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ありふれた職業で世界最強 作者:厨二好き/白米良

ありふれたアフターストーリーⅡ

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ありふれたアフターⅡ 船上国家アーヴェンストへ

すみません、また遅刻。しかも話が進まない。
やばい、本格的に土曜の18時に間に合わなくなってきた……
日曜に変えようかな……
 うっすらと東の空が白みを帯び始めた早朝。高度の高さもあってか、空気はキンッと冷えていて、吹き付ける風は僅かに痛みを感じさせる。

 それを爽快と感じるか、勘弁だと感じるかは人によりけりだろう。もっとも、たとえ爽快と感じる人であっても、長居は望まないはずだ。

 そんな環境にあって、既に三十分はのんびりとしている影が二つ。

 飛空挺ロゼリアの甲板上にて、湯気を立てるカップを傍らにくつろいでいるのはハジメとティオだ。

 ハジメの前にはこの世界で手に入れた鉱物が並んでいる。それを手に取っては熱心に眺めたり、弄ったり……錬成師の性が遠慮なく発揮されているようだった。ティオはその傍らで、普段の変態性が嘘のように穏やかな表情をさらしながら、ハジメの手元や横顔を眺めている。

「あ、あの~。いま、よろしいですか?」

 おずおずとした声がかけられた。ハジメとティオが視線を向ければ、そこには銀髪セミロングの美少女――ローゼがいた。腕の中にはクワイベルがしっかりと抱えられている。

「ああ、どうした、女王さん。十分くらい前からその辺をうろちょろしていた奇妙な女王さん」
「気がついていたなら声くらいかけてくださいませ!」

 実は、十分くらい前には甲板に来ていたローゼちゃん。目撃したのは穏やかで、第三者の入りづらい雰囲気の二人。そして、脳裏に過ぎるのは夕べのあれこれ。結果、どう声をかければいいのか分からず、「わたしは、たまたま近くにいただけ。ほら、気がついて! そっちから声をかけて!」アピールをしていたのだ。

「ローゼ殿の、あからさまな〝気がついてアピール〟が可愛くてのぅ、ついつい意地悪をしてもうた。許してたもう?」
「うっ。その、いえ、私がすぐに声をかければよかっただけなので……」

 素直に謝られてしまい、更に居たたまれなくなったローゼは、ティオの〝可愛い〟発言に恥ずかしそうにちょっぴり頬を染めて、もごもごと口を動かした。

「それで、何か用か? 言動が痛々しい女王さん」
「昨夜のあれはハジメ様のせいではありませんか! ハジメ様は私のことがお嫌いなのですか!?」

 昨夜、ハジメとティオが愛を交わし合っている現場を覗き見していたローゼちゃん一行には、魔王さまのお仕置きが待っていた。

――魔王流嫌がらせ百八式 〝今日から貴方もハウリア〟

 魂魄魔法を応用的に付与し擬似的な〝神言〟を再現できるアーティファクトによる嫌がらせ。効果は、〝一定時間、言動が厨二になる〟だ。

 急に言動が痛々しくなったローゼとクロー姉弟に、他の乗組員達が目を点にしたのは言うまでもない。日頃の苦労から、遂におかしくなったのかと船医まで呼ばれたほどだ。効果が切れた後も、ハジメに文句を言う気力すらなく、部屋の隅で仲良く三人、三角座りで己の黒歴史に耐えることになった。

 ただ一人、いち早く魔王さまのお怒りを察して離脱を図ったボーヴィッドは、そんな三人を見て大笑いしながら転げ回っていたりするが。主君の痴態に笑い転げるとか、それでいいのか空戦部隊一番隊隊長、というツッコミが聞こえてきそうである。

「まったく、話が進まないだろ? はしゃいでないで、用件を言ってくれ」
「っ。お、抑えるのよ、私。私は誇り高き竜王国の女王。大丈夫、深呼吸よ。すぅ、はぁ……」

 青筋を浮かべながら、昨夜のお仕置きの酷さも含めて、この方が伝説の竜騎士様だなんて、二度と思いません! と決意を新たにしたローゼは、朝食の準備ができたことを伝えた。

「そんなことを伝えに、わざわざ女王さんが来たのか? 部下に任せりゃいいのに」
「いえ、お二人がこんな陽も昇らない早朝から甲板にいると聞いて、何をしているのだろうと気になったものですから」

