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ありふれた職業で世界最強 作者:厨二好き/白米良

ありふれたアフターストーリーⅡ

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ありふれたアフターⅡ 喧嘩するほど仲が良い? 後編

なろう民の皆さんに、白米自身より白米のことを把握されている件について。
……もはや何も言うまい。

 初撃は壮麗な剣による薙ぎ払いだった。目の焦点速度が追いつかず、残像すら発生させる速度で突進してきた戦乙女の一体が、ユエと、そのユエに抱き着いたままの香織めがけて繰り出したのだ。

 二人同時に両断しようというのか。ほとんど閃光としか思えない軌跡を描く剣線は、ユエの首の辺りへ吸い込まれるように急迫する。常人ならば悲鳴を上げる暇もなく、気が付けば、という状態で死を決定づけられていたに違いない。

「ふわぁあああ!?」
「んぎっ」

 もちろん、村長の残念な娘は、村娘であるにもかかわらず常人離れした身体能力を誇る残念な娘だ。死神の鎌の如く迫る横薙ぎの一撃を、咄嗟にユエの首に回した腕を引っ張りつつ、後ろに倒れ込むようにして回避した。

 リンボーダンスのように倒れ込んだユエと香織の顔面すれすれの場所を、凶風と共に死が通り過ぎる。

 背中から倒れ込んで体勢を崩したものの、どうにか回避に成功した香織がほっと息を吐く暇もなく、頭上に影が。

「わぁあああ!?」
「ひぎょ!?」

 ユエの首に回した腕に力を込め、そのままユエを巻き込むようにして地面を転がる。その姿は友人を必死に守ろうとする健気な姿に見えなくもない。

 間一髪。

 さっきまで倒れていた場所に、これまた壮麗な槍がズドンッという何とも嫌な衝撃音を発生させて突き立った。衝撃で小さなクレーターまで出来ている。恐るべき威力だ。

 ゴブリン的登場をした戦乙女だが、やはりその強さは始まりの村周辺に出現していいレベルではない。

 先程見たユエの個人情報画面に、〝自動再生〟の表記はなかった。固有の能力であるそれを、魂魄魔法の影響があるとはいえどこまでシステムが抑えているかは分からない。

 そんな状態で、しかもこのバグった世界の中で、あんな一撃必殺間違いなしの攻撃を食らえば、たとえユエといえど無事では済まない可能性が高い。

 それは使徒の肉体を離れた香織とて同じこと。

 このゲームの世界でのダメージが、二人の魂魄体にどのような影響を与えるか判然としない以上、絶対に食らうわけにはいかない。

 敵の強さと、容赦の無い一撃必殺の攻撃を受けて、香織の額に冷や汗が浮かぶ。

 転がった勢いを利用してどうにか体を起こしつつ、戦闘経験が告げる警告に従ってその場を飛び退く。途端、挟撃を仕掛けて来た戦乙女達の唐竹割りが目の前を通り過ぎた。

 「んぎぎっ、ぎ、ぎぶっ。ギブ!」と、何やら変な声が聞えた気がしたが、今は気にしている余裕はない。

 低下した身体能力の限界を把握しつつ、その中で迫り来る無数の死を回避しなければならないのだ! 

 たとえ、ユエの首に回した腕にペシペシッと割と必死さを感じさせるタップの感触があったとしても、そんなことを気にしている暇はない!

「大丈夫! 絶対、ユエは私が守ってみせるから!」
「ち、ちがっ。くびぃ! 完全にきま――」

 中距離より多数の炎弾! 香織は友人を絶対に離すまいと更に力を込めつつ、決意と共に死のダンスを踊る!

 ユエを抱えたまま炎弾の群れに向かって踏み込む。自分という標的に集束する前に、むしろ前に出てその隙間を抜けようというのだ。

 もくろみ通りに、弾幕の隙間を抜けて何発かを素通りし、眼前に迫った一撃を回転することで回避する。ユエの体が遠心力で離れてしまわないよう、より一層、抱え込む腕に力を込める!

