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ありふれた職業で世界最強 作者:厨二好き/白米良

第二章

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ハウリア族と合流



 ライセン大峡谷に悲鳴と怒号が木霊する。

 ウサミミを生やした人影が岩陰に逃げ込み必死に体を縮めている。あちこちの岩陰からウサミミだけがちょこんと見えており、数からすると二十人ちょっと。見えない部分も合わせれば四十人といったところか。

 そんな怯える兎人族を上空から睥睨しているのは、奈落の底でも滅多に見なかった飛行型の魔物だ。姿は俗に言うワイバーンというやつが一番近いだろう。体長は三~五メートル程で、鋭い爪と牙、モーニングスターのように先端が膨らみ刺がついている長い尻尾を持っている。

「ハ、ハイベリア……」

 肩越しにシアの震える声が聞こえた。あのワイバーンモドキは“ハイベリア”というらしい。ハイベリアは全部で六匹はいる。兎人族の上空を旋回しながら獲物の品定めでもしているようだ。

 そのハイベリアの一匹が遂に行動を起こした。大きな岩と岩の間に隠れていた兎人族の下へ急降下すると空中で一回転し遠心力のたっぷり乗った尻尾で岩を殴りつけた。轟音と共に岩が粉砕され、兎人族が悲鳴と共に這い出してくる。

 ハイベリアは「待ってました」と言わんばかりに、その顎門を開き無力な獲物を喰らおうとする。狙われたのは二人の兎人族。ハイベリアの一撃で腰が抜けたのか動けない小さな子供に男性の兎人族が覆いかぶさって庇おうとしている。

 周りの兎人族がその様子を見て瞳に絶望を浮かべた。誰もが次の瞬間には二人の家族が無残にもハイベリアの餌になるところを想像しただろう。しかし、それは有り得ない。

 なぜなら、ここには彼等を守ると契約した、奈落の底より這い出た化物がいるのだから…

ドパンッ!! ドパンッ!!

 峡谷に二発の乾いた破裂音が響くと同時に二条の閃光が虚空を走る。その内の一発が、今まさに二人の兎人族に喰らいつこうとしていたハイベリアの眉間を狙い違わず貫いた。頭部を爆散させ、蹲る二人の兎人族の脇を勢いよく土埃を巻き上げながら滑り、轟音を立てながら停止する。

 同時に、後方で凄まじい咆哮が響いた。呆然とする暇もなく、そちらに視線を転じる兎人族が見たものは、片方の腕が千切れて大量の血を吹き出しながらのたうち回るハイベリアの姿。すぐ近くには腰を抜かしたようにへたり込む兎人族の姿がある。おそらく、先のハイベリアに注目している間に、そちらでもハイベリアの襲撃を受けていたのだろう。二発の弾丸の内、もう一発は、突撃するハイベリアの片腕を撃ち抜いたようだ。バランスを崩したハイベリアが地に落ちて、激痛に暴れているのである。

「な、何が……」

 先程、子供を庇っていた男の兎人族が呆然としながら、目の前の頭部を砕かれ絶命したハイベリアと、後方でのたうち回っているハイベリアを交互に見ながら呟いた。

 すると、更に発砲音が聞こえ、のたうち回っていたハイベリアを幾条もの閃光が貫いていく。胴体をぐちゃぐちゃに粉砕されたハイベリアが、最後に一度甲高い咆哮を上げるとズズンッと地響きを立てながら崩れ落ち動かなくなった。

 上空のハイベリア達が仲間の死に激怒したのか一斉に咆哮を上げる。それに身を竦ませる兎人族達の優秀な耳に、今まで一度も聞いたことのない異音が聞こえた。キィィイイイという甲高い蒸気が噴出するような音だ。今度は何事かと音の聞こえる方へ視線を向けた兎人族達の目に飛び込んできたのは、見たこともない黒い乗り物に乗って、高速でこちらに向かてってくる三人の人影。

 その内の一人は見覚えがありすぎる。今朝方、突如姿を消し、ついさっきまで一族総出で探していた女の子。一族が陥っている今の状況に、酷く心を痛めて責任を感じていたようで、普段の元気の良さがなりを潜め、思いつめた表情をしていた。何か無茶をするのではと、心配していた矢先の失踪だ。つい、慎重さを忘れて捜索しハイベリアに見つかってしまった。彼女を見つける前に、一族の全滅も覚悟していたのだが……

