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ありふれた職業で世界最強  作者: 厨二好き/白米良
ありふれたアフターストーリーⅢ
360/541

トータス旅行記⑲ 誓約のきらめき☆魔法少女に、なれよ



 ウルの町、北部穀倉地帯。


 かつて六万もの魔物の大群が押し寄せ、その蹂躙劇が起きた伝説の場所。今は〝豊穣の女神〟のおかげもあって、黄金の稲穂がさざ波を作る美しい名所になっている。


 そんな名所で、


「愛と勇気を~♪ 一発の弾丸に変えて~♪ 撃ち抜くの~~♪」


 天使が踊っていた。即席で作られた舞台の上、黄金のさざ波と燦然と輝く太陽を背に、純白のふりふりミニスカートの衣装を着て、アイドルのように歌って踊る天使――ミュウが。


 万人を虜にする笑顔、華麗なステップ、伸びやかな歌、手にはキラッキラッと七色の星形エフェクトを放つステッキマイク。


 そして、そのステッキマイクを、


ハート(心臓)のド真ん中を♪」


 ビシッと天に向ければ、途端に放たれる七色の閃光!


 その姿、まさに歌って踊れる魔法少女! 銃撃と爆撃のマジカル・ミュウだ!


 非常に可愛らしい。詰めかけているウルの住民はヒャッハー! と大いに盛り上がっている。南雲一家が写真で激写している!


 そして、そんな可愛い魔法少女には、もちろん仲間がいる。


「わる~い奴らは~♪ 権力でお仕置きしちゃうぞ!」


 同じく、ふりふりミニスカート(黄色)の衣装と、マジカルなステッキマイクを持って見事なウインクを決めているのは、何を隠そう、この国の王女リリアーナ――否、権力と煽動の魔法少女! プリティ・リリィである! 


 そして、ステッキを掲げれば、途端に迸る紅い光! それを目にする度に、ウルの住民達はフゥッ! フゥッ! と最高に盛り上がっていく! 


 だがしかし、このステージの主役はマジカルでもプリティでもないのだ。


 そう、ユニットのリーダーは、豊穣と勝利の魔法少女――


「慈しんで~♪ 育んで~♪ 大切にしてね✩ でないと~ ガス爆発! お・こ・し・ちゃ・う・ぞ♡」


 ミラクル・アイ(にじゅうろくさい!)なのだ! もちろん、ふっりふりでピンクのミニスカートに、マジカルなステッキマイクを装備。華麗なステップと共に、横ピースを目元に添えて渾身のウインク! 七色の星が飛び散る! 今、ミラクル・アイは最高に輝いている! そして、目は死んでいる!


「……むごい」


 アイドル魔法少女ユニットにより特別ステージが熱狂の渦に包まれている中、ユエのぽつりと零した呟きが妙に響いた。きっと、ハジメ以外のだいたい全員の心情を完璧に代弁しているからに違いない。


 さて、なぜ六万の大群VSハジメ達の過去映像上映会が、こんなアイドルのライブイベントみたいになっているかと言うと……


 上映会は、つつがなく行われたのだ。だが、行われたが故に、それが原因となってしまったのだ。


 というのも、ミラクル・アイとは別の意味で、むごすぎたのである。


 血風が舞い、大地がめくれ上がり、大気が爆ぜる。轟音、爆音、そして炸裂音。電磁加速された弾丸が一発で遙か後方まで敵を穿ち、血肉のシャワーが降り注ぐ。篠突く雨のようなロケット弾が、やっぱり血肉を巻き上げ空気を赤に染め上げる。火炎が肉を焼き、超重力が地面の赤い染みを量産する。


 ひしめく六万の魔物が冗談みたいに、ただの肉塊に成り果てていくのである。それこそ、数千、数万と。


 当時は、住民にとって命がかかっていた。町に残った者も、戦わんとする意志を持った者ばかりだった。だから、散っていく魔物を見ても、全てが終わった後も、彼等の感情の大部分を占めていたのは興奮と安堵だった。


