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ありふれた職業で世界最強  作者: 厨二好き/白米良
ありふれたアフターストーリーⅣ
364/541

魔王&勇者編 お呼びでないらしい



 正直な話、ハジメは非常に困惑していた。


 なんなんだよ……


 俺、どうしたらいいのよ……と。


 なぜか? 答えは目の前の連中にあった。


「うっ、ぐっ……失敗、かっ。くそぉっ」

「装置まで壊れてっ、もう私達はお終いよ!」

「所詮は夢物語だったんだっ」


 死屍累々といった有様で、三十人近い男女が倒れ伏しているのだが、その大半が気を失っているようなのだ。そのうえ、辛うじて意識のある数人もハジメ達のことなど気が付いてもいない様子で絶望の表情を晒し、嘆くのに大変忙しそうなのである。


 隣を見れば、やってくれやがった勇者野郎もぽかんっと口を開けている。


「おい、天之河。なんで召喚されたのに、こんな空気なんだ? どう見ても歓迎されてないんだが?」

「お、俺が知るわけないだろ?」


 あのブラックホールのような〝空間の孔〟に吸い込まれた後、ハジメと光輝は濁流に呑み込まれたような、あるいは洗濯機に放り込まれた洗濯物のような気持ちを味わった。


 そうして、ペッと吐き出されたのがこの場所なのだが……


 いったい、どこの馬鹿野郎が召喚してくれやがったのか。どうせ「代わりに何々を倒してくれ!」とか「世界を救ってくれ!」とか、そんなセリフが飛び出すのだろう撃ってやろうと思っていたのに、蓋を開けて見れば、これこの通り。


 まるで、人生を懸けてなけなしの金を宝くじにつぎ込んだら、案の定、盛大に外れました。人生終了のブザーが鳴りました。みたいな状況なのだ。


 え? 召喚したかったんじゃないの? 俺のこと見えてる? ほら、一応、召喚成功だよ? と困惑するのも無理のない話である。


 ちょっと冷静になったハジメは、ふつふつと湧き上がってきた苛立ちそのままに、ドンナーに手をかけた。


「というか、召喚しておいて嘆く&放置とかマジ舐めてんのか、殺すぞ、よし殺そう」

「ちょっ、結論早い! 取り敢えず、怪我もしてるみたいだし彼等を介抱してから事情を聞こうっ」


 やると言ったらやるのがハジメクオリティーだ。何せ、大して事情も知らないのに、≪暗き者≫の部隊をロケット弾で木っ端微塵にした後で「殺してもよかった?」と聞いてくる鬼畜で悪魔な男なのだ。


 光輝はサァッと青ざめつつ、とにもかくにも倒れている人達を介抱しなくてはと駆け出していく。


 ハジメは一先ず光輝を放置して、周囲へ観察の目を向けた。


「……こっちもこっちで、ちょい予想外だな」


 思わず呟いてしまったのは、召喚場所にありがちな神殿や遺跡、魔法陣の類いが一切見られなかったからだ。


 というか、むしろファンタジーな要素が欠片も見受けられない。薄暗い場所で、明かりはその辺に転がっている松明やランプのみ。室内は金属の壁や天井に囲まれていて、四方に通路が伸びており、幾本ものパイプが天井や壁を走っていた。


 第一印象としては、工場的な施設の屋内、あるいは古い地下鉄内という感じだ。


 その印象を後押しするように、


「……装置、ね」


 部屋の中にはゴテゴテとした金属製の物体――どう見ても機械と思しき物が散乱していた。ほとんど原形を留めていないがPCに見えるものもある。


 ハジメと光輝が放り出された台座も、魔女の森に生える不気味な木のように酷く歪み、あるいは千切れたりしてはいるが鉄骨のドームで囲われていた。


 どうにも、この台座を中心に内から外へ爆発でもしたみたいな状態だ。


「……」


 光輝が介抱している者達を見てみる。随分と汚らしい恰好だ。ボロを重ねて纏ったような姿で、顔も手も垢や泥、油のようなもので汚れ、髪は何日も洗っていないことを示すようにテカテカである。


