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ありふれた職業で世界最強 作者:厨二好き/白米良

ありふれたアフターストーリーⅡ

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ありふれたアフターⅡ 光輝編 勇者と魔王


 ズドンッと、まるで隕石が落下でもしてきたかのような速度と衝撃で空から降ってきた魔王様。

 肩に担ぐアグニ・オルカンの異様がやたらと目に付く。

 クーネを筆頭に、リーリンもスパイクも他の護衛隊のメンバーも揃ってぽかんっと口を開けている。視線はキノコ雲が発生している爆心地と、光輝と、そして理不尽の権化に忙しなく動いていた。

「南雲……」

 光輝が名を呟く。ハジメはアグニ・オルカンを宝物庫にしまいながら歩み寄ると、取り敢えずといった感じで尋ねた。

「取り敢えず、邪魔になりそうだったから殺したんだが……知り合いじゃないよな?」

 チラッとクーネ達を見ながらの質問。あるいは「お~い、待ち合わせに遅れちゃってごめ~ん」みたいなノリで≪暗き者≫達が駆けていた可能性も否定できない、ということらしい。

 取り敢えず、光輝は思った。

 それは殺す前にすべき質問だよ、と。

「あ、ああ。危うく死ぬかもしれないとこだったから助かったよ。迎えに、来てくれたんだよな? ありがとう、南雲」
「ふん?」

 ハジメが〝死ぬかもしれない〟という点で片眉を上げ光輝をジロジロと見る。それだけで光輝の衰弱具合を見て取ったようだ。そして、何かを察したのか一瞬嫌そうな表情になってクーネ達を見た。

「……まぁ、いい。礼なら雫達に言え。頼まれなきゃわざわざ阿呆みたいな魔力使ってまで迎えに来るか。この世界、めちゃくちゃ遠かったんだぞ」
「そうか……やっぱり雫達が。来てるのか?」
ここに(・・・)来たのは見ての通り俺だけだ」

 妙な言い回しに違和感を覚える光輝だったが、今は詮索しているときでもないので流す。

「そうか……」
「ほら、とっと帰るぞ」

 いかにも面倒事をさっさと終わらせたいという雰囲気で、踵を返そうとするハジメ。

 ハジメのことはよく分からないが、それでも光輝が言っていた〝帰る当て〟が遂にやって来たのだと察したクーネが、泣きそうな表情で光輝の袖を掴む。

 光輝は、そんなクーネを安心させるように微笑むと、クリスタルキーを取り出して空間に差そうとしているハジメの背に、己の意志を伝えた。

「ごめん、俺は帰れない」
「……なに?」

 ハジメが肩越しに振り返った。そして、クーネが光輝の袖を掴んでいるのを見て、「こいつまた勇者病を発症しやがったのか」と呆れ顔を見せる。

「面倒な。こうなったら誰か呼び出して説得させ――」
「誰に、何を言われても、もう決めたことなんだ。もし、これが帰れる最後のチャンスだと言われても、俺は帰らない。雫達の気持ちも、家族の気持ちも、分かっているつもりだけど……ごめん」
「お前……」

 さっきの状況、幼いながらもどこか気品を感じさせる幼い女の子、その護衛と思しき屈強な男達。全てを統合すれば、光輝が厄介な争い事に首を突っ込んでいることは容易に想像できる。

 また、「俺が全てを救ってみせる!」と、ただヒーロー願望から息巻いているだけなら、「知るか」と殴って気絶させて引きずって行くところだが……

 ハジメは、それを即決できなかった。

 光輝の目が、定まっていたから。

 浮かれるでも、揺れるでも、夢想して遠くを見るでもない眼差し。現実に足を着けて、起きる結果を受け止める覚悟の決まった瞳。絶えず、足掻く者のそれ。

 一体、何があったのか。トータス召喚時の〝軽さ〟も、決戦後の〝不安定さ〟も見られない。

「俺、たくさん殺したんだ。彼等にも意志はあって、生きるために必要で、だから戦っていて……でも、俺は町の人達を見捨てられなくて戦ったんだ。何千という命を切り裂いた」
「……」

 改めて、光輝を見る。その弱り具合、満身創痍具合が何より雄弁に、光輝の経験した極まった修羅場を想像させた。

「何度も死ぬと思った。戦っている内に、走馬灯みたいなものも見た。それで――答えを見つけた」
「答え?」

 ハジメが自分の話を聞いていることに、驚きと少し嬉しさを感じながら光輝は頷く。

「俺は夢想を止めない。全て救いたい。けど選択しなきゃいけないなら――俺は、〝大切な一人〟よりも〝大勢〟を選ぶ。選んで、それでもずっと夢想を掲げて足掻き続ける」
「……馬鹿だな。死ぬまで苦しむつもりか? お前ドMかよ」
「はは、確かに馬鹿だな。でもドMは否定する」

