挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ありふれた職業で世界最強 作者:厨二好き/白米良

ありふれたアフターストーリーⅡ

252/271

ありふれたアフターⅡ 喧嘩するほど仲が良い? 中編

白米的に、三話くらいは〝短編〟です。

「ようこそ! ここは〝あああああああ〟村の教会です。懺悔しますか? それとも懺悔にしますか? あるいは懺悔でも構いませんよ?」

 ようやくユエが落ち着き、香織がユエと現状把握のための話し合いをしている中、崩壊した教会の瓦礫の中にたたずむ神父さんがにこやかに懺悔を促してくる。やはり根に持っているのかもしれない。

 ひたすら懺悔、懺悔と言葉を投げつけて来る神父さんに頬を引き攣らせつつ、香織はユエに確認した。

「やっぱり、ここってあのゲーム機の中なんだよね?」
「……ん。状況的に間違いない。しかも、どこか壊れている可能性が大」
「壊れてる?」
「……ん。初期設定でランダムに立場が決まるのは確かだけど、こんなおかしな形容詞はついてないはず。内容とかシステムとか少し教えてもらってたから間違いない」
「な、なるほど、確かに。ミュウちゃんのために作ったゲームなのに、〝残念な〟とか〝頭のおかしい〟とか、ハジメくんが初期設定するわけないもんね」

 納得したという風に頷く香織。同時に少し安心したように息を吐いた。もしや、ハジメが自分のことを残念だと思っているのではと、少しだけ嫌な想像をしていたのだ。

「……取り敢えず、ログアウトするべきだけど……」
「……壊れてないよね?」

 ユエの声音に不吉なものを感じつつ香織が視線を向ける中、ユエは以前に教わっていた通りにゲームの仕様である個人情報画面の呼び出しを行った。「オープン」と呟きながら、眼前の空間を撫でるように手を振る。

 すると、ユエの眼前に青色に輝くウインドウが出現した。ヴォンという独特の音を響かせて、まるでブロックゲームのように上下左右からウインドウの欠片が集まり、瞬く間に24インチテレビサイズの画面が出来上がったのだ。一晩かけたハジメのこだわりである。

 取り敢えず、個人情報画面が正常に開けたことに安堵の吐息を漏らすユエは、次いで、少々緊張しながら画面右下の〝おうちにかえる〟ボタンをクリックする。

――どうしてそこで諦めるんだ! 頑張れ、頑張れ! できる、できる!

 天の声が降って来た。どうやらお家には帰れないらしい。もっと熱意と根性が必要なようだ。

「……」
「……」

 ユエは無言でもう一度クリックした。

――諦めたら、そこで冒険終了だぞぉ! さぁ、あの夕日に向かってダッシュだ!

 天の声は、やっぱりお家に帰してはくれないらしい。そして、昇っているのは朝日のはずだが、夕日に向かってダッシュとはこれ如何に。

「わ、私が試してみるね」

 いつものジト目が三段階くらい進化したような凄まじいジト目を空中へと投げるユエに頬を引き攣らせつつ、香織はユエの真似をして個人情報画面を呼び出し、〝おうちにかえる〟ボタンをクリックする。

――このクソウジ虫がっ。なに勝手に帰ろうとしてやがるっ。貴様の行先は地獄か地獄だっ。〝ピー〟されたくなかったら隊に戻れ! そこが貴様の唯一無二の家だ! 

「ひぃっ!?」

 いきなりハジメの声音で怒声を浴びせられ、香織は思わず両手で頭を覆って腰を抜かしてしまった。

「……そう言えば、別にハウリア用のプログラムも組み込んでたような」
「あ、あのバーサクウサギ量産訓練? ハジメくんは、あの人達をどこまで進化させる気なの?」

 ガクブルと震える香織にユエは肩を竦める。

 結局、嫌な予感は的中してゲームからのログアウトはできないようだった。何故、ユエの場合松岡○造口調の声音で、香織の場合ハートマ○口調のハジメの声音なのかは不明だが、これも壊れた弊害の一つなのだろう。

「どうしよう、ユエ。どうやって戻れば……あ、そうだ! ユエ、魂魄魔法だよ!」
「む、その手があった」

 このゲーム機は魂魄魔法を応用して作られている。リアルとの差異がほとんど感じられない高精度な感覚はそのためだ。ならば、魂魄魔法の使い手であればシステムに頼らずともログアウトは可能と思われた。