 だがしかし、今は平穏の時。ここにいるのは基本的に戦いと無縁の農民ばかり。冒険者や自警団による魔物との戦闘くらいは見たことがあっても、それはせいぜい数体程度のこと。


 そんな、普通の農村の人々が、だ。目撃しちゃうわけだ。


 阿鼻叫喚の地獄絵図を。リアル屍山血河を。


 伝説は、物語の中にあるからこそ美しい。伝え聞く話は、美化されているからこそ面白い。


 多くの人間にとって、戦いを楽しめるのは想像の域にあるからこそなのだ。


 というわけで、ウルの住民、半数白眼事件の発生である。あと、リバース事件もそこかしこに。


 一般人の感性からして、魔物とはいえ生き物の血肉や臓物で大地が埋め尽くされるというのは、それなりに精神的ダメージを負うレベルの凄惨な光景なのだ。


 ハジメ達は感覚が少し麻痺していたようで、そのことに気が付いた時には時既に遅し。むしろ観客席の方が阿鼻叫喚の地獄絵図である。咄嗟にティオが魂魄魔法で精神安定を図らなかったら、きっともっと大変になっていた。


 もちろん、智一と薫子、そして昭子も白眼を剝いて倒れかけた。そちらは香織とユエが対処したが。


 愁と菫、それにレミアもちょっと青ざめてはいたが、どうにか持ち堪えたのは大したものだというべきか。八重樫家は……ちょっと特殊なご家庭である点から推して知るべし。


 とまぁ、そういうわけで、耐えたウルの住民達は白眼&リバース民を介抱しつつ、女神や魔王の手前「お、おぉ~」と感嘆っぽい声を上げながらも表情を引き攣らせ、乾いた空気を漂わせることになったわけだが……


 そんな彼等を見て、誰が一番、罪悪感を覚えるかというと――


「せ、煽動したのは愛子だし、自業自得と言うべきなのかしらね?」


 娘の、死んだ目でキラッキラしている有様を見て昭子が引き攣った表情で言う通り、愛子だったわけだ。


 愛子は、〝魂魄魔法だけでは自分達が去った後が心配。何かケアできないか〟、〝例えば少しでも今日の想い出を良いものにできないか〟、〝住民の皆さんに、何か自分ができることはないか、なんでもしますから!〟とハジメへ必死に相談したのである。


 しちゃったのである。必然的に、ハジメは「ん? 今、なんでもするって言った?」と返して……この有様になったわけだ。


「いや、昭子さん。一番悪いのはうちの息子よ。本当にごめんなさい。純粋な愛ちゃんをいつもいつも酷い道に連れ込む不肖の息子で」


 菫が深々と頭を下げる。まったくもってその通りである。内心、確かにハジメも原因だと思っているのか、昭子は引き攣り笑いを浮かべたまま肯定も否定もしなかった。


「それで、ハジメ。そろそろ説明してくれない?」


 皆を代表して雫が、だいたいの原因のくせに未だに娘の晴れ舞台を記録に残すことに大忙しで、愛子もリリアーナも眼中にない様子の酷いハジメに問いかけた。


「説明? 何をだ?」

「今日の出来事を即席ライブの思い出に塗り替えようというのは、まぁ、百歩譲っていいとしましょう」


 だがしかし。


 あの衣装とか、ステッキとか、何よりどうして即興であんな歌って踊ってができるのかとか。愛ちゃん先生が、どうして目は死んでいるのにキラッキラな感じで踊り続けていられるのか、とか。


「――吐きなさい。何をしたの?」


 どう見ても異変が起きている。なら、原因はハジメである。1+1=2と同じことだ。という雫に、ユエ達も異論はないらしい。全員がユエばりのジト目で見ている。


 ハジメはカメラをしまい、神妙な顔付きで口を開いた。背後で、マジカル・ミュウとプリティ・リリィとミラクル・アイが二曲目に突入した。三人揃って片足をくいっ&ウインク! が美しい。


