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ありふれた職業で世界最強  作者: 厨二好き/白米良
ありふれたアフターストーリーⅣ
370/541

魔王&勇者編 六発だけなら誤射

あけましておめでとうございます!

今年もよろしくお願いします!



『逃げる隙を作ります。今しばらく時を稼いでください!』

「つっても自爆が厄介なんだがな」

『ご安心を。限定範囲内ですが、こちらで自爆だけなら妨害できます』

「そいつは重畳。なら遠慮はいらねぇな」


 〝楽園の主〟の言葉を聞いて、ハジメの口元に不敵な笑みが浮かぶ。ついでに「エガリ、ノガリ。スクラップも使ってバリケードを随時補強しろ」と指示を出しつつ――自ら開戦の幕を上げた。


 左右の手が、クロスされた状態から扇を開くように薙ぎ払われる。そうすれば冗談じみた正確さで、今まさにこちらを撃とうとしていた衛機兵十二体の頭部が爆ぜた。


 いつ狙いをつけたんだと乾いた笑い声を漏らしながら、光輝も抜刀一閃。抜く手も見せない神速の斬撃が、三十メートル以内に踏み込んだ敵の一切を障害物ごと両断した。


「……やっぱ見間違いじゃないな」


 先程、空中の空機兵を貫いたのも含め、抜刀から納刀までの刹那の間だけ伸長した聖剣を、ハジメは目で捉えていたらしい。


 ドンナー&シュラークのシリンダーを弾くようにして外し、コートの内側にセットした装填済みのシリンダーに丸ごと換装しつつ、興味深そうな横目を向ける。


「そういえば形も剣から刀に変わってるよな」

「俺が必要とする形に変わってくれるというか、使い方のイメージを伝えてくれるんだよ」

「へぇ……」


 空機兵部隊が編隊を組んで襲来。光輝の剣を警戒して接近しすぎず、十分な高度を保ったままライフル弾の豪雨を降らせてくる。かつ、ハジメが銃口を向ければ、弾道を即時に計算しているのか直ぐさまランダム回避行動を始める。


 学習能力は高いのだろう。故に、ハジメは降ってくるライフル弾を最小限の動きで回避しながら、少し角度をつけてドンナー&シュラークの引き金を同時に引いた。


 途端、空中で回避行動を取ったはずの空機兵が次々に頭部を四散させていく。


――銃技 多角撃ち(バウンドショット)


 壁や地面を利用した単なる跳弾射撃のみならず、弾丸に弾丸を当てて軌道を変化させて目標を穿つという魔王の絶技。自ら撃った弾丸同士は当然、空機兵が撃った直後のライフル弾すら利用して角度を変え、敵の未来位置を撃ち抜く。


「もしかして意思があるのか?」

「……明確に声を聞いたことがあるわけじゃないけど、俺はそう思う」


 衛機兵からの掃射を回避する光輝。されどレーザーの数は凄まじく、まるで青白い槍衾のよう。避けきれないそれを、光輝は聖剣の剣腹を以て受け流す。


 鋼鉄にすら穴を空けそうな熱線だが、異世界の聖剣は傷一つ負うことなく見事に流した。


 更に、隙を突くようにして殺到した突機兵の高熱ブレードを、堅牢な聖剣はやはり使い手の望みのまま無傷で受け流した。光輝は瞬時に逆手に持ち替えて、そのまま流れるように突機兵を斬り裂いた。


