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ありふれた職業で世界最強 作者:厨二好き/白米良

ありふれたアフターストーリーⅡ

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ありふれたアフターⅡ 雫編 住宅街のベ○ダー様


 不動(あかり)の一件から翌日。

 朝のホームルームが始まる前の一時において、雫は、登校済みの香織やユエ、シアに昨日の顛末を語った。

「へ、へぇ~。そんなことがあったんだ……。大変だったね、雫ちゃん」
「大変、というわけではないのだけど……。もっと上手くできたんじゃいかって思ってね。意味のない仮定だけど」

 肩を落としてそんなことを言う雫に、ユエやシアは少々の呆れ顔を、香織は苦笑いをする。

 もっとも、香織は苦笑いをしつつも、どうやら別のことに気を取られている様子で、先程から雫の話を聞きながらも視線がチラッチラッと違うところに向いていた。

 ユエやシアは余り気にしていないようなのだが、既に登校しているクラスメイト達も、「うわぁ」というドン引き顔や、「あの子、勇者だなぁ」と感心顔を見せて注目している。

「あだだだだっ、頭がっ、頭がぁっ」
「そうだな。頭が悪いな」
「痛いんですよっ、離せこのやろうぉ!」
「あ? この野郎? 口の利き方がなってねぇな、後輩」
「ひぃっ、ごめんなさい! 調子に乗りましたっ! こめかみグリグリしないでぇっ、お姉様ぁ! 助けてぇ!!」

 悲鳴が教室に木霊する。

「それでね、不動さんの学校に友達がいるから、彼女が登校しているか、今朝、電話で聞いてみたのよ。だけど、いつもなら朝練で早くから登校しているはずなんだけど、まだ来ていないって……」
「そ、それは心配だね、雫ちゃん。でもね、もうちょっと身近なところに心配を向けてもいいんじゃないかな?」
「お姉様ぁっ! 助けてぇ! お姉様!」
「昨日の今日ということもあるし、しばらくは様子を見るつもりだけど……。時期を見て、こっちから会いに行こうと思ってるの」
「あれぇ? お姉様? お姉様! 貴女の義妹が悪魔の手にかかってますよぉ!」

 雫お姉様は振り返らない。そんな雫の態度と、雫の背後で行われている所業に、香織は冷や汗を流さずにはいられない。

 いつも雫の周囲をうろちょろしている後輩ちゃん。

 彼女は今、ハジメから朝一アイアンクローを受けていた。鷲づかみにされたこめかみ部分がさりげなくぐりぐりと力をこめられていて、端から見ても痛そうだ。

 ハジメの腕をパシパシッとタップしながら、必死に敬愛するお姉様に助けを求める後輩ちゃんだが、さりげなくハジメを罵倒するので、その度に力が増して徐々に勢いを失っていく。

「ねぇ、雫ちゃん。あの子、必死に雫ちゃんを呼んでるんだけど……」

 華麗にスルーする雫のらしくない態度に、困ったように眉を八の字にしながら、香織は遂に尋ねた。

 雫は、溜息を吐きながらチラリと肩越しに振り返る。そこには、手足をぷら~んとさせて、既に脱力しちゃってる後輩ちゃんがいた。

「あ~、ハジメ? そろそろ許してあげて? 後で私からも言っておくから」
「まぁ、いいだろう」

 ポイッと投げ捨てられる後輩ちゃん。尻餅をついて「あひっ」と声をあげる。「うぅ、痛いよぉ。頭が割れそうだよぉ」と泣きべそを掻く後輩ちゃんだったが、少しするとキッとハジメを睨み付けた。

「酷いですよっ、南雲先輩! 私が何をしたっていうんですか!」
「冒涜的な合成写真を張り出そうとしていたな」

 ちなみに、ハジメが大変なことになっている合成写真だった。ガチムチなお兄さんと共演で。流石の雫も、恋人のあんまりな姿を見て、地味にキレるレベルの出来栄えであった。

 冷めているを通り越して、虚無的ですらあるブラックホールのような眼差しを向けられて、後輩ちゃんがぶるりっと震える。冷や汗が噴き出て、「流石にやり過ぎたかしらん?」と内心で呟く。