 難儀な生き方を定めたもんだと、ハジメは本物の馬鹿を見るような目を向ける。

 と、そのとき、ずっと黙って光輝とハジメのやり取りを見ていたクーネが、普段の傍若無人さをどこかに捨てて、ただ一人の幼い女の子として言葉を投げかけた。

「あ、あの、ナグモ様? お願いです、私のお姉ちゃんを助けてもらえませんか! お願いします」
「あ? お姉ちゃん?」

 クーネは無視されなかったことに安堵の吐息を漏らすと、おおよその状況と光輝の選択を伝えた。

「光輝さまは、まだ諦めていません。後方の領民を助けて、その後でお姉ちゃんを助けるつもりです」

 さっきは気が付かなかった。光輝は姉を見捨てたのだと絶望した。

 確かに、現実問題として光輝は間に合わない。故に、見捨てたという結論は間違いがない。けれど、何度も血を吐くような「ごめん」を繰り返しながら、ギリリッと握り締められた拳を思い出せば、心は一刻も早くモアナの元へ行くことを求めていると分かった。

 けれど、今その現実的問題に光が見えた。光輝の繋がりが希望をもたらした。

 先程の蹂躙。千の≪暗き者≫を瞬く間に殲滅した力。あれがあれば、まだ姉を助けられるかもしれない。

 クーネは懇願する。姉と、そしてモアナを選べない己に懺悔と決意の刃を振り下ろして心を自傷する光輝を救うべく。

「光輝さまの夢想を叶えるため、力を貸してください。ナグモ様は、光輝さまのご友人なんですよね? お願いで――」
「寒いこと言うなよ。友人なわけないだろ」
「え?」

 呆けるクーネ。どうやったのか分からないが、こうやって世界を超えてまで迎えに来て、迫る危険を真っ先に排除したのだ。知った仲のようだし、光輝が心情を隠すことなく吐露しているし、てっきり親しい仲なのだと思ったのだが……

 動揺するクーネを放置して、ハジメは光輝へ視線を向ける。感情の乗らない、無機質な瞳。思わず光輝は息を呑む。

「その〝姉〟とやらは親しいのか?」
「……恩人だ。この世界に来て、迷ってばかりの俺に優しくしてくれた。何故か歯止めがきかなくて何度も八つ当たりしたのに、迷う俺すら肯定してくれた。……いつか、もっと話をしようって約束をした」
「そいつを見捨てたのか?」
「……ああっ、そうだっ。今、この瞬間も、彼女は自分の命と引き替えに戦争を終わらせようとしている。けど同時に、たくさんの領民が今この瞬間も死に瀕してる。だから、俺はっ――」
「〝大切な一人〟より、〝顔も知らない大勢〟を選んだか」

 再び握り締められた光輝の拳、そして噛みしめられた唇から血が滴り落ちる。今にも泣きそうな目元からは、もしかしたら血の涙でも流れるのかもしれない。

 そんな光輝を見て、ハジメは静かに尋ねる。

「お前は俺に頼まないのか?」
「頼めば動いてくれるのか? 払える対価など俺にはないのに!? モアナを救ってくれるなら何だってするさ! お前の奴隷にだってなってやる! だけど、そんなことでお前は動いてはくれないだろう!?」
「……」

 ハジメは、ジッと光輝を見た。そして、何とも言えない、否、少し嫌そうな感じが滲み出たような表情になると、おもむろに虚空へと話し出す。

『聞こえてたか? なんか嫌な状況になっているんだが……ああ、うん、まぁ、お前等はそう言うよなぁ。そうなると必然――なに? 俺に決めて欲しい? なんで……嫌なこと言うなよ。今の天之河がどうってなぁ……』

 クーネ達は突然虚空へ話し出したハジメに唖然としているが、光輝はそれが雫達と話しているのだと察し、目を瞬かせる。

 確か、異世界にも通じるスマホを開発したという話は聞いていたが、ただの念話でそれができるという話は聞いていない。

 とすると、そう、さっきの妙な言い回し。

 おそらく、雫達はこの世界に来ている。そして、エヒトみたいな存在がいた場合に備えて、なるべく目をつけられないようどこかに身を潜めているのだろう、と光輝は推測した。

 実のところ、その推測は的を射ていた。念の為、神域メンバーである雫、香織、ユエ、シア、ティオ、龍太郎、鈴だけではあるが、既にこの世界に来ているのだ。今は、ハジメが様子見に出ている間、南の山の中に隠蔽状態で隠れている。

 なお、偵察が大の得意である某深淵さんは、ハジメがこっちの世界に到着してから「あ…斥候役……」と呟いた時点で言わずもがなである。

 嫌そうな表情を、今度はもう隠そうともせずに光輝へ向けたハジメは、少し逡巡した後に尋ねた。

「天之河。確認すべき事項は多々あるが、この際、それは放っておく。だから、これだけ聞かせろ――その選択が、お前にとって〝正しいこと〟なのか?」

 あぁ、と光輝は思った。意外と言えば意外。そうでもないと言えばそうでもない。あれだけ意識して、あれだけしつこく絡んだのだ。自分のネックを正確に把握されていても不思議はない。

