魔王&勇者編 後日談① 閑話
「という感じで、クソ馬鹿野郎な勇者の無駄に洗練された巻き込み剣技で、俺達はまた異世界に召喚されたってわけなんだよ」
「……光輝ぇ~」
時は戻り、シンクレア王国王宮のテラスで催し直されたお茶会にて。
実は召喚当初より記録映像を撮っていたエガリさんのホログラム的な映像と共に、SF世界での濃密な約四日半の出来事が、ハジメの口より一時間ほどかけて語られた。
映像がふっと消えた後、最初に反応したのは龍太郎だった。頭を抱えている。
親友と聖剣のコンビがなんだか明後日方向へ全力疾走していることへの心配と、激しすぎる世界的ラブコールから逃げられないブラック人生に同情心がふつふつと湧き上がっているようだ。
まさか女神相手に「自分で頑張れよ!」なんて、あの光輝が言うとは思いもせず、気持ちは雫を筆頭に他の者達も同じだ。
それはそれとして、という感じでおもむろに席を立ったユエが、ハジメの頭をぐいっと引き寄せるようにして抱き締めた。
「……ハジメ。よく頑張りました。改めて、お帰りなさい」
「あぁ……癒される……」
泣けるほどの縛りプレイ状態での死闘を見たせいもあって、本日のユエ様は慈愛の雰囲気が五割増しだ。ついでに慰労の頭ナデナデまでついている。必然、ハジメは日向ぼっこをする猫のような雰囲気になった。
身内以外のいる場所で、ここまで気を抜くとは……
マザーの死闘ぶりは映像と語りで十二分に伝わっていたが、改めて、ハジメ達が置かれていた過酷な状況を実感してしまう。
「……遠藤も、よくやった。流石はハジメの右腕」
「うっす。あざっすっ」
片手でハジメを撫でて味噌汁の中のお麩みたいにふやけさせつつ、正妻として旦那の部下も労うユエ。
キリッとした顔でビシッとサムズアップすれば、浩介もまたキリッとした顔で、両膝に手を置いて深くビシッと頭を下げた。
シア達は思った。まるで、親分の妻と組員みたいだ、と。
もちろん、浩介の働きは申し分なく、与えられた任務を確実に完遂する在り方は感嘆の一言。珍しいユエの労いも頷けるというもの。
映像内の黒歴史を見て、さっきまで羞恥で床を転がり回っていたとしても、満場一致で称賛に値する。
とはいえ、満身創痍なハジメを見れば歯がゆく思うのもまた当然で、シアが唇を尖らせた。
「むぅ、私が一緒にいればハジメさんに苦労なんてさせませんでしたのに……」
「魔法の使えない場所だとシアの独擅場だもんね」
「香織、それは違うわ。物理とパワーでごり押し解決! が基本のシアには、既に苦手な世界なんて存在しないわ」
「全て〝気合!〟〝勘!〟でねじ伏せるものなぁ。生物が生きられぬ場所でも、シアなら〝慣れました!〟で普通にいけそうじゃし」
「……あの、皆さん? 私のことなんだと思ってるんですか?」
私だって死ぬ時は死にますよ、と心外そうにウサミミを荒ぶらせるシアに、香織、雫、ティオ、鈴、そして龍太郎は顔を見合わせ、
「え、抑止力だよね? 世界が滅びないための」
「闇落ちした場合は人類最終試練よね」
「世界がうっかり設定を間違えたバグ、じゃな」
「もうこのウサギ一羽でいいんじゃない? だよね?」
「超越者、無敵存在、戦神、世界外超生命体……クラスの連中もいろいろ言ってたけどよ、取り敢えず、敵対したら〝どうしようもない絶望〟とか言われそうだよな」
「一度、私に対する認識について、きっちり話し合った方がよさそうですね!!」
見てください! モアナさん達が震えているじゃないですか! ウサギみたいに! とウサミミを更に荒ぶらせる特異点ウサギ。
「話し合うも何も、正しい認識だろ。マザーが召喚したのが遠藤じゃなくてお前だった時点で、俺達は苦労せず勝ち確定だったと思うし」
「ほんとにな。そしたら、俺も腹に穴を空けられたり、喧嘩の仲裁で何度も痛い思いしなくて済んだわけだし」
「こらっ、アビスゲート! そんな軟弱な考え方でハウリアの一員になれると思っているんですか! 情けないですよ!」
「そういうとこだぞ、シア」
「そういうとこだよ、シアさん。あとアビスゲートはやめてくださいお願いします」
侍従のアニールさんや現女王のクーネはもちろんのこと、男前戦士なリーリン、この世界トップクラスの戦士であるスペンサー、ドーナル、リンデンまでぷるぷるしている。