――八重樫流刀術 音刃流し


 まるで流水のように突機兵の攻撃は流され、光輝を通り過ぎて数歩進み、ズルリと斜めにずれて崩れ落ちていく。


 防御と攻撃がほぼ同時に実行されるという(たえ)なる剣術は、回を重ねるごとにますます冴え渡り、まるで突機兵が自ら斬られに行っていると錯覚してしまうほど。


「そうだよな? 相棒」


 相棒には意思が宿っている。聖剣を振るいながら、光輝は確信と共に穏やかな表情で尋ねた。きっと輝いたり明滅したりすることで「そうだよ」と応えてくれると思って。


「うんともすんとも言わねぇじゃねぇか」

「あれぇ!?」


 聖剣に無視された勇者の姿が、そこにはあった。ちょっと動揺している様子。とはいえ、それで動きを乱すほど、今の光輝は甘くない。


 空機兵が遠方より狙撃してきたライフル弾に、刃を合わせる。だが、斬らない。視界の端に突機兵が同時攻撃を仕掛けてきているのが見えている。


 だから、手間を省く。


 独特の擦過音が響いた直後、突機兵の頭部が爆ぜた。光輝を狙い撃とうとした空機兵のライフル弾によって。


 敵の攻撃を受け流し、ほぼ同時に反撃する〝音刃流し〟を、剣撃ではなく敵の攻撃そのものを利用して行う、光輝が今この場で作り出した技。そう、飛来したライフル弾を受け流し、狙って突機兵に当てたのである。


 名付けるなら、


――八重樫流刀術 派生奥義 音刃流し・逆波(さかなみ)


 これが偶然ではなく、既に技へと昇華されたのだということを証明するように、次々に飛来する空機兵の集中的狙撃の尽くが流されては機兵達を穿っていく。


 音速を軽く超える飛来物を、狙い通りに受け流して目標に当てるという人の域を超えたこの絶技に、一瞬、敵の動きが止まった。機械にもかかわらず驚愕で呆然としてしまったかのように。


 その致命的な隙をハジメが逃すわけもなく、銃撃と手榴弾で一気に二十体近くを破壊する。それで我に返った機兵達だったが、空機兵の狙撃は止まった。利用されるだけだと理解したのだろう。


 だが、「ほぅ」と少し感心したような声と共に……


「天之河、背後、屋上だ」

「ん? おわっ!?」


 真横から放たれたのはドンナーの一撃だった。


 まさかのフレンドリーファイアに光輝は思わず悲鳴を上げて、しかし、それでもしっかり受け流して背後の建物の屋上に回り込んでいた敵に当てる。


 まさか、全く別方向に向いていた銃口から飛び出した弾丸が、ほぼ直角に曲がって飛来するとは思いもしなかったのだろう。顔を覗かせた衛機兵は回避行動も取れずに貫かれ、そのまま屋上から転がり落ちた。


 自分の技を見て早速利用してくる点は、ある意味流石というべきだが、抗議の一つくらいはしたくなるもの。


「南雲! いきなりは勘弁してくれ! 当たったらどうするんだ!」

「当てようとしてんのよ」

「そういう時に使う言葉じゃない!」


 なんて言い合いながらも、魔王と勇者は弾道を予測させない即席の連携技を以て背後に回り込んだ敵を一掃していく。


 と、そこへ先程は登場と同時に退場することになった重機兵のご同輩が、建物をぶち破って突進してきた。ガトリングの猛威が二人に襲いかかる。


 ハジメと光輝は左右に分かたれる形で横っ飛び回避した。両腕のガトリングが、それぞれ光輝とハジメを追う。地面が弾け、それが死神の足跡のように地面を抉っていく。


(なるほど。ガトリングされるってのは、こんな気持ちなのか)


 いつもは自分がしていることを、やり返されている気分。非常に不愉快だ。ブーメランなんて知らない。


 不快さを殺意に転換し、目を細める。時の流れが遅くなったような世界で重機兵を見やる。戦車並の重装甲だ。手持ちの徹甲弾モドキでも電磁加速なしでは貫き難いだろう。


 しかし、それでも、ハジメは横っ飛び状態のままシュラークの引き金を引いた。光輝に、伸びる刀で斬らせる暇など与えはしない。この獲物は、俺が殺る、と。


 直後、少し間延びしたような一発の銃声が木霊した。


 一回転し、受け身を取って立ち上がると同時に、頭部に風穴を空けた重機兵がぐらりと崩れ落ちた。


「案の定、固い。が、三発でも十分だったな」


 呟きながらシリンダーを跳ね上げると、六発分の空薬莢が宙に踊った。


――銃技 精密射撃(ピンポイントショット)


 そう、一発分にしか聞こえない銃声は、その実、六発同時撃ちと錯覚するような早撃ちの証だったのだ。しかも、それが数ミリの誤差もなく同じ場所へ、ほぼ同時に着弾。威力不足を一瞬の六連撃で解決したというわけだ。