 だが、にっくきこんちくしょうの前で、素直に謝るなどソウルシスターの矜持が許さない。

 そもそも、

「うっ、で、でも! 南雲先輩が悪いんじゃないですか!」
「あぁ? なんでだよ」

 今の状態のハジメ相手に、子犬がきゃんきゃんと吠え立てるレベルとは言え反抗的な態度を取った後輩ちゃんに、クラスメイト達の間にどよめきが走った。

「なぁ、誰か新規のステータスプレート持ってない? あいつの天職、確かめようぜ」
「確かめなくても分かるだろ」
「ああ。魔王に逆らうのはいつだって――勇者だ」

 という会話が、淳史、明人、昇達の間にされている。クラスメイト達も激しく同意しているようだ。

 先輩方が勇者を見るような、あるいは珍獣を見るような目で見ているとは知らず、後輩ちゃんはツインテを荒ぶらせながら、ビシッと指を差す。

「私、今日は五時起きだったんですよ! 朝ご飯も食べずに六時には学校に来て、そこからも大変で!」
「大変? 何が?」
「門、開いてないじゃないですか!」

 そりゃそうだ、と誰もが頷く。朝練等で早く来る先生でも、流石に六時はない。

「来るの早すぎだろ」
「でも、剣道部の朝練に、ちょっとでも参加できるようにと思ったら、それくらいじゃないと間に合わないです。向こうの学校、結構、遠いんですから」

 意外に真面目だなぁと感心する先輩方。

「で?」
「しょうがないから――侵入するしかありません」

 真面目、か? と首を捻る先輩方。

「だけど、うちの学校、先輩達の騒動で一時期大変だったじゃないですか。それで門とか塀とかもちょっと改築されたりして……」
「ああ。不法侵入者対策な。まぁ、ちょっとした金持ちの学校程度には、入りにくい構造になってんな」
「はい。なので、朝からボルタリングの真似事ですよ。壁を登るの大変だったんですから。突起物が少なくて……」
「完全に不審者じゃねぇか」

 朝の六時に、学校の壁でボルタリングする女子高生……。先輩方の眼差しが、また違った意味で勇者を見る目になっている。

「ですが、私はやり遂げました。奴の制服を回収し、再び壁を登って脱出し、自転車で爆走しました」
「いや、電車使えよ。どんだけ離れてると思ってんだ。確か、三、四駅くらいあったろ。それを自転車でって……」
「往復で四百四十円。ブルジョワな先輩には、そのありがたみがわからんのです」
「……」

 足で稼ぐ四百四十円。今日のお昼代だろうか? 先輩方の目がとても優しくなった。同時に、ハジメにじとっとした視線も突き刺さる。「経費くらい色をつけて払うか……」と、ハジメさんは呟いた。

「そして、私を待ち受けていた地獄……」
「ここ、日本だったよな? なんかこいつから冒険者の匂いがすんだけど……」
「そう、心臓破りの坂です! 向こうの学校、校舎が丘の上にあるんですよ! 信じられますか! もう、足パンパンですよ! しかも、丘の上にバス停があって、朝練か何かで登校してきた人達が、バスで私を追い抜くんです! しかも、窓越しに私を見るんです! 『え、なにあの人。なんで違う学校の人が、あんなに汗だくになって、必死に自転車漕いでんの? ちょっとウケるんですけどぉ~』みたいな感じで! 指差してくる人もいたんですからね!」
「……」

 坂にも負けず、好奇の視線にも負けず、後輩ちゃんは頂へと登った。

 ちなみに、汗だくでゼェーハァゼェーハァと荒い息を吐き、ふらつきながらやって来た幽鬼のような後輩ちゃんを見て、おそらく顧問の先生なのだろう――正門で生徒達を迎えていた若い女性の先生は悲鳴を上げていたりする。

「無事に任務を果たした私は、優しい女性の先生に一杯のお水をいただき、少し休憩させてもらってから学校を出ました。いやぁ、あの坂道、行きは地獄ですが、帰りは天国ですね! 爽快感が凄かったです! 手放し運転とかしちゃいましたよ! スリルがありました!」
「お前、人生楽しんでんなぁ~」