なお、砕け散りそう系お爺ちゃんの宰相ブルイットさんは、常時砕け散りそうなほど震えているのでノーカウント。
「シ、シアお姉さんは凄いのですね。光輝様と魔王様の戦いすら、クーネには理解するのも難しかったのに……その魔王様にそこまで言わせるなんて、もはや生物とは思えません。生物ではないと、クーネは思います!」
「ク、クーネたんシ~~ッ!!」
震えども、毒舌冴える、クーネたん。
モアナお姉ちゃんが、まるで絶望を前にした村人Aみたいな様子でクーネの口元を押さえる。もう、かわいいウサギの皮を被った得体の知れない怪物にしか見えない! といった様子だ。
シアが少し涙目になる。私、そんな危険人物じゃありませんもん……森のウサギですもん……と。
雰囲気を変えるためか、リーリン達が怯えながらも話題を逸らしにかかった。
「そ、それにしても本当に凄い戦いでしたね。戦いの次元が違うというか……光輝さんの剣技も極致にあると思っていたのに、戦いの中で更に研ぎ澄まされていたように思いますし」
「全くだ。魔王殿の射撃武器と技も、正直な話、背筋が震えましたぞ。私では抵抗する暇もなくあの世でしょうな」
リーリンとスペンサーの限界まで感嘆を詰め込んだような言葉に、ドーナルとリンデンも深く頷く。
「何より、お二人のコンビネーションが凄まじい。互いに殺し合いをしているように見えて、実は緻密に計算された連携攻撃とは……感服の一言です」
「あれでほとんど力を封じられた状態というのだから、もはや言葉もない。世界は広いということか……」
香織達の視線がバッとハジメに向いた。ハジメさん、バッと視線を逸らした。
言葉より雄弁な態度だった。ついイラッときてお互いに致命的な一撃を繰り出していたら、なんか敵の方がダメージを受けていたという結果論だった、なんてちょっと言い難いという態度だ。
ハジメに無数の半眼が突き刺さる中、雫が不意に表情を和らげた。
「でもまぁ、二人で戦っているところを見られたのは……なんだか良かったわ」
ほわりと綻ぶような笑顔だった。
互いに嫌いで、隙あらば罵り合い、直ぐに手が出る。
犬猿の仲を地で行くような関係なのに、気が付けば互いに背を預けている。
意見はいちいち食い違うのに、互いに背を向けることなく正面から相対する。
雫には、そんな二人の関係がとても嬉しかったらしい。
すると、鈴が揶揄するように龍太郎の脇を肘でつんつんした。
「くふふ、龍くん、ちょっとじぇらし~?」
「んなわけあるかっ……まぁ、俺じゃあ、今の光輝相手にあそこまで合わせられねぇから、ちょっと悔しいとは思ったけどよ」
光輝の相棒と言えば、昔からずっと龍太郎である。幼馴染みかつ親友という立場としては、肩を並べられないというのはやはり悔しいものらしい。
「光輝の野郎め、いろいろ吹っ切れやがって……俺ももっと気張らねぇとなぁ」
遠い目をしながらも、拳をぎゅっと握って内なるやる気を滾らせる龍太郎。
そこで、ナデナデを終えて自席に座り直す――前に、ハジメに捕まって、後ろから抱き締められるような形で膝上に座らされているユエが、若干恥ずかしそうにしつつ質問を口にした。
「……それで、ハジメ。女神の世界から直接戻ってきた? 永久機関とかはどうしたの?」
ハジメは、一週間で枯渇しかけていた癒やしの源を存分に補給するように、ユエをこれでもかと抱き締めながら答える。
「一度、G10のところに戻ったよ。永久機関も素子配列相互変換システムもきちんと回収した」
「……あの小さい子は?」
若干、呆れるようなジト目が、肩越しに振り返るユエから向けられる。シア達も「そうだった!」と言いたげに身を乗り出した。
「そうですよ、ハジメさん。ミュウちゃんになんて言う気ですか? 『また新しい娘を拾ってきて! 元の場所に戻してきなさいなの!』とか言われちゃうかもですよ?」
「まぁ、機嫌は損ねそうじゃな」
「案外、妹ができた!って喜ぶかもしれないよ?」
「いや、娘じゃないからな? リスティに関してはひとまず置いてきた。落ち着いたら迎えにいって、ミュウに会わせてやろうとは思ってる。良い友達になりそうだし、何よりミュウと会うの熱望してたからな」
トータスで気を揉んでいるであろう愛子達への事情説明や、七日も空けてしまった学校関連の問題などの対応でしばらく忙しくなるだろうことは明白。
