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ありふれた職業で世界最強 作者:厨二好き/白米良

第二章

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むしろ豹変したのはハウリア



「えへへ、うへへへ、くふふふ~」

 同行を許されて上機嫌のシアは、奇怪な笑い声を発しながら緩みっぱなしの頬に両手を当ててクネクネと身を捩らせてた。それは、ハジメと問答した時の真剣な表情が嘘のように残念な姿だった。

「……キモイ」

 見かねたユエがボソリと呟く。シアの優秀なウサミミは、その呟きをしっかりと捉えた。

「……ちょっ、キモイって何ですか! キモイって! 嬉しいんだからしょうがないじゃないですかぁ。何せ、ハジメさんの初デレですよ? 見ました? 最後の表情。私、思わず胸がキュンとなりましたよ~、これは私にメロメロになる日も遠くないですねぇ~」

 シアは調子に乗っている。それはもう乗りに乗っている。そんなシアに向かってハジメとユエは声を揃えてうんざりしながら呟いた。

「「……ウザウサギ」」
「んなっ!? 何ですかウザウサギって! いい加減名前で呼んでくださいよぉ~、旅の仲間ですよぉ~、まさか、この先もまともに名前を呼ぶつもりがないとかじゃあないですよね? ねっ?」
「「……」」
「何で黙るんですかっ? ちょっと、目を逸らさないで下さいぃ~。ほらほらっ、シアですよ、シ・ア。りぴーとあふたみー、シ・ア」

 必死に名前を呼ばせようと奮闘するシアを尻目に今後の予定について話し合いを始めるハジメとユエ。それに「無視しないでぇ~、仲間はずれは嫌ですぅ~」と涙目で縋り付くシア。旅の仲間となっても扱いの雑さは変わらないようだった。

 そんな風に騒いでいると(シアだけ)、霧をかき分けて数人のハウリア族が、ハジメに課された課題をクリアしたようで魔物の討伐を証明する部位を片手に戻ってきた。よく見れば、その内の一人はカムだ。

 シアは久しぶりに再会した家族に頬を綻ばせる。本格的に修行が始まる前、気持ちを打ち明けたときを最後として会っていなかったのだ。たった十日間とはいえ、文字通り死に物狂いで行った修行は、日々の密度を途轍もなく濃いものとした。そのため、シアの体感的には、もう何ヶ月も会っていないような気がしたのだ。

 早速、父親であるカムに話しかけようとするシア。報告したいことが山ほどあるのだ。しかし、シアは話しかける寸前で、発しようとした言葉を呑み込んだ。カム達が発する雰囲気が何だかおかしいことに気がついたからだ。

 歩み寄ってきたカムはシアを一瞥すると僅かに笑みを浮かべただけで、直ぐに視線をハジメに戻した。そして……

「ボス。お題の魔物、きっちり狩って来やしたぜ?」
「ボ、ボス?と、父様? 何だか口調が……というか雰囲気が……」

 父親の言動に戸惑いの声を発するシアをさらりと無視して、カム達は、この樹海に生息する魔物の中でも上位に位置する魔物の牙やら爪やらをバラバラと取り出した。

「……俺は一体でいいと言ったと思うんだが……」

 ハジメの課した訓練卒業の課題は上位の魔物を一チーム一体狩ってくることだ。しかし、眼前の剥ぎ取られた魔物の部位を見る限り、優に十体分はある。ハジメの疑問に対し、カム達は不敵な笑みを持って答えた。

「ええ、そうなんですがね? 殺っている途中でお仲間がわらわら出てきやして……生意気にも殺意を向けてきやがったので丁重にお出迎えしてやったんですよ。なぁ? みんな?」
「そうなんですよ、ボス。こいつら魔物の分際で生意気な奴らでした」
「きっちり落とし前はつけましたよ。一体たりとも逃してませんぜ?」
「ウザイ奴らだったけど……いい声で鳴いたわね、ふふ」
「見せしめに晒しとけばよかったか……」
「まぁ、バラバラに刻んでやったんだ、それで良しとしとこうぜ?」