「かふぅ!? ……か、かおり、あや、謝る、から、うで、うでぇ~」
「ダイジョブ! 絶対に守るから!」
「……き、きざまぁ~、謀ったなぁっ――」

 ユエが何か言っているようだが、視界の端に戦乙女アーチャーが、何やら尋常でない光を纏う矢を構えているのが見えて、香織は心臓を跳ねさせた。

「あぶなぁ~~~いっ」
「きゅぺっ!?」

 咄嗟に、前方に倒れ込むようにして飛び込む。頭上を炎弾が通り過ぎ、更に背後で爆音が響いた。刹那の内に襲い来る衝撃が、香織とユエを木の葉のように舞わせる。

 どうにかユエを抱えたまま受け身を取った香織は、そこで攻撃が止んでいることに気が付いて僅かに安堵の息を吐いた。

 どうやら第一攻勢は辛うじて凌ぎ切ったようだ。

 戦乙女達がじりじりと移動し、香織とユエを包囲しようとしているのを睨み付けながら、香織はユエに語りかけた。

「ユエ。どうしよう。予想通りというべきかな。あの人達、やっぱり強いよ。どうにか包囲を抜けないと……ユエ?」
「……」

 見て見ろよ。白目を剥いて、口が半開きになってるけど、綺麗な顔だろ? これで気絶してるんだぜ?

 そんな言葉が、香織の頭に過った。腕の中の友人は、白目を剥いて、口が半開きになっていてなお、相変わらず美しかった。

「だ、誰がこんなことを!? ユエ! しっかりして! いったい何があったの!」

 ガクガクと揺さ振るが、タコのようにぐんにゃりと脱力したユエはなされるがままで反応しない。もしや、敵によるスリープ系の魔法かしらん!? と、香織は敵を睨み付けた。何かを堪えるように口元をヒクヒクさせながら。

 そして、周囲を警戒しつつ、ユエに馬乗りになって手を振り上げた。

 起こさなければならないのだ。たとえ、非情の手段だとしても、戦場とあらば甘いことは言っていられないのだ!

――パンッ、パンッ、パンッ、ビシィッ!

 そんな音が戦場に響いた。香織さんの友人を想う往復ビンタがユエの頬に炸裂する!

「ユエ! 起きて! 寝たら死んじゃうよ! 早く起きて! ほら早く!」

 芸術的な軌跡と打点への正確な連撃を見せつけながら振るわれる香織の平手。ユエの顔が美しいビンタ音に彩られながら右へ左へ。香織さんの往復ビンタも、どこかリズミカルに。

「は・や・く! お・き・て!」

 どことなく声が弾んでいるような……

 戦乙女達が顔を見合わせている。戸惑っているのだろうか。

 襲い掛かった敵の片割れがいつの間にか勝手に気絶しており、そして何故かもう一人の方が追い打ちをかけている……ように見えているのかもしれない。客観的に見れば。だとすれば、戸惑うのも当然だろう。

 と、次の瞬間、リズミカルにビンタを繰り出していた香織の手首が、ガシィッ!! と勢いよく掴まれた。

「……おはよう、香織。さようなら、香織」
「え?」

 ユエ様のお目覚めぶっぱ。香織の眼前に出現したピンボールのような火炎の球が、刹那、盛大に爆発する。どうやら〝火球〟の魔法を応用して、超圧縮からの解放による指向性を持った衝撃波を生み出したらしい。

 ふわぁああっと悲鳴を上げながら真後ろにゴロゴロと転がっていく香織は、どうにか止まると共に四つん這い状態から顔を上げた。そして、冷や汗を大量に流し始める。

「……ハジメにもぶたれたことないのに。香織、覚悟はOK?」

 ユエ様の怒りが天元突破状態。背後にゴゴゴゴッという擬音文字が幻視できるほどにお怒りになっていらっしゃる。

「な、何を言ってるかの分からないよ、ユエ。とにかく、落ち着いて? きっと話し合えば分かるよ」
「……ほぅ。さんざん首を絞めて振り回したあげく、楽しそうに往復ビンタをしていたのはわざとではないと?」
「そんな! 誤解だよ! 私はただユエを守ろうとしただけだよ! それなのに、そんな風に言うなんてひど――」
「……正直に話したら、ユエベストセレクト。ハジメのセクシー写真十枚セットをプレゼン――」
「日頃の悪戯の仕返しができて、とても晴れやかな気分です。ひぎょっだって。きゅぺっとも言ってたね、ぷぷっ」