今のハジメならいつでもどこへでも転移が可能であるから、リスティには、後日、迎えに行くと約束したのだ。
「会うのを熱望っていうか、あれは下克上を狙う戦士の顔だった気がするけど」
浩介がなんとも微妙な顔で呟く。実際、直ぐは一緒にいけないと言われたリスティちゃんは涙目となり、しかし、後日にジャスパー一家丸ごと異世界見学させてやるからと約束をした途端、「戦いの準備をして待ってる」とファイティングポーズを取ったのである。
どう見ても、ミュウから娘の座を奪う気満々だった。
「だからって、リスティを新しい娘だと紹介する気なんてないぞ?」
「そうなんです? コルトランに戻った時、お父さんと呼ばれても訂正しなかったのでてっきり……」
「ハジメくん、子供には基本的に甘いしね」
「あのなぁ、シアの言葉じゃないが犬猫じゃあねぇんだぞ? あの時は流石に空気を読んだだけで、そんなほいほいと父親になんかなれるかよ。一番に考えるべきはミュウのことだしな」
そんな簡単な話じゃないというハジメに、「まぁ、確かに」と頷くユエ達。
ハジメは「ただ……」と苦笑い気味に続ける。
「リスティの気持ちを、強く否定してやれなかった責任は取らねぇとな、とは思ってる。だから、ミュウに会わせてやりたいんだ。ミュウと気が合えば、ジャスパー一家と家族ぐるみの付き合いができるようにする。俺にしてやれるのはそれくらいだろう」
と、思うんだが……どうだ? と意見を求めるハジメに、ユエ達は特に異論もなく、やっぱり、なんだかんだで子供は切り捨てないハジメにほっこりした笑みを見せた。
もちろん、ジャスパー達が新たに刻む歴史の中に、いらぬものを持ち込まないよう細心の注意が必要だ。ジャスパーは新たなリーダーであり、必然、ジャスパー一家全員がコルトラン全体で認知される存在となるだろう。
故に、コルトランの民に秘匿された状態で、ジャスパー一家との繋がりを確立するのは、それなりに手間ではあるが……
いずれにしろ、G10とはそれなりの頻度で連絡を取り合うことになるのだ。ハジメ自身、ジャスパーを気に入ったというのもあるし、リスティのために骨を折ることに躊躇いはなかった。実は、異世界間通信用スマホの構想も既にできていたりする。
「……ん、必要なら頼って? もう、コルトランでも魔法が使えるんでしょ?」
「おう。そん時は頼む」
「でも、あくまで家族づきあいとなると……リスティちゃん、悲しみませんかね?」
「ハジメくんのことすっごく慕ってたもんね?」
「ふふ、光輝じゃなくてハジメを選んだ時の映像は、正直、ちょっと感心しちゃったわ」
「それだけに心配ではあるのぅ」
なんて、少し心配そうなシア達に、ハジメはおかしそうな笑みを浮かべた。
「いや、あの子は落ち込むどころかむしろ闘志を燃やすと思うぞ。逆境の中で折れない心の強さという点では、ミュウ並の逸材だと思う。さっき友達になってくれればと言ったが、実のところライバル的な仲でもお互いに切磋琢磨できていいんじゃねぇかと思ってな」
もちろん、結果がどうであれ、リスティの父親になってやれないことは、彼女が納得するまできちんと話すつもりではある。
「……なるほど。ミュウには同年代に張り合える子がいない。良い友人になれるかも」
「あの! その時はぜひ! クーネにもお友達になる機会をくださいな! クーネもお友達になりたいと切に訴えます!」
クーネがぴょんっと跳ねるようにして主張した。ハジメが胡乱な目を向ける。
「女王として俺等と繋がりを持っておきたいからちょうどいい……とか思ってないか?」
「ギクギクッ!? ク、クーネにはなんのことか分かりません。幼女の純粋な気持ちを疑うなんて、魔王様は本当に魔王様ですね!」
視線を明後日の方向に向けて、吹けていない口笛を吹くクーネ。強かで腹黒なちびっこ女王に魔王のジト目が突き刺さるが……
「そうよね、クーネたん、そんなこと考えてないわよね?」
「そうですよ、お姉ちゃん。もっと言ってあげてください――」
「だって、クーネたんはお友達が一人もいないものね!」
「……あ、あのお姉ちゃん?」
「町の子供達も気さくに接してはくれるけれど、やっぱり最後の一線というのはあるし、お友達作りをしようとしても、いざ心の距離が近づくと、クーネたんってば恥ずかしくなって王女風吹かせちゃうしで……」
