、彼女? の人徳ゆえだろう。

「いや~、最初はどうなることかと思いましたけど、意外にいい人でしたね。店長さん。」
「ん……人は見た目によらない」
「ですね~」

 そんな風に雑談しながら、次は道具屋に回ることにした二人。しかし、唯でさえ目立つ二人だ。すんなりとは行かず、気がつけば数十人の男達に囲まれていた。冒険者風の男が大半だが、中にはどこかの店のエプロンをしている男もいる。

 その内の一人が前に進み出た。ユエは覚えていないが、この男、実はハジメ達がキャサリンと話しているとき冒険者ギルドにいた男だ。

「ユエちゃんとシアちゃんで名前あってるよな?」
「? ……合ってる」

 何のようだと訝しそうに目を細めるユエ。シアは、亜人族であるにもかかわらず“ちゃん”付けで呼ばれたことに驚いた表情をする。

ユエの返答を聞くとその男は、後ろを振り返り他の男連中に頷くと覚悟を決めた目でユエを見つめた。他の男連中も前に進み出て、ユエかシアの前に出る。

 そして……

「「「「「「ユエちゃん、俺と付き合ってください!!」」」」」」
「「「「「「シアちゃん! 俺の奴隷になれ!!」」」」」」

 つまり、まぁ、そういうことである。ユエとシアで口説き文句が異なるのはシアが亜人だからだろう。奴隷の譲渡は主人の許可が必要だが、昨日の宿でのやり取りでシアとハジメ達の仲が非常に近しい事が周知されており、まず、シアから落とせばハジメも説得しやすいだろう……とでも思ったのかもしれない。

 ちなみに、宿でのことは色々インパクトが強かったせいか、奴隷が主人に逆らうという通常の奴隷契約では有り得ない事態についてはスルーされているようだ。でなければ、早々にシアが実は奴隷ではないとバレているはずである。契約によっては拘束力を弱くすることもできるが、そんな事をする者はいないからだ。

 で、告白を受けたユエとシアはというと……

「……シア、道具屋はこっち」
「あ、はい。一件で全部揃うといいですね」

 何事もなかったように歩みを再開した。

「ちょっ、ちょっと待ってくれ! 返事は!? 返事を聞かせてく『『断る(ります)』』……ぐぅ……」

 まさに眼中にないという態度に、男は呻き、何人かは膝を折って四つん這い状態に崩れ落ちた。しかし、諦めが悪い奴はどこにでもいる。まして、ユエとシアの美貌は他を隔絶するレベルだ。多少、暴走するのも仕方ないといえば仕方ないかもしれない。

「なら、なら力づくでも俺のものにしてやるぅ!」

 暴走男の雄叫びに、他の連中の目もギンッと光を宿す。二人を逃さないように取り囲み、ジリジリと迫っていく。

 そして遂に、最初に声を掛けてきた男が、雄叫びを上げながらユエに飛びかかった。日本人が彼を見たらこう叫ぶに違いない。「あっ、ルパ○ダイブ!」と。

 ユエは冷めた目付きで一言呟く。

「“凍柩”」

 直後、男が首だけを残して氷の柩に閉じ込められ、重力に引かれて落下した。「グペッ!?」と情けない悲鳴を上げて地面に転がるル○ンダイブの男。

 周囲の男連中は、水系上級魔法に分類される氷の柩を一言で発動したユエに困惑と驚愕の表情を向けていた。ヒソヒソと「事前に呪文を唱えていた」とか「魔法陣は服の下にでも隠しているに違いない」とか勝手に解釈してくれている。

 ユエは、ツカツカと氷の柩に包まれる男のもとへ歩み寄った。周囲には、ユエの実力に驚愕の表情を見せながらも、我こそ第二の○パンなり! と言わんばかり身構えている男連中がいる。なので、ユエは、見せしめをすることにした。

 ユエが手をかざすと男を包む氷が少しずつ溶けていく。それに開放してもらえるのかと表情を緩める男。さらに熱っぽい瞳でユエを見つめる。

「ユ、ユエちゃん。いきなりすまねぇ! だが、俺は本気で君のことが……」

 未だ氷に包まれながら男は更に思いを告げようとするが、その言葉が途中で止まる。なぜなら、溶かされていく氷がごく一部だけだと気がついたからだ。それは……

「あ、あの、ユエちゃん? どうして、その、そんな……股間の部分だけ?」

 そう、ユエが溶かしたのは男の股間部分の氷だけだ。他は完全に男を拘束している。嫌な予感が全身を襲い、男が冷や汗を浮かべながら「まさか、ウソだよね? そうだよね? ね?」という表情でユエを見つめる。

 そんな男に、ユエは僅かに口元を歪めると、

「……狙い撃つ」

 そして、風の礫が連続で男の股間に叩き込まれた。

―――― アッーーー!! 
―――― もうやめてぇー 
―――― おかぁちゃーん! 

