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ありふれた職業で世界最強 作者:厨二好き/白米良

ありふれたアフターストーリーⅡ

236/266

ありふれたアフターⅡ 天空世界の歴史

間に合ったぜ……。
まぁ、ただの説明回なので、大して面白みのある内容でもないですが(苦笑

アーティファクトの補足、ありがとうございました。
そういえば、そんなものもありましたね、というのが沢山。
随時、加えていきますね。

 金属の軋むような音が響き、飛空艦がカクンッと高度を下げた。

「きゃっ」
「ぴぃっ」

 鬼畜っぷりを実にいい笑顔で見せつけていたハジメに、抱き合いながらガクブルしていた銀髪少女と小竜が小さな悲鳴を上げた。何事かと、金髪の女性が無線のようなもので艦橋らしき場所に連絡を取る。

『ローゼ様っ。艦の損壊が酷くて、浮力を維持できませんっ』

 拡声されて声が全体に響く。ローゼと呼ばれた銀髪の少女は、ハッと我を取り戻すと、小竜――クワイベルに視線を向けた。クワイベルはローゼに視線を返すと一つ頷き、

「ぴぃぃぃ~~~」

 と、甲高い鳴き声を上げた。その小さな体からは白銀の光が溢れ出し、柔らかく飛空艦を包んでいく。

『浮力上昇、五十パーセント。あと少しお願いします、クワイベル様』
「ぴぃ、ぴぴっ」

 まるで、「任せておけ!」と言っているように、ちょっとドヤ顔で胸を張るクワイベル。どうやら、その特殊な白銀色の力で、低下した艦の浮力を取り戻しているらしい。

 安堵の吐息を漏らしたローゼは、愛らしい友人にしてパートナーたるクワイベルをぎゅっと抱き直すと、興味深そうに自分達を見ていたハジメとティオへ視線を向け直した。

 立ち上がり、クワイベルを傍らへと降ろして、カーテシーに似た優雅な礼を見せる。風に煽られた髪はボサボサで、服装もつなぎ服のような質素なものなのに、その姿には見る者をハッとさせる気品があった。

「お初にお目にかかります。竜騎士様、真竜様。私はアーヴェンスト王国女王ローゼ=ファイリス=アーヴェンスト。竜王国を代表して、此度の助力に感謝致します。……生憎とこのような有様ですので、大したお礼もできませんが、是非、我が艦ロゼリアにて翼を休めてくださいませ」

 なるほど、みすぼらしい恰好ではあるが、纏う気品の理由には納得がいく。どうやら、ただの空賊ではないというハジメの予想は正しかったようだ。

 ローゼの言葉に、両隣の金髪男女が視線を彷徨わせる。救われたのは事実だが、目の前の二人は余りに得たいが知れない。ティオの存在はまだしも、ハジメの所業と強大な力は、女王の身を守ることを使命とする者としては、安易に懐に入れていいものか迷うところだ。

「ぴぃっ。ぴぴぃ!」
「あ、こらっ、くーちゃん! 失礼ですよ!」

 到底逆らうことなど出来はしないが、警戒心は捨てられない……ついつい身構えてしまう金髪コンビだったが、そんな彼女達を尻目に、クワイベルはささっと飛び出してハジメとティオの周囲を嬉しそうに飛び回り始めた。

 ローゼが、「戻ってきなさぁ~い!」と怒った顔で叫ぶが、クワイベルは竜化状態のティオが余程気になるようで、ティオの鼻先を飛びながら興味津々な眼差しを向けている。

「ティオ」
「承知じゃ」

 ハジメの呼びかけで、ティオはその身を黒い魔力光の繭で包み込んだ。しゅるしゅると縮んでいく。直後、ぱぁっと散った魔力の中から、いつものティオが現れた。

「……なんてこった。本当に人に成れるのかよ。伝説通りじゃねぇか」
「この目で見ても、未だに信じられないわ」
「姉さん。ちょっと殴ってくれない? 俺、幻覚でも見てるんだと思うんだ」

 ハジメに命を救われたパイロット――ボーヴィットが額に手を当てながら呟けば、金髪コンビも同じく信じられないといった様子で目を見開いている。

 ハジメとティオは、彼等の驚きをよそに甲板へと降り立った。その際、ティオは竜の翼を出して浮遊していたのだが、ハジメは普通に、空を踏んで(・・・・・)歩いて降り立ったので、ローゼを含め全員の目が飛び出した。

 真紅の波紋を広げながら階段でも降りるように普通に歩いて来るハジメの足元を、無言で凝視する。甲板に降り立った後も、全員の視線はハジメの足元にくぎ付けだ。

「おい、正気に戻れ。こっちもいろいろ聞きたいことがあるんだ。時間は有限だぞ」

 ハジメが足をタップしながらそう言えば、ローゼ達はハッと我に返ってハジメと視線を合わせた。未だ、チラッチラッと視線が足元へいっているが。

「し、失礼しました。あ、あの竜騎士様。こちらに来てくださったということは、我が艦にて翼休めをしてくださるということでよろしいでしょうか?」
「俺は竜騎士じゃないし、場合によっちゃあ直ぐに出ていくが……まぁ、取り敢えず、あんた達と話をしてみたいと思っているのは本当だぞ?」