「ミュウがアニメを見て、魔法少女になってみたいというものだから」


 作りました、変身セット。と言っても、いつでもどこでも変身できるわけではない。原理は単純だ。〝宝物庫〟を利用した衣装のクイックチェンジである。なので、ハジメが数メートル以内にいないといけない。


 何せ、キラキラの魔力エフェクトと、着ている服を〝宝物庫〟にしまっている間はその光で包み込んでおく技、そして転送した魔法少女の衣装を寸分違わず着せないといけないのだ。六発の弾丸をシリンダーに入るよう完璧に転送する技術を持つハジメでなければできない絶技なのである。なお、衣装自体は自前のツテを頼って店に作成してもらっている。つまり、プロ仕様である。


「待ってください、ハジメさん。衣装チェンジは分かりましたけど、ミュウちゃんはともかく、愛子さんとリリィさんの体にフィットする衣装を、どうして持っているんですか?」

「ミュウが、お姉ちゃん達と魔法少女をやりたいというものだから」


 戦慄が駆け抜けた。つまり、ハジメはユエ達全員分の魔法少女服を用意している! そして、〝宝物庫〟の効果範囲にいる限り、いつでも魔法少女の恰好にさせられる危険性がある!


「ミュウは、ママや菫お祖母ちゃんとも一緒にやりたいと――」

「ハジメさん! しばらく私には近づかないでください!」

「ハジメ! あんた、宝物庫を今すぐ渡しなさい!」


 レミアママと菫お祖母ちゃんが真っ青になりながら後退る。


「ふむ。衆人環視の中、あの恰好をさせられるというのは中々……ハァハァ。それはそれとして、ご主人様よ。精神にも手を出しておるじゃろ? 見たところ、あのステッキが怪しいと思うのじゃが?」

「ああ、正解だ」


 ハァハァをスルーして、ハジメは「ふっ」と笑った。まるで、自分の作品を誇る職人のように。誰もが思った。「あ、MAD錬成師のスイッチ入ってる……」と。


「あのステッキ型アーティファクト、名を〝誓約のきらめき✩〟という」

「……ハジメ、正気に戻って」

「シア、覚えているか? カム達が、ガハルド達皇族連中に付けさせたアーティファクトを」

「確か、〝誓約の首輪〟でしたね。……誓約を、命を以て遵守させる魂魄魔法が付与されたアーティファクトです……うわぁ、すっごい嫌な予感がしますぅ」

「ふっ、その通りだ。〝誓約のきらめき✩〟――それは、魂魄魔法により、正気のまま魔法少女になることを強制するアーティファクトだ。命までは取らないが、魂レベルで魔法少女を完遂せずにはいられなくなる」


 なに言ってんだこいつ……という視線が全員から注がれる。


 なお、〝魔法少女を完遂〟とは、主に魔法少女アニメのオープニングやエンディング風の歌って踊ってを完遂するまで強制される、というものだ。魂に転写された踊りと歌なので、それはもう魂がこもったステージが実現する。たとえ、目が死んだとしても。


 魔法少女ユニット、三曲目に突入。盛り上がりは最高潮。三人、完璧にシンクロしたダンスが素晴らしい。あと、全員、今気が付いたが、最前列にシモン教皇がいる。ヘドバンする勢いでノリにノリまくっている。


 それをスルーして、ハジメは、なぜか黄昏れているような表情で遠くを見ながら語り出した。


「最近、変な組織とか各国政府の裏の連中とか、いろいろ面倒な連中が多くてな……」

「い、いきなり話が変わったね?」

「それで、ちょっとストレスなんかも感じてて、俺は暇つぶしに〝俺流嫌がらせ百八式〟というものを考え始めたんだ」

「……ごめんなさい、ハジメ。そこまで追い詰められていたなんて」

「不覚の極みじゃな。ご主人様の頭がパァになっておる」


 取り敢えずティオに銃撃。ありがとうございますっ。


「で、だ。どんな嫌がらせがいいだろうと頭を捻っているうちに、俺は天敵を思い出した。そう、クリスタベル達だ。ほら、あいつらふりふりミニスカートを着てる悪夢だろう? 見てるだけで正気度を削られるんだ。なら、まともな男が強制的にあの恰好にさせられて、正気のまま魔法少女アニメのテーマ曲っぽいものを歌って踊らされたら……」