 そういうことらしい。ハジメは肩を竦めると、寒そうに首を竦めているローゼを手招きした。少し戸惑ったように視線を泳がせたローゼは、いそいそとハジメの隣に寄ってくる。

「ぁ。風が……」
「ティオが周囲を風の結界で覆っている。熱を孕んだ風のな。中々、快適だろう?」
「え、ええ。……ハジメ様の道具といい、ティオ様の魔法といい、本当に私達の常識は通じないのですね。異世界のお話、一晩経ってようやく実感が湧いてきたように思います」
「まぁ、異世界と言ってもすぐに納得できねぇわな」

 ローゼは、話しながらも手元の鉱石に真紅のスパークを奔らせるハジメを横目に見る。鮮やかな真紅の光。直後に形を変えていく鉱石。およそ、この世界の人間が持たない不思議な力。この手によって生み出された超常の兵器が、巨大な軍艦を軽く蹴散らした。

 だが、ハジメの力が超常の兵器を作り出すだけでないことを、ローゼは知っている。詳しい話は聞いていないし、無理に聞き出そうとも思わないが、ハジメが姿を現した直後、彼が迫り来る空戦機のフックを素手で細切れにしたのを見ているのだ。あれは、今の物を作る力とは別のものだ。

 正直、底が知れない。恐ろしいと思う。高潔で、正義を体現したかのような御伽話の竜騎士ではないと知った今は尚更。

 しかし、緩やかな滅びへと向かっている自分達竜王国の末裔にとって、ハジメとティオの存在は、まるで天から贈り物だ。

 クワイベルという最後の王竜が生まれたこの時、というタイミングも、運命を感じずにはいられない。

「お、ようやくか」
「結構、待ったのぅ。その分、期待は大じゃな」
「? あの、お二人は何を……」

 手元の鉱物を片づけながら、ハジメが東の空へと視線を投げる。ティオも、ハジメに寄り添いながらジッと視線を注いだ。二人が何をしているのか分からなかったローゼは、頭の上に〝?〟を浮かべながら首を傾げる。

「何って、あれだよ。あれが見たくて、ここにいたんだ」

 そう言ってハジメが指差したのは、今にも顔を出しそうな――太陽だった。

 夜の黒を払拭し、世界を白銀に染め上げる陽の光。雲海の陰影が色濃くなり、照らされた場所はキラキラと宝石のように輝き出す。

 雲海の上を飛び続ける飛空艇の甲板から見る日の出。

 それこそが、ハジメとティオが早朝から甲板に出ていた理由。ひょんなことから迷い込んだ異世界の絶景を、しっかりと記憶に収めるため。

「……悪くないな。ああ、中々、いいじゃないか」
「厳しい世界ではあるが、夜闇を払う光の強さは、どの世界も同じじゃな。うむ、素晴らしい。美しい世界じゃ」
「……」

 ローゼは呆然とした。

 ティオの口にした〝美しい世界〟という言葉が、何度も頭の中を木霊する。思い出せば、こんな風に陽の光を眺めたのはいつぶりだろうか。視界には、毎日入っていたと思う。

 だけど、その光景に何かを思うことなどなかった。ただ、生きることと、責務を果たすことに必死で、空に生きながら空を眺めるということすらしていなかったことに、今更ながらに気が付く。

 刻一刻と輝きを増していく世界。

「……ええ、美しいです。とても」

 同意の言葉。しかし、その言葉とは裏腹に、ローゼの表情はどこか暗かった。




「質素な割に、料理は美味いな。あ、これおかわりで」
「あんた、本当に遠慮がねぇな」

 朝食の席には、ハジメとティオの他、ローゼとクワイベル、クロー姉弟にボーヴィッド、そして給仕の役目を負っているらしい男の乗組員がいた。普段は給仕係など存在せず、女王であるローゼも、近衛隊長のクロー姉弟も、自分のことは自分でする。

 今回はハジメ達というお客さんを迎えていることによる特別態勢だ。

 ハジメの、質素と言いながら、かつ質素な理由を理解していながらの〝おかわり〟発言に、給仕の男は少々頬を引き攣らせつつも大人しく従った。ボーヴィッドは呆れたような表情でツッコミを入れる。その態度はこの艦の乗組員の中で一番気安い。

「まぁな。止めろと言われたら止めるが、言われない以上、もてなしは全力で受けるのが俺の主義だ」
「ははっ、そりゃあ気が合うな。俺も、親父からは善意の振る舞いは余さず受けろと教えられているんだ。こちとら命まで救われているしな、存分に食ってくれよ。と言っても、作ってんのも、材料用意してんのも俺じゃないけどな! あはははっ」