 ハジメの言葉遣いに、金髪コンビが眉をしかめる。思わず何かを言おうとして、ボーヴィッドに「陛下の邪魔すんな」と小突かれていた。

「そうですか……よかった。歓迎致します。竜騎士様、真竜様。もしよろしければ、お名前を伺っても?」
「だから竜騎士じゃないというに。……俺はハジメで、こっちはティオだ」
「よろしくじゃ、訳ありの女王様よ」
「はい、よろしくお願い致します。ハジメ様、ティオ様」

 にこやかに微笑みつつ、様付けで呼んでくるローゼ。自ら一国の女王だと名乗りながら、どうにもハジメとティオを上に見ているようだ。そこには、きっと聞き慣れない固有名詞が関わっているのだろう。

 取り敢えず、軍側と違い友好的な雰囲気を作れたので、ハジメは視線を明後日の方向へ向けた。釣られて視線を向けたローゼ達は、ハジメが見たものを捉える。それは、巨大な金属の塊。強制パージされた空母艦の一部だった。

「あの、あれは……」

 疑問の声をあげるローゼへ、ハジメは返答の代わりにクロス・ヴェルトを操作した。結界に囲われた金属の塊が、クロス・ヴェルトの移動に合わせて近寄って来る。

「まぁ、なんだ。こいつらに罪はねぇからな。一緒くたに落とすのは流石にな」
「え、えっと……」

 戸惑うローゼを尻目に、ハジメは集束錬成にて目の前の金属塊を粒子状に分解していく。巨大な金属の塊が、真紅のスパークに囲まれてさらさらと砂状に消えていく光景に、誰もが絶句した。

 もっとも、本当に驚くのはここからだった。外壁が消え中の様子があらわになる。そこには、

「なっ。竜が、あんなにたくさん……」
「チッ、そういうことか。あそこは、あいつらの艦の燃料庫だったってわけだ」

 ローゼが口元を押えて呟きを漏らすと、ボーヴィッドが舌打ちしながら正解を言葉にする。

 百体近い竜族が収められた部屋は瞬く間に分解され、ハジメの手元で幾つもの拳大の金属塊となり〝宝物庫Ⅱ〟へと納められていく。

 長く飛んでいなかったせいか、自分を囲む檻がなくなった途端、飛ぶこともできずに落ちた彼等は、ハジメが敷いた結界の床にぺたんっと座り込み呆然と辺りを見渡している。

「まいったな。さっさと飛んで行ってくれりゃよかったんだが……飛ぶ力もないか」
「うぅむ。この数を保護するとなると、少々手間じゃのぅ。どうする、ご主人様よ。チートメイトと妾の変成魔法で、強制的に肉体改造するという手もあるが?」

 かつて、神域にて敵の魔物を黒竜へと変成させた魔法を提案するティオ。ハジメがその提案を吟味するが、答えを出す前に問題は解決した。

「ぴぃっ、ぴぃいいっぴぴっ」

 クワイベルが、飛び立とうとしない竜達の前に飛び上がり、その身を白銀色に輝かせたのだ。溢れ出る光は雨のように散りながら竜達へと降り注ぎ、しばらくすると、竜達は戸惑うように翼を動かし始めた。

 最初はゆっくりと。確かめるように。かつてを思い出すように。

 一体、また一体と体を浮かして、竜達は空を舞い始めた。

「王竜……だったか? 奴等のちびっ子竜への呼び方」
「うむ。竜族に力を与える竜。まさに竜の王というべきじゃな」

 白銀を纏う小さな竜の周りを、大小様々な竜達が慕うように、敬意を捧げるように飛び回る。その光景を、ハジメとティオは感心の表情になりながら眺めた。

 やがて、竜達は力強く翼を打ち、一つの群れとなって飛び去って行った。おそらく、そちらに浮島でもあるのだろう。クワイベルが、明らかにそちらへ飛んでいけと指示を出していたのだ。彼等が翼を休めることができるのは確実だろう。

「ありがとうございました、ハジメ様、ティオ様。まさかあの戦いの中で、あの子達の救出まで行われていたとは……感服致しました。竜を愛し、竜と共にあることを望む竜王国の代表としてお礼を申し上げます」

 楚々と進み出たローゼが、深く頭を下げた。

 どうやら、軍側と異なり、ローゼ達は竜族に対して親愛の念を抱いているらしい。彼等も空戦機や飛空艦を持っている以上、竜の心臓らしきエネルギー体を使っていると思うのだが、ローゼの様子を見る限りだと他の方法もあるのかもしれない。彼女達が、竜族を殺して核を取り出す姿が、どうにもイメージできないのだ。