 ユエの額にビキッと青筋が浮かぶ。

 そして、

「……今日がお前の命日!」
「わわっ、それはダメ! その炎弾、当たったら絶対死んじゃうよ!」
「……心配ない。絶対殺すから!」

 ユエから放たれる無数の炎弾。どれもこれも教会を倒壊させたことを納得できるほどの威力が秘められている。

 ちょっと調子に乗り過ぎたと焦る香織は、その場を飛び退きながら慌てて謝罪を口にしようとするが、

「……果てろ、永遠のストーカー女!」
「誰がストーカーかな!? かな!?」

 不名誉極まりない発言に思わず言い返した。炎弾を避けながらユエを睨み付ければ、ユエは「ふんっ」と鼻を鳴らす。

「……いい加減、気が付くといい。自分の本質に。そして、ハジメの自己犠牲の精神に!」
「自己犠牲? 何を言って――」
「……あぁ、ストーカーでヤンデレ気質でむっつりな香織には困ったなぁ。でも放っておいたら何をするか分からないし、しょうがない、俺が適当に相手をしておくかぁ、というハジメの本心に気が付くといい!」
「ハジメくんが、そんなこと思ってるわけないでしょ! また適当なことを言って!」
「……そう思うなら、そうなんでしょう。香織の中では」
「……ふふ、ユエ。それはあんまりな言葉だよ? 今、謝るなら許してあげる。ほら、謝って。早く謝って」
「……え? なんですか、ヤンデレむっつりストーカーさん。ちょっと恐いんで、それ以上、近づかないでくれますか?」

 ビキッと、香織の額に青筋が出現した。にっこりと笑顔を浮かべているのに、背後にゴゴゴゴッという擬音が幻視できる。

「うん、近づかないよ。万年発情してる駄吸血鬼になんて。頭の中の九割はエッチなことで埋まっているんだよね? ハジメくんもそろそろ気が付くんじゃないかな? この吸血姫(笑)、ただの変態だって。あ、それ以上、近づかないくれますか? 正妻(笑)がうつるんで」

 二度までも、ユエのアイデンティティに(笑)をつけた香織に、ユエもにっこりと微笑んだ。

 戦乙女達が何だかオロオロしている。どうしよう、修羅場だよ、修羅場。あの二人止めるべき? 誰が? 貴女、行きなさいよ。え、嫌よ、そういう貴女こそ行きなさいよ、戦乙女でしょ? 貴女も戦乙女でしょうが。――みたいなやりとりをしているのかもしれない。

 が、次の瞬間にはピタリと動きを止めた。

 極寒のブリザードが吹き荒れたから。

 稲光を撒き散らす暗雲が出現したから。

 そして、

――シャァアアアアアアアアアッ!!
――ゴァアアアアアアアアアアッ!!

 青筋を浮かべながら微笑む香織の背後に、大太刀で肩をトントンしている般若さんが出現したから!

 青筋を浮かべながら微笑むユエの背後に、落雷の咆哮を上げてとぐろを巻く雷龍さんが出現したから!

 このゲームシステムに存在しないはずのあり得べからざる超常現象に、超常の存在を模して造られた戦乙女達は慄きながら後退る。

 そんな彼女達の耳に届いたのは、

「……香織のあほぉおおおおっ」
「……ユエのぶぅわかぁああああっ」

 そんな微妙な罵倒と、迫力に反した泥臭いつかみ合い、引っ掻き合い、引っ張り合いという微妙な喧嘩――もとい、いつものキャットファイトだった。

 「ふしゃぁっーー!」とユエパンチが繰り出されれば、それを頬に受けながらも「むぃいいいっ」と唸る香織が頬を摘まんで引っ張る。ユエが髪を引っ張れば、香織は脇腹に指をぐりぐりと押し付け、ユエが頬を引っ張り返せば、香織はユエのウィンプルを投げ捨てて髪を引っ張り返す。

