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ありふれた職業で世界最強 作者:厨二好き/白米良

ありふれたアフターストーリーⅡ

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お正月特別アフターストーリー ありふれたお正月の風景(南雲家限定)

ギリギリ、お正月偏を投稿。
短いですが、よければどうぞ。
「ぺったん! ぺったん! おいしくな~れ! ぺったんこ! ですぅ!」
「ぺったん! ぺったん! おいしくな~れ! ぺったんこ! なの!」

 澄んだ空気に、透き通るような太陽の光が降り注ぐ元旦の昼下がり。

 南雲家の庭の一角では、そんな可愛らしい掛け声が響いていた。声の主は、ウサミミをみょんみょんさせながら満面の笑みを浮かべているシアと、同じく満面の笑みを浮かべながらウサミミカチューシャをみょんみょんさせているミュウだ。

 二人は現在、餅つきの真っ最中なのである。

 ちなみに、ミュウのウサミミカチューシャは、感触・見た目共に本物と遜色ないハイレベルなものだったりする。

 原材料はユエが調達してきた。かつて、シアのウサミミにハジメの関心を奪われ、ケモミミカチューシャの製作に心血を注いでいたユエの技が光る一品。ミュウがシアのウサミミを羨ましそうに見ていたので、改めて作ってあげることにしたのだ。

 限りなく本物に近いそのウサミミを、いったいどこから仕入れてきたのか……

 ハジメから羅針盤とクリスタルキーを借り受け三十分ほどで戻って来た彼女の手には、梱包もされていないウサミミが握られていた。きっと、ケモミミ専門店のようなところに行ったのだろう。

 たとえ、ゲートが開いた直後に見えた向こう側の光景が【オルクス大迷宮】の奈落に似ていたとしても、握り締められたウサミミが時折ピクッピクッと痙攣していたとしても、ユエの頬に一滴の赤い何かが付着していたとしても、専門店から購入したものに違いない。

 たとえっ、しばらくの間、シアが自分のウサミミを守るようにぺたんと折り畳んだまま、ユエに恐ろし気な眼差しを向けていたとしても、久しぶりに会ったイナバさんがミュウの頭に装着されたウサミミカチューシャを見て愕然としていたとしても、購入品だと言ったら購入品なのだ!

「の、のぅ、二人とも。リズミカルなのはいいのじゃが、もう少しペースと威力を落としてくれんか? さっきから、度々妾の手がぺったんこされておるんじゃが」

 本当の姉妹のように仲良く餅つきをしていたシアとミュウに、痛そうでありながら微妙に興奮が感じられる声音でティオが注意を促した。

 臼の中の餅をひっくり返す役目を引き受けたティオだったが、その言葉通り、先程から何度も彼女の手がぺったんこされているのだ。なお、シアもミュウも餅つきに手加減はしていない。戦槌の重量そのままに振り下ろしている。

「何しているんですか、ティオさん。早くお餅をひっくり返してください!」
「なの! お餅つきは時間との勝負なの! ティオお姉ちゃんしっかり!」
「え、あ、はい」

 ティオは慌てて、お餅を返すため手を入れて、

「ぺったんっですぅ!」
「アッ!? シア! お主、今、わざと――」
「ぺったんっなの!」
「ひぎぃ!? ミュウ!? なぜ今振り下ろしたのじゃ!?」

 ぺったんっぺったん! ア゛ッ!? ぺったんっぺったんっ! あひぃっ!?

 リズミカルで可愛らしい言葉と共に、お餅と手がほどよく形を変える。時折挟まるティオの合いの手がいい味を出している。

「いや~、シアちゃんは実に餅つき姿が似合うなぁ。流石、ウサギさんだ。ミュウちゃんの餅つきウサちゃん姿も実に可愛らしい」
「だな。恍惚の表情を浮かべて手をつかれている変態が間に挟まっていなければ録画保存したいほどだ」

 縁側でお茶をすすりながら和んでいる愁の言葉に、ハジメもまたズズズッとお茶をすすりながら同意(?)する。二人とも不粋なツッコミはいれない。遂に両手を入れ出した変態のことも、餅つきに使われているのが数多の敵の血を吸ってきた戦槌である点もお正月スルーだ。

 ウサミミコンビと変態から視線を逸らした二人は、広い庭の別の一角へ視線を向ける。

 そこでは、これまたお正月らしい光景が広がっていた。

「あぁ!? ユエ! 今、ぜったい重力魔法使ったでしょ! 反則だよ!」
「……酷い言いがかり。そもそも反則というなら羽子板の二刀流という時点で、香織の方が反則」

 適度な距離をとって相対するのは香織とユエだ。二人の手には羽子板が握られている。先程から姦しく喧嘩をしながらやっているのは羽根つきだ。

「反則じゃないよ! 羽子板を二つ持っちゃダメなんてルールないもの。でも、魔法は明らかに反則でしょう?」
「……ルールとは、己の力で作るもの!」
「キメ顔で言ったってダメなんだから!」

 香織さんのサーブ! ヒュゴッと尋常でない音を立てて羽根が空を切り裂いた。常人なら間違いなく反応できない速度! そして角度!