 これはますます、いろいろと聞いてみたいものだと内心で興味を刺激されながら、ハジメとティオは、ローゼの提案で応接室へと通されることになった。なったのだが……

 艦内の穴だらけの酷い有様と、補修に走り回る乗組員と、時折異音を響かせる今にも墜落しそうな様子と、「……これ、大丈夫なのか?」と聞いたハジメに対するローゼの返答が「だ、大丈夫です、よ?」という視線泳ぎまくりの疑問形だったことで、結局、ハジメは艦の補修に走り回ることになってしまった。

 話している間に墜落は勘弁なので、壊れている場所に案内させながら、次々と錬成により修理していく。足りない部分は、空母艦から大量に奪った素材の一部を使っていく。

 真紅のスパークが迸ったと思ったら、損壊した場所があっという間に元通りになる異常な光景に、ローゼ含め乗組員達は揃って目を剥いた。

 移動中も、彼等の視線はハジメの手元にくぎ付けだ。右に動かせば視線も右に、左に動かせば視線も左に。ぐる~りと腕を回してみれば、視線もまたぐる~りと回る。

 ……ちょっと早めに右っ。視線はささっと右へっ。左っ、と見せかけて上! 騙されるかっと視線は上へ! 左上下右左右上ッ! なんのっ左上下右左右左ッ、あっ、間違えた!?

「なにをやっとるんじゃ、ご主人様も女王様も」
「あ、いや、すまん。こいつらが余りに素直に動くもんで、つい……」
「す、すみません。視線を外したら負けな気がして、つい……」

 頬を染めるローゼの周りの人達も、揃って「しまった、つい……」みたいな表情をしている。意外にノリのいい集団なのかもしれない。

 そんなこんなで、ようやく応接室に招かれたハジメとティオは、固めのソファーへと腰を落ち着けた。目の前には、湯気を立てる飲み物が置かれている。おそらく紅茶の類だろう。少し甘い香りが鼻腔を擽る。

 正面にはローゼ。金髪のコンビは後ろに立って控えている。道中で知ったことだが、二人は姉弟で、姉がオルガ=クロー、弟がジャン=クローといい、ローゼの近衛らしい。姉が近衛隊の隊長で、弟が副隊長だ。空戦機の操縦もできるが、近接戦闘の達人とのこと。普段は身の回りの世話もしているらしい。

「ハジメ様、ティオ様。早速で恐縮ですが、お二人にどのような目的がおありなのか、お聞かせいただいてもよろしいでしょうか? 私達には……私達の目的が、使命があります。おそらく、伝説の真竜様ならば既に把握していらっしゃるとは思いますが……こうして、私達の危急に駆けつけて下さったのは、ご協力いただけると期待してもいいということでしょうか?」
「待て、ちょっと待て。一回落ち着け」

 言葉の途中から、身を乗り出す勢いでまくしたてたローゼに、ハジメは両手を突き出して押し止める。慌てて身を引いたローゼは恥じらいつつ座り直した。

「まず言っておくが、俺は女王さんの言う竜騎士じゃないし、真竜という言葉の意味も分からない。理由は、俺達がこの世界の住人じゃあないからだ」
「……この世界の住人ではない、ですか? すみません、意味がよく分からないのですが」
「文字通り、別世界の人間だ。こんな黒い雨も降っていなければ、文明も崩壊していない。複数の国家が成立し、一応、秩序と法が信じられている世界だ」

 ローゼはますます困惑の表情になった。

 ハジメは無理もないと苦笑いしながら、ここに来た経緯をかいつまんで話す。最終的に信じる信じないはローゼ達の勝手として、取り敢えず、それを前提に、この世界のこと、情勢、度々出て来た固有名詞の意味を教えて欲しいと伝えた。

「にわかには信じられないお話ですが……まず、私がお話をしなければ、話自体が進まないのは理解しました。と言っても、どこから何まで話せばいいか……」
「そうだな……じゃあ、まず、あの黒い雨は何なのか。そこから教えてくれ。どうして、地上はあの雨に侵されることになったんだ?」
「そこからですか。本当に、この世界のことをご存じないのですね……」

 ローゼは未だ困惑に揺れる頭を、紅茶を一口飲むことで一度リセットした。どう話すべきか、少しの間思案し、そして語り出す。

「黒い雨、あれは堕ちた王竜――ヘルムートの嘆きと憤怒の証と言われております」

 昔、まだ黒い雨が存在しなかった頃、ローゼの祖先が王を務めていたアーヴェンスト竜王国を中心に、竜と人が共存する平和な時代があった。

「その時代では、竜と人は、一定の年齢になると生涯の友誼を交わすパートナーを選ぶのが普通でした。そんな時代の竜王国王族のパートナーたる王竜の一体が、邪竜ヘルムートです」
「王竜、というのは?」
「王竜とは、竜族の中でも特殊な力を持つ竜のことです。白銀の鱗を持ち、竜族や大地に力を与え、人の言葉を交わすことができるのです。竜王国の王族としか友誼を交わさない竜の中の王種でした」

 最古にして最強の国――アーヴェンスト竜王国。その理由の一端は、竜を最優の友とする世界において、王種と唯一友誼を交わすことができるという点にあった。

「なるほど。そりゃあさぞかし権威ある国だったろうな」
「ええ。世界の中心は、間違いなく竜王国にあったでしょう。しかし、それにも終わりが近づいてきました。――技術の発展です」