 さっそく魂魄魔法を行使してみるユエ。

――レベルが足りません

「む? ……むむっ」
「ユエ?」

 ユエが「むむっ」と何やら踏ん張る度に、〝レベルが足りません〟という天の声が降って来る。最終的には〝身の程を弁えましょう〟という慇懃無礼な言葉まで降って来た。

 なんとなく事情を察しつつ香織が尋ねる。

「ダメっぽいね?」
「むぅ。壊れたからこそ私達を取り込んだくせに、このシステムだけが完璧に働いてるなんて納得できない」

 ユエ曰く、この魂魄魔法を応用した体感システムには、ユエ自身の手も加わっているとのこと。そして、ゲームシステム上の魂魄へ直接作用する〝縛り〟が、作製協力者であるユエ自身にも有効に作用してしまっているのだ。

 これが単純にユエ自身の魔法だけによるものなら、そんな拘束は破ってしまえばいいだけなのだが、そこにハジメのアーティファクトが加わるとユエとて解除は至難となる。

 何度やっても〝縛り〟を解除できないユエはがっくりと肩を落とした。

「……流石、ハジメのアーティファクト。そして私の魔法。いい仕事してる」
「自画自賛してる場合じゃないよ、ユエ……どうしよう。他にログアウトできる方法ってないの?」
「……ん。ないことはない。確か、各村にはセーブポイントがあって、そこからでもログアウトできるようにはなってるはず。ミュウはいつでも帰って来ていいけど、ハウリアは勝手に脱出なんてさせないって言って、拠点ログアウト方式を取ったって言ってた」
「ハジメくんって、ハウリアの人達には容赦ないよね……」

 止めたくても止められない。止めたければゲームを進めるしかない。それもきっと、とびっきり素敵なハジメ仕様なハードモード、否、ヘルモードというべきストーリーを。

 いずれ放り込まれるだろうハウリアの人達を想い、香織はそっと冥福を祈った。

「それでユエ。各村にポイントがあるなら、ここの村は? 早くそこのポイントで試してみようよ」
「……………………………………ここの村にはない」
「え? どうして? さっき各村にあるって」
「……は、始まりの村なので。必要ないので」
「………………ユエ?」

 早速、この村のセーブポイントを尋ねた香織だったが、何故か微妙に視線を逸らしながら答えるユエ。口調も微妙におかしい気がする。

 香織が訝しむような眼差しを向けるが、ユエは「……さて、そうと決まれば次の村に行かねば」と、やはり微妙におかしい口調でそんな独り言を呟いている。

 香織は視線を転じた。未だ瓦礫の中でさわやかに懺悔を促してくる神父さんの方へ。

「すみません、神父さん。この村のセーブポイントがどこか教えてもらえませんか?」
「……香織! 私を疑うの? そんなのひど――」
「村長の残念な娘さん。相変わらず残念だね。知っているだろう? この教会にあるよ!」

 教会はもう、ない。

 香織は笑顔のまま、ユエの方へくりんっと顔を向けた。ユエはくりんっと明後日の方向を向いた。

 しばらく無言の時間が流れる。視線も、香織⇒ユエ⇒燦々と輝く太陽へと流れている。

 一拍。

「ユエのばかぁああああああっ!!」
「……か、かおりのあほぉ――むぎゅっ!?」

 香織の絶叫が響き渡った。

 条件反射のように言い返すユエだが、その言葉はいつになく弱々しい。加えて、即行でほっぺをむぎゅぅううううっとされて言葉を詰まらせた。

「ばかばかばかばかっ、ユエのばか! どうしてゲームが始まって一番最初にすることがセーブポイント破壊なの!? この頭のおかしいシスターさんっ!!」
「りゃ、りゃって――」
「だってじゃありません!」
「ち、ちかち――」
「しかしでもありません! もうっ、ほんとうにもうっ! 気に食わないことがあったら取り敢えず根こそぎ吹き飛ばそうっていう考え方、いい加減ダメだと思う! 私、ダメだと思う!」

 ほっぺむぎゅぅうううっをしながら説教をかます香織。結構な力が入っているのだろうか。やわらかなほっぺは伸びに伸びて、ユエは微妙に涙目になっている。

 流石に軽率だったと認めているのか、最初は大人しくされるがまま、言われるがまま大人しくしていたユエだが、「そもそもユエは~」となんだか長くなりそうな雰囲気を感じた直後、取り敢えず反撃に出た。香織の両わき腹に、人差し指をドスッ。

「へひゃっ!?」

 体をピーーンッと仰け反らせて硬直する香織さん。そんな香織に、「へひゃって言った。へひゃって。プークスクス」と笑うユエさん。

 結果は当然。

――にゃっーにゃぁっ! むいむいっ、ふしゃぁーーーーっ!!