 立ち上がった直後のハジメに向かって、衛機兵が銃口を向ける。別方向から襲い来たレーザーを足で円を描くようにくるりと身を翻して回避しつつ、サイドスローのようにドンナーの銃口を滑らせる。


 その軌道に沿って放射状に放たれた弾丸が敵を穿った時には、シュラークのシリンダーがガンベルトを撫でるように転がされた。ガンベルトに収まっている弾丸は親指で弾かれることで、下方を転がるシリンダーへと機械じみた正確さで装填される。


 そうしてシュラークから弾丸が吐き出され、それが跳弾して複数の衛機兵をぶち抜いた時には、同じようにドンナーがリロードを完了している。


 ガンナー最大の弱点たる〝弾切れ〟が、二丁拳銃による交互の攻撃&神業じみた再装填で一秒の隙もない連撃を可能とするのだ。


 更に、突機兵が仲間を犠牲にようやく肉薄しても、高熱ブレードの尽くがアザンチウムの強度を前に敗北を喫して肉体に届かず、ドンナー&シュラークの銃身または義手の盾に阻まれる。


「使徒に比べりゃお遊戯レベルだな」


 繰り出される双剣の技も、双銃による近接銃戦闘術(ガン=カタ)の前では酷評を余儀なくされる。


 今もまた、どうにかリロードの邪魔をせんと死兵じみた突貫をした突機兵が、義手の肘鉄&肘から放たれたスラッグ弾――八極拳モドキ エセ裡門頂肘(りもんちょうちゅう)――により腹部を木っ端微塵にされて、友軍を巻き込みながら吹き飛んだ。


 そんな光景を一心に見つめるつぶらな瞳があった。


「すごい……」


 リスティだった。蜘蛛糸と瓦礫と機兵の残骸で作られたバリケードの奥から、キラキラした目をハジメの背に向けている。


 貰った回復薬を全てジャスパーに飲ませた後、危ないからと抱き込もうとするミンディを振り切って、居ても立ってもいられないとガラクタの隙間から外の様子を覗いているのだ。


 左右の肩に乗っているエガリ&ノガリが「「イ゛ィ!!」」と万歳している。「そうでしょう! そうでしょう!」「我が主はすごいでしょう! 勇者なんかより!」と言っているっぽい。


「うん、一番すごい」

「リスティ!? 誰と会話してるの!?」


 背後からグイグイッと引っ張るミンディさんを、リスティちゃん、意外に強い握力でバリケードに捕まり抵抗する。よほどハジメを見ていたいらしい。


 とはいえ、危険であることに違いはなく、この場合、ミンディさんが正しい。次の瞬間、それが証明された。


 新たな重機兵だ。その一機が、両腕のガトリングでハジメを粉砕せんとしながら、背面からガコンッとバレルを展開。どうやらアンチマテリアルレベルのライフルを装備していたらしい。その銃口が、偶然か狙いか、リスティが覗いている瓦礫の隙間を捉える。


 ハッとするも時既に遅し。連続した強烈なマズルフラッシュと共に必殺の弾頭がリスティの目前に――


「俺を相手に余所見とは、余裕だな?」


 視線の先で弾けた火花と衝撃に思わず目を瞑ったリスティだったが、エガリ&ノガリに前脚でほっぺをツンツンされて目を開ける。


 そこには、額に風穴を空けて崩れ落ちる重機兵と、そちらにドンナーの銃口を向けながら、シュラークを背後に――リスティの方へ向けているハジメの姿があった。


 リスティには分からない。まさか、重機兵を三連続精密射撃(ピンポイントショット)でスクラップにすると同時に、連射された敵のライフル弾を背面ノールックの弾丸当てで撃墜したなどと。


 けれど、今も視線の先で、豪雨のように飛来した別の重機兵のミサイル群を、見もせず片手間で撃墜している姿を見れば、また守ってくれたのだということは分かった。


 ますます目を輝かせ、同じく察したらしいミンディさんもちょっと目を輝かせる中、義手のギミックで射出した弾丸を、さりげない神業で空中ガンスピンリロードしたハジメが、肩越しに視線を寄越した。