 竜の存在と、特殊なエネルギーを有する鉱石などを除いては、魔法なんて不思議な力など存在しない世界。地球と同じく技術が発展するのは必然だった。異なるのは、電気やガスの代わりに、天核と呼ばれるエネルギーが用いられていた点だ。

「天核というのは、もしかして砂粒より小さい空色の鉱石のことか?」
「それは知っていましたか……。ええ、その通りです。様々な動力に転化でき、作物の成長を促し、重力すら中和する特性を持つ特殊な鉱石です。採取にとても苦労する鉱石ですが、この通り、こんな大きな飛空艦や空戦機を飛ばすこともできますし、日常生活においては明かりや、熱、冷気を生み出すこともできるのです」
「……この艦は、竜の心臓っぽいものを使っているわけじゃないのか」
「っ。当たり前ですっ。我々を、クヴァイレンのような連中と一緒にしないでいだたきたいっ」
「……落ち着いてくれ。何が常識で何が非常識なのか、俺にはさっぱりなんだ。女王さんの話はきちんと聞くから、説明を頼む」
「ぁ、も、申し訳ありません」

 沸騰した頭を冷静なハジメの言葉で冷やされたローゼが咳払いをした。改めてされた説明によると、竜の心臓っぽいもの――それは、竜核と呼ばれるもので、一センチ角の塊でも、拳大の天核と同等のエネルギーを有するらしい。

 当然、手間も効率も竜核を加工する方が余程いいのだが、滅びてなお竜との共存という国家理念を捨てない竜王国の末裔であるローゼ達は、天核のみを用いているらしい。そのせいで、敵――クヴァイレン天空神国の飛行艦に比べるとスペックは数段落ちるし、補給もままならないので常に物資不足に喘いでいるのだとか。

 なんとなく、目の前の芳醇な香りを発する紅茶が飲みづらく……

「んくっ。これ上手いな。お代わり頼む」
「あ、はい」

 ハジメさんは容赦なくおかわりを頼んだ。極貧生活をローゼが苦笑い気味に説明した直後に。クロー姉弟が戦慄の表情を見せる。この男の神経は、特殊合金のワイヤーか何かで出来ているんじゃないか!? と。

「で? 続きは?」
「あ、はい。ええっと……そうでした。技術の発展が続く中、とある研究者が、気が付いてしまったのです。天核より、竜核の方が遥かに効率がいいと。人類の良き隣人たる竜は、死後においても手厚く埋葬されていました。その竜の魂ともいうべき竜核は亡骸と共に埋葬し、大地に還す。それが当時の当たり前でした」
「探求心が、その常識を踏み越えさせたか」
「その研究者の気持ちは、分かりません。記録では、彼は研究の末、不慮の事故で亡くなったパートナーの竜核を用いて当時最速の航空機を作ったと言われています。そして、それ以外には何も作らなかった。……あるいは、いなくなってしまった友の魂を乗せた航空機で、もう一度共に空を飛びたかった、だけなのかもしれません」

 実際のところは分からない。ただ、事実として、彼が気が付くと同時に、世界中の国が気が付いてしまったのだ。竜核の価値に。

 そうして、始まってしまったのだ。竜狩りという、残酷で恐ろしい行為が。

 天核を用いた技術は、まず天核の採取という時点で酷く骨が折れる。最低でも拳大の大きさがなければままならい天核だが、採取できるのは砂粒より小さいものばかりなのだ。集めて圧縮し使える大きさにするだけで、酷く時間と費用がかかる。研究一つするのに大変な苦労が必要だったのだ。

 それが、竜核によって取り除かれた。研究は飛躍的に進み、技術は目覚ましい勢いで発展していった。

「世界中の国が、こぞって竜核を集め、技術競争が激化したと言われています。そんな中、竜王国だけは、竜狩りを是とする世界の潮流を止めようとあらゆる手段を尽くしました。経済制裁、竜王国からの優遇措置、天核の輸出……時には、王竜と共に武力行使に出たこともあったそうです」
「……いつまでそんなことができた?」

 ローゼは、ハジメの言葉に困ったような笑みを浮かべた。

 周囲の国が、技術発展を続けていく中で、竜狩りを否とする――それは、世界から取り残されるのと同義だ。権威ある国であっても技術水準で圧倒的差を付けられれば、世界各国の評価がどうなるかは想像に難くない。

 それでも竜狩りを否定し続けたのは、竜族が世界のバランサーとしての役割を担っていたからだ。科学的に、証明されたことではない。迷信のようなものだ。だが、世界の有害物質を体内に取り込み、それを浄化して還元するという役割があると信じられていた。