 その彼女が黒い乗り物の後ろで立ち上がり手をブンブンと振っている。その表情に普段の明るさが見て取れた。信じられない思いで彼女を見つめる兎人族。

「みんな~、助けを呼んできましたよぉ~!」

 その聞きなれた声音に、これは現実だと理解したのか兎人族が一斉に彼女の名を呼んだ。

「「「「「「「「「「シア!?」」」」」」」」」」

 ハジメは、魔力駆動二輪を高速で走らせながらイラッとした表情をしていた。仲間の無事を確認した直後、シアは喜びのあまり後部座席に立ち上がりブンブンと手を振りだした。それ自体は別にいいのだが、高速で走る二輪から転落しないように、シアは全体重をハジメに預けて体を固定しており、小刻みに飛び跳ねる度に頭上から重量級の凶器(巨乳)がのっしのっしとハジメ頭部に衝撃を与えているのである。そのせいで照準がずれ、二匹目のハイベリアを一撃で仕留められなかった。

 ハジメは、未だぴょこぴょこと飛び跳ね地味に妨害してくるシアの服を鷲掴みにする。それに気がついたシアが疑問顔でハジメを見た。ハジメは前方を向いているため表情は見えないが、何となく不穏な空気を察したシアが恐る恐る尋ねた。

「あ、あの、ハジメさん? どうしました? なぜ、服を掴むのです?」
「…戦闘を妨害するくらい元気なら働かせてやろうと思ってな」
「は、働くって……な、何をするのです?」
「なに、ちょっと飢えた魔物の前にカッ飛ぶだけの簡単なお仕事だ」
「!? ちょ、何言って、あっ、持ち上げないでぇ~、振りかぶらないでぇ~」

 焦りの表情を表にしてジタバタもがくシアだが、筋力一万超のハジメに叶うはずもなくあっさり持ち上げられる。

 ハジメは片手でハンドルを操作するとバ二輪をドリフトさせ、その遠心力も利用して問答無用に、上空を旋回するハイベリア達へ向けてシアをぶん投げた。

「逝ってこい! 残念ウサギ!」
「いやぁあああーー!!」

 物凄い勢いで空を飛ぶウサミミ少女。シアの悲鳴が峡谷に木霊する。有り得ない光景に兎人族達が「シア~!」と叫び声を上げながら目を剥き、ハイベリアも自分達に向かって泣きながらぶっ飛んでくる獲物に度肝を抜かれているのか、シアが眼前を通り過ぎても硬直したまま上空を見上げているだけだった。

 そして、その隙を逃すハジメではない。滞空するハイベリア等いい的である。銃声が四発鳴り響き、放たれた弾丸が寸分のズレもなくハイベリア達の顎を砕き貫通して、そのまま頭部を粉砕した。

 断末魔の悲鳴を上げる暇すらなく、力を失って地に落ちていくハイベリア。シアを襲っていた双頭のティラノモドキ“ダイヘドア”と同等以上に、この谷底では危険で厄介な魔物として知られている彼等が、何の抵抗もできずに瞬殺された。有り得べからざる光景に、硬直する兎人族達。

 そんな彼等の耳に上空から聞きなれた少女の悲鳴が降ってくる。

「あぁあああ~、たずけでぇ~、ハジメさぁ~ん!」

 慌ててシアの落下地点に駆けつけようとする兎人族達を追い抜いたハジメが、ちょうど落下してきたシアを見事にキャッチして、二輪をドリフトさせながら停止した。そして、抱えたシアをペイッと捨てる。

「あふんっ! うぅ~、私の扱いがあんまりですぅ。待遇の改善を要求しますぅ~。私もユエさんみたいに大事にされたいですよぉ~」

 しくしくと泣きながら抗議の声を上げるシア。シアは、ハジメに対して恋愛感情を持っているわけではない。ただ、絶望の淵にあって“見えた”希望であるハジメをシアは不思議と信頼していた。全くもって容赦のない性格をしているが、交わした約束を違えることはないだろうと。しかも、ハジメはシアと同じ体質である。“同じ”というのは、それだけで親しみを覚えるものだ。そして、そのハジメは、やはり“同じ”であるユエを大事にしている。この短時間でも明確にわかるくらいに。正直、シアは二人の関係が羨ましかった。それ故に、“自分も”と願ってしまうのだ。

 投擲とキャッチの衝撃で更にボロボロになった衣服を申し訳程度に纏い、足を崩してシクシク泣くシアの姿は実に哀れを誘った。流石に、やり過ぎた……とは思わず鬱陶しそうなハジメは宝物庫から予備のコートを取り出し、シアの頭からかけてやった。これ以上、傍でめそめそされたくなかったのだ。反省の色が全くない。