 一瞬ではあったが、リスティには分かった。「危ないから引っ込んでろ」と言われたことが。なので、コクコクッと素早く頷いて素直に奥へ引っ込む。ミンディがオロオロしているので、引きずるようにして忘れずに回収しておく。


「良い子だ」


 小さく笑い、増えたスクラップに比例してエガリ&ノガリが糸を伸ばして更に隙間を埋めてバリケートを強化していくのを見る。


 二人だけで敵の攻撃の全てを捌くのは、元より物理的に不可能だ。だからこそのバリケードであり、ボロボロになっても直ぐにスクラップの補充で強化し直している。


 だが……相手の数が数だ。しかも、当初の半数以上を倒しているのに、数が減った気がしない。おそらく、増援が続々と到着しているのだろう。


 故に、魔王と勇者の防衛網とはいえ、力を大幅に制限された二人であるから、突破されるのも時間の問題であり、そして、その時は遂に訪れてしまった。


 一体、二人の防衛網を抜けた突機兵がバリケードに取り付いた。その高熱ブレードを仲間の残骸に突き立てることにはなんの躊躇もないようで、差した場所が灼熱に輝き熔解していく。


「チッ。斬撃にも衝撃にも強いが、熱には弱いんだよな」


 蜘蛛糸のことだ。強化はしているし、その証拠にサーモグラフィーを誤魔化す程度の発熱はできるが、ブレードとして使えるレベルの熱には敵わない。スクラップの盾が突破されれば、あっと言う間に穴を開けられるだろう。


 当然、破壊しようとするハジメだったが……


「! 新手か」


 上空より落下してきた重機兵が、バリケードの上に轟音を立てて着地。その程度で潰されるほどエガリ&ノガリの蜘蛛糸結界は柔ではないが、ハジメの銃撃が阻まれたのは事実。


 見れば、上空で空機兵三体がワイヤーで重機兵を吊しているのが分かった。どうやら、前後左右の包囲で足りないなら、真上からも攻めればいいと判断したらしい。


 パージされた重機兵が次々とバリケードの上に降ってくる。ご丁寧に、その背に突機兵まで張り付けて。重機兵で守りながら、突機兵がバリケードを破る作戦らしい。


 空中で数体を撃ち落とすも、今のハジメの攻撃では重機兵一機を破壊するのに三発を要する。当然、今この瞬間も周囲からの攻撃は受けており、物理的に手数が足りない。


 結果、更に三体の重機兵と突機兵の着地を許してしまった。灼熱のブレードが更に突き立てられる。


 舌打ちを量産したくなる状況だ。こうなったら魔力枯渇を覚悟で、こちらも〝ガトリング(メツェライ)〟を取り出すか……と決断しかけたとき、


「悪いっ、分断されかけた! 南雲は降下してくる奴を!」

「遅ぇよ、馬鹿野郎」


 横から突っ込んで来た光輝が、バリケードの上――それも重機兵と突機兵の中心にひゅるりと着地した。


 かと思えば、気合い一発。今までの静かな剣撃とは異なる猛々しい横薙ぎの一撃を繰り出した。爆撃じみた衝撃音が迸り、バリケードに取り付いていた重機兵と突機兵がまとめて放射状に吹き飛んだ。


「お前、それ」

「ああ、うん。形態変化に慣れたというか、使い分けできそうだったから」


 上空から降下強襲をかけてくる機兵部隊を撃ち落としつつ、ハジメが目を眇める。


 その視線の先には聖剣があった。元の西洋剣の形――否、かつてメルド・ロギンスが使っていたような、大剣に近い騎士剣の形が。


 降下部隊を狙い撃ちにするハジメに、新手の重機兵がガトリングの集中斉射をしてくる。その射線に、光輝は、まるでお返しだというかのように、ハジメの盾となるべく割り込んだ。


 そして、弾丸の嵐を避けず剣を盾にして突っ込み、そのまま横薙ぎの一撃で叩き斬ってしまった。


 それどころか、両断された重機兵を隠れ蓑に、その背後から飛び出した突機兵を、そして左右と背後から飛びかかってきた突機兵を、まったく同一方向からの横薙ぎでまとめて両断してしまう。