 竜王国では。

 技術発展の進む世界にあっては、証明のない事実は信じるに値しない。竜王国が、このまま竜狩りを続ければ災いが起こると説得しても、聞く耳は持たれなかった。

 そうして竜王国の権威は揺らぎ、発言力は低下し、威光は陰りを見せていった。

「そんな状況に焦りを見せたのが、当時の竜王国の第一王子でした。彼は、祖国の衰退が我慢ならなかったのでしょう。迷信は迷信と切り捨て、竜核を用いた技術研究を強く訴えたそうです」
「当然、碌な結果にならなかったんだろうな」
「ええ。記録では、竜王国の恥だとか、裏切り者だとか……散々な書かれようですね。しかし、祖国の全ての人から非難を浴びせられても、彼は止まらなかった。……いえ、祖国を心から愛していたからこそ、彼はもう止まれなかった」
「……なんとなく想像できるぞ。やっちまったわけか?」

 あらまぁといった雰囲気でハジメが天を仰ぐ。ティオも何が起きたのか想像できたのだろう。聞くだけで憂鬱だと言いたげに溜息を吐いた。

 二人の様子に苦笑いしつつも、その瞳に悲しみを浮かべたローゼが語る。

 王子が、自らの最優の友たる王竜に手をかけたことを。

 秘密裡に進めていた竜核技術の研究。最後の仕上げとして、彼はパートナーを殺害し、その竜核――世界初、王竜の竜核を用いた巨大な飛行戦艦を建造したのだ。

 その威容は凄まじく、当時の軍事バランスが、たった一隻の戦艦によって僅かに傾いてしまったほどだった。

 さぞかし、王子は安堵したことだろう。これで祖国は救われた。安泰だ。これ以上、他国から軽んじられることはない、安易な侵略などされることはない、と。

「かくして、竜王国は威光を取り戻し、代わりに誇りと説得力を失ったわけか」
「じゃろうなぁ。もう、竜狩りを止めよと訴えても、誰も耳をかさん。なにせ、竜の王族を殺して戦艦を作ったのじゃから。他国は別にしても、何より国民が見放すじゃろ」
「まったくその通りです。竜王国は荒れ、内部分裂の危機も迎えました。ですが、内乱の危機など些細なことだと言えてしまうような、恐ろしいことが起き始めたのです」

 黒い雨が、降り始めたのだ。

「ここに来て、ようやく世界は間違いに気が付きました。黒い雨の正体は、天核や竜核から放たれたエネルギーの成れの果て。空気中に霧散し変質したもので、活力を与えるのではなく奪う性質を持っています」
「なるほど。詳しい原理は取り敢えず置いておくとして、竜族と、おそらく天核は正しくバランサーだったわけだ」
「ふむ。世界はバランスの上に成り立っておる。昼と夜、男と女、正と負……正のエネルギーが存在するなら負のエネルギーも存在するのは自然なこと。竜族や天核は負のエネルギーを取り込み、それを正のエネルギーとして放出し、放出されたエネルギーは役目を負えると負のエネルギーへと変化し、再び竜族や天核に取り込まれ……世界は循環していくというわけじゃな」

 厄災が顕現して初めて証明された竜族の役目。

 しかし、その事実に気が付いた人類は、明後日の方向へ突っ走った。

「竜族の尊厳は、踏み躙られることになりました。竜狩りの廃止でもなく、竜族の保護でもなく、人類のとった選択は――養殖でした」
「おぉう。分かっていることではあるが……世界は違えど、人間の業はどこでも深けぇな」

 幾つかの国で、秘密裡に作られていた養殖場が公開された。人類は既に、世界の危機の前から、取返しの付かない罪に手を染めていたのだ。こんなこともあろかと、と想像もしていなかっただろうに堂々と養殖のノウハウを世界に売り渡す行為の、なんと愚かなことか。

 人類の所業に、憤怒したのは誰か。

 決まっている。竜の王族だ。

 信じていた。竜王国の王族や国民が、自分達竜族を心から愛し、国が危機に瀕しても共存の意思を捨てなかったからこそ、きっと人と竜は再び共に歩めると。

 堪えていた。止められない竜狩りに竜族が次々と命を落としても、身内の王竜が王子に殺されても、感情のままに暴れてしまえば、愛すべき竜王国は世界中の国に潰されてしまうと分かっていたから。

「国王は決断しました。王竜達の父である自らのパートナー――サザーランドに、人と竜は、一度決別するべきだと。全ての竜族を連れて、世界の果てへと逃げてくれと。もし、黒い雨から生き残った者がいたら、そのとき、もう一度やり直す機会を与えて欲しいと。サザーランドは了承し、人類との決別を決断しました。しかし、その決断は、少し遅かったのです」
「……サザーランドの子には、耐えられなかったか」

 サザーランドの子にして、殺された王竜の双子の兄だった王竜――ヘルムートは、父の決断の前に、養殖所とその国を襲撃した。

 それは同時に、未だ消えてはいなかった共存派の光をかき消すには十分な出来事だった。大義名分を得た各国は、艦隊をもって王竜の鹵獲または討伐を実行した。

「各国連合だったにもかかわらず、足並みが乱れることもない、それは迅速かつ的確な討伐作戦だったようです。無類の力を誇ったサザーランドをして、それなりの数の竜族を逃がすので精一杯だったとか」
「狙っていたんだな。あるいは養殖行為も挑発だったか。残った共存派の排除と、未だ脅威であった王竜を完全に下すための」
「そう、だったのでしょう。世界の果てに旅立とうと集結していた竜族は、連合軍の物量に押され地に落ちました。サザーランドの子達は次々と討たれ、あるいは翼をもがれて鹵獲され……まさに地獄絵図だったのでしょうね。少なくとも、ヘルムートを邪竜へと変貌させるには十分な」