 不穏な発言のオンパレードだった。全員、元の温和で平和的な兎人族の面影が微塵もない。ギラついた目と不敵な笑みを浮かべたままハジメに物騒な戦闘報告をする。

 それを呆然と見ていたシアは一言、

「……誰?」


~~~~~~~~~~~~~~~


「ど、どういうことですか!? ハジメさん! 父様達に一体何がっ!?」
「お、落ち着け! ど、どういうことも何も……訓練の賜物だ……」
「いやいや、何をどうすればこんな有様になるんですかっ!? 完全に別人じゃないですかっ! ちょっと、目を逸らさないで下さい! こっち見て!」
「……別に、大して変わってないだろ?」
「貴方の目は節穴ですかっ! 見て下さい。彼なんて、さっきからナイフを見つめたままウットリしているじゃないですか! あっ、今、ナイフに“ジュリア”って呼びかけた! ナイフに名前つけて愛でてますよっ! 普通に怖いですぅ~」

 樹海にシアの焦燥に満ちた怒声が響く。一体どうしたんだ? と分かってなさそうな表情でシアとハジメのやり取りと見ているカム達。先ほどのやり取りから更に他のハウリア族も戻って来たのだが、その全員が……何というか……ワイルドになっている。男衆だけでなく女子供、果ては老人まで。

 シアは、そんな変わり果てた家族を指差しながらハジメに凄まじい勢いて事情説明を迫っていた。ハジメはというと、どことなく気まずそうに視線を逸らしながらも、のらりくらりとシアの尋問を交わしている。

 埒があかないと判断したのか、シアの矛先がカム達に向かった。

「父様! みんな! 一体何があったのです!? まるで別人ではないですか! さっきから口を開けば恐ろしいことばかり……正気に戻って下さい!」

 縋り付かんばかりのシアにカムは、ギラついた表情を緩め前の温厚そうな表情に戻った。それに少し安心するシア。

 だが……

「何を言っているんだ、シア? 私達は正気だ。ただ、この世の真理に目覚めただけさ。ボスのおかげでな」
「し、真理? 何ですか、それは?」

 嫌な予感に頬を引き攣らせながら尋ねるシアに、カムはにっこりと微笑むと胸を張って自信に満ちた様子で宣言した。

「この世の問題の九割は暴力で解決できる」
「やっぱり別人ですぅ~! 優しかった父様は、もう死んでしまったんですぅ~、うわぁ~ん」

 ショックのあまり、泣きべそを掻きながら踵を返し樹海の中に消えていこうとするシア。しかし、霧に紛れる寸前で小さな影とぶつかり「はうぅ」と情けない声を上げながら尻餅地を付いた。

 小さな影の方は咄嗟にバランスをとったのか転倒せずに持ちこたえ、倒れたシアに手を差し出した。

「あっ、ありがとうございます」
「いや、気にしないでくれ、シアの姐御。男として当然のことをしたまでさ」
「あ、姐御?」

 霧の奥から現れたのは未だ子供と言っていいハウリア族の少年だった。その肩には大型のクロスボウが担がれており、腰には二本のナイフとスリングショットらしき武器が装着されている。随分ニヒルな笑みを見せる少年だった。シアは、未だかつて“姉御”などという呼ばれ方はしたことがない上、目の前の少年は確か自分のことを“シアお姉ちゃん”と呼んでいたことから戸惑いの表情を浮かべる。

 そんなシアを尻目に、少年はスタスタとハジメの前まで歩み寄ると、ビシッと惚れ惚れするような敬礼をしてみせた。

「ボス! 手ぶらで失礼します! 報告と上申したいことがあります! 発言の許可を!」
「お、おう? 何だ?」

 少年の歴戦の軍人もかくやという雰囲気に、今更ながら、シアの言う通り少しやり過ぎたかもしれないと若干どもるハジメ。少年はお構いなしに報告を続ける。

「はっ! 課題の魔物を追跡中、完全武装した熊人族の集団を発見しました。場所は、大樹へのルート。おそらく我々に対する待ち伏せかと愚考します!」
「あ~、やっぱ来たか。即行で来るかと思ったが……なるほど、どうせなら目的を目の前にして叩き潰そうって腹か。なかなかどうして、いい性格してるじゃねぇの。……で?」
「はっ! 宜しければ、奴らの相手は我らハウリアにお任せ願えませんでしょうか!」
「う~ん。カムはどうだ? こいつはこう言ってるけど?」

 話を振られたカムは、ニヤリと不敵な笑みを浮かべると願ってもないと言わんばかりに頷いた。

「お任せ頂けるのなら是非。我らの力、奴らに何処まで通じるか……試してみたく思います。な~に、そうそう無様は見せやしませんよ」

 族長の言葉に周囲のハウリア族が、全員同じように好戦的な表情を浮かべる。自分の武器の名前を呼んで愛でる奴が心なし増えたような気もする。シアの表情は絶望に染まっていく。

「……出来るんだな?」
「肯定であります!」

 最後の確認をするハジメに元気よく返事をしたのは少年だ。ハジメは、一度、瞑目し深呼吸すると、カッと目を見開いた。