 いつも通りのキャットファイトのゴングが鳴った。二人して取っ組み合いながら、瓦礫の山と化した教会と、懺悔の提案が強要になりつつある神父さんの前を転がり回る。

 と、そこへ通りかかる村人が数人。

「お母さん、あの人達……」
「シッ。頭のおかしなシスターと村長の残念な娘さんなんて見ちゃいけません!」

 幼い子供が指を差せば、その母親が慌てて子供の視線を遮り、まるで恐ろしいものでも目撃したかのようにそそくさと去っていく。

「あの二人が教会を……なんて奴等だ」
「いつかはやると思っていたさ。なにせ、村長の残念な娘さんと、頭のおかしいシスターさんだ」

 農具を担いだ青年が崩壊した教会を見て痛ましそうにそう言えば、隣のおっさんが溜息を吐きながらそう言う。

「おしい人を、亡くしたのぅ」
「悲しい、事件じゃったな」

 荷車を押すおじいさんがやりきれないという様子で教会を見やり、同じく荷物を担いだ別のおじいさんが教会に向けて祈りの言葉を捧げた。教会はないものの、神父さんは生きているのだが……

 なにやら周囲の村人の空気がおかしい、というか暗いことに、転がり回って土埃まみれになっているユエと香織がようやく気が付く。遠巻きに、まるで危険人物を見やるような眼差しを向けられて、二人は居た堪れない様子で立ち上がった。

「……えっと、ユエ。取り敢えず、壊しちゃったものは仕方ないし、これからどうしたらいいかなんだけど……」
「……ん。私はユエ。過去は振り返らない女」
「省みよう? 次、適当な破壊活動をしたら本気で分解砲撃食らわすからね?」

 笑顔のまま青筋を浮かべる香織から視線を逸らしつつ、ユエは再び個人情報画面を呼び出した。

「……ごほんっ。さっきも言ったように、セーブポイントなら次の村にもある。なので、取り敢えず、そこを目指すべきかと」
「そうだね。私達の体はたぶん現実世界にあるんだろうし、ハジメくんが帰ってきたらどうにかしてくれるだろうけど、試せる方法があるなら試した方がいいものね」
「……ん。だけど、これを見て」

 さっきまでの喧嘩はなんだったのかと思うほどあっさり話し合いを進めていく二人。

 ユエがステータス画面を指差すので、香織はユエの肩口に寄り添うように密着して覗き込む。そこに映っていた内容は、

============================
名前:ゆえぽん
階級:1 / 次の解放まで残り50
職業:見習いシスター
称号:頭のおかしいシスター
技能:無詠唱 想像構成 
魔法:炎魔法[火球]
装備:見習いシスターの服一式
特記:前科有
所持金:1,000
============================

 他にも、所持品項目や時間などの表記はあるが、トータス製のステータスプレートのようなスペックを数値化したような項目はなかった。これは数値によって実戦上の自分の強さを勘違いさせないためという理由と、数値の優劣によって敵を圧倒できるということがないようにするためだ。

 RPGにありがちなHPゲージ等も同様の理由でない。現実に即して、どんなに強くとも首を切られれば即ゲームオーバーというわけであり、逆にどんなに強い相手でもやり方次第で打倒可能としているというわけだ。

 ユエのステータスを見た香織は「なるほど」と頷くと一言。

「やっぱり前科持ちだったね」
「……おい、香織。やっぱりとはどういう意味? 私はいつも法律を守って――」
「ん」

 まるでユエのような返事をしながら、香織が指差す先は崩壊した教会。ユエはそちらへ視線を向けてから一拍。

「……現実ではだいたい法律を守ってる」
「さりげなく、現実でも〝いつも〟から〝だいたい〟にランクダウンしたね」

 ユエ様は過去を振り返らない! 香織のツッコミも受け入れない!