 兄弟が殺され、尊厳は踏み躙られ、溜まりに溜まった黒い感情は、再び目の前で姉弟達が蹂躙される様を見て――弾けた。ヘルムートの精神は崩壊し、彼の中の何かが目覚めた。

 ヘルムートが、聞く者すべてに恐怖を植え付けるような咆哮をあげた途端、晴れていたはずの空は瞬く間に曇天に覆われ、狙ったように黒い雨が降り始めたのだという。

「ふむ。聞く限りじゃと……竜族の持つ循環の力が、逆転でもしたということかの? しかし、王竜とやらには天候を操るほどの力があったのなら、そもそも人類に敗北はせんと思うんじゃが……」
「ありがちだな。限度を超えた憤怒と憎悪が、ヘルムートとやらの位階を押し上げたんじゃないか? あぁ、もしかして、女王さんが言っていた真竜とかいうやつに進化したとか?」

 察しのいい二人だと、ローゼは苦笑いしつつ首肯する。

 真竜とは、竜王国の王族と王竜達の祖先と言われている。その力は絶大で、天地を操り、更には人化することも可能だったとか。伝承にしか残っていない、御伽話の中の存在だ。

 ヘルムートが人化したという記録は残っていないが、天候を操ったという点で、歴史上王竜から進化した真竜だと言われているらしい。ただし、世界を黒い雨を降らせる曇天で覆うという限定能力ではあるが。

「ティオ様は人化することができますし、あの圧倒的な能力……風や炎を操っていらっしゃいました。あの、やはり真竜様では……」
「いやいや、妾は真竜ではないよ。逆じゃしの。竜が人になっているのではない。人が竜になっているというのが正しい認識じゃよ」
「人が、竜に?」
「俺達の世界……いや、正確にはティオの世界だが、そういう種族がいるんだよ。こいつの家族はみんな竜化できるぞ。真竜だってんなら、御伽話の存在のバーゲンセールだな」

 ケラケラと笑いながら「まぁ、真竜ではなくても、神龍ではあるんだけどなぁ」と、ハジメはティオへからかうような眼差しを向ける。ティオは、「嘘は言っとらん」とそっぽを向いた。

 気安い二人の関係に、ローゼはおずおずと尋ねる。

「あの、では、やはりお二人は竜騎士様と真竜様では……」
「さっするに、竜騎士とやらも御伽話の中に出て来る存在で、真竜のパートナーだった、とかそんな感じだと思うが、全く違うな。ティオは竜に成れるがれっきとした人間だし、パートナーといっても友人じゃなくて俺の妻だし」
「お、奥様……」
「む、むむっ。お、奥様じゃと……初めて言われたのじゃ。なんぞ、こうむずむずするのぅ。ご主人様よ、この子、すごくいい子じゃな!」

 初めての奥様呼びに、てれてれ、もじもじと身悶えるティオ。ローゼを見る目に一気に親愛の色が浮かんだ。なんというチョロゴンだろうか。

 くねくねしているティオを放置して、ハジメは話の続きを促した。「のぅのぅ、ご主人様よ。奥様じゃて」と寄りかかって来るチョロゴンがうざかったので、取り敢えず、ビンタで黙らせる。「あはんっ」と嬌声を上げながらソファーに倒れ込み恍惚とした表情をさらす駄竜に、ローゼ達の視線は釘付けだ。

 ハジメの咳払いが彼女達を現実に戻す。

「あ、え、ええっと……そうでした。真竜となり世界を黒い雨で覆い始めたヘルムートは、既に元の心を失っていたと言います。人も竜も関係なく、破壊を楽しんでいるような嗤い声をあげながら、全てを蹂躙したのです」
「変質しちまったわけか。邪竜の誕生、というわけだな」
「はい。サザーランドは、堕ちた息子を止めるため死闘を繰り広げたといいます。同時に、彼の伴侶だったデートメルスは生き残った子達を連れて竜王国へ引き返しました」

 理由は一つ。友を救うため。

 サザーランドがヘルムートを止められるかは分からない。仮に止められたとしても、急速に世界を覆っていく黒い雨の下では、人類は滅んでしまう。愛した竜王国が死に絶えてしまう。

 同じ王竜といっても、格別力の強かったサザーランドが本気で戦えば、自分達は足手まといになると分かっていたデートメルス達は、黒い雨が降る中、自分達を追い詰めた人間を救うために駆けたのだ。