「……まるで荒廃した世界が舞台のSFだな」


 何がどうなってんだか。と、盛大に溜息を一つ。


「ま、どうでもいいか」


 いずれにしろ、お呼びでないなら話は早い。否、お呼びであっても結論は変わらない。邪魔がないならむしろ僥倖であり、このままクリスタルキーと羅針盤で戻ればいいだけである。


 そう思って、ハジメが懐に手を伸ばしかけたその時、


「あ、あんた達は……いったい何者なんだ?」


 先程の嘆くばかりの者達とは異なり、動揺しつつもしっかりした男の声音が耳に届いた。


 見れば、意識を取り戻したらしいざんばら髪の中年の男が、光輝に手を借りて起き上がりながらも警戒の眼差しを向けている。


「ええっと……俺達は……」


 それを知っていて召喚したのではないのか。むしろ、相手が何者か知りたいのはこっちなんだけど……という困惑がヒシヒシと伝わる光輝の様子。肩越しに振り返って、ハジメに「どう説明するのがいい?」と相談の眼差しを向けてくる。


「こ、行動の前の相談、だと? しかも俺に? ……お前、さては天之河の偽物だな?」

「そんなわけないだろ!?」


 警戒したように身構えたハジメさんに、光輝の口元が盛大に引き攣った。額にはビキッと青筋が浮かぶ。とはいえ、以前の自分を鑑みると当然の反応と言えなくもない。


 なので、ここはグッと堪えて「いいから、どう答える!?」と強めの口調で尋ねる。


 だが、そんなやり取りをしている間に、気絶していた者達はみな目を覚まし、そしてヒソヒソと何事か会話し始めた。


「お、おい。あの上等な服……まさか、上界の人間なんじゃ……」

「なっ、なんで上界の人間が!?」

「最初から嗅ぎつけられていた、とか?」

「そうよ! こんな〝禁忌〟に手を出して、ばれてないわけがなかったのよ!」

「待て! まだそうと決ったわけじゃない! もしかしたら〝楽園〟の――」

「ジャスパーさん! どうなんだ!? みんなあんたに賭けてここにいるんだぞ!」


 ヒソヒソは切迫感からか次第に大きくなり、最後は怒声になった。彼等の視線が一人の男――先程のざんばら髪の男へと向く。


「〝楽園の主〟は告げた。黒く渦巻く孔が空中に空く。それが〝楽園〟に繋がる道だと――」

「そんなのはもう何度も聞いた! 実際は起動直後にとんでもない光を放って、直ぐに爆発したじゃないかっ。危うく死ぬところだったぞ」


 ぐっと言葉に詰まるジャスパーと呼ばれた男。どうやら、彼がこの中のリーダーらしい。そして、それほど人望のあるリーダーではないらしい。彼を見る他の者達の目は、猜疑と不満に溢れている。


 そんな彼等から目を背けるようにして、ジャスパーは視線を光輝へと戻した。


「あんた達は……もしかして〝楽園〟の人間、か?」


 どこか縋るような眼差しでの問い。


 光輝とハジメが直前までいたのは砂漠の戦場であり、とても〝楽園〟とは言えない。とはいえ、彼等の言う〝楽園〟が〝異世界〟のことであるなら、答えはYESだ。


 なので、光輝はそのまま答えを返そうとして……


 その寸前、ガンガンガンガンッと金属同士がぶつかるような音――無数の足音が通路の一つから微かに響いてきた。途端に、ジャスパー達は顔を青ざめさせ、そのうちの一人が憎しみと怒りと、そして恐怖の表情でハジメと光輝を睨んだ。


「やっぱりそうだっ。こいつら上界の人間だ! 俺達の計画を知って、ずっと調べてやがったんだ! 失敗したのも、きっとこいつらが邪魔したせいだ!」

「言ってる場合か! 奴らが来るっ、さっさと逃げるぞっ」


 体の痛みを堪えながらも、ジャスパー達は立ち上がり、ハジメと光輝からジリジリと距離を取り始めた。光輝が慌てて制止の声をあげる。


「ちょっ、ちょっと待ってくれ! こっちは何が何やらさっぱりなんだ! 少しは事情を説明してくれ!」

「うるさいっ、機械共の犬めっ。〝処分〟なんてされてたまるかっ」


 一人が駆け出せば、後は雪崩の如く。誰も彼もが必死に一つの通路へと姿を消していく。一応、リーダーとしての自覚はあるようで、ジャスパーは彼等の防波堤となるようにハジメと光輝を睨みつけている。


