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ありふれた職業で世界最強 作者:厨二好き/白米良

第一章

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クラスメイトside3 後編 帝国と勇者達

前回の続き

 それから三日、遂に帝国の使者が訪れた。

 現在、光輝達、迷宮攻略に赴いたメンバーと王国の重鎮達、そしてイシュタル率いる司祭数人が謁見の間に勢ぞろいし、レッドカーペットの中央に帝国の使者が五人ほど立ったままエリヒド陛下と向かい合っていた。

「使者殿、よく参られた。勇者方の至上の武勇、存分に確かめられるがよかろう」
「陛下、この度は急な訪問の願い、聞き入れて下さり誠に感謝いたします。して、どなたが勇者様なのでしょう?」
「うむ、まずは紹介させて頂こうか。光輝殿、前へ出てくれるか?」
「はい」

 陛下と使者の定型的な挨拶のあと、早速、光輝達のお披露目となった。陛下に促され前にでる光輝。召喚された頃と違い、まだ二ヶ月程度しか経っていないのに随分と精悍な顔つきになっている。

 ここにはいない、王宮の侍女や貴族の令嬢、居残り組の光輝ファンが見れば間違いなく熱い吐息を漏らしうっとり見蕩れているに違いない。光輝にアプローチをかけている令嬢方だけで既に二桁はいるのだが……彼女達のアプローチですら「親切で気さくな人達だなぁ」としか感じていない辺り、光輝の鈍感は極まっている。まさに鈍感系主人公を地で行っている。

 そして、光輝を筆頭に、次々と迷宮攻略のメンバーが紹介された。

「ほぅ、貴方が勇者様ですか。随分とお若いですな。失礼ですが、本当に六十五層を突破したので? 確か、あそこにはベヒモスという化物が出ると記憶しておりますが……」

 使者は、光輝を観察するように見やると、イシュタルの手前露骨な態度は取らないものの、若干、疑わしそうな眼差しを向けた。使者の護衛の一人は、値踏みするように上から下までジロジロと眺めている。

 その視線に居心地悪そうに身じろぎしながら、光輝が答える。

「えっと、ではお話しましょうか? どのように倒したかとか、あっ、六十六層のマップを見せるとかどうでしょう?」

 光輝は信じてもらおうと色々提案するが使者はあっさり首を振りニヤッと不敵な笑みを浮かべた。

「いえ、お話は結構。それよりも手っ取り早い方法があります。私の護衛一人と模擬戦でもしてもらえませんか? それで、勇者殿の実力も一目瞭然でしょう」
「えっと、俺は構いませんが……」

 光輝は若干戸惑ったようにエリヒド陛下を振り返る。エリヒド陛下は光輝の視線を受けてイシュタルに確認を取る。イシュタルは頷いた。神威をもって帝国に光輝を人間族のリーダーとして認めさせることは簡単だが、完全実力主義の帝国を早々に本心から認めさせるには、実際戦ってもらうのが手っ取り早いと判断したのだ。

「構わんよ。光輝殿、その実力、存分に示されよ」
「決まりですな、では場所の用意をお願いします」

 こうして急遽、勇者対帝国使者の護衛という模擬戦の開催が決定したのだった。


 光輝の対戦相手は、何とも平凡そうな男だった。高すぎず低すぎない身長、特徴という特徴がなく、人ごみに紛れたらすぐ見失ってしまいそうな平凡な顔。一見すると全く強そうに見えない。

 刃引きした大型の剣をだらんと無造作にぶら下げており。構えらしい構えもとっていなかった。

 光輝は、舐められているのかと些か怒りを抱く。最初の一撃で度肝を抜いてやれば真面目にやるだろうと、最初の一撃は割かし本気で打ち込むことにした。

「いきます!」

 光輝が風となる。“縮地”により高速で踏み込むと豪風を伴って唐竹に剣を振り下ろした。並みの戦士なら視認することも難しかったかもしれない。もちろん、光輝としては寸止めするつもりだった。だが、その心配は無用。むしろ舐めていたのは光輝の方だと証明されてしまう結果となった。

バキィ!!

「ガフッ!?」

 吹き飛んだのは光輝の方だった。護衛の方は剣を掲げるように振り抜いたまま光輝を睥睨している。光輝が寸止めのため一瞬、力を抜いた刹那にだらんと無造作に下げられていた剣が跳ね上がり光輝を吹き飛ばしたのだ。

 光輝は地滑りしながら何とか体勢を整え、驚愕の面持ちで護衛を見る。寸止めに集中していたとは言え、護衛の攻撃がほとんど認識出来なかったのだ。護衛は掲げた剣をまた力を抜いた自然な体勢で構えている。そう、先ほどの攻撃も動きがあまりに自然すぎて危機感が働かず反応できなかったのである。