「王竜の力の本質は活性化。そして、天核には重力を中和する性質があります」
「それが、島が浮く理由か」
「ええ。ですが、流石に王竜と言えど、全ての大地を浮き上がらせるようなことはできません。出来たのは、特に天核が豊富に含まれる大地のみでした。それでも、私達が今こうして生きていられるのは、デートメルス達の身命を賭した行いのおかげであることに違いはありません」

 話の内容を理解しているのだろう。ローゼの傍らに寄り添うクワイベルが、悲しそうな鳴き声をあげる。ローゼは、そんなクワイベルを優しく撫でた。

「この子は、デートメルスの忘れ形見です。まだ生まれる時期ではなかったのですが、黒い雨と莫大な力を使ったために亡くなる寸前で、自らを切り裂いて卵を置いていったのだそうです。いつか生まれるこの子が、最後の王竜にして希望になると」

 ヘルムートは浮き上がった大地を追っては来なかったらしい。記録によれば、彼は浮島を見上げながら嗤っていたらしい。それは、人類がこれから味わうであろう苦境を楽しんでいるようだったという。

 長い話を終えて一息ついたローゼは、からからに乾いた喉を潤した。そして、今までにない決然とした眼差しをハジメへと向ける。

「悲劇の日から二十年ほどが経った頃、空の上で存続していた竜王国は、空賊により侵略を受けました。国を奪われたのです。当時の私はまだ赤ん坊で、両親の側近達がクワイベルの卵と一緒に連れ出してくれたおかげで生き残ることができました」

 何も言わずとも、ローゼの表情から既に国王夫妻は亡くなったことが察せられた。

 竜王国は滅び、クヴァイレン天空神国が誕生した。国王は空賊のリーダーだ。限りある資源を、彼は独占した。追いやられたローゼ達は空賊に身を落とし、神国の目を掻い潜って物資を奪い、共に逃げた竜王国の民を守って来た。

 そうして、ローゼが十歳になったとき、遂にクワイベルが誕生したのだ。希望の誕生に、元竜王国の人々は沸き上がり、同時に、未だ弱いクワイベルの存在が、決して神国に知られてはならないと隠して来た。

「それも、今日で終わりです。クワイベルが戦場に飛び出して行ったときは肝が冷えましたが……その先で、ハジメ様やティオ様のような方に出会えるなんて……」
「ふぅん? それで?」

 ハジメの見透かすような眼差しに、ローゼは一瞬たじろぐものの、直ぐに燃えるような眼差しを返した。

「お願いします。力をお貸しください。アーヴェンスト竜王国の大地を取り戻す力を」

 アーヴェンスト竜王国王宮の深奥には、王竜に力を与える泉があるらしい。そこに行けば、未だ生まれて数年のクワイベルでも、成竜並みの力を一時的とはいえ使えるようになるとのこと。

 そこにハジメとティオの力と、アーヴェンストの母艦や他の飛空艦の力が合わされば、邪竜ヘルムートを打倒することも可能だと、ローゼは力説する。

 ハジメは傍らのティオをチラリと見た。ティオは何かを思案する表情だったが、ハジメの視線に気が付くと肩を竦めて結論を委ねた。

 ポリポリと頬を掻いたハジメはちょっと眉を下げつつ、

「取り敢えず、保留で」

 と、答えた。ローゼが、「ええっ、今のは快く了承する場面じゃありませんでした!?」と目論見が外れて狼狽えている。ハジメは、「そんなもんは、どこぞの勇者か、深淵さんの領分だ」と言ってあっさり流した。

 そんなハジメを、ティオは意外そうな表情で見つめている。流石に、一国と戦争してください、その後、邪竜を倒して世界を救ってくださいなどと冒険の範疇を軽く超えたことを言われれば、さくっと断ると思っていたのだ。

 即断即決が基本のハジメにしては、随分と半端な回答である。

「まぁ、なんだ。俺等も、今話を聞いて〝はいそうですか、なんでもやりますよ〟なんていえねぇよ。今日はいろいろあって疲れたしな。いったん休ませてもらって、じっくり考えて、明日にでも結論を出すさ。構わないだろう?」
「そ、そうですね。確かに性急すぎました。あれだけの戦いをされた後なのに、気が回らず申し訳ありません。お部屋は既に用意してあります。質素ではありますが、後程夕食もお持ちしますから、今夜はゆっくり休んでください」
「おう。遠慮なく世話になるよ。そんじゃあティオ、行こうぜ」
「う、うむ」

 紅茶を飲み干し、さくっと立ち上がったハジメはティオを連れて部屋を出て行った。直ぐに案内の乗組員が現れてハジメ達を部屋へと連れていく。ローゼは、そんなハジメとティオの後ろ姿を、期待と不安を綯い交ぜにしたような表情でじっと見つめていた。



 数多の星が輝く夜天を、飛空艦ロゼリアが滑るように飛ぶ。

 その後部甲板の端に、ハジメとティオの姿があった。二人とも甲板の端に腰掛けて、足を空中に投げ出している。星々の光を反射して輝く雲海が、二人の目を存分楽しませていた。