「……そんなことより、問題はこの〝階級〟と〝所持金〟」
「その前に、もう少しだけ聞かせて、ゆえぽん。あのね、私の個人情報画面なんだけどね、ゆえぽん。特記のところに共犯者ってあるんだ。ゆえぽん、なんでかな? 私、特に何もしていないはずなんだけど前科持ちになってるんだ、ゆえぽん。教えてゆえぽん。ねぇ、ねぇ、ゆえぽん。ゆえぽんったらゆえぽんっ」

 大変珍しいことに、何故か耳を真っ赤にしたユエが両手で顔を覆ったままその場に蹲ってしまった。「……うぅ、つい出来心で」と羞恥に震える声で小さく呟く。

 そんなユエの傍らにしゃがみ込む香織の表情は、まさに満面の笑み。にこにこと、いつも周囲を魅了する笑顔を浮かべながら、人差し指をユエの頬に突き刺す。ぷにぷにとした癖になりそうな感触を楽しみながら、ひたすらツンツンしながら言う。

「まぁ、取り敢えずはいいよ、ゆえぽん。納得できないけど、話が進まないしね、ゆえぽん。それで? 〝階級〟と〝所持金〟がどうしたの、ゆえぽん?」
「……香織、いい度胸。この頭のおかしいシスターゆえぽんが、村の平和な往来で村娘を消し炭にしてあげる」
「わわわっ、落ち着いてユエ! ごめんなさい! もう言わないから!」

 指先に灯った火の玉。見た目はしょぼいが感じるプレッシャーはやばい。どうやら初級中の初級の魔法でも、込める魔力と圧縮率によって上級クラスの威力が込められているらしい。

 それを指でっぽうの形にして香織に容赦なく放ちまくる頭のおかしいシスターゆえぽん。ガトリングの掃射のように乱れ撃たれるそれを、香織は青褪めながらもどうにか回避していく。

 代わりに、香織の背後から無数の爆発音と悲鳴が……

「あぁっ!? 靴屋のロドリゲスが吹き飛んだぞ!」
「なんだ!? 何が起こった!? 俺の家がなくなっている!?」
「くぅ! 皆の者っ、ここはわしが抑える! 今の内に逃げよ!」
「村長! 無茶だ! 相手は頭のおかしいシスターさんだぞ!? いくらあんたでも!」
「なぁに、心配するな。これでも若い頃は冒険者としてそれなりだったのだ。適当に相手をして、直ぐに追いつくさ」
「村長、あんたって人は……」

 何やらカオリのお父様が村の英雄になりつつあるが、その英雄の娘が騒動に一枚噛んでいるとなるとある意味身内の不祥事というか、マッチポンプ感がないでもない。

 その後、容赦なく村長をボロ雑巾のようにし、ロドリゲスと靴屋を倒壊させたユエは、想像以上に制限がかけられていた魔力の残量を見誤り、魔力枯渇でぶっ倒れた。同じく、身体能力に制限がかけられ、使徒化どころか魔法すら使えない状態の香織も体力が尽きてぶっ倒れた。

「こ、この非常時に、私達、なにしてるんだろう……ぜぇ、ぜぇ」
「……はぁはぁ。うぅ、確かに」

 何やら周囲の村人から遠巻きに凄まじい視線を向けられているのを感じながら、ユエと香織はどうにか身を起こし、隣り合って座り込む。

「は、話を戻そう。それで、〝階級〟と〝所持金〟がなんだっけ?」
「……ん。この〝階級〟が、私達にかけられている制限レベル。私が火球しか使えないのも、香織の身体能力が低かったり、使徒化・魔法が使えないのもそのせい。レベルが上がるごとに、現実で有している能力に近づいていく」
「そうなんだ。万全じゃなくても、できることでどうにかする……ハジメくんらしいコンセプトだね」

 ちなみに、香織の個人情報画面はこんな感じだった。

============================
名前:カオリ
階級:1 / 次の解放まで残り50
職業:村娘
称号:村長の残念な娘
技能:村娘流双大剣術
魔法:
装備:村娘の服一式
特記:ゆえぽんの共犯者
所持金:1,000
============================

「……ん。能力的な制限はかけられているけど、個人のテクニックに関しては何の制限もない。初級の魔法で、あの威力と連射性を発揮できるのも私だから。ただの村娘が、それを回避できるのも同じ」
「なるほど。えっと、それで何が問題なの?」

