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ありふれた職業で世界最強 作者:厨二好き/白米良

第二章

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やっぱり残念なのはハウリア



 樹海の中で人間族と亜人族が共に歩いている。

 その有り得ない光景に、目の前の虎の亜人と思しき人物はカム達を裏切り者を見るような眼差しを向けた。その手には両刃の剣が抜身の状態で握られている。周囲にも数十人の亜人が殺気を滾らせながら包囲網を敷いているようだ。

「あ、あの私達は……」

 カムが何とか誤魔化そうと額に冷汗を流しながら弁明を試みるが、その前に虎の亜人の視線がシアを捉え、その眼が大きく見開かれる。

「白い髪の兎人族…だと? ……貴様ら……報告のあったハウリア族か……亜人族の面汚し共め! 長年、同胞を騙し続け、忌み子を匿うだけでなく、今度は人間族を招き入れるとは! 反逆罪だ! もはや弁明など聞く必要もない! 全員この場で処刑する! 総員かッ!?」

ドパンッ!!

 虎の亜人が問答無用で攻撃命令を下そうとしたその瞬間、ハジメの腕が跳ね上がり、銃声と共に一条の閃光が彼の頬を掠めて背後の樹を抉り飛ばし樹海の奥へと消えていった。

 理解不能な攻撃に凍りつく虎の亜人の頬に擦過傷が出来る。もし人間のように耳が横についていれば、確実に弾け飛んでいただろう。聞いたこともない炸裂音と反応を許さない超速の攻撃に誰もが硬直している。

 そこに、気負った様子もないのに途轍もない圧力を伴ったハジメの声が響いた。“威圧”という魔力を直接放出することで相手に物理的な圧力を加える固有魔法である。

「今の攻撃は、刹那の間に数十発単位で連射出来る。周囲を囲んでいるヤツらも全て把握している。お前等がいる場所は、既に俺のキルゾーンだ」
「な、なっ……詠唱がっ……」

 詠唱もなく、見たこともない強烈な攻撃を連射出来る上、味方の場所も把握していると告げられ思わず吃る虎の亜人。それを証明するように、ハジメは自然な動作でシュラークを抜きピタリと、とある方向へ銃口を向けた。その先には、奇しくも虎の亜人の腹心の部下がいる場所だった。霧の向こう側で動揺している気配がする。

「殺るというのなら容赦はしない。約束が果たされるまで、こいつらの命は俺が保障しているからな……ただの一人でも生き残れるなどと思うなよ」

 威圧感の他にハジメが殺意を放ち始める。あまりに濃厚なそれを真正面から叩きつけられている虎の亜人は冷や汗を大量に流しながら、ヘタをすれば恐慌に陥って意味もなく喚いてしまいそうな自分を必死に押さえ込んだ。

(冗談だろ! こんな、こんなものが人間だというのか! まるっきり化物じゃないか!)

 恐怖心に負けないように内心で盛大に喚く虎の亜人など知ったことかというように、ハジメがドンナー・シュラークを構えたまま、言葉を続ける。

「だが、この場を引くというのなら追いもしない。敵でないなら殺す理由もないからな。さぁ、選べ。敵対して無意味に全滅するか、大人しく家に帰るか」

 虎の亜人は確信した。攻撃命令を下した瞬間、先程の閃光が一瞬で自分達を蹂躙することを。その場合、万に一つも生き残れる可能性はないということを。

 虎の亜人は、フェアベルゲンの第二警備隊隊長だった。フェアベルゲンと周辺の集落間における警備が主な仕事で、魔物や侵入者から同胞を守るというこの仕事に誇りと覚悟を持っていた。その為、例え部下共々全滅を確信していても安易に引くことなど出来なかった。

「……その前に、一つ聞きたい」

 虎の亜人は掠れそうになる声に必死で力を込めてハジメに尋ねた。ハジメは視線で話を促した。

「……何が目的だ?」

 端的な質問。しかし、返答次第では、ここを死地と定めて身命を賭す覚悟があると言外に込めた覚悟の質問だ。虎の亜人は、フェアベルゲンや集落の亜人達を傷つけるつもりなら、自分達が引くことは有り得ないと不退転の意志を眼に込めて気丈にハジメを睨みつけた。

「樹海の深部、大樹の下へ行きたい」
「大樹の下へ……だと? 何のために?」

 てっきり亜人を奴隷にするため等という自分達を害する目的なのかと思っていたら、神聖視はされているものの大して重要視はされていない“大樹”が目的と言われ若干困惑する虎の亜人。“大樹”は、亜人達にしてみれば、言わば樹海の名所のような場所に過ぎないのだ。