「聞け! ハウリア族諸君! 勇猛果敢な戦士諸君! 今日を以て、お前達は糞蛆虫を卒業する! お前達はもう淘汰されるだけの無価値な存在ではない! 力を以て理不尽を粉砕し、知恵を以て敵意を捩じ伏せる! 最高の戦士だ! 私怨に駆られ状況判断も出来ない“ピッー”な熊共にそれを教えてやれ! 奴らはもはや唯の踏み台に過ぎん! 唯の“ピッー”野郎どもだ! 奴らの屍山血河を築き、その上に証を立ててやれ! 生誕の証だ! ハウリア族が生まれ変わった事をこの樹海の全てに証明してやれ!」
「「「「「「「「「「Sir、yes、sir!!」」」」」」」」」」
「答えろ! 諸君! 最強最高の戦士諸君! お前達の望みはなんだ!」
「「「「「「「「「「殺せ!! 殺せ!! 殺せ!!」」」」」」」」」」
「お前達の特技は何だ!」
「「「「「「「「「「殺せ!! 殺せ!! 殺せ!!」」」」」」」」」」
「敵はどうする!」
「「「「「「「「「「殺せ!! 殺せ!! 殺せ!!」」」」」」」」」」
「そうだ! 殺せ! お前達にはそれが出来る! 自らの手で生存の権利を獲得しろ!」
「「「「「「「「「「Aye、aye、Sir!!」」」」」」」」」
「いい気迫だ! ハウリア族諸君! 俺からの命令は唯一つ! サーチ&デストロイ! 行け!!」
「「「「「「「「「「YAHAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」」」」」」」」」」
「うわぁ~ん、やっぱり私の家族はみんな死んでしまったですぅ~」

 ハジメの号令に凄まじい気迫を以て返し、霧の中へ消えていくハウリア族達。温厚で平和的、争いが何より苦手……そんな種族いたっけ? と言わんばかりだ。変わり果てた家族を再度目の当たりにし、崩れ落ちるシアの泣き声が虚しく樹海に木霊する。流石に見かねたのかユエがポンポンとシアの頭を慰めるように撫でている。

 しくしく、めそめそと泣くシアの隣を少年が駆け抜けようとして、シアは咄嗟に呼び止めた。

「パルくん! 待って下さい! ほ、ほら、ここに綺麗なお花さんがありますよ? 君まで行かなくても……お姉ちゃんとここで待っていませんか? ね? そうしましょ?」

 どうやら、まだ幼い少年だけでも元の道に連れ戻そうとしているらしい。傍に咲いている綺麗な花を指差して必死に説得している。何故、花で釣っているのか。それは、この少年が、かつてのお花が大好きな「お花さ~ん!」の少年だからである。

 シアの呼び掛けに律儀に立ち止まったお花の少年もといパル少年は、「ふぅ~」と息を吐くとやれやれだぜと言わんばかりに肩を竦めた。まるで、欧米人のようなオーバーリアクションだ。

「姐御、あんまり古傷を抉らねぇでくだせぇ。俺は既に過去を捨てた身。花を愛でるような軟弱な心は、もう持ち合わせちゃいません」

 ちなみに、パル少年は今年十一歳だ。

「ふ、古傷? 過去を捨てた? えっと、よくわかりませんが、もうお花は好きじゃなくなったんですか?」
「ええ、過去と一緒に捨てちまいましたよ、そんな気持ちは」
「そんな、あんなに大好きだったのに……」
「ふっ、若さゆえの過ちってやつでさぁ」

 繰り返すが、パル君は今年十一歳だ。

「それより姐御」
「な、何ですか?」

 “シアお姉ちゃん! シアお姉ちゃん”と慕ってくれて、時々お花を摘んで来たりもしてくれた少年の変わりように、意識が自然と現実逃避を始めそうになるシア。パル少年の呼び掛けに辛うじて返答する。しかし、それは更なる追撃の合図でしかなかった。

「俺は過去と一緒に前の軟弱な名前も捨てました。今はバルトフェルドです。“必滅のバルドフェルド”これからはそう呼んでくだせぇ」
「誰!? バルトフェルドってどっから出てきたのです!? ていうか必滅ってなに!?」
「おっと、すいやせん。仲間が待ってるのでもう行きます。では!」
「あ、こらっ! 何が“ではっ!”ですか! まだ、話は終わって、って早っ! 待って! 待ってくださいぃ~」

 恋人に捨てられた女の如く、崩れ落ちたまま霧の向こう側に向かって手を伸ばすシア。答えるものは誰もおらず、彼女の家族は皆、猛々しく戦場に向かってしまった。ガックリと項垂れ、再びシクシクと泣き始めたシア。既に彼女の知る家族はいない。実に哀れを誘う姿だった。

 そんなシアの姿を何とも言えない微妙な表情で見ているユエ。ハジメは、どことなく気まずそうに視線を彷徨わせている。ユエは、ハジメに視線を転じるとボソリと呟いた。

「……流石ハジメ、人には出来ないことを平然とやってのける」
「いや、だから何でそのネタ知ってるんだよ……」
「……闇系魔法も使わず、洗脳……すごい」
「……正直、ちょっとやり過ぎたとは思ってる。反省も後悔もないけど」

 暫くの間、ハウリア族が去ったその場には、シアのすすり泣く声と、微妙な空気が漂っていた。
いつも読んで下さり有難うございます
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次回は、火曜日の18時更新予定です
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