「はぁ~、おいおい、勇者ってのはこんなもんか? まるでなっちゃいねぇ。やる気あんのか?」

 平凡な顔に似合わない乱暴な口調で呆れた視線を送る護衛。その表情には失望が浮かんでいた。

 確かに、光輝は護衛を見た目で判断して無造作に正面から突っ込んでいき、あっさり返り討ちにあったというのが現在の構図だ。光輝は相手を舐めていたのは自分の方であったと自覚し、怒りを抱いた。今度は自分に向けて。

「すみませんでした。もう一度、お願いします」

 今度こそ、本気の目になり、自分の無礼を謝罪する光輝。護衛は、そんな光輝を見て、「戦場じゃあ“次”なんてないんだがな」と不機嫌そうに目元を歪めるが相手はするようだ。先程と同様に自然体で立つ。

 光輝は気合を入れ直すと再び踏み込んだ。

 唐竹、袈裟斬り、切り上げ、突き、と“縮地”を使いこなしながら超高速の剣撃を振るう。その速度は既に、光輝の体をブレさせて残像を生み出しているほどだ。

 しかし、そんな嵐のような剣撃を護衛は最小限の動きでかわし捌き、隙あらば反撃に転じている。時々、光輝の動きを見失っているにもかかわらず、死角からの攻撃にしっかり反応している。

 光輝には護衛の動きに覚えがあった。それはメルド団長だ。彼と光輝のスペック差は既にかなりの開きが出ている。にもかかわらず、未だ光輝はメルド団長との模擬戦で勝ち越せていないのだ。それはひとえに圧倒的な戦闘経験の差が原因である。

 おそらく護衛も、メルド団長と同じく数多の戦場に身を置いたのではないだろうか。その戦闘経験が光輝とのスペック差を埋めている。つまり、この護衛はメルド団長並かそれ以上の実力者というわけだ。

「ふん、確かに並の人間じゃ相手にならん程の身体能力だ。しかし、少々素直すぎる。元々、戦いとは無縁か?」
「えっ? えっと、はい、そうです。俺は元々唯の学生ですから」
「……それが今や“神の使徒”か」

 チラッとイシュタル達聖教教会関係者を見ると護衛は不機嫌そうに鼻を鳴らした。

「おい、勇者。構えろ。今度はこちらから行くぞ。気を抜くなよ? うっかり殺してしまうかもしれんからな」

 護衛はそう宣言するやいなや一気に踏み込んだ。光輝程の高速移動ではない。むしろ遅く感じるほどだ。だというのに、

「ッ!?」

 気がつけば目の前に護衛が迫っており剣が下方より跳ね上がってきていた。光輝は慌てて飛び退る。しかし、まるで磁石が引き合うかのようにピッタリと間合いを一定に保ちながら鞭のような剣撃が光輝を襲った。

 不規則で軌道を読みづらい剣の動きに、“先読”で何とか対応しながら一度距離を取ろうとするが、まるで引き離せない。“縮地”で一気に距離を取ろうとしても、それを見越したように先手を打たれて発動に至らない。次第に光輝の顔に焦りが生まれてくる。

 そして遂に、光輝がダメージ覚悟で剣を振ろうとした瞬間、その隙を逃さず護衛が魔法のトリガーを引く。

「穿て、“風撃”」

 呟くような声で唱えられた詠唱は小さな風の礫を発生させ、光輝の片足を打ち据えた。

「うわっ!?」

 踏み込もうとした足を払われてバランスを崩す光輝。その瞬間、壮絶な殺気が光輝を射貫く。冷徹な眼光で光輝を睨む護衛の剣が途轍もない圧力を持って振り下ろされた。

 刹那、光輝は悟る。彼は自分を殺すつもりだと。

 実際、護衛はそうなっても仕方ないと考えていた。自分の攻撃に対応できないくらいなら、本当の意味で殺し合いを知らない少年に人間族のリーダーを任せる気など毛頭なかった。例えそれで聖教教会からどのような咎めが来ようとも、戦場で無能な味方を放置する方がずっと耐え難い。それならいっそと、そう考えたのだ。

 しかし、そうはならなかった。

ズドンッ!

「ッガァ!?」

 先ほどの再現か。今度は護衛が吹き飛んだからだ。護衛が、地面を数度バウンドし両手も使いながら勢いを殺して光輝を見る。光輝は全身から純白のオーラを吹き出しながら、護衛に向かって剣を振り抜いた姿で立っていた。

 護衛の剣が振り下ろされる瞬間、光輝は生存本能に突き動かされるように“限界突破”を使ったのだ。これは、一時的に全ステータスを三倍に引き上げてくれるという、ピンチの時に覚醒する主人公らしい技能である。