「そこに、本当の大迷宮への入口があるかもしれないからだ。俺達は七大迷宮の攻略を目指して旅をしている。ハウリアは案内のために雇ったんだ」
「本当の迷宮? 何を言っている? 七大迷宮とは、この樹海そのものだ。一度踏み込んだが最後、亜人以外には決して進むことも帰る事も叶わない天然の迷宮だ」
「いや、それはおかしい」
「なんだと?」

 妙に自信のあるハジメの断言に虎の亜人は訝しそうに問い返した。

「大迷宮というには、ここの魔物は弱すぎる」
「弱い?」
「そうだ。大迷宮の魔物ってのは、どいつもこいつも化物揃いだ。少なくとも【オルクス大迷宮】の奈落はそうだった。それに……」
「なんだ?」
「大迷宮というのは、“解放者”達が残した試練なんだ。亜人族は簡単に深部へ行けるんだろ? それじゃあ、試練になってない。だから、樹海自体が大迷宮ってのはおかしいんだよ」
「……」

 ハジメの話を聞き終わり、虎の亜人は困惑を隠せなかった。ハジメの言っていることが分からないからだ。樹海の魔物を弱いと断じることも、【オルクス大迷宮】の奈落というのも、解放者とやらも、迷宮の試練とやらも……聞き覚えのないことばかりだ。普段なら、“戯言”と切って捨てていただろう。

 だがしかし、今、この場において、ハジメが適当なことを言う意味はないのだ。圧倒的に優位に立っているのはハジメの方であり、言い訳など必要ないのだから。しかも、妙に確信に満ちていて言葉に力がある。本当に亜人やフェアベルゲンには興味がなく大樹自体が目的なら、部下の命を無意味に散らすより、さっさと目的を果たさせて立ち去ってもらうほうがいい。

 虎の亜人は、そこまで瞬時に判断した。しかし、ハジメ程の驚異を自分の一存で野放しにするわけには行かない。この件は、完全に自分の手に余るということも理解している。その為、虎の亜人はハジメに提案した。

「……お前が、国や同胞に危害を加えないというなら、大樹の下へ行くくらいは構わないと、俺は判断する。部下の命を無意味に散らすわけには行かないからな」

 その言葉に、周囲の亜人達が動揺する気配が広がった。樹海の中で、侵入して来た人間族を見逃すということが異例だからだろう。

「だが、一警備隊長の私ごときが独断で下していい判断ではない。本国に指示を仰ぐ。お前の話も、長老方なら知っている方もがおられるかもしれない。お前に、本当に含むところがないというのなら、伝令を見逃し、私達とこの場で待機しろ」

 冷や汗を流しながら、それでも強い意志を瞳に宿して睨み付けてくる虎の亜人の言葉に、ハジメは少し考え込む。

 虎の亜人からすれば限界ギリギリの譲歩なのだろう。樹海に侵入した他種族は問答無用で処刑されると聞く。今も、本当はハジメ達を処断したくて仕方ないはずだ。だが、そうすれば間違いなく部下の命を失う。それを避け、かつ、ハジメという危険を野放しにしないためのギリギリの提案。

 ハジメは、この状況で中々理性的な判断ができるヤツだと、少し感心した。そして、今、この場で彼等を殲滅して突き進むメリットと、フェアベルゲンに完全包囲される危険を犯しても彼等の許可を得るメリットを天秤に掛けて……後者を選択した。大樹が大迷宮の入口でない場合、更に探索をしなければならない。そうすると、フェアベルゲンの許可があった方が都合がいい。もちろん、結局敵対する可能性は大きいが、しなくて済む道があるならそれに越したことはない。人道的判断ではなく、単に殲滅しながらの探索はひどく面倒そうだからだ。

「……いいだろう。さっきの言葉、曲解せずにちゃんと伝えろよ?」
「無論だ。ザム! 聞こえていたな! 長老方に余さず伝えろ!」
「了解!」

 虎の亜人の言葉と共に、気配が一つ遠ざかっていった。ハジメは、それを確認するとスっと構えていたドンナー・シュラークを太もものホルスターに納めて、“威圧”を解いた。空気が一気に弛緩する。それに、ホッとすると共に、あっさり警戒を解いたハジメに訝しそうな眼差しを向ける虎の亜人。中には、“今なら!”と臨戦態勢に入っている亜人もいるようだ。その視線の意味に気が付いたのかハジメが不敵に笑った。