「お姉ちゃん、そろそろ口を閉じてください。これは女王命令で――」
「だから、ずっと対等なお友達が欲しかったのよね? 呼び捨てにして欲しかったのよね? 一人二役で友達作りの練習をしたり、でも普通に様付けで呼ばれてしまって、その度にこっそり落ち込んでたの、お姉ちゃんは知ってるわ!」
「……」
クーネは、俯いて服の裾を両手でギュッと掴み、羞恥で真っ赤になりながらプルプルと震え出した。
ぼっち女王クーネたんの影の努力と不器用さに、なんだか凄く優しい気持ちになる。
「魔王様! ぜひ、うちのクーネたんにも娘様とお友達になる機会を! クーネたんにはいっぱい夢があるの! 〝対等なお友達ができた時にやりたいことリスト〟だって既に作っていて――」
「ちょっとぉっ!! 姉! 姉ぇっ! なんで知ってる!? なんで鍵付きの引き出しの、それも二重底の隠し場所を知ってる!?」
口調が乱れるほど動揺を見せるクーネたん。
だが、秘密の隠し場所がばれている答えは自明だ。真っ赤な顔で咆える妹を見て、悪びれないどころか「ああ、怒ってるクーネたんもかわいい……」とうっとりしているS級シスコンを見れば、普段からストーカーされていたのだろう、と。
取り敢えず、
「安心しろ、ちびっ子女王。うちのミュウなら、きっと良い友達になる」
「うっ、うぅ~っ……そんな優しい目で見ないでくださいっ。それよりっ、魔王様! 結局、光輝様はどうしたのですか!? 本当に帰ってこられるのですか!?」
椅子の上に立って、前のめりでテーブルをタシッタシッと叩く荒ぶるクーネ。
居たたまれないらしい。ハジメが「大丈夫だ。うちの王女も香織や雫と知り合う前にはボッチ王女だったから」とフォローするが、「ぼっち言うなしぃ!」とツインテールまで荒ぶらせる。
どうやら、クーネにとってかなりデリケートな話題のようだ。行儀が悪いとアニールに座らされているが、話を進めないと本格的に泣きそうである。
元凶の姉がオロオロしているが、涙目のクーネがやはり可愛いらしく、反省しているのかしていないのか。少なくとも、好感度が下がったのは間違いないだろう。クーネたん、決して姉の方を見ようとしないし。
「帰還は問題ない。G10のところに戻った後、無限魔力で異世界間用ゲートキーとゲートホールを創って奴のところに送ったからな」
――異世界移動用ゲートキー フェアリーキー
――異世界移動用ゲートホール フェアリーリング
クリスタルキーのように自由にどこにでも移動できるわけではないが、一応、量産可能な異世界間移動用アーティファクトである。
リングの数だけ対応する鍵束を持つことになり、また試作段階なので内包魔力的に使用可能回数も決まっている。
もっとも、対応するキーの量産さえしてしまえば誰でもリングのもとへ異世界間移動が可能であり、従来の移動をハジメやユエに頼らざるを得ない状態かつ魔力的に常時移動することはできない、ということに比べれば破格の便利さだ。
もちろん、リングも量産可能であるから、対応するキーさえあれば複数の世界へ自由に行くことも可能である。
既にリングの一つを聖樹のもとに設置してきてあり、もう一つもハジメが持っている。
そして、それぞれに対応したキーをクリスタルキーで光輝のもとへ送ったので、どちらにでも光輝は任意で移動できるのだ。
ついでに言うと、万が一を考えて使徒ボディに換装したノガリさんにも残ってもらっていたりする。
なるほど、と感心と納得の空気に包まれる中、香織がこてりと首を傾げた。
「ハジメくんにしては随分とファンシーなネーミングだね?」
「あ、私もそう思ったよ、カオリン。南雲くんのネーミングセンスって基本的に厨二――」
「あぶねぇっ!? ――へぶらぁ!?」
「龍くん!?」
視認も難しい抜き撃ちが鈴ヘッドを狙ったが、恋人の意地が見事に盾となることを成功させた。龍太郎が痛みのブリッジをしているのを尻目に、あとモアナ達の戦慄の眼差しもスルーして、ハジメは肩を竦めた。
「妖精の輪ってあるだろ? 植物とかキノコとかで自然にできたミステリーサークルで、伝承なんかだと――」
「妖精さんが踊った跡だとか、妖精界への入り口とか言われているやつね!」