 本当に、お前が言うな……という無言の訴えを宿した眼差しが、クロー姉弟からボーヴィッドへと突き刺さる。しかし、ボーヴィッドは気にしない。今は、真面目なクロー姉弟よりも、ハジメとティオのもてなしの方が重要なのだ。命を救われた礼は昨夜の内に済ませているが、やはり形で示すのが一番というのがボーヴィッドの持論である。

 ボーヴィッドの適当感あふれる言動に慣れているようで、オルガは嘆息しつつも視線を主君へと向ける。甲板にハジメ達を呼びに行ってから、どこか暗い雰囲気を纏うローゼの様子に、オルガは眉間に皺が寄るのを止められなかった。

「……ローゼ様。何かございましたか?」

 ボーヴィッドが楽しそうにハジメと会話しているのを横目に、オルガはそっと囁くような声量でローゼへと話しかけた。

 ハッと我を取り戻したローゼは、誤魔化し笑いを浮かべながら首を振る。

「まだ、ハジメ様達の結論を聞いていませんから……不安が顔に出てしまったみたいですね」
「そう、ですか」

 納得のいかなさそうなオルガは、やはりハジメ達が主君に何かをしたのではと疑いの眼差しをチラリと向けて……ビクッと体を震わせた。

 ティオが、食事の手を止めて、ジッとローゼやオルガを見つめていたから。

 ティオはオルガと目が合うと、困ったような、それでいてどこか優しげな微笑みを向ける。その表情に、オルガは更にビクッとなった。

 しっかりと二回おかわりをして、ようやく食事を終えたハジメ達は、食後の異世界製紅茶を楽しむ。タイミングを見計らって、ローゼが意を決したように問うた。

「……ハジメ様。そろそろ、昨夜の、私の願いに対する返答を、教えていただけますか?」

 共に神国を打倒し、アーヴェンスト竜王国を復活させる。そして、万全の体勢を整えて、邪竜ヘルムートを討伐する。

 その協力依頼。戦力的なことを考えれば、ハジメとティオこそ戦場の主役となる願い。特に、クワイベルが力を得られない神国打倒は、ほぼ完全にハジメに頼ることになるだろう。

 昨夜、ハジメとティオが甲板に出て行った際は、あるいはそのままどこかへ消えてしまうのではと思わず追い駆けてしまった。

 だが、こうして残ってくれているということは、きっと願いを聞き届けてくれたはず……

 そう思うものの、緊張からごくりっと生唾を飲み込まずにはいられない。

 シンッと静まり返る部屋の中で、ゆっくりと飲んでいた紅茶のカップをテーブルに戻したハジメは、

「ヘルムートはぶっ殺すけど、神国なんぞ知らん。そっちは自分達で頑張れ」
「ちょっと、なに言ってるのか分からないです」

 邪竜は殺すのところで歓喜に震えそうになったが、後半で一気に冷えた。現実逃避気味に、ローゼが半笑いで返す。

「だから、お国の復活とかどうでもいいんだけど、ヘルムートの方は、純粋な俺達の都合として、ちょっと殺そうかなって」
「……ちょっと、なに言っているのかわ――」
「あ?」
「分かります。邪竜討伐万歳。竜王国復活の未来さようなら、ということですよね。分かります」

 頑張って重ね現実逃避をしてみたローゼだったが、ヤクザみたいなハジメの声と表情によって現実に帰還した。涙目になるのは止められない。黙り込んでしまったローゼに代わりに、クロー姉弟が椅子を蹴倒しながら立ち上がり抗議と説得の声を上げた。

「何故です!? あれだけの力があるのなら、神国打倒とてそう難しいことではないはず! 我々の悲願なのですっ。どうか、お考え直しをっ。どうかっ」
「今、この時も、竜王国の民は苦しみに喘いでいるのです! 竜達もそれは同じ! 昨日は神国の空母艦を撃退し、竜達を救ってくれたではないですかっ。今一度、お二人の正義をお示しください!」

 響き渡るオルガとジャンの言葉。しかし、それを受けたハジメの表情にはさざなみ一つ立ってはいない。

「別に、そこまで声を荒げるようなことじゃないだろ? ヘルムートが消えれば、世界は晴れる。そうすれば、広大な大地のどこにでも立国できるだろ。汚染されているかもしれない大地とか、その後の神国との争いとか、それこそ異世界の住人である俺達には関わりのないことだ。戦争の代理をしてやるような義理も義務も、俺達は持ち合わせちゃいない」