――王国騎士剣術 旋刃(せんじん)


 片手で横薙ぎにした剣を、そのまま背中側で、もう片方の手に渡し、まったく同一方向からの横薙ぎを二連続で振るう技。旋風の如き斬撃は、前後左右の全方向に及ぶ。


 そう、かつて、光輝がハイリヒ王国騎士団前騎士団長メルド・ロギンスから教わった技の一つ。王国に(あだ)なす不逞の輩を薙ぎ払い、何より、守護することに長けた最強の騎士直伝の技。


 ならば、多勢にあって守護すべき者達がいるこの戦場で、あえて刀にこだわる必要もない。八重樫流も、王国の騎士剣術も、どちらも光輝が尊敬する人から教わった光輝自身の力なのだから。


 それを証明するように、衛機兵及び重機兵の集中攻撃がバリケードを狙っていると見るや猛烈なバックステップで戻り、光輝は地に足を突き刺すかのようにどっしりと構えた。


 まさに威風堂々。守るべきを背に決して退かぬ姿には、ハジメをしてメルド・ロギンスの勇姿が重なって見させられるほど。


 直後、斉射された幾十幾百の死を前に、光輝は大剣化した聖剣を回転させた。一瞬で轟々と暴風を発生させるほどの回転は、傍から見れば巨大なラウンドシールドの如く。


――王国騎士剣術 砦輪(さいりん)


 防御の型であるそれは、まさに大輪を以て成す城砦だ。弾丸も熱線も区別なく、全てを阻み、弾き返し、逸らしてしまう。


「やっぱり、興味深いな」


 光輝を盾代わりに、その後ろから狙撃しまくるハジメが呟く。


「さっきは無視されたようだが、意思疎通は問題ないようだな?」

「そのモルモットを見るマッドサイエンティストみたいな目が気になるけど、ああ。ちゃんとイメージも伝わって――あれ!? また繋がりが消えた!?」

「……まさかと思うが、俺に対して『意思なんてありませんよ』アピールでもしてるんじゃないだろうな?」

「ま、まさかそんな……」


 集中攻撃していた機兵達が風穴を空けて倒れ、〝砦輪〟を解除した光輝が、遂に衛機兵のレーザーすら任意の場所へ反射して敵を倒し始めたのを見て、ハジメも背後に回り込んでいる敵に集中する。


 が、視線はチラチラと聖剣に。


「前に聖剣を弄った時も、特になんの反応もなかったんだが……」

「錆落としのようなものって言ってたよな。聖剣の根幹には手を出してないって」

「ああ。だからな、天之河」

「うん?」

「この戦いが終わったら、聖剣を貸せ。バラしてみたい。隅々まで」

「え、大丈夫なのか、それ。……まぁ、聖剣のことがいろいろ分かるなら――」


 直後だった。聖剣がペカーーーッと輝いたのは。しかも、激しく明滅している。まるで「相棒! 酷い! 一度ならず二度までも、そんなマッドに私を渡そうとするなんて! 断固拒否! 断固拒否!!」と言っているかのよう。