 ユエの説明に納得顔で頷く香織。視界の端でカオリのお父様が復活したようだ。沈痛そうな雰囲気だった村人達が村長へ喝采を送っている。

「……通常は、始まりの村の周辺でレベルを上げて、同時にお金を貯めて装備をある程度整えてから次の村に向かう。具体的なストーリーはまだ設定してないはずだけど、動作確認のために組み込んだ敵キャラがそのままなら最初から結構な強さのはず」
「ああ、そっか。つまり、次の村まで、今のレベルだと辿り着けない可能性があるんだね? それで、装備を整えようにもお金もない、と」
「……ん。私と香織なら大丈夫だと思うけど……壊れかけのこのゲームでダメージを受けた場合、どういう影響があるのか分からない。ハジメという確実な救出のあてがある以上、ここから動かないというのも手ではある」
「ふふふ、そんなこと思ってないでしょ、ユエ。私達が、リスクを避けて何もしないなんて、そんなの選ぶわけないよ」

 いつか救いがくることをあてにして何もしない。ある意味、堅実な手段ではある。しかし、その選択肢をハジメに寄り添う者達が選ぶことはない。

「……その通り。それに、今の状態がいつまで続くかも分からない。もしかしたら、ハジメが帰って来る前に致命的な故障が発生して取り返しのつかないことになるかもしれない」
「だね。そうすると、そういう意味でも悠長に村の周辺でレベル上げや資金稼ぎをしているわけにはいかないね」
「……ん。今ある所持金で可能な限り装備を整える必要がある」

 ユエが問題として取り上げたことは理解した。最小限の装備のみで、可能な限り一発も食らうことなくそれなりに強い設定の敵を潜り抜けつつ、隣の村に辿り着かなくてはならない。

 なるほど、中々にシビアだ。

 だが、

「うん、問題ないね。ユエがいるし」
「……ん。問題ない。香織がいる」

 そういうことだった。

 ユエと香織は立ち上がり、お互いひらひらしたシスター服と村娘の服についた土埃を払う。相変わらず、村人達の眼差しは危険人物を見やるそれだ。やらかしているのは事実なので物凄く居た堪れない。ゲームの世界だというのに、モブキャラの言動が自由すぎないだろうか?

 こんなところまでリアルにしなくていいのに……と、ハジメのこだわりにささやかな八つ当たりをしつつ、ユエと香織は村の武具屋に向かった。

 ユエは魔法職なので、最悪、魔力を回復させるアイテムを数個用意するだけでも構わないが、村娘流双大剣術の使い手らしい香織には武器が必要だ。できれば、今のひらひらしたワンピース系の村娘の衣装ではなく、動きやすいパンツと上着も欲しいところ。

 道中も物凄い視線の暴力に晒される。

 香織は思った。これは、あれだ、と。そう、動物園の檻から脱走したライオンが向けられる視線だ、と。少し前に見たのだ。ライオンを含む複数の猛獣が檻から逃げ出し、動物園内に解き放たれてしまったというニュースを。

 そのときの戦々恐々としながら避難する人々の視線が、まさに今の村人達の視線と同じだった。

 私はライオンなの……?

 微妙な心境になりつつ、隣を歩くユエを見る。

 黄金の豊かな髪。しなやかな手足。紛う事なき肉食(意味深)。そして、最強格。

(うん、似合う。ユエライオンだね。うん)

 ライオンコスプレをしながら、四つん這いでがお~~と咆えるユエを想像して妙に納得する香織。

 ちなみに、そのときのライオン騒動は、動物園を解雇された元職員が腹いせがてらに売り上げを盗もうとし、陽動として動物達を解放したというものだったのだが、逃げ出したライオン共々、某カップルによって解決されている。

 実は、ちみっこい彼女の方がライオンをあっさり手懐けた上、そのライオンを使って犯人を捕まえたことでも話題になったのだ。あと、彼氏の方も、一緒に逃げ出していた熊を素手で殴り倒して檻に返したとして話題になっていた。

 香織が、半ば現実逃避気味にそのときのニュースとユエライオンを想像しながら村人の視線を意識の外に追いやっていると、視線の先に探していた武具屋を見つけた。

「二人合わせて2,000円か……買えるかな?」
「……物価が分からないから何とも言えない。最悪、香織の剣だけは確保したい」

 神の使徒の戦闘技術を受け継いでいる香織であるから、体術も高い次元で習得している。しかし、やはりその最大の攻撃は使徒固有の能力と双大剣術にある。剣のあるなしでは、やはり戦闘能力には大きな差があるのだ。