 そうして、最後にジャスパーも駆け出そうとして、


「うるさいじゃねぇよ、馬鹿野郎」


 踵を返した直後、ドンナーから撃ち放たれた弾丸が彼の後頭部を襲った。美しい顔面スライディングを決めるジャスパーさん。気を付け! みたいな綺麗な姿勢でツイーッと滑り、部屋の壁にぶつかって停止した。


 さっき目覚めたばかりなのにもう気を失った彼の静かな様子は、なんとも哀れを誘う。光輝が、ピクリッとも反応しないジャスパーを見て抗議の声を上げた。



「お、おい!? 南雲!?」

「落ち着け、ゴム弾だ」

「ゴム弾でも後頭部に食らったらやばいだろ!? 凄いぶっ飛び方してたし! ちょっと水平に飛んでたし!」

「……非殺傷だから大丈夫」

「今、間があった! ちょっと自信ないだろ!?」

「うるせぇ、この勇者が」

「うるさいじゃないよ! この魔王っ」


 勇者と魔王がそんな愉快なやり取りをしている間にも、ガンガンッとやたらと重量を感じる無数の足音が近づいてくる。


 なので、ハジメは今度こそ羅針盤とクリスタルキーを取り出した。


「お呼びじゃないんだ。さっさと帰るぞ。まさか、残るなんて言わないよな?」

「……言うわけないだろ。望まれてないんだし。だから、いちいち銃口を向けるのはやめてくれ!っていうか、直ぐに帰るならなんであの人を撃ったんだよ」


 近づいてくる者達から逃げ出したことからすると、ジャスパーが捕まった場合、あまり笑えない人生を送りそうだというのは想像に難くない。


「魔力が足りるか分からないだろ。もしかしたら直ぐにはゲートを開けないかもしれないわけだし、なら、土地勘のある人間が一人はいた方がいい」

「……放置したらこの人、普通に捕まると思うんだけど」

「気になるなら連れてこい。一緒に転移して逃げた後、ほとぼりが冷めた頃合いで、そいつだけ送り返せばいい」

「わ、分かったよ……」


 いろいろ言いたいことはあるけれど、そもそも巻き込んだのは自分なので口を噤んだ光輝。ジャスパーの元へ駆け寄り、肩に担ぐ。


 と、その瞬間、滅多に聞かないハジメの焦った声が響いてきた。


「え? ちょっと待て、嘘だろ!?」

「どうしたんだ? お前がそんなに慌てるなんて……」

「天之河。何か魔法を使ってみろ。早く!」

「なんなんだ――〝光球〟……あれ? 〝光球〟! なっ、発動しない!?」


 ハジメから舌打ちが響いた。光輝が、動揺しながら駆け寄ってくる。


「南雲、どうなってるんだ!?」

「これは……ライセンと同じだ。いや、それの数倍……数十倍バージョンだ」

「ラ、ライセン?」


 ハジメは重々しく頷いた。


 ライセンと同じ現象……それすなわち、〝魔力の霧散効果〟だ。ユエをして最上級クラスの魔力を使っても中級程度の魔法しか行使しえず、あっという間に魔力枯渇させられたあの魔法使い殺しの魔境である。


 羅針盤に魔力を注ぐ時点で、直接触れている状態にもかかわらず、まるで穴の空いたバケツに水を注ぎ込むが如く魔力が散ってしまった。起動すらできない。光輝の明かりを創り出す魔法も、僅かな明滅すらなくあっという間に雲散霧消させられた。