 あるいは、ハジメの傍にあると反応が鈍かったのは、猛獣の近くで息を潜める兎の気持ちだったのか……


 なんとなく聖剣の気持ちを察したハジメと光輝は少し無言となり、一拍。


「絶対、意思があるな」

「あるね」


 確信の言葉が漏れる。聖剣さん、途端に「ハッ、しまった!?」と言っているみたいに慌てて光を収めて、「自分、ただの聖剣なんで」みたいな感じを装う。


 ハジメの目が、ますますモルモットを見るマッドの目になっていく。もしくは、面白そうな玩具を見つけた子供の目か。


「あ、安心しろ、相棒! 魔王の手には絶対に渡さないからな!」


 ぺかぁ~~~


「なんだその弱々しい光は。魔王に狙われるヒロイン気取りかよ」


 あながち、間違いとも言い切れないところがマッド魔王様の悲しいところ。


 なんて軽口を叩いている間にも、敵の増援は止まらない。ハジメの方は弾薬の数も心許なくなってきた。


「楽園の主、まだか?」

『あと三十秒いただきたい!』

「だとよ、天之河」

「了解だ、南雲。ラストスパートだな」


 光輝の言葉を合図にしたわけではないのだろうが、直後、敵陣もまたラストスパートをかけてきた。


 物量にものを言わせた特攻。普通なら数瞬も耐えられないだろう怒濤の攻撃を――


「――〝限界突破〟」

「――〝限界突破〟」


 捌く捌く捌き切る。


 一発の弾丸がピンボールのように銃弾から銃弾へと跳ねては軌道を逸らし、かつ敵を穿つ。


 レーザーの尽くが外付け可変盾に防がれ、更にはアンカーワイヤーを撃ち込まれた重機兵が冗談のように振り回されては、即席の超重量フレイルと化して押し寄せる敵を根こそぎ吹き飛ばす。


 大剣から刀へ、かと思えばまた大剣へ。一瞬一瞬のうちに変化し、その度に戦い方が変わる剣撃の極致に、機械の分析力はまったく追いつかず。


 近づけば斬られ、近づかずとも一切の攻撃を受け流されては攻撃に利用され味方の機兵を穿っていく。


 飽和攻撃をしかけようとも、大剣が巻き起こす暴風と大車輪の如き盾が全てを弾き返す。


 投入された戦力は、既に三百を超えている。なのに、たった二人の人間は傷一つないどころか疲弊すら見せず、それどころかここに来て更に力が増大する始末。


 実のところ、ハジメは残弾が尽きかけていて、光輝は身体強化の魔法を使っていたので魔力残量が相当減っており、じり貧状態ではあったのだが……


 そうとは知らない機兵サイドからすれば、まさに理不尽の権化。理解不能のイレギュラー。悪夢の顕現である。


 故に、投入した。本来、下界での騒動に駆り出されることなどあり得ない、上界の機兵を。


「あ?」


 ハジメの視界に映った見たことのない機影。一見すると重機兵だが、武装がまるで違う。両腕に持っているのはタワーシールドで、両肩に戦車砲と見紛う砲塔を担いでいる。


 同時に、


「あれは!?」


 光輝の方も気が付いた。一見すると空機兵だが、背中には大型のタンクらしきものを背負い、武装は長大で巨大なライフルが一つ。両腕で腰だめに抱えているそれには、なんとも見覚えのありすぎるスパークが迸っている。


 ハジメは無言で、重機兵を貫くに足りる三発同時着弾の精密射撃――の倍、六発の精密射撃を行った。


 だが、やはりというべきか。前時代的なタワーシールドはSF世界よろしく、盾の前に力場のようなものを発生させて、全ての弾丸を防いでしまった。


 と、同時に盾の重機兵が突進を開始。地響きを立てながら鈍重という言葉からはかけ離れた速度で迫ってくる。しかも、そのまま両肩の戦車砲をぶっ放してきた。


 加えて、新手の空機兵からも閃光の如き一撃が放たれる。案の定、それは電磁加速式の射撃――レールガン。


 間延びした世界で、ハジメはドンナー&シュラークを構え、即時発砲した。それぞれ三発ずつ放たれた弾丸が、二発の砲弾の下部に連続して着弾。軌道を僅かに上方へと逸らす。


 光輝も、必死の形相で極限の集中を行い、危うく腕ごと吹き飛ばされそうな衝撃に歯を食いしばりながら辛うじてレールガンを逸らすことに成功する。


 腕が痺れ、衝撃に頭がくらりとする。〝限界突破〟をしていなければ、そして距離がなければ、とても出来なかっただろう今の受け流し。その自覚があるだけに、第二射のスパークを放ち始めた空機兵を見て冷や汗が吹き出る。


 砲弾が衝撃を撒き散らしながら頭上すれすれを通り抜け、逸らされたレールガンがバリケードの端とその先の建物を一撃で崩壊させる。


 その爆風と衝撃波を体に浴びながら、


(固い!)