 ハジメの呟きに、クラスメイト達は「確かに」と頷いた。

 ちなみに、万歳しながらツインテールをなびかせ、「ひゃほーーーっ」と楽しそうな声を上げながら坂道を猛スピードで下る後輩ちゃんについて、今現在もあちらさんの学校では話題が沸騰していたりする。

 大変危険な行為なので、よい子のみんなは絶対に真似をしないでね。

「その後、ワンちゃんの散歩中に疲れて動けなくなっていたお婆さんを、おうちまで送ったりして、結局、朝練には間に合わなかったわけですが……」
「トラブルの引き当て率がすげぇなおい」

 ハジメの言葉を軽く無視して、後輩ちゃんはくわっと目を見開いた。

「朝っぱらから大変な思いをしてお使いをやり遂げた私に、南雲先輩は何て言いました!?」
「? 何か言ったか?」
「ええ、言いました! 汗だくの私を見て、『すげぇな。まるで水が出るカツラを被った芸人みてぇだ。このあとR-1に出場か?』って! 誰が芸人だ! 仕込みじゃねぇよ! 努力の結果だよ! ちゃんと褒めやがれ、このやろう!」

 先輩方は思った。見事なツッコミだ、と。優秀なボケ担当のパートナーさえ見つかれば、M―1の方でいけるんじゃないか? と。

 ちなみに、後輩ちゃんは汗だくを指摘された直後に、猛ダッシュで道場舎へ駆け込み、常備している女子部員の必需品できちんと身だしなみを整えた。その後、例の合成写真を『ソウルシスターズ秘密の武器庫』に取りに行き、ハジメの教室の扉に貼り付けようとしたところで朝一アイアンクローになったというわけだ。

「さぁ、褒めてください。ついでに、謝ってください。『よく頑張ったな。そんな後輩をイジメて申し訳ありませんでした。お詫びに雫とは今すぐ別れます。金輪際、近づきません』って言ってください。さぁ、早く! 早く言って――あ、やめてっ。やめてください先輩! 私の髪を固結びにしないでぇ! お姉様、助けてぇ!!」

 ハジメ先輩のテクが光る。後輩ちゃんのツインテールは、瞬く間に固結びにされ、更にその先端でハート型が作られた。ご丁寧に、細いレインボーカラーの針金で固定までされている。

 ジタバタともがく涙目の後輩ちゃんを見る先輩方の眼差しは、何となく生温い。「懲りねぇなぁ」とか、「学習しねぇなぁ」とか、何だかじゃれてくる小動物を見るような眼差しだ。後輩ちゃんが小柄なのも、そのイメージに拍車をかけている。

 雫が後輩ちゃんを助けようと、苦笑いしながら立ち上がった。タイミングよく予鈴が響く。

「ほら、予鈴もなったし、もうそれくらいにしてあげて」
「しゃあねぁな」

 暴漢にでも襲われたように、足を揃えて崩れ落ちる後輩ちゃん。雫がハジメに変わって、制服返却の件(雫は今朝、後輩ちゃんがハジメに命じられたことを知った)について、お礼の言葉を述べる。

 敬愛するお姉様に感謝の言葉を贈られた後輩ちゃんは、一瞬で人様には見せられない感じのでれっとした表情になった。

 そして、お姉様に抱きつこうとしてさりげなくかわされつつ立ち上がると、ハジメをキッと睨んで、

「覚えてやがれ!」

 そんなチンピラみたいなことを言って逃げていった。頭の上では、ハートがぴょこんぴょこんと揺れている。あのまま自分の教室に入る気だろうか? さりげなく毎日が冒険者魂に溢れた後輩だ。