 ユエが店の扉を開ける。途端、

「帰れ! 帰ってくれ! あんた達のような犯罪者に売るもんは、ここにはねぇ! さっさと帰れ!」
「「……」」

 いかにも頑固そうな、口ひげたっぷりの武具屋の店主がいきなり怒声をプレゼントしてくれた。思わず硬直するユエと香織。

 言わんとすることは分かる。香織は表情を引き攣らせながら、おずおずと口を開いた。

「あ、あの、私、剣を――」
「うるさい、このゆえぽんの共犯者め! さっさと出て行ってくれ!」

 香織の表情が固まった。未だかつて、初対面の人にこんな言動を向けられたことはない。いつも礼儀正しく明るい香織は、特に年配の人から可愛がられることが多い。自然、耐性も低い。

「ユ、ユエぇ~」
「……ん。任せて。ごほんっ。――店主さん、どうかお話を聞いてください。私達は――」
「黙れ、この神父殺しの大罪者め! あんなに優しい人をよくもっ」
「あ、いえ、あの、あの人は生きて――」
「まったく、シスターなんて職にありながら恐ろしい子だ! この店はね、まっとうな客だけを相手にしているんだ! お前のような頭のおかしい犯罪者はさっさと出ていけっ」

 ユエ様の人差し指に超圧縮されたファイヤーボールが出現した。その輝き、熱量、まさに太陽の如く!

「早まらないでユエぇっ! 落ち着いて! 自業自得だから!」
「……安心して、香織。消し炭すら残さない。武具屋の店主はただ失踪しただけ。店の財産をシスターに譲るという置手紙だけを残して」
「それ殺人だよ! それも強盗殺人だよ! 順法精神はどこにいったの!?」
「……頭のおかしいシスターには、わかりませ~~~ん」
「子供!? 子供なの!? もうっ、いいからその火球、ポイッして! 早くポイッして!」
「……放火をお望みと?」
「ああ!? やっぱりポイッしちゃダメ! 早く消して! ほら、早く!」

 必死の形相で説得してくる香織に免じて、ユエは指先の太陽を消した。

 どうやら、よくゲームでありがちな、村人のヘイトを稼ぎすぎてデメリットを被るという事態が発生しているらしい。

 教会の破壊だけでなく、靴屋や民家の破壊も罪状に加わっているのだろう。個人情報画面を見てみると、ユエの特記の部分が〝前科持ち〟から〝指名手配犯(破壊屋ゆえぽん)〟に変化している。

 ゲームのシステムとして店の利用を拒否されているのなら、これはもう仕方ない、諦めようと、ユエの服を引っ張り外に出ようとする香織だったが、ユエは踏ん張って動かない。

「……香織。諦めるのは早い」
「え、でも、ゲームのシステムだよね? もう、どうしようもないんじゃ……」
「……それは違う。さっきも言ったように、やり方次第で彼我の実力差を覆せるのがこのゲームの特徴。システムだから不可能と断じるのは早い。それを証明してあげる。見てて」
「もう、悪い予感しかしないよ」

 げっそりする香織の視線の先で、ユエは店主に話しかけた。どうやら交渉によって活路を見出すつもりらしい……

「何を言われようと、お前達に売るものは――」
「……お願いします。店ごと燃やされるか、大人しく商品を引き渡すか選んでください」

 交渉ではなく、脅迫だった。シスターらしく、両手を胸の前で組んで、まるで一心に神に祈る敬虔な子羊のような表情で、ギャングも冷や汗を流しそうなことをのたまっている。

「……私は信じています。貴方が分かってくれると! 話し合えば、心を通じ合わせることができると! さぁ、意地を張らないで素直になりましょう?」

 意地ではなく、正当な主張だと思うのだけど……。香織さんはそう思ったが突っ込まない。

「……神は言っています。汝、目の前のシスターに2,000円以内で装備を見繕いなさい、と。むしろ、割引しなさい、いっぱい割引しなさい! と。さすれば、貴方の罪も許されるでしょう」