 男の悲鳴が昼前の街路に響き渡る。マ○オがコインを取得した時のような効果音を響かせながら(本当の音は生々しいので、懐かしき○リオをご想像ください)執拗に狙い撃ちされる男の股間。きっと中身は、デン○シーロールを受けたボクサーのように翻弄されていることだろう。

 周囲の男は、囲んでいた連中も、関係ない野次馬も、近くの露店の店主も関係なく崩れ落ちて自分の股間を両手で隠した。

 やがて永遠に続くかと思われた集中砲火は、男の意識の喪失と同時に終わりを告げた。一撃で意識を失わせず、しかし、確実にダメージを蓄積させる風の魔法。まさに神業である。ユエは人差し指の先をフッと吹き払い、置き土産に言葉を残した。

「……漢女おとめになるがいい」

 この日、一人の男が死に、第二のクリスタベル、後のマリアベルちゃんが生まれた。彼は、クリスタベル店長の下で修行を積み、二号店の店長を任され、その確かな見立てで名を上げるのだが……それはまた別のお話。

 ユエに、“股間スマッシャー”という二つ名が付き、後に冒険者ギルドを通して王都にまで名が轟き、男性冒険者を震え上がらせるのだが、それもまた別の話だ。

 ユエとシアは、畏怖の視線を向けてくる男達の視線をさらっと無視して買い物の続きに向かった。道中、女の子達が「ユエお姉様……」とか呟いて熱い視線を向けていた気がするがそれも無視して買い物に向かった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ユエとシアが宿に戻ると、ハジメもちょうど作業を終えたところのようだった。

「お疲れさん、何か、町中が騒がしそうだったが、何かあったか?」

 どうやら、先の騒動を感知していたようである。

「……問題ない」
「あ~、うん、そうですね。問題ないですよ」

 服飾店の店長が化け物じみていたり、一人の男が天に召されたりしたが、概ね何もなかったと流す二人。そんな二人に、ハジメは、少し訝しそうな表情をするも、まぁいいかと肩を竦めた。

「必要なものは全部揃ったか?」
「……ん、大丈夫」
「ですね。食料も沢山揃えましたから大丈夫です。にしても宝物庫ってホント便利ですよね~」

 ハジメは、買い物にあたって“宝物庫”を預けていた。その指輪を羨ましそうに見やるシアに、ハジメは苦笑いする。今のハジメの技量では、未だ“宝物庫”は作成出来なかった。便利であることは確かなので、作れるようになったらユエとシアにも作ってやるつもりだ。

「さて、シア。こいつはお前にだ」

 そう言ってハジメはシアに直径四十センチ長さ五十センチ程の円柱状の物体を渡した。銀色をした円柱には側面に取っ手のようなものが取り付けられている。

 ハジメが差し出すそれを反射的に受け取ったシアは、あまりの重さに思わずたたらを踏みそうになり慌てて身体強化の出力を上げた。

「な、なんですか、これ? 物凄く重いんですけど……」
「そりゃあな、お前用の新しい大槌だからな。重いほうがいいだろう」
「へっ、これが……ですか?」

 シアの疑問はもっともだ。円柱部分は、槌に見えなくもないが、それにしては取っ手が短すぎる。何ともアンバランスだ。

「ああ、その状態は待機状態だ。取り敢えず魔力流してみろ」
「えっと、こうですか? ッ!?」

 言われた通り、槌モドキに魔力を流すと、カシュン! カシュン! という機械音を響かせながら取っ手が伸長し、槌として振るうのに丁度いい長さになった。

 この大槌型アーティファクト:ドリュッケン(ハジメ命名)は、幾つかのギミックを搭載したシア用の武器だ。魔力を特定の場所に流すことで変形したり内蔵の武器が作動したりする。

 ハジメの済ませておきたいこととは、この武器の作成だったのだ。午前中、ユエ達が買い物に行っている間に、改めてシア用の武器を作っていたのである。

「今の俺にはこれくらいが限界だが、腕が上がれば随時改良していくつもりだ。これから何があるか分からないからな。ユエのシゴキを受けたとは言え、たったの十日。まだまだ、危なっかしい。その武器はお前の力を最大限生かせるように考えて作ったんだ。使いこなしてくれよ? 仲間になった以上勝手に死んだらぶっ殺すからな?」
「ハジメさん……ふふ、言ってることめちゃくちゃですよぉ~。大丈夫です。まだまだ、強くなって、どこまでも付いて行きますからね!」

 シアは嬉しそうにドリュッケンを胸に抱く。あまりに嬉しそうなので、ちょっと不機嫌だったユエも仕方ないという様に肩を竦めた。ハジメは苦笑いだ。自分がした事とは言え、大槌のプレゼントに大喜びする美少女という図は中々にシュールだったからだ。

 はしゃぐシアを連れながら、宿のチェックアウトを済ませる。未だ、宿の女の子がハジメ達を見ると頬を染めるが無視だ。

 外に出ると太陽は天頂近くに登り燦々と暖かな光を降らせている。それに手をかざしながらハジメは大きく息を吸った。振り返ると、ユエとシアが頬を緩めてハジメを見つめている。

 ハジメは二人に頷くと、スっと前に歩みを進めた。ユエとシアも追従する。

 旅の再開だ。

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次回は、水曜日の18時更新予定です
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