「あの写真はどうかと思うけど……一応、私達のクラスの人間以外の目に入らないよう教室の扉にしたわけだし、もう許してあげてね」

 雫の言葉に肩を竦めるハジメ。

 そんなハジメに、「ん~」と口に出しながら首を傾げたのはユエだ。

「……ハジメ。実はあの子のこと、結構気に入ってる?」

 自他共に認める正妻の旦那に対する言葉は、この場の誰もが基本的に間違っていないと認めるところ。ユエがそう見たのなら、そうである可能性は非常に高い。

 雫達だけでなく、クラスメイト達全員が「え?」という感じでハジメを見ると、ハジメは見透かされたことに苦笑いしながら、参ったとでもいうように両手を挙げた。

「まぁな。なんだか懐かしくてな」
「懐かしい? もしかして以前から知り合いなの?」

 雫が尋ねる。ハジメは首を振って否定すると、その視線をシアへと向けた。何故かいきなり見つめられたことに、シアは首を傾げる。

「そういうわけじゃないんだけどな、あいつの残念さというか、めげない感じというか、そういうのが出会った当初のシアに何となく似ていてなぁ」
「……へ? 私に、ですか?」

 誰もピンッと来なかったようだが、ユエだけは「あ~」と納得したように頷いた。

「ああ。出会った当初のお前は、それはもう残念なウサギだった。やることなすこと、むしろ存在自体が残念だった。残念ウサギという種族がいるとしたら、もう文句なしの百点満点だ」
「ハジメさん、喧嘩売ってます?」

 今はアーティファクトのカチューシャで見えなくなっているウサミミが、ウサッ!! と怒りをあらわにしているのが幻視できた。

「鼻水とか涙とかよだれで大変な顔だわ、大事なところ丸見えだわ、助けを求める立場なのに妙に図々しいわ、強引だわ……」
「ぬっ、ぐぅ、ひ、否定できないですぅ……」
「肘打ちしようが、足蹴にしようが、電撃喰らわせようが、投げ飛ばそうが、泣きべそかきながらも絶対に離れようとしないし」
「今思い出すと、ハジメさん相当鬼畜でしたね! というか、魔物のごはんになりそうな私が助けを求めても、普通に見捨てようとしましたもんね!」

 シアとの出会いの話など聞いたことのなかったクラスメイト達は、当時のハジメの対応に戦慄の表情を浮かべた。今のシアに対する態度からは想像もできない。

「だけどなぁ、これはユエも感じてたと思うけど……そういう残念ウサギなお前が、それでもめげずに、あっちへぴょんぴょん、こっちへぴょんぴょんと元気に走り回ってる姿ってのは、結構見ていて楽しかったというか、こっちまで元気をもらってたっていうかなぁ」
「……ん。シアのことは見てるだけで、何となく楽しかった」
「あ、ぅ……そ、そうですか……」

 照れたように、そこにあるのだろうウサミミをいじいじするシア。そんなシアを優しい眼差しで見つめながらも、ハジメはどこか寂しそうな雰囲気も漂わせる。

「何かと面倒をかけていたお前が、今や、むしろ諫める側だろう? ユエと香織が喧嘩してるときとか、ミュウが無茶しそうなときとか、俺が空気読んでないときとか」

 ちなみに、空気読んでないときとは、嫁~ズ(主にユエ)と人目もはばからずいちゃついているときなどだ。

「……ん。シアはしっかり者。家事万能だし」
「そんなわけで、ああやって残念なくせに、めげずに突っ込んでくるあたりが、昔のシアを相手してるみたいで、ちょっと懐かしかったんだよ」
「なるほどね。私達がシアと出会ったのは、すでにバグウサギ化した後だものね」

 雫やクラスメイトも納得したようで「なるほど」と頷いた。そして、〝残念ウサギなシア〟は見てみたかったが、もう、見られないのだと、口々に「残念だなぁ」と呟き出した。

 ハジメも改めてシアを見て、懐かしそうに目を細めながら「残念だなぁ」と呟く。

 ユエが寂しそうにシアを見て、「……残念」と呟く。香織と雫がダメダメなシアも、それはそれで可愛かったんだろうなぁと思い、もう見れないことに「残念だね」「残念だわ」と呟く。

「あ、あの、たぶん良い意味でそう言ってくれているのだと思うのですが、あんまり残念残念と連呼されるのはですね、ちょっと……」
「「「「残念だなぁ」」」」」
「やめてぇ! 人の顔見て、しみじみと残念を連呼するのはやめてくださいですぅ!! あうぅ、過去の自分がよみがえりますぅ~」