 今度は、男性陣が戦慄した。なんてこと考えやがる……と。


「名付けて、俺流嫌がらせ百八式〝俺と誓約して魔法少女になってよ!(強制)〟だ」


 既に、幾人か犠牲者が出ている。主に、日本のお役人さん(非合法員)だ。彼等は、次の日には辞職したらしい。誰も自分を知らない南の島で、しばらく人生を見つめ直したいそうだ。


 無理もない。ガチムチに鍛え上げた、酸いも甘いも噛み分けたエージェントが、住宅街のド真ん中にある公園でふりふりミニスカート姿にされ、強制的にキラッ✩とかさせられたのだから。通報待ったなし。


「なんてこった……ハジメ。前に、うちの会社の提携先にプロの作曲家を紹介してもらっていたのは……」

「へっ、流石プロだぜ。俺の無茶な要望を聞き入れつつ、『ミュウちゃんが天使すぎる! イメージ湧いてきたぁ!』って五曲も作ってくれたんだからな」


 なんということでしょう。あの酷い歌詞だけど旋律自体は素晴らしい曲、その道のプロの力作らしい。娘のためなら妥協しないパパの行動力、恐ろしい。


 いつの間にか最後の曲へ。ミラクル・アイからやけくそ感が迸る。キラッキラッ!! 


 それを全員で眺めながら、やはりユエが代表して言う。


「……むごい」

「だって、愛子が『なんでもする』っていうから。ミュウに、故郷の世界でアニメみたいな魔法少女やらせてやれるチャンスだと思ったから。一人だと流石に尻込みすると思って、女神と王女が一緒なら心強いだろう? 元から、エリセンでライブさせようと思ってたし。お前等全員と」

「「「「「「!?」」」」」」


 ユエ達が一斉にバッとハジメを見た。この男っ、なんて恐ろしい計画を!? 娘のためなら平気で外道になりやがる! みたいな顔だ。


 曲が終わった。マジカル・ミュウを真ん中に、左右をプリティ・リリィとミラクル・アイが固めて、完璧なポージング。万雷の拍手が鳴り響く。


「ハジメ、あんた後で愛ちゃんとリリィちゃんに土下座しなさい。あと、しっかりケアしなさいよ」

「……愛子は、まぁ分かったよ。でもリリィはいいだろ?」

「リリィちゃんの扱い! 雑すぎでしょ!?」


 流石に怒る菫お母さん。また「王女なのに……」と乾いた笑みを浮かべる義娘は見たくない。だが、そこで衝撃の事実が。


「? なんか勘違いしてるみたいだが……リリィに誓約はかかってないぞ」

「「「「「え?」」」」」

「ステージに上がる前の打ち合わせで、ミュウが一回歌と踊りを見せただけで完コピしたんだよ。めっちゃノリノリだし、流石王女だな」


 リリアーナ姫、天職〝アイドル〟の疑いあり。


 それはそれとして、見事魔法少女を完遂した愛子が崩れ落ち、しかし、熱狂冷めやらぬ観客が非情のアンコールを繰り返し、ミュウとリリアーナが「しょうがないの!」「も、もう! 困りましたね!」と満更でもない感じで期待に応えようとして、愛子の口から何やら白い靄みたいなものが抜け出しかけているので、ハジメは急いでニュー○ライザー・ニュー! して観客を散らしていった。