 身長差で押し倒されたユエをぽかぽかと猫手で叩く香織。そんな香織のお尻を鷲掴みにして彼女が怯んだ隙にひっくり返し、割と大きいお胸に先の仕返しと言わんばかりに往復ビンタをかますユエ。

 ゴロゴロと転がり、互いを掴み合い、またゴロゴロと転がってはポカポカパンチで殴り合い、美少女の癖に二人とも土埃だらけでぼさぼさ髪状態。ユエも香織もワンピース系の服なのでパンツ丸見え状態なのだが、それもお構いなし。

 いつまでそんなことをしているつもりなのか。

 どこか呆然としていた戦乙女達がハッと我に返った。気を取り直すようにジャキッと各々の武器を構え、未だもつれ合って喧嘩している二人を睨み付けた。睨み付けた……のだが、やっぱりまだにゃーにゃー言っている。

 戦乙女達が顔を見合わせた。表情はないが、何となく、これなら包囲して戦う必要もないんじゃないかなぁと言っているように見えなくもない。

 頷き合った彼女達の内、一体がそろりと進み出た。神々しい槍を持った戦乙女だ。暴れ回るユエと香織の死角を意識しているのだろうか、時折回り込むように歩を進める。

 そして、間合いに入ったのだろう。次の瞬間、一気に踏み込んだ。二人同時に刺し貫いてやろうというのだろう。ユエの背後から凄まじい速度で必殺の突きが放たれた。

 ユエの手で顎を下から押し上げられ、天を仰いでいる香織にはユエの背後が見えていない。ユエもまた、香織に鼻を摘ままれているので振り返ることはできない。

 殺った。

 もし、戦乙女が口をきけたなら、そう呟いたに違いない。

――バタンッ、ゴロゴロッ

 いきなり横倒しに倒れ込んだ二人が、そのまま罵り合いながら転がっていく。少し離れた場所で立ち上がり、何事もなかったように喧嘩続行。突き出された必殺のはずの槍は、虚しく二人がいた場所を彷徨っている。

 仲間の戦乙女が見ている。戦乙女ランサーは、まるでごほんっと咳払いするような素振りを見せると、気を取り直して再度、ユエと香織を強襲した。

 今度は横着せず、確実に一人を仕留める! 狙うはユエ。その側頭部をつらぬく――

「ヤンデレは、ユエの方でしょ!」

 そんな言葉と共に放たれたビンタが、ユエの頬にクリーンヒット。勢いよく弾かれたユエの顔のすぐ傍を槍の一撃が素通りする。

 急いで槍を引き戻す。失敗なんてしていない。ちょっと試してみただけ。ただの素振りだ。これが本命の一撃! 香織の脇腹を突き刺さん!

「……病んでない。ただデレが溢れ出てるだけ!」

 猫だましからの足払いで、香織が倒れる。その頭上を必殺(笑)の一撃が通り過ぎる。

「それをヤンデレって言うんだよ! 知らないの? 時々、シアが微妙に怯えてるの。や~い、親友に怯えられてるヤンデレっ娘ぉ」
「……怯えてないし。そんなはずないし。シアは私のこと大好きだし! そういう香織こそ、この前、雫に怯えられてくせに。や~い、忍耐力カンストの雫にすら引かれる真性ヤンデレっ娘ぉ」
「し、雫ちゃんは私に怯えたりしないもん! 雫ちゃんはどんな私でも受け入れてくれるんだから!」
「……確かに、雫の懐の深さは否定しない。その姿はもはや、みんなのお母さん!」
「そうだよ! それも、どちらかと言えば大家族の肝っ玉母さんタイプだよ! みんな大好き、頼れるお母さんだよ!」

 八重樫雫――現役女子高生。いつの間にか、ある意味でディスられている苦労人。きっとこの場にいたら、不意の流れ弾に被弾し参戦を決意したことだろう。

 ちなみに、この会話の間も、何度も槍が振るわれている。角度を変え、フェイントを入れ、薙ぎ払いや石突を利用し、あらゆる位置から怒涛の攻撃を仕掛けている。

 全てかわされているが。

 それも、取っ組み合いによるごく自然な動きだけで。

 なんだか戦乙女ランサーが今にも泣きだしそうだ。

 それを哀れに思ったのか。仲間の戦乙女達が包囲しながら飛び出して来た。美しきかな、戦乙女達の友情。

 ギャグみたいなやり方で、これ以上自分達の武技を侮辱させはしない。無視させはしない!