 残念でも、残念でなくても、やっぱり残念だと言われるウサギは、ぷるぷると震えながら自分の席に突っ伏してしまった。

 そんな彼女を、ハジメ達は生温かい眼差しで見つめるのだった。




 日曜日。

 休日のその日に、駅に向かって住宅街を一人歩いているは香織だった。時間は昼過ぎといったところ。ラフな格好ではあるが、きちんと外行きを意識しているのが分かる。

(う~ん、時間は大丈夫そうかな? それにしても、あの人がこっちに来てるなんてびっくりだよ。ユエが開門したときに来たらしいけど……ハジメくんには内緒って言うのがなぁ)

 腕時計を一瞥して、そんなことを独りごちる香織。ハジメに内緒で、向こうの世界からこっちにやって来た人物と、今日は会う予定なのだ。お茶でも飲みながら少しおしゃべりでも、ということらしいのだが……

 ハジメに秘密という点が何とも据わりの悪さを感じさせる。もっとも、ユエの言う通り、世の中には知るべきでないこともあるのだろうけど。

 何とも言えない表情をしながら、香織が少し足を速めた――そのとき、

「……誰ですか? 私にご用ですか?」

 ピタリと足を止めた香織は、誰もいないはずの通りで、そんなことを言った。

 しばらく間、しんっとしていた通りだったが、やがて香織の背後にあった住宅と住宅の塀の隙間から、ずりずりと窮屈そうな音を立てながら人が出てきた。

 コフー、コフー

「……」

 通りに、妙な呼気が響く。

 振り返った香織は無言だった。無言で、しかし、内心では盛大に動揺していた。

 なぜなら、

(ダ、○ースベイダーがいるっ!?)

 そう、住宅の隙間から出てきたのは、真っ黒な服に、真っ黒なマント、そして特徴的なフルフェイスのガスマスクを装着した、○イダー卿だったのだ! 今も、コフーコフーしている!

 これが、ただの変質者なら、香織もここまで動揺はしなかっただろう。普通にはっ倒して終わりだ。だが、相手はベ○ダー様なのだ。どう反応すればいいのか分からない!

 ここはやはり、素敵なコレクションですね! と褒めるべきだろか?

 香織が動揺しながらも、そんなことを考えていると、

「……恨むなら、八重樫雫を恨みなさい」
「え?」

 ベイ○ー卿は、マントの内側から竹刀を取り出した。出てきたのがライトセ○バーでなかったことで、ハッと正気を取り戻した香織は、しかし、飛び出してきた親友の名前に気を取られる。

 その隙を突くかのように、ベ○ダー卿は竹刀セイバーを横薙ぎに繰り出した。頭部を狙わず、肩口を狙っている点、ある程度の理性はあるのだろうが、それでも危険な所業であることに違いはない。

 香織のような華奢な女の子が食らえば、骨が折れることもあるだろうし、そうでなくても吹き飛ばされた際にどこかを打ち付けたりする可能性も十分にある。

 まぁ、香織はただの華奢な女の子ではないのだが。

「えいっ」
「え?」

 可愛らしいかけ声と共に、一瞬で繰り出されたのは、遠心力でシャキンと伸びた特殊警棒の幹竹割りの一撃。

 ○イダー卿の横薙ぎは、ギロチンの如く振り下ろされたそれに、叩き落とされる――どころか、竹刀セイバーを半ばからへし折られることになった。

 呆然とするベイ○―卿へ、更に「えい!」と、またまた可愛らしい声が。

 視界に映ったのは、ほっそりとした指をぎゅっと握り締めた、小さいとも言える拳だった。もっとも、威力はゴリラに殴られたのかと思うほど重かったが。

「ぶへぇ!?」

 ベイ○ーマスクが砕け散り、中身の人も吹き飛ぶ。ゴロゴロと転がり大の字で気絶した○イダーの中の人。

「あれ? この人ってもしかして……」

 取り敢えず縛り上げようと思っていた香織はそう呟くと、少し考える素振りを見せてから携帯を取り出した。

 そして、親友に電話をかけ始めた。
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