「お前等が攻撃するより、俺の抜き撃ちの方が早い……試してみるか?」
「……いや。だが、下手な動きはするなよ。我らも動かざるを得ない」
「わかってるさ」

 包囲はそのままだが、漸く一段落着いたと分かり、カム達にもホッと安堵の吐息が漏れた。だが、彼等に向けられる視線は、ハジメに向けられるものより厳しいものがあり居心地は相当悪そうである。

 暫く、重苦しい雰囲気が周囲を満たしていたが、そんな雰囲気に飽きたのか、ユエがハジメに構って欲しいと言わんばかりにちょっかいを出し始めた。それを見たシアが場を和ませるためか、単に雰囲気に耐えられなくなったのか「私も~」と参戦し、苦笑いしながら相手をするハジメに、少しずつ空気が弛緩していく。敵地のど真ん中で、いきなりイチャつき始めた(亜人達にはそう見えた)ハジメに呆れの視線が突き刺さる。

 時間にして一時間と言ったところか。調子に乗ったシアが、ユエに関節を極められて「ギブッ! ギブッですぅ!」と必死にタップし、それを周囲の亜人達が呆れを半分含ませた生暖かな視線で見つめていると、急速に近づいてくる気配を感じた。

 場に再び緊張が走る。シアの関節には痛みが走る。

 霧の奥からは、数人の新たな亜人達が現れた。彼等の中央にいる初老の男が特に目を引く。流れる美しい金髪に深い知性を備える碧眼、その身は細く、吹けば飛んで行きそうな軽さを感じさせる。威厳に満ちた容貌は、幾分シワが刻まれているものの、逆にそれがアクセントとなって美しさを引き上げていた。何より特徴的なのが、その尖った長耳だ。彼は、森人族いわゆるエルフなのだろう。

 ハジメは、瞬時に、彼が“長老”と呼ばれる存在なのだろうと推測した。その推測は、当たりのようだ。

「ふむ、お前さんが問題の人間族かね? 名は何という?」
「ハジメだ。南雲ハジメ。あんたは?」

 ハジメの言葉遣いに、周囲の亜人が長老に何て態度を! と憤りを見せる。それを、片手で制すると、森人族の男性も名乗り返した。

「私は、アルフレリック・ハイピスト。フェアベルゲンの長老の座を一つ預からせてもらっている。さて、お前さんの要求は聞いているのだが……その前に聞かせてもらいたい。“解放者”とは何処で知った?」
「うん? オルクス大迷宮の奈落の底、解放者の一人、オスカー・オルクスの隠れ家だ」

 目的などではなく、解放者の単語に興味を示すアルフレリックに訝みながら返答するハジメ。一方、アルフレリックの方も表情には出さないものの内心は驚愕していた。なぜなら、解放者という単語と、その一人が“オスカー・オルクス”という名であることは、長老達と極僅かな側近しか知らない事だからだ。

「ふむ、奈落の底か……聞いたことがないがな……証明できるか?」

 あるいは亜人族の上層に情報を漏らしている者がいる可能性を考えて、ハジメに尋ねるアルフレリック。ハジメは難しい表情をする。証明しろと言われても、すぐ示せるものは自身の強さくらいだ。首を捻るハジメにユエが提案する。

「……ハジメ、魔石とかオルクスの遺品は?」
「ああ! そうだな、それなら……」

 ポンと手を叩き、“宝物庫”から地上の魔物では有り得ないほどの質を誇る魔石をいくつか取り出し、アルフレリックに渡す。

「こ、これは……こんな純度の魔石、見たことがないぞ……」

 アルフレリックも内心驚いていてたが、隣の虎の亜人が驚愕の面持ちで思わず声を上げた。

「後は、これ。一応、オルクスが付けていた指輪なんだが……」

 そう言って、見せたのはオルクスの指輪だ。アルフレリックは、その指輪に刻まれた紋章を見て目を見開いた。そして、気持ちを落ち付かせるようにゆっくり息を吐く。

「なるほど……確かに、お前さんはオスカー・オルクスの隠れ家にたどり着いたようだ。他にも色々気になるところはあるが……よかろう。取り敢えずフェアベルゲンに来るがいい。私の名で滞在を許そう。ああ、もちろんハウリアも一緒にな」