 そうしてこの日、ウルの町に新たな伝説が生まれ、長く語り継がれることになったのだった。


 なお、その後、サウスクラウド商会という謎の商会が、提携先のユンケル商会を通して魔法少女グッズを販売してみたのだが……飛ぶように売れたとか。






 愛子の精神を魂魄魔法取得者総出で癒やした後。


「ハジメ君、いっそひと思いに死なせてください。無理ならせめてニュー○ライザー・ニューしてください」


 と真顔で告げた愛子に、ハジメは本気の土下座で謝罪した。そして、ニュー○ライザー・ニュー! して、ミラクル・アイの記憶を抹消した。愛子の中には、もはや可愛いマジカル・ミュウとプリティ・リリィの記憶しかない。


 紅いピカッの後、「素敵なステージでしたね! ミュウちゃんもリリィさんも可愛かったです!」と絶賛する愛子を、皆、触れたら壊れそうなガラス細工を扱うような気持ちで接する。


 だが、そこで実の母親が好奇心を優先した。


「で、愛子がハジメくんに初めてを奪われたシーンは、いつ見られるの?」

「お母さん、語弊! 言葉には気を付けて!」


 愛子はごほんっと咳払いを一つ。


「絶対に見せません」

「そんな! 愛ちゃん先生、ずるい! 私は見せたのに!」

「自分から見せたがったんでしょう!? 私はいやですよ!」


 香織のブーイングと、雫やミュウ、レミア達の興味深そうな視線に、愛子は断固拒否を示した。


「愛子さん、どうしてそんなに嫌がるんですか? 命の危機に、ハジメさんが口づけで救ってくれたなんて、物語の中のヒロインみたいで素敵ではありませんか」


 妄想恋愛百戦錬磨になるくらい恋愛小説大好きなリリアーナが、うっとり顔で言う。


 愛子は、そんな夢見がちなお姫様に、現実を突きつけた。


「そうです。私、死にかけてました。毒が入って、たぶん白眼とか剝きながら痙攣してました」


 愛子がチラッとハジメを見る。


「ちょっと泡も吹いてたな」

「「「「「……」」」」」


 白眼で、痙攣し、泡を吹いた自分のキスシーンを見せたい? それはどこのティオだ。いや、変態だ。


 愛子は両手で顔を覆って蹲った。当時は濃厚な口づけに心がぴょんぴょんしてしまっていたが、冷静に考えると割と酷い状況だ。


 その状況を想像して、女性陣が押し黙る。口移しで飲まさざるを得なかったということの意味を、ようやく察する。それは確かに、見せたくないに決っている。


「そもそも! 住民の皆さんを煽動する際、協力したら見せないようにしてやるってハジメくんと約束しましたもん! 守ってくれますよね!?」


 やっぱりやけくそ気味に、愛子がハジメを睨む。ハジメは肩を竦めた。


 どうやら過去再生しようとしても、今度はハジメが全力で阻止しそうだと分かり、同時に愛子が本気で嫌そうだったのでユエ達も自重することに。


 そこで、愁が雰囲気を変えてハジメの肩に手を置いた。


「ハジメ。例の場面は見られるか?」


 その言葉に、緊張が戻った。ぴんっと張り詰めた空気が漂う。


 言わずもがな、清水を撃ったシーンのことだ。


 当時の状況も、ハジメ達の心情も真意も、既に全て聞いている。故に、もう言葉はいらない。ただ、父親として息子のしたことを見ておきたい。そう、静かな目で訴える愁に、ハジメは苦笑い気味に肩を竦めた。