 値切る神がいてたまるか。というか、店主さんは何の罪もおかしてないし。むしろ、罪人はユエだし。というツッコミも、辛うじて我慢する香織さん。

 ユエの眼前に再び太陽の如き炎が出現した。

「……店主さん。私は、貴方が神の裁きを受けるところなど見たくないのです。どうか、大人しくう~~~んと値引きした商品をお売りください!」

 神の裁きじゃなくて、ユエの個人的制裁だよね。それも極めて悪質な。どこからどう見ても、立派な頭のおかしいシスターさんだよ、というツッコミが、我慢できず香織の口から漏れ出した。ユエ様はスルーした。

 店主の様子がおかしい。視線がぐるぐる、頭がカクカクしている。想定にない事態に遭遇し、プログラム的な何かが目まぐるしく情報処理しているのかもしれない。

 轟々と燃え盛る炎の音以外静寂に包まれた店内で、やがて店主の視線が定まった。

「いらっしゃい、〝あああああああ〟村の武具屋へ! 今日は特別割引実施中だよ!」

 店主とシステムは、シスターさんの真摯な祈りに屈したらしい。

「……ん。香織、どれにする?」
「できれば、罪悪感を少しでも抑えられそうな安い品がいいかな」

 ドヤ顔で振り返ったユエに、香織は、現実に帰ったら改めて順法の何たるかを教え込もうと決意した。

 結局、武具屋では〝鉄のロングソード〟一本しか買えなかった。そもそも、武具からして相場が数万円代で、数千円代で買えるのは木剣とか石剣しかなかったのだ。定価7万円の〝鉄のロングソード〟が1,500円になった時点で、店主とユエの間に何があったのかは推して知るべし、である。

 罪悪感に胸の奥をグリグリと抉られながら、その後、雑貨屋でも同じようなことがなされ、ユエ用の魔力回復ポーションを幾つか購入し、二人は村の出入り口に向かった。

 が、店を出て十秒もしない内に……コンッと、軽い衝撃が香織の肩を襲った。なんだろうと、香織が視線を巡らせると、割と増えている遠巻きの村人の中から少し突出した子供二人が、小さな石ころを構えているのが目に入った。

 香織の表情は盛大に引き攣った。

「このはんざいしゃめ! 村からでてけ!」
「でてけ! でてけ!」

 純粋な子供達の純粋な怒りが香織さんの純粋(?)なハートをぶち抜いた。香織は「はぅっ」と悲鳴を上げ、胸を押えながら四つん這いになってしまった!

 更に、村の子供達がわらわらと集まって来て舌っ足らずな罵声と共に石を投げつけて来る。それに触発されたのか、大人まで参加し出した。「頭のおかしなシスターは村から出てけ!」とか、「村長の残念な娘は、いつかやると思ってたんだ!」とか、そんなことを叫びながら、「村から出てけ!」のシュプレヒコールが巻き起こる。

「……戦争をお望みか。よかろう、受けて立つ。私はユエ。売られた喧嘩は品切れするまで買う女!」
「やめてぇ! もう大人しくしてよ、ユエぇ! これで村が滅んだら、私は罪悪感で魂魄ごと消滅する自信があるよ!」

 まるで魔王のように口の端を釣り上げ、広げた両手の先に炎を顕現させた頭のおかしいシスターさんを、香織は後ろから羽交い締めにする形で抑え込み自重を懇願する。

 どう考えても、傍若無人なユエの自業自得だ。溜まりに溜まったヘイトが臨界点に達し、村八分を越えた村追放運動に発展したのだろう。

 この状況においても、反省するどころか、ごく自然にこれを迎撃せんと名乗りを上げたユエはまさに魔王の嫁。傍若無人、理不尽の権化。

 反省? 自重? そんなもん知らん! どっこからでもかかってこんか~~い!

 と気勢を上げるユエの首根っこを掴んだ香織は、そのまま村の出口へと走りながら「すみません! 本当にうちのユエがごめんなさい!」と謝りつつ、片手で抜いたロングソードを使って飛んでくる石を片っ端から弾き返していく。

 傍から見ると、不敵に笑うシスターを引き摺りながら、片手でロングソードを振り回して走り回る村娘の図――まさに、村長の残念な娘そのものだった。

 どうにか村を出ると、そこでぴったりと村人達の雄叫びが止まった。村から出れば騒動は収まるらしい。もしや、村の外まで追い駆けられるのではと戦々恐々としていた香織はほっと安堵の溜息を吐きつつ、その場に座り込んだ。