 完全包囲。逃げ場なし。回避不能。

 今度こそ、剣と槍の形をした死が、取っ組み合い中の二人を全方位より強襲した。

――シャァアアンッ

 澄んだ音が響いた。金属が擦れ合い、奏でた音色。そこに、標的二人の悲鳴は重ならない。

 むしろ、

「ッ!!!」
「ァ、ァ――」
「!?」

 音にならない悲鳴を上げたのは、戦乙女の方だった。

 一斉に距離を取る戦乙女達。しかし、その場から離脱しない者、否、できない者が三体。戦乙女ランサーと、壮麗な剣を持った戦乙女セイバーが二体だ。

 理由は単純。

 戦乙女ランサーの槍が味方であるはずの戦乙女の心臓を貫いており、その戦乙女ランサーの首に、香織の鉄剣が食い込んでいたから。

 そして、もう一人の戦乙女セイバーの美しい顔――正確には右目の位置には、文字通り、風穴が空いていたから。黒く炭化した丸い風穴が。

 見れば、戦乙女達の中心には、鉄のロングソードを振り抜いた状態で残心する香織の姿と、そんな彼女の股下で寝転びながら仰向けに指でっぽうを構えるユエの姿が。

 ぐらりと揺れる右目を撃ち抜かれた戦乙女セイバーの手から、無刀取りのようにするりと剣を抜き取った香織は、そのまま無造作に、しかしこれ以上ないほど流麗に、奪い取った剣で戦乙女ランサーの首を薙いだ。

 鉄のロングソードとは異なり、バターでも切り取るかのように、香織の剣撃は戦乙女ランサーの首を通り抜けた。血は吹き出さず、代わりに赤い粒子が渦を巻きながら天へと上る。

「うん、やっぱりいい剣だね。もっと太くて、大きい方が好みではあるけど……」
「……香織、いやらしい。そんなだから、エターナルむっつりと呼ばれる」
「呼ばれたことないよ! というか、いやらしいの意味が分からないし!」

 何事もなかったように喧嘩を再開する二人。ユエが立ち上がり、香織がちゃっかりもう一人の戦乙女セイバーの剣も奪い取り二刀流となったところで、二体の戦乙女も赤い粒子を撒き散らしながら消えていった。

 戦乙女達は、再攻撃を躊躇うかのように散開したまま。

 彼女達の戦闘プログラムが、二人が見せた先の攻防から、どのように攻めるべきか判断しかねているのかもしれない。

 先の完全包囲攻撃を凌いだ方法は単純だ。

 膂力でも、剣の質でも、まともにやり合えばただでは済まないと理解していた香織は、迫り来る剣に己の剣を合流させて軌道を捻じ曲げたのだ。結果、逸らされた剣が隣の剣に当たりその軌道をも曲げた。

 更に、香織は回転運動に合わせて、素手で槍を逸らして同士討ちをさせ、それにより三本目の剣すらもかわしてみせた。

 そして、香織が対応しきれない四体目に関しては、香織の死角から超圧縮の炎弾により生物共通の弱点を狙い撃ったユエにより処理されたというわけだ。

 戦乙女達の戦闘思考が、一見、喧嘩に夢中で隙だらけに見える二人への近接戦闘を否定した。隙に見えて隙でないのなら、こちらの都合に合わせた隙を作るまで。

 戦乙女アーチャーと、戦乙女メイジが挟撃を仕掛ける!