 だが、光輝の顔には一切余裕はなかった。恐怖を必死で押し殺すように険しい表情で剣を構えている。

 そんな光輝の様子を見て、護衛はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

「ハッ、少しはマシな顔するようになったじゃねぇか。さっきまでのビビリ顔より、よほどいいぞ!」
「ビビリ顔? 今の方が恐怖を感じてます。……さっき俺を殺す気ではありませんでしたか? これは模擬戦ですよ?」
「だから何だ? まさか適当に戦って、はい終わりっとでもなると思ったか? この程度で死ぬならそれまでだったってことだろ。お前は、俺達人間の上に立って率いるんだぞ? その自覚があんのかよ?」
「自覚って……俺はもちろん人々を救って……」
「傷つけることも、傷つくことも恐れているガキに何ができる? 剣に殺気一つ込められない奴がご大層なこと言ってんじゃねぇよ。おら、しっかり構えな? 最初に言ったろ? 気抜いてっと……死ぬってな!」

 護衛が再び尋常でない殺気を放ちながら光輝に迫ろう脚に力を溜める。光輝は苦しそうに表情を歪めた。

 しかし、護衛が実際に踏み込みことはなかった。なぜなら、護衛と光輝の間に光の障壁がそそり立ったからだ。

「それくらいにしましょうか。これ以上は、模擬戦ではなく殺し合いになってしまいますのでな。……ガハルド殿もお戯れが過ぎますぞ?」
「……チッ、バレていたか。相変わらず食えない爺さんだ」

 イシュタルが発動した光り輝く障壁で水を差された“ガハルド殿”と呼ばれた護衛が、周囲に聞こえないくらいの声量で悪態をつく。そして、興が削がれたように肩を竦め剣を納めると、右の耳にしていたイヤリングを取った。

 すると、まるで霧がかかったように護衛の周囲の空気が白くボヤけ始め、それが晴れる頃には、全くの別人が現れた。

 四十代位の野性味溢れる男だ。短く切り上げた銀髪に狼を連想させる鋭い碧眼、スマートでありながらその体は極限まで引き絞られたかのように筋肉がミッシリと詰まっているのが服越しでもわかる。

 その姿を見た瞬間、周囲が一斉に喧騒に包まれた。

「ガ、ガハルド殿!?」
「皇帝陛下!?」

 そう、この男、何を隠そうヘルシャー帝国現皇帝ガハルド・D・ヘルシャーその人である。まさかの事態にエリヒド陛下が眉間を揉みほぐしながら尋ねた。

「どういうおつもりですかな、ガハルド殿」
「これは、これはエリヒド殿。ろくな挨拶もせず済まなかった。ただな、どうせなら自分で確認した方が早いだろうと一芝居打たせてもらったのよ。今後の戦争に関わる重要なことだ。無礼は許して頂きたい」

 謝罪すると言いながら、全く反省の色がないガハルド皇帝。それに溜息を吐きながら「もう良い」とかぶりを振るエリヒド陛下。

 光輝達は完全に置いてきぼりだ。なんでも、この皇帝陛下、フットワークが物凄く軽いらしく、このようなサプライズは日常茶飯事なのだとか。

 なし崩しで模擬戦も終わってしまい、その後に予定されていた晩餐で帝国からも勇者を認めるとの言質をとることができ、一応、今回の訪問の目的は達成されたようだ。

 しかし、その晩、部屋で部下に本音を聞かれた皇帝陛下は面倒くさそうに答えた。

「ありゃ、ダメだな。唯の子供だ。理想とか正義とかそういう類のものを何の疑いもなく信じている口だ。なまじ実力とカリスマがあるからタチが悪い。自分の理想で周りを殺すタイプだな。“神の使徒”である以上蔑ろにはできねぇ。取り敢えず合わせて上手くやるしかねぇだろう」
「それで、あわよくば試合で殺すつもりだったのですか?」
「あぁ? 違ぇよ。少しは腑抜けた精神を叩き治せるかと思っただけだ。あのままやっても教皇が邪魔して絶対殺れなかっただろうよ」

 どうやら、皇帝陛下の中で光輝達勇者一行は興味の対象とはならなかったようである。無理もないことだろう。彼等は数ヶ月前まで唯の学生。それも平和な日本の。歴戦の戦士が認めるような戦場の心構えなど出来ているはずがないのである。

「まぁ、魔人共との戦争が本格化したら変わるかもな。見るとしてもそれからだろうよ。今は、小僧どもに巻き込まれないよう上手く立ち回ることが重要だ。教皇には気をつけろ」
「御意」

 そんな評価を下されているとは露にも思わず、光輝達は、翌日に帰国するという皇帝陛下一行見送ることになった。用事はもう済んだ以上留まる理由もないということだ。本当にフットワークの軽い皇帝である。

 ちなみに、早朝訓練をしている雫を見て気に入った皇帝が愛人にどうだと割かし本気で誘ったというハプニングがあった。雫は丁寧に断り、皇帝陛下も「まぁ、焦らんさ」と不敵に笑いながら引き下がったので特に大事になったわけではなかったが、その時、光輝を見て鼻で笑ったことで光輝はこの男とは絶対に馬が合わないと感じ、暫く不機嫌だった。

 雫の溜息が増えたことは言うまでもない。
何時も読んで下さり有り難うございます。
感想も有難うございます。誤字脱字報告助かります。

次は、日曜日の午後12時に更新すると思います。
これからも宜しくお願いします。
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