 返された正論に、クロー姉弟は言葉に詰まる。しかし、そう簡単に諦められるほど、ハジメとティオの示した力は安くない。憎き神国打倒の可能性が目の前にあるのに、「はい、そうですか」と割り切れるほど、二人は達観してはいない。

 だから、苦しんでいる人や竜達を知って、それを救いたいと願われて、何故放置できるのかと声を荒げてしまう。

「ハジメ様。どうかお力をお貸しください。せめて、クワイベルが王宮の地下に辿り着く助力だけでも、お願いできませんか?」

 ローゼの切実な願い。ハジメは特に表情を変えることもなく切り返した。

「対価に何を出せる?」
「え? た、対価、ですか?」

 竜王国の民の未来がかかっているのにと、再び騒ぎそうなクロー姉弟だったが、ローゼが視線で止める。そして、何を差し出せるか考えた結果、決然と――

「わ、私をささげ――」
「いらん」
「はぅっ!?」

 最後まで言い切ることも出来なかった。一世一代の覚悟で己を捧げようとしたのに、即答で切って捨てられた。「わ、わたし、女王なのに……」と、どこかの王女様が「仲間♪ 仲間♪」と小躍りしそうなセリフを呟く。

「というか、ティオの前でよく言ったな。中々図太い神経を持ってる」
「え、あっ。も、申し訳ありません、ティオ様! 私、決して、ティオ様を侮辱するつもりは……」
「よいよい、分かっておる」

 実は、他にも嫁が複数人いると知ったら、異世界の女王様はどう思うだろうか。ティオは曖昧な表情で視線を逸らした。

 難しい表情で黙り込み、必死に頭を働かせているのか視線を激しく彷徨わせるローゼ。

 ハジメは、そろそろ話に区切りを付けようと、溜息交じりに口を開いた。

「確かに、俺の力は大きく、一国くらい潰せるという自負がある。だが、だからこそ、俺は他者の意思で力を使わない。俺の力は俺だけのもので、それは常に、俺の意思によってのみ振るわれる。救ってくれ、助けてくれなんて願いは、女王さん達の専売特許じゃない。世界には、それこそ星の数ほど、そんな願いが溢れているんだ。そんな願いに、〝できるから〟と応えて東奔西走して、自分や大切な連中の人生を使い潰すつもりは毛頭ない」

 だから、本人達にとっては切実でも、ハジメにとってはありふれた願いでしかないローゼの願いは、その決断を覆すほどのメリットでもない限り、そう簡単に請け負ったりはしないのだと。

「で、自分達の代わりに幾千という人殺しと国家転覆を願うあんた達は、そんなものまっぴらごめんだという俺の意思を覆すのに、力を振るう決断をさせるのに、どんな対価を払える?」
「……」

 今度こそ、ローゼは何も答えられなかった。それはオルガやジャン、ボーヴィッドも同じようだった。

 ハジメが席を立つ。ビクリッと震えるローゼ。

「流石に、こんな悲願を断っておいて、そのまま居座るほど図太くはないんでな。俺とティオは、このままヘルムートの面でも拝みに行くとするよ。世界から暗雲を晴らすことだけは約束しよう。黒い雨が消えて陽の光が地上を照らす新しい世界で、女王さん達がどう生きるかは知らないが……少なくとも、祈るくらいのことはしておこう。悲願が叶うといいな」
「ぁ、ま、まってっ。お待ちくださいっ」

 そう言って、視線でティオを促し扉へと歩き出すハジメに、ローゼは飛び掛かった。もちろん、襲撃ではなく引き止めるために。ハジメの腕にしがみつき、必死に言葉を重ねる。

「あ、あの、えっと、そ、そうです! ヘルムートの討伐と言っても、かの者がどこにいるのか、ご存じないでしょう? 私達が案内します! ですから、お止まりくださいっ。神国討伐の件はともかく、助けていただいたお礼も、まだ返しきれていません!」
「ヘルムートの居場所なら、自分達でどうにでもする。礼も、美味い飯と空の寝床で十分だ」

 さっと、しがみつくローゼの腕を外したハジメだったが、ローゼは扉の前に回り込み両手を広げて身構えた。ハジメの目がスゥと細められるが、ローゼは冷や汗を掻きながらも決して動こうとしはしない。