 けれど、ここでそれを聞かれるとは――本当に、自分はとことん、この理不尽な男を意識せずにはいられないのだと痛感する。

 光輝は、多少の愉快な気持ちと共に答えた。

「そんなこと、どうでもいい」
「ハッ」

 光輝の気持ちが乗り移ったのか。ハジメまでその答えを聞いて愉快そうな笑い声を上げた。「上等」という声が聞こえてきそうだ。

 ハジメは一度頭を振ると、手に羅針盤を取り出した。そして、何かを確かめながら改めて光輝に背を向けた。

「南雲?」
「最初で最後だ。後顧の憂いは断ってやる」
「っ、お前……」

 その意味するところを察して、光輝はくしゃりと顔を歪めた。

 ハジメが向いている方向は後方地帯。それすなわち、襲撃されている多くの領地は引き受けたということ。光輝は、きっと最初で最後の、〝大切な一人〟を助けに行けるということ。

 光輝は黙ってハジメに背を向けた。王都の方角へ。

「餞別だ。ここまでお膳立てしてしくじったら殺す」
「なんて理不尽だ」

 小さく笑った光輝の周囲に、鷲の上半身と翼、獅子の胴体を持つ――グリフォン(グリムリーパー)が十機現れた。王都までの足として使えということだろう。

 わざわざクーネ達の分まで用意している辺り、どうにも丸くなっているように思う。どうやら自分が殺伐とした日常を送っている間、南雲も平和に順応しようと頑張っていたんだなぁと、更に笑いがこみ上げる。

 光輝は、今なら言えると朗らかな表情でハジメに呼びかけた。

「なぁ、南雲。実は死にかけていた中で、生き残ることができたら絶対にお前に言ってやろうと思っていたことがあるんだ」
「あ?」

 羅針盤で戦域を確認していたらしいハジメが顔を上げて肩越しに振り返った。

 光輝は背を向けたまま、少し空を見上げて、

「俺、やっぱりお前のことが大っ嫌いだ」

 自分にできないことを何でもないようにこなしてしまう。迷いなく、自分の道を突き進める。

 なんて羨ましい。どうしようもなく憧れる。自分には決して真似できない生き方が、目を灼かれるほどに眩しい。

 そんな感情が含まれた言葉。

 それを聞いたハジメは、舌打ち一つ。顔を戻して遙か後方の領地を見つめながら、

「奇遇だな。実はついさっき、俺もそう思ったところだ」

 光輝は一瞬、目を丸くした。

 そして、

「そ、そうかっ。俺が嫌いか! あははははっ」

 人との関わりでもっとも冷たいのは〝無関心〟だ。

 光輝はたまらない、堪えきれないといった様子で、晴れ渡った空のようなカラリとした笑い声を上げた。

 普通なら険悪な雰囲気になりそうな言葉の応酬。なのに、何故か清冽な感じすらする。

 クーネ達は、もう何が何だかといった様子で光輝とハジメを交互に見やるしかない。

 そんなクーネ達を促して、機械仕掛けのグリフォンに乗せる光輝。クーネ達は、見たこともない幻獣の異様におっかなびっくりといった様子で背に乗っていく。

 クーネを前に抱え、何故か一人だけ嬉々として飛び乗ってきたリーリンを背に、光輝は振り返らず居住まい正した。そのとき、厳かな表情と雰囲気に、見上げるようにして光輝の表情を見ていたクーネが息を呑む。

 光輝は一つ深呼吸をすると、多大な感情を乗せて、

「後ろを頼む――魔王」

 対するハジメはゲートを開きながら、やはり振り返らず、

「前だけ見てろ――勇者」

 今までとは少し異なる声音でそう言って――

 勇者は空へ、魔王はゲートの奥へと消えていくのだった。




 勇者と魔王。

 二人の考えは相容れず、道は平行線。背を向け合うのが当たり前。

 しかし、平行する道が同じ場所に辿り着くことも、背を向け合ったまま背後を気にせず万難を排することも、あるいは可能なのかもしれない。


いつもお読み頂ありがとうございます。
感想・意見・誤字脱字報告もありがとうございます。

ハジメによる黒王ピチュンの声が多いようです(汗
期待に添えず申し訳ありませんが、光輝の物語なのでボス戦は光輝がやる予定です。
あと白米は戦闘描写でも書き始めると長くなる奴なので、ハジメ達の無双戦は、
ミュウの時みたいにダイジェスト風でいきたいと思います。
こんな感じの予定ですが、楽しんで貰えれば嬉しいです。
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