 が、羽根はユエの手前で急速に減速すると、まるでスローモーションのようにゆっくりと進み出す。

「……これが私のゾーン。食らえ、へびぃしょっとぉ」
「だからそれ重力魔法でしょ! うぅ、こうなったら私だって……いくよ、受けてみて! 神速しょっとぉ!」

 ユエが重力魔法によって重い一撃を放てば、香織はそれを打ち返すと同時に到達時間を短縮して神速の一撃を放つ。

 ユエの脇を抜けた羽根を見てにんまりする香織さん。しかし、ユエ様はそれほど甘くない。

「……私に死角はない!」
「あ、天在は本当にずるい!」

 瞬時空間転移を使って通り過ぎた羽根の前に出現したユエ。香織の抗議の声をさらっと無視して羽根を打ち返す。羽根は空高く上がった。口の端を釣り上げるユエ。考えていることは明らかだ。

(超重力を付加して上から落とす気だね!? そうはさせないよ!)

 香織は飛び上がった。荒ぶる鷹の如く! 上空からの打ち落としがユエを襲う!

 ユエの羽子板がスパークした。

「……らいりゅうしょっとぉ」

 羽根が咆えた! インパクトと同時に羽根が雷を纏い、飛翔と同時に雷龍となって顎門を開く!

「甘い、甘いよ、ユエ!」

 香織の羽子板が銀色の輝きを帯びた。絶妙に加減された分解の能力が打ち返す寸前で雷龍のみを消し去り羽根を打ち返した!

 魔法(羽根)が乱れ飛び、打ち手が神速で、あるいは瞬間移動で動き周り、こっそりただの魔法を放つ! 合間合間に「……香織のあほぉ」とか、「ユエのおたんこなすぅ」という罵倒も迸る。

「二人とも本当に仲がいいなぁ」
「まぁ、否定はしない。自動再生と神技レベルの回復魔法のせいか、年々喧嘩が過激になってきているんだが、普通に二人で買い物行ったりもするしなぁ」

 ちゅどんっ! どかんっ! と衝撃音が響く和やかな羽根つきを耳に、ずずずっとお茶をすする父と息子。ハジメはさりげなくご近所対策のアーティファクトを放つ。

 愁とハジメが正月の空気と心地よい爆風に目を細めていると、背後の室内からきゃっきゃっと楽しそうな声が響いて来た。

「あははっ、見て見て! 私の傭兵団がまた奇襲に成功したわ! 成功報酬で資金が三倍になったわ!」
「ど、どうして菫お義母様ばかり良いマスに……私なんて、もう家すら失いましたよ。王女なのに、私、王女なのに……」
「リ、リリィ……なんて不憫な。ボードゲームの世界でもこんな扱いなんて。それに比べ、地味に起業を成功させているレミアさんが恐ろしいわね。いつの間にか順位抜かれてるし」
「あらあら、どうしましょう。また子供が出来てしまいました。今度は双子ですって。みなさん、祝い金として200万ずつくださいな。うふふ」

 菫、リリアーナ、雫、そしてレミアが興じているのはトータス版人生ゲームだ。金銭の単位を始めとして、ところどころ日本用語が使われた改訂版だ。

 製作者はサウスクラウドという謎の人物だ。適度な大きさのボードなのだが、ステータスプレートの機能を応用したアーティファクト級ゲームで、設定した天職に合わせてマスの内容がプレイヤーごとに変化する。ステータスプレートのように、白紙のボード上にマスと駒が浮き上がるのである。

 憧れの天職持ちの人生を疑似体験できるとあって、トータスではユンケル商会を通して馬鹿売れしている大流行のゲームである。

 アーティファクト級のゲームが大量販売されている……

 その事実に各国各組織の重役達が、揃って頭を抱えているとか。

 閑話休題。

 現在、菫は傭兵団の団長となって悪の限りを尽くして……お仕事を順調にこなしている。リリアーナは亡国の王女となって各地を当てもなく彷徨っており、雫は冒険者としてそれなりの成功を収めていて、レミアはフューレンでも一、二を争う大商人となっていた。

 ちなみに、レミアは既に八人の子供がいたりする。そして、今、九人目と十人目の子供が出来たらしい。ほわほわ笑顔で祝い金を要求している。

 菫は笑顔で「おめでとう! 現実でもお願いね!」と言いつつ祝い金を渡し、雫は隣を見て苦笑いしつつ渡し、リリアーナは「……お祝い金、払えません。200万なんて大金、どうしたら……。あはは、借金ですね。王女なのに、私、王女なのに……」と呟いている。