「できるぞ、父さん。ユエ、頼めるか? 時間経過順に出来事を知っているお前の方が、ピンポイントで過去再生できるだろう」

「……ん。任せて。なんなら、愛子のところだけ〝見せられないよ!〟のモザイク君を入れてもいい」

「シリアスな場面だから、それはやめような」

「……ん」


 次いで、ハジメは智一達と香織達にも視線を巡らし、見るも見ないも自由だと伝えつつ、


「ティオ。念のため、魂魄魔法で人払いを頼む」

「承知した」


 と、邪魔が入らないようにもしておく。ちなみに、シモン教皇はうっかり住民と一緒にニュー○ライザー・ニュー! されて、今はどこかを彷徨っている……はず。


 そして最後に、ハジメはミュウの前に立ち、


「それじゃあ、ミュウ。俺達は向こうに行ってような?」

「!? またなの!? またミュウだけ除け者なの!?」


 ちょっと予想していたのだろう。さりげなくシアの後ろに隠れて存在感を消そうとしていたミュウが、盛大に不満をぶちまけた。


「パパ酷い! ミュウだってパパの昔のこと知りたいの! なんでミュウだけダメなの!?」

「レミアがこわ――ごほんっ。情操教育に悪いからだ」


 レミアママの説教が活きる! ハジメパパは反省できるパパなのだ。


「断固拒否! 断固拒否!! ミュウは絶対に見るの!」


 シアの足にヒシッと抱き付いて、意地でもこの場を離れない! と訴えるミュウ。シアが困った表情になっている中、レミアが「こら、ミュウ! わがまましないの!」と叱るが……


「い~や~~な~~の~~み~~る~~の~~!!」


 寝転がって、手足をジタバタ。お手本のような駄々を捏ね始めた。


 その大声に、ティオの魂魄魔法による人払いをしていても、遠目に何人かの住民達が何事かと視線を向けてくるのが分かる。


 ハジメはレミアを見た。レミアは困り顔で首を振る。


 ミュウは、同年代の子達からすれば、遙かに濃厚な経験を積んだ子だろう。これから先も、ハジメ達という特異点のような家族と共にある限り、波乱の人生が待っている可能性は十分にある。


 なら、厳しく残酷な光景を見ておくというのは、有用といえば有用なのかもしれない。


 とはいえ、だ。ミュウはまだまだ年齢一桁の幼子。必要に迫られているわけでもないのに、今からそんな光景を積極的に見せる理由もない。どんな道を選ぶにしろ、じっくり育っていく時間くらい、ハジメ達が余裕で守るからだ。


 なので、ジタバタしながら器用に回転したり、不服のブリッジをしたり、ブレイクダンスモドキにまで発展させたりしても、ダメなものはダメだ。


「ミュウ、いい加減にしろ。聞き分けるんだ」

「や! パパなんて知らないの!」

「そうか……ならしかたない」


 おや? もしやOKが出た? とミュウはうつぶせ状態からそろりと顔を上げる。


 笑顔のハジメパパがいた。


「俺流嫌がらせ百八式に、こんなのがある」

「え? パ、パパ?」


 嫌な予感が……表情が引き攣るミュウを、ハジメはさっと抱き上げ、笑顔のまま言った。


「――〝たかい、たか~~い! 高度四千メートル!〟っていうんだが」

「パパ、ミュウはあっちでジュースを飲みたいの。もう、ジュースにしか興味がないの」


 大変、聞き分けがよろしい。


 ちなみに、いずれ〝魔王流〟と他称される嫌がらせ百八式が一つ〝たかい、たか~~い! 高度四千メートル!〟だが、魔王様の気分次第でロケット付きの〝たかい、たか~~い! 地球外!〟に変わったりする。もちろん、二度と落ちてこない。


「というわけで、ジュースにしか興味がなくなったミュウと一緒に、俺達は向こうに……あ、シモン教皇がふらふら彷徨ってるから、あの人も一緒にいる。終わったら声をかけてくれ」