「……香織、大丈夫?」
「罪悪感が大丈夫じゃないよ、ユエのばか」

 村人全員から敵意と怒りをぶつけられるのは、そんな経験のない香織的に相当精神的ダメージを受けたようだ。なんだか雰囲気がめそめそとしている。

「もう、どうしてユエはそんなに平然としているの? いくらゲームの世界だからって、あんな小さな子達に石を投げられるなんて、普通にショックだと思うんだけど……まさか迎撃しようとするとは思わなかったよ」

 咎めるような、その鋼の精神というか図太い精神に感心するような、呆れるような、何とも言えない表情を向ける香織に、ユエはふっと優しい表情になって答えた。

「……経験済みなので」
「? 経験? ……ぁ」

 一瞬、何のことか分からなかった香織だが、少し考えて察する。そして、いかにも「しまった!」という表情を浮かべて、慌てたように話題の転換を図ったが……時すでに遅し。

「……信頼していた家臣や父同然の叔父様にメッコメコにされたことに比べれば、見ず知らずの、それもプログラムに過ぎない子供に石を投げられることなんてどうということもない」
「あ、あのユエ? その、ごめんね?」
「……なにを謝ってるの、香織。私はただ、家族同然の人達にこてんぱんにされた経験に比べれば些細なことだって言いたいだけ。ふふ、あれは痛かったなぁ。自動再生が尽きるまで魔法の嵐で。ふふふっ、心が痛かったなぁ~~」
「ごめんなさい、ユエ! 私が馬鹿なことを聞きました! だから戻って来てぇ!」

 死んだ魚のような目で遠い過去を見つめるユエの虚ろな笑い声に、香織は涙目になりながら抱き着きつつ謝罪を口にする。叔父であるディンリードの真意を知って吹っ切れていたはずだが、事実は事実として忘れ難い出来事であったことに違いはないのだろう。

 涙目で縋り付いて来る香織を優しく撫でながら、ユエは輝きの戻った瞳を向けて言う。

「……大丈夫。ハジメと出会い、旅をして、叔父様の真実を知って、真理に目覚めた私には、もはや死角はない」
「し、真理?」

 コクリと頷いたユエは、これ以上ないほどのドヤ顔でむんっと胸を張りながら自信満々に答えた。

「……理由はさておき、取り敢えず皆殺す。気になることがあるなら、適時蘇生しよう」
「……解放者の皆さん。皆さんの魔法は、たぶん一番持っちゃいけない人がコンプリートしちゃってます。ごめんなさい」

 これぞ魔王の正妻! 彼女の前では、命はあまりに軽かった。いや、きっと、現実世界ではもう少し自重するはず、と半ば祈りながら、香織は異世界の守護者達に頭を下げるのだった。

 なんだか旅の前にいきなり力が抜ける思いでガックリとする香織だったが、直後、そんな余裕はなくなる事態に見舞われた。

 バサッっと、そんな羽ばたきの音が一つ、二つ……続々と耳に響く。

 ハッとして顔を上げてみれば、そこには天より降りて来た存在が複数。

 背中の美しい白翼をはためかせ、華麗にして荘厳なドレスアーマーを纏い、手にはそれぞれ名のありそうな剣やら槍やらの武器を携えている。尋常でないプレッシャーを放つ彼女達の姿は、その脅威に反して美しい。神の造形ともいうべき容貌に、夢のように流れる銀髪。

 香織は言葉もでない。彼女達の存在や力は明らかに、ゲームでいうところの中盤、否、後半に出て来るボス級だ。

 ああ、そうか、これはイベントなんだ! 香織がそう納得しかけた直後、無慈悲な天の声が降って来た。

――野生の戦乙女(ヴァルキューレ)が現れた!!

 まるで、ゴブリンのように軽々しく出現しちゃった北欧神話の中でも大人気の彼女達は、ジャキッと音をさせて武器を構える。敵意満々。やる気満々である。

 香織は一言。

「こんな世界、間違ってるよぉ……」

 最愛の人の正気を、少しばかり疑ってしまう香織であった。
いつも読んで下さりありがとうございます。
感想・意見・誤字脱字報告もありがとうございます。

設定とか、情報画面とか、内容とか、現段階では試作の上にバグっている、という設定なので適当なのはご勘弁を。
いつか、長編アフターの舞台にするつもりなので、そのとき、詳しい内容を考えようと思っています。

PS
オーバーラップ様のHPにて、コミック版ありふれたが更新されております。
相変わらず迫力のある絵で、ユエも可愛いです。
よかったら見に行ってみてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