「この男、確保しといて良かったな。とてもじゃないが〝ゲート〟なんて開けねぇ。何か方法を考える時間がいる」


 ハジメの真剣な顔を見て、光輝も意識を切り替えた。スッと覚悟の決まった戦士の如き顔付きで冷静に尋ねる。


「どうする? 彼等の後を追って逃げるか?」

「誰が俺達の利益になるか分からない。あるいは、今近づいている奴らが原因……ジャミングの類いをされている可能性もある。――邪魔をするなよ、天之河」


 最後の言葉には氷のような冷たさが含まれていた。帰還の邪魔をするなら、()()()()()容赦しない、と。相手を気遣うなどといった邪魔は許さない、と。


 向けられる横目は鋭く、冷たく、警戒心が宿っている。光輝に対する警戒心が。


 光輝は、そんなハジメの目を真っ直ぐに見返した。


「ごめん。約束はできない」


 揺るがず、ぶれない、鉄の意志が宿った言葉だった。誰も傷を負わずに済むのなら、自分は、その道を選ぶのだと。


 魔王の万物を貫く槍のような鋭い目と、勇者の森の泉の如き静謐な目が交差した。


「面倒さは相変わらずか」

「自覚はある。巻き込んでおいて、本当にごめん」


 ハジメは「ふん」と鼻を鳴らした。


「お前が譲れないように、俺も譲れない。せいぜい、死ぬ気で俺を止めるんだな」

「ああ。覚悟はできてる。その結果がどうなっても受け入れるよ。最悪、自分でどうにかするから、南雲は気にせず帰ってくれ」

「当たり前だ」


 静かにジャスパーを下ろし、散乱する機械の残骸の隙間に横たえ、他の残骸も被せてカモフラージュしながら、光輝はハジメのきっぱりした物言いに苦笑を浮かべた。この男は、本当に躊躇いなく帰るだろうなぁと。


 以前の宙に浮いたような不安定な光輝なら、たとえ光輝の意志を無視し、四肢を砕いてでも問答無用に連れ帰っただろう。雫達の憂いを晴らすことを優先して。


 なのに、今は一人で帰ってくれる。それは、光輝を意志ある人間として認めてくれているからか。


 実際のところは分からない。けれど、〝嫌いな奴〟と言ってくれたから……きっと、そうなんだろう。と、光輝は苦笑いを深めた。


 もう直ぐそこまで来ている気配を捉えつつハジメの隣に立ち、ぽつりと言葉を零す。


「いろいろ、ごめん」

「次に謝ったら殺す」

「それじゃあ、巻き込まれてくれてありがとう」

「次に感謝したら殺す」

「生きて帰れる希望がないじゃないか!」

「自分から絶望に飛び込むドM勇者だろ、お前」

「誤解がすぎるぞ!」


 なんて軽口を叩きつつ、二人並んで、台座の上から通路の一つを睥睨すること数秒。


 〝奴ら〟は、遂に姿を見せた。


「あらま。どうりで重そうな足音なわけだ」

「……参ったな。本当に、ファンタジーの欠片もないじゃないか」


 二人して微妙に顔が引き攣る。それも無理はないだろう。何せ、


『生体反応、三。〝禁忌〟の残骸を確認』


 発せられたのは感情の欠片もない無機質な声音で、


『スキャン開始――完全体の〝禁忌〟を確認。回転式拳銃及び刀剣類』


 その体は硬質な輝きを放つ灰色の金属と無骨な骨格のみで構成され、手には近未来的なライフルを持った、


『対象をサーチ。登録なし。人類禁令第三条違反を確認』


 人型機械――アンドロイドだったのだから。


『――〝捕縛〟開始』


 その瞬間、三十体のアンドロイド達が一斉に引き金を引いた。


「問答無用か」

「くそっ」


 近未来的なデザインを裏切らず、飛び出したのは青白いレーザー、三十条。槍衾の如きそれを、ハジメと光輝は左右に飛び退く形で回避した。


 横っ飛びしながら、ハジメはドンナーを抜いて照準。レーザーにはレーザーモドキなレールガンで返礼をと思うが、


(チッ、やっぱり纏雷もまともに発動しないか)