(遠いっ)


 ハジメは敵の強固さに、光輝は手の届かない遠距離に、思わず悪態を吐く。


 そして、迫り来る脅威に対し、二人は奇しくも同時に決断した。お互いの得意と敵の性能を考慮して、今、必要とされている最善手の実行を。


「天之河ぁっ」

「南雲っ」


 お互いに怒声じみた声を上げながら、背後へ回る。ハジメはスパークを上げながら、光輝は聖剣を納刀しながら。


 背中合わせのまま、まるで鏡に映っているかのように立ち位置をそっくり変えた勇者と魔王。


 必要なのは誰よりも速く遠距離を撃ち抜く一発。そして、何よりも鋭く斬り裂く一撃。


「ぉおおおっ!!」

「はぁああっ!!」


 裂帛の気合いと同時に、真紅の閃光がレールガンの空機兵を刹那のうちにぶち抜き、伸長した純白の斬閃が盾の重機兵を真一文字に両断した。


 しんとした空気が流れる。グレードの高い上界の機兵を出しても突破できない事実に、機兵達が攻めあぐねるように動きを止める。


 と、その時、


『お待たせしました。重機兵・空機兵共に五体を掌握。今のうちに離脱を! 距離を取り次第、自爆させます!』


 〝楽園の主〟の声が響くと同時に、側道から重機兵五体が出現した。制御を乗っ取ったということか。重機兵五体は友軍に向けてガトリングとミサイルの弾幕を張り始めた。空でも、空機兵がドッグファイトを始めた。


 それを確認して、エガリ&ノガリが蜘蛛糸のバリケードを解いた。


 怯えた様子の子供達と気丈な目をしているミンディ、そして、そのミンディに肩を借りながらも意識を取り戻して立ち上がっているジャスパーの姿がある。


 そんな中、リスティだけはキラキラお目々のまま、ハジメのもとへ駆け寄ろうとして――


 連続した発砲音が! 同時に、光輝の「うわぁ!?」という悲鳴も。


「な、何するんだ、南雲!」

「……すまん、誤射った」

「うそだ! 今、明らかになんか苦い顔しながら撃っただろう! 受け流ししなかったら当たってたぞ!」

「バカ言うな。ちゃんと敵の方へ流すと確信してたさ。実際、忍び寄ってた連中を倒したし……別に、あわよくば勇者なんかに背を預けてしまった黒歴史を清算してしまおうそうしよう、なんて思ってないぞ? 本当だぞ?」

「思ってたんだな!っていうか、六発も撃って誤魔化せるとでも!?」

「ほら、言うだろ? 〝六発だけなら誤射〟って」

「……OK。かかってこいよぉっ、この魔王めっ! 俺は簡単には死なないぞ!」


 切迫した状況のはずが、なぜかシリアスになりきらない。


 思わず足を止めてしまったリスティは、「この二人、仲が良いのか悪いのか、どっちなんだろう……」と心底不思議な人達を見る目を向けて小首を傾げる。


 とはいえ、そんなコントじみた空気のおかげで、ジャスパー一家の悲壮感や恐怖は少し薄れたらしい。なので、


『長くは持ちません! 早く移動してください!』


 そんな〝楽園の主〟のなんだか泣きそうな号令に、体は直ぐに動いた。


「おいっ、あんたら! 助けてくれたのは感謝するが、喧嘩は後でやってくれ!」


 子供達を促して路地に飛び込みながらジャスパーが必死に訴える。


 ハジメと光輝は、お互いに苦々しい顔を見せ合いながら殿(しんがり)を務めるべく最後尾に追随した。


「リスティちゃん。南雲にしがみつくんだ! その狂犬を押さえられるのは子供の純粋な心しかない!」

「誰が犬だ、この野郎。あ、また誤射りそう」

「ダメだこいつ。早く嫁~ズのところに返さないと、ストレスで何しでかすか分からない!」


 よく分からないが、取り敢えずハジメに抱きつけばいいというのは理解し、望むところだと飛びつくリスティちゃん。エガリ&ノガリが上手いこと糸で背中に固定してくれる。


 道なりに駆けることしばし。〝楽園の主〟が乗っ取った重機兵と空機兵のおかげか、追っ手の影は見えず、足の遅い子をハジメと光輝も糸で固定しつつ担ぐようにして運び、距離を稼ぐ。