 アルフレリックの言葉に、周囲の亜人族達だけでなく、カム達ハウリアも驚愕の表情を浮かべた。虎の亜人を筆頭に、猛烈に抗議の声があがる。それも当然だろう。かつて、フェアベルゲンに人間族が招かれたことなど無かったのだから。

「彼等は、客人として扱わねばならん。その資格を持っているのでな。それが、長老の座に付いた者にのみ伝えられる掟の一つなのだ」

 アルフレリックが厳しい表情で周囲の亜人達を宥める。しかし、今度はハジメの方が抗議の声を上げた。

「待て。何勝手に俺の予定を決めてるんだ? 俺は大樹に用があるのであって、フェアベルゲンに興味はない。問題ないなら、このまま大樹に向かわせてもらう」
「いや、お前さん。それは無理だ」
「なんだと?」

 あくまで邪魔する気か? と身構えるハジメに、むしろアルフレリックの方が困惑したように返した。

「大樹の周囲は特に霧が濃くてな、亜人族でも方角を見失う。一定周期で、霧が弱まるから、大樹の下へ行くにはその時でなければならん。次に行けるようになるのは十日後だ。……亜人族なら誰でも知っているはずだが……」

 アルフレリックは、「今すぐ行ってどうする気だ?」とハジメを見たあと、案内役のカムを見た。ハジメは、聞かされた事実にポカンとした後、アルフレリックと同じようにカムを見た。そのカムはと言えば……

「あっ」

 まさに、今思い出したという表情をしていた。ハジメの額に青筋が浮かぶ。

「カム?」
「あっ、いや、その何といいますか……ほら、色々ありましたから、つい忘れていたといいますか……私も小さい時に行ったことがあるだけで、周期のことは意識してなかったといいますか……」

 しどろもどろになって必死に言い訳するカムだったが、ハジメとユエのジト目に耐えられなくなったのか逆ギレしだした。

「ええい、シア、それにお前達も! なぜ、途中で教えてくれなかったのだ! お前達も周期のことは知っているだろ!」
「なっ、父様、逆ギレですかっ! 私は、父様が自信たっぷりに請け負うから、てっきりちょうど周期だったのかと思って……つまり、父様が悪いですぅ!」
「そうですよ、僕たちも、あれ? おかしいな? とは思ったけど、族長があまりに自信たっぷりだったから、僕たちの勘違いかなって……」
「族長、何かやたら張り切ってたから……」

 逆ギレするカムに、シアが更に逆ギレし、他の兎人族達も目を逸らしながら、さり気なく責任を擦り付ける。

「お、お前達! それでも家族か! これは、あれだ、そう! 連帯責任だ! 連帯責任! ハジメ殿、罰するなら私だけでなく一族皆にお願いします!」
「あっ、汚い! お父様汚いですよぉ! 一人でお仕置きされるのが怖いからって、道連れなんてぇ!」
「族長! 私達まで巻き込まないで下さい!」
「バカモン! 道中の、ハジメ殿の容赦のなさを見ていただろう! 一人でバツを受けるなんて絶対に嫌だ!」
「あんた、それでも族長ですか!」

 亜人族の中でも情の深さは随一の種族といわれる兎人族。彼等は、ぎゃあぎゃあと騒ぎながら互いに責任を擦り付け合っていた。情の深さは何処に行ったのか……流石、シアの家族である。総じて、残念なウサギばかりだった。

 青筋を浮かべたハジメが、一言、ポツリと呟く。

「……ユエ」
「ん」

 ハジメの言葉に一歩前に出たユエがスっと右手を掲げた。それに気がついたハウリア達の表情が引き攣る。

「まっ、待ってください、ユエさん! やるなら父様だけを!」
「はっはっは、何時までも皆一緒だ!」
「何が一緒だぁ!」
「ユエ殿、族長だけにして下さい!」
「僕は悪くない、僕は悪くない、悪いのは族長なんだ!」

 喧々囂々に騒ぐハウリア達に薄く笑い、ユエは静かに呟いた。

「“嵐帝”」

―――― アッーーーー!!!

 天高く舞い上がるウサミミ達。樹海に彼等の悲鳴が木霊する。同胞が攻撃を受けたはずなのに、アルフレリックを含む周囲の亜人達の表情に敵意はなかった。むしろ、呆れた表情で天を仰いでいる。彼等の表情が、何より雄弁にハウリア族の残念さを示していた。
いつも読んで下さり有難うございます
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次回は、月曜日の18時更新予定です
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