 光を纏い破壊力を上げた矢による遠距離物理攻撃と、不可視・速攻の風刃による遠距離魔法攻撃が、篠突く雨の如く無数の牙となってユエと香織を襲う。

 くるりと、回転した。ユエと香織が。

 今まで向かい合って喧嘩していた二人が、一瞬のうちにダンスでも踊るようにステップを踏んで背中合わせとなる。流麗なターンに合わせて、金と黒の髪が夢のようにふわりと広がる。

 刹那、香織の双剣が宙に無数の軌跡を描き、飛来する恐るべき威力を秘めた矢の尽くを斬り裂き、あるいは逸らしていく。

 刹那、満天の夜空に浮かぶ星々の如く出現した無数の炎弾が、ユエのたおやかな指先に従って流星のように飛び出し、爆破の衝撃を以て風刃の尽くを吹き飛ばしていく。

 背中合わせの二人は、背後から迫り来る脅威を僅かにも気にした様子がない。振り返らずとも、そこが絶対の安全圏であることを疑いなく信じている。

 ふと、攻勢が止んだ。連続して放てる矢と魔法が尽きたのだ。

 直後、再び、ユエと香織が踊った。ワンピースの裾を優雅に広げ、示し合わせたかのようなステップで回転。鏡合わせのように舞った二人は、まるで相手をダンスに誘うかのように片手を振った。

 もっとも、誘ったのは死の世界だったようだが。

 振るった片手より弾丸の如く飛び出したのは、ピンボールのような炎弾と壮麗な剣。

 上級に匹敵する破壊力を秘めた炎弾は狙い違わず戦乙女アーチャーの心臓を穿ち、壮麗な剣もまた戦乙女メイジの心臓を貫いた。

「う~ん、どうなんだろう? やっぱり、同じ戦乙女でも特性によって防御力とかに差があるかと思ったんだけど……。剣が強力だっただけなのかな?」
「……それはあると思う。けど、いくら敵の武器でも、レベル1のスペックで投擲した剣がさっきの近接型の鎧を簡単に抜けるとは思えない。魔法職だから物理に弱かったとみるべき」
「さっき私が避けた炎弾は、魔法職タイプの鎧で弾かれてたものね。弓使いの鎧を抜けたっていうことは、同じに見える鎧でも、確かに魔法に対する防御力は低いんだね」

 背中合わせのまま検証結果を話し合うユエと香織。粒子となって消えていく戦乙女二体へ、観察するような眼差しを向けている。

 残り二体となった戦乙女が、じりじりと距離を取ろうとする。

 くりんっと、ユエと香織の顔が生き残った戦乙女へと向けられた。凄く恐い。証拠に、戦乙女達がびくんっと震えた。

「……香織。気が付いてた?」
「レベルアップのこと? うん、戦っている間にぴろりん! って何度も鳴ってたね。あと、何々が解放されました! っていうアナウンスも。正直、これ消せないかなって思うんだけど」
「……確かに気が散る。好みにもよるだろうから、オンオフ機能をつけられないかハジメに提案しておく。でも、取り敢えず――」
「うん。取り敢えず――」

 そろ~り、そろ~りと話し合うユエと香織から距離を取る戦乙女達。会話が途切れた瞬間、バッと身を翻して空へと飛び出した。

 ゲーム風に言うなら、「戦乙女は逃げ出した!」という状況だろう。

 影が差した。戦乙女達に。

 ハッと振り返った二体の戦乙女が見たものは、自分達よりも高く跳躍して頭上を取った村娘と見習いシスターの姿。二人揃って、太陽の光に照らされ輝く剣と、太陽そのもののような炎弾を上段に構えて戦乙女達を見下ろしている。

「実験だね」
「……実験する」

 解放された能力を試す機会は逃さない。

 そう、ゲーム風に言うなら――「村娘と見習いシスターからは逃げられない!」というやつだ。

 断末魔の悲鳴はない。

 ただ、始まりの村のすぐ外で、綺麗な赤い粒子だけが空を舞っていた。
いつも読んで下さりありがとうございます。
感想・意見・誤字脱字報告もありがとうございます。

いったいいつから、ユエ・香織編のサブタイが一つだと錯覚していた?
次回、「どうも、私が魔王村の村長です」

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