 レールガン一発に最上級魔法クラスの魔力が必要など、燃費が悪いにもほどがある。


 仕方なく、そのまま一体の頭部に向けて発砲。耳に心地よい炸裂音が轟き、弾丸は狙い違わず目標を撃ち抜いた。


 敵アンドロイドは、太くシンプルな骨格に人の頭蓋をデフォルメしたような大きめの頭部という外観だ。


 故に、どう見ても頭部が重要部分と狙ってみたが案の定だったらしい。ドンナーの弾丸は、電磁加速はされていなくとも見事にメタリックなアンドロイドの額をぶち抜き、一撃でその青白く輝く機械の目から光りを奪い取った。


(通常弾でも貫けるのは幸いか。だが、宝物庫の発動すらやばいとなると……手持ちの残弾は……)


 24発。否、今使った分を差し引いて23発。普段から念のために懐に入れてある予備弾を合わせて、だ。もちろん、義手に仕込まれているスラッグ弾やニードル弾などもあるが、敵の増援を考慮するなら無駄遣いはできない。


「ま、やり方次第だがな」


 いつも通りニヤリッと不敵に笑って、向け直されたレーザー兵器の銃口へと自ら突進。放たれた無数の閃光をスライディングの要領でかいくぐり、一番近い一体の頭部を下から撃ち抜く。


 そして、背筋の力だけで飛び起きながら回し蹴りを放ち、今潰したアンドロイドを砲弾代わりに。


 高速道路を走るトラックに衝突されたような勢いで吹き飛んだアンドロイドが、数体の仲間を巻き込んで諸共に破片を撒き散らす。


 と、同時に、その時には更に二体のアンドロイドが頭部を穿たれて倒れ込んだ。


 そこへ、あまりの近距離からレーザーライフルでの攻撃は不利と判断した一体が、腕の大型ナイフをカシュンと伸長させて刺突してきた。それを、ハジメの手が受け止める。


「残念。俺の左腕の方が優秀らしい」


 そう、黒に真紅のラインが禍々しくも美しいアーティファクトの義手によって。


 アンドロイドは無言のまま押し込もうとするが……


『分析不能。分析不能。人体の限界を超えた異常な膂力を確認。原因ふめ――』

「だろうな」


 わざわざ言葉にしたのは、アンドロイドの動揺だったのだろうか。いくら義手が頑丈でも、機械のパワーを以てすれば押し倒すくらいわけがないはずなのに、まるで巨大な山を相手にしているかのようにピクリとも動かせなかったから……


 だが、それを確認する機会は与えられなかった。義手の〝振動破砕〟が発動。大型ナイフが木っ端微塵に砕け散ると同時に、圧倒的速度で振るわれた左フックがアンドロイドの頭部に炸裂した。


 頭部の表面が砕け散ると同時に、破滅的な振動が内部に伝わって運命が確定。アンドロイドは一瞬の痙攣の後に崩れ落ちた。


 そしてやはり、その間にも右手は別の生き物のように動いて残弾二発を発砲。だが、それらは素直に敵を穿ったりはしなかった。


 その辺りに無数に転がっている機械の残骸に反射して、それぞれ二体のアンドロイドを別々に、真横から強襲したのだ。強制的に明後日方向を向かせられた二体は、自らが放ったレーザーにより仲間二体を犠牲にした


 レーザーを受けた二体は痙攣でもしているかのようにガクガクと震えたあと、真横から撃たれた先の二体と共にバランスを失って崩れ落ちる。


 更に、二発で前列四体の隊列を乱した結果、後方から狙っていたアンドロイド達のレーザーも、その四体に当たるか、掠って軌道がずれてしまう。


 そうすれば、幾条もの青白い閃光がハジメの周囲を虚しく流れていく。まるで、閃光そのものがハジメを避けているかのように。


 左手を懐へ。掴み取ったのは六発の弾丸。同時にドンナーのシリンダーを跳ね上げ薬莢を排出し、親指で弾いて高速回転させる。そこへ、指弾の要領で弾丸を弾き飛ばせば、まるで手品のように装填完了。