「魔王パパには……勝てなかったの……」


 抱っこされたまま連れて行かれるミュウに、念のためとレミアもついていく。


 それを見送りつつ、


「なぁ、南雲愁。まさかハジメくん、本気じゃないよな? ミュウちゃんがあのまま駄々を捏ねていても、やるつもりじゃなかったんだよな?」

「それは当たり前だろ。愛娘にフリーダイビングなんてさせないって」

「だ、だよな……」

「やるなら、たぶん一緒にやるな。こう、インストラクターと一緒にやるスカイダイビングみたいに」

「やるのかよ!」

「たぶんその場合、ミュウちゃんは普通に楽しむと思うけどな」

「ミュウちゃんが強心臓すぎる!」


 愁の予想にユエ達は間違いないと頷き、親達は引き攣り顔を見せるのだった。


 その後、なんだかシリアスなシーンを前にグダグダな雰囲気になりつつも、愁と菫を筆頭に全員が過去映像を見届けた。そして、ちょうどそのタイミングでフォスが携帯食を持ってきてくれたので、一行はフォスに感謝と別れを告げ、北の山脈地帯に出発することにした。


 再びフェルニルに乗り込みつつ、正気を取り戻して集まってきたシモン教皇や町の住民に別れを告げる。


「姫様! この旅で他の奥方達との差を埋めなされ! 既成事実じゃ! ワシが死ぬまでに姫様の子の顔を見せてくだされ!」

「な、なななな、こ、子供って……も、もうっ、シモン様ったら!」


 リリアーナ姫、別れ際のシモン教皇の言葉に、満更でもない様子でハジメへチラッチラッと視線を向ける。合わせて、ユエ達もじっと視線を……


 愁と菫以外の親達がなんとも言えない表情。


「愛子殿、見事じゃった! ワシ、あの感動は死ぬまで忘れん!」

「は? あの感動? ああ、ステージのことですね! はい、私も忘れません! ミュウちゃんもリリィさんも素敵でした!」

「うむ! ()()()素敵じゃった! また見られる日を楽しみにしておる!」

「私もです!」


 ギリギリセーフな会話をするシモン教皇。彼は愛子の記憶が自主ピカッされていることを知らないのだ。


 なので、


「ではまたな! ミラクル・ア――」


 ギリギリで、ハジメが愛子を抱き寄せて耳を塞ぐファインプレー! 全員が冷や汗を噴き出しつつも安堵の吐息を漏らす。だが、


――愛子様っ、なんと仲睦まじい!

――奥方が勢揃いの中で、一人だけ抱き締められるとは! やはり正妻は愛子様!

――愛子様万歳! 豊穣と勝利の女神様万歳!

――ミラクル・アイこそ正義!

――ミラクル・アイ! 万歳!


 住民の皆さん、更にヒートアップ。聞こえないよう、ハジメもますます強く抱き締める。


「ハ、ハジメくぅん。ダメですよ~。いきなり何をするんですかぁ~」


 満更でもなさそうな愛子に、この時ばかりはユエ達も微妙な視線を向け、昭子を筆頭に親達は苦笑いを浮かべた。


 そうして、当人達の微妙な雰囲気の中、わぁああああっという大歓声と、


――また来てください!! 魔王様! 女神様! 


 そんな言葉を贈られつつ、ハジメ達は北の山脈地帯へと飛び立ったのだった。


いつもお読みいただきありがとうございます。

感想・意見・誤字脱字報告もありがとうございます。


優花の前に愛ちゃんが魔法少女に……

すみません、ちょっと疲れていたんです……


※ガルド、日常更新しています。表紙の鈴が可愛い。


※宣伝で恐縮ですが、9月25日、新刊が出ます。

挿絵(By みてみん)

ありふれた初の短編集になります。基本は特典SSのまとめですが、書下ろしも収録されています。

詳細は活動報告またはオーバーラップ様のHPにて。

よろしくお願い致します。



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― 新着の感想 ―
アイドルリリィの才能はここで開花したのか……
[良い点] 小編集も買います! の最後の前に、清水くんを撃った場面。親御さんたち、香織たちの反応を敢えて避けたのは、白米先生御自身のセイフティのためかしら…などと思った点。 平和な時代に殺戮場面は見せ…
[一言] シリアス「探さないで下さい。しばらく旅に出ます。少ししたら戻ります」
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