 路地に入ってから〝楽園の主〟の声はしない。通信を傍受されて位置を割り出されたと言っていたから控えているのだろうが、そろそろ誘導がないと道に迷う。


 というその時、建物の窓をぶち破って何かが転がり出てきた。バスケットボールくらいの金属製の球――否、機械だ。モノアイが輝きを放っている。


 一瞬、新手の機兵かと思い緊張が走ったが、


「初めまして、私が〝楽園の主〟――いえ、戦術支援型AI、G10P55-B409です。G10(ジー・テン)とでもお呼びください。さぁ、こちらです」


 ついに姿を見せた〝楽園の主〟の正体に、ジャスパー達は絶句。ハジメと光輝は目を細める。


 とはいえ、目の前でふわりっと宙に浮き「さぁ、早く!」と促されれば、ここで問答しているわけにもいかず後に続くしかない。


 そうして、数分後。


 盛大な爆発音を背に、ハジメ達は再び地下へと消えていったのだった。













 ハジメ達が再び地下に潜る少し前。


 二人が最初に召喚されたあの地下空間に、一体の衛機兵が姿を見せた。青白い光を部屋中に照射して、丹念に丹念に隅々まで調査している。


 少しして、光を照射したまま、その衛機兵はふと顔を上げ、虚空を見つめるようにしながら――


『これほどの戦力を相手に、まだ抗いますか……』


 驚いたことに、独り言を呟いた。


『データにない人間。妙な武装と力。分析のための戦力の逐次投入ではありますが、理解に苦しむ驚異的な力ですね』


 G10に似た、けれど聞くものが聞けば明らかに異なる、どこか不快さを伴う声。


『それにあのコード……やはり生き残りが……』


 独り言を呟きながらも、衛機兵は顔を戻して地下空間に散乱する残骸を丹念に調べていく。


 そして、ついにはモノアイから照射した光でホログラム映像を構築し、それを逆再生でもしているかのように、残骸の幻影を以て元の形に戻していく。


 爆発の痕跡や、残骸の形から元の形を分析し、次々と組み上げられていく召喚装置。やがて、ほぼ完全な姿を取り戻すと……


『これは……なんとまぁ、まさか本当に? 空間転移システム……それも、机上の空論でしかなかったはずの異界転移?』


 考察に考察を重ね、次第に大きくなっていく空気の震え。衛機兵の声に興奮が混じっていき、ついには呵々大笑というべき愉快そうな声まで木霊し出した。


 と、不意に笑い声が止まった。


『まさか、本当に逃げ切られるとは……面白い。実に』


 衛機兵は、やたらと人間臭い動きで腕を組み、何かを考え始める。


『これだけ分析できれば、過去のデータと合わせて私にもシステムの構築は可能でしょう。幸い、異界の者達が残した未知のエネルギーも残滓を回収できましたし……』


 そうして、至ったらしい結論は……


『よろしい。では、二百年ぶりの戦争をしましょうか。異界の者には異界の者を。異界の未知を既知に。……ふふ、楽しいことになりそうです』


 再構築された召喚装置のホログラムが消える。途端、常闇が戻った。


 その暗闇の中で、青白いモノアイの光が鬼火のように揺らめいていた。小さな嗤い声と共に。


いつもお読みいただきありがとうございます。

感想・意見・誤字脱字報告もありがとうございます。


・各リロードは前と同じく映画「ダークタワー」からです。

・聖剣の錆落としうんぬんの部分は、書籍版での説明準拠です。書籍版では、機能的な錆落としと外付けオプション的に機能を増やしただけ、ということになっています。

・背中を預け合う勇者と魔王

 正直、魔王&勇者編は、これが書きたかっただけとも言える。白米のバイブルの一つである「トライガ○」の「マキシマム6巻」にて、背中を預け合うヴァッシュとニコ兄が格好良すぎた。




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― 新着の感想 ―
どちらも限界突破しても、、、 勇者は3600、魔王は36000でステータス10倍くらい差がありそうやけどなww そもそも南雲素手でも、シアなみのステのはずだからいけると思うわww
異界から知り合いが呼ばれたらどうするつもりですか?
うしおととらで、わざと獣の槍に雷ぶち当てて敵の妖怪軍団を蹴散らすびょうしゃがあったっけなー それを思い出した
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