 宝物庫を利用した神速の空中ガンスピンリロードに比べれば遥かに遅いが、それでも地球のガンマンが見たら目玉が飛び出しかねない超絶技巧の高速リロードだ。


 一秒にも満たない間に腹を満たしたドンナーは、薙ぎ払うような腕の動きに合わせて一瞬のうちに六体を粉砕した。


 先程、味方のレーザーを喰らった四体も、しばらくは痙攣状態のまま動きそうにない。


 ほんの僅かな時間で半数以上を撃破したハジメは、レーザーを目視で回避しながら再び指弾リロード。


(やはりライセンと同じ。〝身体強化〟や〝瞬光〟のような内部オンリーの魔力は霧散しない……だが、俺が破格の効率で発動できる〝錬成〟すら、まともに発動しないのは困った話だな)


 敵と己、双方の分析と考察を加速された思考の中で行いつつ、ハジメは視線を僅かに流す。気配はずっと捉えていたが……


「――」


 リンッと、ハジメの愛する炸裂音とは真逆の流麗な音が鼓膜を撫でる。それはまるで、静閑な夜を彩る鈴の音。およそ戦場には似つかわしくない、あまりに澄んだ音色。


 だが、もたらされる結果は凶悪で絶大だ。


 ゆらり、ゆらりと、風に舞う木の葉の如く。


 道行く人が誰も、それを気にしないのと同じように、油断すればあっさり意識の外に出てしまいそうな自然な動き。


 ただ一歩踏み込むだけで飛び交うレーザーの死角へするりと潜り込み、気が付けば敵の背後へ抜けている。


 そして、忘れていた現実を思い出したみたいに、交差した敵が斜めにずれるのだ。いとも容易く、斬鉄が行われるのだ。リンッと澄んだ音色と共に。


 斬る。


 その概念を突き詰めたような一刀両断。まさに、一撃必殺。


 恐ろしきは、そこに静寂しかないこと。殺意も敵意も、まして戦意すらもない。ただ風が肌を撫でたと思えば、斬られている。そんな剣撃の極致が、そこにはあった。


 ハジメの技法が合理の究極というならば、光輝のそれは武の(いただき)というべきか。


 最初は、アンドロイド達が会話できると踏んでいろいろと言葉を尽くしていたようだが、応答すらしてもらえず問答無用の攻撃が続いたことで、光輝も踏ん切りがついたらしい。


 相変わらずスタートが遅い点、ハジメ的にぶっ飛ばしてやりたくなるところだが……


 アンドロイドに言葉を向けつつも、その間、ハジメが標的にされないよう半分近くを己に引きつけるよう立ち回っていたこと、現状、既にその半分を倒していることから〝一発だけなら誤射〟は勘弁しておく。弾丸も浪費したくないし。


『対象を〝脅威〟と断定。〝処分〟を実行』


 アンドロイドの認識が変わったようだ。だが、その判断は、あまりに遅かった。


 とはいえ、それも仕方のないことだ。彼等の中に、〝勇者〟と〝魔王〟のデータなどあるはずがないのだから。


 全てのアンドロイドがスクラップに成り果てたのは、それからきっかり五秒後のことだった。




いつもお読みいただきありがとうございます。

感想・意見・誤字脱字報告もありがとうございます。


※ネタ

・指弾リロード

 映画ダークタワーに出てくるリボルバー使いの技を参考にしました。数々の厨二心を擽るガンアクションがあります。聖剣をリボルバーに鍛え直したという設定の時点で、白米の心はぴょんぴょんした。

 〝ダークタワー リロード〟でググればロマン溢れる超絶技巧が見れますよ!


※次回更新についてお知らせ

 新章始ったばかりで大変恐縮なんですが、ちょっと11月の予定が立て込んでおりまして、毎週更新は難しい状況です。隙あらば書く所存ですが、更新をお約束できる自信がなく…

 なので、一応、次回更新は12月最初の土曜日とさせてください。

 申し訳ないですが、よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白くて夏休み中だけで5周もしてしまいました!
[一言] おっぱいリロードという よくわからないじゃなかった ロマンあふれる作品もあります おっぱいリロードで検索
[一言] ダークタワーのリロード、これは!!!と思っていました
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