 しかし、それでもシアは嬉しかったようである。突然に頭からかけられたものにキョトンとするものの、それがコートだとわかるとにへらっと笑い、いそいそとコートを着込む。ユエとお揃いの白を基調とした青みがかったコートだ。ユエがハジメとのペアルックを画策した時の逸品である。

「も、もう! ハジメさんったら素直じゃないですねぇ~、ユエさんとお揃いだなんて……お、俺の女アピールですかぁ? ダメですよぉ~、私、そんな軽い女じゃないですから、もっと、こう段階を踏んでぇ~」

 モジモジしながらコートの端を掴みイヤンイヤンしているシア。それに再びイラッと来たハジメは無言でドンナーを抜き、シアの額目掛けて発砲した。

「はきゅん!」

 弾丸は炸薬量を減らし先端をゴム状の柔らかい魔物の革でコーティングしてある非致死性弾だ。ただ、それなりの威力はあるので、衝撃で仰け反り仰向けに倒れると、地面をゴロゴロとのたうち回るシア。「頭がぁ~頭がぁ~」と悲鳴を上げている。だが、流石の耐久力で直ぐに起き上がると猛然と抗議を始めた。きゃんきゃん吠えるシアを適当にあしらっていると兎人族がわらわらと集まってきた。

「シア! 無事だったのか!」
「父様!」

 真っ先に声をかけてきたのは、濃紺の短髪にウサミミを生やした初老の男性だった。はっきりいってウサミミのおっさんとか誰得である。シュールな光景に微妙な気分になっていると、その間に、シアと父様と呼ばれた兎人族は話が終わったようで、互の無事を喜んだ後、ハジメの方へ向き直った。

「ハジメ殿で宜しいか? 私は、カム。シアの父にしてハウリアの族長をしております。この度はシアのみならず我が一族の窮地をお助け頂き、何とお礼を言えばいいか。しかも、脱出まで助力くださるとか……父として、族長として深く感謝致します」

 そう言って、カムと名乗ったハウリア族の族長は深々と頭を下げた。後ろには同じように頭を下げるハウリア族一同がいる。

「まぁ、礼は受け取っておく。だが、樹海の案内と引き換えなんだ。それは忘れるなよ? それより、随分あっさり信用するんだな。亜人は人間族にはいい感情を持っていないだろうに……」

 シアの存在で忘れそうになるが、亜人族は被差別種族である。実際、峡谷に追い詰められたのも人間族のせいだ。にもかかわらず、同じ人間族であるハジメに頭を下げ、しかもハジメの助力を受け入れるという。それしか方法がないとは言え、あまりにあっさりしているというか、嫌悪感のようなものが全く見えないことに疑問を抱くハジメ。

 カムは、それに苦笑いで返した。

「シアが信頼する相手です。ならば我らも信頼しなくてどうします。我らは家族なのですから……」

 その言葉にハジメは感心半分呆れ半分だった。一人の女の子のために一族ごと故郷を出て行くくらいだから情の深い一族だとは思っていたが、初対面の人間族相手にあっさり信頼を向けるとは警戒心が薄すぎる。というか人がいいにも程があるというものだろう。

「えへへ、大丈夫ですよ、父様。ハジメさんは、女の子に対して容赦ないし、対価がないと動かないし、人を平気で囮にするような酷い人ですけど、約束を利用したり、希望を踏み躙る様な外道じゃないです! ちゃんと私達を守ってくれますよ!」
「はっはっは、そうかそうか。つまり照れ屋な人なんだな。それなら安心だ」

 シアとカムの言葉に周りの兎人族達も「なるほど、照れ屋なのか」と生暖かい眼差しでハジメを見ながら、うんうんと頷いている。

 ハジメは額に青筋を浮かべドンナーを抜きかけるが、意外なところから追撃がかかる。

「……ん、ハジメは(ベッドの上では)照れ屋」
「ユエ!?」

 まさか口撃に口元を引きつらせるハジメだったが、何時までもグズグズしていては魔物が集まってきて面倒になるので、堪えて出発を促した。

 一行は、ライセン大峡谷の出口目指して歩を進めた。
何時も読んで下さり有難うございます。
感想・意見・誤字脱字報告も有難うございます。

二章に入ってから批判的感想が多いようで、感想に対する所感を活動報告に載せました。
よければ見てやって下さい。


次回更新は、火曜日の18時予定です。
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