雫がすかさず言葉を継いだ。相変わらず、かわいいものには目がないらしい。妖精を〝さん〟付けで呼んでいるあたり、守備範囲にまるっと入っているのだろう。
生暖かい目が注がれて、雫は自分のテンションが上がっていたことに気が付いたらしい。赤くなりながら即座にポニテガードを発動。
妖精さんとは? と首を傾げているモアナ達に香織が説明している間に、どうにか精神を整える。
「そう、その妖精界への入り口――つまり、異世界への出入り口という意味から名前を付けた」
「由来は分かったが、ご主人様よ。妖精である理由にはなっとらんぞ?」
「ああ、それはなんとなくだ。ちょうど、妖精と会ったもんだから」
「なるほど。それなら納得……できんわ! ご、ご主人様よ、やはり戦闘の後遺症でおかしな幻覚が見えるようになったのではないか!?」
「任せて! ――〝絶象〟」
「おい、香織。俺の頭をピカらせるのはやめろ。シアもドリュッケンをしまえ」
神々しい光を放つハジメの頭。モアナ達が「あっ、まぶし!?」と手をかざしている。
「ねぇ、ハジメ。もしかして、その……女神に召喚された世界って……」
ポニテガードを解いた雫の瞳がキラキラと期待に輝いている!
「おう、妖精とか妖怪的な存在がいる世界だったよ」
「じ、実在したんだ……」
「白崎さん、今更だって。地獄も悪魔も証明されてんだし」
浩介の指摘に「確かにそうだけど!」と言いつつも驚愕を隠せない香織。同時に、雫と一緒で瞳が輝いている。妖精さんだなんて、きっととても可愛らしい姿に違いない……
「まぁ、終末も終末で、どいつもこいつも狂ってやがったんだけどな」
「B級ゾンビ映画みたいだったよなぁ。しかも、やべぇ能力持ちばっかりのな」
ハジメと浩介、揃って遠い目になる。ファンシーな世界かと思えば、どうやら阿鼻叫喚の地獄みたいな世界だったらしい。
「あ、あの魔王様? そんな世界に光輝を置いてきたって……しかも、最初に女神とイチャつくの忙しいとかなんとか……」
実は、ずっとその話こそ聞きたくてそわそわしていたモアナが、遂に我慢できなくなって直接尋ねた。
ハジメは無言でパチンッと指を鳴らした。「イ゛ィ゛!!」と敬礼して、エガリさんが再び記録映像の投射を始める。
「そう言えばハジメさん、ノガリさんとエガリさんの中身って……」
「まぁ待て。女神の世界で何があったのか、こいつらの中身とか聖剣の中身とかもいろいろ分かったから、取り敢えず見てくれ」
「あん? 光輝の聖剣? 中身ってなんだよ、南雲」
「そう言えば、めっちゃ形状変わってたよね、光輝くんに応えて。南雲くんの言動にも反応してたっぽいし……よく考えると、なんか健気だね。聖剣というより、聖剣ちゃん?って呼びたくなるような?」
「谷口、なかなか鋭いな」
と言っている間にも、女神と邂逅してからの映像が空中に投影される形で流れ始めた。
光輝に「自分で頑張れ!」的なことを言われた女神様が、めちゃくちゃ狼狽えている。
神々しい姿が嘘のように。目なんか回遊魚並みに泳ぎまくっている。
そうして、言いたいことを言って、肩で息をしつつも若干すっきりした顔をしている光輝を前に、なんだか泣きそうな顔になって……
『も、もう五千年ほど不眠不休で頑張ってるのですが……まだ助けてもらうわけには……あ、ごめんなさい。頑張らないとダメですよね……そうですよね、はい』
死んで腐った魚みたいな目で、そう言った。
誰もが思った。
「この世界の女神、実は任期があって普通は千年くらいで交代らしい」
ああ、神様にもブラックな職場ってあるんだなぁと。
同時に、助けてあげてよぉ! とも。
「もちろん、助けたから帰ってくるのに更に三日かかったんだぞ?」
「南雲の場合、あの世界に興味があっただけだろ。あと、正確には一日な? 残り二日はお前、G10のところで永久機関と変換システムをロマンある使い方をしたいって、帰るだけなら帰れたのに、研究に夢中になっちまって――」
「遠藤、それは言わない約束だろ」
言葉を遮れど、時すでに遅し。
ユエ達のジト目がハジメに突き刺さったのは言うまでもない。
いつもお読みいただきありがとうございます。
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