「ぜ、是非、アーヴェンストにお越しください!」
「連行しようってか?」
「違います! そんなことが可能だとは思っていません! ……アーヴェンストなら、もう少しまともな礼も返せます。お料理だって、ロゼリアのものとは比べ物になりませんし、それにアーヴェンストの空域には湖を保有する島や、希少な果物を実らせる島もあるのです! それから、それから竜族も沢山住んでいますっ。僅かですか、共存しているのです。中には竜に騎乗できる者もいて、人と竜が一緒に飛ぶ姿はとても美しくて……それから……アーヴェンストの民はみんな気立てが良くて、あっ、鉱物を専門に扱う職人さんもいます! きっと、ご興味を持っていただけるかとっ。それに、えっと、それで……」

 もう必死だった。ローゼはしどろもどろになりつつも、空母艦アーヴェンストへの招待を実現しようと、ハジメの興味を引けそうな話を次々と口にする。その姿は、少しばかり痛々しくもあった。

 両手を目一杯広げ、通せんぼをしながら涙目で領土すらない自国の魅力を語っていくローゼ。ハジメをアーヴェンストに招待すれば、まだ情に訴えて助力してもらえる可能性が残ると思っているようだ。

 そこに、クロー姉弟やボーヴィッドも加わる。何とかして、ハジメとの繋がりを失うまいと言葉を重ねる。クワイベルが、小さな鳴き声をあげながらティオの足元に身を寄せる。

 そんな、健気な姿で必死に縋る女王様達を見つめていたハジメは、ふっと優しい表情になった。ハッとしたローゼ達は、聞く耳を持ってくれたのかと希望に瞳を輝かせる。

 ハジメは、しょうがないなぁと言いたげな、けれど、どこまでも優しそうな表情をしながら――ドンナーに手を伸ばした。

(待て待て待て待てっ、待つのじゃ、ご主人様! 流石に、ここで射殺とか、それはないじゃろ!?)
(ティオ。お前、俺をなんだと思ってるんだ。流石に風穴開けたりしねぇよ。ちゃんと弾丸は非殺傷のゴム弾に変えてある。ちょっと強めのデコピンをするだけだ)
(……そ、そうかの? いや、それでもあんまりだと思うんじゃが)

 いきなり、ハジメの右手を押えながら至近距離で囁き始めたティオに、ローゼ達はキョトンとしている。まさか、あと一歩遅かったら、ドパンッされていたとは夢にも思わないだろう。

 実はピンチだった彼女達を横目に、ティオはハジメに密着しながら耳元に囁く。

(ご主人様よ、せっかくじゃし、招待を受けてみてはどうかの?)
(なんだ、興味があるのか?)
(うむ、人と竜の共存という点にな。それに……)
(それに?)

 ティオは少し恥ずかしそうに目を伏せた。意外な素振りに、ハジメは目を瞬かせる。

(ヘルムートの討伐は、おそらくそう時間はかからんじゃろ? この世界の一つの歴史に終止符を打っておいて、まだふらふらと冒険をする気は流石におきん。ヘルムートの討伐が、今回の冒険の終わりじゃ)
(まぁ、そうだな)
(うむ。ヘルムートを討伐したら、妾達は地球に戻る(・・・・・)。じゃからの……)
(もう少し、俺達二人の冒険を楽しみたいってか? まぁ、一泊二日の冒険というのも、確かに微妙ではあるな)
(う、うむ。もう少しだけ……ダメかの?)

 守護者の天職を持つティオのことであるから、それだけが本心かは、正直、ハジメには分からない。この世界の竜族や、ローゼ達への情が、多少なりともあるのかもしれない。

 だが、普段、聞き出すことでようやく口にするティオのわがままを、今回は自ら口にしたのだ。ハジメの答えは決まっている。

「あぁ、じゃあ、少しだけ、女王さん達の国とやらを、見せてもらおうかな」
「あ、それは……」
「ああ。招待を受けよう。ただし、あくまでそれだけだ。助力に同意したわけじゃないことは理解してくれ」
「わ、分かっています!」

 どうにか繋ぎ止めた希望。もちろん、このままでは希望になり得ないことも分かっている。それでも、安堵と喜色の色を浮かべずにはいられない。

 四人で喜び合うローゼ達を眺めつつ、機嫌良さそうに腕を絡めて来るティオに、ハジメは苦笑いを浮かべるのだった。




 それから約一日。

 巨大な雲山が連なる山脈地帯の奥にて、遂に船上国家アーヴェンストが姿を現した。

お読みいただきありがとうございます。
感想・意見・誤字脱字報告もありがとうございます。

あと2話くらいでティオ編は終了予定です。

次回の更新は、できれば土曜日の18時です。


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