「それで、何故保留にしたんじゃ、ご主人様」

 ティオが横目でハジメを見ながら尋ねた。ハジメも同じように横目でティオを見ながら口を開く。

「お前がどうしたいか、聞いてから判断しようと思ってな」
「妾がどうしたいか?」

 首を傾げるティオに、ハジメは頷く。

「ああ。ティオはどうしたい? 竜王国の復興とかはどうでもいいけど、邪竜とやらには、ちょ~とばっかし思うところがあるんだろ?」
「……気づいておったか」

 露骨な態度は取らなかったはずだが完全に見透かされていたようで、ティオは何とも気恥ずかしい思いに頬を赤らめた。本当に、よく見ていると思う。

 ティオは、言葉を選ぶようにゆっくりと口を開いた。

「少しな、似ていると思ったんじゃよ。在り方や、末路がな」
「かつての、竜人族の国か」
「うむ。少しだけ、ヘルムートの気持ちが分かるのじゃ。あのとき、磔にされた母上や仲間を見て、妾の中には確かに黒い炎が生まれたのじゃ。他者を焼き、己すらも焼き殺さんばかりの憎悪の炎がな」

 ポツリポツリと語るティオに、ハジメは沈黙を以て返す。黙って前を向いたまま、ティオの話に耳を傾ける。

「妾は父上の言葉で止まることができた。黒い炎を守護の力に変えることができた。ヘルムートは、きっとそれができなかったときの妾なのじゃろう」

 だからなんだというわけではない。堕ちた竜の王は、この先もずっと黒い雨で世界を侵し続けるのかと思うと、なんとなく、やりきれないという想いが沸き上がったのだ。

「ユエの受け売りだけどな……〝今まで、ティオが歩んできた軌跡。それがティオの全て〟だろ? 意味のない仮定だ。ヘルムートは己に勝てなかった。ティオ=クラルスは己に勝った。それだけのことだろ?」
「ふふ、そうじゃな」

 世界を滅ぼした馬鹿野郎と、俺のティオを一緒にするなという、ちょっと不機嫌そうなハジメの言葉に、ティオは目を細めて頷いた。

 しばらくの間、静かな時間が流れる。

 ハジメは再びチラリとティオを見ると、ガリガリと頭を掻いた。

「ああ、もう。いい加減、答えを言えよ。俺は、どうしたい? って聞いたんだぞ? お前はいろいろと自分以外のやつに配慮し過ぎなんだ。たまには、変態行為以外のわがままをみせろっての」
「ご主人様……」

 ティオは目をパチクリとさせた。そして、ジッと自分を見つめて来るハジメに、思わず目元を覆って表情を隠すと、ポツリと呟く。

「終わらせてやりたいのぅ。なんの関係もない。冒険というには規模が大きい。相手の力は未知数。ただのエゴじゃというのも分かっておる。じゃが――終わらせてやりたい」

 それがティオの本心。ティオの感傷による、ティオのエゴにもとづく、ティオの気を晴らすためのわがまま。

 それを受けたハジメは、

「了解だ。終わらせてやろう。俺たちの都合で、邪竜ヘルムートのすべてをな」

 あっさりと承諾した。

 ティオが顔を向ければ、そこにはどこか嬉しそうなハジメの表情がある。ティオのわがままが聞けて、嬉しいという表情が。

 ああ、もうっと、ティオは内心で言葉にならない感情を叫びながら愛しい主に飛びつくのだった。

 夜天に輝く星の光が、淡く優しい光で二人を包み込んだ。




 そのときのローゼ組。

「あわ、あわわわっ。お二人とも、こんな場所であのようなっ。あぁ、すごいっ」
「ロ、ローゼ様っ。見てはいけませんっ。ほ、ほら、彼等がいなくなるわけではないと分かったわけですし、早く船内に戻りましょう!」
「ぴぃ、ぴぃいい」
「クワイベル様……。翼で顔を隠しているようですが、隙間からばっちり見ているのバレバレですからね?」
「おぅおぅ。流石、伝説の竜騎士様だぜ。甲板の上でまぁ、堂々と。羨ましいねぇ」
「ボーヴィッドっ。何を堂々と見ているのですか! 早くローゼ様を船内にお連れして!ローゼ様も、手すりから手を離してください! ほら、早くっ。って力つよっ。どんだけ興味津々なのですかっ」

 ローゼ様は鼻息荒く、手すりをがっちり掴んで離さない。オルガが必死に船内に連れ戻そうとしているが、どこにそんな力があるのかと戦慄するほどがっちりホールドだ!

 クワイベルはクワイベルで、翼が顔を隠しながらもばっちり隙間から覗いている。ジャンがツッコミを入れるが、クワイベルの視線ははがれない!

 そんなむっつりな王竜女王コンビに、ボーヴィッドだけはケラケラと笑いながら、さりげなく迅速に撤退を図った。

 抱き締めているティオの肩越しに、ハジメの視線が自分達を捉えていることに気が付いたから。

 ボーヴィッドが消えた数秒後、夜天に真紅のスパークが迸るのだった。
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次話の更新は、土曜日の18時の予定です。
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