 リリアーナは遂に、借金王女になったらしい。

「平和だなぁ」
「本当になぁ」

 愁がしみじみと呟けば、ハジメがしみじみと同意した。ずずずっとお茶をすする。

 と、そのとき、菫の傭兵団の団長でありながら「あら、私ったら遂に結婚するのね!」と嬉しそうに叫んだ。愁の耳がピクッと反応する。

 どうやら最強の傭兵団団長にも春が来たらしい。

 おもむろに、あるいは現実逃避気味に、借金王女が菫に尋ねた。

「そういえば、菫お義母様は愁お父様とどのように出会われたのですか? やはり趣味が高じて?」
「あら、いきなりね。どうしたのリリィちゃん」
「ええと、ほんの興味です。私は立場上、一般の方のような出会いはありませんし、ハジメさんとも特殊な出会いですから、お義母様とお義父様の出会いはどのようなものだったのかなぁと思いまして」
「なるほど。確かに、香織ちゃんと雫ちゃん以外は、出会い方は普通じゃあないものねぇ」

 衝撃音と爆音、そして「ぺったん!」の掛け声と「アッ!?」の嬌声をBGMに、菫は口を開いた。懐かしそうに目を細め、遠くを見ながら。

「そう、あれは寒さ厳しい元旦の神社だった。私と愁はお互いを知らないまま――神主と巫女のコスプレをして神社に潜入していたの」
「いきなり普通じゃない出会いキタ!?」

 リリアーナの、新年初ツッコミが炸裂した。微笑み女神なレミアも、冷静沈着が売りの雫も揃って頬を引き攣らせている。

「驚いたわ。アニメの聖地だった神社で、一度でいいから巫女として働いてみたかった当時高校生の私は、初詣で賑わう中、しれっと巫女のコスプレをして案内係の仕事に精を出していたの。そしたらね、キメ顔で柱に寄りかかる明らかに学生と分かる神主さんを発見したのよ。彼は直ぐに、本物の神主さんに見つかって必死に弁解していたわ」
「もう、どこからつっこめばいいのか分からないよぉ」

 リリィちゃんのですます調が崩れた。助けを求めるように雫とレミアを見るが二人共ふいっと視線を逸らした。

 愁の耳がピクピクしている。

「騒動に気が付いた神社の関係者さん達が集まって来てね、しれっと巫女してた私も正体がばれたのよ。二人して速攻で土下座したわ。ここは相手がドン引きするほどの土下座をして乗り切ろうと思ったのよ」
「土下座で騒動を乗り切ろうとする……どこかで聞いた話ね。南雲家の伝統芸なのかしら?」

 ハジメの耳がピクピクしている。雫の視線を後頭部に感じるのはハジメの勘違いだろうか。

「だけど、一つ問題があったの。もういいから帰りなさい――その言葉を引き出すには、私達のコスプレはレベルが高すぎたのよ!」
「なんだって~」
「レミアちゃん! いい合いの手よ!」

 レミアさんは義母のノリというものを完全に把握していた。

 機嫌のいい菫が話すには、どうやら衣装が本物に限りなく近くて、本職の方々が本物と勘違いしたらしい。いったいどこから手に入れたのか、と問い詰めてきたのだ。

 そうして、次第にイラついて来た愁は、つい、こう言ったらしい。

――狩衣じゃねぇし! 私服だし! たまたま似ているだけで、普段着だし! 俺のファッションセンスに何か問題でも!?

 どうやら土下座の事実も忘れて、潜入の事実すらもなかったことにしようとしたらしい。

「それを聞いた瞬間に、私はお腹を抱えて笑い転げながら思ったの。よしっ、この人と結婚しよう! ってね!」
「「「どうしてそうなった!?」」」

 リリアーナ達のツッコミが炸裂する中、縁側では愁が両手で顔を覆って転がり回っていた。どうやら黒歴史を義理の娘達に暴露されて羞恥心がオーバーヒートしたらしい。

「そういうわけで、私の告白で付き合うようになって、そのまま結婚したという感じね。どう? リリィちゃん達に比べたらどうってことない出会いでしょう?」
「「「「「「「「それはない」」」」」」」」

 いつの間にか話を聞いていたらしいユエ達も含め、南雲家嫁~ズとミュウからツッコミが入った。

 まだ「ぬぉぉぉっ、はずいぃ」と悶えている愁の肩を、ハジメはポンポンと叩いて慰める。

「さて、シアちゃん達も戻って来たことだし、出来立てのお餅でお雑煮でも食べましょうか?」

 菫が手をパンッと打ち鳴らし区切りをつけた。「は~い」と嫁~ズが返事をし、ミュウが嬉しそうにお餅を運んでくる。

 その後、菫特製のお雑煮に舌鼓を打ちつつ、南雲家の正月は穏やかに過ぎて行った。

 クレーターの出来た庭も、破壊された臼も、義理の娘や孫から生暖かい眼差しを受けて居心地の悪そうな愁も、「うちの天使はここかぁっ」と怒鳴り込んできた香織パパも、「いつもうちの雫がお世話になっています」と挨拶しながらシュパッとリビングに現れた雫パパと祖父も、実にありふれた正月(南雲家限定)の光景なのであった。
いつも読んで下さりありがとうございます。
感想・意見・誤字脱字報告もありがとうございます。

なろう民の皆さんの本年も、南雲家のように楽しくて平和な一年になりますように!

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